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I-I Waka ni miru Nihonjin no shūkyōshin

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I-I 和歌にみる日本人の宗教心

著者

ロータモンド ハルトムート オ

雑誌名

日本文化と宗教――宗教と世俗化――

8

ページ

3-11

発行年

1996-03-29

その他のタイトル

I-I Waka ni miru Nihonjin no shukyoshin

URL

http://doi.org/10.15055/00003199

(2)

1 }■⊥

にみ

日本

ハ ル ト ム ー ト ・ オ ・ ロ ー タ モ ン ド

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国 際 シ ン ポ ジ ウ ム 日本 宗 教 史 や 宗 教 思 想 に興 味 あ る者 にと っ て、 ﹁ 山 ﹂ が 日本 精 神 文 化 のな か で重 要 な 位 置 を 占 あ る と い う こと はす ぐ に明 ら か にな る であ ろう 。 山 岳 信 仰 はも ち ろ ん世 界 中 の 普 遍 的 な 現象 な の であ る が、 日本 で は それ が特 に目 立 つ も のと な っ た。 古 代 神 道 にし ても 、 仏 教 (特 に 密教) に し ても、 神 仏 習 合 思 想 の代 表 であ る 修 験 道 にし ても 、 ﹁ 山 ﹂ は思 想 ・ 教 理 ・ 儀 礼 のう え で大 変 重 要 な 役 割 を 演 じ て い る。 山 に関 す る思 想 は 忌言 葉 あ る い は山 言 葉 のう え にも 現 れ て い る。 そ れ だ け で は な く 昔 話 や 伝 説 を と お し て 、 い や む し ろ 詩 歌 や諺 な ど に こ そ も っ と も よ く 表 現 され て い ると 思 う 。 ﹁ ひ と の こ 丶ろ を た ねと し て、 よ うつ の こと の葉 と そ な り け る や ま と う た ﹂ と 古 今 集 の有 名 な序 にす でに定 義 が あ る、 いわ ゆ る 和 歌 に は、 山 への心 情 も い ろ い ろ な形 で現 れ て いる 。 そ れ を 検 討 す る た め、 以下 、 伝 統 的 な和 歌 1 つ ま り諸 歌 集 か ら の ー だ け では な く 、 修 験 道 の秘 歌 や広 い意 味 で の呪 歌 を も 引 用 す る こと にす る。 場 合 に よ って 歌 謡 や 諺 な ど も 例 と す る 事 も あ る。 山 の定 義 を 辞 書 で探 し てみ ても た い し た答 は返 って こな い。 例 え ば ﹁ 平 地 よ りも 高 く隆 起 し た地 塊 ﹂ 、 ま た は ﹁ 谷 と谷 と の 間 に挟 ま      れ た 凸 起 部 ﹂ と あ る。 も う少 し意 味 深 そ う な定 義 と し ては荻 生 狙 徠 の随 筆 ﹃ 南 留 別 志 ﹄ に ﹁ 山 は や む、 川 は か わ る と いふ は 理 学 者 の説       な り﹂ と い う も の が あ る。 そ う い う難 し い語 源 説 は 別 と し て ﹁ 山 ﹂ は 日本 人 にと って何 であ ろ う か。 山 上 に 神 が 存 在 す る と の思 想 は 、 宗 教 思 想 が 大 変 豊 富 であ る万 葉 集 にま でさ か のぼ る 。 大 伴 家 持 の立 山 の賦 [万 葉 集 四〇 〇 〇 ] を み る と 、 高 い山 のう え に存 在 す ると こ ろ の嶽 の神 な る イ メ ージ が で て く る。 ﹁ 天 離 る鄙 に名 懸 か す 越 の中 ﹂ 等 で始 ま る 歌 であ る 。 そ の中 に ﹁ す あ 神 領 き 坐 す 新 川 の そ の立 山 に﹂ と い う言 葉 が出 てく る。 人 間 社 会 にも っと親 密 で、 季 節 に よ って 山 か ら降 り、 田 の 神 にな る と 言 わ れ る山 の神 は、 啄 木 の歌 に 見 ら れ る。 目 に な れ し 山 に は あ れ ど 秋 来 れ ば   ヨ  神 や 住 ま む と か し こみ て見 る 続 い て呪 歌 に目 を 向 け ると 次 の有 名 な 歌 が あ る。 昔 ヨリ 卯 月 八 日 ハ 吉 日 ト       神 サ ゲ蟲 ノ 成 敗 ヲ ス ル こ の歌 は か つて 長 い間 、 間 違 っ た 語 源 説 で解 釈 さ れ て いた か ら 、 神 さ げ虫 と は いか な る 虫 な のか 不 思 議 で仕 方 な か っ た 。 と ころ が こ の こと ば を 正 し い語 源 を も って切 断 し て み ると 、 つま り ﹁ 神 さ げ ﹂ と ﹁ 虫 ﹂ を 切 り離 し て み ると 、 山 の神 を 迎 え に行 く と いう 民 間 伝 承 上 よく 知 ら れ た習 俗 に結 び つ い てく る。 ﹁ 神 さげ ﹂ は 神 を 山 か ら連 れ降 り る と の 事 であ り、 虫 を成 敗 す る と は文 字 通 り そ の連 れ降 り た神 の 力 を も って 虫 を成 敗 し ても ら う と 云 う 事 であ る 。 一4一

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他 界 であ り 、 霊 魂 のす む と こ ろ であ る と同 時 に現 世 と来 世 の 堺 で も あ る山 は、 大 伯 皇 女 が弟 の大 津 皇 子 の亡 骸 を 葬 っ た際 に歌 っ た 一 首 [萬 一 六 五 ] に よく 現 れ て い る。 う つ そ み の 人 な る我 や 明 日 よ り は 二 上 山 を 弟 と 我 が 見 む 万 葉 集 の中 には 、 山 の他 界 観 念 が あ ま り にも 沢 山 あ る の で、 こ こ で いち いち 話 す 必 要 も な い であ ろう 。 山 が 死 霊 の世 界 で はな く 、 両 界 漫 茶 羅 の シ ン ボ ルと し て見 ら れ る 事 は、 修 験 道 の山 の特 徴 であ る。 よ く 知 ら れ て い る事 であ るが 、 山 伏 の峰 入 は 母 の胎 内 に入 る 事 に結 び つ け ら れ 、 擬 死 再 生 の シ ンボ リ ズ ム を持 つ 儀礼 であ る 。 こと に羽 黒 山 の秋 の峰 で は それ が 顕 著 であ る。   ら  ﹁ 峯 中 秘 伝 ﹂ な ど の文 献 を 見 る と 、 そ の擬 死 再 生 の シ ン ボ リズ ム が よ く現 わ れ てく る 。 峰 入 に先 立 って吉 野 川 で水 行 が 行 わ れ る。 吉 野 川 は上 記 の擬 死 再生 の理 念 によ って三 津 川 と な って い る。 そ こ で 唱 え ら れ る秘 歌 は、 死 の理 念 と 同 時 に、 浄 化 と 彼 岸 に達 す 事 な ど を 表 わ し て い る。 た と え ば 世 ノ 中 二 五 色 ノ水 ガ 流 ズ バ 無 意 ノ コ コ ロ ヲ 何 カ ソ メ ケ ン 又 は ト ク ト ク ト 申 乗 移 レ 天 小 船 吉 野 ノ 川 ノ 瀬 々 ノ 浪 立 ツ 浄 化 と世 俗 界 と の分 か れ は、 次 の和 歌 にも 出 てく る 。 河 上 ハ イ モ セ ノチ ギ リ 中 タ エテ 花 カ キ流 ス 吉 野 川 カ ナ 大 峰 の峰 入 の出 発 点 は、 柳 宿 と い う行 場 であ る 。 そ こ では、 修 行 者 と 不 動 明 王 が同 一 体 に な る事 で 、 結 局 死 ん だ 人 間 が 不 動 の子 と し て新 し く 受 胎 さ れ る と い う シ ンボ リズ ムが 見 ら れ る。 ﹁ 峯 中 秘 伝 ﹂ で は ﹁ 不 動 ノ御 腹 ヨリ出 テ て亦 其 ノ不動 ノ 腹 二 入 ル ヲ入 我 我 入﹂ と 云 う 。 ﹁ 入 我 我 入 ﹂ は 修 験 道 思 想 の中 でも 大 変 重 大 な も の で あ る。 不動 は大 日如 来 の化 身 であ る が、 そ の大 日如 来 の 三密 に よ る 不 思議 な動 き が 人 間 の中 に入 って、 人 間 は そ れ と同 一 体 に な り、 そ れ に よ って 一 切 諸 仏 の功 徳 が 人 間 の体 に具 足 す る事 と な る。 つ ま り自 分 は大 日 法 身 の本 体 であ り 、 人 間 の父 母 か ら の身 は そ の ま ま本 覚 を 証得 す る の であ り 、 こ こ に は即 身 成 仏 と 云 う 理 念 が は た ら い て い る。 修 験 道 の教 典 の中 で は、 即 身 成 仏 はだ い た い神 秘 的 に、 あ る い は 抽 象 的 に書 か れ て い る。 それ でも 平 安 時 代 の文 献 、 た と えば 今 昔 物 一5一

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国 際 シ ン ポ ジウ ム 語 を 見 る と 、 当 時 の即 身 成 仏 の理 念 は比 較 的 具 体 的 であ った よう で ( 6 ) あ る 。 吉 野 山 、 つ ま り 金 峰 山 に入 り 、 成 仏 の世 界 に入 り、 仏 性 の世 界 に 入 る と 云 う 観 念 が 次 の秘 歌 に見 出 され る。 吉 野 山 登 リ ム カ ヘ バ 法 ノ道 柳 ハ ミ ド リ 花 バ ク レ ナ イ 持 ってい る。 宿 房 に入 る こと は 胎 内 へ 立 ち 帰 り 、 母 の乳 味 に合 う こ と で あ る。 次 の 歌 が あ る。 又 は 父母 ノ 乳 味 爰 ニテ 呑 ミ納 メ 法 二 入 テゾ 意 知 ラ バ ヤ 中 国 の蘇 軾 や蘇 東 坡 に出 てい る ﹁ 柳 は み ど り花 は く れ な い ﹂ は 、 仏 教 で は自 然 の姿 、 諸 法 の実 相 と解 釈 さ れ る。 極 楽 浄 土 であ る 吉 野 山 の シ ンボ リズ ム は、 い ろ いろ の 秘 歌 に表 わ れ てく る。 極 楽 ハ 聞 テ 来 レバ 吉 野 山 皆 ノ 妙 法 ノ 蓮 ナリ ケ リ。 吉 野 山 の 中 に金 の鳥 居 と 云 う 重 要 な 行 場 が あ る。 山 伏 は こ の鳥 居 の 柱 に 手 を か け て、 秘 歌 を 唱 え な が ら 巡 る。 こ の鳥 居 は峯 中 秘 伝 で は いろ いろ な 名 称 を も ち 、 涅 般 門 と か、 往 生 門 と か、 入 我 我 入門 、 仏 果 円 満 門 な ど と 呼 ば れ て い る。 こ れ は大 峰 の峰 入 コ! ス にあ る 四 ツ の門 の第 一 であ る。 ﹁ 四門 ﹂ は天 台 や真 言 の教 理 の上 で様 々 に解   ア   釈 さ れ て い る が、 ま た葬 祭 習 俗 と も結 び つ け ら れ てい る 。 大 峰 修 行 の諸 房 を行 場 と し て 、 そ れ によ って仏 性 を 証 得 す る 道 に 進 む の で あ る が、 そ れ は ま た 同時 に母 胎 内 の生 長 の シ ンボ リ ズ ムも 法 ノ味 ヲ 行 納 テ 其 後 ハ 無 為 ノ都 二 入 ゾ ウ レシ キ ﹁ 無 為 の 都 ﹂ 、 又 は ﹁ 阿 字 の故 郷 ﹂ に入 る か 帰 る か 、 これ は も ち ろ ん仏 果 を 得 て、 仏 の世 界 、 極 楽 に 入 る と 云 う事 であ る 。 山 に登 る事 、 こと に儀 礼 と し て の山 登 り は 根 本 的 には 清 浄 な こと で あ る。 こ れ は格 別驚 く に は あ た ら ず 、 ど の宗 教 にも み ら れ る。 山 は聖 地 であ る のみ な ら ず 、 修 行 を す る者 にと って は、 一 種 の清 め 、 浄 化 を 授 け てく れ る 場 所 でも あ る 。 芭 蕉 の次 の俳 句 に は、 こ の ア イ デ ィ アが う か が え る 。      涼 し さ や ほ の三 日月 の 羽 黒 山 芭 蕉 ほど は有 名 で はな い が、 九 州 佐 土 原 の山 伏 、 野 田泉 光 院 は 六 一 6 一

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     年 に 渡 る 回国 の 旅 中 で 出 羽 三山 に 登 っ た時 、 次 の二首 を 詠 ん だ。 憂 き 業 の 影 恥 か し や 月 の 山 四 つの苦 を 洗 ふ湯 殿 や 霧 時 雨 し か し な が ら 、 清 浄 の イ メ ージ が 多 少 曖 昧 であ って、 む し ろ全 く 反 対 の イ メ ージ を も って山 を 見 て い る こと も あ る。 つ ま り汚 れ 、 禍 等 を 山 の方 へ 追 い払 い、 山 を 不 浄 の世 界 と み る こと も あ る。 ﹁ 呪 詛重 宝 記﹂ の呪歌 を例 にと れ ば、 山 と里 の区 別 を背 景 と し て 、 不 浄 のイ メ ージ が は っ き り 出 てく る 。 は あ り と ハ 山 のく ち 木 に す む 虫 の   り   さ と へいず れ ば お のが ひが ご と 山 は、 特 に修 験 道 では極 楽 と み ら れ る事 に は す でに ふ れ た が 、 民 間伝 承 の中 の 山 に は、 な に か大 変 な宝 物 が隠 さ れ てい る と のイ メー ジ が あ る。 諺 や格 言 に は この種 の ﹁ 豊 饒 さ﹂ の アイ デ ィ アも よ く登   け   場 す る。 例 えば ﹁ 磯 貧 乏 に山 宝 ﹂ と五 島 では伝 え ら れ る。 多 少 飛 躍 す るか も 知 れな い が、 民 謡 の中 に は宝 山 の アイ デ ィ アが 随 分 沢 山 あ る。 例 えば   ほ  合津磐梯山 宝 の 山 よ ま た 呪歌 に で てく る 山 は 、 大 体 にお い て、 非 常 に効 果 あ る薬 草 や 聖 水 が あ る所 でも あ る。 さ て 、 山 の 外 見 か ら く る雄 大 さ 、 非 常 に高 い こと 、 険 し い こと 等 は、 色 々 な イ メー ジ の 出 発 点 にな る。 中 国 古 典 の ﹃ 中 論 ﹄ には ﹁ 学   お   ぶ者 は山 に登 る がご と し﹂ と の 言 葉 が あ り、 近 世 寺 子 屋 では ﹁ 父 の 恩 は山 よ り高 く ﹂ と子 供 たち は学 ん だ。 文 学 、 特 に 和 歌 と浄 瑠璃 で は、 山 の高 さ は 感 情 表 現 に結 び つ け ら れ て い る。 ﹁ 恋 の山 路 ﹂ も あ り、 ﹁ 気 の毒 山 ﹂ も あ る が 、 珠 に ﹁ 思 い の山 ﹂ は詩 歌 に よ く で てく る。 夫 木 和 歌 抄 の中 の藤 原 為 家 の 一 首 を 引 用 し よ う。 あ は れ わ が 思 い の山 を つ き お か ば   む  富 士 の高 ね も 麓 な ら ま し 同 じ く 山 の高 い事 を 以 って、 及 ぼ ぬ恋 を 葛 城 の高 嶺 に例 え て い る 例 が 閑 吟 集 □ 五 ] にあ る 。 葛 城 山 に咲 く花 候 よ あ れ を よ と よ そ に思 う た念 ば か り ま た、 病 気 の 一 番 の危 機 を乗 り越 え る事 が ﹁ 山 を あ げ る﹂ 、 ﹁ 山 が あ が る﹂ 等 と 表 現 され る のも 、 非 常 に高 い こ と か ら の連 想 であ る。 疱 瘡 の呪 的 治 療 と し て使 わ れ た疫 瘡 絵 に は、 山 を あ げ る歌 が沢 山 出 てく る。 一7一

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国 際 シ ン ポ ジ ウ ム 軽 々と よ き も て遊 ぶ いも が こは   ほ   山 あ げ るさ え 足 の早 さ よ 奈 良 時 代 か ら 、 いわ ゆ る私 度 僧 は山 を 修 行 地 と し て選 んだ が 、 平 安 時 代 の最 澄 や空 海 は、 修 行 者 にと って山 で の滞 在 は大 変 重 要 な 事 だ と し た。 中 世 に入 る と山 は遁 世 の場 とな り、 そ こ で静 け さ と観 想 が求 め ら れ る事 に な る。 西 行 の有 名 な歌 二首 を引 用 し よ う。 あ ら し 越 す 峯 の木 の間 を 分 来 つ つ   め   谷 の清 水 に や ど る 月 影 次 の歌 で は雲 、 月 、 風 を 比 喩 的 に用 い て、 煩 悩 が 払 わ れ 、 自 性 清 浄 の心 が 現 れ てく る事 を 詠 ん で い る。 月 澄 めば 谷 に ぞ雲 は しず む め る   り   嶺 吹 き は ら ふ 風 に し か れ て 山 寺 を 取 り 上 げ る 歌 にも 、 当 然 と は 言 え、 遁 世 性 が 含 ま れ て いる。 梁 塵 秘 抄 [九 八 凵 では ﹁ 寂 寞 音 せ ぬ 山 寺 ﹂ と 歌 って いる 。 仏 教 や 特 に神 仏 習 合 思 想 を 背 景 と す る梁 塵 秘 抄 と は 系 統 の違 う 閑 吟 集 [二 二三 ] で は、 遁 世 の場 であ る奥 山 と 世 俗 の今 世 と の区 別 が は っ き り 出 て い る例 も あ る。 須磨 や 明石 の小 夜 千 鳥 恨 み 恨 み て鳴 く ば か り 身 が な 身 が な 一つ 浮 世 に 一つ 深 山 に 深 山 と は後 に取 り上 げ る奥 山 の類 義 語 であ る。 山 の不 動 性 も ま た注 目 さ れ る。 そ の不 動 性 は永 遠 性 にも 繋 が っ て く る。 山 の峯 に朝 日 が さす と い う イ メ ー ジ は、 君 の御 代 、 つ ま り国 は永 遠 に栄 え る と 云 う意 味 に な る。 万葉 集 に も そ の例 は あ り 、 ま た 梁塵 秘 抄 [ 五 二 八] に は次 の 歌 謡 が 記 さ れ て いる。 君 が 代 は 限 り も あ ら じ 三 笠 山 峰 に朝 日 の さ さ む か ぎ り は      ﹁ 仁 者 は山 を楽 し む ﹂ と いう 格 言 に は、 山 の 静 寂、 不 動 の姿 があ り、 謡 曲 ﹁ 淡 路 ﹂ の中 に は それ がも っ と明 確 に ﹁ 風 は吹 け ども 山 は   の  動 せず ﹂ と出 てく る。 し か し な が ら、 三条 西 実 枝 の 一 首 を み る と 動 き な く 山 と は 言 わ じ 朝 夕 の   の   雲 の立 ち 居 の か わ る 姿 は と も 、 詠 ま れ て い る 。 次 に 、 山 は 人 里 か ら 遥 か に 遠 ざ か っ て い る と い う 観 念 が 出 て く る 。 こ の イ メ ー ジ は 、 ﹁ 奥 山 ﹂ 、 ﹁ 山 の 奥 ﹂ 等 の 言 葉 に あ る 。 呪 歌 の 場 合 、 一g一

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奥 山 と 云 う言 葉 に は何 か 呪 的 な 力 が 秘 め ら れ て い る よ う であ る。 例 えば 夢 違 、 悪 い夢 を 良 い夢 に変 質 す る時 、 奥 山 は よく 歌 の中 に出 て く る。 悪 夢 を そ の奥 山 へ 追 い払 う のか 、 あ る い は夢 違 え が 可 能 な 場 所 が 奥 山 であ る のか ? 病 み 目 や 虫 歯 治 療 関 係 の歌 では 、 悪 が 追 い払 わ れ る所 が 奥 山 と さ れ る 。 ま た ﹁ 峯 は 八 つ 、 谷 は 九 つ 、 山 は 三 つ ﹂ 等 の唱 え ご と の場 合 にも 同様 の 意 味 が 含 ま れ て いる。 梁塵 秘 抄 [ 四 七 〇 ] は 、 奥 山 の 多 少 薄 気 味 悪 い 、 不安 な、 は っ き り し な い 性 格 を よ く表 し て いる。 お ぼ つ か な 鳥 だ に鳴 か ぬ 奥 山 に 人 こそ音 す な れ あ な尊 修 行 者 の 通 るな り け り 但 し 民 間 伝 承 にお け る信 仰 や儀 礼 の場 合 で は、 以 上 に記 し た奥 山 の イ メ ージ と は正 反 対 のも の、 つ ま りき わめ て ポジ テ ィ ブ な 場 所 と し て の奥 山 も 出 てく る。 それ は次 の諺 にも 見 ら れ る。   ハ  学 者 と 松 茸 は山 の奥 に出 来 る 人 里 離 れ て隔 絶 し た 、 遠 い景 物 と し て の奥 山 は、 次 の古 今 集 の歌 [ 二 一 五 ] に見 ら れ る。 奥 山 に 紅 葉 ふ み わ け 鳴 く鹿 の こえ き く時 ぞ 秋 は か な し き 但 し ど んな に離 れ た山 の奥 にも 風 は吹 く と言 わ れ る。 こ の風 は勿 論 無 常 であ る浮 世 の風 を さし て い る。 し か し こ こ でも や は り逆 の発 想 が 見 ら れ な い事 も な い の であ る。 浮 世 は な れ て奥 山 住 ま 居      と始 ま る館 山 ぶ し には 、 む し ろ 浮 世 か ら 遠 く 離 れ た 理 想 の場 と し て のイ メ ージ が強 いよ う であ る が 、 さ ら に読 み 進 ん で行 く と 、 や はり 多 少 曖 昧 な 二重 性 の 意 味 を帯 び てく る 。 恋 も 悋 気 も忘 れ て いた が 鹿 の 鳴 声 聞 け ば 昔 が恋 し ゆ てな ら ぬ、 あ の 山 越 え て 逢 う ひ にく る 万 葉 集 の頃 に は まだ み ら れ な い ﹁ 山 里﹂ の 観 念 は、 平 安 時 代 に な ると 生 涯 の理 想 的 な 別 荘 地 と し て 歌 わ れ、 そ こに は恐 ら く中 国 の 山 居 思 想 も 働 い て い ると 思 わ れ る。 いず れ にせ よ、 山 の季 節 と し て最 も 感 情 的 に歌 わ れ る の は秋 で あ るが 、 仏 教 の和 歌 に は秋 の山 と 云 う イ メ ージ がむ し ろ悪 い意 味 付 け を 持 つ 場 合 が あ る。 形 コソ色 付 ク 秋 の山 ナ ラ メ ( 23) 心 ハ 冬 ノ峯 ノ常 盤 木 一g一

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国 際 シ ン ポ ジ ウム こ の 歌 は 恐 ら く 心 と 形、 本 質 と外 見 の 相 違 を 取 り上 げ て いる の で あ ろう 。 神 道 、 仏 教 、 儒 教 と を 基 と す る 江 戸 中 期 に発 祥 し た 心 学 の 教 訓 歌 に は、 山 里 と 浮 世 が た び た び 登 場 す る 。 住 みな れ て 後 も こ \ろ の か はら ねば   ふ  猶 山 里 も 憂 世 な りけ り こ の よ ケ な 道 歌 の意 味 を 取 り 上 げ る諺 に は 、例 え ば ﹁ 山 は 浅 し   あ   隠 れ家 は 深 し﹂ 等 が あ る。 こ のほ か にも、 山 を擬 人 化 し、 山 に は人 間 と 同様 な感 情 が あ る と いう 表 現 も あ る 。 万葉 集 にも そ の 例 が 見 ら れ る。 も う 一 度 、 梁 塵 秘 抄 [ 五 三 二 ] を 引 用 し ょ う 。 大 原 や 小 塩 の山 も 今 日 こそ は 神 代 の こと も 思 ひ知 るら め さ ら にも う 一つの興 味 深 い問 題 が 残 っ て い る。 そ れ は山 に対 す る 様 々 な観 念 の中 で、 一 体 ど の よ う なも の が最 も 根 強 い の か と い う問 題 であ る。 山 に は死 霊 も住 む し、 鬼 も い る し、 ま た例 え ば栄 華 物 語 に は ﹁ 恐 ろ し き 山 に は ﹂ と の表 現 も あ る 。 そ こ に は ほ ん と う に ﹁ 山 ﹂ に 対 す る 恐 怖 感 が 存 在 し て い る の で あ ろ う か ? そ れ と も ﹁ 山 ﹂ に 対 す る親 し み が、 日 本 人 の心 性 と し て最 も 強 く あ る の であ ろ う か ? そ れ ら の 親 し さ 、 懐 か し さ は 、 故 郷 と 云 う 大 事 な 観 念 と 結 び つい てく る。 例 え ば 石 川 啄 木 の渋 民 の歌 は そ れ を も っ と も よ く 表 現 し て いる 。 ふ る さと の 山 に向 ひ て 言 う こと な し      ふ る さと の山 は あ り が たき かな あ ま り に多 量 な イ メ ー ジ の中 か ら、 ほ ん の 一 部 だ け を取 り上 げ る に終 っ て し ま っ た。 万葉 時 代 か ら 近世 、 近 代、 現 代 ま で の 莫 大 な 資 料 を検 討 し、 山 の イ メー ジ の何 ら か の歴史 的 発 展 、 成 り 行 き を 辿 ろ う と い う 一 種 の 誘 惑 に答 え る こと が でき な か っ た のが 残 念 であ る 。 ︹ 註 ︺ ( 1) 新 村 出 編 、 広 辞 苑 第 四 版 二五 八 四頁 。 ( 2) 日本 随 筆 大 成 、 第 二期 第 八 巻 一 八 頁 [昭 和 三 年 ] 。 ( 3) 一 握 の砂 [石 川 正 雄 編 、 啄 木 のう た、 現 代 教 養 文 庫 三〇 七 、 二 七 二頁 、 昭 和 三七 年 凵 。 ( 4) 修 験 深 秘 行 法 符 咒 集 八 、 二九 八 [日本 大 蔵 経 修 験 道 章 疏 二、 大 正 八 年 ] 。 ( 5) 修 験 峯 中 秘伝 、 日本 大 蔵 経修 験道 章 疏 1。 ( 6) [弘 法 大 師 ] 大 日 ノ定 印 ヲ結 テ観 念 ス ル ニ顔 色 金 ノ属 ニ シ テ自 ヨリ黄 金 ノ光 ヲ放 ツ [今 昔 物 語 集 ] 巻 十 一 第 九 、 七 七 頁 ( 日本 古 典 文 学 大 系 ) 。 (7 ) 五 来 重 著 、 山 の宗 教 、 修 験 道 、 一 五 八 頁 、 淡 交 社 、 昭 和 四五 年 (8 ) 岩 田 九 郎 著 、 芭 蕉 俳 句 大 成 、 六 三 三 頁 、 明 治 書 院 、 平 成 三年 。 ( 9) 日本 九 峯 修 行 日記 、 文 化 一 三 i 七 -一 二。 一10一

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( 01) 叩几 詛 重 宝 記 、 一兀 禄 一 一 一、 一 = 一〇 〇 ( 11) 故 事 俗 信 こと わ ざ 大 辞 典 (小 学 館 昭 和 五 七 ) 、 八 ○ 頁 。 ( 12) 小 寺 融 吉 著 、 郷 土 民 謡 舞 踊 辞 典 [名 著 刊 行 会 、 昭 和 四九 ] 、 三 頁 。 ( 13) 故 事 俗 信 こと わ ざ 大 辞 典 、 一 〇 七 一 頁 。 ( 14 ) 夫 木 和 歌 抄 、 第 二 〇 雑 部 、 八 〇 九 六 。 (15) 拙 著 、 疱 瘡 神 江 戸 時 代 の病 いを め ぐ る 民 間 信 仰 の研 究 (岩 波 書 店 平 成七 年 ) 参 照 。 ( 16 ) 山 家集 九 四 六 [日本 古 典文 学 大系 ]。 ( 17) 同 右 = 〇 六 、山 田 昭全 著 、 西行 の 和 歌 と 仏教 、 六 二 頁 [明 治 書 院 、 昭 和 六 二] に も参 照。 ( 18) 故 事 俗 信 こ と わざ 大 辞 典 、 六 〇 五頁 。 ( 19) 佐 成 謙 太 郎 著 、 謡 曲 大 観 、 第 一 巻 、 一 五 二頁 、 明 治 書 院 、 平 成 二 。 ( 20) 大 歳 時 記 四 、 句 歌 花 実 、 四 一 六 頁 (集 英 社 一 九 八 九 ) 参 照 。 (21 ) 故 事 俗 信 こと わ ざ 大 辞 典 、 二 四 七 頁 。 (22 ) 前 掲 、 小 寺 融 吉 著 、 三 〇 〇 頁 。 ( 23 ) 修 験 頓 覚 速 證 集 巻 下 、 四 五 一 頁 、 日本 大 蔵 経 、 修 験 道 章 疏 H。 ( 24 ) 絵 入 心 学 道 歌 百 首 和 解 (守 本 恵 観 編 輯 ) 明 治 一 九 、 京 都 。 ( 25) 故 事俗 信 こと わ ざ 大辞 典 、 = 六 六 頁 。 ( 26) 栄 華 物 語 、 上 二 二 八頁 。 ( 27) 前 掲 、 注 ( 3 )、 四 八頁 。 一11一

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