パネルディスカッション
10. 直面するであろう課題
そうはいっても、船橋さんのお話 にあったような日本の意志決定の在 り方、あるいは組織運営の在り方と の関係で言うと、この手の組織はあ まり相性が良くないというのが私の 理解です。FEMA型コーディネー
ション組織をつくり、事前準備型カウンターパート方式を中心にす ると、平時には準備だけをしているような専門的な組織、あるいは 人材をたくさん育成していかないといけないことになります。しか し今日、日本の公共部門が人をたくさん抱えることに対する評価は 非常に厳しいものがあります。人が多過ぎるではないかという批判 はたくさんあっても、もっと人を雇えという意見はほとんどなく、
そういう局面で、平時には非常時に備えて準備しているような人た ち、あるいはそういう人が集まった組織をつくることは容易ではあ りません。トップリーダーのイニシアティブによっていったんつく られても、リーダーが変わると、その組織自体が改廃の対象になる 危険性を帯びています。
しかも、災害対応は職務分掌などをせずに総力戦でやるのだとい う考え方、その根底にある、平時からいろいろな業務ができるのが
いい、みんなが同じ部屋で勤務していて、誰が電話に出ても問い合 わせに答えられる状態がいいのだというのが、日本の組織で頻繁に 見られる執務形態ですが、そういったものを崩さなければ、この手 の専門的組織は持たないのではないかと思っています。組織の在り 方という点で考えると、この手のコーディネーション組織をつくり、
職務分掌をはっきりさせた上で、誰と誰とがカウンターパートであ るのかを事前に確定させておくことは容易ではありません。
しかし、究極的には、災害対応というのは単なる総力戦ではなく、
資源配分の問題です。できるだけ合理的な資源配分をしなければ、
大きな災害には対応できないという基本的な認識を持った上で、実 際に合理的な資源配分に取り組める人、つまり大きな災害が起こっ たときに嫌になるぐらい冷静な人をどのぐらいつくれるのかが、結 局は災害に要する資源が最も少なく済む、被害が最も小さく済むと いう効果を生むと考えられます。ですから、こういう組織をつくる ことを考えていく必要があるのではないかと思う次第です。
五百旗頭 ありがとうございました。大変雄弁に、問題のポイント を語り抜いていただきました。FEMAの活動を伺うにつけ、ある いは日本人の災害に対する思いの中でも、大災害のような緊急事態 に対応する国と社会の能力を高めることが大事だと思っています。
また、復旧・復興期をもうちょっとしっかりする必要があると意識 するのですが、それがうまくできるためには、平時の情報共有や、
計画をあらかじめ持っておくこと、人材教育をしっかりしておくこ とが大事だという逆説を見事に論じていただいたと思います。
それでは、河田先生の方からよろしくお願いします。
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私のテーマは「国難と減災・縮災」
です。写っているのは人と防災未来 センターです。手前が防災未来館、
向こう側がひと未来館です。これは 13年前に121億円という施設整備費 で国と兵庫県が造った施設です。今
は県が管理しているので県立施設ということになっていますが、私 どもは国策に対するいろいろなことを助言できるセンターだと考え ています。阪神・淡路大震災から20年たち、神戸市民の40%は阪神・
淡路大震災を直接経験しておらず、これから間違いなく風化がどん どん進むと考えられます。ですから、この3月27日から毎週金曜日 と土曜日に夜2時間ライトアップします。高さが45mあるので、素 晴らしい光り輝く建物になります。私どもは、この阪神・淡路大震 災という言葉が風化しないように、そういう形でここを観光名所に しようとしています。そして、HAT神戸はもともと製鉄所の跡地 で人は住んでおらず、私たちが人為的につくったまちですから、こ こが災害復興のシンボルとしてこれからも素晴らしいまちであり続 けてほしいということで、これからはまちづくりをきちっとやって いこうという覚悟です。
そして国難(National Crisis)、減災(Disaster Reduction)、それ
報告 3
「国難と減災・縮災」
河田 惠昭(公益財団法人ひょうご震災記念 21世紀 研究機構副理事長兼人と防災未来センター長)
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から初めて縮災という言葉を使っていますが、これは、Disaster Resilienceの日本語訳です。日本政府は強靱化と訳してしまった のですが、これは英文和訳で0点になるような誤訳です。決して resilienceは強靱という意味ではありません。いろいろな英語の意 味があります。非常に多様なファンクションを持っている言葉なの で、それを私の方から説明しようと思います。今日のシンポジウム のテーマが「あすへの備え 次なる大災害と危機管理」ですから、
今日は会場の皆さまに次なる大災害とは一体何かについて、情報共 有をしていただこうと考えています。
1. わが国の巨大災害(死者 1000 人以上)
これが西暦600年ぐらいからわが 国で起こっている巨大災害です。巨 大災害というのは、死者が1000人以 上亡くなっている災害と定義してい ますが、この約1500年の間に99回起 こっています。特に津波・地震・高
潮・洪水は20 ~ 30回ずつ起こっています。日本は温帯の国ですか ら、冬は高い山に雪が降ります。ですから、活火山の5合目以上に 大きな集落はありませんが、これがフィリピンやインドネシアに行 くと8 ~ 9合目まで集落があり、大きな火山噴火があると1000人単 位で亡くなるのですが、日本はたまたま5合目以下にしか集落がな いので火山噴火が大きくても1000人以上亡くなった噴火は3回ぐら いしかありません。噴火が少ないのではなく、たまたまそこに人が 住んでいないのです。この約1500年間に日本の人口は500万人から1
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億2500万人、つまり25倍に増えています。ですから、同じような災 害、いわゆるハザードが起これば、そこに住んでいる人がたくさん 増えているためにdisasterが増えているのだというご理解を得たい と思います。