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Chapter 1 Katarimono no gainenka e mukete

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著者

時田 アリソン

雑誌名

日本の語り物――口頭性・構造・意義

26

ページ

1-17

発行年

2002-10-31

その他のタイトル

Chapter 1 Katarimono no gainenka e mukete

(2)

語 り物 の概 念 化 へ む けて

時 田

ア リ ソ ン

1語 り物 の機 能 と意義 2研 究 の概 要 3口 頭 性 4語 り物 の構 造 5語 り物 と歌 い物 の接 点 6論 文 紹介 7研 究 の成 果

1語

り物 の機 能 と意 義

近 代 国 民 国 家 は「想 像 の共 同体 」(Anderson1983)で あ る。 文 化 的 な シ ン ボル に よ り、人 々 が 結 ば れ 、 国 家 とな る。 そ の シ ン ボル は 国 旗 や 国 歌 な どだ けで な く、 ス ポ ー ツ や テ レ ビ番 組 の よ うな 文 化 活 動 も含 まれ る。 しか し、 近 代 以 前 に も、 共 同 体 は、 共 有 され た神 話 ・伝 説 ・ 物 語 に よ りつ く られ た。 日本 で もそ の よ う に して 共 同体 は形 成 さ れ た が 、 語 り物 はそ こで 大 き な役 割 を果 た した だ ろ う。 語 り物 と して ひ とび との あ い だ で 語 られ た 物 語 や神 話 は、 文 字 を もた な い 人 々 の 宇 宙 観 ・世 界 観 を 内包 し て い た か らで あ る。 こ こで 、 語 り物 の 定 義 を か ん た ん に して お こ う。 語 り物 は、 日本 の芸 能 用 語 と して 通 用 し て お り、 本 論 集 で は そ れ を踏 襲 し て、 職 業 的 な 「他 者 」が 、 叙 事 的 な 詞 章 に 節 をつ け て語 る、 ふ つ う伴 奏 楽 器 を伴 う声 楽 曲 、 と定 義 す る。 英 語 に す れ ぼ、musicalnarrativeで あ る。 この 定 義 とは 別 に 、第2章 で は蒲 生 郷 昭 が 音 楽 学 の 立 場 か ら明 瞭 に定 義 を 示 して い る 。 また 、 語           り物 を 「口頭 で 演 じ られ る」 もの(兵 藤1997:11)と す れ ば 、 英 語 で はoralnarrativeと い う こ とに な る。 こち ら は音 楽 的 な 要 素 を持 た な い語 り芸 を含 ん で 、よ り一 般 的 で あ る。 しか し、 音 楽 面 の 非 常 に発 達 し た もの が 多 い 日本 の 語 り物 を定 義 す る に は、十 分 で は な い。 こ こか ら、 日本 の語 り物 が世 界 の語 り物 の 中 で どん な 位 置 を 占 め るか 、 とい う研 究 課 題 が 出 て くる。 オ ー ラ ル ナ ラ テ ィ ヴ は 、世 界 の あ らゆ る文 化 ・社 会 に存 在 す る。 あ るい は存 在 した 。 な る ほ どヨ ー ロ ッパ で は 目立 ち に くい が 、 バ ル カ ン半 島 、 ベ ラル ー シ、 フ ィ ン ラ ン ドな ど に は現 在 まで 残 っ て い る し、 文 学 作 品 と して評 価 さ れ るベ オ ウ ル フ、 ア ー サ ー 王 伝 説 、 エ ル ・シ ッ

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ドな ど は、 中 世 ま で は 語 り伝 え られ て い た の で あ る。 語 り物 は 、 そ もそ もの は じめ は、 文 字 が な い 社 会 に生 まれ た もの で 、 本 来 、文 字 テ ク ス ト を持 た な い人 々 の持 ち 物 で あ る。 そ の担 い 手 の 多 くは 、 盲 人 だ っ た 。 か れ ら は、 文 字 に頼 ら ず に 記 憶 す る能 力 に優 れ 、 発 達 した 聴 覚 を もち、 音 楽 的 な能 力 に も秀 で た もの が 多 か っ た ろ う。 そ し て な に よ りも、 霊 的 な 「視 覚 」 の 持 ち主 と して 、 目 に見 え な い霊 との 交 流 能 力 を認 め られ 、 畏 怖 さ れ て 、 語 りの 内容 は権 威 あ る もの と され る こ と も多 か っ た の で あ る。 そ の 後 、 社 会 に文 字 が 入 っ て くる よ う に な っ て も、読 み書 きの 書 記 文 化 な い し そ の技 術 の 所 有 は一 部 に限 られ 、 全 体 に行 き渡 らな い 状 態 は長 く続 い た。 書 記 文 化 が比 較 的 深 く根 付 い た江 戸 の都 市 社 会 で も、 心 中事 件 に取 材 した 人 形 芝 居 や 、 町 の 噂 を伝 え た ち ょん が れ(ち ょ ぼ くれ 、 と も)な ど、 語 り物 が 情 報 伝 達 の 役 割 を果 た し つ づ け る場 合 もあ る。 近 代 に な っ て か ら も、 国 民 国家 形 成 に寄 与 し、 「想 像 の共 同体 」 を語 り支 え る こ と にな っ た。 日本 に お け る語 り物 の伝 統 は、 中 国 か ら書 記 文 明 が 入 る以 前 の 古 い文 化 層 か ら続 い て い る もの と考 え られ 、 中 国 の比 で は な い が(第4章 参 照)、 た くさ ん の ジ ャ ンル が あ り、 古 い もの も残 っ て い る1。そ の あ り よ う は、芸 術 音 楽 と民 俗 音 楽 、 あ るい は職 業 芸 能 と民 俗 芸 能 に ま た が っ て い る、 とい う よ うな場 合 が 多 い 。 本 研 究 会 で は 、 音 楽 的 側 面 が 発 達 した 、 演 劇 との 接 触 が著 しい もの を含 む語 り物 を 中心 に 検 討 す る結 果 とな った 。 な か で も平 曲 ・浄 瑠 璃 ・琵 琶 楽 な ど琵 琶 法 師 系 統 の語 り物 に詳 しい 検 討 が 加 え られ た 。 この こ と は第II部 「構 造 」 に反 映 し て い る。 こ こで 、 語 り物 の 歴 史 的発 展 を、 ご く簡 単 にふ りか え って お こ う。 古 代 で は、 盲 目 の語 り部 が 神 話 や 政 権 の正 統 性 を裏 付 け る語 り を語 り継 ぎ 、 の ち に 『古 事 記 』 に お さ め られ た 。 平 安 末 期以 後 、 盲 目 の琵 琶 法 師 の語 りが 軍 記 の 語 り、 と くに平 家 語 り と し て、 結 実 した 。 仏 教 の 声 明 に は 、 語 り物 に近 い 講 式 が あ り、 平 家 語 りに影 響 を与 え る。 一 方 、 能 や幸 若 舞 とい った 新 た な 芸 能 に お い て 、 舞 を 伴 う語 りが 発 展 を み せ る。 浄 瑠 璃 や 説 経 も、 三 味 線 を伴 奏 楽 器 と し、音 楽 的 発 展 を みせ た。 近 世 の初 頭 か らは劇 場 に入 り、 伴 奏 音 楽 と し て人 形 芝 居 や 歌 舞 伎 舞 踊 の 地 に な り、 そ の過 程 で 、 浄 瑠 璃 が 先 行 芸 能 を吸 収 して 複 雑 な音 楽 を発 展 させ 、 説 経 を圧 倒 して 語 り物 の 主 流 に な る。 ま た地 方 で は、 ゴ ゼ 唄 ・奥 浄 瑠 璃 ・座 頭 琵 琶 な どが盛 ん で あ っ た 。 神 道 儀 礼 に も祭 文 な ど の 語 りが あ り、 中 世 か ら近 世 に か けて 世 俗 化 し、 歌 祭 文 や ち ょん が れ とな り、 都 市 の 大 道 芸 と もな った 。識 字 率 が現 在 ほ ど高 くな か っ た 戦 前 ま で の 日本 で も、 と く に地 方 で は語 り物 が 生 き生 き して い た 状 況 だ った と思 わ れ る。 近 代 に な っ て か らは 、 座 頭 芸 の 流 れ か ら薩摩 琵 琶 や 筑 前 琵 琶 な どの近 代 琵 琶 が う まれ 、 流 行 した 。 そ の ほか 娘 義 太 夫 も現 れ て 流 行 した が 、 祭 文 系 統 か ら浪 曲(浪 花 節)が 生 まれ 、 国 民 的 とい っ て よ い ほ どの 成 功 を収 め た こ と は、 特 筆 す べ きで あ る。 近 代 国 家 の 形 成 過 程 にお い て は、 な ん らか の か た ち で そ れ まで の過 去 に対 処 す る必 要 が あ

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り、 新 た に 「伝 統 」 が 創 出 さ れ た(HobsbawmandRanger1983)。 そ の 「伝 統 」 は、 国民 の 記 憶 と して 、 シ ンボ ル や 儀 礼 や 文 化 活 動 な どに よ って 、 具 体 化 され るが 、 日本 で も、 そ の 試 み は 、天 皇 制 や 大 相 撲 な ど様 々 な 形 で 行 わ れ た(Vlastos1998)。 語 り物 で い え ば 、近 代 琵 琶 や 浪 花 節 が そ れ に相 当 す る。 戦 前 まで 、 近 代 天 皇 制 の 神 話 を支 え る過 去 の ヒー ロ ー の 活 躍 す る 出来 事 を語 っ て、 公 共 の記 憶 を保 持 し、 強 化 した か らで あ る。 近 代 以 降 、 特 に戦 後 は、 奥 浄 瑠 璃 や ゴ ゼ 唄 な ど絶 えて し ま っ た 語 り物 も多 く、 中世 起 源 の 講 式 声 明 ・平 曲 ・能 、 近 世 起 源 の浄 瑠 璃 、 近 代 起 源 の 琵 琶 楽 な どが 今 もな お存 在 す る に して も、 語 り物 は 、 現 代 日本 の 文 化 ・社 会 に お い て は全 体 と し て脆 弱 に な っ て お り、 そ の位 置 も 定 か で な く、 少 な く と も中 心 に は存 在 し な い 、 とい う こ とは認 め ざ る を え な い 。 こ ん に ち 、 物 語 の 場 は テ レ ビ ・漫 画 ・ア ニ メ ・映 画 ・演 劇 ・小 説 な ど に な り、 浪 花 節 ・落 語 ・講 談 ・漫 才 な どが 、 昔 か らの オ ー ラ ル ナ ラ テ ィヴ の伝 統 を受 け継 い で い る とい え よ う。 語 り物 は、 国 家 の 正 式 な 歴 史 や 上 層 の 文 化 の 記 録 に は ほ とん ど載 らな い 、 貧 民 を含 む一 般 大 衆 、 ス ピ ヴ ァ ッ ク な どが サ バ ル タ ン と呼 ぶ人 々(Spivak1988)の 声 を聞 かせ て くれ る 可 能 性 を持 つ 。 現 在 まで 伝 承 され た さ まざ ま な語 り物 は、 そ の 神 話 ・信 仰 ・歴 史 を伝 えて くれ る。 語 り物 を職 業 的 に担 っ た芸 人 は、 社 会 の最 下 層 に位 置 づ け られ 、 自分 の 人 生 の つ ら さ を 語 り物 に投 影 も した(岩 崎1973:52-3)。 芸 能 と し て伝 承 され て こな か った 場 合 で も、文 字 テ ク ス トと し て残 っ て い る もの は少 な くな い 。 こ う し たパ フ ォー マ ン ス や文 字 テ ク ス トを通 じ て 、 当 時 の 語 り手 ・聞 き手 ・そ の 語 り物 を庇 護 した 人 々 の 声 が 聞 こ え て くる ばか りで な く、 世 界 観 も見 え て く る可 能 性 が あ る。 そ うす れ ば、 近 代 化 の過 程 で 生 じ た諸 々 の 概 念 に よ っ て わ か りに く くな っ て い る、 日本 の 過 去 の 豊 か さ と複 雑 さ も、 少 し は明 らか に な る の で は な い だ ろ うか。 歴 史 学 の領 域 で 網 野 善 彦 な どが 切 り拓 い て い る展 望 を、 語 り物 を研 究 す る こ とで さ ら に拡 げ、 深 め る こ とが で きた ら、 と願 っ て い る。 日本 の ほ か の 芸 能 と同 じ よ う に、 語 り物 に は、 成 立 時 点 を 異 にす る ジ ャ ンル が 並 存 す る傾 向 が 見 られ 、全 体 と し て強 い連 続 性 、歴 史 的 な つ なが りを もつ 。 しか し、歴 史 的 系 統 性 、テ ー マ ・形 式 ・音 楽 構造 に お け る共 通 性 、 ジ ャ ンル 間 の 影 響 関 係 を含 めた 連 続 性 の あ り よ う は、 これ まで あ ま り問 題 に され な か っ た 。 「邦 楽 」 の 家 元 制 度 の 「カベ 」 を 反 映 す る の み な ら ず、 そ れ に助 長 され た た め か 、 こ こで も丸 山真 男 が 指 摘 した 「タ コ ツ ボ」 型(丸 山1961)の 研 究 活 動 が 主 で 、 ひ とつ の 語 り物 ジ ャ ンル で 集 中 的 に研 究 成 果 を あ げ て も、 ほ か の ジ ャ ンル との 比 較 研 究 は あ ま りな さ れ な か っ た う らみ が あ る。そ れ だ け に、語 り物 の 歴 史 的 発 展 と変 化 を、 通 ジ ャ ンル 的 に明 確 に す る こ とに は、 大 きな 意 義 が あ る と思 わ れ る。

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2研

究 の概 要

本 共 同 研 究 は、 語 り物 を 口頭 性 、構 造 、 そ して 社 会 ・文 化 的 意 義 の三 つ の 側 面 か ら、 相 互 の 絡 み 合 い も含 め て検 討 す る もの だ った 。 これ は、語 り物 とい う広 大 な領 域 へ の 視 座 を絞 り、 一 年 間 とい う限 られ た期 間 内 に意 味 の あ る結 論 を出 す た め だ った この 三 つ の 側 面 か ら、個 々 の ジ ャ ンル を越 え、 さ らに音 楽 学 の領 域 に と ど ま らず 、 文 学 ・ 歴 史 ・人 類 学 ・民 俗 学 ・美 術 史 ・女 性 研 究 な どの 学 問 と共 働 し、 語 り物 を総 合 的 に研 究 す る こ と を 目指 した 。 と りわ け、 歴 史 的 な発 展 お よび 、 語 り物 を担 っ た人 々 、 享 受 した 人 々 、 庇 護 した 人 々 の イ デ オ ロギ ー ・信 仰 ・価 値 観 ・世 界 観 ・宇 宙 観 を 明 らか に し、 新 た な展 望 を開 こ う とし た 。 さ ら に、 ほか の文 化 の 語 り物 と比 較 を行 い なが ら、 日本 の語 り物 の 世 界 に お け る位 置 を 明 らか に し よ う と した 。 一 年 間 に 共 同研 究会 を7回 行 い、 発 表 、 議 論 を重 ね た 。 これ と は別 に、 音 楽 学 者 を 中 心 に した 音 楽 分 科 会 で は、3回 に わ た り、 琵 琶 法 師 系 統 の グ ル ー プ(後 述)に 焦 点 を 当 て た 。 講 式 声 明 ・能 ・平 曲 そ れ に浄 瑠 璃 で あ る。 長 唄 ・地 唄 は、 比 較 の た め に持 ち込 まれ た 。 残 念 な が ら、 浪 曲 に まで に は手 が 回 ら なか っ た 。比 較 音 楽 分 析 の試 み を行 い、 語 り物 に共 通 な モ デ ル を見 い だ そ う と した が 、 そ れ に は二 つ の 理 由 が あ った 。 まず 、 「自分 の ジ ャ ンル 」だ け を 中 心 とす る態 度 か ら抜 け 出 して 、 歴 史 的 な発 展 を あ とづ け、 理 解 す る必 要 が あ る こ と。 特 に 中 世 起 源 の ジ ャ ンル と近 世 起 源 の ジ ャ ンル の 連 続 性 の 研 究 は 、 ほ とん ど行 わ れ て こな か っ た。 そ して 、 も う一 つ は、 個 々 の ジ ャ ンル を さ らに よ く理 解 す る必 要 が あ る こ とで あ る。 3口 頭 性 この 数 十 年 オ ー ラ ル ナ ラ テ ィヴ研 究 で は、口頭 性oralityが 中心 的 な 問 題 とな っ て い る 。当 然 の こ との よ う に思 わ れ るだ ろ うが 、 そ れ まで の 研 究 の 中 心 は 、 じつ は文 学 と し て の文 字 テ ク ス トの 研 究 だ っ た 。 で は、 こ と に音 楽 面 の 発 達 した 日本 の語 り物 を考 え る場 合 、 口頭 性 を ど う理 解 した らよ い だ ろ うか 。 1960年 のAlbertB.Lord,:τ 勉S勿96γ げ 距 ♂6sの出版 以 来 、 口頭 形 式 理 論ora1-for-mulaictheoryあ る い はパ リー ・ロー ド理 論2と 通 称 され る理 論 が 広 く知 られ る よ う にな り、 口頭 性 とは 、語 りなが ら語 り を構 成 す る こ とoralcomposition,compositioninperformance を意 味 す る こ とが 、 ふ つ う とな った 。 で は、 言 語 的側 面 の み を対 象 に したパ リー ・ロ ー ド理 論 は、 日本 の語 り物 研 究 に どれ だ け 有 効 だ ろ う か。 そ の 中 心 概 念 お よ び音 楽 的 側 面 へ の 適 用 性 につ い て は後 で 述 べ る が 、 まず 、 その 口頭 性 の定 義 が あ て は ま る 「純 粋 」 な 語 り物 と し て注 目 され た の は、 ゴゼ 歌 ・座 頭 琵 琶 ・

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あ る種 の祭 文 ・ア イ ヌ の ユ ー カ ラ で あ る。 他 に、 口頭 的 な要 素 の 濃 い もの に は、 文 字 テ ク ス トの み伝 わ る説 経 ・舞 々 、 文 字 テ ク ス トす ら な い絵 解 き、 近 世 起 源 の 奥 浄 瑠 璃 、 民 俗 芸 能 で あ る何 々 音 頭 ・民 謡 ク ドキ な どが 挙 げ られ る。 パ リー ・ロ ー ド理 論 に基 づ い た 主 な 研 究 と し て は 、 山 本 吉 左 右 の 『くつ わ の音 が ざ ざ め い ナ ラテ ィヴ て 』(1988)が あ り、 方 法 論 の 出 所 に は ふ れ な か っ た が3、 伝 承 され た ゴ ゼ の 語 りをパ リー ・ ロ ー ド理 論 の観 点 か ら分 析 し、 さ ら に中 世 の 語 り物 と して の幸 若 舞 と説 経 の テ ク ス ト分 析 を 試 み た 。 また 兵 藤 裕 己 は 、座 頭 琵 琶 や デ ロ レ ン祭 文 な ど を長 年 に わ た っ て実 地 調 査 し、 同様 な理 論 と方 法論 で 徹 底 的 に分 析 し、 口頭 的 な 性 格 を 明 らか に して い る。 しか し、 本 研 究 会 で 主 な対 象 に な っ た 、 講 式 声 明 ・平 曲 ・浄 瑠 璃 な ど、 言 語 的側 面 の み な らず音 楽 的側 面 も複 雑 な語 り物 は、 そ の ま まで はパ リー ・ロ ー ド理 論 の 口頭 性 の 定 義 に 当 て は ま ら な い もの も多 い。 こ う した 語 り物 を 、 適 当 な呼 称 が な い ま ま、 い ま は琵 琶 法 師 系 統 の 語 り物 と呼 ん で お く。 講 式 も浪 曲 も琵 琶 法 師 とは直 接 の 関 係 は な い の だ が 。 と こ ろ で 、語 り物 に は、 も と も と文 字 テ クス トが 存 在 し な い。 しか し、 後 に テ ク ス ト化 さ れ る こ とは あ り、 そ の よ う に し て テ ク ス ト化 され た聖 書 ・ベ オ ウ ル フな ど は、 も う読 む こ と に よ って しか 昔 の 語 りを認 識 す る こ とが で きな い、 とい う事 態 に な っ て い る。 そ う した 文 字 テ ク ス トに お け る 口頭 性 の度 合 い は 、常 套 的表 現 の 割 合 で判 断 され る。 日本 で は、平 家 物 語 ・ 舞 の本 ・説 経 な どが 、 そ う した 文 字 テ クス トに 当 た る。 明 らか に最 初 か ら文 字 で書 か れ た 、 た と え ぼ浄 瑠 璃 な どの テ ク ス トで も、 常 套 的表 現 が 多 い と、 そ れ は 「名 残 りの 口頭 性 」(Ong 1982)で あ り、 口頭 性 の指 標 とな る 。 つ ま り、 口頭 性 は 、 パ リー ・ロー ド理 論 の定 義 に あ て は ま る 「純 粋 な 」 語 り物 以 外 に も、 存 在 す るの で あ る。 で は、 な ぜ 、 どの よ うに して 口頭 性 が 見 え に く くな る の だ ろ うか。 まず 考 え られ るの は、 書 記 文 化 との 交 流 で あ る。 こ こか ら生 じ る問題 は、 広 大 で 、 多 岐 に わ た り、解 明 さ れ て い な い こ とが 多 い。語 り物 は文 字 に定 着 され 、文 字 テ ク ス トが 生 まれ る。 文 字 に よ っ て 固 定 され た 語 り物 とそ の 内 容 は、 誰 が 所 有 す る のか 、 管 理 す る の は誰 か 、 とい う問題 が こ こに 生 ず る。 文 字 テ ク ス トにや や遅 れ て楽 譜 が 成 立 す る と、 それ らに対 す る依 存 性 が 高 ま り、 口 頭 性 は薄 ま り始 め る 。 さ らに 、 平 家 物 語 の よ うに、 文 字 テ ク ス トが読 書 の対 象 とな る とい う現 象 が あ り、 受 容 の面 で も口頭 性 の影 が薄 くな っ た。 っ ぎ に、 演 劇 との 交 流 が あ る。 人 形 芝 居 や歌 舞 伎 の劇 場 に入 っ た浄 瑠 璃 に は、 当 然 の こ と と して 、 演 劇 的 な 要 素 が 付 け加 わ っ た 。 一 人 で す べ て を コ ン トロ ー ル して 演 じ る こ と は不 可 能 に な り、 口頭 性 の 独 立 が 失 わ れ た の で あ る。 こ の よ う に し て、 言 語 的側 面 は役 者 や 人 形 に 拘 束 され 、 制 限 を受 け る よ う に な っ た 反 面 、音 楽 的 側 面 は 自 由 を得 て 発 展 し、 さ ら に複 雑 に な り、 の ち に 「邦 楽 」 と呼 ばれ る芸 術 音 楽 にな った 。 三 味 線 音 楽 の調 子替 え とは べ つ に、 三 曲合 奏 な どに お い て は、 転 調 が 頻 繁 に行 わ れ る よ う に な り、 そ れ は語 り物 に も入 っ て き た (Tokita1996)。 しか し、 音 楽 的 側 面 に お け る 口頭 性 は失 わ れ た わ け で は な い 。(こ の 点 に つ

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い て は第10章 で 論 じ る。)また劇 的 効 果 を あ げ る た め に、 能 の舞 事 や 歌 舞 伎 の 下 座 音 楽 な ど、 特 に語 りの な い と こ ろ で 、 器 楽 の演 奏 が 行 わ れ る よ うに な った こ と も指 摘 して お こ う。 文 字 テ ク ス トや 楽 譜 な しで 記 憶 す るた め の どん な工 夫 、 方 法 が あ っ た の か とい う こ とが 問 題 とな る が 、 常 套 的 な音 楽 パ タ ー ン(旋 律 型 、 曲 節 な ど)に 名 前 を つ け る とい う こ とが お こ な わ れ た 。 文 字 テ ク ス トが 成 立 す る と、 そ の名 称 を文 字 テ ク ス トの脇 に記 入 して 、 一 種 の 文 字 譜 とす る こ と も あ っ た 。 器 楽 で も、 旋 律 型 に名 前 をつ け た ほか 、 口琵 琶 ・口三 味 線 な どの 口 唱 歌 が お こな わ れ て い る。 口唱 歌 は 、 主 に楽 器 の 音 に対 応 す る、 チ ン ・トン ・シ ャ ンな ど単 音 節 の 言 語 的 な記 号 で 、 オ ー ラ ル な 楽 譜 あ る い は原 楽 譜proto-notationと い え よ う。 記 憶 と伝 承 の プ ロ セ ス に お い て 、 大 変 大 事 な 役 割 を は た し て きた もの で 、 音 を言 語 的 な 記 号 に置 き換 え る とい う点 で 、 口 頭 伝 承 と書 記 伝 承 の 中 間 に あ る もの とい え る 。 な お、1970年 代 以 来 、 テ ー プ レ コ ー ダ ー が 習 得 の 場 で 、記 憶 を助 け る大 事 な 道 具 に な っ て きた が、 オ ング は こ う した 電 子 メ デ ィ ア を 「二 次 的 な 口頭 性 」 と呼 ん で い る(Ong1982)。

4語

り物 の構 造

語 り物 の構 造 を研 究 す る に は、 言 語 ・音 楽 ・視 覚 ・身体 な どす べ て の側 面 を視 野 に入 れ て 考 慮 しな け れ ば な らな い 。 しか し、一 年 間 の研 究 会 で は、残 念 なが らそ こ ま で及 ば なか っ た 。 結 局 、 言 語 面 と音 楽 面 が 中 心 とな り、 視 覚 面 につ い て は西 山克 の 発 表 が あ っ た 。 西 洋 で は1920年 代 以 来 、構 造 主 義 の発 展 と平 行 し て、 芸 能 ・音 楽 ・パ フ ォー マ ンス の 構 造 分 析 に対 す る関 心 が高 ま り、 知 的厳 密 性 を も って 分 析 が お こな わ れ 、 構 造 主 義 そ の もの の権 威 に よっ て正 当 化 さ れ て きた が 、 当 然 の こ とな が ら限界 も あ っ た 。 ポ ス ト構 造 主 義 が 支 配 的 な現 在 、 構 造 分 析 で は割 り切 れ な い 複 雑 な現 象 を見 つ め る べ きだ と さ れ 、 音 楽 の構 造 分 析 は か つ て ほ ど重 視 さ れ な くな っ た。 音 楽 の構 造 分 析 は 、 採 譜 か ら始 ま っ て 、 時 間 もか か り、 な くて も済 ませ られ る もの な らそ う した い と こ ろだ が 、 や は りそ う は い か な い よ うで あ る。 音 楽 の細 か い性 質 ま で よ く理 解 す るた め に は 、 避 け て通 れ な い もの な の だ 。 た しか に、 構 造 を 実 体 化 し、 そ れ に と らわ れ る の は問 題 だ が 、 構 造 と と も に 、 そ れ を と り ま くコ ンテ ク ス ト ・ 身 体 ・ジ ェ ン ダー ・イ デ オ ロ ギ ー な どに視 野 を広 げ て ゆ く こ とが で き る 。 ま た 、 そ の よ うな もの を考 慮 す る こ と に よ っ て 、構 造 分 析 も新 しい 仕 方 で行 え る可 能 性 が 出 て くる よ うに 思 う。 第17章 の 矢 向論 文 が 示 す よ う に、 コ ン ピ ュ ー タ を使 っ て効 率 化 を はか る可 能 性 もあ る。 さ て 、先 に述 べ た 日本 の 語 り物 の 歴 史 的 な連 続 性 の し る しの ひ とつ は、や は り構 造 で あ り、 通 ジ ャ ンル 的 な分 析 を行 う こ と に よ っ て 、構 造 の共 通 性 が見 えて くる は ず で あ る。 パ リー ・ロー ド理 論 は、 前 に述 べ た よ う に言 語 的側 面 だ け を対 象 に した もの だ が 、 そ の 中

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心概 念 は、 行lineと セ ク シ ョ ンpassage,groupoflinesの 二 つ の 構 造 レベ ル に 「構 造 的 な 挿 入 口」 が あ り、 そ れ に は、 それ ぞ れ 「挿 入 され る 言葉 」 の 持 ち 合 わ せ 、 つ ま り常 套 的 な 言 語 素 材 が 対 応 す る、 とい う こ とで あ る(Foley1988:x)。 そ の常 套 的 言 語 素 材 は、 行 の レベ ル で は フ ォ ー ミュ ラformula、 セ ク シ ョ ン の レベ ル で は テ ー マthemeと よ ばれ る。 この 理 論 が 明 らか に した 、 最 も基 本 的 な構 造 的 要 素 つ ま りセ ク シ ョ ン と行 の レベ ル の 常 套 的 な性 格 は、 日本 の語 り物 に も合 致 す る。 そ こ に も、 「構 造 的 な 挿 入 口 」が あ り、 そ れ に挿 入 さ れ る常 套 的 言 語 素 材 が あ る。 そ れ ばか りで な く、 音 楽 的側 面 に も、類 比 的 に 同 じ こ とが い え 、 「構 造 的 な 挿 入 口 」に は常 套 的音 楽 素 材 が 対 応 す る 。 フ レ ー ズ の レベ ル で は旋 律 型(町 田 サブスタイル 1982)で あ り 、 セ ク シ ョ ン の レ ベ ル で は 小 段(横 道1960)や 語 り 口(時 田1997)で あ る 。 し か し 、 言 語 的 側 面 だ け に し ろ 、 パ リ ー ・ロ ー ド理 論 を 厳 密 に 適 用 で き る の は 、 ゴ ゼ 歌 な ど、 ス テ ィキ ック 後 に述 べ る 行 モ デ ル に 限 られ 、 他 の もの に適 用 し よ う とす れ ば 、誤 る恐 れが あ る。 で は 、 こ う した 常 套 的音 楽 素 材 を使 っ て 、音 楽 的 側 面 で も 口頭 構 成 が 可 能 だ ろ うか。 兵 藤 は、 口頭 構 成 が 、 ゴ ゼ唄 な ど音 楽 的 側 面 が 単 純 な 語 り物 で の み 可 能 で あ る こ とを示 唆 し(兵 藤1997:19)、 さ ら に、座 頭 琵 琶 で は「コ トバ と フ シの 中 間 的 な旋 律(地 語 り的 な旋 律 で 、 『平 家 』 の ク ドキ に相 当 す る)で は、 しば し ば決 ま り文 句 を駆 使 した 口頭 的構 成 法 が 行 われ る」 (兵藤1997:20)こ と を観 察 して い る。 この よ う に音 楽 的 側 面 が 単 純 な場 合 は 可能 だ ろ うが 、 後 の語 り物 の よ う に そ れ が複 雑 に発 展 し、 芸 術 音 楽 に ちか くな る と、 固定 性 が 増 し て、 口 頭 的 構 成 の 余 地 は少 な くな る と考 え られ る。 そ う した 段 階 で は 、音 楽 に は音 楽 の 自立 性 が 認 め られ な けれ ば な らな い 。 音 楽 の構 成 は言 葉 の構 成 と必 ず し も連 動 し な くな るか らで あ る 。 語 り物 の 基 本 構 造 は、 ゆ る や か で 、 口 頭 性 の強 い もの は、 そ の 場 そ の場 の コ ン テ クス トに だ よ り、 演 し物 が ど こか ら始 ま り、 どの く ら い長 く続 き、 どの て い ど詳 し く語 られ 、 どこ で切 られ る か は、 流 動 的 で あ り、 そ こ に即 興 性 とい っ て も よ い もの が み とめ られ る。 言 語 面 よ り 音 楽 面 が 支 配 的 に な る と、 形 式 が もっ と は っ き り と整 って くる と は い え、 語 り物 の 本 来 の性 格 は、 流 動 的 で あ り、 そ の場 そ の場 で 異 な る とい う こ とで あ る 。 した が っ て 、構 造 につ い て も、 柔 軟 な 対 応 を考 え る必 要 が あ る。 も う ひ とっ 、構 造 に つ い て指 摘 して お か な けれ ば な らな い こ と は、第12章 で もふ れ ら れ て い るが 、 タ イ プ の違 う複 数 の構 造 原 理 が ひ とつ の ジ ャ ンル に共 存 し、 働 き合 わ せ る場 合 が あ る こ とで あ る。 た と え ば、 能 と歌 舞 伎 に は劇 的 な構 造 が あ るが 、 も う一 つ構 造 原 理 とし て 、 舞 踊 の様 式 が 存 在 して い る。 歌 舞伎 で は 、 ほか に組 歌 ・段 もの ・民 謡 な どの楽 曲形 式 が 認 め られ る。 清 元 に は 、劇 的 要 素 、 舞 踊 的 要 素 、 三 味 線 音 楽 ・地 唄 ・民 謡 ・は や り歌 な ど他 の楽 曲 の 要 素 が す べ て認 め られ る が 、 これ ら と は別 に 、音 楽 の 構 造 に比 べ て ゆ るや か な もの な が ら、 語 りの構 造 も見 出 せ る の で あ る(Tokita1999)。

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5語 り 物 と 歌 い 物 の 接 点 語 り物 は 、 歌 い物 と対 比 的 な もの と して 定 義 され る こ とが 多 い が(第2章 参 照)、 こ う した 対 比 性 、 む し ろ対 極 性 につ い て は、 小 塩 が 第16章 で 疑 問 を だ して い る 。 た しか に 、 こ う した 二 項 論 的 な 設 定 は 、 単 純 化 の傾 向 が あ り、 現 実 を見 え に く くす る 。 た と え ば、 歌 い物 の ジ ャ ンル に入 れ ら れ な が ら、 語 り物 との 区別 が は っ き り しな い もの に 、 謡 (謡 曲)、 長 唄 が あ る。謡 は音 楽 的構 造 が 平 曲 に 非 常 に近 い し、長 唄 の な か に は大 薩 摩 節 をふ ん だ ん に使 う、 語 りの 要 素 の 支 配 的 な 曲 が あ る。 民 俗 芸 能 で は 、盆 踊 りの伴 奏 に な る 「民 謡 口説 き」 や 「何 々 音 頭 」 の よ う に、 民 謡 が 語 り物 を取 り入 れ た(逆 の ば あ い も あ る か も しれ な い)も の もあ る。 しか し、 語 り物 と歌 い 物 は、 対 概 念 とし て 、 じ っ さ い に は有 益 で あ る。 語 り物 は、 歌 い 物 に相 当 な 影 響 を与 え、 大 き く貢 献 した 。 語 りの 伝 統 は 原 始 時 代 まで さか の ぼ り う る が、 語 り物 は、 中世 ・近 世 に は劇 場 に入 り、 芸 能 や 音 楽 の発 達 に大 き く貢 献 した 。 そ の時 まで 語 り物 は大 変 豊 か に発 展 して い た た め、 す ぼ ら しい材 料 を提 供 で きた の で あ る。 藤 田隆 則 が 「語 りの 立 体 化 」 とし て発 表 した よ う に、 早 くは 、 能 が 語 りの芸 能 を多 く取 り入 れ た し、 江 戸 時 代 に な る と、 語 り物 が劇 場 に進 出 して 人 形 芝 居 が 成 立 し、組 踊 り ・小 唄 ・組 歌 ・浄 瑠 璃 な どを総 合 し て、18世 紀 初 頭 に歌 舞 伎 舞 踊 様 式 が生 まれ 、 長 唄 が 成 立 した 。 そ う し た環 境 の な か で 、歌 舞 伎 の な か で は歌 い物 的 とい わ れ る豊 後 系 浄 瑠 璃 が 発 展 した の で あ る。 詳 し く は、 第15章 と第16章 を参 照 して い た だ きた い。 と こ ろで 、 語 り物 と歌 い物 の関 係 で い ち ぼ ん不 思 議 な こ と は、 当道 の 琵 琶 法 師 が 、 平 曲 と い う語 り物 の保 存 伝 承 者 で あ りな が ら、 地 歌 ・箏 曲 とい う歌 い 物 を生 み だ し、 裏 芸 と し て受 け入 れ 、 江 戸 時 代 を通 して 、 そ れ で 渡 世 が で きた こ とで あ る。 相 容 れ な い とさ れ る、 こ の二 つ の分 野 が 、 ど う い うふ う に共 存 し、 影 響 しあ って き た の か 、 ま だ 明 らか に さ れ て い な い。 歌 い物 で あ る長 唄 を ふ くめ て、 三 味 線 音 楽 一 般 に は、 語 り物 が 引 用 され て お り、 語 り物 の 痕 跡 が 認 め られ る 。 三 味 線 音 楽 に お け る引 用 に つ い て は、 徳 丸 吉 彦 の 記 号 学 的 分 析 が あ る (Tokumaru2000:83-124)。 蒲 生 は、歌 い 物 とさ れ る長 唄 が 、語 り物 史 上 、重 要 な 位 置 を占 め る説 経 を 引 用 して い る こ とに つ い て 、「長 唄 が 摂 取 した 説 経 」と して発 表 し た。 この発 表 は、 説 経 が 江 戸 中 期 に ど の よ う に 聞 こえ た か を明 らか に し よ う とす る 、音 楽 考 古 学 的 な 試 み で あ っ た(蒲 生1998)。 この よ う に江 戸 時 代 に は、 音 楽 的 な ク ロ ス オ ー バ ー が頻 繁 に お こ り、 語 り物 の 音 楽 は大 い に発 展 し た 。 それ で もな お 語 り物 ら し さが あ る とす れ ば 、 い や 、 そ の こ とは 実 際 に感 じ られ る の だ が 、 それ は い っ た い 何 な の か 。 そ れ を ど の よ う につ き とめ 、 明 らか に す る こ とが で き る か 。 こ の 点 で も、 第15章 と第16章 は大 変 示 唆 的 で あ る。 浄 瑠 璃 の な か で は歌 い 物 的 と言 わ れ る清 元 を研 究 して 分 か っ た こ とは、 す べ て の 曲 に お い て基 本 の枠 組 み を な す の は、 じつ は、[オ キ]・[ク ドキ]・[チ ラ シ]と い っ た 語 りの小 段 だ と

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い う こ とで あ る 。 清 元 が 歌 い 物 とみ な さ れ た最 大 の理 由 は、[ク ドキ]が 詠 唱 的 で あ る こ とだ が 、 曲全 体 の構 造 の なか の位 置 や 内容 か ら見 る と、[ク ドキ]は 語 りそ の も の とい わ な くて は な らな い 。[ク ドキ]で は、 語 り手 は主 人 公 と して 一 人 称 で 語 りか け、 訴 えか け る。 これ は 語 り物 に よ くあ る手 法 で あ り、 古 くは古 事 記 で も、 挿 入 さ れ て い る和 歌 が それ に あ た る。 これ とは別 の 意 味 で 、 清 元 に は 、 た くさ ん の歌 が 引 用 さ れ、 挟 まれ て い る こ とが あ るが 、 必 ず 語 りの様 式 に戻 り、[チ ラ シ]と い う語 りの 小 段 で 曲 が 終 わ る(時 田1992,1999,Tokita1999)。 語 り物 と歌 い物 の そ れ ぞ れ の 要 素 が 互 い に影 響 し合 っ て 、 遠 い 昔 か らの ア イ デ ンテ ィテ ィ を 保 存 す るだ けで な く、 洗 練 させ て きた の で あ る。 長 唄 の 中 の 語 り物 性 と歌 い物 性 の バ ラ ン ス につ い て は、 第16章 参 照 の こ と。 また 、 近 代 に な っ て 大 変 な 流行 を見 せ た 琵 琶 楽 、 娘 義 太 夫 、 それ に新 し い ジ ャ ンル とし て 生 まれ た 浪 曲 ・漫 才 も語 り物 の 近 代 化 とい う よ り、 日本 の 近代 化 に お け る、 語 り物 の 発 展 と み るべ きだ ろ う。 これ に つ い て は第19章 と第20章 を参 照 して い た だ きた い 。 6論 文 紹 介 論 文 は 、 先 に述 べ た 三 つ の柱(口 頭 性 ・構 造 ・意 義)を 反 映 し、 三 部 に分 けた 。 そ の 区 分 に う ま くお さ ま らな い もの もあ り、 ひ とつ 以 上 の 柱 に関 係 す る論 文 もあ る。 この 三 つ の テ ー マ 以 前 に、 語 り物 の定 義 を歴 史 的 に扱 うの は 第2章 で あ る。 こ こで 、 蒲 生 は、 語 り物 とい う語 の 初 見 は 、 実 は明 治 晩 期 に な っ てか らで あ る こ とを示 し、 そ の後 に歌 い 物 との 対 概 念 が あ らわ れ 、 戦 後 に は通 説 に な っ た こ とを明 らか に した 。 蒲 生 は い ろ い ろな 文 献 や 辞 書 ・事,典類 を引 き な が ら、 音 楽 学 と文 学 の世 界 で は微 妙 に見 方 が 違 う こ と も説 い て く れ る。本 研 究 会 で も感 じ た こ とだ が 、蒲 生 の 結 論 の 通 りだ ろ う。つ ま り、「そ の 語 の統 一 的 な 定 義 を設 定 す る こ と は むず か しい に し て も、 語 り物 につ い て討 論 や 共 同研 究 を し よ う とい う と き に は 『自分 は この よ うな意 味 で 使 っ て い る』 とい う こ とを まず 表 明 す る こ とが 必 要 な の で は なか ろ うか 」。 実 に適 切 な助 言 だ と思 う。 口 頭 性 と 書 記 性 語 り 物 の テ ク ス ト を め ぐ る 論 文 本 研 究 会 の ひ とつ の 目 的 は、 口頭 性 と書 記 性 の 関 係 を 明 らか にす る こ とだ った 。 本 来 文 字 テ クス トを持 た な か った 語 りが 、 書 記 文 化 に ふ れ 、 文 字 化 して テ ク ス トや 楽 譜 が 成 立 した 後 も、表 面 的 な 対 立 関係 を越 え て、口頭 性 と書 記 性 が 共 存 した 事 実 を ど う考 え る か 明 らか に し、 また そ こか ら生 まれ た 、 相 補 性 や 、 相 互 的 な影 響 関 係 の複 雑 な 中 身 も明 らか にす る こ とだ っ た 。

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第3章 で 山 下 宏 明 は 、 国 文 学 か らみ た 平 家 研 究 を鳥 瞰 し、 特 に 山本 吉 左 右 や 兵 藤 裕 己 の研 究 を通 じて 、 オ ー ラ リテ ィが 平 家 研 究 に与 え た 影 響 に焦 点 を置 く。 デ フ ェ ラ ンテ ィ、 横 道 、 川 田、 井 口 に よ る発 表 の批 評 をへ て 、 九 州 の座 頭 琵 琶 ・近 代 琵 琶 につ い て行 った 調 査 を紹 介 、 報 告 す る。 い ろい ろ な 台本 の 口頭 性 の 指 標 と して 、 当 て字 、 段 の始 め と終 りに使 わ れ る決 り 文 句 を紹 介 す る。 さ ら に、 近 代 琵 琶 で あ る筑 前 ・薩 摩 両 琵 琶 ジ ャ ンル の 『敦 盛 』 と 『小 町 』 を取 り上 げ て 、 台 本 の比 較 分 析 を行 って い る。 340以 上 の種 類 の 多 さ を誇 る中 国 の語 り物 は長 編 で あ り、 節 の な い 散 文 と節 の あ る韻 文 の プロ ジ メ トリ ック 交 代 す る、 説 唱prosimetric形 式 を共 有 す る。 書 か れ た テ ク ス トは 「死 ん だ 言 葉 」と呼 ば れ る の に対 して 、 口頭 で積 み重 ね た パ フ ォ ー マ ン ス は 「流 れ る水 」 と呼 ぼ れ る とい う。 こ う し たemicな 用 語 は 大 変 興 味 深 い が 、第4章 で 井 口淳 子 は、大 鼓(dagu)の 一 組 の芸 人 の 演 奏 に 焦 点 を あ て5年 間 に わ た っ て継 続 した 調 査 の 中 か ら、 三 回 の 演 奏 を分 析 を す る。 語 り手 は 、 書 か れ た テ クス トを 厂改編 」 して 、 新 し いパ フ ォー マ ンス テ ク ス トを作 り上 げ る こ とを報 告 す る。 「改 編 」が 見 られ るの は、 韻 文 よ り も主 と し て散 文 の 部 分 で あ る、 とい う指 摘 は、 つ ま り、 音 楽 を 口頭 構 成 す る こ とは 困難 で あ る、 とい う こ とで あ り、 音 楽 的 側 面 が 発 展 し、 複 雑 に な る と、 バ リエ ー シ ョン も減 り、 口頭 性 の 影 が 薄 くな る とい う、 日本 の語 り物 に お い て 認 ナ ラ ティ ヴ め られ た 現 象 と一 致 す る。 この こ とは、 音 楽 的 に 複 雑 な語 りは変 化 し に くい 、 とい う こ とで もあ ろ う。 ヒ ュー ・デ フ ェ ラ ン テ ィ は第5章 で 、 「江 戸 中 期 ま で の 平 曲 のパ フ ォ ー マ ンス の 中枢 を 成 し て い た と思 わ れ る」、 「潜 在.的に テ ク ス トに基 づ く」 パ フ ォー マ ン ス の段 階 を論 じ る。 座 頭 琵 琶 の場 合 、 書 か れ た テ ク ス ト、 つ ま り台 本 は何 の役 割 もは た さな い とさ れ て い るが 、 盲 人 の 語 り手 大 川 進 氏 の話 で は、 師 匠 の 師 匠 は晴 眼 者 で、 文 字 テ ク ス トを利 用 して お り、 デ フ ェ ラ ンテ ィ は 、 大 川 氏 の 演 奏 を丁 寧 に分 析 した 結 果 、 九 州 の 他 の座 頭 に比 べ て 、 旋 律 は大 川 氏 の 方 が 詳 し く、 整 理 され て い るな ど、 そ こ に固 定 した パ フ ォ ー マ ン ス テ ク ス トの 存 在 を感 じ、 これ を 「潜 在 的 に」 テ ク ス トが あ る と理 解 す る。 レパ ー トリー に関 して は、 格 が 高 い 曲(平 家 もの は一 番 高 い)は 変 えて は な らな い の に対 して 、 格 が 低 い 曲 は も っ と自 由 が き くの だ が 、 平 家 も の ほ ど格 が 高 くな い 曲 の 二 つ の録 音 例 を分 析 し、 類 似 性 が 高 い こ とか ら、 この 曲 は、 自由 が き く もの で あ る に もか か わ らず 、 固 定 度 が か な り高 く、 そ れ は レパ ー トリー の 他 に 、 「固 定 性 」と い う理 念 自体 を師 匠 か ら受 け継 い だ た め で あ り、 「潜 在 的 にテ ク ス トに 基 づ い て い る」 と主 張 す る。 第6章 も九 州 の 座 頭 琵 琶 を め ぐる もの で 、 筑 前 盲 僧 琵 琶 か ら、 近 代 琵 琶 の ひ とつ 筑 前 琵 琶 まで の過 程 を た ど る。 明 治 初 期 、 日本 社 会 の変 動 に と もな い 、 盲 官廃 止 令 が 出 され る な ど、 琵 琶 語 りの 世 界 も大 き く変 化 し、 盲 僧 の 師 匠 か ら学 ぶ 晴 眼者 も増 え る よ う に な っ た が 、 兵 藤 裕 己 は、 そ の 一 人 、1901生 まれ の最 後 の 筑 前 盲 僧 、晴 眼 者 森 田勝 浄 氏 の 作 成 した 文 字 テ ク ス トを、 イ ン タ ビ ュ ー デ ー タ と音 源 デ ー タ を交 え な が ら、 論 じ る。 森 田氏 は、 文 字 テ ク ス トの 脇 に、 心 覚 え とな る よ うに 、 フ シ名 と、 声 の大 小 ・高 低 ・速 度

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な どの指 定 の 、 音 楽 的 側 面 に つ い て の2種 類 の 注 記 を付 し て お り、 兵 藤 は、 これ を基 本 の フ シ の細 分 化 と見 、 旋 律 の 数 が 増 え た こ と を明 らか に し、 平 家 語 りか ら 「平 曲 」 へ の歴 史 的 発 展 に類 似 して い る こ と を指 摘 す る 。 こ う した現 象 が 起 きた の も、文 字 テ ク ス トが 作 られ た か ら こ そ で あ り、 文 字 テ ク ス ト化 の作 業 は、 音 楽 と言 葉 の 抽 出 と不 可 分 で あ る、 と い う。 また 、近 代 琵 琶 の ひ とつ 筑 前 琵 琶 の 発 展 を、台 本 化 の 過 程 と して た どる。明 治20年 代 に は、 薩 摩 琵 琶 との競 争 意 識 か ら、 素 人 に も読 め る記 譜 法 を整 備 し、 伝 承 され た 旋 律 が さ らに細 分 化 され 、 伝 統 的 な 美 意 識 に基 づ く、 私 な ど に は 「見 立 て 」 と も考 え られ る、 新 しい 名 称 が 与 え られ 、 そ の よ う に し て 多 くの琵 琶 歌 が 作 詞 ・作 曲 され た こ と を明 らか に す る。 こ こに も「伝 統 」 が 新 し くつ く られ た こ とが み られ るが 、 こ う し て 、 台 本 を軸 に して 、 免 状 交 付 の た め体 系 的 な 教 授 シ ス テ ム が 作 られ 、 新 しい家 元 制 度 が 成 立 す る こ とに よ っ て 、 近 世 邦 楽 と同 じ地 位 を得 る こ とに な り、 音 楽 的 側 面 で もい わ ゆ る芸 術 音 楽 とな った 、 と考 え る こ とが で き る 。 そ して 、 台 本 は 「演 唱 の規 範 」 と してパ フ ォー マ ー と演 奏 の 間 に介 在 す る よ うに な り、 琵 琶 語 りか ら琵 琶 歌 へ と、 語 り は大 き く変 質 し、 「平 家 」語 りの 「平 曲 」へ の 変 化 を、 集 約 的 に み せ て い る、 とす る。 兵 藤 は、「物 語 内 容 に即 して 微 妙 な ニ ュ ア ンス を表 現 し、多 様 な演 唱 機 会 や 聴 衆 に柔 軟 に対 応 で き る の は、 そ れ ぞ れ フ レー ズ の フ シが 、 曖 昧 な 幅 を抱 え る(規 範 性 の ゆ る い)い わ ば プ レ旋 律 型 的 な旋 律 型 だ か らで あ る」 と して 、 そ れ が 、 音 楽 的 側 面 を注 記 した 文 字 テ クス トの 作 成 の過 程 で 失 わ れ て い る こ と を指 摘 して い る が 、 「プ レ旋 律 型 的 な旋 律 型 」 と は、 第10章 サ ブ スタ イル で の べ る基 本 の語 り口の こ と と理 解 で き る。 第7章 は、第6章 の続 き とい っ て も よ い 。筑 前 琵 琶 が 成 立 して か ら一 世 紀 の あ い だ に、「改 良 」 が よ く提 唱 さ れ た が 、 シ ル ヴ ァ ン ・ギ ニ ャ ー ル は、 重 要 な 問 題 とし て 、 まず 、 四弦 琵 琶 か ら五 弦 琵 琶 へ の 「改 良 」 とそ れ に と もな う表 現 力 の増 加 、 そ れ に、 橘 旭 宗 が 二 代 目家 元 か ら分 家 し、 よ り近 代 的 な琵 琶 楽 を作 り上 げた こ と を と りあ げ る。 なか で も、 琵 琶 の 固定 した 間 奏 の メ ロ デ ィ ー を作 った こ と と、 声 の フ シの 楽 譜 を工 夫 した こ と、 を重 要 視 す る。 橘 旭 宗 は 「伝 統 」 を守 りな が ら、 「近 代 」 の芸 能 を作 り上 げ た 、 筑 前 琵 琶 の 中興 の 祖 で あ る とい う。 論 文 の 中核 は、 筑 前(近 代)琵 琶 の 創 始 者 橘 旭 翁 の 琵 琶 間奏 の 楽 譜 と山崎 旭 萃 の そ れ の比 較 で あ る。 祭 文 系 統 の 語 り物 は 、 さ まざ まな 時 点 で 、 歌 祭 文 な どの か た ち で 浄 瑠 璃 の発 展 に寄 与 した が 、 平 家 お よ び浄 瑠 璃 とは別 な 系 統 だ っ た 。 祭 文 は 、 仏 教 儀 礼 に起 源 を もつ 言 葉 だ が 、 山 伏 の 祈 濤 ・延 年 ・シ ャー マ ン的 な 民俗 儀 礼 ・陰 陽 道 と強 い関 係 を 持 つ 儀 礼 な ど、 さ まざ まな コ ンテ ク ス トで 使 わ れ て きた 。 江 戸 時 代 の民 衆 的 な祭 文 は、 明 治 の 浪 曲 に つ な が った 。 こ こか ら もわ か る よ う に、 た だ た ん に 宗教 的 な表 現 をす る も の で は な く、 草 の根 レベ ル で は、 世 俗 的 で 反 体 制 的 な性 格 を 持 つ もの だ った 。 の ち に、 祭 文 は都 市 で 滑 稽 な、 あ る い は噂 話 の語 り 物 に変 わ っ て い き、 浪 花 節 に及 ん だ 。 斎 藤 英 喜 は第8章 で 、 宗 教 的 で あ る と同 時 に芸 術 的 な要 素 も持 った 、 祭 文 の儀 礼 的 な形 に

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っ い て 論 じ る 。 四 日間 もか か る この 儀 式 は 「中世 祭 文 」、 つ ま り、 近 世 の 「唄 祭 文 」 の よ う に 世 俗 化 して い な い もの で あ り、 そ の 神 秘 的 な性 格 を、 儀 式(祭 り)に 集 ま っ た研 究 者 や 新 聞 記 者 な どが 、 か ん た ん に理 解 す る こ とは で きな い と主 張 す る。 普 通 の神 楽 は、 視 覚 的 要 素(衣 装 ・面 ・踊 り ・劇 な ど)と 音 楽 的 要 素(特 に 器 楽)を 発 展 させ て い る の に対 して 、 い ざ な ぎ流 祭 文 は、 な に よ り も専 門 職 の 太 夫 た ち が発 す る節 の な い 語 りが 中心 で あ る。 こ の論 文 が 提 示 して くれ る の は 、 三 つ の テ ク ス トが 、 同 時 に存 在 し、 交 流 し て い る、 とい う こ とで あ る。 まず 第 一 に、 祭 文 の 文 句 。 これ は、 儀 式 の 中 心 とな る も の で 、 口頭 的 なパ フ ォー マ ンス の テ ク ス トで あ る。 これ に は、 書 か れ た テ ク ス ト(書 物)も 存 在 し、 これ が 、第 二 の テ ク ス ト とな る。 太 夫 た ち は 自分 そ れ ぞ れ の文 字 テ ク ス トを持 っ て い る。 プ ラ イ ベ ー トな もの な の で 、 太 夫 が 亡 くな っ た あ とは、 埋 め られ るか 、 燃 や され る こ と に な る。 三 つ 目の テ ク ス トは 「りか ん 」(ま た は 「よ み わ け」)と い う、儀 式 の あ とで 唱 え ら れ る もの で 、 儀 式 を解 りや す くす るた め の解 説 の 役 割 を果 た し、 即 興 的 な もの だ 。 書 か れ る こ と はな く、 太 夫 の独 自性 の し る し とな る。 この 三 つ の テ ク ス トー シ ャー マ ン の儀 式 、 書 か れ た 書 物 、 そ れ か ら書 か れ な い(秘 密 の)即 興 的 解 説 一 の複 雑 な絡 み 合 い は奇 妙 な 山 の儀 礼 の 意 味 論 的 な積 層 性 を見 せ る 、貴 重 な研 究 だ 。 仏 教 唱 導 の 影 響 を受 け る前 の、 儀 礼 と信 仰 に お け る、 古 い 語 りの あ りさ ま を にお わ せ て くれ る。 第9章 は、 書 か れ た 文 学 と して の 『平 家 物 語 』 の覚 一 本 を取 り上 げ、 ジ ュ ネ ッ トの有 名 な 語 り理 論(ナ ラ トロ ジー)の 一 部 で あ る焦 点 化 を適 用 す る試 み で あ る。 同 じ事 件 は、 二 回 以 上 別 な人 物 の観 点 か ら語 られ る こ とが少 な くな い。 マ イ ケル ・ワ トソ ン は 、通 盛 の死 を と り あ げ、 まず 戦 い の 報 告 と して 、 「平 家 の語 り手 」 が 語 り、 の ち に、 使 い が 小 宰 相(通 盛 の妻) に報 告 を告 げ る場 面 で 、 も う一 度 同 じ出 来 事 が 語 られ る こ と を し めす 。 二 回 の 語 り方 は違 う 観 点 か ら語 られ るの で 、 焦 点 化 も違 う こ とに な る。 後 者 は 、 夫 を失 っ て 、 嘆 き悲 しみ 、 悩 む 妻 の観 点 で あ る。 「語 りの 中 の 語 り」は叙 事 詩 で め ず ら し くな い が 、 映 画 の フ ラ ッ シ ュバ ック や 、 演劇 の 「劇 中 劇 」 に似 て い る 。 焦 点 化 とい う概 念 は、 焦 点 の統 一 を追 求 した近 代 小 説 を分 析 す るた め にで きた もの だが 、 ワ トソ ン は 『平 家 物 語 』 に お い て 、 頻 繁 に移 り変 わ る焦 点 化 、 わ ず か 二 三 行 ご とで も変 わ る 焦 点 化 に注 目す る。 この ワ トソ ンの 視 点 は 、物 語 の所 有 権 ・管 理 権 は誰 の手 に あ るか 、 誰 の た め に語 られ た か 、庇 護 者 は誰 か な どを 明 らか にす る手 が か りに な りう る。 また 、 演 奏 者 と して の語 り手 が 消 えて し ま っ た 『平 家 物 語 』 で も、 覚 一 本 な どの 「語 り本 」 を対 象 に 、 この 方 法 に よ っ て、語 られ るエ ピ ソ ー ドが さ ま ざ まな 古 い 語 り物 に 由来 す る こ とを示 唆 で きれ ば 、 そ う し た エ ピ ソー ドを名 残 の 口頭 性 の指 標 とし て設 定 で きる と思 わ れ る。

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音 楽 構 造 を め ぐ る 論 文 第10章 で 時 田 は、世 界 的 な 視 野 の な か に 日本 の 語 り物 を お くた め に、中 国 と南 ユ ー ゴ ス ラ ビ ア の オ ー ラ ル ナ ラテ ィ ヴ を検 討 し、 三 つ の構 造 モ デ ル を立 て た。 そ れ ら と 日本 の 琵 琶 法 師 系 統 の語 り物 との比 較 を行 い 、 さ らに 、 これ まで の 語 り物 の 音 楽 構 造 モ デ ル をふ りか え り、 セ ク シ ョ ン とフ レー ズ に着 目す る こ とで 、 琵 琶 法 師 系 統 の 語 り物 相 互 の み な らず 、 日本 以 外 の オ ー ラル ナ ラ テ ィヴ との比 較 分 析 が 可 能 とな る こ とを 示 唆 す る。 第11章 で は、 横 道 萬 里 雄 が 、 日本 の 語 り物 の ほ ぼ す べ て の ジ ャ ンル(種 目)を 、 言 語 面 ・ 音 楽 面 ・演 劇 面 に わ た っ て、 構造 的 に整 理 し、 分 節 す る新 しい 試 み を 出 し、 個 々 の ジ ャ ン ル で 独 自 の 用 語 を使 い 、 他 の ジ ャ ンル 問 で は よ く通 じ な い とい う障 害 を乗 り越 え よ う とす る、 貴 重 な 問題 提 起 を行 った 。 か な り複 雑 な 文 楽(義 太 夫 節)を は じ め、 能 ・歌 舞 伎 ・平 家 ・講 式 か ら曲 を選 ん で じ っ さ い に そ の 一 部 を分 節 し、 図 と表 に して い る。 と くに表 は、 一 見 し て わ か る もの で あ り、 今 後 の論 考 の た め の 貴 重 なベ ー ス とな る。 さ ま ざ ま課 題 が 残 る こ と も明 らか だ が 、 こ こを 出 発 点 と して検 討 を 開 始 で き る。 こ の分 節 法 をべ 一 ス に い ろ い ろ議 論 が 出 たが 、第12章 で は、薦 田 治 子 は、語 り物 の音 楽 構 造 の 通 ジ ャ ン ル 的研 究 とい う音 楽 分 科 会 の 目的 を紹 介 し、そ の活 動 と成 果 を報 告 した う え で 、 横 道 分 節 法 に対 す るメ ンバ ー の 反 応 を ま とめ、 展 望 を出 した 。 さ らに そ れ を基 に して 、音 楽 構 造 を、通 ジ ャ ンル 的 に考 察 し、乃 折 と乃 齣 の 間 に、「詞 章 上 の 分 節 と音 楽 上 の 分 節 が 一・致 す る最 小 単 位 と して 」 乃 小 折 とい う レベ ル を立 て る と、 能 ・平 家 ・講 式 が よ りよ く分 節 、 理 解 で き る とす る。 第13章 は 、声 明 の語 り物 を、表 白 と講 式 を 中 心 に扱 う。澤 田 篤 子 は 、横 道 分 節 法 や 用 語 に は 直 接 触 れ な い が 、 明 らか に そ の 問 題 提 起 をふ ま え、 積 層 レ ベ ル を基 に 、言 語 学 の 視 点 を導 入 し、 分 析 し た。 平 野 モ デル の 吟 誦 ・朗 誦 ・詠 誦 の概 念 を、 細 か な音 楽 的要 素 を入 れ て精 密 に し て声 明 に応 用 し、 初 重 な ど伝 統 的 な 曲 節 名 と結 び つ け た 。 テ ク ス トを つ ね に意 識 し、 全 体 の 構 造 を図 式 的 に示 し、 わ か りや す く、 説 得 力 の あ る分 析 で あ る。 語 り物 の 分 析 を推 し進 め る新 しい モ デ ル をつ く りあ げ た も の と し て、 評 価 で き る。 第14章 で は、山 田 智 恵 子 が 、近 世 の語 り物 を代 表 す る義 太 夫 節 の音 楽 構 造 の 諸 問 題 を取 り 上 げた 。 義 太 夫 節 に は なか な か適 用 が 難 し い横 道 分 節 法 を参 照 枠 に しな が ら、 義 太 夫 節 独 特 の様 式 を 、 今 まで の研 究 よ り も は るか に 明 快 に分 析 す る。 そ の 結 果 、 い わ ゆ る旋 律 型 は義 太 夫 節 の音 楽 の一 割 しか 占 め な い 、 とい う重 大 な事 実 を明 らか に して くれ た。 これ まで 、 義 太 夫 節 の構 造 分 析 が きわ め て 困難 で あ る こ と もあ り、 全 体 の三 分 の 二 程 度 を 占 め る地 合 が 旋 律 型 の 組 み 合 わ せ で で き て い る か の よ うな 誤 解 が あ っ た が 、 そ れ を正 す もの で あ り、 変 化 流 動 が 義 太 夫 節 の本 質 と見 て 、 そ こ に 「緩 や か な規 範 」 を見 出 し、 それ を解 明 す る こ とを今 後 の サ ブス タ イル 課 題 とす る。 この 「緩 や か な規 範 」 は第10章 で の べ る基 本 の 語 り口 で あ る。

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第15章 と第16章 は、 歌 い 物 と語 り物 との接 点 を論 じ る。 野 川 美 穂 子 は第15章 で 、 地 歌 筝 曲 と山 田 流 筝 曲 の レパ ー ト リー を、 詞 章 ・音 楽 ・演 奏 の三 つ の 面 に 分 け て 、 語 り物 性 を見 出 し、 論 じ て い る。 付 さ れ た表 は、 詞 章 面 にお い て語 り物 的 要 素 を もつ 曲 の 曲 種 別 リス トで あ り、 今 後 の研 究 に大 変 便 利 な 参 考 資 料 で あ る。 第16章 で は小 塩 さ とみが 、歌 い物 と語 り物 の 二 分 法 の適 用 範 囲 に も、曲 全 体 か ら旋 律 型 ま で 幅 が あ る こ と を指 摘 し、 議 論 の精 度 を高 め る。 長 唄 が 語 り物 性 の三 要 素 を増 大 させ て ゆ く 過 程 を 明 らか に す る。 い っ ぽ うで 、 長 唄 の 拒 否 した 「語 り物 的 行 動 」 を 指 摘 し、 長 唄 の 歌 い 物 性 も強 化 さ れ た と し、 長 唄 の 語 り物 性 は、 歌 い 物 性 とバ ラ ンス を と りつ つ 存 在 して い る、 と結 論 す る。 ク ドキ が 、 長 唄 で は 「歌 」の聴 か せ ど こ ろ と し て 、清 元 節 で は語 りの 本 質 的 な 部 分 と して 、 意 識 さ れ て い る こ とを、 対 比 し て見 せ た こ とは 、 興 味 深 い。 長 唄 で は 、 基 本 的 に叙 事 的 な表 現 力 が 控 え め で 、 音 楽 効 果 が 物 語 の 内容 に比 べ て優 勢 だ とい う指 摘 は、 歌 い 物 に近 い とい わ れ る清 元 節 で も、 い く ら歌 い 物 的 要 素 を取 り入 れ て も基 本 的 な 語 りの性 格 を失 わ な い 、 とい う時 田説 の 傍 証 と な る。 第17章 の 矢 向正 人 の 論 文 は 、 数 年 前 か らや っ て い る 「三 味 線 旋 律 事 典 刊 行 の会 」の代 表 の 立 場 か ら、 三 味 線 を伴 奏 とす る語 り物 の旋 律 型 を、 コ ン ピ ュー タ を使 っ て 分 析 す る可 能 性 に つ い て論 じた もの 。 楽 譜 情 報 を記 号 化 した デ ー タ ベ ー ス の作 成 は三 味 線 の みで 、 ウタ の 部 分 を入 力 して い な い とい う限界 が あ る と はい え 、情 報 科 学 の観 点 か ら楽 曲 分 析 の可 能 性 を示 し た もの と して 、 貴 重 で あ る。 語 り物 の音 楽 は 「旋 律 パ タ ー ン」 をた っ ぷ り使 い、 パ ター ン へ の 依 存 性 は高 い 。 こ こで 、 コ ン ピ ュ ー タ が 威 力 を発 揮 で き るだ ろ う。 旋 律 パ タ ー ン に は名 称 が つ い て い な い もの が 多 い こ とが 、 大 きな 問 題 にな るが 、 コ ン ピ ュ ー タ に よ る分 析 は、 問題 解 決 の た め に大 き な助 け に な る と期 待 で き る。 社 会 的 ・文 化 的 意 義 を め ぐ る 論 文 本 研 究 会 で は 、 語 り物 の 中 に イ デ オ ロギ ー は どの よ うな か た ち で潜 ん で い る か 、 また 受 け 継 が れ て い る か 、 そ し て語 り物 の担 い手 と受 け手 と どの よ うな 関 係 に あ るか 、 語 り物 の管 理 と庇 護 、語 り物 にお け る女 性 の 役 割 な ど ジ ェ ンダ ー の問 題 も明 らか に し よ う と した 。 第18章 で 、武 内恵 美 子 は、浄 瑠 璃 の歴 史 に と って 大 事 な 時期 だ っ た1716年 か ら1740年 に か け て の社 会 的 コ ン テ ク ス ト と、、江 戸 ・京 都 ・大 阪 の 三 都 で 浄 瑠 璃 が ど こで 演 奏 さ れ た か を、 徹 底 的 に調 べ る と同 時 に 、奏 者 の社 会 地 位 に っ い て 考 察 す る。 この 時期 は、 豊 後 節 が 禁 止 令 を う け た享 保 改 革 の 時 期 で あ り、 義 太 夫 節 な ど当 流 浄 瑠 璃 が 成 立 し、 い わ ゆ る古 浄 瑠 璃 が 衰 退 し て、 ジ ャ ン ル の 交 代 が あ り、残 っ た の は義 太 夫 節 、豊 後 系 浄 瑠 璃 と河 東 節 の三 つ だ っ た。 特 に注 目 され るの は、 小 芝 居 ・宮 芝 居 ・見 世 物 ・大 道 芸 の場 の デ ー タ と、 商 業 的 で は な い 浄

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瑠 璃 会 の デ ー タ で あ る。 大 芝 居 に くらべ て これ に つ い て資 料 は圧 倒 的 にす くな い し、 今 ま で あ ま り組 織 的 に調 査 され た こな か っ た の で 、 貴 重 な研 究 とな っ た 。 第19章 の 細 田 明 宏 の論 文 は、義 太 夫 節 で 一 番 人 気 が 高 い もの の 一 つ、明 治 の新 作 浄 瑠 璃 『壷 坂 霊 験 記 』 を と りあ げ 、 近 世 期 の浄 瑠 璃 と比 較 す る。 伝 統 との つ なが り を強 め て、 素 朴 な観 音 信 仰 を あ らわ す 元 の 霊験 譚 に近 い新 作 を つ く り、伝 統 を 「創 出」す る と同 時 に、 厂改 良 」運 動 に よ り、 夫 婦 愛 な どの 近 代 価 値 が 盛 り込 まれ た こ とを明 らか にす る。 『壺 坂 霊 験 記 』が 近 世 期 の 浄 瑠 璃 と異 な る 点 は 、 一 度 死 ん だ 人 物 が 生 き返 る こ とで あ るが 、 危 機 的 な状 況 を 経 た 新 しい 人 格 の獲 得 、とい うエ リア ー デ の 口 誦 文 学 論 を援 用 し、『壺 坂 霊 験 記 』が単 純 な イ ニ シエ ー シ ョ ンの 構 造 を持 つ こ と に よ っ て わ か りや す くな り、 大 衆 的 な人 気 を得 た とす る。 第20章 の 真 鍋 昌 賢 の 論 文 は、敗 戦 直 後 か ら十 年 間(1945-1955)の 、 イ ンテ リに よ る 浪 曲 論 を 分 析 す る。 「声 の 文 化 」で あ る浪 曲 が 、 紙 面 で 論 じ られ た意 味 を問 う。 戦 前 、 浪 曲 は 一 番 ポ ピ ュ ラー な娯 楽 ・芸 能 で あ り、 戦 時 中 、 政 府 はそ れ を利 用 して 軍 国浪 曲 を プ ロ モ ー トし た。 敗 戦 後 、 急 に変 わ っ た政 治 ・社 会 状 況 の な か で 、 浪 曲 は封 建 的 で あ り、 国民 の 意 識 を後 退 さ せ る もの と して 、 禁 止 す べ きだ とい う声 や 、 い や む し ろ改 良 す べ きだ とい う声 とが あ が り、 そ の人 気 は動 揺 した が、 戦 後 も、 浪 曲 は人 気 を保 ち続 けた 。 そ れ はな ぜ か とい う こ とは 、 イ ン テ リた ちが そ れ に対 して な ぜ 危 険 を感 じ た の か とい う こ と と同 じ な の だ が 、 浪 曲 が た しか に古 い世 界 の価 値 観 を そ の ま ま聴 衆 に提 示 して い た か らで あ る、 とす る。 新 し く日本 を立 て 直 さ な くて は な ら な か っ た 時 代 に、 浪 曲 は両 義 的 な役 割 を は た した が 、 高 度 成 長 の 時 代 を 迎 え、 広 くア ピー ル す る こ と はな くな っ た 。 しか し、 戦 後 の 転 換 期 に は、 重 要 な 地位 を 占 め た と結 論 して い る。 7研 究 の 成 果 言 語 ・音 楽 ・視 覚 的 側 面 の す べ て か ら、 口 頭 性 ・書 記 性 、 構 造 、社 会 的 意 義 を探 ろ う と し た が 、 一 年 間 とい う期 間 は短 か す ぎ、 そ の 目標 は野 心 的 にす ぎ る とい う こ とが 、証 明 さ れ て し ま っ た 。 一 年 間 で 七 回 の 共 同研 究 会、 三 回 の音 楽 分 科 会 を ひ らい た が 、 そ れ で も時 間 は足 りな か っ た 。 そ の 間 、 多 人 数 の参 加 者 の 長 く、 熱 心 な 、 激 しい と も い え る議 論 が 交 わ さ れ た 。 三 十 あ ま りの発 表 の うち 、 こ こに収 め られ て い る の は十 九 本 で あ る。 学 際 的 な試 み だ っ た が 、 私 の 出 身 で あ る音 楽 学 とそ の他 の 学 問 の架 橋 は、 望 ん だ ほ ど う ま くは い か な か っ た よ うだ 。 た だ 、 時 田 自身 が 知 りた か った 、 語 り物 の 歴 史 的 連 続 性 、 歴 史 的 展 開 につ い て 、 学 際 的 に も、 音 楽 学 の領 域 で も、 また 通 文 化 的 な研 究 とし て も種 を ま い た 、 とい う こ と はい え る よ う で 、 これ か ら どん な芽 が 出 て くるか 、 また 読 者 が 何 を読 み とる か 、 楽 しみ で あ る。 画 期 的 な 試 み で あ っ た、 と評 価 し う る と思 う。

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音 楽 分 科 会 で の 話 し 合 い も、 音 楽 構 造 を め ぐ る 概 念 と 用 語 に つ い て 完 全 な 同 意 が 得 ら れ な か っ た が 、 か な り つ っ こ ん だ 吟 味 の 結 果 、 構 造 の 共 通 性 に つ い て 、 問 題 の あ り よ う が 明 快 に 把 握 さ れ る よ う に な り、 今 後 の 研 究 の す じ み ち を つ け る こ とが で き た 。 こ の 論 文 集 は 、 テ ク ス ト と 楽 譜 と 口 頭 性 の 関 係 を 探 り、 音 楽 構 造 を 綿 密 に分 析 す る な ど 、 大 き な 業 績 を あ げ た と 思 わ れ る 。 残 念 な こ と は 、 す で に 存 在 し 、 広 く使 わ れ て い る 、 た と え ば 曲 節 や 旋 律 型 の よ う な 用 語 の 定 義 や 応 用 性 の 吟 味 ま で に い た ら な か っ た こ とで あ る 。 ま た 、 平 家 琵 琶 に お い て 、 平 曲 ・平 家 ・「平 家 」語 り と い う 名 称 の 区 別 も、 き ち ん とす べ き だ っ た 。 そ う し た こ と が で き る と 、 今 後 の 研 究 の じ っ さ い 面 で 、 か な りの 効 用 が あ る と思 わ れ る 。 社 会 ・イ デ オ ロ ギ ー を 論 ず る の は 三 本 だ け だ が 、 課 題 の ひ と つ と し て 、 こ れ か ら も積 極 的 に 取 り組 む 必 要 が あ る 。 ま た 、 こ こ ま で の 成 果 を ふ ま え 、 芸 術 音 楽 だ け で は な く、 民 俗 音 楽 の 語 り物 を 積 極 的 に と り あ げ ら れ る よ う に な る と期 待 さ れ る 。 将 来 、 本 研 究 会 の よ う な 集 ま り が ま た 組 織 さ れ 、 積 み 残 し の 課 題 が 考 究 さ れ る こ と を 願 っ て い る 。 最 後 に 感 謝 の 言 葉 を し る し た い 。 研 究 会 の 幹 事 を勤 め て く だ さ っ た 光 田 和 伸 氏 は 、 毎 回 と て も敏 感 に 司 会 を し て く だ さ り 、 研 究 会 と研 究 会 の 間 の 時 期 も励 ま し て くだ さ っ た 。 ま た 、 校 正 の 労 も と っ て くだ さ っ た 。 薦 田 治 子 氏 は 、 本 書 の 共 同 編 集 を ひ き う け て くだ さ り、 日文 、 研 との 連 絡 を ふ くむ 実 務 を 担 当 し て く だ さ っ た 。 ほ か の メ ンバ ー の 方 も 、 勤 勉 に 研 究 会 に 出 て 、 す ば ら し い 発 表 を さ れ た り、 元 気 な デ ィ ス カ ッ シ ョ ン に 参 加 し て くだ さ っ た 。 心 よ り お 礼 を 申 し 上 げ る 。 最 後 で は あ る が 、 こ の 共 同 研 究 の 機 会 を 与 え て い た だ き 、 共 同 研 究 期 間 中 そ し て 本 書 出 版 ま で 支 え て くだ さ っ た こ と に 対 し て 、 日 文 研 と そ の 職 員 の 皆 さ ま に感 謝 い た し た い 。 〔注 〕 1『 岩 波 講 座 日本 文 学 史 』(1997)第16-17巻 口承 文 芸 で取 り上 げ られ た 語 り物 の範 囲 を見 れ ばわ か る よ う に、 アイ ヌ と沖 縄 の もの を含 めて 日本 に は数 多 い ジ ャ ンル が あ る。 第16巻 で は、盲 巫 女 ・奥 浄 瑠 璃 ・説 経 浄 瑠 璃 、 九 州 の 座頭 ・盲 僧 、 ゴ ゼの 語 り、 盆 踊 り唄 、 口説 き、 祭 文 語 り、絵 解 き、民 間神 楽 、河 内 音 頭 、獅 子 舞 が 、第17巻 で は、昔 話 、御 伽 噺 、伝 説 、世 間話 、 ア イヌ 文 学が 、 それ ぞ れ の考 究 の対 象 とされ て い る。 2パ リー は ロー ドの師 で 、 オ ー ラル ナ ラ テ ィ ヴ研 究 の先 駆 者 の一 人 。 3も とに な った 岩波 『文 学 』誌 掲 載論 文(1976-77年 、44/10,11;45/1)で はパ リー ・ロー ド理 論 にふ れ て い た。 参考 文 献 岩崎 武 夫(1973)『 さ んせ う太 夫考 一 中世 の説 経 語 り』 平 凡社 選 書23 蒲生 郷 昭(1998)「 長 唄 が 摂 取 した 説 経 」 『東 京 芸術 大学 音 楽 学部 紀 要 』 第24巻 、1-21頁 グハR.[ほ か](1998)『 サバ ル タ ンの歴 史 一 イ ン ド史 の脱 構 築 』 竹 中 千春 訳 岩 波書 店

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