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はじめに 米国と韓国の同盟関係はオバマ ... - 日本国際問題研究所

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はじめに

米国と韓国の同盟関係はオバマ・李明博両政権の下で大いに進展し、2012年末の両国の 大統領選挙を控えた現時点に至ってなお、ワシントン、ソウルのいずれからも同盟への批 判が聞かれないまでに深化している。両国の指導者は伝統的な懸案事項である対北朝鮮政 策における政策的協調を強化しただけでなく、同盟の役割と機能を朝鮮半島の枠内にとど まらないレベルへと引き上げることを約した「米韓同盟のための共同ビジョン」(2009年6月)

の発表(1)、さらには米韓自由貿易協定(米韓〔KORUS〕FTA)の批准までも実現した。これ ら2つの合意は、米韓両国の関心の従来の枠を超えた深まりと協力の拡大を象徴する出来事 であったと言えよう。

東アジア地域秩序に混乱の兆しが生じ、また対北朝鮮関係で緊張が高まるなか、強固な 米韓同盟の存在はオバマ政権の政策担当者にとっての―やや予想外の、ではあるが―

「安定的基盤」として作用することとなった。自己主張を強める中国に対する懸念と、自由 民主党(LDP)から民主党(DPJ)への先例のない政権交代に伴って顕在化した日米同盟内部 の風波への対応に頭を痛めるなかにあって、北朝鮮の武力挑発への対応をめぐり米韓が緊 密な協力を実現したことは、オバマ政権にとっては不幸中の幸いとも言うべき、数少ない 好材料だったのである。その一方で、日米間において沖縄の米軍基地移転をめぐる合意の 実現が頓挫したことは、日米同盟の安全保障ビジョンの拡大の芽を摘んでしまっていた(2)。 しかしながら、ワシントンに対して地域における存在感を示す過程で相対的に増した影響 力と地歩を、韓国が今後いかに活用(内面化)していくのか、あるいは内面化できるのか、

そして新たな傾向を示しつつある北朝鮮の挑発が米韓同盟の地域的役割の範囲を拡大する 動きを阻害するのかについて、確答するのはなお時期尚早であろう。

韓国の次期大統領、そして今年

11

月の米大統領選挙の勝者は、かつてなく安定し、また さらなる進展の兆しを内包した両国関係を引き継ぐことになるが、一方でそこには依然と して種々の課題が埋め込まれており、それらは対応次第でこれまでの米韓関係の成果全体 を揺るがしかねないものでもある。そこで本稿では、米韓関係の進展の成果を、朝鮮半島、

グローバル、そして地域のレベルから概観し、そのうえで、それらの成果に影響を及ぼし、

米韓安全保障関係の堅牢度と方向性をも揺るがしうる課題を挙げ、それぞれに検討を加え ることとしたい。具体的には、①米韓原子力協力協定の再交渉、②米国の再均衡(リバラン

(2)

シング)政策とその米韓関係への影響、③朝鮮半島統一をめぐる米国の立場が米中関係の管 理に及ぼす作用、の3点がこれに該当する。これらは時には相互に矛盾するものでもあり、

またそれぞれが、パートナーとしての韓国の役割に関する米国の政策的志向性と、米国の 他の機能上および地理的目標との間での葛藤を潜在的に内包した課題でもある。

1

李明博・オバマ両政権下における米韓同盟の進展の様相

李明博―オバマ政権は、米韓両国の問題意識のかつてない一致と、経済面、そして朝鮮 半島外における非伝統的安全保障面での米国への協力に対する韓国側の能力および意志の 向上とを背景に緊密な関係を構築した。興味深いことに、これらの関係構築は前任の盧武 鉉―ブッシュ政権期にその緒に就いていた。指導者

2人の世界観はまったく異なりながらも、

相互協力をめぐる共通のビジョンがこの時に胚胎され、李明博―オバマ政権下で成熟し、

花開いたのである。その経緯を詳述することはもとより紙幅の許すところではないが、経 済成長と民主化の結果、韓国は意志と可能性に満ちた潜在的パートナーとして、ありうべ き北朝鮮の挑発から韓国を防衛する、という同盟の主たる任務をも超越したさまざまなイ シューにおいて、米国の前に立ち現われることとなった。両首脳により発表された2009年6 月の「共同ビジョン」はまさにその精華と言うべきものであり、双方が「信頼」「価値観」

「平和」で結び付けられた関係にあることを謳い上げ、グローバル/地域レベルでの安全保 障協力、米韓FTAを通じた両国の貿易・投資関係の深化といった、北朝鮮問題にとどまら ない種々の領域への協力の拡大というアジェンダの方向性を強く後押しする作用を及ぼし た。

1) 北朝鮮:非核化のコンセンサスと方途をめぐる蹉跌

李明博―オバマ政権は、ともに北朝鮮の非核化を朝鮮半島における最重要課題に位置付 け、2009年

4

月の多段式ロケットの発射(失敗)、同年

5月の核実験、あるいはアメリカ人お

よび韓国人の抑留事件など、北朝鮮の種々の挑発行動への対応において足並みをそろえて きた。当初においては、北朝鮮に対して非核化を主要議題とする対話のアジェンダを受容 するよう米韓両国が強く求めたことが、6ヵ国協議の再開―両国により北朝鮮との間で散 発的な接触が試みられていた―を目指すうえである種の障害として作用していたことは 否定しがたい(3)。しかしながら、北朝鮮が、多くの韓国軍人が犠牲となった哨戒艦「天安」

の撃沈事件(2010年

3

月)に加え、朝鮮戦争の停戦以後はじめて民間人の死者を出した延坪 島砲撃事件(同年11月)を引き起こしたことが、北朝鮮の挑発行為に対する共同対応の必要 性を強く両者に認識せしめ、両国の外交レベルでの高位級会合、あるいは北朝鮮に対する 抑止力増強のための米韓合同軍事演習の実施といった動きを後押ししたのである。ただし、

これらの動き、特に米韓合同軍事演習―日本がオブザーバー参加した初の機会でもあり、

また2012年

6

月には正式参加することとなる―は、北朝鮮はもとより、中国からの強硬 な反対に直面することとなった(4)

2009年 4月、北朝鮮が多段式ロケットの発射実験を決行したことは、オバマ政権初期の対

北朝鮮政策の方向性を決定付ける結果をもたらした。実験の直後、オバマ大統領は北朝鮮

(3)

の国際法違反は罰せられるべきとの立場を表明し、国際連合安全保障理事会に核・ミサイ ル計画への関与が疑われる北朝鮮船舶を追跡・検査する権限を各国に与える強力な決議の 採択を迫った(5)。北朝鮮との対話を急ぐよりも、中国の協力獲得を念頭に、地域レベルでの 協調対応を先行させたのである。しかし、この時点(2009年夏)での中国の対応は、やはり オバマ政権の制裁重視の姿勢をよそに北朝鮮との関係強化の道を選ぶ、というものであっ た。

その後、2011年夏までに米国は北朝鮮と数次にわたる接触をもつこととなり、2012年

2月 29日には―金正日の死去という突発事態を経ていたにもかかわらず―両国はそれぞれ

外交声明を発表するに至る。しかし、双方が、それぞれウラン濃縮計画に対する国際原子 力機関(IAEA)査察の受け入れと24万トンの食糧援助の提供を約したこの「合意」は、3月

16日に北朝鮮が国連安保理決議に挑戦するように、新たな多段式ロケットの打ち上げを発

表したことで宙に浮くこととなってしまう。結局、2012年夏の段階で、オバマ政権は、北 朝鮮を説得、また後継者金正恩体制下の北朝鮮との交渉を実現するためのオプションをほ ぼ使い尽くしており、他方で北朝鮮の対南批判のトーンはかつてなく高いものとなってい る。若干の皮肉も交えて表現するならば、米韓両国が、自身の意図、あるいは判断ミスの 結果として、対北朝鮮政策のオプションを減少させたことが緊密な協調関係を維持させる 作用を及ぼした、ということになろうか。ともあれ、米韓とは相反する中国の姿勢と北朝 鮮の挑発行為の継続を背景に、状況を進展させるためには北朝鮮のレジーム・チェンジ(体 制転換)こそが必要との認識は広範に拡散しつつあるが、レジーム・チェンジを公然と追求 することは、当然ながら当面の安定を脅かすことと表裏一体でもあり、北朝鮮情勢の打開 は容易ではない。ただし、米韓両国の対北朝鮮政策における協調の深化が、ほかならぬ北 朝鮮自身の挑発行為によってもたらされたものであることだけは、念頭に置かれるべきで あろう。

2) 米韓同盟:非伝統的安全保障分野へと視野を広げる協力関係

紛争後の秩序回復と開発、核不拡散、テロ対策といった幅広い分野での国際社会の安全 確保に貢献すべく、米韓同盟の役割を拡大することを謳った2009年

6月の米韓「共同ビジョ

ン」の発表は、米韓両国が朝鮮半島に限定されることなく、地域レベル、そしてグローバ ルなレベルへと協力関係を拡大していくうえでの礎石となった。これら新たな分野での協 力関係は、何より韓国側の能力向上、そしてその能力を国際社会における公共財として活 用しようとする韓国側の意志によって実現されたものである。あまりに野心的で、実際に 米韓同盟が「薄く広く」引き延ばされたときにはたして十分な能力を行使しうるのか、ま たその際の優先順位がいかなるものとなるのかについての疑問も呈されているにせよ(6)

「共同ビジョン」には韓国が安定的な世界秩序から享受する利益に対し、国際的な安全保障 の分野で相応の貢献を行なうことが盛り込まれることとなった。

韓国は、朝鮮半島における安全確保というこれまでの問題意識に加えて、自国の利益と 国際的な責任とのバランスという観点から、国際社会における安全保障を自国の防衛政策 における優先事項に位置付け、そこに貢献していくことを決意した。2010年版の「韓国国

(4)

防白書」が「地域の安定的秩序と世界平和への貢献」を、「外部からの軍事的脅威と侵略か らの国家防衛」「平和的統一の原則の支持」とともに防衛政策の主要目標に設定した事実に も、この点はよく示されていよう。これらの活動を支えるため、韓国は海外派遣に専従す る3000名規模の常設部隊を創設し、国会承認を受ける前の段階で

1000

名までの人員を国連 平和維持活動(PKO)に派遣できるよう規定した特別法を通過させるとともに、海外に派遣 される軍関係者の訓練にあたるPKOセンターを設置した(7)。これらは、国際的な安全保障 への貢献を長期にわたり行なうとの韓国側の意志を示す新たな動きと言える。

米韓同盟は、実践的な経験―シナリオ研究に基づく訓練のみによっては検証されがた いもの― を通じて練磨された協力、相互運用の能力からそれぞれに利益を得てきたが、

両国が国防予算の削減圧力に直面するなかで、このような協働の経験は、特定の領域に能 力を制限することのない新たな形の協力関係を構築する契機となる可能性を秘めている。

さらに、米国がアジア諸国との二国間同盟において、同盟国間の横方向のネットワーク構 築に力を入れる構えをみせていることも、韓国が有する多国間枠組みのなかでの活動の経 験を、さらなる協力のための基盤として、いっそう価値あるものとすることになろう。

国際的な安全保障の実現のための能力と意志の向上は、米国のパートナーとしての韓国 の評価を高めており、結果、米国は米韓同盟に価値を認め、国際的なシステムのなかでも 活力と安定性を有するものとしてこれを位置付けるに至っている。国際的安全保障分野に おける韓国の役割が増すことは、経験と能力を深化させていくうえでさらなる利益を韓国 にもたらす。特に、北朝鮮情勢が不安定なまま推移するなかにあって、他国における安定 確保と平和維持のための国際的な活動に必要な能力の涵養は、いずれ必須となるとの見方 も強い。このような理由から、韓国が多くの脆弱国家・破綻国家における活動に参与し、

あるいは紛争後の秩序構築活動に直接的に関与することは、将来において発生しうる北朝 鮮の混乱を管理するための実践的な経験を積む場として機能することとなろう。

さらに、国際的な安全保障に貢献するという韓国の意志は、開発援助分野における関与 の姿勢とも軌を一にしていた(8)。先進国が厳しい経済状況の下で開発支援への支出を軒並み 削減するなか、韓国は2015年までに対外援助総額を2010年水準の

3

倍に引き上げるとの積 極的なスタンスを打ち出していたのである。自身がかつて被援助国であったため、韓国は その直接的な経験を活かしつつ開発とガバナンスの両分野で技術的・人的支援を提供する ことが可能であり、また米国との共同プロジェクト運用経験においても一日の長があるこ とから、両国にとっての援助効果の向上も期待される。国際的な開発援助における協力は、

国際公共財の提供という、共通の価値観に基づく米韓両国の協力に新たな道を開くものと なろう。

ここまでに指摘したとおり、米韓関係のグローバルな領域への拡大は韓国側の能力向上、

そして米韓両国の実務レベルでの協力の視座が共通の課題へと向いたことを背景とするも のであり、またこれら新しい分野における協力は、両国の関係をより活力あるものとする だけでなく、両国の共通の問題意識を朝鮮半島の枠内にとどまらないレベルへと押し上げ、

それを具現化するうえでも重要な役割を果たすものとして期待される。しかしながら、そ

(5)

のような関係強化のビジョンが、肝心のアジア太平洋地域における協力という観点を欠い ていることは、このビジョンそのものに大きな影を落としている。もちろん韓国の環太平 洋合同演習(リムパック)参加はすでに実現しているが、アジア地域の安定という共通の関 心に則して、この地域の安定と繁栄を強化するためのより直接的な協力の拡大という道を 探る努力が米韓両国に求められることとなろう。

3) 米韓

FTA

の批准:米国の対アジア通商政策促進の触媒

李明博―オバマ政権期に進展した米韓の協力関係を特徴付けるものとして、次に挙げる べきはやはり、2007年に当時の盧武鉉―ブッシュ政権の下で交渉に入った後、長きにわた り作業が滞っていた米韓FTAの批准であろう。米韓

FTA

交渉は、初期には政権終盤に入っ て国会との関係に苦慮していた盧武鉉前大統領の躊躇による停頓、またその直後に政治の 季節―

2008

年米大統領選挙―を迎えた米国議会の関心の低下にさらされ、のみならず 世界金融危機と米国の景気後退の結果、米国の最優先課題が国内経済の再建となったこと で、米韓FTAは新たに発足したオバマ政権が背負い込んだ山積みの懸案のなかに埋没して しまっていた(9)。このような状況下で、米国側を相手に李明博大統領がみせた忍耐強く、持 続的かつ柔軟な交渉姿勢はけだし賞賛に値しよう。李明博大統領は2009年

12

月の訪米を捉 えて米韓FTA批准を強くオバマ大統領に働きかけたが、医療保険制度改革案の議会通過に 忙殺されていたオバマ大統領にこれに応える余力はなかった。あまつさえオバマ政権は合 意事項の一部修正と、議会の反発が予想される事項についての再交渉すら求めたのである。

結局、交渉はオバマ大統領のソウル20ヵ国・地域(G20)首脳会談出席(2010年

12月)

を受 けてようやく進展し、米議会対策用の性格が色濃い修正案に合意して妥結に至る。

その後、米韓FTAは米国の債務上限引き上げをめぐる政権と議会の攻防(2011年夏)にお され批准が延期されるといった波乱を経ながらも、李明博大統領の再度の訪米(2011年10月)

による後押しもあって、米・コロンビア、米・パナマ両

FTAとともに議会批准の手続きが

一気に加速し、李明博大統領の努力はついに実を結ぶこととなった。当初の予定よりはる かに遅く、韓国国会(第18代)の任期最終盤にかかった時期に米議会批准がなされたことで、

米韓FTAの国会承認が総選挙(2012年

4

月)を見据えた論争の渦中に巻き込まれるという後 禍はあったにせよ(10)、与党ハンナラ党が過半数を握っていたこともあって最終的に米韓FTA は単独採決によって批准され、2012年

3

月に合意が発効することとなった。

米韓FTAの批准は、双方が相手国に対する市場開放と互恵関係を拡大し、経済的相互依 存を深化させるという点で、両国の協力関係において画期をなすと同時に、環太平洋パー トナーシップ協定(TPP)をめぐる交渉へのオバマ政権の努力に影響を及ぼす点においても、

戦略的な重要性を内包していた。それまでの

FTA

交渉がいずれも議会批准をめぐって停滞 していたことを背景に、TPP関係国(米国以外の

8

ヵ国)の間に米国の

TPPへの熱意に対する

疑念が生じつつあるなかで米韓FTAが批准されたことが、TPP交渉の活性化をもたらし、さ らにはカナダ、メキシコ、日本といった国々の関心を引き付けたのである。米韓

FTAはこ

のように米国の通商政策の潮目を変え、アジア地域におけるハイレベルな合意というビジ ョンへと米国を誘引することとなった。これが世界規模での貿易自由化の新たな呼び水と

(6)

なる可能性も、十分に考えられよう(11)

2

米韓同盟が直面する

3

つの課題

以上にみた李明博―オバマ政権下における米韓同盟の進展の「三本柱」は、両国の協力 関係に新たな視座と活力をもたらし、オバマ大統領をして米韓同盟を米国の対太平洋地域 政策の「要諦」と語らしめるに至っていた(12)。しかしながら、このような進展をみた一方 で、米韓同盟はいくつかの面でなお課題を残している。まず、先述の「共同ビジョン」が 米韓両国の次期政権の下で効力を持ち続けるかについてはいまだ不透明であり、この点は 米韓双方の新指導者の間の人間関係― 一種の「化学反応」― と協力関係の強化に対す る彼らのスタンスに左右される部分が大きい。さらに、双方の指導者がそれぞれの対北朝 鮮政策、朝鮮半島域外での安全保障協力、そして貿易自由化の促進のためのさらなる協力 へのアプローチについて再度意見を交換し、それらを両国の協力関係の深化の基盤とする ことを再確認するステップを踏むことも必要となろう。

そして、米韓同盟にとってのさらなる試練は、米国の対韓政策とグローバル/地域レベ ルでの政策が相互に齟齬を来し、米韓の協力関係の制約要因として作用する可能性のある 分野が少なくとも

3つ存在するという点にある。それらの領域において、将来の米韓協力関

係への影響を決定するのは主として米国側の姿勢であり、問題は米国が韓国を自らの対ア ジア/グローバルな政策における例外として位置付けるか、あるいは米韓関係を従来の地 域的境界と自らのアジア/グローバル政策の制約のなかに押しとどめるか、にかかってい る。言い換えれば、米国がグローバル/地域レベルの政策を進めるうえで韓国に例外とし ての地位を認めるか否かは、米国が韓国に対して付与する相対的価値―米国の他の政策 的課題に対する―の水準を示すこととなるのであり、そこでいかなる決定が下されるか が、米韓関係の緊密度に直接的な影響を及ぼすのである。むろん、その伝に倣うならば、

韓国が自らの政策追求の結果立ち現われた制約を対米同盟の産物として受け入れ、その枠 内にとどまることを志向するか否かを、韓国側が対米同盟の維持に見出す価値のレベルを 示すものと解することも同様に可能であろう。

1) 米韓原子力協力協定

米韓両国は目下、1974年に締結され、2014年に満了となる二国間原子力協力協定の改正 交渉の渦中にある。この協定の下、韓国の原子力エネルギー部門は著しい進歩を示し、結 果、韓国は原子炉の建設に必要な製作技術とプロセスのほぼすべてを習得するに至った。

かつて米ウェスティングハウス社製の原子力発電施設が古

原子力発電所(釜山広域市)

1

号機として提供され、1978年に運転を開始して以来、韓国は外国企業の協力を得つつ

7

基、

そして1999年以降はほぼ独力で4基の原子力発電所を建設し、ついに

2009年にはアラブ首

長国連邦(UAE)との間に韓国製のAP-1400型原子炉提供の契約を締結し、原子力エネルギ ーの国際市場に一歩を記したのである(13)

韓国の原子力エネルギー生産能力の目覚ましい進展は、自国のエネルギー需要の充足と エネルギーの海外依存度の低減をもたらし、韓国は今や原子力の輸出者として、これまで

(7)

培ってきた海外での建設事業の経験と、自国における原子力産業発展の経験とを結合し、

原子力発電施設の主要な輸出国―その輸出先には米国も含まれよう―として地歩を築 こうとしている。ただしそこでネックとなっているのが、原子力発電の過程で生じる放射 性廃棄物の処理に関連した問題―国際的な関心事でもある―であり、これが韓国の原 子力政策とその能力の発展に制約を課している。

韓国では、放射性廃棄物の貯蔵能力は

2016年までに限界に達するとみられ、焦眉の課題

となっている。これに対し、韓国の科学者は、電解還元を用いて有毒な使用済み核燃料・

放射性廃棄物からプルトニウムを分離・精製する「パイロ・プロセス」(乾式再処理)と通 称される再処理技術の研究を推進しており、韓国ではこれを将来の実用化が見込まれる高 速増殖炉での再利用が可能な「クリーンな」プルトニウムを保持しつつ放射性廃棄物の問 題にも対処するための方策と位置付けている(ただし、高速増殖炉に対しては、最終的にはさ らなる放射性廃棄物の増加につながり、また核兵器に転用可能な兵器級プルトニウムの産出につ ながりかねないこの再処理法が核拡散のリスクを高めるとの批判もなされていることは付言する 必要があろう)。

原子力協力協定改正をめぐる米国との交渉において、韓国側は自国の原子力エネルギー 輸出の競争力確保に必須のものであること、また他の輸出国がいずれも再処理/ウラン濃 縮の権利を認められていることを根拠として、米国から供給される核物質を、パイロ・プ ロセスを用いて再処理されたもの、あるいはウラン濃縮によるもの―いずれも自国によ る―に転換する権利を認めるよう米国に求め、他方で米国は核不拡散の観点からそれを 拒否する立場をとっている。韓国側にとっては、これらの権利を認められないかぎり、自 身の放射性廃棄物の処理、高速増殖炉を含む新技術の開発、そして他国への核燃料の供給 が技術的・実際的に制約されることとなり、また米国の他の同盟国―たとえば日本―

や戦略的パートナー(代表格はインド)がそれらの権利を認められていることから、韓国は 自国がこれらを認められないことは産業の育成を制限する差別であると主張し、再処理と ウラン濃縮の権限のさらなる拡大が―その国の信頼性はどうあれ―核兵器への転用が 可能な物質を入手しうるアクターの増加に直結するとの米国側の憂慮との間に衝突を招い ている。

米韓両国が原子力協力協定の改正交渉を開始したのは

2010年のことであるが、巷間伝え

られるところによればすでに交渉は中断状態にあり、両国で新政権が発足する2013年まで は交渉再開の見込みはないとのことである。仮にそれが事実とすれば、米国が締結してい る他の原子力協定のケースに鑑みて、交渉再開から議会への提出・承認までに許される時 間的余裕はごく限られたものとなろう。さらに、米議会内に原子力協定全般を見直し、特 に再処理とウラン濃縮に関する相手国の権利を制限しようとする動きがみられることも、

交渉をより困難なものにすると考えられる。

ただ、米国が原子力エネルギーの生産において圧倒的な地位を占めていた時代がすでに 過去のものとなっていることも事実であり、中国やインドといった国々が米国の影響力の 埒外で原子炉建設を加速させていることは、今日、米国にとって大きな課題となっている。

(8)

これらの国々が、核不拡散への意識が希薄なままに原子炉輸出市場における韓国のライバ ルとして登場する可能性はきわめて高く、この点が、韓国が高い商業的関心を有する一方 で長期的な高レベル放射性廃棄物の貯蔵施設を欠いていることに起因する交渉の困難さを いっそう際立たせているのである。米韓両国ともに協定の失効によって巨大な損失がもた らされることを承知していながらも、現時点において妥協点を探ることは容易ではなく、

なおかつこの問題は、ひとたび政治化されれば、たちまち両国の主要係争事項となりうる だけのインパクトを内包している。交渉の行方は、米国が自身の核不拡散政策に修正を施 して韓国側との利害調整をなしうるか、あるいは米国が核不拡散を優先して韓国の原子力 開発に制限を課す道を選択するのかという、主として米国側の立場に左右されることとな ろう。

2) 米国の再均衡(アジア回帰)政策

米国のアジア地域戦略・政策が米韓同盟における両国の協力関係に影響を及ぼすいまひ とつの領域、つまりその行方次第で米韓同盟の発展の好機にも、制約要因にもなりうるも のとして、米国のリバランス、すなわちアジア重視路線を挙げることができる。韓国はア ジア地域の安定と繁栄を支えるという点において、オバマ政権の再均衡戦略とアジア重視 の姿勢を大いに歓迎したが、その実、実施の過程で米韓両国の摩擦の火種ともなりうる問 題が、そこには内包されているのである。

そのひとつは、米国が広範な地域への兵力の再配置を強調している点である。これは韓 国から東南アジアおよびインド洋への米国のリソースの移動と同義である可能性が高く、

この点は、韓国にとっては3つの側面で影響を及ぼすと考えられる。第

1

に、米国が北東ア ジアにのみ優先順位を与えることなく、アジア太平洋地域全体をカバーすることを念頭に 各地域に兵力を配置する志向性を強めるなかにあっては、米韓両国が

2013年に予定してい

る「駐留国受け入れ支援(ホスト・ネーション・サポート)」に関する交渉は以前よりはるか に困難なものとなることが予想される。韓国の国防当局者の問題意識に照らせば、この動 きはとりもなおさず、米国が韓国に対し、朝鮮半島における米軍のプレゼンス維持を名目 にさらなる予算支出を要求する事態に直結するものとして認識されることとなろう。

第2に、各同盟国に対して水平的協力の拡大を求める米国の再均衡戦略は韓国側の躊躇を 惹起しかねないものであり、特に北朝鮮有事の際に米韓の軍事作戦に対する支援を求めら れることとなる日本との軍事情報包括保護協定締結をめぐって、この問題はすでに顕在化 しつつある。北朝鮮に対する重層的な防衛体制を構築しようとする米国の問題意識は、韓 国との高次の協力関係の促進のみならず、必然的に日本との協力強化―特に後方支援に 関する―を伴うものであり、有事における情報共有と米韓両国に対する兵站部門でのサ ポートの分野における日本のより効果的な参与は、ひとえに日韓両国の相互協力が十全に なされる場合にのみ促進されることとなる。そのため、米国は日韓両国との同盟関係と同 時に、その枠内での日韓両国の協力関係を通じた支援を必要としており、この点は米国が かねてから日米韓の協力関係促進のために、人道支援・災害救助活動分野での海上合同訓 練のほか、ミサイル防衛システムに関する日米の共同研究・開発への韓国側の関与の促進

(9)

などの形で努力を重ねてきたことに表われている。

なお、韓国に対して日本との水平的協力関係の強化を求める一方、米国は韓国の能力の 向上を受けて、地域安全保障確保における韓国の役割の強化を図る道も模索している。現 時点では米韓の朝鮮半島の枠外での協力関係は、主としてアジア太平洋地域外で、そして 世界秩序の安定のために実施されているが、米韓両国は非伝統的領域、機能的な側面にお いても協力しうる可能性を有しており、たとえば東アジア地域内での海洋安全保障なども、

そこには当然含まれえよう。

第3に、再均衡戦略の文脈に照らすならば、米韓

FTA

批准は、TPPへの足がかりをつかん だという意味で、米国の通商政策を大いに促進することとなった。先述のとおり、米韓FTA によって米国は

TPPを次なる高み、アジア太平洋地域の高レベル貿易交渉へと押し上げるこ

とができたのである。ただ、反対派の根強い批判はあったにせよ、米韓FTAは本来、韓国 の中国に対する依存度低減のための方策としての意味を有していた。このような貿易多角 化の観点とも関連して、韓国は現在、中国とのFTA交渉を―日中韓の地域内

FTA

ととも に―進めつつも、他方でTPP交渉には参加していない。このような状況は一方では今後 も韓国を地域の貿易自由化の方向性と水準を決定するうえでの軸として機能させることと なろうが、それゆえに、韓国がTPP、そして北東アジア地域における個別の

FTA

に対してい かなるスタンスを示すかが、米国の再均衡戦略の経済的側面にも直接的な影響を及ぼすこ ととなる。韓国がTPPに参加すれば、東アジア地域における

TPPへの参加の動きはいっそう

加速するものとみられ、それは東南アジアや中国も含んだ多角的かつ高次元の包括的貿易 合意への関心を促進させる触媒として機能することとなろう。

3) 朝鮮半島統一をめぐる米国のスタンス

米国の対朝鮮半島政策と地域レベルのその他の政策との間の相克を内包した第3の領域 は、朝鮮半島統一に関するものである。米国と韓国は件の「共同ビジョン」発表に際し、

朝鮮半島の統一が民主主義・市場経済の原則の下でなされるべきとの見解を示した。これ は米国が公式に朝鮮半島の統一という目標に言及し、またそれに対する支持を表明した最 初のケースでもあったが、他方で中国は依然北朝鮮を幅広い領域で支えることで朝鮮半島 の安定を維持するとの問題意識を貫いており、半島統一に関する米韓の上述のスタンスと の間には明確な齟齬が存在している。

中国が朝鮮半島を戦略地政学的な意味で米国との角逐の場と捉えている限り、中国の朝 鮮半島の「安定」に関するこのような姿勢は、最終的には米韓両国の朝鮮半島統一に対す る目標設定との間に摩擦を惹起することとなる。しかしながら、これと同時に、より広範 なアジア太平洋地域における安定は、今日に至って米中の協力関係―当該地域の安定維 持と不安定の抑止のための―にいっそう左右されるようになっており、米国のジレンマ はいっそう深まっているのである(なお、本稿の主題からは外れるものの、米国がこの齟齬に いかに対処するかが日本の安全保障と日米同盟にも直接的な影響を及ぼす―日本の安全が朝鮮 半島情勢の影響を受け、かつ日本が米中両国によって規定されることのない地域秩序にも大きな 関心を寄せているため―ことは贅言を要すまい)。

(10)

米国の対韓政策と対中政策の間に生じる齟齬は不可避なものではないにせよ、米国が対 韓・対中政策のなかで、朝鮮半島統一に関する問題に対しいかなる優先順位を付すかによ って、米韓同盟のなかでの両国の協力の視座、志向性、そして性質は大きな影響を被るこ ととなる。米国としては中国との間の対立を惹起しかねない形での統一を避ける必要があ り、その一方で、米韓両国がすでに―主として韓国側の文脈に引き寄せられて、ではあ るが―同盟の主たる目標を統一に据えているという事実を捨象するわけにもいかないの である。付言すれば、韓国の当局者は朝鮮半島の統一が地域―中国を含めて―の協力 なくして得られないことを理解しているが、同時に、韓国が、米国との緊密な政策的連携 の文脈を離れては、半島統一に関する中国の姿勢にほとんど影響を及ぼしえないことも熟 知しており、この点も米国のスタンスのもつ重要性をいっそう大きなものとしている。

結  論

米韓同盟はいまや新たな、そして重要な協力関係を包摂したものへと変化し、また経済 面での協力、あるいは朝鮮半島にとどまらない安全保障面での協力など、その範囲も拡散 を続けている。同盟内の協力におけるこれらの新たな軸は、北朝鮮という同盟の主たる目 標を置換するものではないにせよ、同盟の視野と重要性をさまざまな国際安全保障の事象

(かつては同盟の枠内に含まれなかったもの)へと拡大させており、その結果、米国にとって の韓国、そして米韓同盟の国際的位相と重要性はいや増している。このような変化はグロ ーバルな課題に対処するうえでの韓国の貢献度を高め、国際社会において韓国が主導しう る領域を伸張させることとなった。

しかしながら、米韓同盟のこうした進展は米国のその他の政策、とりわけ核不拡散、再 均衡戦略とアジア重視路線といった政策の優先順位に混乱をもたらし、また将来の米中関 係、そして東アジア地域の安定というさらに大きな問題に直接的な影響を及ぼす「朝鮮半 島の安定と政策的目標としての統一との間の優先順位」という齟齬の存在をも浮き彫りに した。2013年に発足する米韓両国の新体制と新たな指導者が真っ先に直面するのは、まさ にこのような難問への取り組みなのである。のちに2012年が米韓同盟の歴史における徒花 として忘却されることとなるか、あるいは画期として長く回顧されることとなるかは、け だしこの点、すなわち新指導者たちがいかにこの問題に対処するか、にかかっていると言 えよう。

(1) The White House Office of the Press Secretary, “Joint Vision for the Alliance of the United States of America and the Republic of Korea,” June 16, 2009(http://www.whitehouse.gov/the_press_office/Joint-vision-for-the- alliance-of-the-United-States-of-America-and-the-Republic-of-Korea).

(2) Emma Chanlett-Avery, William H. Cooper, Mark E. Manyin, “Japan-U.S. Relations: Issues for Congress,”

Congressional Research Service, May 4, 2012(http://www.fas.org/sgp/crs/row/RL33436.pdf).

(3) Emma Chanlett-Avery, Ian E. Rinehart, “North Korea: U.S. Relations, Nuclear Diplomacy, and Internal Situation,” Congressional Research Service, June 29, 2012(http://www.fas.org/sgp/crs/nuke/R41259.pdf).

(4) Mark E. Manyin, Emma Chanlett-Avery, Mary Beth Nikitin, “U.S.-South Korea Relations,” Congressional

(11)

Research Service, May 15, 2012. pp. 12–13(http://fpc.state.gov/documents/organization/191602.pdf).

(5) The White House Office of Press Secretary, Remarks by President Barack Obama, April 5, 2009(http://www.

whitehouse.gov/the_press_office/Remarks-By-President-Barack-Obama-In-Prague-As-Delivered).

(6) Scott Snyder, ed., The U.S.-South Korea Alliance: Meeting New Security Challenges, Lynne Rienner Publishers, 2012.

(7) Ministry of National Defense of the Republic of Korea, 2010 Defense White Paper(http://www.mnd.go.kr/

cms_file/info/mndpaper/2010/2010WhitePaperAll_eng.pdf).

(8) Na Jeong-ju, “Korea to Triple Development Aid by 2015,” Korea Times, November 26, 2009(http://www.

koreatimes.co.kr/www/news/special/2010/06/242_56183.html).

(9) Scott Snyder, “KORUS-FTA and the Need for a U.S. Trade and Investment Policy,” Council on Foreign Relations, September 21, 2011(http://blogs.cfr.org/asia/2011/09/21/korus-fta-and-the-need-for-a-u-s-trade-and- investment-policy/).

(10) “The FTA Vote(and Fight)Stalls for Now,” Wall Street Journal Asia, November 3, 2011(http://blogs.wsj.

com/korearealtime/2011/11/03/the-fta-vote-and-fight-arrives/).

(11) Stewart M. Patrick, “A Revived Trade Agenda?” The Internationalist, October 14, 2011(http://blogs.cfr.org/

patrick/2011/10/14/a-revived-trade-agenda/).

(12) The White House Office of the Press Secretary, “Remarks by President Obama and President Lee Myung-Bak of the Republic of Korea After Bilateral Meeting,” June 26, 2010(http://www.whitehouse.gov/the-press-office/

remarks-president-obama-and-president-lee-myung-bak-republic-korea-after-bilateral-).

(13) Mark Holt, “U.S. and South Korean Cooperation in the World Nuclear Energy Market: Major Policy Considerations,” Congressional Research Service, January 21, 2010(http://www.fas.org/sgp/crs/row/R41032.

pdf).

Scott Snyder 外交問題評議会(CFR)朝鮮半島担当上級研究員

http://www.cfr.org/

[email protected] 原題=U.S. Policy Toward the Korean Peninsula: Accomplishments and Future Challenges

(訳=飯村友紀 日本国際問題研究所研究員)

Referensi

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