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受賞者講演要旨

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Academic year: 2023

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受賞者講演要旨 《農芸化学奨励賞》 31

生体制御におけるアンドロゲンシグナリングと食の相互作用に関する研究

大阪府立大学大学院生命環境科学研究科 

原 田 直 樹

   

食事は,がんやメタボリックシンドロームなどの生活習慣病 の発症と密接に関連し,疾患の発症を正にも負にも調節する作 用を持つ.生活習慣病の発症機構の解明とその予防を目指し,

食事の影響を受けて発症する疾患に関わる細胞内シグナリング としてアンドロゲン(男性ホルモン)シグナリングを捉え,生 化学・分子生物学・生理学・栄養学的見地から研究を行なって きた.これまでの研究成果は,前立腺がんやメタボリックシン ドロームにおけるアンドロゲンシグナリングの役割やその作用 機構の一端を明らかにするとともに,これらの疾患の発症や予 防におけるアンドロゲンシグナルリングと食事・食品因子のク ロストークに関する知見を広げており,以下に紹介する.

1. アンドロゲン受容体(AR)転写活性化機構の解明 男性ホルモンはコレステロールから合成され,AR にリガンド として結合して生理作用を発揮する.AR が男性ホルモン依存 的な転写因子として機能するためには,転写共役因子と呼ばれ る AR と複合体を形成する因子の役割が必須である.AR の転 写活性化機構の全容を解明するために,AR と複合体を形成す るタンパク質の同定とその作用機構の解明に取り組んだ.その 結果,解糖系酵素であるグリセルアルデヒド-3-リン酸デヒドロ ゲナーゼ(GAPDH),Ran結合タンパク質10(RanBP10),タン パク質アルギニンメチル基転移酵素10(PRMT10)が AR の転写 を調節する因子として作用することを見出した.さらに,転写 共役因子として既に同定されていた ARA24/Ran についてもそ の作用機構を同定した.また,AR が持つポリグルタミン鎖と転 写活性化機能の関係の解明に取り組んだ.これらの一連の研究 により,AR の転写活性化機構の一端を明らかにした(図1).

2. 前立腺がんの進行におけるAR機能の解析と食品因子によ

る抑制作用

前立腺がんの発症は食習慣と関係し,食習慣の欧米化が進む 日本では罹患者が飛躍的に増加している.AR を介した男性ホ ルモンの作用は,男性の生殖器官である前立腺の発達と密接に 関係しており,がん化した前立腺上皮細胞の増殖にも強い影響 を持つ.初期前立腺がんに対し,外科的・内科的に AR シグナ ルを抑制するホルモン治療を行った後に再発した去勢抵抗性前 立腺がん(castration-resistant prostate cancer: CRPC)は,予

後不良であり,有効な治療方法がない.CRPC の発症メカニズ ムを明らかにするために,CRPC の発症モデル細胞株を樹立し て解析した結果,C末端領域が欠損した AR(AR-NH1: the N- terminal fragment of AR cleaved in the neighborhood of helix 1 of the ligand-binding domain)が産生されることを見出した.

AR-NH1 はホルモン療法に類似した状態でのみプロテオリシス によって産生され,その特徴からリガンド非依存的に転写活性 化すると推察された.つまり,ホルモン療法後に AR-NH1 が 産生されてリガンド非依存的に機能することが CRPC の発症 に繋がるというメカニズムを提唱するに至った(図2).一方 で,CRPC の発症を予防するために,ホルモン療法後に摂取す べき食品因子の同定を目的として,AR機能抑制を指標にスク リーニングした結果,ブドウに含まれるポリフェノールである レスベラトロールを見出した.レスベラトロールは,野生型 AR だけでなく,C末端領域を欠損した AR の転写活性を抑制 したことから,AR-NH1 の機能も抑制すると考えられた.以上 より,CRPC の発症予防に対する食品因子の有効性について,

そのメカニズムとともに提示した(図3).

1. AR の転写活性化機構.転写共役因子との相互作用や

AR の構造と機能の観点から明らかにした AR の活性化機 構の一端を示す.

2. CRPC発症機構の解明.リガンド非存在下またはアンタ ゴニスト存在下においてプロテオリシスにより切断された AR(AR-NH1)が CRPC発症に関与するメカニズムを示す.

3. 食品因子による AR転写抑制機構.レスベラトロールが AR の転写活性を抑制するメカニズムを示す.

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受賞者講演要旨

《農芸化学奨励賞》

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3. メタボリックシンドロームの発症における男性ホルモン の作用に関する研究

男性における血中テストステロンの低下は,メタボリックシ ンドロームや 2型糖尿病といった生活習慣病の発症を介して心 疾患や脳血管疾患のリスクを高めて寿命を短縮させることが明 らかとなってきた.つまり,長寿には血中テストステロン値が 生理的範囲において高いことが重要であると理解されるように なった.しかし,これら一連のメカニズムについては十分には 理解されていない.そこで,テストステロンの低下から肥満や 2型糖尿病の発症において,摂取栄養との関係を明らかにする ことを目的に動物モデルの構築を行った.その結果,男性ホル モンの減少によって,高脂肪食を摂取させた時にのみ食餌効率

(体重増加/摂取エネルギー)が増加することで内臓肥満や脂 肪肝,血糖値の上昇を発症し,このとき,糞便の減少,腸内細 菌叢の変化が起きることを見出した(図4).さらに,抗生物質 により腸内細菌叢を撹乱すると,去勢により生じた現象がすべ て消失した.現在,AR ノックアウトマウスでも同様の結果を 確認し,AR を介した男性ホルモン作用の低下に起因して腸内 細菌叢が変化する機序について解析を行っている.

2型糖尿病は,栄養素の過剰摂取に起因して,膵臓β細胞に おけるインスリン分泌の低下と肝臓,脂肪組織,骨格筋におけ るインスリン感受性のバランスが崩壊することによって発症す る.西洋人と比較して日本人を含む東洋人では,健常時から食 後高血糖に起因したインスリン分泌能が低いことが特徴であ る.一方で,近年の疫学調査によって,日本人の男性糖尿病患 者ではテストステロンレベルが低いことが明らかとなり,糖代 謝におけるアンドロゲンシグナリングの重要性が提起されてい

る.膵臓β細胞における男性ホルモンシグナリングについて検

討した結果,雄性ラットでは去勢により血中テストステロンレ ベルを低下させるとβ細胞量がコントロールの 3割程度にまで 減少して耐糖能不全を生じることが判明した.このβ細胞の減 少と耐糖能不全は,テストステロンの補充によって完全に回復 した.また,胎児期において雄への性分化を誘導するアンドロ ゲンシグナリングが,雄のβ細胞の発達に関与することを見出 している.近年,生活習慣病の発症に胎児期におけるイベント が関係するという生活習慣病胎児期発症説が注目されており,

胎児期におけるアンドロゲンシグナリングの生活習慣病発症へ の影響する可能性についても検討している.

アンドロゲンは,アナボリック作用をもつステロイドホルモ ンとして知られている.一方で,グルココルチコイドはカタボ リックな作用をもつステロイドホルモンであり,両ホルモンは ともにエネルギー代謝制御に関与する.これらのホルモンが,

それぞれの受容体(AR とグルココルチコイド受容体:GR)に 結合後,標的遺伝子のプロモーターに存在するシスエレメント に拮抗的に結合し,GR がエンハンサーとして AR がリプレッ サーとして機能することで,グルココルチコイドによって誘導

されるβ細胞のアポトーシスをアンドロゲンが抑制することを

見出した.これは,GR と AR が標的遺伝子プロモーターで共 通のシスエレメントに拮抗することで,アンドロゲンのアナボ リック作用とグルココルチコイドのカタボリック作用のバラン スを制御する機構が存在することを明らかにした(図5).

   

アンドロゲンシグナリングの活性化機構の詳細と生理的役割 の解明に取り組み,さらに,食事・食品成分とのクロストーク について分子レベルから個体レベルで解析してきた.これまで の研究成果によって,従来知られているアンドロゲンシグナリ ングの標的組織への直接作用に加え,腸内細菌叢を介した間接 作用という新しい作用形態の存在が明確になってきた.今後,

食事とアンドロゲンシグナリングのクロストークがどのように 腸内細菌叢に影響するかついて明らかにすることにより,エネ ルギー代謝における食と内分泌系のクロストークに関する新た な研究フィールドを切り拓きたい.

謝 辞 本研究は,大阪府立大学大学院生命環境科学研究科 応用生命科学専攻食品代謝栄養学グループで行われたものです.

研究者としての道に導いて頂いた大阪府立大学名誉教授 中野 長久先生,自由に研究を行う機会を与えて頂いた大阪府立大学 教授 乾博先生,研究の基礎をご教授頂いた大阪府立大学教 授 山地亮一先生には,学生時代より今日まで終始ご指導ご鞭撻 を賜りました.心より感謝申し上げます.また,長年にわたり 激励とご助言を頂いた近畿大学教授 重岡成先生,本研究の遂行 にご協力を頂いた足達哲也先生(金蘭千里大学),桑村充先生

(大阪府立大学),井澤武史先生(大阪府立大学)に深謝いたしま す.共同研究者として多大な協力を頂いた東村泰希博士(石川 県立大学),三谷塁一博士(信州大学),小川真弘博士,堀内寛 子博士,北風智也博士をはじめ,本研究の遂行に関わり支えて くれた院修了生,卒業生,ならびに現院生,学部学生諸氏に深 く感謝申し上げます.最後になりましたが,本奨励賞にご推薦 下さいました日本農芸化学会関西支部長の河田照雄先生ならび にご支援を賜りました諸先生方に厚く御礼を申し上げます.

4. 男性ホルモン低下によるメタボリックシンドローム発

症メカニズムの解明.去勢によるメタボリックシンド ロームの発症おける腸内細菌叢の関与を示す.

5. アンドロゲンとグルココルチコイドの拮抗作用の解明.

AR と GR の共通のシスエレメントにおける代償・拮抗様 式の存在を示す.

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