大学生に必要な食の教育について
福島大学学生の朝食実態調査より
中 村 恵 子
1.食のライフステージからみた大学生 食は一生涯にわたって,毎日三度繰り返される 生活の営みであり,食のあり方はその人の生活ス タイルと密接に結びつき,心身の健康状態や生活 の質(QOL)に影響を及ぼしている。食のライフ ステージを考えると,大学生はちょうど食の自立 期にあたる。主たる食生活の管理者・調理者が自 分以外にあって,食生活が営まれている中にいる 状態(家族と一緒の食生活)から,何をどの程度 食べるかを自分で選択・決定し,自分自身で食を 管理しなくてはならない状態(一人暮らしの食生 活)への転換時期である。この食の自立期には,今 まで家族の中で培われてきた食習慣や食の知識・
技術など,食生活を営むための能力が総動員され,
食生活状況に反映されることになる。また,この 時期にどのような食生活を送るかは,これから社 会に出て仕事をしていくとき,新しく家庭を持っ たとき,子育てをしていくときなど,それぞれの 食のライフステージにおいて,食生活のあり方を 規定していくと考えられる。
そこで,本研究では食の自立期にあたる大学生 の食生活状況を調査し,この時期に必要な食の教 育について考察した。調査対象は福島大学学生と し,福島大学における学生教育に成果を反映させ ることが目的である。食生活状況の調査として,こ こでは朝食に着目した。朝食は 20代での欠食率が 高く,「早寝早起き朝ごはん」が標語にあげられる など食育推進のキーワードになっている。朝の時 間の少ないときに何を選択するかは,食に対する 意識や態度をみる際の指標になると考えた。また,
福島大学は郊外にあり周囲に飲食店がほとんどな いので,昼食は大学の生協食堂と購買部での弁
当・パン類に限られてしまうこと,夕食はバイト 先のまかないや寮生の生協食堂の利用など,学生 自身の食意識・態度だけではない要素が反映され ることから,朝食の調査とした。
2.調査の方法
調査対象は福島大学学生とし,2007年後期に開 講された「青年と文化」(学群共通科目,水曜日 1 コマ)の授業に出席した学生とした。授業に用い るワークシートとして,食生活ふり返りシートを 配布し,前日にとった朝食・昼食・間食・夕食の 内容(料理名,食材名,およその分量,食べた場 所,食べた時間,一緒に食べた相手),起床・就寝 時刻,その日の食生活に関するコメント(バイト やコンパなど,通常の食生活とちがう場合の自由 記述)を記入させた。授業後に,学生に反省点・
改善点・授業の感想などを記入させて回収し,出 席状況の把握とワークシートの採点を行った。本 研究では,その中の朝食の部分のみを解析に用い た。調査実施日及び回収数は,10月 17日は 287名
(人間発達文化学類優先科目の Aクラス),10月 24日は 112名(Bクラス)であった。
3.結果及び考察 (1) 回答者の属性
回答者の属性を表 1に示した。人間発達文化学 類の学生が 7割と最も多かった。2セメスター開 講の授業科目であることから,1年生の割合が非 常に高かった。また,ワークシートの氏名より判 断した性別を図 1に示したが,女性が 6割と多 かった。
(2) 朝食の食事内容
ワークシートに記入された朝食内容をもとに,
朝食の摂取状況を 5つのカテゴリーに分類し,男 女別に示した(表 2)。「何か 1品」は,飲み物でも,
菓子類やくだものでも,何かを 1品口にした場合 は,ここに分類した。「いろいろな食べ物」は,「飲 み物+食べ物」よりは多くの飲み物・食べ物を摂っ ていたが,「主食+主菜+副菜」という分類にはあ てはまらないものとした。最も多かったのは,「い ろいろな食べ物(32.1%)」であり,次いで「飲み 物+食べ物(22.6%)」であった。全く何も口にし なかった「欠食(10.5%)」は 1割であった。カイ 自乗検定を行い男女間の差をみたところ 1% の危 険率で有意差があり,残渣分析の結果,男性は「欠 食」が有意に多く,女性は「いろいろな食べ物」が 有意に多かった。
平成 17年の国民健康・栄養調査結果 では,20
〜29歳における朝食の欠食率は,男性 33.1%,女 性 23.5% である。この調査における「欠食」は,「何 も食べない(食事をしなかった場合)」「菓子,果 物,乳製品,し好飲料などの食品のみ食べた場合」
「錠剤・カプセル・顆粒状のビタミン・ミネラル,
栄養ドリンク剤のみの場合」の合計であり,本調 査における「欠食」と「何か 1品」の合計に相当
する。本調査におけるこれら 2つの比率を合計す ると,男性は 34.9%,女性は 22.0% となり,欠食 率は全国調査の値と同程度であった。
食事内容の例をランダムに抽出し,表 3に示し た。「何か 1品」では,おにぎりやチーズトースト など,朝食になりうる食品も含まれていたが,チョ コレートやアイスクリームなどの菓子類だけや,
飲み物だけもみられた。「飲み物+食べ物」になる と,ご飯と味噌汁,トーストとコーンスープのよ うに,朝食としてふさわしい組み合わせも増えた。
すなわち,何も食べない「欠食」よりは,何かを 口にする「何か 1品」へ,そして「飲み物+食べ 物」にまで食事内容が引き上げられれば,朝食摂 取の効果が期待できる。福島大学学生では,4人に 1人がこのレベルに達しておらず,何らかの働き かけが必要と考えられる。
「いろいろな食べ物」や「主食+主菜+副菜」で は,様々な食品があげられた。中でも料理数が多 いのは,家族と同居していると考えられる者(居 住形態を直接たずねてはいないが,一緒に食べる 人として家族があがっている者)や生協食堂を利 用している者であった。いずれも朝食の準備を学 表 1. 回答者の属性
学類 人数(%) 1年生 2年生以上 人間発達 287(71.9) 265 22 行政社会 96(24.0) 93 3 経済経営 16(4.0) 14 2 計 399(100) 372 27
表 2. 朝食の摂取状況
朝食の内容 人数(%) 男 女 性別不明
欠食 42(10.5) 26(17.1) 13( 5.5) 3(30.0) 何か 1品 67(16.8) 27(17.8) 39(16.5) 1(10.0) 飲み物+食べ物 90(22.6) 39(25.7) 50(21.1) 1(10.0) いろいろな食べ物 128(32.1) 36(23.7) 89(37.6) 3(30.0) 主食+主菜+副菜 72(18.0) 24(15.8) 46(19.4) 2(20.0) 計 399(100.0) 152(100.0) 237(100.0) 10(100.0) χ 検定を行った。 ;P<0.01
図 1. 回答者の性別
生自身は行っておらず,自分で朝食を調えるのは,
非常に難しいことがうかがわれる。
また料理の組み合わせをみると,『ご飯,味噌汁,
目玉焼き,サバの味噌煮,りんご』のように,一 見好ましく思えるが,副菜としての野菜の摂取量 が非常に少ないと考えられる例も多かった。健康 日本 21 では,野菜の目標摂取量を一日 350 g以 上としているが,20歳代の摂取量は 239.1 gとい ずれの世代と比較しても非常に少ないことが指摘 されている 。ポテトサラダ,マカロニサラダ,春 雨サラダなどは,サラダという名前がついていて も,料理への野菜の使用量は少なく,脂肪分の高 いマヨネーズも利用することから,注意が必要で ある。朝食においても野菜をしっかりと摂るため には,加熱して体積を減らすか(具たくさんの味 噌汁やスープの利用),塩を加え脱水させて体積を 減らすか(野菜の浅漬けやマリネなどの利用)が 有効と思われる。福島大学の学生は,主食及び主 菜は十分にとれていると思われるので,副菜の野 菜類をどの程度摂ったらいいかを示していく必要
がある。
(3) 朝食の食事状況
朝食を一緒に食べる相手と食べる場所につい て,図 2に示した。一緒に食べる相手では,「1人
(60.9%)」が最も多く,次いで「友人(15.5%)」「家 族(12.8%)」であった。本調査では居住形態につ いてたずねていないが,平成 18年の学生生活実態 調 査 報 告 書 で は,家 族 と 同 居 し て い る 者 が 28.5% であり,本調査の対象者においても 1/4程 度はいると思われる。それに対し,「家族」と一緒 に食べるという回答は 13% と少なく,家族と同居 してはいても,一緒に食べない場合もあると考え られる。ワークシートの中には,通学時間がかか るために家族より早く 1人で朝食を食べるという コメントもみられた。一方で,アパートや学生寮 での一人暮らしであっても,友人と食べる者もい た。この回答者は,次に述べる生協食堂を利用す る者とほぼ重なっていた。1人で摂る食事は,食事 内容も偏り十分な時間もかけなくなることから,
大学で友人と一緒に過ごすことのできる昼食や,
表 3. 朝食の食事内容例
何か 1品 菓子パン,ココア,りんご,チーズトースト,牛乳,おにぎり,メンチカツパン,焼きお にぎり,肉まん,チョコレート,ゼリー,アイス,ドーナツ,スープ春雨
飲み物+食べ物 菓子パンと牛乳,おにぎりと牛乳,ご飯とみそ汁,納豆ご飯と牛乳,シリアルと牛乳,トー ストとコーヒー,ロールパンとインスタントスープ,おにぎりと野菜ジュース,パンとオ レンジジュース,トーストとコーンスープ,おにぎりとお茶
いろいろな食べ物 ・ご飯,味噌汁,目玉焼き,サバ味噌煮,りんご ・黒パン,緑茶,鮭茶漬け
・コンソメスープ,ご飯,ヨーグルト,ウーロン茶 ・ご飯,鮭フレーク,牛乳,りんご
・鶏肉,ご飯,目玉焼き,味噌汁,ヨーグルト ・トースト,牛乳,りんご,オレンジ
・ご飯,ふりかけ,豆腐の味噌汁,目玉焼き ・ふりかけご飯,コロッケ,スパゲティ
・ご飯,味噌汁,漬け物,大根おろし,牛乳,ヨーグルト
主食+主菜+副菜 ・ご飯,納豆,シチュー,コーンフレーク,煮物,プチトマト,牛乳,コーヒー
・ご飯,卵焼き,トマト,カボチャサラダ,白菜の炒め物
・パン,ポテト,サラダ,オムレツ,野菜炒め,ポテトサラダ,りんご
・ご飯,野菜卵スープ,温泉卵,オクラ
・ご飯,ウインナー野菜炒め,半熟卵
・ご飯,みそ汁,サバ味噌煮,卵,オクラ,野菜ジュース
・ご飯,野菜炒め,キャベツのせん切り,カボチャサラダ,ウインナー,にこにこポテト
・目玉焼き,コーヒー牛乳,サラダ,ポテト,ご飯
・ご飯,煮物,大学芋,きゅうりの漬け物
ワークシートの中からランダムに抽出した。
時間の余裕がある週末などには,積極的に誰かと 一緒に食べることを勧める必要があると思われ る。
朝食の摂取場所は,「自宅(65.9%)」が最も多 かったが,「生協食堂(14.5%)」の利用も多かった。
福島大学生協ではミールカードシステム を採用 しており,年額 19万円あるいは 23万円を支払え ば,一日 1,000円あるいは 1,200円まで生協食堂の 利用が可能である。授業のある期間は朝 8時から 夜 8時まで営業しており,朝の時間帯には 1 g=
1円のサラダバイキング・ホットバイキングがあ り,1汁 3菜の朝食セット(300円)なども用意さ れている。ワークシートのコメントに,「家族と同 居しているが通学に時間がかかるので,朝食は生 協食堂で摂った」というものもあったが,学生寮 や大学周辺のアパートで暮らす学生が利用してい ると思われる。前述したとおり,生協食堂利用者 は,友人と一緒に食べる,摂取料理数が多いなど の特徴がみられ,福島大学学生の朝食摂取におい
て生協食堂の果たす役割は大きい。
(4) 朝食摂取と就寝・起床時刻
起床時刻と朝食摂取時刻を図 3に示した。1コ マ目の授業に出ている学生なので,朝食摂取者の 起床時刻は 7時前後であり,朝食摂取時刻は 7:30
〜8:00頃であった。8:30〜9:00の間 に 朝 食 を 摂った学生が若干みられたが,彼らはパンやおに ぎりを買って教室内で授業直前に食べていた。「欠 食」者の起床時刻も図に併記した。「欠食」者の起 床時刻は朝食摂取者より遅い傾向はみられたが,
7時前に起きている者もあり,寝坊して食べられ ない者だけでなく,朝食を摂らないことが習慣化 している者もいると考えられる。
起床から朝食までの時間をみると(図 4),30分 以内で朝食を摂る学生が多く,大学生の調理技術 のレベルを考えると,ほとんど調理はしていない と考えられる。学生の朝食を考える際に,調理の 手間がかからないことも,条件とする必要がある と思われた。
図 2. 朝食を一緒に食べる相手と朝食を食べる場所
図 3. 起床時刻と朝食摂取時刻 図 4. 起床から朝食までの時間
就寝時刻と睡眠時間を図 5に示した。0時から 1時までの間に就寝する者が最も多く,夜型の生 活がうかがわれた。睡眠時間は「6時間(30.7%)」
「7時間(28.4%)」が多かった。ワークシートの中 で,夜食を食べていたものをランダムに抽出し,表 4に示した。夕食時刻は 18時から 20時ごろであ るが,家族と同居している者は,果物などをデザー トとして食べたと思われる。アイスクリームや
ケーキ類,お菓子などが,夜食としてあげられる ことが多かった。また,バイトの後に居酒屋・
ファーストフード店・ラーメン店・友人宅などで 夜食を食べるケースもみられた。夜食の内容は,朝 食時の食欲に影響を及ぼすことから,バイト等で 食事時間が不規則になる日の食事の摂りかたに注 意する必要があると考えられた。
図 5. 就寝時刻と睡眠時間
表 4. 夜食の食事内容例
夕食時刻 夜食時刻 夜食の内容(夜食の状況)
19:00 22:00 ヨーグルト
19:30 23:00 ハッシュドビーフ,おにぎり,みそ汁(友達と合宿所で)
20:40 23:00 アイスクリーム 18:30 23:30 カップラーメン
19:30 21:00 アーモンドチョコ,せんべい,いちごミルク 18:40 0:10 食パン,ポテトチップス
19:00 21:30 チーズケーキ 18:30 20:30 柿とりんご(家族と)
18:00 21:00 カップ麺(夕食は調理パン)
17:30 21:00 焼きそば,コーラ
19:20 22:30 鍋,ジュース(先輩の家で友人と)
18:30 21:30 ラーメン(先輩と外食)
17:30 22:00 マロンムース(バイト先で)
19:30 20:30 アイスクリーム 19:30 0:00 トースト 17:30 21:30 プリン 19:30 21:00 バームクーヘン
19:30 21:00 ミカン,ヨーグルト,梨(家族と)
ワークシートの中からランダムに抽出した。
4.大学生に必要な食の教育について (1) 食の教育の現状について
学校教育における食に関する教育としては,小 中学校における給食指導と,教科としては家庭科
(小学校「家庭」,中学校「技術・家庭」,高等学校
「家庭」を指す)が主となる。家庭科では,「実践 的・体験的な活動を通して,……家族の一員とし て生活を工夫しようとする実践的な態度を育て る。(小学校)」「実践的・体験的な学習活動を通し て,……課題をもって生活をよりよくしようとす る能力と態度を育てる。(中学校)」「……生活に 必要な知識と技術を習得させ,男女が協力して家 庭や地域の生活を創造する能力と実践的な態度を 育てる。(高等学校)」と,実践的・体験的な活動 を通して,生活に役立つ実践的な態度を育てるこ とを目標としている。教科の内容をみても,栄養・
食品・調理から,食文化や食習慣など基本的な事 項を扱い,これらの内容をしっかりと学習すれば,
かなりの知識や技術が身につくと考えられる。し かし,家庭科で扱う領域は,衣食住,家族や福祉,
消費生活など広範囲にわたり,食生活の学習や調 理実習にかけられる授業時数は少なく,十分に学 習されているとは言い難い。
家庭では,毎日食生活が営まれている。家庭に おいて食を学ぶ機会があれば,実践的な判断や知 識・技術を身につけることはできるが,子どもの 手伝いの頻度は学校段階が上がるに従って減少 し ,食生活の営みに直接触れたり参加する機会 は非常に少ない。また,家庭における食の知識や 技術,意識や態度も低下しており ,家庭による食 の教育力に大きな期待はできない。
そこで,食の自立期にあたる大学生に対しては,
学生自身が必要と感じるような,すぐに役立つ実 践的な知識と技術について,再教育する必要がで てくる。
(2) 朝食実態調査より
前述した福島大学学生の朝食実態調査より,大 学生における食生活の特徴的な傾向をまとめる と,以下のようになる。
一つは,「食品摂取の量的なバランスに対する知 識が必要である」ことである。朝食の食事内容(表 3)でもみられたように,生協食堂のバイキングで 多くの料理を摂取してるにもかかわらず,栄養素 バランスが悪い食事が多く,必要な食品の量的な 把握ができていないようである。1日分の食事量 については,中学校ではポイント数で,高等学校 ではグラム数で学習するが,料理の見た目のかさ として,把握する必要があると考えられる。
一つは,学生の「食事は手作りするのがいいと いう思いこみがある」ことである。今回の調査の 対象者のほとんどは 1年生であり,「大学生活ス タート時には自炊を頑張ろうと思ったけれど途中 でくじけた。授業をきっかけに自炊を頑張りた い。」という授業後の感想が多かった。朝食を食べ るために自炊するというのは,学生の現状を考え ると,食材料の保存方法がわからない・調理の技 術的レベルが低い・調理に時間をかけられないな ど,非常にハードルが高い。何も食べない「欠食」
者は,まず何でもいいから口に入れること,「何か 1品」を食べられるようになったら,そこに飲み物 をつけて「飲み物+食べ物」とすること,そして 炊飯器のタイマーで炊いたご飯,冷凍ホウレンソ ウを入れたインスタントみそ汁,納豆や温泉卵の ように,加工食品を上手に利用して,「主食+主 菜+副菜」の形をとった食事を心がければよい。そ の上のレベルとして,手作りの朝食がある。自炊=
手作りと考えるのではなく,半歩先の朝食を心が ければ実践しやすいと思われる。
大学生ならではの特徴として,「生活が不規則で ある」があげられる。週に数日アルバイトや部活 が入っていると,その日だけ食事が不規則になり,
夜遅くにバイト先でのまかないを食べたり,部活 後に夜食を食べたりしている。夕食の時間がとれ ない場合には,バイトや部活前に穀類をしっかり と食べ,帰宅後に野菜をメインとした軽食などが 好ましいとされていることも,伝える必要があろ う。
最後に,他の人と一緒に食事をとる「共食の機 会が少ない」ことである。1人で食べる食事では,
どうしてもあり合わせの食物に偏って食事内容が 貧弱になり,栄養素摂取バランスも崩れがちであ る。相手との会話もないので,早食いして過食傾 向となる。また,食事を通して他の人とコミュニ ケーションをすることにより,「楽しい」「おいし い」を共有したり「やすらぎ」を得たりすること ができる。一人暮らしではなかなか共食の機会を 作るのは難しいが,持ち寄りパーティーやお鍋・
鉄板焼きなどは,積極的に勧めたい。
(3) 大学生に必要な食の教育について
以上より,大学生に必要な食の教育は,実践的 な知識と応用範囲が広い技術ではないかと考え る。
栄養素の摂取バランスについては,料理の概量 で把握できる能力が必要である。その観点からは,
一昨年に出された食事バランスガイド は料理 の皿数で示されており,必要な食事量を把握しや すいと思われる。ただし,冷や奴や納豆なども「主 菜」に分類されており,私たちの感覚と若干ずれ る部分もあり,食生活の診断に応用するにはある 程度の学習が必要である。足立らは,お弁当箱を 使った量的把握方法を提示している 。お弁当箱 の容量(例えば 700 ml)を 1食に必要なカロリー 数(700 kcal)にあわせ,主食 3:副菜 2:主食 1の 面積で詰める方法である。これであれば,自分に 必要な食事のおおよその量を把握することができ ると考えられる。
栄養摂取は 3〜4日の食事でバランスがとれて いればいいということも伝える必要がある。中高 の家庭科における献立学習では,栄養素の摂取バ ランスを学習するために食事を 1日の単位で考え るが,実際は数日の幅で調整すればいい。ファー ストフード店で高脂肪・高糖分の食事をしたり,居 酒屋で飲酒しながら食べるのは,一日に必要なエ ネルギー量を超えてしまうので「悪い」と考える のではなく,そういう食事をしたらその後の 2〜3 日で平均化できるように,足りなかった食品の摂 取を心がければいいのである。
食品の選択と購入においては,日付表示(消費 期限と賞味期限の区別)や各種マーク・表示の読
み方,生鮮食品の鮮度判定の仕方,購入した食品 の適切な保存方法の知識が必要である。1人暮ら しの場合,安売りの大根を 1本買うよりも,多少 割高でも大根 1/4本の方が利用しやすく,食べ方 がわからない・食べきれない・保存方法がわから ないので捨ててしまうということは少なくなる。
食品を購入したら,時間のある週末などに下調理 までしておくと,日々の食事に利用しやすい。例 えば,葉物野菜はゆでたあと切って冷凍する,ね ぎは刻んでタッパウエアに入れて冷凍する,ダイ コン・ニンジン・キャベツなどはみそ汁の具の大 きさに切って保存する,などである。
調理においては,1人分の料理を作るのは非常 に難しいことであると,まず自覚させる必要があ る。学生からは,「カレーを作ったけど大量にでき てしまい,何食も続いて飽きた」という話をよく 聞く。1人分の調理は,用いる材料も少なく調理効 率も悪い。そこで,途中まで調理して取り分ける 料理方法を勧めたい。例えば,ジャガイモ・ニン ジン・タマネギ・肉をスープで煮込み,そこから 1食分を取り分けてルーを入れてカレーライス,
1食分はルーを入れてクリームシチュー,1食分は みそを入れて豚汁,1食分はしょうゆとみりんを 加えて肉じゃがとする料理方法である。
学生の生活を考えると,朝起きてすぐに,また 帰宅後すぐに食事をしたい場合も多く,電子レン ジや IH 調理器などは便利な調理機器となる。し かし,これら調理機器については学校教育の中で 学習する機会がないため,失敗も多い。オーブン トースターや炊飯器も本来の目的以外の様々な調 理にも応用できるし,鍋にザルをセットして,下 で煮物・上で蒸し物をしたり,フライパンの半分 で炒め物・半分でホイル焼きなどをする工夫もあ る。調理機器を便利に使う技術も伝えていきたい。
なによりも,最低限の調理技術を身につけさせ る必要性を感じる。例えば,りんごの皮むきがで きる程度の包丁技術,カレーと野菜炒めだけでな く,煮物や漬け物など手法の異なる 3〜4品の基本 的な料理技術を,しっかりと身につけさせたい。最 低限の調理技術があれば,自分の工夫で様々な料
理に応用できるし,加工食品だけで食事を調える ときもそれほどおっくうに感じないと思う。
最後に,かたづけについての知識や技術もきち んと再教育する必要がある。例えば,汚れ別に食 器を分ける,ソースなど皿の汚れは掻き落として 流さない,ご飯茶碗は水につけてから洗う,台所 洗剤はつけすぎない,などである。今までの食の 教育は,作って食べるところを主として扱ってき たが,今後は地球環境に配慮した片付けの仕方が,
非常に重要になると思われる。
以上の実践的な知識・技術に加え,食生活にお ける賢い消費者であるために,大量に発信さえる 食の情報に惑わされず,提供される情報を正確に 読み取る能力や,日本の食料自給率や地球環境に 配慮し,購入・消費・廃棄の仕方を考え実行して いく実践力などについても,教育していけたらと 思う。
平成 17年に食育基本法が施行されてから,幼稚 園・保育所ではさまざまな実践が試みられている。
福島県内の小学校・中学校・高等学校・特別支援 学校には,平成 20年度より校務分掌として食育推 進コーディネーターが位置づけられ,学校全体で 食育に取り組む体制が作られた。これから食育を 受ける子どもたちに対し,現在の大学生は学校教 育の中で食育を受けなかった最後の世代となる。
これから次世代を育成する親の立場となる大学生 に対し,授業等を通じて少しでも食に関する教育 ができればと願う。
(2008年 4月 14日受理)
引用文献・参考文献・HP等
1) 厚生労働省 HP:「平成 17年度 国民健康・栄養調査 の概要」(http://www‑bm.mhlw.go.jp/houdou/2007 /05/h0516‑3a.html)
2) 厚 生 労 働 省 HP:「健 康 日 本 21」(http://www.
kenkounippon21.gr.jp/)
3) 福島大学 :「平成 18年 度 学 生 生 活 実 態 調 査 報 告 書」,p.8,2007年
4) 福島大学生協 :「福島大学・入学準備ガイドブック 2008年度版 vol.5食生活を考える」,2008年 5) 文部省 :「小学校学習指導要領解説 家庭編」,開隆堂
出版,p.11,1999年
6) 文部省 :「中学校学習指導要領(平成 10年 12月)解 説 ―技術・家庭編―」,東京書籍,p.45,1999年 7) 文部省 :「高等学校学習指導要領解説 家庭編」,開隆
堂出版,p.19,2000年
8) Benesse教育研究開発センター :「第 1回子ども生活 実態調査基本調査報告書」(http://benesse.jp/berd/
center/open/report/kodomoseikatu data/2005/
index.shtml)
9) 岩村暢子 :「変わる家族 変わる食卓」,頸草書房,
2004年
10) 農林水産省 :「食事バランスガイド」(http://www.
maff.go.jp/food guide/balance.html)
11) 足立己幸・針谷順子 :「3・1・2弁当箱ダイエット法」,
群羊社,2004年
Food Educat i on f or Uni vers i t y St udent s
⎜⎜Questionnaire Survey on the Breakfast of Students at Fukushima University⎜⎜
NAKAMURA Kei ko
The questionnaire survey was carried out to consider the content of food education for university students. As a result,about 10% of t he students at Fukushima University did not eat breakfast. About 30% of the students were found to eat“Various foods”as breakfast. Bedtime hour was late,and there were some students who at e the midnight snack. It is necessary to educate students,
1. to know about size of a meal and balance of the food.
2. to prepare the meal by using food on the market. 3. to know what meal is suitable for late supper.
4. to make the chance to eat with other people as much as possible.