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定額の保険料は常にモラルハザードを引起すか?

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Academic year: 2023

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険である医療保険,年金保険,介護保険等の公的セクターを保険者としたものが,第一に挙 げられる。さらに,様々な事故の被害者救済ためにその手配が義務化されている責任保険も 公共政策に用いられる保険といえる。具体的には,交通事故対策の自賠責保険,原子力事故 対策の原子力保険,航空事故対策の航空保険,タンカーの油濁事故対策の船主責任保険,客 船事故対策の船客傷害賠償責任保険などの民間保険会社を保険者とした責任保険である。

ところで,このように公共政策に用いられる保険の負の効果としてのモラルハザードは,

海外において強調されてきた。モラルハザードとは,保険料が被保険者のリスクを適切に反 映しないことから,付保によって被保険者の行動が変化することである1。ほとんどの場合 は,保険の存在によって,被保険者の防災・減災活動が低下し,その結果,事故の発生頻度 や損害額が増加してしまうことをモラルハザードと称している。たとえば,米国における自 賠責保険の保険金額が少額であることの要因の1つは,モラルハザードであると考えられ ている。

このようなモラルハザードの負の効果は,モデルを用いた解析的な分析において顕著に現 れる。しかし,これまでモラルハザードの分析に用いられてきたモデルには,被保険者の資 産制約が考慮されてこなかった。そこで,本論では,被保険者の防災・減災活動を一切反映 しない定額保険料の保険2について,被保険者の資産レベルをも変数としたモデルを用いて モラルハザードの分析を行なった。

2. 分析方法

以下のようなモデルを構築した。被保険者3の初期資産を ,防災・減災活動に要する費用 を ,定額保険料を とすると,事故が発生しないときの被保険者の資産は

となる。事故発生時の損害額を 4 ,支払われる保険金を 5とすると事故発生時の被保険 者の資産は である。被保険者にとって負の資産は存在しないこ とを考慮し,事故発生確率を 6 とすれば,被保険者の資産の期待値は次のようになる。

1 モラルハザードの解析的な分析については,桑名(2014「債務免責者問題の解決策としての責任保険 の効果保険の経済学的分析を通じて『保険学雑誌』第626号,pp.71-92 を参照されたい。

2 社会保険としての医療保険は主たる保険料算出基礎が被保険者の所得であるので,本論に言う定額保険 料の保険に該当する。

3 本モデルでは保険契約者と被保険者は同一であるとする。

4被保険者は投じる防災・減災活動費の多寡によって,損害額をコントロールできるがその効果は逓減す

0 " 0

(2)

3. 結果と考察

図1は,初期資産の変化に伴い,どのように防災・減災費用が変化するかの一例を示した ものである。実線が保険なしの場合で破線は保険ありの場合である。いずれの場合であって も,初期資産の増加とともに防災・減災費用は増加し,ある一定の初期資産で一定値に飛び つく。保険がある場合は点A⇒点Bへと,保険がない場合は点C⇒点Dへと飛びつくこと となる。この不連続な飛びつきは,被保険者の資産制約を勘案したことから生じたものであ る。資産制約を考慮しない分析を図1にて説明すれば,点Bと点Dにおける防災・減災費 用を比較して,点 D のそれが低いことからモラルハザードが生じていると判断していたと いえる。

ところが,点Bと点 D 間の資産レベルにおいては,明らかに実線よりも破線の方が高い 位置にあること,つまり,定額の保険料の保険であっても,モラルハザードを生じさせない ばかりか,逆に,防災・減災活動を改善する場合があることが,本論の分析より明らかにな った。このことは,公共政策に使われる保険の保険料が被保険者の防災・減災活動を反映し ない場合であっても,一律にモラルハザードが生じると判断することが必ずしも正しくな いことを示している。さらに,生活保護などの税金を原資とした社会保障のモラルハザード についても,定額保険料がゼロの保険とみなして本論の分析を応用できる可能性がある。

C D

B

A

1 初期資産と防災・減災費用

(3)

1

定額保険料は常に

モラルハザードを引起すか?

関西大学 社会安全学部 桑名謹三

日本保険会 2017年度 関西部会

被保険者の資産制約を考慮した分析

2017/11/17

問題の所在と研究の目的

• 社会保険(医療保険,年金保険,介護保険等)や様々な責任 保険(自賠責保険,航空保険,原子力保険等)が公共政策の ツールとして用いられている。

• それらの保険がもたらす負の効果としてのモラルハザードが,

(特に海外において)強調されてきた。

• たとえば,米国の自賠責保険の保険金額が少額である理由 やオバマケアに対する反論もモラルハザードを大きな根拠と していると考えられる。

• 特に経済モデルを用いた分析では,モラルハザードの負の 効果は顕著になる。

• ただし,これまでのモラルハザードの分析では,被保険者の 資産制約が全く考慮されていなかった。

• 本論では,被保険者の資産制約を考慮した場合にもモラル

ハザードの効果が顕著となるかどうかを把握することを目的

とする。

(4)

3

分析の手法

• 被保険者の資産制約を考慮した経済モデルを用い て解析的な分析を行なった。

• 分析の対象となる保険は,被保険者の防災・減災努 力を一切反映しない定額の保険料が設定されてい るものとした。

• たとえば,社会保険の医療保険の保険料は,被保 険者の所得にリンクするものの,被保険者の健康増 進のための行動には一切関係なく決定される。

• 自賠責保険の保険料もドライバーである被保険者 の事故歴等防災・減災努力を一切反映しない。

2017/11/17

日本で手配が義務化されている責任保険( 1

4

保険名 保険者 加入者 根拠法 No Loss

No Profit 自賠責保険 民間 自動車の運航

供用者

自賠法

(付保の義務化)

原子力損害賠償 責任保険

民間 原子力事業者 原賠法

(付保の義務化)

×

船主責任保険 民間 タンカーのオー ナー

油濁損害賠償保障法

(付保の義務化)

×

航空賠償責任保 険

民間 航空運送事業 者

航空法

(業務改善命令)

×

LPガス事業者賠 償責任保険

民間 LPガス事業者 液化石油ガスの保安 の確保及び取引の適 正化に関する法律

(認可要件)

×

船客傷害賠償責 任保険もしくは船 主責任保険

民間 一般旅客定期 航路事業者

海上運送法

(付保を命ずることが できる規定)

×

(出所)報告者作成。

2017/11/17

(5)

日本で手配が義務化されている責任保険( 2

5

保険名 保険者 加入者 根拠法 No Loss

No Profit 旅行業者賠償責

任保険

民間 旅行業者 旅行業法

(改善命令)

×

自動車保険 民間 旅客自動車 運送事業者

道路運送法

(改善命令)

×

ハンター保険 民間 ハンター 鳥獣の保護及び狩猟の 適正化に関する法律

(認可要件)

×

自転車保険 民間 自転車の運 転者

兵庫県・滋賀県・大阪 府の条例

(付保の義務化)

×

労災保険(社会保 険)

国 労働者を使 用するすべ ての事業者

労働者災害補償保険 法

(付保の義務化)

(出所)報告者作成。

2017/11/17

法と経済学とは

• 従来の経済学は制度を所与のものとしたが,新制度 経済学派(neo-institutional economics)は制度そのも のも変更しうるとして分析の対象とする。

• 新古典派の経済学と同様に解析的な分析を行なう。

• また,計量経済学的な分析も行なう。

• 法と経済学( law & economics )は,分析の対象とす る制度を法とした新制度学派に属する経済学である。

• 法と経済学の研究によって,保険に関する数多くの 知見が得られている。

• モラルハザードに関する理論もその中の 1 つといえる。

• また,資産制約によって経済主体の行動が変化する

ことに起因する問題が法と経済学によって初めて指

摘された。

(6)

7

Contents 1. Introduction

2. Liability and Deterrence: Basic Theory

3. Liability of Firms

4. Factors Bering on the Determination of Negligence

5. Causation and Scope of Liability 6. The Magnitude of Liability: Damages 7. Other Topics in Liability

8. The Allocation of Risk and Theory of Insurance

9. Liability, Risk-bearing, and Insurance: Basic Theory 10.Liability, Risk-bearing, and

Insurance: Extensions to the Basic Theory

11.Liability and Administrative Costs 12.Liability versus Other Approaches to

the Control of Risk 13.Critical Comments Shavell, Steven (1987), Economic

Analysis of Accident Law, Harvard University Press.

8

モラルハザードとは

• 保険契約が締結された後で,被保険者の防災・減災 行動の変化に対応して保険料等の保険条件を保険者 が変化させないとき,

• そのことを被保険者が知ったうえで,被保険者の防 災・減災行動を変化させることをモラルハザードという。

• ほとんどの場合,保険契約によって,被保険者の防 災・減災活動が減退することをモラルハザードという。

• 保険の実務家が使うモラルリスクは犯罪行為であるが,

モラルハザードは,被保険者の合理的な行動の結果 生じるものであって,悪いことではない。

2017/11/17

(7)

9

モラルハザードのイメージ

2017/11/17

防災・減災費用

保険金額

資産制約とは

• 経済主体にとって,負の資産が存在しないことを勘案した分 析が資産制約を考慮した分析である。

• 株式会社の所有者が有限責任であることから生じる問題(債 務免責者問題;judgement proof problem)の分析が代表例で ある。

• 資産レベルが低い主体は,経済学的に最適な行動をしないこ とから,資源の最適配分が達成されず厚生損失が生じるとい う理論である。

• 海外の政策論においては,レクシスの原則を満たすような保 険の手配を資産レベルが低い経済主体に義務付けることに よって,債務免責者問題が改善されるとしている。

• 本論の文脈で言えば,資産制約を考慮すると,被保険者の初

期資産や保険金額が,被保険者が採用する防災・減災費用

に影響を与えるということである。

(8)

11

資産制約がある場合のイメージ

2017/11/17

防災・減災費用

初期資産もしくは保険金額

12

モデルの概要

2017/11/17

文字 概要

被保険者の初期資産。ただし,被保険者は,初期資産にて 防災・減災費用と保険料を負担できるものとする。つまり,

である。

事故が発生しないときの被保険者の資産 事故が発生したときの被保険者の資産

被保険者の初期資産 を増加させていったときに,被保険 者が採用する防災・減災費用が不連続に増加する。そのと

きの初期資産。つまり, である。

被保険者の防災・減災費用

がゼロ以上であるときに被保険者が採用する防災・減災

費用(= を最大化する防災・減災費用)

(9)

13

モデルの概要

2017/11/17

文字 概要

が負であるときに被保険者が採用する防災・減災費用

(= を最大化する防災・減災費用)

保険料(定額とする)

保険金(=保険金額)

損害額 ( ′ 0 , “ 0 )

事故発生確率 ( ′ 0 , “ 0 )

がゼロ以上であるときの被保険者の期待資産 が負であるときの被保険者の期待資産

の最大値(=

, ) の最大値(= , )

, のイメージ

(10)

15

モデルの概要

2017/11/17

……(1)

…… ( 2 )

1

……(3)

1 0 1

……(4)

16

モデルの概要

2017/11/17

被保険者の最適化行動

A) 事故発生時の資産がゼロ以上( 0 )という制約 条件の下で を最大化するような防災・減災費用

)を求める。

B) 事故発生時の資産が負( 0 )という制約条件の 下で を最大化するような防災・減災費用( )を求 める。

C) 上記で求めた の最大値 と の最大値 を比較する。

D) の方が大きければ,防災・減災費用を

とす る。

E) の方が大きければ,防災・減災費用を とする。

(11)

17

被保険者の最適化のイメージ

2017/11/17

モデルの性格 事故発生時の資産がゼロ以上のとき

• 0

1 ′ ′ 0 ……(5)

であるから, は,被保険者の初期資産 に依存しない。

• (5)式の両辺を , で全微分すると

’’ ’’

0

……(6)

となるから,保険金額が増加すると, は減少する。

⇒モラルハザードが生じる。

(12)

19

モデルの性格

2017/11/17

事故発生時の資産が負のとき

• 0

′ 1 0 ……(7)

であるから, は,被保険者の初期資産 によって変化する。

• (7)式の両辺を , で全微分すると

’’

0

……(8)

となるから,初期資産 が増加すると, は増加する。

• 保険の存在によって,初期資産が から に減少することにな る。つまり,保険があるときの , の曲線は,保険がないときの

, の曲線を右に だけシフトしたものとなる。⇒モラルハザードが 生じる。

20

モデルの性格

2017/11/17

の存在について

だから,

1

……(9)

• 1 だから,包絡線定理を用いて

1

… …(10)

が得られる。

• (9)式,(10)より,ある初期資産 において, なら,ただ1 つの が存在することが分かる。

(13)

21

モデルの性格

2017/11/17

と保険金額の関係

• 定義より, のとき, である。

• したがって,

1 ……(11)

となる。

• (11)式の両辺を, , , , で全微分すると,

1

… …(12)

が得られる。

• (12)式より,保険金額が大きくなれば, が小さくなることが分かる。

モラルハザードの現れ方

資産の状況 モラルハザードの状況

①事故時の資産がゼロ以上 • 保険金額が増加すれば,防災・

減災費用は減少する。

• モラルハザードあり。

②事故時の資産が負 • 保険料が増加すれば,防災・減 災費用は減少する。

• モラルハザードあり。

• 保険料がゼロならモラルハザー ド無し。

【上記以外のモラルハザードの変化】

 保険によって,上記の①と②の境界となる初期資産 が増加す る。

 そのため,付保によって,防災・減災費用が増加するような被保

険者の初期試算レベルが存在することがある。

(14)

23

モラルハザードの現れ方 (保険料有りの場合)

2017/11/17

A B

C D

24

モラルハザードの現れ方 (保険料無しの場合)

2017/11/17

A B

C D

(15)

25

まとめ

2017/11/17

• 資産制約を考慮した分析によれば,これまでは,必ずモラルハ ザードが生じるとされていた定額保険料の保険においても,モ ラルハザードが生じないばかりか,被保険者の防災・減災費用 が改善する場合があることが分かった。

• このことは,日本の自賠責保険や社会保険である医療保険が 必ずしも,経済学的な厚生損失を生じさせるというわけではな いことを意味する。

• 保険料をゼロとした場合には,モラルハザードの生じる度合い が低くなることも分かった。

• このことは,そもそも,保険という手法を用いずに税等を用いた 政策の方が厚生損失が少なくなる可能性があることを示してい る。

• つまり,経済学的な厚生損失を最小化するという視点だけに立 てば,公共政策に用いられる保険は,レクシスの原則を満たす ように設計されたものに限定する方が好ましいかもしれない。

参考文献( 1

• Boyer, Marcel and Jean-Jacques Laffont (1997), “Environmental Risks and Bank Liability,” European Economic Review, Vol.41, pp. 1427-1459.

• Dari-Mattiacci, Giuseppe and Gerrit De Geest (2006), “When will judgment proof injurers take too much precaution?,” International Review of Law and Economics, Vol.26, pp. 336-354.

• Feess, Eberhard and Ulrich Hege (2003), “Safety Monitoring, Capital Structure, and “Financial Responsibility”,” International Review of Law and Economics, Vol.23, pp. 323-339.

• Jost, Peter-J.(1996), “Limited Liability and Requirement to Purchase Insurance,”International Review of Law and Economics, Vol.16, pp. 259- 276.

• Pitchford, Rohan (1995), “How Liable Should a Lender Be?,” American Economic Review, Vol.85, pp. 1171-1186.

• Polborn, Mattias (1998), “Mandatory Insurance and the Judgment-Proof Problem,” International Review of Law and Economics, Vol.18, pp. 141-146.

• Shavell, Steven (1986), “The Judgement Proof Problem,” International Review of Law and Economics, Vol.6, pp. 45-58.

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参考文献( 2

27

2017/11/17

• Shavell, Steven (2005), “Minimum Asset Requirements and Compulsory Liability Insurance as Solutions to the Judgement Poof Problem,” RAND Journal of Economics, Vol.36, pp. 63-77.

• Skogh, Göran (1991), “Insurance and the Institutional Economics of Financial Intermediation,” The Geneva Papers on Risk and Insurance , Vol.16, pp. 59- 72.

Referensi

Dokumen terkait