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政策分析の焦点 20-3 - GRIPS

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政策分析の焦点

20-3

米中対立下の

WTO

改革の本質について1

2020

12

西脇 修

政策研究大学院大学 政策研究院 特任教授・参与

I

.始めに

WTO

は、2020 年

10

月、次期事務局長選出についても合意ができず、トップ不在 が続く状態になっている。報道によれば、中国を含む多くの加盟国が支持したナイジ ェリアのオコンジョイウエアラ元財務相に対して、米国が反対したとある2。事務局長選 びにも米中対立が影響していると言える。

では

WTO

において、米中は何について対立しているのだろうか。筆者は、

WTO

、 そして

WTO

改革を巡る米中対立は、WTOに留まらず、米中対立の本質を表している と考えている。

以下で、米中対立下における

WTO

改革の本質について分析し、考えを述べたい。

II.問題の背景

1.WTO加盟後の中国の急成長

世界経済は、2000年代以降、中国の

WTO

加盟(2001年)を一つの契機に、グロー バル・バリュー・チェーン(

GVC

)の構築が進展し、それに伴う先進国から新興国・途上 国への技術移転が加速化した3。特に中国については、その市場としての大きさもあり、

技術移転政策等と相まって、とりわけ技術移転が加速したと指摘されている4

結果として、2001年の

WTO

加盟当時の世界の

GDP

に占める中国の

GDP

の割合 は、4%に過ぎなかったのが、2007年には

6.3%、2012

年には

11.5%、2017

年には

15%

まで急拡大している5。米国との対比では、2001 年は中国のシェアが前述のとおり

4%

であったのに対して、米国は

31%

を占めていた。これが、

2017

年には、中国が

15%

1 本稿における見解は筆者個人のものであり、筆者が所属する組織の見解を示すものではな い。

2 「WTOトップ選び難航 ナイジェリア人候補に米反対」『日本経済新聞』20201029 電子版。

3 この点については、猪俣哲史「グローバル・バリュー・チェーン 新・南北問題へのまなざし」

(日本経済新聞出版社、2019年)が詳しく分析している。

4 Kowalski, P., D. Rabaioli and S. Vallejo (2017-11-20), “International Technology Transfer measures in an interconnected world: Lessons and policy implications”, OECD Trade Policy Papers, No. 206, OECD Publishing, Paris. http://dx.doi.org/10.1787/ada51ec0-en, p.56.

5 内閣府、世界経済の潮流 2018年Ⅱ参照。

(2)

2

米国が

24%と、その差が急接近している

6。また、経済の規模だけでなく、技術優位性

についても、例えば、世界全体の国際特許出願数に占める各国別出願数の割合は、

2000

年に米国が

40%で、中国は 0.8%だったのが、2017

年には、米国が

23.2%で、中

国が

20.1%

と、肩を並べつつある7

2.アップデートされないルール

中国が

WTO

加盟を契機に経済規模でも技術優位の面でも、米国に迫る一方で、

WTO

は中国をどう扱っているのだろう。中国を巡る

WTO

ルールがアップデートされ ていないのが実情である。

WTO

ルールが、

FTA

のない米中間にとっては通商ルール となる。以下、代表例として、(

1

)関税、

(2)

途上国地位問題、

(3)

産業補助金問題の

3

つを取り上げたい。

(1)関税

2001

年に妥結する中国加盟交渉では、中国に対する関税引き下げ要求は、加盟 時考えられる範囲では十分なものだったが、中国の急速な経済成長により、見合わな いものとなった、と言えるのではないだろうか。具体的には、1998年時点での中国の鉱 工業品の譲許関税率は

16.6%で、2001

年の加盟時には

12.7%に下がり、加盟時の約

束では

2010

年には

8.9%に引き下げることとなっていた。これは途上国としては低い

が、日本(1.5%)、米国(3.5%)、EU(3.6%)等の先進国と比べると高いと評価できる8。 中国加盟に関する日本交渉チームが、2002年に記した、「中国の

WTO

加盟」で は、鉱工業品関税について、2010年には

8.9%まで引き下げることについて、「現行

(中国加盟時

2001

年)のインドネシアの

8.8%、マレーシアの 10.0%、タイの 15.8%に

比肩又は凌駕し、「実施時期などを別とすれば、ASEAN主要国の約束の水準に比し て何ら遜色のあるものではなく、おおむね妥当な市場アクセスの約束を行ったものと言 うことができよう」と評価している9。後から見れば、

GDP

規模でも、

1

人当たり

GDP

でも

ASEAN

主要国を追い抜き、産業競争力も増した、WTO加盟後の中国経済の急成長

を十分に予測できなかったと言わざるを得ない。

中国の

WTO

での譲許税率は、その後の

ITA

拡大交渉で対象となった品目など一 部を除けば、加盟時の約束のままであり、高止まりしている。

(2)途上国地位問題

GATT

時代より、途上国に対する優遇措置として、途上国に特別な権利を付与した り、先進国が途上国をほかの

WTO

メンバーよりも優遇したりすることを可能とする条文 が協定に盛り込まれ、WTO にも引き継がれた。途上国に関する具体的な定義がなく、

6 同上。

7 経済産業省、通商白書、205頁。

8 関税率は経済産業省通商政策局編不公正貿易報告書2001年版、2002年版を参照。

9 中国WTO加盟に関する日本交渉チーム『中国のWTO加盟』、蒼蒼社、2002年、234-235 頁。

(3)

3

自己宣言となっており、中国も途上国扱いとなっている。

2001

年の中国の

WTO

加盟を契機として、中国を始めとする新興国が経済的に急 成長したにも関わらず、先進国か途上国かの

2

つのカテゴリーしかなく、急成長した中 国がルール上は、後発途上国と同じ義務しか負わないことが問題の原因となっている。

米国は、2019 年1月に途上国地位について問題提起する提案を

WTO

に提出し、

更に同年

2

月には、途上国地位からの卒業基準を一般理事会で決議することを内容 とする提案を

WTO

一般理事会に対して行った10。米国は卒業基準として具体的には、

(i)OECD

加盟国であること、

(ii)G20

加盟国であること、

(iii)

世銀において「高所得国」

に分類されていること、

(iv)

貿易量が世界全体の

0.5%

以上を占める国等を挙げている。

米国の強い働きかけで、ブラジルは、2019年

3

月の米伯首脳会談で、今後の

WTO

交渉において、ブラジルは途上国地位を援用しない旨を表明した11。2019 年

10

月に は、韓国もブラジル同様の表明を行っており、米国による「中国包囲」が進んでいるよう に見受けられる。

(3)産業補助金問題

3

点目として産業補助金を巡る

WTO

ルールの問題を取り上げたい。

一例として、米国の対中国での相殺関税措置を中国が

WTO

補助金協定違反だと して、WTO提訴し、2011年に米国が敗訴した

DS379

ケースを見てみよう。DS379は、

中国の国有商業銀行の政策金融等の支援を受けた溶接鋼管等の製品の米国への輸 出に対して、米国が当該政策融資等を補助金とみなし、相殺関税をかけたことを中国 が提訴したケースだった。上級委員会は、米国が、中国の当該国有商業銀行を、

WTO

補助金協定上の補助金の出し手としての「公的機関」(public body)であると認定 したことを立証不十分であるとした。

具体的には、上級委員会は、「公的機関」は、政府権限を有し、行使し、又は付与さ れた実体であるとし12、その認定のためには、問題の実態の中核的な特徴及び協議の 政府との関係をケースバイケースで適切に評価しなければならないとの解釈を示した

13

米国商務省は、主として、国有企業が中国政府によって過半数所有されている事 実に基づいて「公的機関」であると認定したが、上級委員会は、過半数所有は政府に よる意味のある支配の証拠になりえないし、それだけでは、政府機能を実行する権限

10 WTO文書 WT/GC/W764.

11 “Trump says U.S. support Brazil’s OECD accession; Bolsonaro offers WTO treatment change” Inside U.S. Trade, March 19, 2019, Vol.37, No.12.

12 United States – Definitive Anti-Dumping and Countervailing Duties on Certain Products from China, Appellate Body Report, WT/DS379/R, 11, March 2011, para.317.

13 Ibid., para.318.

(4)

4

を付与されている証拠になりえないとして14、米国商務省の国有企業に関する公的機 関認定を

WTO

補助金協定違反であると判断した15

これは川島が指摘しているとおり16、この上級委員会の判断により、相殺関税を発動 するための調査における、「公的機関」の認定は、各国の相殺関税措置の調査当局に とって、各種の要因を包括的かつ実質的に検討した上でないと行うことのできない、よ り困難なものとなり、その意味で、実務に対してきわめて大きな影響を与える解釈とな った。

中国の急成長による産業補助金の影響が大きくなった中、逆に相殺関税が発動し にくくなったことを意味する。ドーハ・ラウンドの頓挫等で、中国の台頭に見合った形 で、産業補助金に関する国際ルールである

WTO

補助金協定を強化できなかった結 果であると言える。

(4)評価

以上全て、中国が加盟した

2001

年当時の合意・ルールを、加盟以降の中国の急成長 に見合った形で変更することができなかった結果、生じている問題であると指摘できる。

リアリズムの泰斗、クラズナーは、「レジームが最初に作られた時はパワー分布とレジー ムの性格との間に高い整合性が存在する」とし、その上で、「パワー分布はより動態的であ り、それは不断に変化している。それゆえ、レジームとパワー分布は、同じ割合で変化す るのではない。時間が経つにつれて、両者の非整合性が増すのである」と指摘した17

クラズナーは更に、「もしこれらの非整合性があまりに著しくなると….革命的な変化が起 こる可能性が出てくる」と指摘している18。WTOを巡る米中対立の現状は、これに近い。

III

.解決の方向性

以上でみたように、

WTO

における米中対立は、中国の急成長による、「パワー分 布」の急速な変化という本質的な理由から来るものであり、その解決は容易ではない。

WTO

において、個別イシューごとに解決されるものではなく、Ⅱ.で見た、関税、途上 国地位問題、WTO補助金協定の強化に加えて、上級委員会の問題等を取り上げ、

「パワー分布」の急速な変化に見合った、全体パッケージを作ることで解決していく必 要性があるのではないだろうか。

解決は

WTO

内に留まらない。上記パッケージには、トランプ政権が残した、膨大な 対中制裁関税をどうしていくかということも含みうるのではないだろうか。

14 Ibid., para.346.

15 Ibid., para.347.

16 川島富士雄 「中国による補助金供与の特徴と実務的課題」-米中間紛争を素材にー」

RIETI Discussion Paper Series 11-J-067, 2011年、32頁。

17 Stephen D. Krasner, “Regimes and the limits of realism”, International Regimes, edited by Stephen D. Krasner, (Ithaca, Cornell University Press, 1983), p.357.

18 Ibid.

(5)

5

また、筆者も参加した、政策研究院の「国際秩序の変革期における通商政策研究 会」の中間報告でも指摘しているとおり、WTO改革が動かないのであれば、実質的な

「WTO2」を進めていく必要があるのではないだろうか19。具体的には、日米欧三極貿 易大臣会合が本年1月に合意した

WTO

補助金協定の強化をベースにした、有志国 によるプルリ交渉の推進や、CPTPPや日

EUEPA

等のメガ

FTA

間の連携による新た な「グローバル・プルリ」の構築が考えられる。「WTO2」を動かすことで、国際通商秩序 の改革を引っ張るのである。

IV

.終わりに

2020

11

月には米国の大統領選挙が開催され、民主党のバイデン候補が勝利し た。本稿で指摘した、米中対立の本質は変わらないが、中国へのアプローチがこれま での米中二国間での交渉から、同盟国と連携して交渉するアプローチへと変わってく ると考えられる。

実際、バイデン次期大統領は、

12

2

日付のニューヨーク・タイムス紙のインタビュ ーで、「対中制裁関税について、すぐに撤廃するつもりはない」とした上で、「最も良い 対中戦略は、全ての米国の同盟国と共同歩調をとることだ」と述べている20

我が国には、通商面では

WTO

改革や有志国による実質的な「WTO2」、経済安全 保障面では輸出管理や投資規制、研究開発における技術管理等の分野で、有志国 連合による具体的な国際協調の枠組みやルール構築の考えを示して、議論をリード する役割が求められているのではないか。

19 政策研究院ホームページ。https://www.grips.ac.jp/cms/wp-

content/uploads/2020/11/RSG20-1-InterimReport%EF%BC%9ATradePolicy-jp.pdf

20 Thomas L. Friedman, “Biden Made Sure ‘Trump Is Not Going to Be President for Four More Years’”, New York Times, December 2, 2020.

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