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本稿は、欧州連合(EU)の出入国管理政策が

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はじめにEU出入国管理の共通性が提起する諸問題

1

EU

出入国管理とは何か

本稿は、欧州連合(EU)の出入国管理政策が、EUを舞台に展開される人の越境移動にど のような影響を与えているのかを論じるものである。このためにまず、EUの出入国管理と はそもそも何かという問題を明らかにしておきたい。EUの出入国管理が志向するのは、EU 域内への外国人(経済目的の移住希望者のみならず難民資格申請者や違法入国者を含む)の出入 国のみならず、彼らの域内での滞在および居住を許可する基準を定める、いわゆる広義の 出入国管理である。EU出入国管理は、諸々の政策領域ごとの縦割り型の加盟国間政策調整 を総括するものとはなっていない。なぜなら、それは単一欧州市場(Single European Market)

によって出現した域内自由移動空間の確保のために必要とされた、いわば補完的な政治措 置の一環として位置づけられたからである(1)。つまり、この分野での国家間協力は、EUや 加盟国にとっては、人の越境移動そのものから派生する問題の解決を目指すためというよ りも、むしろ、欧州統合の政治的文脈との兼ね合いにおいて必要不可欠な協力と解されて いる。

この点に照らし、本稿では

EU

出入国管理を「EU統合という目的のために水平的に展開 される、出入国管理分野における超国家的政策形成およびその実施」と捉える。

ところで、この視角が

EUの超国家性のみに焦点をあてる議論を導くものではまったくな

いことは言うまでもない。EUの出入国管理がEU加盟各国の出入国管理に取って代わるも のではないことは周知であるし、またその一方で、欧州統合がもっぱら加盟国間のバーゲ ニングの成果の蓄積であるという議論が、超国家次元の国家次元への影響を一定の留保の もとで認めるものであることも、数々の先行研究が指摘するところである(2)。むしろ、本稿 における考察の視角は、EUレベルの政策決定過程の諸段階において、また、最高意思決定 機関であるEU加盟国首脳サミット(欧州理事会)が

EUとしての政治方針やその理念上の基

礎を表明する段階において、EUの政治決定が加盟国の国内政治に及ぼすであろうインパク トとはどのようなものかという点に向けられる(3)

2)「共通」の意味するもの―選択の機会と多孔性(porous-ness

出入国管理分野での

EU

レベルでの意思決定の結果は、しばしば「EU共通出入国管理政 策(EU Common Migration Policy)」と称される。ここでは

EU出入国管理の「共通性」につい

(2)

て詳しく考えてみたい。EUにおける共通の決定が往々にして加盟国間の妥協の産物である 点は多く指摘されるところであるが、その一方で、EU共通政策ができることで加盟国が複

数の基準(例えば

EU法が定める基準と加盟国の独自の基準)

を選択できる可能性が生じる点

には、これまで十分な関心が向けられてこなかった。

EUでの意思決定の多くは全加盟国が容認できる最低基準の設定とほぼ同義である。この

ことは、加盟国が場合によっては最低基準を上回る形でEU政策を実践する可能性も容認さ れることを意味している。

これは合理的アクターとしてのEUを考えるとき、一見矛盾するようであるかもしれない。

しかし、諸々の

EUレベルでの決定のなかに示される最低基準は、必ずしも加盟国の合理的

選択の結果と同じになるわけではない。したがって、最低基準を大きく上回る政治行動で あっても、その実践が加盟国の国益に適う場合は、加盟国はEU法の許容範囲内で独自の行 動をとることができる。実際のところ、2008年

3月に起こった、イラク難民の受け入れ可否

をめぐるスウェーデン国内の一連の論争は、この典型として挙げることができる(4)。スウェ ーデンは当初、EU法(ここでは「ダブリン規則」と言われる庇護申請者受け入れに関する規定)

が定める最低基準を上回る難民の受け入れを実施していたが、このときスウェーデン国内 では受け入れ基準を

EU

基準(ダブリン基準)と同程度にとどめるべきか、あるいは従来の 受け入れ基準(ダブリン基準より高いもの)を踏襲するかという二つの選択肢が存在したの である。

このように、「共通性」は規範の運用という側面において、(それが国内問題を引き起こす か否かにかかわらず)加盟国に選択の機会をもたらすものとなっている。しかし、EU政治に おける共通性の本質はこれにとどまらない。EUが志向する共通性は、EUが共通政策として 取り組む政策分野が広がるほど

EU統合が進展するというような、ある種の理念上の決意を

も反映するものである。事実、従来政府間での意思決定にとどめられていた政策分野はそ の後続々と超国家的な意思決定の枠組みに編入されている。その一方で、急速な統合進展 すなわち集合性から極端な単一性への転換は、依然として多くの加盟国が敬遠するところ である。したがって、加盟国は総意として共通性を追求しながらも、上記のとおり、選択 の機会を失わずにすむ道を終始模索することになる。

ここに生じる共通性の側面を本稿では多孔性(porous-ness)という特徴から捉えてみたい。

多孔的な共通性は閉じた概念ではなく、加盟国の側からは、国内政治の運営に際して一定 のEU(超国家)次元からの拘束を許容するという方向に、また

EU

の側からは、政治決定に 際して加盟国のしばしば排他的な裁量を容認するという方向に開かれた概念となる。そし て、この概念が

EU

統合に関与する諸アクター間に共有されることで、一方では

EU

が超国 家的な政治目標を掲げることが、他方では関連法案成立に至るまでの諸々の協議段階にお ける加盟国によるバーゲニングが、それぞれ可能となる。

この種の共通性が享受されることで、EU政策の超国家性をどの程度前面に押し出すかと いう政治方針に関する勘案と、その下で形成される諸々の二次法案をより短期間で成立し やすくするためにどのような政治戦略が必要かという考慮とが、EU政治の舞台で密接に絡

(3)

まりあってくる。前者、つまり

EUの超国家的な政治指針の呈示に際しては、加盟国は欧州

統合促進のための理念上の行動指針を

EU次元から受け取りながらも、他方で、当該指針に

おいてどの程度の権限をEU次元に認め、どの程度を自国の裁量の範疇として確保していく かということについて検討する(5)。あるいは、「ヨーロッパ」を大義名分として使うことで 自国の権限を最大限確保しようと試みる(6)。後者、すなわち具体的な

EU

政策の意思決定過 程においては、欧州委員会によって法案が提出されてからどの程度超国家機関や国家の関 与が可能になるのかが焦点となる(7)。それはしばしば、提出されたアジェンダの超国家性を どの程度にとどめるか、あるいは、超国家的なアジェンダを利用することで加盟国がどの 程度相対利得を得るかという加盟国の思惑を導くものとなる。

3) 問題提起

さて、機会の選択可能性と多孔性という観点から共通性を捉えたうえで、本稿では「EU 出入国管理政策の決定要因は、経済的な考慮に基づくものでありながらもむしろ政治的要 因である」、という主張を掲げたい。この主張が

EU

の特殊性を前提としていることは言う までもない。ただし、EUの特殊性は一様ではなく、欧州統合の進路を方向付けるさまざま な政治的蓄積に伴って変質を遂げている。初期の欧州統合は確かに安全保障上の要請を基 礎とする対外依存度の高い国際協力であったかもしれない。しかしながら、その後の統合 進展のなかで、EUは域内に向けては統一的な意思決定を目指すのと同時に、域外からは国 際社会における単一のアクターとの承認を得ようとしている。

EUの出入国管理はアドホックな加盟国間の政治協力として始まったものの、欧州統合の

進展に呼応して(あるいは進展の一部となる形で)、加盟国に一定の拘束を与える制度として 発展してきた。この延長線上に、昨今ではきわめて新しい傾向が浮き彫りになっている。

それは、前述のような選択の機会や多孔的な共通性の確保のために、EU加盟国間だけでな く、EU域外との関係をも規定する共通のルールを設定するという方法をEU(および加盟国)

が見出すようになってきたということである。EUは、域内における共通性の追求の限界を、

域外とのルール構築によって相殺しようと試みているのである。

このような議論に基づき、本稿では昨年(2007年)

10月に欧州委員会が提出した高度技能

熟練労働者受け入れ法案(通称「ブルー・カード」法案)について考察する。この法案が提 出された背景には、経済的なインパクトに対する考慮よりもむしろ、EU統合の進展を目指 す政治的な動きがかかわっていた点を主張するのが、本稿の目的である。

なお、本稿は移民受け入れの是非を論じるものではないため、当該

EU政策に倫理上ある

いはイデオロギー上の評価を加えることはしない。むしろ、本稿の関心は、このような政 策を基礎づける理念がどのようなEU(加盟国間)政治の結果として現われており、また今 後どのようなアクター間の関係を生み出すものとなるかを明らかにすることにある。

2 EU

の高度技能労働者受け入れ

1)「ブルー・カード」法案の概要

2007年 10

月23日、欧州委員会は高度技能をもつ外国人労働者の大規模な受け入れを目指

(4)

す指令案を閣僚理事会に提出した(8)。米国と似たような移住促進措置を施すことで高度な能 力をもつ人材の確保を目指したもので、米国の永住許可証「グリーン・カード」になぞら え、またEU旗の色に因んで通称「ブルー・カード」法案と名付けられた。

この法案の下では、一定の学位をもち最低

3

年の就業経験がある非

EU

加盟国国民に「ブ ルー・カード」(滞在許可証)が付与される。「ブルー・カード」の取得後は、当該者の

EU

域内の移動/移住にかかる制限が縮小され、長期滞在ビザの取得も容易になる。

非EU加盟国国民の受け入れは、あくまで同等の能力をもつ

EU

加盟国国民の就労機会を 阻害しない範囲において行なわれることとされる。また、EU域内での雇用契約を済ませた 者でなければ「ブルー・カード」の申請はできない。これらの条件は、従来多くのEU加盟 国が採用する外国人受け入れの原則をほぼ踏襲した形となっている。

「ブルー・カード」法案は、直近では2005年12月に欧州委員会が提出した、合法移民受け 入れのための枠組みのなかに位置づけられる(9)。また、「ブルー・カード」法案には、EUの 国際競争力を高めるために高度技能保持者をはじめとする外国人労働力の導入が必要だと する「リスボン戦略」が含意されている(10)。これと同時に、この法案のなかでは、特に発展 途上国からの出身者に対しては母国におけるいわゆる「頭脳流出」につながらないよう、

国際連合の「ミレニアム開発目標」の達成に支障がない範囲における政策実施の必要性が 謳われている。このため、一定の範囲でグローバル空間における環流型移民を認める方針 をEUは明らかにしており、それは「グローバル・アプローチ」と名付けられている。

なお、この法案は他の合法移民受け入れ法案と同様、EUが志向する方針の大枠を示した ものであり、出入国の条件や労働許可・滞在許可の要件(どのような職種を「高度技能」と定 めるかという点を含む)等、具体的な基準の設定については加盟各国に委ねられている。さ らに、この法案成立には

EU加盟国の全会一致が必要となる。

2) ブルー・カード法案が提起する問題

「ブルー・カード」法案は、その提出直後からすでに多くの加盟国国内での論争を引き起 こしている。EU出入国管理分野において適用除外(オプト・アウト)の立場をとっているイ ギリスは、この法案に賛同せず、むしろ人数割り当て制度(「ポイント・システム」)を独自 に導入する意向を明らかにした(11)。また、オランダやドイツ、オーストリアなどはこの法案 がEUの極端な超国家化につながることを嫌忌した(12)

現在、域内加盟国の(欧州議会議員を含む)政治家にとってこれはきわめて厄介な問題で ある。なぜなら、彼らは往々にして、人口問題に端を発する国内経済の持続的発展および その活性化という課題と、失職への危機意識や犯罪の増加などを背景とした自国内の社会 不安の増大とこれを政局に結びつけようとする政治勢力にどのように対処するかという問 題との板挟みになっているからである。

実際に、EU域内における労働力不足は、熟練技能労働と単純労働の双方ともに深刻であ る。欧州委員会によると、EU域内の少子高齢化が進んでいること(特に労働人口は

2011年か

ら減少し始めると推定されている)と、とりわけ高度技能やその他の専門技術を必要とする職 種の需要が高まっているという2点が、「ブルー・カード」構想を生み出した大きな原因と

(5)

なっている(13)。加えて、現行制度のままでは

EUは高度技能者よりもむしろ単純労働者を惹

きつける求心力が大きい点が問題とされる(14)。これに関して、ある企業の調査では、2008 年の段階で高度技能労働者が必要とされながら雇用が確保できていない割合は、イギリス

12%、フランス 31%、ドイツ 34%、ポーランド 49%

などとなっており、EU加盟国内で最も 高いルーマニアでは73%という驚くべき数字となっている(15)

一方で、EUは高度技能熟練労働者の求心力の不足を、自らの一貫した制度の欠如に求め ている。しかし、外国人労働力の受け入れ方針や長期滞在者等の国籍取得に関する規定だ けでなく、社会統合の方法など、社会文化的な側面も含めて多様である加盟各国にとって、

たとえ高度技能労働者に限るとはいえ、中長期的な定住化を認める内容を含むこの政策に 関して、超国家機関の権限が強くなることは極力避けたいことであった。また高度技能者 をEU域外から受け入れるというアイディアはこれまで加盟国レベルでも検討されたが、ど れも法として結実せずに終わっている。

これらの事情を考察するに、今般の「ブルー・カード」法案は、少なくとも短期的将来 においては、法案通過に向けて多くの障害に直面するか、あるいは内容を大幅に修正する 形で法案成立となるだろう。しかし、たとえそうであれ、その原因をひとえに合法移民の 受け入れのメリット/デメリットをめぐる議論の延長線上にのみ見出すのはいささか単純だ ろう。むしろ、それを踏まえた

EU政治の側面を考察することが、決定要因を論じるうえで

意義があるだろう。そこで、次節以降では、移民受け入れの経済的インパクトについての 諸々の考察を紹介したうえで、それがどのように

EU政治と結びついているかを検討する。

3

経済か政治か?―移民受け入れ政策の決定要因

1) 移民の経済的インパクト

高度技能労働者を含む移民受け入れの経済的なインパクトをどのように評価するか、と いうことに関してはさまざまな観点が存在する。特に、近年では、受け入れ国側の各セク ター、各クラスターへのインパクトの分析や、社会文化的な影響との関係に依拠する経済 分析が注目を集めるようになってきている(16)

従来型の分析によると、高度技能外国人労働者を含む外国人労働力の受け入れは研究開 発部門の活性化や投資および雇用の拡大などを通じた経済活動の促進につながり、結果と して受け入れ国の国内総生産(GDP)を増大させる効果が期待できる。特に、高度技能者受 け入れに関しては、本国民との間に生じる競合関係をプラスに活用することで、専門知識 や技能の習得環境を充実させるなど国内の職業教育体制の活性化にもつながる。一方で、

否定的なインパクトとしては、自国民と移民の間の言語的、文化的障壁や、とりわけ高度 技能労働者の受け入れの場合には、彼らを通じた潜在的敵対国への技術移転の可能性など が指摘される。

送り出し国側の肯定的インパクトとしては、特に高度技能労働者の再帰国等を通じた高 度技術の輸入機会の増大、ディアスポラ・ネットワークによる送金などが、否定的インパ クトとしては、特に高度技能労働者に関して頭脳流出や、高等教育に注入されるべき公的

(6)

資金額の減少などが挙げられる(17)

次に、よりミクロなレベルにおけるインパクトについては、少なくとも経験的データに 基づく分析によると、受け入れ国側への肯定的インパクトは微小かほとんどないとの指摘 が近年目立つようになってきている。このような主張のうち最も代表的なものは、受け入 れ国のGDP総額を分析の対象とするのではなく、1人当たりの

GDPを対象とするべきとい

うものである。この主張に基づく分析からは、移民の受け入れは、移民や移民の送り出し 国側には比較的大きな正の影響をもたらすのに対して、受け入れ側には(正であれ負であれ)

微小な影響しか及ぼしていないという結果が出ている(18)。また、労働市場における自国民と の競合に関する影響についても研究がなされている。特に、高度技能移民が労働市場に与 える影響に関しては、外国生まれの博士号取得者(多くは留学生プログラムを通じた学生)は 競合労働者の収入に負の効果を及ぼすという分析結果がある。しかも、ここで言う競合労 働者が当該国で生まれた人であれ、外国生まれであれ、その負の影響に変わりはない(19)。 さらに、優良高校/大学や資格試験などに外国人労働者(の子弟)が多く合格すると、結果 として自国民がその恩恵に与ることができずに締め出されてしまうという指摘もある(20)

当座の結論としては、移民受け入れは、従来型分析によると受け入れ国、送り出し国双 方にとって総体的には比較的良い経済効果が期待される反面、ミクロレベルの経験的分析 によると必ずしもプラスの結果に結びつくわけではないことが見て取れる。ミクロレベル の分析が暗に期待するのは、移民と本国民との交流の増加が正の波及効果を生じることで 獲得された富の再分配がより公平に行なわれることであるが、皮肉なことに、経験的なデ ータは両者の交流が希薄なほど社会全体の安定が図れていることを示唆している。例えば、

移民受け入れ後、移民と労働市場において競合関係にある本国民の賃金は徐々に下がって いくのに対して、移民が就く職業と補完的関係にある職種に従事する本国民の賃金は上が っていくという(21)。とりわけ、安全保障上の問題や社会的問題を経済的効率性が相殺しえな い点は、2001年

9

月11日以降現在に至る

EUおよび加盟各国における外国人受け入れ政策の

理念上の支柱に組み込まれている。

2) 経済的需要と移民の必要性をめぐる議論

このように、移民受け入れの経済効果をどのように捉えるかという問題に対してでさえ 多様な主張が存在しているのが、欧州における現状である。一方で、20世紀終わりからず っと、EU加盟国は少子高齢化や技能労働者の減少が国内経済社会に与える悪影響に関して、

日本と同様の問題に直面していることも事実である。この種の経済問題が政治課題との関 連を強めていったのは、労働者不足を移民受け入れで解決すべきか否かということについ て各国内で議論が繰り広げられた頃であった。フランスでは、すでに

1990年代初頭の段階

から、経済学や人口学などからの知見のみならず、政府内部や雇用の側からも、経済活性 化や福祉国家システムの確保のために一定の外国人労働力の受け入れが不可避だとする声 が高まっていた(22)。その一方で、少子高齢化問題を外国人労働者受け入れによって解決し ようとするのはあまりにも安直に過ぎるという主張も、大きく論壇をにぎわせることとな った(23)

(7)

これと時期をほぼ同じくして、国内治安の悪化と外国人とを結びつけて考える外国人脅 威論、その他社会不安を背景とした外国人忌避(ゼノフォビア)、さらに激しい形での外国人 排斥運動やこの信条を掲げる極右政党への支持率の高まりなど、社会/政治的に多くの反移 民的価値観が蔓延してきたことも事実であった(24)。フランスでは、相当数の移民が経済活 性化のために必要になるとの論調が新聞等マスメディアを通じて広まってきた矢先、2002 年の大統領選挙の際に外国人排斥を公約に掲げる極右政党「国民戦線(Front National)」が周 囲の予想を大幅に上回る躍進を遂げ、このことが国内の保守、中道左派両党に尋常ならぬ 危機意識を植え付けた。以後、フランスが違法入国者の退去促進を含む国境警備強化路線 を踏襲しているのはこのことが大きく関与していると考えられる。ドイツは

EU

加盟国のな かでは比較的外国人の受け入れに寛容なシステムを採用してきたが(25)、この延長線上で高 度技能熟練労働者の受け入れに踏み切ろうとしたところ州政府の反発を受け、挫折した。

2002年、高度技能熟練労働者の受け入れ促進を目的とする移民法の改正案がひとたび可決に

までこぎつけたものの、この可決に至る手続きが翌

2003年に違憲判決を受け、結果法案は不

成立となった。この法案はその翌年に再度可決が目指されたが結局それもかなわなかった(26)

このほか、北欧諸国や南欧諸国等を含むEU加盟各国で展開された外国人忌避の動きは人 種差別に無縁のものとはとても言えないものがほとんどであったが、一部の暴力的な集団 を除く一般大衆の間に共有された反移民的価値観は、差別というよりもむしろ、外国人に 職場を奪われることの恐怖といった、生活に密着した死活的な問題こそがその根幹にあっ た。そして、フランスの例に限らず加盟各国の政権与党を中心とする各党は、そのような 社会不安が極右政党に政治利用されることを是が非でも避けなければならなかった(27)。そ のために、各党は(高度技能者に向けた)門戸開放を政治方針として掲げながらも、それが 加盟国国民の民主的な支持を得た方針となる方法を模索した。その方法とはすなわち、「ヨ ーロッパ(統合のため)」という方便や、還流型移民を促進する「グローバル・アプローチ」

という逃げ道を用意することであった。

3) 欧州統合との関連

EU共通出入国管理を決定付けたのは、単一欧州市場を補完する措置として 1995年に出現

した「シェンゲン空間(Schengenland)」であった(28)。EU(当時

EC〔欧州共同体〕

)は、人の自 由移動政策を単なる目標規定とするべきだというイギリスなどの主張を受け入れず、実際 に域内国境での検問を撤廃することが単一市場成功の条件だと考えていたが、その一方で、

シェンゲン空間を設立当初から「政治的実験」とみなしていた(29)

シェンゲン空間の誕生とともに、EU(EC)の共通出入国管理は単なる加盟国間の出入国管 理の集積ではなくなった。これは、欧州共同体の行動指針の重要性が増しただけでなく、

欧州共同体として取り組むべき優先事項の変化も意味した。この点を、1979年3月に欧州委 員会が閣僚理事会に提出した「第三国に対する移民関連政策についての諮問文書」(30)との関 連において指摘してみたい。

この諮問文書は、1970年代前半に(当時)

EC

加盟国の多くが外国人労働者や経済移民の 受け入れを停止したことを受けて、その後の彼らの受け入れ社会への統合に関する共通の

(8)

取り決めを作ることを喫緊の課題としていた。そして、庇護申請者/難民資格申請者の受け 入れは国家の排他的権限のうちに管轄されるべきとされ、政策調整の優先課題から外され る旨が明記されていた。

その後1980年代前半に単一市場の実現が見込まれるようになるにつれ、上記の議論は跡 形もなく立ち消えた。そして、シェンゲン空間の誕生とともに現われた欧州共同体の方針 は、興味深いことに、庇護申請者の受け入れ基準(と違法入国者の取り締まり)を優先課題 とし、経済移民の社会統合は加盟国の裁量に任せるという、以前とは正反対のものとなっ た。

翻って実際の

EU内部の機構改革に視点を移すと、移民政策を含む広義の出入国管理分野

におけるEU加盟国間政策協調は、1993年マーストリヒト条約により成立した欧州連合の司 法・内務協力枠組みとして初めて公式な機構のなかに位置づけられた。その後、1999年の アムステルダム条約での改正を経て「自由、治安と司法分野」に組み込まれたが、この時 期に至り、シェンゲン空間を基礎として広義の出入国管理がすべて超国家次元での意思決 定の下に行なわれるようになった(31)。また、アムステルダム条約では共同決定手続きが改 正されたが(32)、2008年現在、この手続きの対象となる

44

の条項のうち

4

割弱が出入国管理 の分野となり、制度改革の文脈からも法案可決が促進されることになった。

一方で、採択された規則あるいは指令の内容をみると興味深いことに気付く。ギブンズ とルッケは閣僚理事会に提出された出入国管理関連法案を「庇護」、「合法移民受け入れ」、

「査証および国境警備」、「非合法移民」、そして「差別撤廃」の五つに区分し、可決あるいは 否決された法案の特徴を分析した(33)。ここでは、可決された法案のほとんどが制限的、つ まり国境警備強化や受け入れ人数の制限を導くものであり、否決された(あるいは審議中)

の法案は、どちらかというと開放的、すなわち

EUが合法移民を認める方向に近いことが指

摘されている。この分析からは、たとえ共同決定手続きの導入などにより制度的に法案可 決がしやすくなったとしても、法案の内容が可決の容易さを最終的に決めるということが 看取される。このことは、現時点では制限的、防御的な政策の拡充が今もなおEUの優先課 題であり、ブルー・カード構想等が目指すような合法移民受け入れシステムはいまだEU意 思決定過程における合意が得られ難いことを示唆している。シェンゲン空間の誕生によっ て逆転した共通政策の課題設定の際の優先順位は、その後も踏襲されているのである。

4) グローバル・アプローチの意味

一般に、各国間で単一のルール形成が成立し難いときしばしば他のルール形成との間に 何らかの関連性をもたせることで可能になることがある。EU政治においても同様に、個々 の法案が別々であった場合可決の見込みが薄い場合でも、それら法案どうしが何らかの関 連性をもつものとして包括的に提示されることで、全体的に賛同が得られる場合がある。

EU出入国管理政策は、この包括的なルール形成を志向することで存続し、また発展を遂

げた。シェンゲン空間がEU共通政策のための基礎となったことは先に述べたが、加盟国間 の政策調整における足並みの乱れを正すため、EUは個々の出入国管理分野の政策(難民政 策、移民政策など)を一つの包括パッケージのなかに組み込むことによって、中長期的な問

(9)

題解決を目指そうと試みた。1999年タンペレ欧州理事会の決議文書(通称「タンペレ・ダイ アローグ」)はその成果である。

ここでは、EUが出入国管理分野で志向する三つの側面、すなわち、①国境警備、②(合 法)移民統合、③対外的アプローチ、をバランスよく実践することが目標に掲げられた。そ して、このうちどの側面が欠けても出入国管理は成功しないとの論理を創り上げた。そし て、この論理こそが、その後現在に至るまでEUやその加盟国が実施している政策の理念上 の基礎として息づいている。

タンペレ・ダイアローグのもう一つの留意点は、加盟国間の政策調整上の問題が、EU域 外諸国との共通のルール形成によって相殺されると示唆されている点である。ここでは③ の対外的アプローチと呼ばれる政策方針がそれである(34)。ここで展開されるのは、「いくら

『水際(on-shore)』で出入国管理を共同で行なったとしても、『出移民圧力(migration pressure)』 が減じない限り違法入国者対策にはつながらない。したがって、出移民現象が生じる原因 である、(主に発展途上国における)貧困や政治的不安定などの『根本原因(root-cause)』にメ スを入れることで人の越境移動が引き起こす問題を緩和しよう」という理屈である。この 考え方は1990年代前半に閣僚理事会での議論のなかに導入され、その後フランスが提唱し た共同発展(co-devéloppement)の概念と結びついて今日に至る。具体的には、政府開発援助

(ODA)などの開発援助や紛争の平和的解決のための諸政策と出移民管理要請のための外交 交渉とをリンクさせる戦略が採用され、2000年前後には専門ハイレヴェルグループや、EU 関係首脳や閣僚によるトロイカ・ミッションなどが潜在的な移民送り出し国政府との二者 会談を行なう形で実践に移された。

ブルー・カード法案中に言及される「グローバル・アプローチ」が、頭脳流出を防ぎ、

ミレニアム開発目標に掲げられた原則に抵触しないようにという目的から設けられたこと は前述した。世界市場における人的資本の占有は発展途上国の開発の妨げになることは確 かである。しかし、このアイディアが結果として還流型移民を許容するものであること、

そして環流型移民が発展途上国の開発援助の名目の下に促進される可能性に鑑みると、こ のアプローチは、タンペレ・ダイアローグに示されるところの「対外的アプローチ」とほ ぼ同じ本質に根ざすものである。そして、留意されるべきは、このアプローチが高度技能 をもつ外国人の受け入れや統合のための指針とリンクして掲げられている点である。この ように、統合政策が域外とのルール形成とリンクされていることで、加盟国は外国人労働 力の受け入れの失敗を事前に回避したり、事後にその失敗を埋め合わせたりできるように なるばかりでなく、EU意思決定過程における(包括)法案そのものの通過が早まる可能性 も生じることとなる。

4

結論と今後の展望

ブルー・カード法案に代表されるEUの高度技能移民受け入れ構想は、グローバル・アプ ローチを方便として展開される還流型移民促進プログラムの一部分として位置付けられて いる。これは経済需要に基づくものの、むしろ

EU加盟国のリスク回避と、意思決定過程に

(10)

おける早期法案成立を目指した、ある意味したたかな

EUの政治的決断の産物であると言え

る。この背後には、定住化を規定できないEUの制度的限界(排他的裁量が狭められることへ の加盟国の強い反発を招く)があるとともに、グローバル・アプローチという「孔(あな)」 を用意することで、そのような制度的限界を克服できるかもしれないという、EUの思惑が 見え隠れする。

EU

内への移住を検討する高度技能労働者にとってみると、方針決定をめぐってのEU内 部での足並みの乱れは移住先を

EU以外の国に決める誘因となる可能性が大きい。その一方

で、たとえ早期に一致した見解が可能になったとしても、グローバル・アプローチという 方便を備えた法案は、いつ自らが高度技能労働者というカテゴリーから外されるか、ある いはいつ自らが頭脳流出を防ぐ目的で出身国に戻らなければならなくなるかがわからない という点で、魅力に欠けるものである。加えて、より総合的な観点からは、グローバルな 労働市場空間において競争力のある人のみを受け入れ、そうでない人を排除するという戦 略と並行して何らかのモラル上のセーフティーネットを準備する必要があり、この点にお ける域外諸国との政治協力が望まれる。また、包括アプローチを掲げたEUは、比較的遅れ ている既住の第三国国民の社会統合分野においても、もはや共通政策の実施を避けて通る ことはできなくなっている。さらに、今般あえて合法移民に対して門戸を開放する方針を 打ち出したことで、合法移民を代表する(エスニックな)政党や超域非政府組織(NGO)な どの新たなアクターが

EU政治に参加したり、あるいはそのようなアクター間の相互作用が

活発化したりしていくことは必至であろう。今後は、そのような新しいアクター間の関係 がEUの標榜する共通性に何らかの概念上の変化を及ぼす可能性についての考察が求められ る。

1) この「補完的措置」とは2(3)で詳しく取り上げる「シェンゲン空間(Schengenland」のこと である。

2) 本稿で具体的に取り上げるまでもないが、約半世紀前から現在に至る欧州統合研究の蓄積(政府 間主義、超国家主義、制度論諸論、ガバナンス論その他)をひもとくに明らかである。

3) 欧州連合成立当初(1993年)、出入国管理分野のほぼすべての政策領域は「司法・内務協力」と 称され、超国家的な意思決定の枠組みの外(通称「第3の柱」)に置かれていた。その後1999年の アムステルダム条約による改正に伴い、この政策領域は総じて共同体政策(通称「第1の柱」)枠 組みのなかに組み込まれ、超国家的意思決定手続きの対象となった。

4) ここで挙げたスウェーデンの事例に関して、岡部みどり「EU共同出入国管理の対外的意味」『海 外事情』第56巻4号(2008年)で詳しく紹介した。

5) 加盟国によるバーゲニングは規則等法案の意思決定過程の最初の段階(欧州委員会による法案の 提出)以後に初めて行なわれるものとは限らない。それは、より非公式な意思決定過程の段階、

すなわち各議長国による声明や欧州理事会の決議文書の草案作成の段階からすでに始まっている。

6) ヨーロッパ(EU規範)を逃げ道として利用することで加盟国が相対的に奪われた主権を回復し ようとする動きについての興味深い考察として、cf. V. Guiraudon, “European Integration and Migration Policy: Vertical Policy-making as Venue Shopping,” Journal of Common Market Studies, Vol. 38, No. 2, 2000;

A. Geddes, The Politics of Migration and Immigration in Europe, Sage, 2003, etc.

7 EUの意思決定方式の変更、とりわけ欧州議会の意思決定過程への参加機会や法案成立への貢献

(11)

度を高める諸々の改革が実際に欧州議会の権限を強化するものとなっているかという点について、

G. Tsebelisらの提唱する「条件付き」という考え方と、(共同決定手続き〔Ⅱ〕と呼ばれる意思決

定方式の導入により欧州議会の決定権が形式上以前よりも大きくなったことなどを受けて)これ に反論する主張とが並存している。cf. G. Tsebelis, “The Power of the European Parliament as a Conditional Agenda Setter,” American Political Science Review, Vol. 88, No. 1, 1994; P. Moser, “The European Parliament as a Conditional Agenda Setter: What Are the Conditions? A Critique of Tsebelis(1994),” American Political Science Review, Vol. 90, No. 4, 1996; G. Tsebelis, “More on the European Parliament as a Conditional Agenda Setter: Response to the Moser,” American Political Science Review, Vol. 90, No. 4, 1996; S. Hix, A.

Noury, and G. Roland eds, Democratic Politics in the European Parliament, Cambridge: Cambridge University Press, 2007, etc. なお、共同決定手続きの詳細についてはhttp://ec.europa.eu/codecision/procedure/index_

en.htmを参照した。

8 European Commission, Proposal for a Council Directive on the conditions for entry and residence of third- country nationals for highly qualified employment, Brussels, 23. 10. 2007, COM(2007)637 final.

9 European Commission, Commission Communication on a Policy Plan on Legal Migration, December 2005, COM(2005)669.

(10) Presidency Conclusions, Lisbon European Council, 23 and 24 March 2000.

(11) 2008229日から実施されている。cf. http://www.ukba.homeoffice.gov.uk/managingborders/

managingmigration/apointsbasedsystem/

(12) “EU calls for Blue Card to tackle brain drain,” Daily Mail, Oct. 24, 2007; “Innenminister der Länder gegen

‘Blue Card,’” Frankfurter Allgemeine Zeitung, 08.12.2007, etc.

(13) 同法案は、今後20年の間に(EU加盟国国民であるか否かにかかわらず)EUには2000万人の熟 練労働者が追加的に必要であると訴えている。

(14) 実際、EUを移住目的国とする外国人のうち高度技能熟練労働者は少数にとどまり、8割強(約 87%)が北アフリカなどからの単純労働者であると言われる。

(15) Talent Shortage Survey 2008: Global Results, Manpower, 2008(http://files.shareholder.com/downloads/

MAN/363977872x0x189693/9adcf817-96cf-4bb3-ac68-038e79d5facf/Talent%20Shortage%20Survey%20 Results_2008_FINAL.pdf).

(16) House of Lords, Select Committee on Economic Affairs, 1st Report of Session 2007-2008, Vol. 1, Report.

(17) S. Hix and A. Noury, “Politics, Not Economic Interests: Determinants of Migration Policies in the European Union,” International Migration Review, Vol. 41, No. 1, 2007.

(18) House of Lords, 前掲報告書。

(19) G. J. Borjas, “The Labor-Market Impact of High-Skill Immigration,” Foreign-Born Domestic Supply of Science and Engineering Workforce, The American Economic Review, Vol. 95, No. 2, 2005.

(20) 実際に、最近増えたドイツ人の「移民」によってスイスやオーストリア国内にこのような影響が 見受けられるようになってきている。

(21) House of Lords, 前掲報告書

(22) J. Boissonnat, Le travail dans vingt ans, Rapport de la commission du CGP, La Documentation française(O.

Jacob ed.), 1995, など。

(23) 当時の論調の一部として、cf. “Immigration contre déclin démographique: une équation trop simple;

L’inversion des flux migratoires n’est pas la panacée aux problèmes de l’Europe,” Le Monde, 6 janvier 2000.

(24) 外国人(事実上の移民)がEU社会の脅威と概念化されるプロセスに関して、cf. J. Huysman, “The European Union and the Securitization of Migration,” Journal of Common Market Studies, Vol. 38, No. 5, 2000.

(25) 庇護申請者受け入れに関しては、1992年当時連立政権であったキリスト教民主同盟(CDU)/キ リスト教社会同盟(CSU)と自由民主党(FDP)に野党の社会民主党(SPD)が賛同する形で妥協

(12)

が成立し(「庇護の妥協」、受け入れ基準を厳しくする方向に庇護法の改正が行なわれた。cf. T.

Faist and A. Ette eds, The Europeanization of National Policies and Politics of Immigration–Between Autonomy and the European Union, New York: Palgrave Macmillan, 2007.

(26) ドイツ政府は最近(2008年7月16日)、IT分野などのハイテク産業における外国人労働者受け入 れ促進策を閣議決定した。この政策対象はもとより新規EU加盟国国民(具体的には中・東欧諸国 の国民)に限られているが、従来のような本国民優遇条件(労働市場で競合関係が発生する場合 ドイツ人の雇用が優先される)が適用されない点が画期的であると言える。一方で、この政策に よると同じ新規EU加盟国国民であっても単純労働者の受け入れがますます困難になる点が内外か ら問題視されている。第5次、第6次EU拡大に際し、ドイツは新規加盟国国民の域内自由移動を 制限するために移行期間(2年+3年+2年の最長7年)を設け、当初は2009年に移行期間を解除 する見込みであった。しかし、今回の決定では、移行期間の解除は2011年に延長されている。Cf.

“Germany seeking skills warms up its welcome,” Financial Times, 14 July 2008.

(27) A. Geddes, op. cit.

(28) 1985年、独仏ベネルクス5ヵ国間の共通国境における検問廃止を定めるシェンゲン協定が締結さ

れた。この協定は1990年シェンゲン実施条約と改訂され1995年から実際に検問廃止が開始された。

本稿では、この検問廃止の実施時期を「シェンゲン空間」出現時期と捉えた。

(29) 人の自由移動政策と域内検問の存続は両立しうると主張した主な国はイギリスである。現在イギ リスがシェンゲン規則(厳密には「シェンゲン・アキ」と呼ばれる)の適用除外(オプト・アウ ト)の地位を保っているのはこの主張をイギリスがいまだに掲げているからである。また、シェ ンゲン空間が「政治的実験」空間として誕生する経緯については、G. Papademetriou, Coming Together or Pulling Apart?, Carnegie Endowment for International Peace, Washington D.C.,に詳しい。

(30) European Commission(Commission of the European Communities), Communication of the Commission to the Council, Consultation on Migration Policies vis-à-vis Third countries, Brussels, 23 March 1979, COM(79)

115. この文書はほとんど法的な拘束力をもたないものであったが、1974年1月に開かれた閣僚理事

会決議に基づく加盟国間政策調整の方向性について、欧州委員会が提示しうる具体的な政策指針 や、ひいては外国人の受け入れに関して当時ECが目指した欧州統合のあり方を示唆した初めての 文書であった。

(31) 超国家次元での意思決定(「超国家方式」)とは、政策決定過程におけるEU機関の関与がより直 接的で、かつ成立したEU法(規則または指令)が加盟国の国内法を拘束するものとなる意思決定 方式を指す。

(32) EC条約第251条に規定される。意思決定過程における欧州議会の権限が以前より大きくなった。

(33) T. Givens and A. Luedtke, “The Politics of European Union Immigration Policy: Institutions, Salience, and Harmonization,” The Policy Studies Journal, Vol. 32, No. 1, 2004.

(34) 出入国管理の対外的側面について、岡部みどり「人の移動の共同出入国管理体系とEU」(木畑洋 一編『ヨーロッパと国際関係』、日本経済評論社 2005年)で「移民外交(Migration Diplomacy) という概念を用い、詳しく説明した。

おかべ・みどり 上智大学准教授 [email protected]

Referensi

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