第 8 章 北朝鮮の核態勢における対南関係
――「エスカレーション・ドミナンス」の陥穽――
1倉田 秀也
Ⅰ.問題の所在――北朝鮮の抑止態勢における通常兵力
一般に、核抑止論における「最小限抑止」とは、核戦力で劣位に立つ側が優位に立つ側 に対して、核先制不使用(No First Use: NFU)を宣言して敵対国に核戦争を挑む意思がな い立場をとりつつ、核戦力で優位に立つ側に第1撃を躊躇させる耐え難い損害を与える核 態勢をいう。この態勢をとる核戦力は、対価値(counter-value)的な第2撃能力を構築しよ うとし、核戦争を戦い抜くための対兵力(counter-force)的な核使用を盛り込むドクトリン は存在しない。例えば、米国に対して核戦力で劣位に立つ中国は、宣言的措置としてNFU を公言し、その核戦力を第2撃能力として位置づけてきたが、これは後発の核兵器国がと る「最小限抑止」の典型とみなされてきた。
「最小限抑止」をとりNFUを公言する国としてインドがあるが、インドは核不拡散条約
(Treaty on Non-proliferation of Nuclear Weapons: NPT)の非加盟国であり、その核保有が法的 正当性を欠くがゆえに、核兵器国から「安全の保証」を得られない。インドが対立関係に あり核戦力で優位に立つ中国から核の使用も威嚇もしないという消極的安全保証(Negative Security Assurance: NSA)を求めても、中国はそれを供与することはない。中国は非核兵器 国に無条件のNSAを宣言しているものの、それはNPT上の宣言的措置であり、NPT未加 盟国のインドには効力を有しない。また、中国もNFUを宣言しているが、インドと共同で NFUを宣言するという案がありながらそれが実現しないのは、インドがNPTの非加盟国 であり、NFUの共同宣言はインドの核保有を外交的に承認することを意味するからでもあ る2。
もはやNPTから脱退したと主張する北朝鮮もまた、NFU を公言できる法的地位にはない。
北朝鮮は第1次核危機以来、米国にNSAを求めてきたが、そもそも、米国が非核兵器国に 与えるNSAは、核の使用、威嚇をしない原則を掲げながら、他の核兵器国との同盟関係を 結ぶ、または、他の核兵器国と連合して武力行使を行った非核兵器国は例外とする「ワル シャワ条約機構条項(Warsaw Pact Clause)」を留保していた。さらに米国は、非核兵器国 が生物・化学(Biological/Chemical: BC)兵器を使用した場合、核使用の可能性を残す「計 算された曖昧性(Calculated Ambiguity)」を保持していた。したがって、中国と同盟関係に あり、BC兵器で対南優位に立つ北朝鮮は、以前から米国のNSAで例外であり続けた。
北朝鮮もブッシュ(George W. Bush, Jr.)米政権が「先制行動論」を掲げると、米国は NSAを放擲したと断じ、その「対朝鮮敵視政策」を批判した。地域的次元に目を転じてみ ても、米国は6者会談共同宣言(2005年9月19日)で北朝鮮に対し「核兵器または通常 兵器による攻撃または侵略を行う意図を有しない」ことを確認していた。ところが、それ は北朝鮮が核を放棄し、NPTに完全復帰することと条件関係にあった。したがって、北朝 鮮が2006年10月に初の核実験を強行して以来、米国は北朝鮮にNSAに類する「安全の保 証」を与えることはなかった3。
この文脈から指摘すべきは、北朝鮮が初の核実験を予告する外務省声明(2006年10月
3日)であろう。北朝鮮はここで、「絶対に核を先に使用しない」として、インドと同様、
NFUを公言していた。この時点で北朝鮮は、自ら保有したとする核兵器を対価値的な第2 撃能力と位置づけたであろうが、その後も核実験を重ね、運搬手段を向上させるにつれ、
NFUに逆行する発言を繰り返すことになる。とりわけ、オバマ(Barack H. Obama)米大統 領が、「核態勢の見直し」(Nuclear Posture Review: NPR)報告(2010年4月6日)で、上述 の「ワルシャワ条約機構条項」と「計算された曖昧性」の放棄を宣言しながらも、NSA供 与の唯一の条件として「核不拡散規範の遵守」を挙げ、北朝鮮とイランに対しては核使用 の可能性を留保し、NFUについても核先制使用の余地を留保すると4、北朝鮮は核開発を さらに加速させた。
かくして、北朝鮮は第3回核実験(2013年2月12日)を経た2013年3月6日、「朝鮮 中央通信」論評で初めて「核先制打撃」に言及した。党・政府機関紙がこれに続き、16年 3月以降は、金正恩からも公然と「核先制打撃」が発せられるに至った。その後、金正恩 は朝鮮労働党第7回大会での党事業報告(2016年5月8日)で、「敵対勢力が核でわれわ れの自主権を侵害しない限り、先に核兵器を使用しない」と述べてNFUを宣言しながらも、
その後も「核先制打撃」に頻繁に言及している5。
そこで考慮すべきは、核戦力と通常兵力における朝鮮人民軍と米韓連合軍との関係性で あろう。金正恩は2016年3月、「わが民族の自主権と生存権を守るための唯一の方途は今 後も、核戦力を質量共により強化して力の均衡をとることだけである」6と述べたが、北朝 鮮は核戦力の増強だけで米韓連合軍との「力の均衡」がとれるわけではない。北朝鮮が米 軍および米韓連合軍に対し優位に立てるのは、非正規戦(およびBC兵器)に限られ、核 戦力はもとより通常兵力でも劣位にある。朝鮮人民軍と米韓連合軍との間の戦争が、核戦 力が使われず通常兵力に封じ込められても、北朝鮮の体制の存続は難しい。そうだとすれ ば、北朝鮮の抑止態勢に求められるのは、朝鮮半島でも武力紛争の発生時、米国に核戦力 を使わせないだけでなく、米韓連合軍に通常兵力を使わせない抑止力であるに違いない。
これに対して在韓米軍は、ブッシュ(George W. Bush)米政権の「戦術核撤去宣言」(1990 年9月28日)以降、戦術核兵器を配備していない上、地対空弾道ミサイルは有するものの、
地上軍の攻撃力を制限していた。加えて後述するように、ブッシュ米政権は盧武鉉政権と の間で、韓国軍に対する「戦時」作戦統制権を韓国軍に返還すると同時に、ソウル以北の 在韓米軍基地を南方に移転することを計画した。しかし、李明博政権と朴槿恵政権は、オ バマ政権との間でその計画の延期を繰り返し、ソウル以北で維持されてきた「トリップ・
ワイヤ」の機能は残されている。「議政府回廊」に配備される米軍は、北朝鮮の――非正規 戦を含む――対南武力行使に脆弱でなければならない。
他方、もはや平壌を攻撃できる地対地弾道ミサイルを有しない在韓米軍は、その報復力 を烏山の空軍基地、グアムのアンダーセン米空軍基地、洋上からは米第7艦隊、その他在 日米軍基地に依存する。これらの米軍基地は――「議政府回廊」の米軍とは対照的に――
北朝鮮が保有する多連装ロケット砲等の通常兵力の射程外にあり、脆弱性を免れていた。
しかも、米韓連合軍司令官が「戦時」において作戦統制権を行使する韓国軍は、「米韓ミサ イル覚書」を再改訂し、その弾道ミサイルの射程は北朝鮮全土に及ぼうとしている7。
在韓米軍は北朝鮮の対南武力行使に脆弱性と非脆弱性の双方を有していることになるが、
このような戦略的環境で、北朝鮮は米韓連合軍による空爆、弾道ミサイル発射など、大規
模な通常兵力の使用を抑止しなければならない。以下、2016年1月の「水爆」実験、同年 9月9日の第5回核実験など、北朝鮮が「最小限抑止」の下で16年にみせた対米第2撃能 力の増強を概観した後、その抑止態勢の中で対南関係がいかに位置づけられているかをみ るべく、米韓連合軍による大規模な通常兵力の使用に対する抑止力について、米韓側の対 応にも留意しつつ述べてみたい。
Ⅱ.北朝鮮の第2撃能力の現段階――確証性・即応性・残存性
仮に、北朝鮮の核態勢を「最小限抑止」と捉えた場合、その核戦力は米本土に核弾頭を 確実に着弾させる確証性に加え、米国からの第1撃に対して即座に第2撃で報復できる即 時性、また第1撃を受けた後も、第2撃能力が温存される残存性が担保されなければなら ない。これら3つの要素が有機的に関連することで、北朝鮮の第2撃能力は信頼性を増す ことができる。この視点に立つとき、北朝鮮が2016年1月初頭の「水爆」実験からその年 の夏までの約半年間にみせた第2撃能力の整備は瞠目に値する。
核弾頭着弾の確証性に関しては、北朝鮮は2016年2月に「光明星4」を発射したが、そ の射程距離は1万2000キロを超えると推定され、ほぼ北朝鮮とワシントンとの最短距離に 該当する。確かに、弾道ミサイルが目標まで飛翔することと、目標に確実に着弾させるこ とは同義ではない。3月13日に実験室で行われた 「大気圏再突入模擬実験」は、大気圏再 突入の際に発生する高熱・高圧から弾頭を保護するためのノーズコーンの耐熱性・耐圧性 を検証する目的をもっていた。この実験は「成功」したというが、最終的にはノーズコー ンの耐熱性と耐圧性は自然界に移して実証されなければならないとはいえ、ノーズコーン の開発が一定の水準に達したことを示していた。
他方、第2撃能力の即応性については、ミサイル燃料を従来の液体燃料から固体燃料に 転換する必要があるが、これを強く意識した金正恩の発言もまた、2016年3月に集中して いた。例えば同年3月初旬、金正恩は「核兵器研究部門の科学者・技術者」と面会した際、「朝 鮮式の混合装薬構造として熱核反応が瞬間的に急速に展開することができる合理的な構造 で設計製作された核弾頭」8と述べた。金正恩はここで固体燃料に言及したわけはないが、
「混合装薬構造」とは、酸化剤とロケット燃料を混合し固体化した二液燃料を指すと考えら れる。二液燃料はエンジン噴射時に加熱により、本来の酸化剤とロケット燃料に分解する 熱分解が行われなければならない。さらに、この熱分解とともに固体燃料化に必須とされ るのが、二液燃料を均等に燃焼させることで飛翔するミサイルの重心を一定に保つことで ある。そのため、燃焼実験は通例、重力に反する形でミサイルを横倒しにして行われ、熱 分解とともに、二液燃料が均等に燃焼することを確認する。
これに続き、金正恩は朝鮮人民軍戦略ロケット軍を現地視察し、「核打撃用手段の多重化 を力強く推し進め、地上、空中、海上、水中の任意の空間
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で敵どもに核攻撃を加えること ができるよう準備をしなければならない」(傍点は引用者)9と述べた。この発言もまた、
固体燃料には言及しなかったが、これが上の発言を受けての発言ならば、金正恩はここで、
固体燃料の汎用性を強調したことになる。これらの発言を受け、北朝鮮は「高出力固体ロ ケットエンジン」実験を行った。ここではやはり、熱分離と自動制御の「動作特性」の検 証を目的として行われたとされ、「1回で成功させる奇跡」を生んだという。しかも、この 報道は核弾頭を弾道ミサイルに合わせて「標準化・規格化」したと述べ、核弾頭の量産化
さえうかがわせたのである10。
すでに北朝鮮は、無誘導単連装ロケット砲「フロッグ」の後継兵器として、固体燃料化 を済ませた短距離弾道ミサイルKN-02(「トクサ」)を実戦配備しているが11、その技術を より長射程の弾道ミサイルに適用しようとしていた。ここで強調すべきは、金正恩が朝鮮 人民軍戦略ロケット軍を現地視察した際、「核打撃手段の多重化」に触れた上で、核攻撃 を行う任意の空間として「水中」に言及したことである。この発言が固体燃料の汎用性 を強調していたとすれば、「水中」からの核攻撃は、潜水艦発射弾道ミサイル(Submarine Launched Ballistic Missile: SLBM)を指すことになる。
観測される限り、金正恩の政権発足後、北朝鮮による海上からのSLBMの初の実験は 2015年1月23日、海上基地プラットホームから行われたものとみられるが12、失敗を重 ねた後、4月22日の水中射出実験を経て5月8日、同種の実験に「完全成功」したと報じ た13。固体燃料がSLBMに用いられれば、第2撃能力の即応性は残存性に直結する。
実際、北朝鮮のSLBM開発は、2016年に大きな成果をみせた。北朝鮮は16年4月23日、
東海岸新浦沖で、「戦略潜水艦弾道弾水中試験発射」と呼ぶ SLBMのKN-11(「北極星-1号」)
発射実験を行った。この実験で何よりも指摘すべきは、それが「弾道弾冷発射体系」で行 われたと報じて、海面にミサイルを射出した後に着火する「コールド・ローンチ」方式で 行われたこととともに、「新たに開発した大出力固体エンジン」が利用されたことが明ら かにされたことである14。さらに北朝鮮は8月24日にもSLBM発射実験を行っているが、
このとき『労働新聞』は、4月の実験と同様に、それが「コールド・ローンチ」方式で行 われた上で固体燃料が用いられたと報じた上で、「熱分解」と「操縦及び誘導体系の信頼性、
再突入弾頭部分の命中確度をはじめ弾道弾の核心技術指標らが作戦的要求に完全に到達し たことを確認した」の述べたのである15。
さらに、2016年9月9日、北朝鮮は第5回核実験を強行した。ここで上述の「高出力固 体ロケットエンジン」実験の際と同様に「標準化・規格化」に言及し、核弾頭の性能と威 力を確認した」16との「核兵器研究所声明」を発表した。「標準化・規格化」が量産体制を 意味するとすれば、北朝鮮は核実験を5回繰り返すことで、核弾頭製造の技術の水準が一 定水準に達し、量産体制に入ることを意味していた。
Ⅲ.米韓連合軍「エスカレーション阻止」の相剋――「安定・不安定逆悦」
このような北朝鮮の第2撃能力の増強は、対南関係にいかに反映するか。かつて、金正 日存命中、2009年5月25日の第2回核実験と「テポドン ‐2」発射で第2撃能力を向上 させた北朝鮮は、その翌年3月末、黄海で「天安」を撃沈させ、同年11月には延坪島への 砲撃を強行したが、後述するように、2015年8月には軍事境界線付近の漣川で砲撃戦が展 開された。これらの対南武力行使が――唯一の要因ではないにせよ――第2撃能力の増強 を背景とするならば、「安定・不安定逆説」が説くように、北朝鮮が米国の軍事介入を抑止 できると認識したことが、対南武力行使のハードルを下げたことになる。
これに対して米韓側の通常兵力の多くは、朝鮮戦争以降、「議政府回廊」と呼ばれるソウ ル以北の東豆川付近に配備され、第2歩兵師団の主力がそれを担う。これらは南北間の戦 闘が一定程度にエスカレートした際、米軍が「戦時」を宣言すれば、韓国軍主要部隊に対 して作戦統制権を行使しつつ、その戦闘に介入する。この部隊は、「トリップ・ワイヤ」と
しての機能の大半を担い、北朝鮮の火力に脆弱でなければならない。ソウル以北に配備さ れた通常兵力こそが、北朝鮮による武力行使からソウルに波及することを防ぐ主力と考え られてきた。
確かに、盧武鉉政権とブッシュ政権は「戦時」作戦統制権の韓国側への返還とソウル以 北の米地上軍を黄海に面する平澤などに移転するという二つの課題を2012年4月に完了す ることに合意していた。しかしその後、李明博政権はオバマ政権との間で、その二つの課 題を「同期化(synchronization)」させつつ、完了期日を15年12月1日に延期することに 合意し、それを戦略文書『戦略同盟2015』に纏めた。さらに朴槿恵政権は、「戦時」作戦 統制権の返還と在韓米軍地上軍の再配置という二つの課題を再延期することでオバマ政権 から合意を得た。かくして、14年10月23日のワシントンでの米韓安保協議会(US-ROK Security Consultative Meeting: SCM)は共同声明で、韓国軍に対する「戦時」作戦統制権は 15年12月1日以降も米軍の掌中にあり続け、その後の返還については「条件ベース」で 議論されることが決定された。このときのSCM共同声明では、南方に移転するはずの第2 歩兵師団の兵力の主要部隊は、「議政府回廊」に留まることになり、米軍移転計画も部分的 にせよ凍結されたのである17。
ここで想起すべきは「米韓共同局地挑発対備計画」である。この計画は、李明博政権期 の韓国海軍哨戒艦「天安」沈没(2010年3月26日)と延坪島砲撃(2010年11月23日)
を受け作成に着手され、朴槿恵政権発足直後の2013年3月に策定された。この計画は、北 朝鮮の武力行使が黄海上から内陸部に及んだ場合、北朝鮮が優位に立つ非正規戦に対し当 面は韓国軍が自衛権で対応するにせよ、それがエスカレートしたとき、米軍が「戦時」を 宣言して、南北間の戦闘に関与することがその骨格となっていた。すでに「戦時」作戦統 制権の再延期と米軍移転の部分的凍結を正式に決定する以前に、米軍が韓国軍に「戦時」
作戦統制権を行使し続け、その際に米軍の介入を担保するために、北朝鮮の火力に脆弱な ソウル以北――とりわけ「議政府回廊」――への米軍駐留が前提となっていた。
ただし、そこに駐留する米地上軍は、北朝鮮に核使用を考慮させるまでの攻撃力を有し てはいない。そもそも、ブッシュ大統領の「戦術核撤去宣言」以降、在韓米軍は戦術核を 撤去している上、地対空弾道ミサイルは有するものの、地上軍の攻撃力を制限している。
確かに、東豆川に駐留する米第210火力旅団は、海外駐留の米地上軍で唯一、多連装ロケッ ト砲3個大隊を擁し、そのM-270システムは各種ロケット砲とミサイルを含む兵器群(MLRS Family of Munition Rockets and Artillery Missiles: MFOM)を有するが、平壌を攻撃できる火 力を有しない。その陸軍戦術ミサイルシステム(Army Tactical Missile System: ATACMS)は、
在韓米軍が戦術核撤去以降保有する唯一の地対地ミサイルであるが、その射程距離165キ ロは、前線から平壌までの最短距離168キロには及ばない。
このように、「議政府回廊」に駐留する在韓米地上軍が攻撃力を制限しているのは、北朝 鮮の通常兵力を凌駕する米韓連合軍の通常兵力の使用を確保するためであった。確かに、
米韓連合軍の抑止が失敗し、北朝鮮の対南武力行使を許したとしても、それが限定的な場 合、在韓米軍の報復もそれに相応する規模に留めることで、北朝鮮が武力行使のさらなる エスカレーションを思いとどまるかもしれない。それが奏功すれば、「議政府回廊」での武 力衝突は局地戦で終わることになる。しかし、在韓米軍の意図に反して、北朝鮮が武力行 使をエスカレートさせ、ソウル攻撃を敢行すれば、米韓連合軍は平壌攻撃を考えざるをえ
ない。その際、米軍は烏山米空軍基地、在日米軍、グアムのアンダーセン空軍基地からの 空爆と第7艦隊からの攻撃、さらには「戦時」下で米軍の作戦統制を受ける韓国軍の弾道 ミサイルに依存することになる。
この計画が試されたのが、2015年8月の「漣川砲撃事件」であった。この事件は、北朝 鮮が敷設したとされる地雷の爆破により韓国軍下士官が負傷したことに端を発するが、北 朝鮮の砲撃に対して韓国が自走砲で反撃した後、砲撃は続かなかった。北朝鮮は韓国から の砲撃を受けた後、事態収拾のための協議を提案した韓国側に同意し、黄炳瑞朝鮮人民軍 総政治局長と金養建朝鮮労働党統一戦線部長を板門店の韓国側施設「平和の家」に派遣し た。協議の末、最終的に交わされた「8・25合意」で事態は一旦収拾した。その間、第210 砲兵旅団は砲撃準備を整えていたという18。これゆえに、北朝鮮のさらなる砲撃を抑止し たとするなら、「米韓共同極地挑発対準計画」は当初の目的通りに作動し、米韓側のエスカ レーション・ラダーは、その初期段階で機能したことになる。
翻って、北朝鮮がソウル攻撃を局地戦で終わらせるためには、米韓側の通常兵力行使を 思い止まらせなければならない。とりわけ、平壌への弾道ミサイル攻撃は避けなければな らない。確かに、北朝鮮は短距離弾道ミサイル「スカッド」、さらには単連装ロケット砲「フ ロッグ」の後継として実戦配備後に射程を伸ばしたKN-02で対南核攻撃の能力をもつが19、 その攻撃は確実に米国による核報復を招く。北朝鮮がソウル以北での非正規戦に対して、
米韓連合軍はまず、通常兵力による砲撃・空爆の可能性を示唆するであろう。これらの兵 力は烏山の在韓米軍空軍基地、群山の韓国空軍基地など、前線から150キロ前後の距離に あり、韓国軍統合司令部を擁する忠清南道鶏龍台もほぼ同距離にある。加えて、在韓米軍 基地移転の一環として計画された司令部の移転先である平澤も、ソウルから約80キロにあ り、前線からは150キロ前後南方の距離にある。
これに加えて勘案すべきは、韓国軍の弾道ミサイルの射程である。そもそも冷戦期、韓 国軍の弾道ミサイルは、韓国「戦時」における米国の「巻き込まれ」の懸念から、「米韓ミ サイル覚書」で射程は180キロに制限されていた。冷戦終結を経た金大中政権下、「米韓 ミサイル覚書」は改訂され、韓国軍は上限300キロまでの弾道ミサイル開発が許されたが、
それでも北朝鮮の通常兵力からの脆弱性を免れようとすれば、前線から約150キロ以上南 方に配備されなければならず、平壌を攻撃できなかった。
その後韓国は、李明博政権下、その当時『戦略同盟2015』で――2015年12月に延期さ れたとはいえ――「戦時」作戦統制権が返還され、在韓米軍基地もソウル以北を離れるこ とになっていたことから、独自抑止力をもつ必要性に直面した。李明博政権は10年9月か ら約1年の協議を経て、11年に「米韓ミサイル覚書」を再改訂し、上限800キロまでの射 程の弾道ミサイルの開発に合意を取りつけた。15年6月に実験に成功した射程約500キロ 以上の「玄武ⅡB」をはじめ、射程が伸びた弾道ミサイルは、北朝鮮の火力からの脆弱性 を回避しつつ平壌を攻撃できる「南方限界線」以南に配備されることになる。これにより、
北朝鮮の弾道ミサイルは韓国全土を射程に収める反面、韓国の弾道ミサイルは平壌すら打 撃できないという「ミサイル不均衡」は――「戦時」には米軍の作戦統制下に入るとはい え――解消されたことになる20。
翻れば、北朝鮮が米韓連合軍によるこれらの基地と装備の使用を阻止するためには、射 程150キロ以上のロケット砲が必要とされる。ところが、従来北朝鮮が保有するロケット
砲のなかで最も長射程のロケット砲は240ミリ多連装ロケット砲であったが、その射程は 約90キロと推定されていた21。その射程距離では、前線から発射されても烏山米空軍基地 には到達せず、「南方限界線」を越えることもできなかった。北朝鮮にとって必要だったの は、核戦力を用いずに、烏山米空軍基地、「南方限界線」以南に配備される韓国軍弾道ミサ イルを打撃できる通常兵力であった。このような通常兵力を手に入れて初めて、北朝鮮は、
米国の核による報復を免れ、平壌空爆を抑止できると考えることになる。
Ⅳ.対南「エスカレーション阻止」――「南方限界線」突破と対米核攻撃
(1)対南飽和攻撃のための装備――KN-09開発
上のような背景から、北朝鮮が烏山米空軍基地、「南方限界線」以南に配備される韓国軍 の弾道ミサイルを打撃できる通常兵力の開発に注力したのは自然であった。それは既存の 240ミリ多連装ロケット砲の射程90キロを延ばし、「南方限界線」以南に配備される韓国 の弾道ミサイルを射程に収めなければならなかった。そこで挙げるべきは、多連装ロケッ ト(「放射砲」)KN-09(「主体100号」)であろう。この原型は旧ソ連・ロシア製BM-30(「ス メーチ」)300ミリ12連装ロケット砲、あるいは中国のWS-1B(「衛士」)302ミリ4連装 ロケット砲と考えられ、これを8連装に改良したことが2013年5月に確認された後、その 翌年に発射実験が実施された。韓国国防部はその射程距離を200から220キロと推定した
が22、KN-09がこの射程をもてば、米韓連合軍が北朝鮮の火力からの脆弱性を免れようと
して配備した通常兵力のほぼ全てに飽和攻撃を行うことができる。
KN-09は2014年10月の軍事パレードで公開されたが、この装備がその後技術的に進歩
したことは、16年3月に金正恩が行った現地指導の際、「朝鮮中央通信」が配信したその 諸元と開発経緯に関する報道からも知ることができる。この報道によれば、KN-09の開発 は金正恩が2012年に「直接提案」したことに端を発し、金正恩は以降13回「火線で直接 指導した」という23。2012年は上述の「米韓ミサイル覚書」再改訂の翌年にあたり、韓国 軍は射程上限800キロまでの弾道ミサイル開発を許された。これにより、韓国はそれらを「南 方限界線」以南に配備しても、平壌はもとより北朝鮮全土を射程内に収めることができる。
ところが、KN-09が韓国の弾道ミサイル射程延長に対抗して開発されたなら、KN-09は「南 方限界線」以南にもその抑止力を伸長できる装備ということになる。そうなれば、「南方限 界線」は、もはや北朝鮮の火力からの脆弱性を免れる線ではなくなる。
さ ら に、 こ の 報 道 に よ る と、KN-09の 試 験 射 撃 は「 破 片 地 雷 弾(fragmentation mine shell)」、「地下浸透弾(under-ground penetration shell)」、「散布弾(scattering shell)」を装着 した「様々な射撃方式」で行われたという。「破片地雷弾」、「地下浸透弾」、「散布弾」は 一般的な呼称でないが、それぞれクラスター弾、地下貫通弾、榴弾を指すと考えられる24。 それら装備の信頼性はともかく、北朝鮮が「高エネルギー物質を混合し、威力を高めた放 射弾戦闘部(ロケット砲弾頭を指す)の破壊殺傷力が驚くほどの威力であることを検証・
確認した」(括弧内は引用者)と報じていたことをみると、通常弾頭以上の破壊力を発揮す る何らかの物質も用いられたと考えてよい。
KN-09の開発により、北朝鮮はそれまで非核戦力では抑止不能と考えられてきた烏山米
空軍基地、群山韓国軍空軍基地のみならず、「南方限界線」以南に配備される韓国の弾道ミ サイルを射程に収め、抑止可能と認識するかもしれない25。その抑止力は前線での戦闘が
ソウル攻撃に及ぼうとしたとき、それを抑止する米韓連合軍の通常兵力による威嚇を相殺 する効力をもつ。北朝鮮は米韓連合軍の大規模な通常兵力行使を抑止しつつ、ソウルでの 戦闘を敢行できると認識するかもしれない。実際、金正恩はここで、「一旦攻撃命令が下 されれば(中略)悪の巣窟であるソウル市内の反動統治機関を無慈悲に打撃しながら進軍 して、祖国統一の歴史的偉業を成し遂げなければならない」と述べていた。さらに金正恩 は、後に米韓合同軍事演習「キー・リゾルヴ」、「フォール・イーグル」に対抗して、「青瓦 台とソウル市内の反動統治機関を撃滅、掃討」するための朝鮮人民軍前線大連合部隊によ る「長距離砲兵大集中火力攻撃演習」を指導したが、そこには「最新砲兵部隊が装備した 主体砲百数十門に達する各種後継の長距離砲」が参加したという26。この演習を受け、『労 働新聞』は「無敵を誇るわが砲兵集団の威力ある大口径ロケット砲も朴槿恵が屯する青瓦 台を瞬時に焦土にする撃動状態にある」と述べた上で、「南半部作戦地帯の敵後方」27に触 れた。これが「作戦地帯の敵後方」が「南方限界線」以南を指すなら、ここで『労働新聞』
はKN-09が「南方限界線」以南を射程に収めたことを示唆していたのかもしれない。
(2)「ムスダン」の効用と核戦力の局地的使用――米軍増援拒否
北朝鮮がKN-09で「南方限界線」以南の米韓連合軍の通常兵力を抑止しつつ、「青瓦台
とソウル市内の反動統治機関を撃滅、掃討」する作戦を敢行した場合、それは米韓連合軍 にとって大規模な通常兵力を投じて報復するに足る武力行使となる。それは朝鮮半島にお ける全面戦争の開始を意味する。その場合米国は、在日米軍のみならず、グアムのアンダー セン空軍基地からの戦闘行動の発進を考えることになる。
北朝鮮もこれを知悉している。朝鮮人民軍最高司令部は2016年2月、「第1攻撃対象」を「青 瓦台と反動統治機関」とし、「第2攻撃対象」を「アジア太平洋地域の米侵略軍の対朝鮮侵 略基地と米国本土」と指定する「重大声明」を発表した28。ここでいう「アジア太平洋地 域の米侵略軍の対朝鮮侵略基地」とは、在日米軍とアンダーセン米空軍基地を指すと考え てよい。「第1攻撃対象」と「第2攻撃対象」に向けた軍事行動の間に――どれほどかは不 明であるが――時間差を設定していること自体、北朝鮮がソウル攻撃と在日米軍、アンダー セン空軍基地、そして米本土に対する攻撃の間に「エスカレーション・ラダー」を設けて いたことを示唆している。
ここで取り上げるべきは、中距離弾道ミサイル「ムスダン」である。北朝鮮は2013年の
「春の攻勢」の際、この弾道ミサイルの発射準備を整えながらも発射を見送ったが、16年 4月からの発射実験を繰り返しながら、失敗を重ねていた。「ムスダン」はすでに移動式発 射台に装填されて久しく、北朝鮮は、「銀河-3」等、一連の「テポドン ‐2」派生型を「西 海衛星発射場」から発射したときとは異なり、宇宙の平和利用の権利も主張しなかった。
「ムスダン」発射は漸く6月22日の実験で成功したというが、この実験は「高角発射体系」
で行われたとされ、最高高度1413.6キロに達した後、大気圏再突入を果たし、400キロ 先の目標に落下したという29。400キロの飛翔のために1400キロを超える高度は必要ない。
この「ムスダン」発射の第1の目的は、3月中旬に実験室での「大気圏再突入模擬実験」
で検証されたとされるノーズコーンの耐熱性を自然界に移して検証することにあった。弾 頭は日本海に落下したため、北朝鮮はそれをいまだに回収できていないが、この実験がノー ズコーンの耐熱性を米国に誇示する目的をもっていたことは明らかであった。
「ムスダン」発射の第2の目的こそ、北朝鮮が想定するエスカレーション・ラダーに関連 する。そもそも、「ムスダン」は旧ソ連のSLBMであるR-27を地対地モードに転換したも のとされ、その射程距離は2000から4000キロと推定される。したがって、「ムスダン」は「ノ ドン」と同様、日本への対価値攻撃力をもつが、最大推定射程約4000キロは北朝鮮から 日本までの距離を超えるが、米本土には及ばない。それが主たる打撃対象とするのは――
在日米軍はもとより――それが射程に収めるグアムのアンダーセン米空軍基地と考えてよ い。実際、「ムスダン」発射実験の直前、国防委員会は代弁人談話を通じて、アンダーセン 空軍基地を「朝鮮半島を作戦目標とする米国の海外侵略基地」と見なすと言及した30。また、
金正恩も「ムスダン」発射実験に際して、これが「太平洋作戦地帯内の米国の連中を全面 的かつ現実的に攻撃できる確実な能力を備えることになった」31と述べた。ここでいう「太 平洋作戦地帯」に、アンダーセン米空軍基地が含まれることは指摘するまでもない。
もとより、北朝鮮が在日米軍基地、アンダーセン米空軍基地に対する威嚇を考えるとき、
KN-09による米韓連合軍の通常兵力使用抑止に失敗している。さらに、これらの基地は
KN-09の射程を遥かに超える。北朝鮮にとって、米国によるこれらの基地使用を阻むため
に残された手段は――たとえ米軍が通常兵力のみを用いるとしても――やはり核使用の威 嚇となる。実際、金正恩は「ムスダン」の発射成功の際、その前月の党大会でNFUを宣言 したにもかかわらず、「先制核打撃能力を持続的に研究、開発しなければならない」と指摘 していた。また同年8月初旬、米空軍が米韓合同軍事演習「乙支フォーカス・ガーディアン」
を念頭に、アンダーセン空軍基地にB-2Bに続いてB-2Aをローテ―ション配備することを 発表すると、『労働新聞』は論説で「核先制打撃は米国の独占物ではない」と批判し32、朝 鮮人民軍参謀部も代弁人談話を通じて、「万一米帝がB-1Bの類を引き続きわれわれの上空 に投入して軍事的挑発の危険の度を高めるなら、われわれは挑発の本拠地グアム島を必ず 地球上から消し去るであろう」33と述べたのである。したがって、「ムスダン」はアンダー セン空軍基地を射程に収める対兵力攻撃力を担うことになる。冒頭で述べたように、「最小 限抑止」態勢における第2撃能力は対価値的と考えられるが、「ムスダン」に関する限り、
すでに対兵力的な属性を備えつつある。
ただし、上述の通り、2016年2月に発表された朝鮮人民軍最高司令部の「重大声明」は、「第 1攻撃対象」を「青瓦台と反動統治機関」とし、「第2攻撃対象」を「アジア太平洋地域の 米侵略軍の対朝鮮侵略基地と米国本土」と指定したが、北朝鮮が「ムスダン」発射成功後、
核戦力が朝鮮半島内部にも用いられることを示唆したことは強調しなければならない。確 かに7月20日、朝鮮人民軍板門店代表部代弁人は声明を通じて、朝鮮戦争初期、韓国軍の 作戦指揮権を国連軍最高司令官に委譲した「大田協定」66周年にあたって、「わが軍隊は 既に、南朝鮮占領米帝侵略軍が1次打撃対象であり、それに追従する傀儡逆賊らの運命も 変わらない」34と述べた。現在、韓国軍に対して米韓連合軍司令官が作戦統制権を掌握す る形となっており、「一次打撃対象」が米韓連合軍であることは明らかである。しかし他方、
これと同日に金正恩の朝鮮人民軍戦略軍火星砲兵部隊の弾道ロケット発射訓練の現地指導 が報じられた。ここでは、「米帝の核戦争装備が投入される南朝鮮の作戦地帯にある港と飛 行場を先制攻撃することを想定し、射程を制限して行った」と報じられ、そこに掲載され た地図では、釜山と蔚山が着弾地点として表示された35。
いうまでもなく、ここでいう火星砲兵部隊は核戦力も含む。この報道でも「朝鮮労働党
の信頼できる核武装力である誇らしい朝鮮人民軍戦略軍火星砲兵部隊」と言及され、この 現地指導には「核兵器研究部門の科学者、技術者」も同行していた。この訓練に動員され た兵器は、朝鮮中央テレビで報じられた形状からすると、「スカッド」、「ノドン」と考えら れ、いずれも移動式垂直起倒発射台から発射されていたという36。この訓練内容からみれば、
北朝鮮は米軍来援を阻むために、在日米軍、アンダーセン米空軍基地を「ムスダン」で攻 撃できる能力に加えて、米軍が来援する韓国内部にも「スカッド」、あるいは「ノドン」の 射程を制限することで攻撃できる能力を誇示したことになる。これもまた、中距離核ミサ イルが対兵力に用いられる兆候を示している。
Ⅴ.結語――核兵器「早期使用」の可能性
2016年1月の「水爆」実験と主張する第4回核実験と同年9月の第5回核実験、弾頭の 再突入のためのノーズコーン、弾道ミサイルの固体燃料化、SLBM実験など――その信頼 性には不十分な部分であるとはいえ――2016年にみせた北朝鮮の第2撃能力の向上は瞠目 すべきものがある。「安定・不安定逆説」が説くように、北朝鮮がその第2撃能力で米国の 朝鮮半島への軍事介入を阻止できると認識すれば、対南武力行使のハードルは相対的に下 がる。実際、北朝鮮の対南武力行使は2010年の「天安」沈没と延坪島砲撃から、2015年 の漣川砲撃へと黄海から内陸にエスカレートしたのである。
すでに米韓連合軍は、「天安」沈没当初から、これを懸念して「米韓共同局地挑発対備計画」
の作成に着手し、2013年春に策定に至った。この計画は、北朝鮮の対南「局地挑発」に韓 国軍が自衛権行使で対応するにせよ、それが一定以上にエスカレートした場合には、米軍 の介入を確実にすることを骨子としていた。したがって、この計画は全面戦争に至る初期 段階を管理することを目的とし、北朝鮮の対南「局地挑発」が米軍介入にエスカレートす る可能性を示すことで、それを抑止することこそ、最大の目的であった。ただしそこでは、
北朝鮮の「局地挑発」が抑止できなかった場合も、米軍の介入は全面的であってはならな かった。それは北朝鮮の武力行使のエスカレートを抑止すべく、米韓連合軍による大規模 な武力行使に連動するに留められなければならなかった。
この力学は、1980年代の欧州中距離核戦力(Intermediate Nuclear Forces: INF)交渉にお ける北大西洋条約機構(North Atlantic Treaty Organization: NATO)の対応を想起させる。そ こでNATOは、ソ連が配備した欧州全体を射程に置く中距離核ミサイルSS-20に対し、西 ドイツに中距離核ミサイル「パーシング(Pershing)-II」を配備することで対抗しようとした。
ただし、「パーシング-II」は東欧全域だけでなく、レニングラード(現サンクトペテルブルグ)
までも射程に収めながらも、敢えてモスクワには届かないよう設定された。NATO側の認 識において、モスクワ攻撃は米国の戦略核に依存するものであって、「パーシング-II」が その任務を担ってはならなかった。もし、「パーシング-II」がその任務を担えば、米国の 介入なしに――米国と「ディカップリング」された――欧州大陸で、ソ連と西欧が核ミサ イルの応酬に終わる恐れすらあった。「パーシング-II」が米国の戦略核との「カップリング」
のための兵器と呼ばれる所以もここにあった37。
「議政府回廊」に配備される在韓米軍は、西ドイツに配備された「パーシング-II」とそ の機能において酷似する。上述の通り、「議政府回廊」の米第210砲兵旅団の打撃対象に平 壌は含まれない。その攻撃能力は、烏山米空軍基地、「南方限界線」以南に配備される韓国
軍の弾道ミサイルの使用に連動するにとどめなければならない。もし、この在韓米地上軍 が平壌を打撃する能力をもてば、前線での非正規戦が在韓米地上軍の平壌攻撃と北朝鮮の ソウル攻撃を誘発し、その時点で朝鮮半島は全面戦争に発展するかもしれない。そこで北 朝鮮が体制維持を困難と判断すれば、その時点で米本土への核攻撃を決断するかもしれな い。これは前線での非正規戦への対応としては、リスクとコストが高過ぎる。
この事態を回避するため、北朝鮮の前線での非正規戦に対する在韓米地上軍の報復をあ えて限定的にし、北朝鮮によるソウル攻撃を誘発することは避けなければならなかった。
米韓連合軍の大規模な通常兵力によって平壌を攻撃できる能力は、むしろ北朝鮮のソウル 攻撃を抑止するものであって、平壌への攻撃はその抑止が敗れるまで留保されなければな らなかった。「米韓共同局地挑発対備計画」は、その前段階で作動する計画であり、そこで 中心的役割が与えられた第210砲兵旅団は、米韓連合軍の大規模な通常兵力による平壌攻 撃に連動する「カップリング」のための部隊でなければならなかった。
このような米韓側のエスカレーション・ラダーを可能にした要因の一つは、韓国が「米 韓ミサイル覚書」を再改訂することで、その弾道ミサイルが平壌を含む北朝鮮全域を射程 に収め、それ以前の南北間の「ミサイル不均衡」を解消したことであった。これにより、
米韓連合軍は、北朝鮮によるソウル攻撃の抑止に失敗しても、北朝鮮の火力からの脆弱性 を免れつつ、平壌への攻撃能力を温存することができるはずであった。
これに対して北朝鮮は、そのエスカレーション・ラダーを念頭に置くとき、それ以前は 通常兵力では射程外にあった烏山米空軍基地、「南方限界線」以南の米韓連合軍の通常兵力 を打撃できる兵力の開発を考えざるをえなかった。とりわけ、韓国が「米韓ミサイル覚書」
を再改訂して、「南方限界線」以南からも平壌を打撃できる弾道ミサイルの開発を許された ことは、北朝鮮をしてその必要性を強く認識させたに違いない。金正恩が「米韓ミサイル 覚書」再改訂の翌年にKN-09の開発を指示したのは、烏山空軍基地はもとより、「南方限 界線」以南に配備される射程を伸ばした弾道ミサイルに対しても飽和攻撃の能力を示すこ とで、その発射を抑止するためであった。
もとより、KN-09で北朝鮮が通常兵力で米韓連合軍より優位に立てるわけではない。し かし、北朝鮮がこれらの米韓連合軍の通常兵力を抑止できるとの判断から、ソウル攻撃を 敢行すれば、米韓連合軍は通常兵力の使用を躊躇うとは考えにくい。その場合、北朝鮮は 在日米軍はもとより、グアムのアンダーセン米空軍基地からの戦闘行動の発進を抑止しな ければならない。その際、北朝鮮の通常兵力は日本にもグアムにも到達しない。これらの 米軍の戦闘行動の発進がたとえ通常兵力によるものであっても、北朝鮮は在日米軍、アン ダーセン米空軍基地への抑止は核によることになり、先制攻撃という形をとることになる。
「ムスダン」は、その目的を担う兵器であるからこそ、2016年6月にその発射成功の際、
金正恩は――朝鮮労働党第7回大会でのNFU を宣言したにもかかわらず――「核先制打撃」
に言及した。冒頭で触れた通り、北朝鮮の抑止態勢の基調は「最小限抑止」と考えてよいが、
本来はその構成要素であるはずのNFUは、最高指導者によって信憑性は著しく損なわれて いる。また、「最小限抑止」態勢では、その核戦力は核戦争を戦い抜くための対兵力ではな く、対価値兵力とされてきたが、「ムスダン」は――少なくともアンダーセン米空軍基地と の関係でいえば――対兵力的な意味を持ちはじめている。そう考えたとき、北朝鮮は「最 小限抑止」を基調としつつも、その態勢から脱却しつつある側面は否定できない。
もとより、北朝鮮が米国との核戦争を戦い抜こうとしているわけではない。北朝鮮の核 態勢は「最小限抑止」を基調とする一方、ナラン(Vipin Narang)の類型でいう「非対称的 エスカレーション核態勢(asymmetric escalation posture)」にも近い。この核態勢は、敵対 国の優勢な通常兵力使用を抑止するため核先制使用の可能性を示し、対価値、対兵力攻撃 の用意を示す。冷戦期のフランス、核実験後のパキスタン、イスラエルの核態勢がこれに あたるというが38、上にみた北朝鮮のエスカレーション・ラダーと「核先制打撃」の言辞 をみると、北朝鮮の核態勢もまた、「非対称的エスカレーション核態勢」の側面をもつ。し たがって、北朝鮮は「最小限抑止」の下で第2撃能力の構築を図るインドの核態勢と共通 する部分をもちながら、核先制使用の可能性を留保することでインドの通常兵力使用を抑 止するパキスタンの「非対称的エスカレーション核態勢」と共通する部分も併せもつ。
仮に、北朝鮮の核抑止態勢がパキスタンと同様の「非対称的エスカレーション核態勢」
と共通するにしても、それが「最小限抑止」を基調とするが故に、そのエスカレーション・
ラダーは安定したものではない。「安定・不安定逆説」が説くように、北朝鮮の第2撃能力 が高まるにつれ、北朝鮮の対南武力行使のハードルは下がる。しかも、北朝鮮がKN-09に みられるように、通常兵力の射程を伸ばして米韓連合軍の脆弱性を高めれば、前線での局 地戦がソウル攻撃に発展する蓋然性は高まる。
他方、米韓連合軍にとってソウル攻撃は、平壌に対する通常兵力使用を強行する状況と しては十分な条件となる。そうなれば、その時点で朝鮮半島は通常兵力による全面戦争に 陥ることになる。そのとき、米国は在日米軍、グアムのアンダーセン米空軍基地からの戦 闘行動の発進を考えることになる。そこで北朝鮮が相互抑止に主導権――「エスカレーショ ン・ドミナンス」を得ようとすれば、これらの基地からの戦闘行動の発進を阻むために、
核使用の意思を示すであろう。それにもかかわらず、米軍がこれらの基地からの戦闘行動 の発進を決意すれば、北朝鮮は核使用を考えるかもしれない。
なお、北朝鮮が核使用を考えるのは、在日米軍、アンダーセン米空軍基地に対してとは 限らない。2016年の米韓合同軍事演習「フォール・イーグル」が北朝鮮首脳部を攻撃する「斬 首作戦」を含むと報じられたとき、北朝鮮はこれを痛烈に批判し、外務省は代弁人談話を 通じて、「この地で戦争が起こる場合、それは朝鮮半島に限られないだろうし、通常戦力だ けによる戦争にとどまらないであろう」39と述べた。米韓連合軍が「斬首作戦」と公式に 報じたわけではないが、ここで北朝鮮は、米国を巻き込む「水平的エスカレーション」だ けではなく、朝鮮半島の局地で核使用を含む「垂直的エスカレーション」の意思を同時に 示したことになる。
もとより、「斬首作戦」は北朝鮮の政治体制の崩壊を意味する。北朝鮮が、「斬首作戦」
を米韓連合軍がそのエスカレーション・ラダーを一気に駆け上がる作戦と認識すれば、北 朝鮮もまた、「エスカレーション・ドミナンス」を得ようと、烈度が低い段階で核使用を考 える「早期使用(early use)」の危険性を孕む40。「ムスダン」発射実験後の北朝鮮が朝鮮半 島内部での核使用の意思を示したのは、これと同様の脈絡に属するのかもしれない。これ は「非対称的エスカレーション核態勢」というより、イスラエルが自国の政治体制の犠牲 の上に、核使用を含んで周辺国を巻き込む「サムソン・オプション」に近い。これは、米 韓連合軍の烈度の低い「米韓共同局地挑発対備計画」から始まるエスカレーション・ラダー を無効にする。北朝鮮の「エスカレーション・ドミナンス」の陥穽はここにある。
― 注 ―
1 本稿の概略はすでに、Hideya Kurata, “North Korea’s Military Development: Emerging Escalation Ladder,”
CSCAP Regional Security Outlook: 2017, Canberra: Council for Security Cooperation in the Asia Pacifi c, 2016,
pp.34-36で示しているが、本研究プロジェクトの中間報告、拙稿「北朝鮮の核保有の修辞と通常兵力
増強の論理 ――『戦略同盟2015』の修正過程と米朝平和協定提案」平成27 年度外務省外交・安全保 障調査研究事業費補助金(発展型総合事業)『安全保障政策のリアリティ・チェック――新安保法制・
ガイドラインと朝鮮半島・中東情勢:朝鮮半島情勢の総合分析と日本の安全保障』、日本国際問題研究 所、2016年3月の内容を念頭に置きつつ、「エスカレーション・ラダー」を中心にさらなる考察を加え、
注記を施したものである。
2 拙稿「米韓抑止態勢の再検討――『戦時』作戦統制権の返還再延期の効用」、平成26年度外務省外交・
安全保障調査研究事業『朝鮮半島のシナリオ・プランニング』、日本国際問題研究所、2015 年3月、
16頁を参照。
3 拙稿「六者会合と『安全の保証』の地域的展開――米国の核態勢と北朝鮮『核保有』の修辞」小此木政夫・
西野純也編『朝鮮半島の秩序再編』、慶應義塾大学出版会、2013年、249頁。
4 NPR-2010が北朝鮮にもつ含意については、同上、253-255頁を参照。
5 2013年4月1日の最高人民会議法令「自衛的核保有の地位を一層強化することについて」の採択から、
16年夏までの金正恩による核使用に関する言辞については、拙稿「金正恩『核ドクトリン』の生成と 展開――比較のなかの北朝鮮『最小限抑止』の現段階」『北朝鮮をめぐる将来の安全保障環境』、防衛 研究所、2017年(近刊)を参照されたい。
6 「敬愛する金正恩同志が新型大口径放射砲試験射撃を指導された」『労働新聞』2016 年3月4日。
7 この経緯の詳細は、拙稿「米韓抑止態勢の再検討――『戦時』作戦統制権の返還再延期の効用」、平成 26年度外務省外交・安全保障調査研究事業『朝鮮半島のシナリオ・プランニング』、日本国際問題研究所、
2015 年3月、80-81頁を参照。
8 「敬愛する金正恩同志が核兵器研究部門の科学者、技術者らとお会いになり核武器兵器化事業を指導さ れた」『労働新聞』2016年3月9日。以下、この報道からの引用はこの文献による。
9 「敬愛する金正恩同志が朝鮮人民軍戦略軍の弾道ロケット発射訓練をご覧になった」『労働新聞』2016 年3月11日。
10 「わが党の国防科学技術重視政策が生んだいま一つの輝かしい成果、大出力固体ロケットエンジン地上 噴出及び段階分離実験に成功――敬愛する金正恩同志が大出力固体ロケットエンジン地上噴出及び段 階分離試験を指導された」『労働新聞』2016年3月24日。この報道は、この実験は、金正恩の命令から「僅 か6か月」でその任務を完遂したと記している。なお、核弾頭の量産化を示唆する「標準化・規格化」
は、後述するように、同年9月の第5回核実験の際、「核兵器研究所」の声明でも触れられるが、北朝 鮮の報道がこの語に触れたのは、管見の限り、この実験が最初と考えられる。
11 KN-02はロシアの9M79-1(「トーチカ」)を原型とし、2005年5月1日に清津近郊で5発の発射実験
を行ったとされる。そのうち2発が発射直後落下し、2発が標的から外れ、1発が不発だったというが(張 哲運『南北韓ミサイル競争史――玄武VS火星』ソウル、先人、2015年、175頁)、07年4月の軍事パ レードで公開された。KN-02は翌08年から実戦配備されたと観測され、その射程は約100から200キ ロと推定されていた(See, Anthony H. Cordesman, Aaron Lin with Scott Modell, Michael Peacock and Steven Colley, The Changing Military Balance in the Koreas and Northeast Asia: A Report of the CSIS Burke Chair in Strategy, Lanham: Rowman & Littlefield, 2015, p. 190)。その他、KN-02の諸元については、See, Joseph S.
Bermudez, Jr., “KN-02 SRBM,” KPA Journal, Vol 1, No. 2 (February 2010), pp. 7-13
12 この時期の北朝鮮のSLBM実験については、ワシントン・フリー・ビーコンが引用した米国防当 局 者 の 観 測 に よ る。See, Bill Gertz, “North Korea Flight Tests New Submarine-Launched Ballistic Missile Pentagon: KN-11 Missile Test Fired from Floating Platform, February 18, 2015” <http://freebeacon.com/national- security/north-korea-fl ight-tests-new-submarine-launched-ballistic-missile/>.
13 「先軍朝鮮の無尽莫強な威力の力強い誇示、戦略潜水艦弾道弾水中試験発射に完全成功――敬愛する金 正恩同志が試験発射をご覧になった」『民主朝鮮』2015年5月9日。なお、2015年内の北朝鮮による
SLBM 実験は、11月29日と12月21日にも米国防総省によって観測された。前者は、元山沖で実施さ
れたものの失敗したという(See, Bill Gertz, “North Korean Submarine Damaged in Missile Test: Setback for Pyongyang’s Missile Sub Program, December 8, 2015” <http://freebeacon.com/national-security/north-korean-
submarine-damaged-in-missile-test/>, および、『RP北朝鮮政策動向』平成28年第2号(第522号)2月 20日発行臨時号、9頁を参照)。後者もまた、新浦沖で実施されたものの、米国防当局は失敗と判 断した(See, Bill Gertz, “North Korea Conducts Successful Submarine Missile Test Ejection Test from Gorae Submarine Followed Earlier Failure, January 5, 2016” <http://freebeecon.com/national-security/north-korea- conducts-successful-submarine-missile-test/>。しかし、翌16年1月8日、朝鮮中央テレビはSLBMが海中 からほぼ垂直に発射される記録映画を放映したという(『RP北朝鮮政策動向』平成28年第3号<第 523号>2月25日発行、34頁)。
14 「戦略潜水艦弾道弾水中試験発射に再び大成功 敬愛する金正恩同志が試験発射を現地で指導された」
『民主朝鮮』2016年4月24日。2015年5月9日の実験についての報道が、「コールド・ローンチ」方 式を意味する「弾道弾冷発射体系」に言及しなかったことは、その実験が発射実験ではなく、実際は 射出実験であったことを示唆している。なお、15年5月8日の実験とこの実験でみられた噴射炎で比 較すると、前者が液体燃料、後者が固体燃料を用いていたことは確実とされる(See, Richard D Fisher, Jr., “North Korea Releases Images of Third SLBM Test…,” Janes Defence Weekly, May 4, 2016, p. 5)。なお、
北朝鮮は同年7月9日にもSLBM発射実験を行っているが、韓国国防部長官は、これは初期飛翔に失 敗したと述べた(『国防日報』2016年7月11日)。
15 本社政治報道班「主体朝鮮の核攻撃能力の一大誇示 敬愛する金正恩同志の指導の下に戦略潜水艦弾 道弾水中試験発射が成功裏に進行した」『労働新聞』2016年8月25日。また、16年4月の実験ではミ サイルが 約30キロしか飛翔しなかったのに対し、8月の実験では「高角発射体系」で約500キロ飛翔 したという。このSLBMが通常角度で発射された場合、1000キロ以上飛翔した可能性もあると分析さ れた。See, Gabriel Dominguez, “North Korea Conducts Successful SLBM Test-fi ring,” Janes Defence Weekly, August 31, 2016, p. 6. なお、米当局者によると、北朝鮮は2016年12月9日にも、SLBM実験を地上か ら「コールド・ローンチ」で行ったという(「ワシントン=共同」2016年12月15日)。管見の限り、
この実験に関して北朝鮮からの報道はなく、成否は明らかではない。
16 「核兵器研究所声明」『労働新聞』2016年9月10日。
17 拙稿「在韓米軍再編と指揮体系の再検討――『戦略同盟2015』修正の力学」『国際安全保障』第42巻 第3号(2014年12月)を参照されたい。
18 漣川砲撃の際、第210砲兵旅団が整えた砲撃態勢については、前掲拙稿「北朝鮮の核保有の修辞と通 常兵力増強の論理」、92-93頁
19 KN-02は、2013年3月15日の実験で、その射程をさらに160キロに伸ばしたと観測された(『朝鮮日報』
2013年3月16日)。
20 前掲拙稿「米韓抑止態勢の再検討」、77-78頁。南北間の「ミサイル不均衡」については、拙稿「ミサ イル防衛と韓国――その選択的導入と『ミサイル不均衡』」森本敏編『ミサイル防衛――新しい安全保 障の構図』、日本国際問題研究所、2002年を参照されたい。
21 Military and Security Developments Involving the Democratic People’s Republic of Korea: Report to Congress, Washington DC: Offi ce of the Secretary of Defense, 2015, p. 11.
22 韓国国防部は6月26日の発射についてはその射程を約190キロ、8月14日午前の発射については約 220キロ、同日午後に発射されたものについては約200キロと推定していた。これについての詳細は、
前掲拙稿「北朝鮮の核保有の修辞と通常兵力増強の論理」、91頁を参照されたい。
23 「平壌発3月4日 金正恩第1秘書新型大口径放射砲試験射撃指導」<http://www.kcna.co.jp/index-k.
htm>. なお、本社政治報道班「敬愛する金正恩同志が新型大口径放射砲試験射撃を指導された」『労働 新聞』2016年3月4日に掲載された写真をみると、8連装に改良されていることが確認できる。
24 括弧内の英文は、同日の「朝鮮中央通信」の配信の英文記事(“Kim Jong Un Guides Test-fi re of New Multiple Launch Rocket System” <http://www.kcna.co.jp/index-e.htm>)による。なお、朝鮮通信社発行の『朝 鮮民主主義人民共和国月間論調』2016年3月、2頁に掲載された「金正恩第1書記が大口径ロケット 砲試射を指導(朝鮮中央通信3.4)」も、これと同様の訳語を充てていた。
25 金正恩はKN-09を「南朝鮮作戦地帯内の主要攻撃対象を射程圏内に収める精密誘導体系」と述べていた。
実際、KN-09については、ロシアの全地球的測位システム(Global Positioning System: GPS)「グローナ ス(Glonass)」を搭載しているとの分析(see, Cordesman, et. al, op. cit., p.110)、また、中国のGPS「北斗」
が用いられていると指摘する分析もある(see, “North Korea’s New MLRS,” Kanwa Asian Defence, No. 140
〈May 27, 2016〉, p. 39)。いずれにせよ、KN-09はロケット砲とはいえ、原初的な誘導装置を有すると 想定しなければならない。
26 本社政治報道班「英雄的朝鮮人民軍はわれわれの最高尊厳に歯軋りする挑発妄動を弄した朴槿恵逆敵 一味の巣窟を焦土化させ、南半分を解放するであろう――敬愛する金正恩同志が青瓦台とソウル市内 の反動統一機関を撃滅掃討するための朝鮮人民軍前線大連合部隊長距離砲兵大集中火力打撃演習を指 導された」『労働新聞』2016年3月25日。
27 「われわれの警告が空言でないことは米帝と朴槿恵逆徒の悲惨な終末がそのまま示すであろう――祖国 平和統一委員会重大報道」『労働新聞』2016年3月24日。
28 「朝鮮人民軍最高司令部重大声明」『民主朝鮮』2016年2月23日。
29 「主体朝鮮の国防力一大誇示、地上対地上中長距離戦略弾道ミサイルロケット《火星-10》試験発射に 成功――敬愛する金正恩が地上対地上中距長距離戦略弾道ロケット《火星-10》試験発射を現地で指導 された」『民主朝鮮』2016年6月23日。
30 「白昼強盗米国の増大する核脅威恫喝は正義の無慈悲な核報復対応を誘発するであろう――朝鮮民主主 義人民共和国国防委員会代弁人談話」『民主朝鮮』2016年6月21日。
31 「主体朝鮮の国防力一大誇示、地上対地上中長距離戦略弾道ミサイルロケット《火星-10》試験発射に 成功――敬愛する金正恩地上対地上中距長距離戦略弾道ロケット《火星-10》試験発射を現地で指導さ れた」『民主朝鮮』2016年6月23日。以下、「ムスダン」発射成功を受けての金正恩の発言からの引 用はこの文献による。
32 「米帝が北侵核先制打撃を狙って核戦略爆撃機《B-2A》を続けて増強配置」『労働新聞』2016年8月11日。
米空軍によるB1-B、B-2Aのローテーション配備についてはそれぞれ、Headquarters Pacifi c Air Forces Public Affairs, “ B-1s to Replace B-52s during Routine Bomber Presence Rotation, August 1, 2016” <http://www.
af.mil/News/ArticleDisplay/tabid/223/Article/882395/b-1s-to-replace-b-52s-during-routine-bomber-presence- rotation.aspx>; Pacific Air Forces Public Affairs, “B-2s Conduct Deployment to Indo-Asia-Pacific, August 9, 2016” <http://www.af.mil/News/ArticleDisplay/tabid/223/Article/909333/b-2s-conduct-deployment-to-indo-asia- pacifi c.aspx> を参照。
33 「朝鮮人民軍参謀部代弁人声明」『民主朝鮮』2016年9月23日。なお、その後『労働新聞』は、アンダー セン米空軍基地への戦略爆撃機のローテーション配備に言及しつつ、「われわれの核打撃手段は任意の 時刻に米国の脳天を恐ろしい稲妻で覆い尽くす万端の戦闘動員態勢を備えている」という論評を掲げ た(リ・ヒョンド「国際的核主犯米国の正体は隠すことはできない」『労働新聞』2016年10月5日)。
34 「米国は凶悪な南朝鮮永久占領の企てを放棄して、直ちに自らの巣窟に帰らなければならない―朝鮮人 民軍板門店代表部代弁人談話」『労働新聞』2016年7月20日。
35 本社政治報道班「敬愛する金正恩同士が朝鮮人民軍戦略軍火星砲兵部隊の弾道ロケット発射訓練を指 導された」『労働新聞』2016年7月20日。以下、この報道に関する引用はこの文献による。
36 『RP 北朝鮮政策動向』平成28年第12号(第532号)、8月25日発行、33頁。
37 佐瀬昌盛「それでもパーシング2はモスクワには届かぬ」『朝日ジャーナル』第27巻第36号(1985 年9月)を参照。なお、「カップリング」のモデル化を試みた論考として、See, Barry O’neill, “The Intermediate Nuclear Force Missiles: An Analysis of Coupling and Reassurance,” Frank C. Zagare (ed.) Modelling International Confl ict, New York: Gordon and Breach Science Publisher, 1990.
38 Vipin Narang, Nuclear Strategy in the Modern Era: Regional Powers and International Conflict, Princeton:
Princeton University Press, 2014, pp. 19-20.
39 「朝鮮民主主義人民共和国外務省代弁人談話」『民主朝鮮』2016 年3月8日。
40 Paul I. Bernstein, “The Emerging Nuclear Landscape,” Jeffrey A. Larson and Kerry M. Kartchner (eds.), On Limited Nuclear War in the 21st Century, Stanford: Stanford University Press, 2014, p. 120.