和 文 抄 録
症例は54歳の男性で,36歳時より胃潰瘍の診断で 内服加療中であった.42歳時に多発性空腸潰瘍穿孔 に対す る手 術 歴が あ る.術 後 再 穿 孔を認め Zollinger‑Ellison症候群の診断で膵頭十二指腸切除 術が施行された.病理組織学的に十二指腸粘膜下ガ ストリノーマ,非機能性膵神経内分泌腫瘍が確認さ れた.2007年4月,CT検査にて膵尾部腫瘍を指摘 される.ホルモン過剰症状,腫瘍マーカー値の上昇 を認めず経過観察とされていた.2011年4月,腰背 部痛を主訴に近医を受診した.CT,PET検査で膵 尾部に39×27mm大の腫瘤を認め,悪性病変が疑わ れた.2011年7月,脾合併膵尾部切除術を施行した.
病理組織学的に,非機能性膵神経内分泌腫瘍と診断 された.MEN1遺伝子解析の結果,変異を認め,多 発性内分泌腫瘍症1型と診断した.術後6年経過し た現在,無再発生存中である.長期フォローアップ 中の多発性内分泌腫瘍症1型の1例を経験したの で,若干の文献的考察を加え報告する.
諸 言
多発性内分泌腫瘍症1型(multiple endocrine neoplasia type 1;以下MEN1と略記)はがん抑制遺 伝子であるMEN1遺伝子の機能喪失型変異が原因と
される.副甲状腺機能亢進症,下垂体腺腫,膵消化 管 神 経 内 分 泌 腫 瘍(gastroenteropancreatic neuroendocrine tumor;以下GEP‑NETと略記)を主 徴とし,その産生するホルモンによって特有の症状 を引き起こす常染色体優性遺伝性疾患である1). MEN1では発症を予防することができないため遺伝 子検査により保因者を発見し,適切な時期に手術を 行うことが治療成績の向上につながると考えられる.
十二指腸粘膜下ガストリノーマの診断で膵頭十二 指腸切除術(以下PDと略記)施行後12年目に,膵 神 経 内 分 泌 腫 瘍(pancreatic neuroendocrine tumor;以下P‑NETと略記)の残膵再発を認め,膵 尾部切除術を施行したMEN1の1例を経験したので 報告する.
症 例
患 者:54歳,男性.
主 訴:腰背部痛.
家族歴:母;Zollinger‑Ellison症候群.
既往歴:胃・十二指腸潰瘍,糖尿病.
生活歴:喫煙歴:20本/日×22年間,飲酒歴:2合/ 日×22年間.
アレルギー歴:ピリン系薬剤.
現病歴:1993年(36歳時)より胃潰瘍の診断で,投 薬加療を受けられていた.1998年(41歳時)より十 二指腸潰瘍のため入退院を繰り返す.1999年(42歳 時),多発性空腸潰瘍穿孔の診断で空腸部分切除術
長期フォローアップ中の多発性内分泌腫瘍症1型の1例
上杉尚正,松井則親
1),岩本圭亮,佐藤正史,神保充孝,小林俊郎,
斎藤 聰,高橋 剛,郷良秀典
済生会山口総合病院外科 山口市緑町2−11(〒753‑8517) 松井クリニック1) 柳井市南浜1−8−3(〒742‑0023)
Key words:多発性内分泌腫瘍症1型,非機能性膵神経内分泌腫瘍,Zollinger‑Ellison症候群
平成30年5月10日受理
症例報告
が施行された.トライツ靭帯直後の空腸初部に 25mm大を最大に計4ヵ所の潰瘍穿孔を認めた.
Zollinger‑Ellison症候群(以下ZESと略記)の特異 とされる症候は通常ではみられない部位に発生する 消化性潰瘍であり,ZESを疑い血清ガストリン値を 測定した.血清ガストリン値は3000pg/ml以上と異 常高値であった.術後2日目に十二指腸潰瘍穿孔を 併発し,臨床所見,家族歴よりZESと診断した.本 症例は,穿孔性腹膜炎併発の緊急手術症例であり,
術前に腫瘍の局在診断がなされていたわけではなか った.文献的にZESに発生するガストリノーマの多 くは膵・十二指腸部に存在する事より2),1999年5 月にPDが施行された.病理組織学的に十二指腸粘 膜下多発性ガストリノーマ,多発性非機能性P‑
NETが確認され,No. 13, 17リンパ節にガストリノ ーマの転移を認めた3).術後膵液瘻を併発するも,
保存的加療にて軽快した.血清ガストリン値は正常 化し,残胃潰瘍も認めなかった.PD後8年目の 2007年4月,CT検査にて膵尾部に境界明瞭,内部 均一な20mm大の等濃度腫瘤を指摘された.血清ガ ストリン値は正常化したまま推移しており,ホルモ ン症状も認めなかった.腫瘍マーカー値(CEA, CA19‑9)の上昇も認めず,非機能性P‑NETが疑わ れ経過観察とされていた.以後も定期的な血液検査,
CT検査でフォローアップされていた.2011年4月,
腰背部痛を主訴に近医を受診した.CT検査で膵尾 部腫瘍は辺縁平滑,境界明瞭であったが39×27mm と腫瘍径の増大を認め,新たに前縦隔腫瘍が確認さ れ精査・加療目的で紹介された.
入院時現症:身長173cm,体重87kg.右腋窩に弾 性軟,可動性良好な腫瘤を触知した.腹部は平坦,
軟で,上腹部正中に手術創瘢痕を認めた.
血液検査所見:CRPの軽度上昇,耐糖能異常を認め
た.血清ガストリン値は正常範囲内であった.イン タクトPTH,CA19‑9の軽度上昇を認めた(表1).
胸腹部造影CT検査所見:膵尾部に39×27mmの膵 実質より造影効果の乏しい腫瘤を認めた.主膵管と の連続は認められなかった.前上縦隔に22×18mm 大のわずかに造影される境界明瞭な充実性腫瘤を認 めた.大動脈に接するが,浸潤を疑う所見は認めら れなかった(図1).右腋窩に40×20mmの内部が
図1 CT findings.
Abdominal CT scan showed an enhanced mass measuring 39×27 mm in diameter in the tail of the pancreas(a, arrow).But it was hypo‑vascular compared with the surrounding pancreatic parenchyma.
Chest CT scan showed a scarcely enhancing tumor measuring 22×18 mm in diameter in the anterior superior mediastinum(b, arrow).
図2 Follow‑up CTs findings.
In 2007, abdominal CT scan revealed a mass lesion in the tail of the pancreas(arrow).The tumor gradually enlarged after onset.
表1 Laboratory data on admission.
均一な低吸収を呈する造影効果のない境界明瞭な,
脂肪と同一のdensityをもつ腫瘤性病変を認めた.
膵尾部腫瘍は2007年より確認されており,経時的に 増大傾向を認めていた(図2).
FDG‑PET検査所見:膵尾部に経41.2×28.4mm大の 腫瘤を認め,FDG高集積(早期SUVmax=4.4)で,
遅延像で集積が亢進することより悪性腫瘍が疑われ た(遅延SUVmax=5.2).他に腹腔内腫瘤性病変は 認めなかった.胸部では,前上縦に26×15mm大の 境界平滑な類円形腫瘤を認めた.FDG集積度は低 く(SUVmax=2.2)浸潤性胸腺腫や胸腺癌などの悪 性疾患は否定的と診断された(図3).大脳,小脳,
甲状腺,肝臓,副腎に占拠性病変は認めなかった.
臨床所見:画像所見より,膵尾部腫瘍はガストリノ ーマのリンパ節転移,もしくは非機能性P‑NETと 診断した.ガイドライン上,P‑NETの診断は,超 音 波 内 視 鏡 下 穿 刺 吸 引 組 織 診(Endoscopic ultrasound‑guided fine‑needle aspiration,以下 EUS‑FNAと略記)が推奨されるが4),本症例は古 典的な幽門側広範胃切除を伴ったPD後でPD‑Ⅱ
(Child法)による再建がなされており,膵尾部への
内視鏡的なアプローチが困難であったためEUS‑
FNAは行っていない.右腋窩腫瘍,縦隔腫瘍に関 しては,MEN1関連腫瘍の脂肪腫,カルチノイドを 疑った.年齢を考慮して残膵機能を温存しつつ目標 の病変を切除する方針とした.膵腫瘍に対して膵尾 部切除術を,右腋窩腫瘍に対して腫瘍摘出術を,縦 隔腫瘍に関しては手術侵襲を考慮し二期的手術の予 定とした.2011年7月,手術を施行した.
手術所見:腫瘍は膵尾部に存在し,弾性軟であった.
肉眼的に膵と腫瘍との境界は不明瞭であった.脾合 併膵尾部切除術を施行した.本症例はPD後であっ たため,リンパ節郭清範囲はNo. 10, 11リンパ節の みとした.
右腋窩腫瘤に対し腫瘍摘出術を併施した.腫瘍は 弾性軟で,全周性に被膜様結合織に被われた境界明 瞭な充実性腫瘍であった.
摘出標本肉眼所見:膵尾部腫瘍は径50×35mm大 で,割面は灰白色~赤褐色髄様であった(図4).
病理組織検査所見:膵腫瘍は,小型類円形の核を有 し細胞質の乏しい腫瘍細胞の充実性,リボン状また は索状配列を呈する増生よりなり,毛細血管が豊富 であった.免疫組織化学染色法ではクロモグラニン
A,シナプトフィジンが陽性で,ガストリン,イン ス リ ン,ソ マ ト ス タ チ ン,Islet amyloid polypeptideは陰性であった.MIB‑1 Indexは2~
3 %で 非 機 能 性 P‑NET, Grade 1( WHO
図3 FDG‑PET findings.
FDG‑PET revealed high FDG accumulation in the tumor of pancreatic tail. The SUVmax of the tumor in the early phase was 4.4, whereas that of the late phase was 5.2(a).FDG‑PET showed low accumulation in the tumor of the anterior superior mediastinum
(SUVmax:2.2)(b).
図4 Macroscopic findings.
The tumor is located on the tail of the pancreas(a, arrow).The cut surface of the tumor showed a well demarcated solid mass, and it contained greyish‑white, heterogeneous, parenchymatous tumor tissue. It measured 50×35mm in diameter(b).
図5 Histopathological findings.
Tumor cells demonstrated round to oval nuclei and proliferated with ribbon‑like and trabecular pattern by HE stain(a, b).Immunohistochemical findings revealed that tumor cells were positive for chromogranin A(c).The MIB‑1 index was less than or equal to 3%(d).
classification 2010)と診断した(図5).右腋窩腫 瘍は成熟脂肪織の結節状増生がみられ,脂肪腫と診 断された.
遺伝学的検査:MEN1遺伝子解析を行ったところ exon4codon253のコドンにTCG(Serine)からTGG
(trypsin)への変異を認め,多発性内分泌腫瘍症1 型と診断した.
MEN1関連腫瘍として頻度の高いものに下垂体腫 瘍が,MEN1随伴症状として頻度の高いものに副甲 状腺機能亢進症が挙げられるが,FDG‑PET検査,
CT検査で下垂体腫瘍,甲状腺腫瘍,副甲状腺腫瘍 は認めず,各種血中ホルモン濃度を測定した所,イ ンタクトPTHの軽度上昇を認めるのみであった
(表1).
術後経過:胆管炎,呼吸器感染症を併発したが,保 存的加療により軽快した.前上縦隔腫瘍に対しては 患者希望により経過観察としていた.2014年9月,
胸腔鏡下腫瘍摘出術を施行し,病理組織学的に胸腺 定型的カルチノイドの診断を得た.膵尾部切除術後 6年経過した現在,再発所見なく生存中である.
考 察
多 発 性 内 分 泌 腫 瘍 症(multiple endocrine neoplasia;MEN)は,複数の臓器に過形成・腺 腫・癌を発生する遺伝性疾患である.MEN1は Wermer症候群とも呼ばれ5),40歳以上で大多数の 患者にGEP‑NETが発生する6,7).その原因は,が ん抑制遺伝子であるMEN1遺伝子に機能喪失型変異 が生じ,神 経 外 胚 葉 由 来のAPUD(amine precursor uptake and decarboxylation)系細胞が 腫瘍化するとされる8,9).多発性内分泌腫瘍症1型 関 連 神 経 内 分 泌 腫 瘍 ( MEN1 related neuroendocrine tumor:以下MEN1‑NETと略記)
は全身諸臓器に発生しうるが,APUD stem cells を起源とする腫瘍,APUDomaの概念がMEN1‑
NETの病態理解を容易にした10).MEN1の原因遺伝 子は,1997年にChandrasekharappaらが第11染色 体長腕(11q13)に存在することを報告した11).原 因遺伝子が特定された事により,本症における診断 法はそれまでの生化学的検査,画像診断から信頼度 の高い遺伝学的検査へと進歩した.しかし,その発 症メカニズムは,MEN1遺伝子変異の同定後20年を
経過してなお未解明のままである.
MEN1患者における非機能性P‑NETの生涯発生頻 度は約80%とされる12).MEN1における腫瘍の発生 を阻止する方法はなく,治療原則は定期的な画像診 断により遅滞なく病変を発見し,外科的切除を行う ことである.ガイドライン上,MEN1に伴う機能性 NETは大きさに関わらず手術が推奨され,非機能 性NETは腫瘍径2cm以上で手術適応とされる4). しかし,MEN1に伴うZollinger‑Ellison症候群の手 術成績は,5年無病生存率が4%との報告もあり,
手術の役割についてはいまだに議論の残るところで ある13).自験例では,初回手術時は十二指腸粘膜下 に多発性ガストリノーマを認め,非機能性P‑NET が併存していた.MEN1‑NETは十二指腸ガストリ ノーマが最多で14),十二指腸粘膜下に小腫瘍として 多発するという臨床的特徴がある15,16).再手術時は ホルモン過剰症状を認めず,各種免疫染色陰性で非 機能性P‑NETのみの発生であった.P‑NETの残膵 再発例は,他病変の制御が可能であれば手術適応と される4).また,カルチノイド腫瘍はMEN1患者の 約10%に合併するとされる1).胸腺カルチノイドは
MEN‑1関連疾患の中では遅い時期に現れる病変で
あり,完全切除により予後改善が期待し得るとされ ている17).自験例では再発病巣切除により長期生存 が得られており,MEN1‑NET再発症例に対する外 科的治療は,その生命予後を改善する可能性が示唆 された.脂肪腫もMEN1関連腫瘍として比較的頻度 の高い腫瘍とされ,罹患率は30%程度とされる1). 生命予後に影響を及ぼすものではないが,MEN1を 疑う手がかりの1つと考える.
NETの転移再発巣の検索に推奨される画像検査 として,CT,MRI,US,FGD‑PET,ソマトスタ チン受容体シンチグラフィ―が挙げられる1,4).今 回,転移再発巣の検索に用いたFDG‑PETはNETの ように発育が遅い腫瘍の同定には向いていないとさ れるが4),NETの不均一な病巣の生物学的な評価に 有用で,他のモダリティと併用する事により相補的 な診断的役割を果たし,患者の病態に即した治療方 針の個 別 化・最 適 化に有 用と さ れ る18).ま た, FDG‑PETの陽性率は高分化型NET(Grade 1,2) においては低く,低分化型NET(Grade 3)におい ては陽性率が高くなり神経内分泌癌の診断に有用と 報告されている19).自験例ではFDG高集積で悪性腫
瘍が疑われたが,最終診断は非機能性P‑NET, Grade 1の診断であった.文献的にNETにおいて FDG陽性は予後不良を示唆する所見とされており
19),外科的治療の介入を考慮する際の一助となる診 断法と考える.
手術単独では本疾患の腫瘍発生を阻止する事はで きず,その病態の解明,治療法の確立が望まれる.
MEN1は,がん抑制遺伝子であるMEN1遺伝子の変 異が病因とされ,核内蛋白meninの機能低下が腫瘍 発生の原因と考えられている20,21).しかし,menin の正確な機能は解明されておらずmeninの機能破綻 による腫瘍発生機構の詳細は不明のままである.
Canaffらはmutant meninが除去される機序に HSP70(heat shock protein 70),CHIP(Carboxyl terminus of HSP70 Interacting Protein)が関連し ていることを報告した22).このHSP70,CHIPの発 現を抑制することによりmutant meninにおいても wild‑type meninと同等の機能を獲得できると述べ ており,MEN1の新規治療への可能性が期待される.
MEN1で発生してくる腫瘍は大半が良性であり,
一般的に予後はよい.生命予後に影響するのは,悪 性NETのガストリノーマおよび胸腺カルチノイド であり,遠隔転移の有無が生命予後の最大決定要因 である1,4,20).自験例はpoly‑surgery症例であり,
本疾患の特異性により再発を繰り返していくうちに 将来的に外科的治療の限界が訪れることが危惧され る.切除不能の場合は,標準化学療法としてストレ プトゾトシンとドキソルビシンあるいは5‑FUとの 併用が有効とされ,分子標的薬のエベロリムス,ス ニチニブが生存期間の延長に,臨床症状の改善と腫 瘍増殖抑制にオクトレオチドが有効であることが PROMID試験で明らかにされた1,4,23,24).また,
CLARINET試験25)の結果を受けてランレオチドが
本邦初のP‑NETを適応症にもつソマトスタチンア
ナログ製剤として承認され,その治療効果が期待さ れる.
今回,Zollinger‑Ellison症候群の診断でPDを施行 後12年目に残膵再発巣を切除し,15年目に縦隔腫瘍 切除を行ったMEN1の1例を経験した.自験例では 2007年より膵腫瘍が指摘されていた.PD施行時の 病理組織検査結果がガストリノーマ,非機能性P‑
NETであったこと,膵腫瘍の再発が確認された時 点でホルモン過剰症状を認めなかったことより非機
能性P‑NETの再発が疑われた.当時,MEN1に伴う
非機能性P‑NETの手術適応に関してはコンセンサ
スがなかったため1)経過観察とされていた.しかし,
非機能性P‑NETでも腫瘍径の増大に伴い遠隔転移
のリスクが高まり,2015年に発刊されたガイドライ ン上,2cm以上の非機能性P‑NETに対しては定型 的膵切除術が推奨される事より4),その時点で手術 を考慮すべきであったと反省させられる.手術は,
NETに対して唯一根治を望むことができる治療法 である.定期的な画像診断で遅滞なく再発腫瘍を拾 いあげ,適切な手術のタイミングを逃さない事が肝 要と思われる.一方で,他臓器転移を併発している 場合でも,減量手術による機能性症状の緩和や予後 の延長が期待できる場合もある.再発巣に対しても 外科的切除で長期生存が得られることもあるが,手 術単独では本疾患の腫瘍発生を阻止する事はできな い.その再発,切除を繰り返す中で切除困難となる ことが予想され,より効果的な治療法の出現が待た れる.
結 語
腫瘍切除により長期生存が得られているMEN1の 1例を経験したので,若干の文献的考察を加え報告 した.
謝 辞
本症例の病理組織学的所見について,ご教授いた だきました山口大学医学部附属病院病理診断科星井 嘉信診療教授に深謝いたします.
引 用 文 献
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The case was a 54‑year‑old male patient. He had a medical history of gastric ulcer. At the age of 42, he was performed partial resection of the jejunum due to perforation of multiple jejunal ulcers. After the initial surgery, he was again diagnosed with gastrointestinal perforations.
Zollinger‑Ellison Syndrome was strongly suspected and pancreaticoduodenectomy was performed. Histological examination of the resected specimen revealed multiple duodenal submucosal gastrinomas and non‑functioning pancreatic neuroendocrine tumors. He visited a neighboring hospital because of a back pain in April 2011. Computed tomography(CT)and fluorine‑18 deoxyglucose positron emission tomography(FDG‑PET)revealed a tumor in the tail of the pancreas measuring 39×27mm in diameter, and suspected a malignant tumor.
Distal pancreatectomy and splenectomy was performed in July 2011. The final pathological diagnosis was non‑functional pancreatic neuroendocrine tumor. We performed genetic testing on him and mutation of the MEN1 gene was identified.The patient was therefore diagnosed as multiple endocrine neoplasia type 1.
No recurrence was noted within the 6 years since undergoing the operation. We experienced a case of multiple endocrine neoplasia type 1 during long‑term follow‑up and report this case with some literature reviews.
Department of Suegery, Saiseikai Yamaguchi General Hospital, 2‑11 Midori‑Cho, Yamaguchi, Yamaguchi 753‑0078, Japan 1)Matsui Clinic, 1‑8‑3 Minamihama, Yanai, Yamaguchi 742‑0023, Japan
A Case of Multiple Endocrine Neoplasia Type 1 During Long –term Follow‑up.
Naomasa UESUGI, Norichika MATSUI1), Keisuke IWAMOTO, Masafumi SATO, Mitsutaka JIMBO, Toshiro KOBAYASHI, Satoshi SAITO, Tsuyoshi TAKAHASHI and Hidenori GOHRA