10月16日 兵庫県氷上郡氷上町上新庄天満神社 三番叟
天満神社の秋祭に奉納する。宵祭は16日午後7時半頃から、本祭は17日午前8時頃三番叟を踏む。
三番叟の諸役は、天満神社の氏子約50戸の家の長男に限られている。上新庄にはもう1つお宮がある高井神社と いって、この方も氏子は約50戸あるが、この氏子の人達は三番叟に参加していない。
午後 7 時半、成松から車で「お天満さん」へ行った。もはや真暗であたりの情景は分らなかったが、車を降りた 左側に鳥居があって、石段が続いていた。その奥は真暗で何も見えない。一寸心細かったが上って行くと前方に立 塞るように大きな建物があった。これが舞殿であった。舞殿の背後の窓 1 つない側板張の下へ出たのである。道は 左へ曲ってその建物に沿うて片側から正面へ出る。そこまで行くと灯の入った、少しは賑かな神社の全景が始めて 見られ、水屋の入口の側には夜寒の焚火までしてあった。
舞殿は瓦葺平家建、奥に土間の炊事場が鍵形に棟を寄せているがこの部分を除いて間口約 11m奥行、奥行約 3.6 mであるがそのうち右側間口2m位は仕切って楽屋となっているので舞台は間口約9mとなる。それでも相当横に広 い舞台である。後の壁に紺の梅鉢紋の幕を張り、その前に雛段、舞台前面の軒にも梅鉢の紋を染抜いた紺の引幕を 張り、中央は絞る。三番叟は天満神社の秋祭10月16~17日に奉納する。16日の宵宮は午後7時半頃から、17日の 本祭は午前 8 時頃から踏む。謡本は観世流神歌の四日の式で、囃子方及び地方は正面奥の雛段にづらりと並び、柝 木(こゝでは「影打」という)は舞台右側、雛段の少し前寄の所に坐って打つ。
出演者は天満神社氏子中の長男に限り、現在では10~30才位の青年が中心となってやる。
1、小謡 まづ小学校の3年生位になるとまづ小謡を習う。人数は定っていない。3~5人、本年は3人。
2、千歳 三番 各1人であるが、小謡を習ったもののうちこの役につく。大てい千歳か三番かどちらかをやれ
ばよい。踏み方も上手なものは千歳を1年やって次の年に3番をやることもある。
3、影打 1人 20才前後になって、習う。
4、翁。影打をやった所でなる。
5、小鼓2人、笛5人。千歳か三番を勤めて影打になるまでの間のものが小鼓か笛を稽古する。人数が不足する ときは翁を踏んだ後の青年も囃方に廻ることがある。
6、地謡。役につかない青年全員が謡う。
9月24日に宮籠りがあって、そのとき役割を決定する。練習は10月1日から、大体毎晩、天満宮のこの舞台に集 ってする。
翁(白尉)面は吊顎、普通の猿楽能の面よりも可なり大きく、木彫である。
黒尉は翁面より稍小さいが、それでも能面に比して大きい。この方は紙製である。
こゝの三番叟は明治年間に稲畑から教わって来たと伝える。稲畑の天満宮にも三番叟はあったが、これは現在廃 絶している。
最初から雛段に左から小謡、笛、小鼓の順に10人が並ぶ。小謡は紺絣の着物、黒袴、扇子を持つ。笛と小鼓は浅 葱の裃、袴。
舞台。中央に翁、左に三番、右に千歳が坐る。
影打、は黒の着物に黒袴。まづ中央舞台前方に進み、拍子木を打って、簡単な口上を述べる。
口上$東西、東西、式三番叟始まり始まり拍子木を打って舞台の左側、影打の坐る定位置につくと白襷をかけ、ツケ板を膳前床に置く。小謡、笛、鼓の順に雛段に並び、その前方、舞台の床後方に、千歳、三番、翁の順に出て坐る。左が三番、中央が翁、右が千歳である。三番叟は三番双烏帽子、千歳は侍烏帽子、両人とも鶴亀の大紋を染抜いた紺の直垂、同色の大口袴、三番の方は稍染色が薄い。翁は翁烏帽子、翁狩衣、大口袴、まづ笛が一ト吹き鳴る。翁。扇を採って膝前を左から右へ一文字に払くような所在をして一拝。そのまゝ謡初まる。謡本は観世本であるが四日之式と少しばかり違った所があり、以下録音テープによって概要をノートする。翁$とうたうたらりたらりらたらりあがりらゝりとう翁謡いつゝ静かに立って舞う。すり足、極端に前かがみ。手は肱を水平になる位にあげる。小謡$ちりやたらりたらりらたらりあがりらゝりとう翁$所千代までおはしませ翁の謡う所は幕内で地の青年達つける小$我等も千秋さむらはう翁$鶴と亀との齢にて小$幸い心にまかせたり翁$とうとうたらりたらりらたらりらゝりとう小$ちりやたらりたらりらたらりあがりらゝりとう千歳$鳴るは瀧の水鳴るは瀧の水日は照るとも千歳立って舞いつゝ謡う。舞台の前面を往来する翁$絶えずとうたりありうとうとうとう千$絶えずとうたり絶えずとうたり。千歳非常に早口に謡う翁$たえずとうたりありうとうとうとう千$絶えずとうたり、絶えずとうたり千歳の舞となる千$君の千歳を経んことは天つ乙女の羽衣や、舞。千、小$鳴るは瀧の水鳴るは瀧の水千$日は照るとも鼓が入る
千$ヤーオンハイエアーオンハイエ鼓$ヤーオンハオンヤーオンハオン・・・・・ハイヤヨーイヤ翁、かげ打が後見のように翁の後に進み、雛段の幕の下より面箱をとり出し、翁に渡す。翁面箱を開き、赤い袱紗を手にとり、その上に白尉面を表を下に重ねて、袱紗ごと、両手にて、顔につける。かげ打翁の後に寄り、面箱をとって、後で結ぶ。面をつけ終ると、翁、袱紗を面箱に納め蓋をして、後見に渡す。後見、面箱を再び雛段の下に入れる鼓$アイヤーアイヤオイ、アイヤアイヤオイヨーオーイ翁$坐して居たれどもヨーオーイ鼓$ヨーオーイ地$そーよやそーよや翁$そーよや鼓$ヨーオーイ翁$ちはやふる神のひこさの昔より久しかりとぞ祝いたり。およそ千年の鶴は万歳楽とうたうたりまた夢代の池の亀は甲に三極をいただいたり鼓$よーオイ翁$瀧の水冷々と静かに落ちて夜の月あざやかに浮んだり、天下泰平国土安穏の今日のご祈祷なり鼓$ヨーオ―い翁$ありはらやありはらしよの翁とはそやいづくの翁とうどうや鼓$ヨーホーイ・・・・アイヤイヤイヤオイ、アイヤイヤイヤオイ翁の舞。天地人の三拍子に踏む鼓$アイヤヨイヤヨイオンハオンハアイヤヨーイヤオンハオンハヨーイヤオイヨーイヤオイヨーオーイ翁$千秋万歳喜びの舞ならば一舞舞おう万歳楽地$万歳楽翁$万歳楽地$ヨーオイ翁面をとり、面箱を納め、そのまゝ座っている笛、ツケ、三番叟$ヤホヤホおーさいやおーさいや喜びや喜びやわがこの所外へはやらずと思うツケ、三$あしやーツ$あしやーは三$あしやーはやおんはいえやおんはいへ
三番の舞となる。ツケ打入る三$やおんはいへハーイエイエツ$イエイエ三番叟面をつける。翁が面をつけたときと同様千$ものに心得たるあとの太夫どのにちよとけんざん申そう三$ちようど参って候千$今日の三番叟尋常に舞うておん入候へ色の黒き尉どの三$おうこの色の黒き尉が今日の三番叟天下泰平所も富貴繁昌と舞い納め奉ずること何より以ってやすう候へ千$されば候へ三$まずあとの太夫どのには思うもともとの座敷におなおり候へ千$おん舞候へ三$おなおり候へ千$それがし座敷になおずること尉どのの舞よりいとやすう候おん舞のうては、おなおり候まじ三$あわらゆうがましや千$めでたいすゞ参らしよう三$そなたこそ二人中央に対合い鈴を渡す。笛、鼓、ツケ、ハーイエの掛声にて黒尉の舞となる。