Posted at the Institutional Resources for Unique Collection and Academic Archives at Tokyo Dental College, Available from http://ir.tdc.ac.jp/
Title 東京歯科大学での40年
Author(s) 加藤, 哲男
Journal 歯科学報, 123(1): 10‑16
URL http://doi.org/10.15041/tdcgakuho.123.10 Right
Description
はじめに
1982年10月に東京歯科大学微生物学講座に副手と して採用されてから,40年間教育・研究に携わって きた。1989年11月に 歯周病原性菌内毒素の抗原構 造と免疫生物学的活性の単クローン抗体による解 析1) という論文で歯学博士の学位を受領した。そ の翌年9月から1年半,米国テキサス州サンアント ニオにある The University of Texas Health Sci- ence Center at San Antonio において,当時教授 だった Howard K. Kuramitsu 先生のもとで 歯周 病原性菌の病原性に関する遺伝学的解析 という研 究テーマで学外研究をさせていただいた。歯周病原 性菌
Porphyromonas gingivalis
のスーパーオキサイ ド・ジスムターゼ遺伝子とタンパク質分解酵素遺伝 子をクローニングし,DNA 塩基配列およびその遺 伝子産物について解析した2,3)。サンアントニオに は,妻と二人の子供も一緒に行き,貴重な米国生活 を送ることができた。この学外研究での生活につい ては,本誌で1996年に報告している4)。微生物学講 座では26年間,高添一郎先生と奥田克爾先生から多 くのことを学び,研究の楽しさを知ることができ た。また大学院生を含め多くの研究者と出会い,切 磋琢磨しながら,いろいろなテーマで研究を進め,成果を出すことができた。1人ではできることでは なかったので,本当に感謝している。2009年4月か らは,化学研究室に移り,主に1年生と2年生を相
手に,教育中心の日々を送った。学生が飽きること なく,講義に集中し,修得してくれるようにと,い ろいろ工夫して臨んできたが,なかなか思うように はいかなかった。化学研究室に移ってからは,唾液 タンパク質や天然の抗菌物質について,研究を進め てきた。本稿では,微生物学講座での研究から化学 研究室に来てからの研究のうち,出てくる結果をと ても楽しみにしながら,進めてきた研究をいくつか 紹介する。
内毒素のリピド A を反映した 抗イディオタイプ抗体ワクチン
イディオタイプとは,それぞれの抗体がもってい る抗原性ということができる。そのイディオタイプ
(Ab1)に対する抗体が,抗イディオタイプ抗体
(Ab2)である(図1)。ある種の抗イディオタイ プ抗体は,元の抗原と似た構造をあらわすことがで きる。この抗イディオタイプ抗体の有する元の抗原 の内的イメージは,新しいタイプのワクチンとして 注目された。感染防御抗原が多糖であったり,糖タ ンパク質の糖分子であったりするときなどに,イ ディオタイプワクチンは,有効な手段となる。抗イ ディオタイプ抗体には3つのタイプがあり,ワクチ ンとして理想的なのは,Ab1のパラトープと相補 的なイディオトープを持つ抗体,つまり元の抗原の 内的イメージを反映している抗イディオタイプ抗体 である。そこで内毒素の活性を担っているリピド A の抗原性をペプチドに置き換えたイディオタイ プワクチンをつくるため,
Eikenella corrodens
およ びEscherichia coli
などのリピド A と強く反応した モノクローナル抗体 ALA-15)をイディオタイプと してモノクローナル抗イディオタイプ抗体の作製を 試 み た。ALA-1抗 体(ア イ ソ タ イ プ は IgM)で関連医学の進歩・現状
東京歯科大学での40年
加藤哲男 東京歯科大学化学研究室
キーワード:内毒素,抗イディオタイプ抗体,運動,シス タチン,米ペプチド
(2023年1月10日受付,2023年2月15日受理)
http : //doi.org/10.15041/tdcgakuho.123.10
連絡先:〒101‐0062 東京都千代田区神田駿河台2−9−7 東京歯科大学化学研究室 加藤哲男 10
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BALB/c マウスを免疫することによって,4種の 抗イディオタイ プ 抗 体 A2LA-1,A2LA-2,A 2LA-3,A2LA-4を 得 た6)。A2LA-1,A2LA- 2および A2LA-3抗体は,リピド A と反応する 他の IgM モノクローナル抗体とは交差反応性を示 したが,それ以外のマウス IgM 抗体とは反応しな かった。これら3種の抗体は,リピド A とそれに 対する抗体との反応性を阻害した。また,リピド A に対する抗体とこれらの抗イディオタイプ抗体 との反応性は,ポリミキシン B によって阻害され た。次に,A2LA-1あるいは A2LA-2を keyhole limpet hemocyanin(KLH)と結合させ,それを Fre- und's complete adjuvant に懸濁したものを免疫原 として用い,同種である BALB/c マウスおよび異 種であるウサギに免疫したところ,これらの動物の 血 清 中 で,
E. corrodens
リ ピ ド A お よ びE. coli
リ ピド A に対する抗体価が上昇していた。以上の事 から,A2LA-1および A2LA-2は,リピド A に 類似した抗原性をもった抗イディオタイプ抗体だと 考えられた。さらに,この A2LA-1でマウスを免 疫し,内毒素の致死活性に対する防御抗体を誘導す るのに成功した(表1)。抗イディオタイプ抗体 A 2LA-1は,E. corrodens
とE. coli
のリピド A に共 通のエピトープを反映している抗イディオタイプ抗 体だと考えられる。内毒素のマウス致死作用に対す る防御能は,抗リピド A 抗体に対する抗イディオタイプ抗体によって誘導された抗体がリピド A に 働き,その毒作用を中和したものと思われる。リピ ド A の内的イメージを反映するモノクローナル抗 イディオタイプ抗体は,内毒素の有するマウス致死 毒性から防御する抗体を産生させ,内毒素ワクチン としての可能性を示唆することができた。以上の研 究成果によって,日本細菌学会1991年度黒屋奨学賞 を受賞した7)。
歯周病原性菌内毒素による炎症性サイトカイン 産生誘導に対する運動の抑制効果
肥満と糖尿病,そして歯周病とは,炎症性物質を 仲介としてたがいに関係しあっている(図2)。肥 満の原因としていろいろ挙げることができるが,運 動不足もその大きな要因と考えられる。筆者らは,
運動が炎症性サイトカイン産生に与える影響につい てマウスを用いて調べた8)。BALB/c マウスおよび C57BL/6マウスを,運動グループと対照グループ に分け,運動グループは,回転かご式強制走行装置 を用い,5 rpm で1時間運動させた。運動終了直 後,血清中のインターロイキン-6(IL-6)量と腫 瘍壊死因子α(TNFα)量を測定した。その結果,
いずれの系統のマウスでも運動によって血清中 IL- 6レベルは上昇し,TNFαレベルは逆に減少して いた。TNFαは,代表的な炎症性サイトカインで あり,生体に種々の障害をもたらす。この2群のマ
表1 内毒素のマウス致死活性に対する A2LA-1免疫の防御効果
内毒素投与量(μg) 生存マウス/全体(%)
A2LA-1免疫グループ 100 3/3(100)
200 2/2(100)
対照グループ 100 3/4( 75)
200 1/3( 33)
図1 抗イディオタイプ抗体とは
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ウスに対し,歯周病原性菌である
Aggregatibacter actinomycetemcomitans
の内毒素を投与 す る と,対 照グループで は TNFαの 顕 著 な 上 昇 が 見 ら れ た が,運 動 グ ル ー プ で は TNFαは 検 出 で き な か っ た。IL-6も炎症性サ イ ト カ イ ン と し て 作 用 す る が,一方で TNFα産生を抑制する。運動すると筋 肉細胞から IL-6が産生され,それが TNFα産生を 抑制するものと思われる。以上のことは,運動が歯 周病原性菌内毒素によって引き起こされる TNFα の産生誘導を抑制し,歯周炎の発症あるいは進行に 抑制的に作用することを示唆している。唾液タンパク質シスタチン
免疫は,多様な抗原に対してリンパ球や抗体を中 心に特異的に作用する獲得免疫と,おもにマクロ ファージや白血球などによって担われ非特異的に作 用する自然免疫とに分けられる。唾液タンパク質は タンパク質分解酵素の作用を阻害したり,細菌の繁 殖を抑えたりして自然免疫に貢献している。機能性 唾液タンパク質としてはリゾチーム,ヒスタチン,
シスタチン,高プロリンタンパク質あるいはスタテ リンなどが挙げられ,それぞれ重要なはたらきを 担っている(図3)。シスタチンは,システインプ ロテアーゼ阻害作用のあるタンパク質であり,3つ のファミリーに分けることができる。唾液中には ファミリー2に属するシスタチン C,D,S,SA,
SN が多く存在している。これらのファミリー2シ スタチンは,歯周病原性菌の増殖を抑制する。シス タチンの獲得免疫への関与を検討した結果,ファミ リー2のシスタチンはヒト歯肉線維芽細胞やヘル パー T 細胞に作用し,免疫調節に関わるサイトカ インを誘導して,免疫系の調節にはたらいているこ とを明らかにした9−11)。活性化した CD4陽性 T 細
胞をシスタチン SA で刺激すると,インターフェロ ンγ(IFNγ)の産生量を有意に上昇させた。
健常者と歯周病患者で,唾液中のシスタチン量に 違いがみられるかどうかを知るために,シスタチン SA に対するモノクローナル抗体を作成し12),それ を使って唾液中のシスタチン量を調べた。その結 果,健常者に比べて歯周炎患者では,唾液中のシス タチン量が少ないことを明らかにした13)。また,市 販のシスタチン C 量を測定する ELISA キットを 使って調べた結果も同様だった。疾患,加齢あるい はストレスなどによってシスタチンなどの唾液中の 抗菌タンパク質が量的にも質的にも衰えてくると,
それは直接歯周病のリスクとなって健康にも影響し てくる。衰えた唾液タンパク質の機能を補うものと して,エッセンシャルオイル14)やウナギガレクチ ン15)あるいはガレクチン-316)の抗菌性などを検討 し,その有用性を報告した。
歯周病原性菌内毒素の免疫系への影響
内毒素は,重要な歯周病原性因子の1つであり,
歯周炎は低体重児出産や早産のリスクとなる。それ には,内毒素によって産生誘導された炎症性サイト カインである TNFαや,エイコサノイドであるプ ロス タ グ ラ ン ジ ン E2(PGE2)な ど が 関 わ っ て い る。TNFαは,胎児の成長を妨げ低体重児出産に 関わり,PGE2は,その分娩促進作用により早産を 引き起こす。筆者らは,マウスを用いて,新生仔期 に 歯 周 病 原 性 菌
P. gingivalis
お よ びA. actinomy-
cetemcomitans
の内毒素にさらされることにより成育後免疫系に影響がみられるか否か,サイトカイン 図2 肥満,糖尿病,歯周病の関連性
図3 唾液タンパク質の機能
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量 を 中 心 に 検 討 し た17)(図4)。生 後0〜1日 の BALB/c マウスに,P. gingivalisあるいは
A. actino- mycetemcomitans
の内毒素20ng を皮下 注 射 し,そ の後通常通りに飼育した。6か月飼育後,ウシ血清 アルブミン(BSA)20mg を腹腔投与し,その17時 間 後 に 血 清 を 採 取 し た。採 取 し た 血 清 を 用 い て,IL-4,IL-5,IL-6および IFNγの量を ELISA キットで測定した。また,Ⅰ型アレルギーにかかわ る IgE 量も ELISA キッ ト で 測 定 し た。BSA 刺 激 後の成育マウスのサイトカインレベルを比べると,新生仔期
P. gingivalis
内毒素投与群では液性免疫に促進的にはたらく IL-4,IL-5および IL-6の産生 量が対照群に比べ高かった。また IgE の血清中レ ベルも,新生仔期
P. gingivalis
内毒素投与群の方が 対照群に比べ有意に高かった。以上の結果から,新生仔期に
P. gingivalis
内毒素にさらされると,長期にわたって免疫系に影響が認められることが示され た。
米ペプチドの内毒素活性抑制作用と プラーク形成抑制効果
2011年から2013年まで農林水産省の委託プロジェ クト「米タンパク質の新規生体調節機能性の先導的
開発と機構解析」に研究分担者として参加した。
米ペプ チ ド CL(14−25)(Cyanate lyase, Rice : RRLMAAKAESRK)を用いて,内毒素のヒト培養 細胞からの炎症性サイトカイン誘導能に対する抑制 効果について検討した18)。
A. actinomycetemcomitans
内毒素,S 型内毒素であるE. coli
O55内毒素,Rc 型であるE. coli
J5内毒素,Re 型であるE. coli
R 515由来のリピド A を用いた。培養液に内毒素(あ るいはリピド A)(100ng/ml)とともに米ペプチ ド CL(14−25)を0.035mM〜0.14mM 加 え ヒ ト 正常大動脈内皮細胞(HAEC)を培養し,17時間後 の培養上清中の IL-6量を ELISA キットで測定し た。CL(14−25)ペプチドは,共試したすべての 内毒素およびリピド A の IL-6産生誘導能に対して 濃度依存的に抑制効果を示し,内毒素活性抑制物質 としての有用性が示唆された。内毒素の活性中心で あるリピド A は菌種を超えてその構造が共通して いるため,リピド A に作用して抑制効果を示す米 ペプチドは,同じタイプのリピド A をもつ多くの 病原細菌の内毒素活性を抑制することができるもの と考えられる。次に,内毒素のマウス致死毒性に対 する CL(14−25)ペプ チ ド の 阻 害 効 果 に つ い て BALB/c マ ウ ス を 用 い て 検 討 し た。BALB/c マ図4 マウス新生仔への歯周病原細菌内毒素投与の生育後免疫系への影響
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ウスに
E. coli
O55内毒素0.5mg/mouse および CL(14−25)ペ プ チ ド1,0.5,0.1mg/mouse を 腹 腔投与し,その後の致死率を検討した。E. coli O55 内毒 素0.5mg/mouse 腹 腔 投 与 BALB/c マ ウ ス で は,2日目までの生存率は30%だったが,同時に CL
(14−25)ペプチド1mg/mouse を腹腔 投 与 し た マ ウ ス で は,90%の 生 存 率 を 示 し た(図5)。ま た,CL(14−25)ペプチドの量を,0.5および0.1 mg/mouse で投与したときも,内毒素致死活性に 対して抑制効果を示し,CL(14−25)ペプチドの 内毒素マウス致死活性に対する阻害効果が確認でき た。
CL ペプチドが臨床応用できるか否かを検討する ために,CL(14−25)ペプチドのプラーク形成抑 制効果について確認した19)。CL(14−25)ペプチ ドをヒトに応用する際の安全性の確認のため,細胞 毒性は HAEC を用いて,経口投与による毒性につ いては BALB/c マウスを用いて評価した。CL(14
−25)ペプチドを HAEC に添加し,その4時間後 および24時間後の viability を XTT assay によって ペプチド無添加細胞と比較したところ,CL(14−
25)ペプチドに顕著な細胞毒性あるいは細胞増殖促 進効果はみられなかった。CL(14−25)ペプチド 0.2mg を,BALB/c マウスに1週間経口投与し,
2週間にわたりマウスの状態および体重を調べたと ころ,対照マウスと差はみられず,CL ペプチドの 毒性は認められなかった。歯周疾患の無い健常者に おいて CL(14−25)ペプチドを含有する洗口液で 含嗽を行い,その前後でのプラーク付着量を調査 し,その有効性を検討した。本試験は二重盲検法に
て行い,被験者および評価者には含嗽剤の種類を知 らせないで行った。なお,本研究は東京歯科大学倫 理委員会の承認(承認番号386)を受けて行った。
対象被験者は,全身疾患を有さず,口腔内臨床所見 および自覚症状にて歯周組織に異常が認められない 24〜60歳の健康な東京歯科大学保存科医局員および 千葉病院臨床研修歯科医で,研究協力への同意能力 を有し,同意書に自署できる者とした。CL(14−
25)ペ プ チ ド 含 有 含 漱 剤 は,CL(14−25)0.4%
(4.0mg/ml),精製水99.6%とし,プラセボ含嗽 剤は,精製水100%とした。本研究への参加に同意 を得られた被験者に対し,プラーク評価,およびス ケーリング,ポリッシングを行った後,実施した。
1クール目として第1群(2名),第2群(6名)
とも CL(14−25)ペプチド含有含嗽剤20mL で,
3日間朝晩各1分間含嗽させ,3日後のプラーク付 着程度を評価,および問診・視診を行った。評価後 スケーリング,ポリッシングを行い,その後7日間 wash-out period として通常通りの口腔ケアを行わ せた。再度プラーク評価およびスケーリング,ポ リッシングを行い,2クール目としてプラセボ含嗽 剤で,同様に3日間含嗽させ,3日後のプラーク付 着程度を評価,問診・視診を行った。3日ずつの試 験含嗽剤使用期間中は,ブラッシングを中止するこ ととした。プラーク評価は,プラーク染色液を用 い,代表6歯16,21,24,36,41,44の頰側および 舌側部の近遠心隅角部と中央部の6点において,プ ラーク評価を行った。各点において,染色された付 着プラークの歯肉辺縁からの距離を,目盛付きプ ローブを用いて0.5mm 単位で測定した。各部位に
図5 内毒素のマウス致死活性に対する CL(1mg/mouse)の阻害効果
(n=10)
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おける測定値の平均値を,当該部位のプラーク付着 量とし,測定値を1mm 単位で除した値をその部位 のプラークスコアとした。それぞれの含嗽剤を3日 間使用後,口腔内診査を行い,著しい歯肉の腫脹や 出血などの有害事項の有無を確認した。それぞれの 含嗽剤を3日間使用後,プラーク除去感をスコア化 し評価させた。
研究の結果,小臼歯(上下4番)のみでの比較,
大臼歯および小臼歯(上下6番,4番)での比較 で,CL(14−25)ペプチド含漱剤使用の方がプラ セボ含漱剤使用よりも,有意にプラーク量が少な かった。また大臼歯(上下6番)のみ,あるいは全 体の平均を CL(14−25)ペプチドとプラセボで比 較すると,有意差はみられなかったものの CL(14
−25)ペプチド含漱剤使用の方がプラセボ含漱剤使 用よりも,プラーク形成量が少なかった。有意にプ ラーク形成量が少なかった大臼歯および小臼歯につ いて部位別でのプラークスコア減少率を求めた結 果,減少率は2.5%〜26.4%で,大臼歯の舌側面が 最も減少していた(表2)。しかし,前歯部(上下 1番)のみでの比較では,CL(14−25)ペプチド 含漱剤使用とプラセボ含漱剤使用とで,ほぼ同じプ ラーク量だった。また,比較アンケートの結果,1 クール目(米ペプチド CL)のほうが除去できたと 思う者が3名,2クール目(プラセボ)のほうが除 去できたと思う者は0名,1クール目と2クール目 で差がなかったとした者が5名だった。以上のよう に,米ペプチド CL(14−25)は,デンタルプラー ク形成抑制効果があり,口腔ケアに有効であること が明らかになった。
ヒスタチン20,21)などの唾液タンパク質は歯周病原 細菌に対して抑制的に働くことが,明らかになって いるが,唾液タンパク質の機能は加齢とともに量的 にも質的にも衰えてくる。本研究に用いた米ペプチ ド CL(14−25)は,抗菌活性と抗内毒素活性を合
わせもつなど多機能性のペプチドであり,唾液タン パク質による防御能が衰退してくる高齢者への利用 が有効であろう。また,米ペプチド CL(14−25)
は,デンタルプラーク形成抑制効果があり,米ペプ チドの口腔ケアへの応用が期待される。
おわりに
朝早くから夜中まで時間を忘れて実験に打ち込む というようなことはなかったが,40年間マイペース で研究を続けてきた。自分の興味と思いつきだけで 研究してきたので,ライフワークとなるような研究 はできなかった。しかし大きな病気もせずに,健康 に気をつけながら,何とか満足いく研究が続けられ たのではないだろうか。でもそれは,本当に多くの 人たちのおかげだと感謝している。皆様,本当にど うもありがとうございました。最後に,若い研究者 の方たちが,創造的で高い評価の得られる研究を目 指し,斬新な発想で研究を進め,得られる成果に喜 びを感じながら,健康で長く研究生活を続けていけ ること祈念し,稿を閉じたいと思う。
本稿の要旨は,第314回東京歯科大学学会総会(2022年 10月16日,東京)において特別講演として発表した。
文 献
1)加藤哲男:歯周病原性菌内毒素の抗原構造と免疫生 物学的活性の単クローン抗体による解析,歯科学 報,89:1205−1219,1989.
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4)加藤哲男:学外研究はフローズンマルガリータとと 表2 プラークスコア減少率(%)
対象全歯 上顎 下顎 頰側 舌側
大臼歯 11.6 13.5 9.1 2.5 26.4
小臼歯 6.1 5.6 6.5 3.1 11.8
大・小臼歯 8.9 9.9 7.8 2.8 19.7
全顎 4.9 7.3 2.2 3.4 6.4
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もに−歯周病原性菌の病原性に関する遺伝学的解 析−,歯科学報,96:10−14,1996.
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6)Kato T, Takazoe I, Okuda K : Protection of mice against the lethal toxicity of a lipopolysaccharide
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40 Years of Research at Tokyo Dental College
Tetsuo KATOLaboratory of Chemistry, Tokyo Dental College Key words: endotoxin, anti-idiotype antibody, exercise, cystatin, rice peptide
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