事例研究 ( ミクロ経済政策・問題分析 I) - 規制産業と料金・価格制度 -
(#101 – イントロダクション )
2018 年 4 月 11 日 戒能 一成
0. 非常勤講師 / 実務家教員 紹介
戒能 一成 (Kainou Kazunari)
学歴 ; 東京大学 工学部卒 ( 資源開発工 ; 再編済 ) 職歴 ; 1987-2002 通商産業省(現 経済産業省 )
主要配属先 ; ( 国家公務員Ⅰ種技官 )
鉱業課 ( 取引監督・法制担当 )
自動車課 ( 技術・部品担当 ) 情報システム課 ( 電子化法制担当 ) 中小企業庁 ( 地場産業 / 法制担当 ) 資源エネルギー庁 ( 需給予測担当 )
他 人事院国家公務員試験専門官に併任
0. 非常勤講師 / 実務家教員 紹介
現職 ; 2002- ( 独 ) 経済産業研究所 研究員
兼 2010- 東京大学公共政策大学院 講師 兼 2011- 原子力損賠・廃炉支援機構 参与
兼 2011- 国際連合 CDM 理事会 常任理事
兼 2017- 同 理事会 信認パネル 議長
専門 ; - 定量的な政策評価・分析 及び 検証
- 政策評価に関連した官公庁依頼研究 HP ・著作物 ; Google で「戒能一成」を検索
E-mail; kainou-kazunari@rieti.go.jp
kaixjapan@yahoo.co.jp
1. 「規制産業と料金・価格制度」概要
1-1. 概 要
問題設定 - 規制産業と価格・料金制度分析
テーマ - 自由選定 ( 中間報告迄変更可 ) 履修方式 - グループによるプロジェクト形式 日程概略 - ~ 5 月迄 : 基本的情報提供・解説
( グループ分け・テーマ選定 ) 5 月前半 : 中間報告 ( 作業計画)
~ 6 月頃 : 分析ノウハウ提供・支援
( 中間~最終報告迄に作 業 )
~ 7 月頃 : 夏学期 最終報告
←(冬学期履修者は引続き応用分析へ )
重 要
1. 「規制産業と料金・価格制度」概要 1-2. FAQ (1)
予備知識 - 前提とせず; 特に計量の履修不問
- 必要知識・テーマのリクエスト歓迎
夏期・冬期 - 通期を推奨するが単期完結も可
グループ - 2 ~ 3 人のグループでのプロジェク ト
実施が前提 (1 年生・ 2 年生の混成可 ) - 5 人以上のグループは不可、 4 人迄 - 1 人でのプロジェクト実施は、類似 テーマの希望者やグループがない 場合のみ例外的に認める
重 要
1. 「規制産業と料金・価格制度」概要 1-3. FAQ (2)
採点基準 - 以下の 4 つ、出欠不問
- テーマ選択と分析手法の「整合性」
- 作業計画・内容の「合理性」
- シミュレーション・分析の「妥当性」
- 結果の評価分析と解釈の「的確性」
成果物 - 夏学期・冬学期の報告により採点 - 採点後に松村先生HPにて一般公
開
相談・質問 - 戒能メールアドレス宛 24 時間可
( 必ず松村先生に同時送信すること )
重 要
1. 「規制産業と料金・価格制度」概要 1-4. 講義資料
電子版資料
以下戒能一成 HP にて電子版を公開、原則 としてペーパーレスにて講義を実施
https://www.rieti.go.jp/users/kainou-kazunari/
( 「戒能一成」でWEB 検索してアクセス可 ) 次回使用資料は毎回授業末に予告するの
で、各自 DL して印刷するか、 PC 等を持参し
て閲覧すること
重 要
2. 概況説明
2-1. 「規制産業と料金・価格制度」とは
規制産業とは
- 何らかの理由から不完全競争状態 を前提としなければならない時に 政府が規制によって経済厚生を 改善しようとしている産業
- 本講では「経済的規制産業」が対象 料金・価格制度とは
- 規制産業の料金・価格を決める制度 - 主に「家計」を対象とするもの多し
2. 概況説明
2-2. 料金・価格制度
料金・価格制度の法的形態
法定・条例料金 - 料金を国・地方公共団体が 直接制定
認可料金 - 料金を定める場合、国 ( 所
管大臣 ) の事前認可が必要 届出料金 - 料金を定める場合、国 ( 所
管大臣 ) に届出が必要
← 近年は「事後チェック型届出」など制度が多様化 電力・都市ガスなど「自由化」も進展
2. 概況説明
2-3. 料金・価格制度の例
料金・価格制度の具体例 ( 現状 )
(法定料金 ) - 診療報酬、介護報酬 (→ 別講推奨 ) (条例料金 ) - 水道・下水道料金、粗大ゴミ料金 (認可料金 ) - ( 電気・都市ガス ( 経過措置 ))
- 鉄道・バス運賃、高速道路料金
(届出料金 ) - 電気通信料金、国内航空運賃
- 郵便料金 ( 一部認可制 )
※ 公租公課 (ex. 租税、社会保険料・ NHK )など
財サービスの直接的対価でないものも可
2. 概況説明
2-4. 料金・価格制度の現状 (2009 ・家計調査 )
(法定 ) 保険医療費 \ 76,462 ( 対総支出 2.51%)
(条例 ) 上下水道料 \ 49,213 ( 対総支出 1.62%)
(認可 ) 電気代 \ 98,527 ( 対総支出 3.24%)
都市ガス代 \ 34,992 ( 1.15%) 鉄道運賃 \ 38,190 ( 1.25%) 有料道路料 \ 7,329 ( 0.24%) (届出 ) 移動電話料 \ 79,986 ( 対総支出 2.63%) 固定電話料 \ 31,418 ( 1.03%) 航空運賃 \ 5,879
( 0.19%)
郵便料 \ 4,572 ( 0.15%) .
合計( 含その他) \ 329,210 ( 10.08%)
2. 概況説明
2-5. 料金・価格制度と規制改革
→ 発端は「内外価格差の深刻化」
→ 「規制緩和・改革」政策の進展に伴い’ 90 年代 中盤から殆どの制度で「制度変更」を実施
→ 電力・都市ガスの場合大きく2段階 (‘94, ’99)
電気事業 都市ガス事 業
ヤードスティック査定化 ‘ 95 ‘94
発電部門入札化 ‘ 95 --- 部分自由化 ( 小規模 ) ‘95( 特定 ) (’ 94)
部分自由化 ( 大規模 ) ‘99( 特高 ) ‘94 部分自由化 ( 再拡大 ) ‘03-05 ‘99
完全自由化 '16 ~ '17 ~
3. 「予察」の進め方
3-1. テーマ案
1) 規制価格・料金の政策・制度変更の影響評価
( 自由化政策 , 料金規制緩和など )
2) 政府サービス価格・料金制度変更の影響評価
( 有償・無償化 , 関税・公租公課引下げなど )
3) 特定政策目標のための価格・料金制度の評価
( ピークロード・プライシング , 補助制度な ど )
4) 独占事業体と料金・赤字補填問題
( 地方公営企業 , ○○ 公団・協会問題 )
← これらのテーマはあくまで「例示」 , 相談可
3. 「予察」の進め方
1) 規制価格・料金の政策・制度変更の影響評価
( 自由化政策 , 料金規制緩和など )
過去の事例 ;
- 電気・ガス・石油の規制緩和の価格影響評価
- 航空・バス・タクシー運賃の規制緩和影響評価
- 移動体通信の規制緩和の価格影響評価
- 食管制廃止・農業企業参入規制緩和評価
- 薬価基準改定による価格影響評価
- 生命保険規制緩和の影響評価
- 灰色金利廃止と消費者金融業への影響評価
3.
「予察」の進め方
2) 政府サービス価格・料金制度変更の影響評価
( 有償・無償化 , 関税・料金一律引下げ , 数量 規制など )
過去の事例 ;
- 京都市ゴミ袋有償化の影響評価
- 東京湾アクアラインの料金割引社会実験
- 国際商用ロケット市場の経済厚生分析
- 上水道設備の適正化による料金引下の分析
- クロマグロ漁獲規制の消費者余剰分析
- 豚肉輸入関税引下げの消費者余剰分析
- ビール類酒税法改正による消費者余剰分析
3. 「予察」の進め方
3) 特定政策目標のための価格・料金制度の評価
( ピークロードプライシング , 補助制度変更 など )
過去の事例 ;
- 東京湾アクアラインの料金割引社会実験 ( 再掲 )
- 鉄道運賃によるピークロード料金制度の影響 評価
- 家庭用太陽光発電固定価格買取制度の分析
- 家計ガス消費の所得効果・価格効果の推計
- 低公害車 ( エコカー ) 普及税制等の効果推計
3. 「予察」の進め方
4) 独占事業体と料金・赤字補填問題
( 地方公営企業 , ○○ 公団・協会など )
過去の事例 ;
- 京阪神市バスの「管理受委託」による影響評価
- 東京湾アクアラインの料金割引社会実験 ( 再掲 )
- 公営都市ガス事業の民営化による費用・価格影響
評価
- 上水道設備の適正化による料金引下 ( 再掲 ) - 新聞再販の独占禁止法適用除外制度の評価
3.
「予察」の進め方
5)
上記のどれにも当てはまらないもの過去の事例 ;
- JAL
撤退・LCC 参入の航空運賃への影響評価
- ビザ免除政策 (
観光・震災復興) の影響評価
- 移民政策の導入による労働賃金への影響評価
- IT
投資の生産性への影響評価( 航空・鉄道 )
- 地方銀行の合併の費用便益分析
-
胆管がんと特定労働災害との関係性分析-
就学前教育による学力影響評価←
新奇なテーマは面白いが、相応の作業負担と失 敗リスクが伴うことを十分理解して取組むこと3. 「予察」の進め方
3-2. 何をしたら「評価」したことになるか
- 価格・料金制度の評価上の着目点は
「費用・便益がどう変化したか」
時 間 実質費用・便益
(政策実施前) 政策実施後 便 益
費 用
追加的便益
追加的費用
政策による費用便益差
3. 「予察」の進め方
3-3. 部分均衡による余剰分析
- 費用・便益の変化は部分均衡による余剰分 析で
定量化可能
実質価格・費用需要 D X0
0 + 消費者余剰 CS
+ 生産者余剰 PS 社会的余剰 SS
= 消費者余剰 CS + 生産者余剰 PS
規制料金・価格 P0
平均費用 AC
3. 「予察」の進め方
3-4. 部分均衡による余剰分析を用いた「評
価 」
数 量
(政策実施前) 政策実施後
需要 D 平均費用 AC X0
Q0
需要 D P1
C1
Q1 (=Q0) X1 (=X0)
平均費用AC(低 下)
実質価格・費用 実質価格・費用
便益 (不変)
費用 (低下) 時 間
数 量
社会的余剰 SS 変化
= 政策の実施効果
C0
社会的余剰 SS
3. 「予察」の進め方
3-5. 手際よく進めるには - 評価の場合 (1)
- 価格・料金制度の評価上の着目点は
「費用・便益がどう変化したか」
- (1) まず評価対象とする価格・料金制度の変更
などの「事象」を仮決めする ;
← なるべく大きな制度上の「事象」を選ぶこと
- (2) 当該「事象」の前後の期間で 5 年毎・ 15 年分
程度データを予備収集し、粗く費用・便益が 「事象」によりどう変化したかを観察 ( 概
査 )
3. 「予察」の進め方
3-6. 手際よく進めるには - 評価の場合 (2)
- (3) 「事象」前後で殆ど費用・便益の変化がない
場合・悪化した場合など、状況に応じて作業
仮説を設定し、作業計画案を立てる
- (4) 外部要因の除去方法など作業仮説からの
「精査」の進め方や留意点については、今後 数回に分けて講師が「実例」で説明
- (5) 「概査」段階でブレが激しい場合、時系列で
のデータがない場合には早めに「方針転換」
← 「大失敗」しないコツ
3. 「予察」の進め方
3-7. 手際よく進めるには - 評価の場合 (3)
- 簡単な PQ 図を作成すると見通しが良く なる!
140000
160000180000
200000220000
240000260000
280000 ( kWh)
需給量 百万 14.0
16.0 18.0 20.0 22.0 24.0 26.0
\/kWh, 2000年度実質
家庭用料金 総平均費用
家庭用電灯料金・費用・需給量推移
1989
1996
2003
1989
1996
2003
6750 7000 7250
7500 7750
8000 8250
8500 8750 9000
( m3)
需給量 百万 70
80 90 100 110 120 130
\/m3 2000年度実質
家庭用料金 総平均費用
家庭用都市ガス料金・費用・需給量推移
費 用 料 金
費 用 料 金
3. 「予察」の進め方
3-8. 典型的な「失敗する」パターン (1)
- 具体的分析戦略を決めずデータ解析を続ける ;
「何か見つかるだろう」と漫然と作業を続ける
← 迷走の末「時間切れ」となる可能性大!
- データが揃ったらいきなり STATA で計量分析を
掛ける ; 「高度な手法」を過信し概査を軽んじる ← 高度な手法は適用範囲が限定される!
- 先行研究との差異を過度に意識し過大な目標を立
てる ; 「余りに遠大な作業に疲れてしまう」
← 納期内に「手堅く纏めること」は重要!
重 要
3.
「予察」の進め方
3-9.
典型的な「失敗する」パターン (2)- テーマの物色で時間を使い切ってしまい、締切
りぎりぎりでやっと計量分析を掛ける・締切り
直前から新しく別の分析を始める← 「時間切れ」となるか、重要な問題を 討ち漏らしてしまう可能性大!
- 2
~3 人で作業した結果を、調整・摺合せせずに
単に貼り合わせただけで報告としてしまう
← 報告は「読手に理解してもらう」ために あり、折角の作業が「水の泡」!
重 要
4. テーマ選定に有益な情報源
4-1. 制度の概略・価格・数量などの情報源 (1)
- 規制制度の政策評価結果
← 総務省「政策評価ポータルサイト」
( 各省庁・自治体の政策評価ページのリンク有 )
「ひょうちゃん」(政策評価のマスコットキャラクター)
by 総務省
- 規制産業の価格・料金制度変更の経過・推移
← 政策制度変更の際には必ず「審議会」あり ← 各所管省庁の「白書類」・「審議会資料」の
うち「事象」の前後年度分を探すこと
4. テーマ選定に有益な情報源
4-2. 制度の概略・価格・数量などの情報源 (2)
- 消費者物価 ( 含規制料金・価格 ) の推移
← 総務省統計局“消費者物価指数” HP http://www.stat.go.jp/data/cpi/
- 規制料金・価格の評価対象の需給量推移
← 各所管官庁がHP上で統計値を公開したり、
「○○統計年報」「ハンドブック」類を発行 ← 該当量がない・途切れている場合に要注意
- 一般的情報収集なら「国会図書館HP」が秀逸
http://rnavi.ndl.go.jp/research_guide/
4. テーマ選定に有益な情報源
4-3. 制度の概略・価格・数量などの情報源 (3)
- 規制料金・価格の評価対象の費用推移
← 規制産業の財務諸表や決算報告書はその 殆どが一般公開されている
( 金融庁「有価証券報告書」電子開示システム ) ← 電力・ガスや運輸・電気通信などの場合は ここから料金・価格や費用が推計可
← 財務諸表・決算報告書の読み方は予備知識 が必要、講師が実例を説明するのでノウハ ウをつかむこと
4. テーマ選定に有益な情報源
4-4. 過去の事例研究の報告書
- 過去の報告書は松村先生 HP からDL・閲覧可
http://dbs.iss.u-tokyo.ac.jp/~matsumur/HPJA.html
- 過去の先輩方の報告書から、量的・質的に
前期・後期にどの程度迄の作業が必要かを 推察しながら、無理のない範囲で かつ半年
~
1
年の時間を掛ける意義のある事象につき
テーマ選定と予察を進めること