G A T T の「域外適用」の解釈について
− T u n a / D o l p h i n C a s e と S h r i m p / T u r t l e C a s e をもとに検証−
2 0 0 0 年1 0 月1 9 日 文責:籾山智則・蛭田伊吹
U p d a t e : 2 0 0 0 年1 2 月8 日
I GATT 一 般 協 定 の 中 に 「 域 外 適 用 」 、 又 は 「 管 轄 外 適 用 」 と い う フ レ ー ズ 出 て く るか ?
出てこない→20条(e)にPPMsの域外適用を見とめる例外措置が書かれているが、
「域外適用」等のフレーズはつかわれていない。
I I T u n a / D o l p h i n C a s e をもとに「域外適用」を考える
Robert Repette “Trade and Environment Policies: Achieving Complementarities and Avoiding Conflicts” (WRI Issues and Ideas, July 1993)より
→貿易の専門家は20条を勝手に拡大解釈して域外適用を見とめないとしていると主張。つ まり域外適用をしても良い。
山口先生の論文(「自由貿易と環境保護−WTOと環境問題」)より
20 条(b) 域外適用に関して何も書かれていない。しかし、パネルは「起草当時の意図にさ かのぼり」(山口先生の論文)、(b)はアメリカの取った措置はアメリカの管轄内でしか適用し ない(つまり域外適用は出来ない)とした。→起草当時の意図とは、貿易において不当な 差別をなくすこと、というGATTのもともとの理念。
↓
域外適用=差別的措置であり、もしも域外適用を受け入れると、各締約国が域外の生命・
健康の保護の為に政策をこうじる事になり、自由貿易が崩壊。
20 条(g) 同上。しかも、もしも域外適用を良しとしても、アメリカの提示した漁法は、マ グロを獲った後に初めてどのくらいイルカを獲ってしまったかが分かる方法なので、「予測 不能な条件に基づく措置は正当でない」といえる。
→どちらにしてもアメリカは敗訴。
Prof. Tom Heller/Prof. Mitsutsune Yamaguchiのメール会議のドキュメントより
WTO パネルは、国際貿易システムを崩壊させる、正当でない措置として PPMsの域外適 用を認識し、よって、20条シャポーに引っかかるとした。
→では 20 条(e)はどうなるのか?しかも、刑務所労働による産品はdirty process ではない可能性もあるはず。Clean process/Clean productである産品のPPMsの域外適用 を認め、dirty process/clean productのPPMsの域外適用を認めないのは矛盾しているの
ではないか?こういう観点から見ると、Shrimp/Turtle Case におけるAppellate Bodyの 判決はある意味正しい方向に進んだとも言えなくはない。
I I I S h r i m p / T u r t l e C a s e の A p p e l l a t e B o d y 判決をもとに「域外適用」を考える
Prof. Tom Heller/Prof. Mitsutsune Yamaguchiのメール会議のドキュメントより
1、エビ・カメ事件の判決は「革命的」(”revolutionary”)といわれているが、批判も多く、
国際的なコンセンサスもとれていない。これをGATTのこれからの動向ととるのは危険。
2、南北問題があり、途上国(タイなど)はGATTが環境よりの判決を出したことに反発。(逆
にマグロ・イルカ事件の時は途上国がGATTよりになった、という面がある。)
3、(Prof.Murase の意見)この判決は、「拡張された PPMsの規制」(”extensive PPMs
regulations”)といった 一方的措置の潜在的な妥当性を暗に示している。
4、(Prof.Murase) Appellate Body は「進化的」(”evolutionary”)なアプローチをとる必要 があるといっていたが、この判決はあまりに「革命的」(”revolutionary”)であり、正規 でない裁判によって出来た法律(”unwarranted ‘judicial legislation’”)になっている。
5、もともと WTO 加盟国は他国の PPMsに関する法律を自国に適用されたくない、とし
てきた。しかし、20条(e)をみると、「刑務所労働の産品に関する措置」は例外として 認めるとかいてあり、これは PPMsを他国に適用しても良い、というように取れる。
→山口先生の論文では、パネルは「起草当時の意図にさかのぼり」域外適用を許さなかっ た。WTOの中で矛盾がみられるのではないか?
6、PPMsによって生産コストが高くなることによる競争の歪みが出てくることも認識さ れ始め、GATTでPPMsを取り入れることを制限する必要があるかもしれない。
IPCC CH6 Policies, Measures and Instruments (third order Draft) October 16, 2000 6.4.2 Conflicts with International Environmental Regulation and Trade Lawより 7 、 こ う い っ た 問 題 に つ い て WTO は 判 決 を 下 す べ き で は な く 、 多 国 間 環 境 機 構
(Multilateral environmental organization)を新たに作り、そこで話し合うべきである、
と一部のアナリストは主張。
8、WTOはPPMsの域外適用(extra-jurisdictional PPMs)を禁止していないとABは主 張。この意見は国際的に見とめられた判決ではないが、一部では、PPMs に関する問題は WTO自体に違反しないという意見が出ている。
Appellate Body のレポートより
9、この中に「域外適用」という言葉は出てこないし、これを明確に示唆するものはない。
それ以前に、”Understanding on Rules and Procedures Governing the Settlement of Disputes “(DSU)3.2条 (国際法を解釈する方法に関するルールが書かれている。)という ものがあり、常に協定の言葉の解釈を検討しつづけなければならない。
→つまり、GATTの解釈はケースによって変わっているといえる。「域外適用」してもい いか、いけないかについても変化していると言ってよい。
パネル:(“design of the measure itself” に注目。でも本来これは20条のどの号に当てはま るかを考えるときにつかうもの。) GATTの基本理念(貿易において不当な差別をなくす)
とケースをまず照らし合わせる。Section609 は結果的に貿易差別を引き起こす可能性があ るため、その時点でアウト。ケース自体が20条シャポーに引っかかるかどうかさえ考えて いない。(「域外適用」とは書かれていない。)→この考え方はDSUにしたがっておらず、間 違っている。
Appellate Body:まず20条が何を意味しているかを明確にする。(どういう場合に例外措
置が許されるのか?または不当になるのか?ということ。)明確でない場合はGATTの基本 理念とケースを照らし合わせる。20条の目的が明確ならば20条とケースを照らし合わせる。
Section609 は、どう不当なのかがはっきりしていたため20 条(g)に当てはまるにも関わら
ず、例外措置として認められなかった。
→決して「域外適用はしてもよい」とは言っていない。単に「域外適用かどうか?」と考える 前に「アメリカの言うようにSection609は例外措置として認められるのか?を検討したに過 ぎない。また、それがDSBとしての正当な判決の出し方であるとAB は主張する。
つまり、「域外適用」というのは、GATT基本理念に関わってくる問題で、まずその観点か らケースを見るべきではない、というのがABのスタンス。GATTの基本理念よりも、まず ケースが適用させようとしている条項の目的と措置の目的を明確にし、判決を出すべき。
I V 結論
GATT は同じ一般協定をもとにしているのにもかかわらず、「域外適用」についての見解を 変えた。それは何故可能だったのか?
1、一般協定には「域外適用」について何も書かれていないため、判断はDSBがどう一般協 定を解釈するか?何を重視するか?(協定自体の目的?20条の目的?)にかかっている。
2、、一般協定の解釈を変えてもいけないことではないと、DSUに書かれている。
3、エビ・カメ(AB)は「域外適用」という概念から離れたところで判決が下されている。
4、エビ・カメでの結論は国際的なコンセンサスが取れていないため、ここからは GATT におけるこれからの動向は読めない。
5、PPMsの域外適用は WTO 自体には違反しないという意見と違反するという意見が両 方出ていて、一概にはどちらが優勢かは言えない。しかしIPCCのCH6(Third Order Draft)では、域外適用は違反しない可能性があるという意見が多く取り上げられてい るような印象を受けた。
参考文献
1、GATT一般協定 1994
2、自由貿易と環境保護−WTOと環境問題 山口光恒
3、“6.4.2 Conflicts with international regulations and trade law “ メール会議 Tom Heller, Mitsutsune Yamaguchi
4、United States−Import Prohibition Of Certain Shrimp and Shrimp Products Report of Appellate Body WTO 10/12/1998
5、IPCC Chapter 6 Polices, Measures, and Instruments (Third Order Draft) “6.4.2 Conflicts with International Environmental Regulations and Trade Law”
2000年10月16日