• Tidak ada hasil yang ditemukan

方言研究における GIS の活用に関する一考察. A Study on the use of GIS in dialect research

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

Membagikan "方言研究における GIS の活用に関する一考察. A Study on the use of GIS in dialect research"

Copied!
8
0
0

Teks penuh

(1)

1.はじめに   方言研究において,地理的な変化を捉えることは大 変重要なことである。そのために,日本言語地図[国立 国語研究所,1966-1974]や方言文法全国地図[国立国 語研究所,1989-2006]のように全国を網羅するような 大規模な調査により,分布を把握する努力がなされる。 そして,これらの分布を示す地図は常に方言研究の重要 な資料として利用されている。  しかし,大西によれば,日本言語地図は準備段階から 多大な労力をかけているにもかかわらず,その作成につ いて記録以外の明確な目的がなかったという[大西拓一 郎,2008]。このため,言語地図は「アカデミックな目 的意識の希薄さの象徴」で,知的な魅力に欠けるものと して見られているのではないかという懸念が示されてい る。  また,方言の地理的分布を取り扱う言語地理学は,言 語史の方法の一つであって,その目的は言語の歴史を明 らかにすることである,というテーゼのもとに,方言地 理情報によってある言語の歴史を解明するのが目的とさ れた。言語地図の解釈ということであり,その解釈は言 語の変化だけに注目したものであった。このことが重視 されるあまり,本来,考慮されるべき距離などの言語外 の要因も含めた地理学的手法による分析が十分なされて こなかったという問題がある。  これに対し,近年,言語分布を地理学的手法,特に GIS(Geographic Information System地理情報システム) を取り入れて分析を行う試みも行われるようになってき た[峪口 岸江,2013]。国土地理院によればGISは「地 理的位置を手がかりに,位置に関する情報を持ったデー タ(空間データ)を総合的に管理・加工し,視覚的に表

方言研究における GIS の活用に関する一考察

林   良 雄

A Study on the use of GIS in dialect research

HAYASHI, Yoshio

概要  方言研究において言語地図の重要性はよく知られている。しかし,言語の分布だけが注目され,地形や道などの影 響を考慮した言語地理的なアプローチは十分になされていない。本論文では,まず,日本言語地図(LAJ)における 位置情報の扱いについて概観し,その位置情報から経度緯度になおす考え方を解説した。次にLAJのデータを使って GISで3つの違う地図に重ねた言語の分布図を作成した。そこから,GISで言語分布図を描く有効性について述べ, 最後に,方言研究でGISを利用するための障害について議論を行った。基盤の地図ファイルなどの方言研究のための GISの環境を早急に整えることが必要であるという結論を得た。 summary

  The importance of the language map is well known in the dialect study. However, only the distribution of the language has been noted, the language geographical approach that takes into account the influence of terrain and roads not been enough. In this paper, first, an overview of the handling of location information in Linguistic Atlas of Japan (LAJ) and explain the idea to convert from that position information to latitude and longitude. Then we create a distribution charts of language superimposed on three different map in GIS using data of LAJ. Then we describe the effectiveness of drawing a language distribution map by GIS. Finally, we discuss the obstacles to using GIS in dialect research. It was concluded that it is necessary to adjust the GIS environment for dialect research, such as a foundation of the map file.

キーワード:方言 言語地図 言語地理学 位置情報 GIS

Keywords : dialect, Linguistic Atlas, Linguistic geography, position information, GIS

Memoirs of the Faculty of Education and Human Studies

Akita University(Natural Science) 71,89 − 96(2016)

(2)

示し,高度な分析や迅速な判断を可能にする技術」とさ れる。単純に利用の面から言えば,生きた地図を作るこ とと,空間解析を行うことができるツールである。  生きた地図とは,使っている記号(シンボル)や色な どが自由に変えられることと,様々なデータを重ねて目 的とした地図(主題図)を作ることである。また,空間 解析は地理的分布や道路などで結ばれたネットワークに 対してネットワーク解析やデータが重複するエリアの抽 出などの位置情報を用いた解析のことである。  日本言語地図や方言文法全国地図のような既存のデー タは,GISを使うことで,他のデータを重ねて関係を調 べたり,広がりや接続から定量的な分析を加えることが でき,膨大なデータの再活用が期待される。ただ,残念 なことに,位置の情報が経度緯度ではなく,独特な“調 査地点番号”が使われている。これについては,後述す るように既に調査地点番号から経度緯度を計算する方法 が用意されている。また,近年の論文ではすでに意識 してGISを利用している研究もある。このように,GIS で新しい展望が一気に開ける可能性があると思われる が,現実にはそんなに利用は進んでいないようにも見え る。  本論文では,日本言語地図や方言文法全国地図が採用 している位置情報の仕組みである国立国語研究所調査地 点番号システムの経度緯度変換について概観し,実際に 変換された位置情報を持ったデータを使って,GISでど のように使うことができるかを簡単に示し,なぜ,GIS の活用が進まないかに関する問題点について,検討を加 えることにする。 2.日本言語地図と方言文法全国地図について

 日本言語地図(Linguistic Atlas of Japan。以下LAJと する。)は国立国語研究所が 1966 年(昭和 41 年)から 1974 年(昭和 49 年)にかけて編集,刊行した[国立国 語研究所,1966-1974]。その目的について日本言語地図 解説−方法−[国立国語研究所,1989]ではおおよそ次 のように述べている。 (1)現代日本標準語の基盤と成立過程を明らかにする こと。  標準語が関東の方言を基盤として成立したものなの か,それだけではなく,他地方の方言の要素の影響もう けているのかについて,明確ではなく,言語の分布をみ ることにより,標準語が他の方言との競争をどのように 勝ち残ってきたかを解明することにある。 (2)日本語の差異の成立と各種方言語の歴史を明らか にすること。  日本語の地理的差異は,標準語と方言の対立のほか, きわめて多様な差異が存在していることはよく知られて いるが,その成立過程や変遷については十分に解明され ているとはいえない。その研究の一つの手がかりとして 地理的分布が必要となる。  また,それ以外に言語地理学の基本的資料として,諸 方面に活用できるものと考えられている。  LAJのデータを得るための調査は 1957 年(昭和 32 年) から 1965 年(昭和 40 年)にかけて,臨地調査によって 行われた。調査項目(言語)数 285 について,2400 の 調査地点での調査データを得ている。調査データは一項 目ごとに紙のカードで報告され,その総数は 54 万枚と 言われている[熊谷康雄,2013]。このカードをもとに, 手作業で分類,整理統合して凡例語形をまとめ,語形を 記号化し,日本の白地図の語形の位置にゴム印を押して いった。当時はパーソナルコンピュータがなく,コン ピュータといえば大型の計算機で,一般の,特に文系の 研究者にとっては縁のないものであったので,このよう な膨大な作業を手作業で行ったのであろう。

  方 言 文 法 全 国 地 図(Grammar Atlas of Japanese Dialects。以下GAJとする。)は,1989 年(平成元年) から 2006 年(平成 18 年)にかけて刊行された[国立国 語研究所,1989-2006]。文法的事象についても,急激な 共通語化が進んでいることに鑑み,その記録を進めるた めに 1979 年(昭和 54 年)から 1982 年(昭和 57 年)に 調査が行われ,最終的に調査地点 807 点について 350 項 目に関する分布地図が作成された。  GAJの目的は  (1)各地の文法体系に関する研究を促進する。  (2)分布類型論,および,方言区画論に寄与する。  (3)文法事象の全国分布を言語地理学的に解明する。  (4)全国共通語の基盤とその成立過程を明らかにす る。  (5)文献研究による日本語の歴史と方言分布との関 連について考察する。  (6)方言社会,あるいは,方言地域出身者にかかわ る国語教育・日本語教育のあり方について検討す る。 となっている。  この地図の編纂に当たって,データは調査カードとと もに,コンピュータでフロッピーディスクに保存されて いる。これはデータ保存の安全性とともに計量方言学的 な分析やコンピュータによる地図の作製や調査結果の出 力まで見越したものである[国立国語研究所,1989]。  さて,この二つの大規模な調査は,全国的な分布を把 握した地図であるが,地図については手作業でゴム印を 押していくことにより作られた。しかし,日々発展して いくコンピュータ技術を応用して研究に資することを考

(3)

えると,データの電子化が必要となる。まず,単純な地 図画像のデータ化が行われており,国立国語研究所の Webのサイト(LAJについてはhttp://www.ninjal.ac.jp/ publication/catalogue/laj_map/,GAJに つ い て はhttp:// www.ninjal.ac.jp/publication/catalogue/gaj_map/) でPDF により公開されている。確かに紙の地図よりは手軽に読 め,持ち運びや保管する場所についても手軽で,拡大も 自由にでき,研究者の利便性は高い。しかし,データ自 身が機械可読でない限り,「見る」ことから先には進ま ない。  熊谷らはアナログデータである調査票を手作業で入力 してLAJのデータベース化を行った[熊谷康雄,2007] [熊谷康雄,2013]。このデータベースは調査カードの 画像データベースや調査カードから起こした文字情報を コンピュータのファイルとしたものなどが提供している (日本言語地図データベースhttp://www.lajdb.org/TOP. html)。このサイトではExcelファイルも提供されてお り,研究者の便宜を図っている。  また,GAJについても国立国語研究所のWebのペー ジ の「 方 言 の 部 屋 」(http://www2.ninjal.ac.jp/hogen/ index.html)でテキストファイルとエクセルのファイル で公開している。 3.LAJ の位置情報について  上述のように,LAJ,やGAJの機械可読なデータは 用意されており,計量的な分析もおこなわれつつある [熊谷康雄,2013]。地理的分布を問題にする際に必要な のは位置情報である。LAJやGAJでは位置情報を調査 地点番号システム[国立国語研究所,1989-2006]によ る調査地点番号で表している。この調査地点番号はLAJ 作成の時点で考案されたものであり,秋田県付近では図 1のようになっている。秋田市付近であれば,まず,一 番大きな区画(後述の 100 区画)の番号(ここでは 37) を読み取り,次にその中の一つの区画の番号(ここでは 50,後述の5万図)そしてその区画の中の小さい文字(こ こでは 43,後述の 1/100 区画)を読み取る。それを続け て6桁の数字(ここでは 375043 となる)が調査地点番 号である。  基本の区画は5万分の1の地図の範囲でこれを5万図 とよぶ。角度でいうと南北(緯度)の方向に 10 分,東西(経 度)の方向に 15 分(距離では緯度方向 18kmくらい, 経度方向が 22.5kmくらい)である。この 5 万図を経度 方向に 10 区画,緯度方向に 10 区画集めた区画,すなわ ち緯度方向に 100 分(1度 40 分),経度方向に 150 分(2 度 30 分)の区画を 100 区画と呼ぶ。また,逆に5万図 を経度方向に 10,緯度方向に 10 分割,すなわち 100 分 の一にした区画を 1/100 区画とする。実際の調査地点は この 1/100 区画一つのどこかにある。さらに 100 区画は 北緯 29 度,東経 122 度 30 分を左下(西南)の角とし, 経度方向に北に 10,緯度方向に東に 10 区画を並べる。 各レベルの区画は北から0,1,2,…,8,9行目,西 から0,1,2,…,8,9列目と番号が振られ,(行番号, 列番号)で指定する。  ただし,沖縄などの北緯 29 度以南の地域は北緯 29 度, 東経 122 度 30 分を北西の角となるように,100 区画を 設定する。番号については上述の通りである。このよう にすると,北と南で0や1で始まる番号のものが重複し そうだが,日本列島は東西に長く広がっているので,南 の地域と北日本では経度が重なるところがなく,陸地だ けを考えると番号が重ならないが,地点番号順に並べる と,はじめに 022896 など鹿児島県が続き,突然 071646 の北海道が現れ,また,114859 などの沖縄県となり, 再び 169914 で北海道になるなど,北から順に並ばない。 これは北緯 29 度,東経 122 度 30 分を基準に取ってしまっ ているからであって,基準を日本列島の北のほうあるい は,沖縄まで考えに入れて南の端に持ってきたほうが良 かったのではないかと思われる。しかし,文献に明示さ れているものは見つけられなかったが,事情を知ってい る方によると,もともと調査地点番号は8桁であったと いう。100 区画の上位の区画(おそらくは 100 区画が縦 横 10 に並んだような区画)があって,その区画の中で の位置を示す2桁の番号がついていたのであろう。そう すると,北から順番に番号が並ぶ。ただ,入力の手間を 省くためにこの2桁を省略した。上述の通り陸地では重 なるところがないからである。  ところで,コンピュータ化が進む中で期待される事 図1.調査地点番号地図

(4)

柄の一つとして,LAJやGAJのような言語地図をコン ピュータで描くことができるようにすることがある。こ のために言語地図システムが開発された[大西拓一郎, 2002]。このシステムはAdobe Illustratorのプラグインで, 調査地点番号と語形を入れることにより,日本地図の調 査地点番号の示す地点に語形に合わせた記号を表示する システムである。自分で記号を入れるところを探す必要 がなく,また,Illustratorで描くので美しい図が得られ るので論文に用いられることが多い。  とはいえ,あくまでもIllustratorという描画ソフトで あり,例えば様々な検索や位置情報を利用した分析を 行えるものではない。そこで,GISの利用を考えること になる。GISで利用する位置情報は緯度,経度であり, LAJで採用された調査地点番号とは異なる体系である。 ただ,調査地点番号も上述したように5万分の1の地形 図の範囲をもとに体系的に作成されているので,調査地 点番号から緯度経度への変換も可能である。その考え方 は以下のとおりである(http://www2.ninjal.ac.jp/takoni/ GISME/GISME.htmの国立国語研究所「調査地点番号シ ステム」の経度緯度座標化参照)。 6桁の調査地点番号をα1β1α2β2α3β3とする。また,ここ では北緯 29 度以北の場合を考える。 ① 100 区画について 100 区画の左下角(南西の角)の経度緯度を求める。 100 区画は緯度方向には 100 分,緯度方向には 150 分の 広がりがある。また,調査地点番号が100区画ではα1β(行1 番号 列番号)なので,北からα1行目,西からβ1列目 ということになる。ただし,00 が北西角なので,緯度 方向では北緯 29 度より,9 ‒α1行北ということになる。 従って,この調査地点番号の 100 区画の位置の南西角の 経度緯度x1,y1は次のようになる。  x1=東経122度30分+150分×β1 (1)  y1=北緯29度+(9‒α1)×100分 (2) ② 5万図について これも南西角の座標を考える。 調査地点番号が 100 区画ではα2β2(行番号 列番号) なので,100 区画の中でα2行目,β2列目ということに なる。100 区画の南西角の経度緯度はx1,y1なので,調 査地点番号の示す5万図の南西の角の経度緯度はx2,y2 次のとおりである  x2=x1+15分×β2 (3)  y2=(9‒α2)×10分+ y1 (4) ③ 1/100 区画について ①,②と同様の考え方により次の式で 1/100 区画の南 西角の座標が求まる。  x3=x2+1.5分×β3 (5)  y3=(9‒α3)×1分+ y2 (6) ④ 調査地点の代表点について 調査地点はこの1/100区画のどこかにあるが,調査カー ドではすでに調査地点番号となっており,さらに元資料 でなければ具体的な位置がわからない。ただ,この区画 の大きさは東西,南北約2kmほどなので,この範囲内 0 0 1 1 2 8 9 2 ・・・ ・・・ α1 β1 β2 (北緯 29 度,東経 122 度 30 分) 100 分 150 分 α20 1 2 3 4 5 6 7 8 9 0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 15 分10 分 α30 1 2 3 4 5 6 7 8 9 β3 0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 重心 5 万分の 1 区画(5 万図) 1/100 区画 100 区画 図2.国立国語研究所の調査地点番号システム

(5)

だと全体から見ると大きな誤差が出るとは思えない。そ こで,この 1/100 区画の重心を代表点として考える。す なわち,1/100 区画の南西角の座標からみると緯度で+ 0.5 分,経度で+ 0.75 分である。  以上の式(1)∼(6)および④から調査地点のにx1, y1ついて次の式が導き出される。  x=122度30分+150分×β1+15分×β2+1.5分×β3+0.75 分 =122度30分45秒+150分×β1+15分×β2+1.5分×β3 =122度30分45秒+(100β1+10β2+β3)×90秒 (7)  y=29度+999分−(100α1+10α2+α3)×1分+0.5分   =45度39分30秒−(100α1+10α2+α3)×1分 (8) なお,北緯 29 度以南でも,同等の考え方をすれば,調 査地点番号から経度緯度に直すことができ,次のように なる。  x=122度30分45秒+(100β1+10β2+β3)×90秒 (9)  y=28度59分30秒−(100α1+10α2+α3)×1分 (10)  ただし,このように算出した経度緯度は,2002 年(平 成 14 年)以前の日本測地系の下で作成された地図に基 づくものであり,現在採用されている世界測地系とは 若干異なる。前述の『日本言語地図データベース』の Webのページでは調査地点番号と日本測地系の経度緯 度,世界測地系の経度緯度が入ったデータが提供されて おり,GISで簡単に利用できる。4章ではこのデータを もとに,言語地図について検討を行う。 4.GIS による言語地図の実際  今回はGISシステムとして世界的に利用者が多いソ フトウェアであるEsri社のArcGIS(Ver.10.3.1 Basic) を 使 っ た。 無 料 版 の ソ フ ト と し て は 例 え ばQGIS (http://qgis.org/ja/site/) やMANDARA(http://ktgis.net/ mandara/)など様々なものがあるが,充実した解析機能 や独自のデータの提供,安定性などの面からArcGISを 使用した。データはLAJの「かたつむり」のデータを 日本言語地図データベースよりダウンロードし,秋田県 のデータだけを抽出して利用した。  このデータは経緯度の情報付きのエクセルファイル (形式2)であり,データの項目は次のようなものがある。 ・loc_id:調査地点番号 ・loc_a:地点番号前半(調査地点番号前半4けた) ・loc_b:地点番号後半2桁 ・code_a:整理番号a,原カードの整理番号 ・code_b:整理番号b,原カードの整理番号 ・県名 ・語形(凡例上のもの) ・語形の併用語形数 ・x0Tky:経度,y0Tky:緯度(日本測地系) x0IJGD:経度(世界測地系:JGD2000):地点番号による y0IJGD:緯度(世界測地系:JGD2000):地点番号による  などである。  ベースとなる地図であるが,国土地理院基盤地図情 報のダウンロードサービスで提供されているJPGIS形 図3.かたつむりの言語地図 平成 22 年の秋田県の地図上にプロット 図4.かたつむりの言語地図 昭和 40 年の秋田県の地図上にプロット

(6)

図5.記号の凡例 語形が似ているものには,似 た記号を使っている。 図6. 地形、交通網のデータとともに表示した言語地図 Esri 社の ArcGIS データコレクションスタンダードパック 2014 の 東北地方広域図を利用。背景の濃い部分は標高が高い部分である。 図7. 秋田県北部の言語分布 図6の北部を拡大したもの

(7)

式のものをshape形式に変換したものを利用した。平 成 22 年の市町村境界を使ったものが図3となる。また, 図中の記号については図5である。同じ系列の言葉は同 じような記号を用いている。しかし,調査の時点では平 成の大合併の前の市町村である。そこで,昭和 40 年の 市町村境界を表示したものが図4である。  言語地図をGISで描く利点の一つはこのように,さ まざまな地図やほかのデータを重ね合わせることができ ることである。例えば図4では周りのすべての調査地点 と隣り合わせに見えるが,地形と道路などの交通網を重 ね合わせることにより,見え方が変わる。Esri社が提供 する地形や交通網などが含まれた地図を利用すると,図 6となる。これを見ると,南部の●の広がりは平野部に 対応していることや内陸の▲は国道に沿って分布してい ること,●の分類に入るものは,国道 13 号線に沿って 北上しているように見え,内陸に入り込む道沿いに一部 入り込んでいるように見えることなどが非常によくわか る。  もう少し,北部を拡大してみると図7となる。ここで 使っている地図では拡大率にしたがって,表示される情 報が変わり,細かい道まで表示されるようになる。これ をみると東側Aの◆と▲は隣同士に見えるが,実際に はその間には道はなく,山が隔てていることがわかる。 また,Aの▲は細い道が▲の多い道Bにつながってい ることがわかり,この道沿いに伝わったのではないかと いう推測ができる。また,北に延びる▲や△(C)も道 沿いにあることがわかる。 5.GIS による言語地図の問題点  今回は時間の関係で計量的なことまでは行っていない が,GISは,柔軟な言語地図の作成を可能とすることが, これらの例からわかるであろう。しかし,いくつかの問 題がある。  まず,LAJで利用されている記号類がないことであ る。このセットは多くの論文等で使われている。勿論, GISソフトでも取り入れることができるが,今のところ, GIS用に提供されているデータはないので自作すること になる。  次に併用がある場合の表示である。これについては 大西が指摘しているところである[大西拓一郎,2008]。 一つの調査地点で複数の言い方がある場合には,二つ以 上の記号を並べることになる。また,上部に円弧をつけ るようになっている(図8)。図6では実は併用がある ところも描画しているが,記号が重なっている(図9)。 GISの場合,記号の表示位置については調整が可能であ るが,同じレイヤーでは同じ調整量となってしまう。利 用したデータでは併用の数が示されていて,併用がある ことはわかるが,同じデータファイルの同じフィールド に二つの同じ地点が記述されているので同じレイヤーに 描画される。  従って併用を記述するためのデータファイルを作成 し,別レイヤーに表示させる。そのうえで,別レイヤー のシンボルの調整でオフセット(X,Y方向に平行移動) の値を設定すると次の図 10 のようになる。これを行う ためにはデータの構成を変更する必要がある。さらに, 円弧の記号については後で書き足す,あるいは色等を変 更する,別のシンボルを使って併用があることがわかる というようなことが必要かもしれない。  更に,重ねるデータも過去のものが必要であると思わ れる。例えば,前述した市町村の境界について,何度も 統合が繰り返され,かつての実質的な生活の基盤となっ ていた町村が無くなっている。そこで必要なのは旧市町 村の境界であろう。また,今回はほぼ最新の交通網のデー タを使ったが,言葉の流通経路から考えると,旧街道の 情報を使う方が適切であると考えられる。しかも,画像 ファイルではなく,GISによる解析が可能なデータ形式 で提供されている必要があろう。熊谷らもネットワーク 図8.LAJ における併用の記述例 図9.併用がある地点 図10.併用がある地点オフセット の値を変更

(8)

分析を行うために,旧街道のデータを作成している[熊 谷康雄,2013]。  また,GISベースとなる地図のデータを自分で探して 用意する必要があるということも利用のハードルを上げ ている。そのため,言語の調査用の地図情報と調査地点 番号―経度緯度がすでに入っているShapeファイルを用 意することが必要かもしれない。  更に,方言の研究者はGISソフトの操作について, 不慣れなところもある。GISソフトは機能が多い分,様々 な操作が要求される。今までIllustratorに慣れてしまっ ており,かつ分布図が書ければよいという研究者の中で, 新しくチャレンジしてみようという人はどれくらいいる ものだろうか。既に手元にあるデータはIllustrator 用の ものであろう。また,描画の品質はIllustratorの方がき れいに出せるであろう。GISソフトについても無料のも の有料のものがあり,どれを使えばよいかわからないこ とも含めて,敷居が高いものかもしれない。  最後に位置情報の記述に関して述べる。GISでは経度 緯度情報が必要であることから,調査地点番号ではない 方法の方が良いと思われるが,経度緯度情報だけだとそ れがどこの地域を表すかひと目ではわからない。例えば 合併以前のかつての市区町村コードを使うことも可能か もしれない。市区町村コードは昭和 43 年から利用され ているものであるので,あまり古いものではない。また, 市町村には比較的大きな面積を占めるものもあり,密度 は調査地点番号より荒い。しかし,LAJの調査が行わ れた当時の状況はある程度反映されるし,都道府県がす ぐにわかるなどの利点はあるだろう。また,経度緯度情 報は点の情報であるが,方言の調査では,その近辺も同 様のことばを使っていると考えられるので,本来は面の データであるべきであろう。そう考えると,旧の市区町 村の境界データと市区町村コードで記述するという考え もあるであろう。  今後,GISを手軽に研究者が利用できる環境づくりが 急務であると考えられる。また,今回は行っていない空 間解析に関する考察も別途進めながら,その有用性を体 系的に示していく必要があるだろう。 付記:この論文は科研費「日本語の時空間変異対照研究の ための『全国方言文法辞典』の作成と方法論の構築」(研究 課題番号:26244024)の援助により作成されたものである。 参考文献 熊谷康雄.(2007).『日本言語地図』のデータベース化.日本 方言研究会第 85 回研究発表会発表原稿集,pp.27-34. 熊谷康雄.(2013).『日本言語地図』のデータベース化が開く 新たな研究.国語研プロジェクトレビュー,Vol4 No.1, pp.1-9. 熊谷康雄.(2013).『日本言語地図のデータベース化と計量的 分析 −併用現象,標準語形の分布と交通網,方言類似度 の観察−.大規模方言データの多角的分析成果報告書  −言語地図と方言談話資料−,pp.111-128. 国立国語研究所.(1966).「日本言語地図」第 1 集付録A 日 本言語地図解説 −方法ー.国立国語研究所. 国立国語研究所.(1966-1974).日本言語地図. 財務省印刷局. 国立国語研究所.(1989).方言文法全国地図解説1.著: 国立国語研究所報告 97-1(別冊).国立国語研究所. 国立国語研究所.(1989-2006).方言文法全国地図.財務省印 刷局. 大西拓一郎.(2002).言語地図作成の電算化『方言文法全国地 図』第 5 集を例に.日本語学 21-11,pp.21-35. 大西拓一郎.(2008).方言学とGIS.富山大学人文学部GIS研 究会. 峪口有香子,岸江信介.(2013).淡路島の方言語彙に関する研 究:じゃがいも・さつまいも・さといも.言語文化研究  21, pp.121-139.

Referensi

Dokumen terkait

bahwa untuk menyikapi perkembangan dinamika kondisi faktual di tingkat Desa dalam rangka menjamin hak masyarakat untuk memperoleh kesempatan yang sama

Dewan Pengurus Wilayah (DPW) Serikat Petani Indonesia (SPI) Sumatera Utara (Sumut) mengadakan diskusi dan buka puasa bersama untuk memperingati perayaan hari ulang tahun ke-17 SPI

Akhmad Fauzan mencoba mendeskripsikan dan memberi pemaknaan terhadap simbol-simbol yang mencitrakan pesan-pesan profetik dalam buku puisi Rajah Negeri Istigfar karya Mathori

Dyah Raina Purwaningsih. Analisis Teknik dan Kualitas Terjemahan Unsur Pre-Modifier dalam Kelompok Nomina dalam Novel The Da Vinci Code. Program Pasca Sarjana Program

• Pemahaman yang tepat, komprehensif, dan mendalam tentang kebutuhan petani dan kondisi pertanian harusnya menjadi landasan untuk pengembangan teknologi pertanian. • Teknologi

Kamis 14/05/2020 Strategi Penentuan Harga untuk Perusahaan. dengan Kekuatan Pasar dan Ekonomi Informasi

Berdasarkan pendapat diatas penulis mengambil komitmen organisasi, budaya organisasi, gaya kepemimpinan, kompetensi sumber daya manusia sebagai bentuk dari kepabilitas organisasi