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Saihanbai kakaku iji koi ni kansuru shoki gakusetsu kenkyu - maketinguron to shite no rironteki shinten no purosesu -

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(1)Title Sub Title Author Publisher Publication year Jtitle Abstract. Notes Genre URL. Powered by TCPDF (www.tcpdf.org). 再販売価格維持行為に関する初期学説研究 - マーケティング論としての理論的進展のプロセス 岩本, 明憲(Iwamoto, Akinori) 慶應義塾大学出版会 2005 三田商学研究 (Mita business review). Vol.48, No.4 (2005. 10) ,p.21- 45 本稿は,20世紀初頭の米国において生起した再販売価格維持行為に関する初期学説を再構成・再 検討することで,マーケティング論としての再販売価格維持行為の理論化のプロセスと各論者が その理論的進展に果たした知的貢献を明らかにすることを目的としている。それに際しては,ま ず価格維持問題が社会的・経済的問題として注目されることになった背景を俯瞰し,当時の論者 を取り巻いていた共通の問題意識を明らかにする。次いで再販売価格維持行為に関する初期学説 として,チェリントン,バトラー,タウシッグ,トスダルの4学説に注目して,各々の詳細が吟 味される。これら学説研究を通じて主に次のことが論証される。すなわち,前の2名の論者はロ ス・リーダーが引き起こすマクロ・ミクロ的弊害を防止する手段として再販売価格維持行為の合 理性・正当性を主張し,より理論的志向の強かった後の2名の論者によってその正当化論が批判 的に議論されたことで,マーケティング問題としての初期の再販売価格維持行為の理論が定式化 されたということである。またその定式化には,既存の学説研究ではほとんど無視されてきたト スダルが重要な役割を果たしたことが指摘され,彼がロス・リーダー問題と再販売価格維持行為 との関連性を批判的に議論したことによって,「非効率な流通業者を保護し,その流通網を確保 するために製造業者が再販売価格維持行為を行なう」という結論を導出したことが論証される。 Journal Article http://koara.lib.keio.ac.jp/xoonips/modules/xoonips/detail.php?koara_id=AN00234698-20051000 -0021.

(2) 21 2005年7月25日掲載承認. 三田商学研究 第48巻第4号 2005年 10月. 再販売価格維持行為に関する初期学説研究* ――マーケティング論としての理論的進展のプロセス――. 岩 本 要. 明. 憲. 約. 本稿は,20世紀初頭の米国において生起した再販売価格維持行為に関する初期学説を再構成・再 検討することで,マーケティング論としての再販売価格維持行為の理論化のプロセスと各論者がそ の理論的進展に果たした知的貢献を明らかにすることを目的としている。それに際しては,まず価 格維持問題が社会的・経済的問題として注目されることになった背景を俯瞰し,当時の論者を取り 巻いていた共通の問題意識を明らかにする。次いで再販売価格維持行為に関する初期学説として, チェリントン,バトラー,タウシッグ,トスダルの4学説に注目して,各々の詳細が吟味される。 これら学説研究を通じて主に次のことが論証される。すなわち,前の2名の論者はロス・リーダー が引き起こすマクロ・ミクロ的弊害を防止する手段として再販売価格維持行為の合理性・正当性を 主張し,より理論的志向の強かった後の2名の論者によってその正当化論が批判的に議論されたこ とで,マーケティング問題としての初期の再販売価格維持行為の理論が定式化されたということで ある。またその定式化には,既存の学説研究ではほとんど無視されてきたトスダルが重要な役割を 果たしたことが指摘され,彼がロス・リーダー問題と再販売価格維持行為との関連性を批判的に議 論したことによって, 非効率な流通業者を保護し,その流通網を確保するために製造業者が再販 売価格維持行為を行なう」という結論を導出したことが論証される。 キーワード 再販売価格維持行為,ロス・リーダー,価格切り下げ,チェリントン,バトラー,タウシッグ, トスダル,流通網の確保,正当化論,理論的進展のプロセス,漸進的問題移動. 1.問題の所在 1). 再販売価格維持行為 (Resale Price M aintenance:以下 RPM と略記)は19世紀中頃のイギリスで, *. 本稿の公表にあたっては,指導教授である堀田一善先生に心より感謝いたします。また草稿段階で 多くのアドバイスを下さった諸先生方並びに商学研究科大学院生の皆さんにも深謝いたします。 1) 本稿での RPM は,一製造業者による(従って製造業者間の水平的結合を伴わない)垂直的な「下.

(3) 22. 三. 田. 商 学 研. 究 2). しばらくして19世紀後半にはアメリカでも見られるようになった1つの市場支配的行動であり,こ れまで法学や経済学,そしてマーケティングの分野で盛んに議論されてきた。しかし,RPM は, 3). 現在,マーケティング論の中で活発に議論されているとは言い難く,そこでは単にチャネル政策の 4). 1類型として簡便に議論・紹介されることがしばしばである。 かかる状況は学説研究においても同様で,様々なマーケティング論者の学説研究が進むなか, 5). RPM に関しては―― 特定のマーケティング論者の RPM 論を個別に議論した文献は散見されるも のの―― その体系的な学説研究は皆無に等しい。また,マーケティングの代表的な学説研究である 6). バーテルス(Bartels, R.)の著作でも,RPM には全く言及されておらず,そのことは,これまで マーケティング論の中で RPM 研究がほとんど見過ごされてきたことを象徴していると言えよう。 RPM 研究それ自体は,1950年代以降,特に経済学や産業組織論といった分野で,垂直的取引制 7). 限の主要な1形態として活発に議論されてきた。そして,それ以前の1910年代から1950年代にかけ て(マーケティング学者を含む多くの論者によって)展開・蓄積されてきた諸議論は, ロス・リーダ. 限」価格維持行為( 個別実施による RPM 」)が主として意味される。すなわち,本稿では,ブラン ド間競争に直面している個別製造業者が行なう市場支配的行動(=マーケティング行動)としての RPM が分析の対象に据えられる。ただし,初期に見られた垂直的且つ水平的な価格維持行為に関し ては,一般的議論に倣い部分的に RPM (この場合,厳密には「共同実施による RPM 」 )と記述され ている。また「上限価格の維持」は本稿の 察対象外となっている。 2) 1850年代のイギリスの書籍販売において,小売段階での水平的価格規制が製造業者に相当する出版 社を巻き込む形で行なわれたのが最初とされる。他方アメリカでは,19世紀後半の医薬品業界で初め て行なわれたとされる。両国における初期の RPM の詳細は,M acmillan(1924), p.1 と p.4,Bowman(1952), pp.152-153,Bowman(1955), p.826,片岡(1964), p.74 と p.83,中野(1975), pp.140 -141 などを参照されたい。 3) その主たる理由は,日本やアメリカなどで RPM は(一部の例外を除き)違法であり,純然たる マーケティング行動と規定されるべきでないという え方があるからかもしれない。しかし,一旦法 的問題を切り離し,純粋に「何故製造業者は再販売価格を維持しようとし,実際にそのような行為を 行なってきたのか 」という問いを 察することはマーケティング論における理論・歴史研究にとっ て有意義であると思われる。 4) その例外としては,片岡(1964)や中野(1975)が挙げられる。 5) 例えば,光澤(1984,1988 & 1990),薄井(1986 & 1999),西村(1988 & 1994)など。 6) Bartels:邦訳(1993)。 7) 代表的議論としては,Spengler(1950)に代表される「二重マージン仮説」 ,Telser(1960)の 「カルテル仮説」と「スペシャル・サービス仮説」,Gould & Preston(1965)の「小売店舗仮説」な ど。また近年における理論的展開として,RPM を外部性に基づく市場の失敗に対処する手段として 正当化する試みが為されている [成生(1994), pp.131-160;尚,そこでは,上記の諸仮説が「古典 的」とされており,それ以前の学説については言及されていない] 。これら経済学的アプローチに基 づく諸議論は,多かれ少なかれ「政策的意図」に基づき,社会的厚生という観点から RPM の合理 性・正当性を論証しようとするものであり,個別製造業者にとって RPM が合理的なマーケティング 行動であるかという本稿の主たる問題関心とは一部異なる点が存在する。また,法学の分野でも RPM は盛んに議論されてきたが,そこでは法的問題として,RPM の身分や個別の係争が取り扱わ れるだけで,企業の経済活動としての RPM の分析はほとんど為されていない。 8) “loss leader”もしくは“loss leader selling” 。その意味は「客寄せ目的での原価を大きく下回った 価格での販売やその対象となっている商品,もしくはそのような販売を採用する流通業者」である。 このような販売手法はしばしば「不公正な販売手法」と非難されるが,全てのロス・リーダーが原価.

(4) 23. 再販売価格維持行為に関する初期学説研究 8). 9). ーが引き起こす諸々の弊害を防止するために RPM が行なわれるという(伝統的な). え方」とし. て一括りにされ,個々の学説の詳細については等閑視されてしまっている。 とは言え,上に挙げた伝統的な諸議論は,広告や商標,小売業者の類別やその販売手法,プライ ベート・ブランドといった様々なマーケティング要素が 的に分析する上で重要なアプローチであると. 慮に入れられており,RPM をより多角. えられる。また「RPM は何故生起する╱したの. か 」 製造企業は RPM という価格・流通政策を何故採用する╱したのか 」という理論的・歴史 的問題に接近する上でも重要な示唆をもたらすと. えられる。というのも,先に指摘した経済学的. アプローチでは,RPM 問題に関連する多くのマーケティング要素が分析から捨象されている場合 が多く,それ故,現実世界で生起する(もしくは20世紀前半のアメリカで見られた個別製造業者によ 10). る)RPM を首尾良く説明しているとは必ずしも言えないからである。よって,マーケティングの. 諸要素が複合的に分析されている伝統的 RPM 論を定式化することは,それを現今の議論の基礎に 据えることでより実り豊かな RPM の理論・学説研究が促されるだけでなく,20世紀前半のアメリ カで見られた RPM というマーケティング行動に対して歴史的接近を図る上でも有益であるだろう。 そこで本稿では,RPM に関する伝統的議論のうち,1910年代に展開されたとりわけ原初的な学 説を再構成・再評価することによって,マーケティング問題として議論されてきた RPM 論の基本 的体系の形成プロセスを明らかにする。次節では「RPM 研究の萌芽」と認められるチェリントン (Cherington, P. T.)とバトラー(Butler, R. S.)の学説が検討される。第3節では,RPM に対して. より理論的な接近を試み,マーケティング問題として RPM 論を定式化したと評価できるタウシッ グ(Taussig, F. W.)とトスダル(Tosdal, H. R.)の学説がそれぞれ検討される。これら学説は. 割れかどうかは議論の分かれるところである。本稿では原則として, ロス・リーダー」という用語を 「不当な原価割れ販売」とし,それ以外の単なる「安売り」を「価格切り下げ(price-cutting)」とし て,議論が進められる。 9) 主に20世紀初頭から中頃にかけてロス・リーダーとの関連で展開された RPM の仮説に対する一般 的な呼称は見られない(ただし,陳(1997), p.59 では, 再販売価格制限について伝統的に主張され てきた正当化事由の中で最も伝統的なものは『おとり廉売の防止』である」との記述が見られる)。 これはすなわち「ロス・リーダーが製造業者もしくは流通システム全体にもたらす諸々の弊害を抑 制・防止するための手段として RPM が合理的であるとする え方」となるだろうが,より詳細な学 説研究は皆無に等しい。 10) 例えば Spengler(1950)の仮説では,取引関係にある製造業者と流通業者がそれぞれ独占企業で あるという仮定が採用されており,RPM を行なう方が行なわない場合よりも小売価格が低くなると いう結論が導出されている[堀江(2002), pp.146-148 も併せて参照] 。しかし,この仮説は―― その 仮定や結論が非現実的であるか否かにかかわらず―― 主として RPM の社会的正当性・合理性を主張 する性格が強く,現実において見られるそのような仮定が当てはまらない多くの RPM の発生理由を 説明するものではない。また,Gould & Preston(1965)では,小売段階における完全競争と自由参 入が仮定されており,この仮定を採用した場合,各小売業者の効率性や品揃えの差異がなくなり,広 範な流通網としての小売店舗の確保を妨げるロス・リーダー問題も生じなくなる。また一般に Telser (1960)で 提 唱 さ れ た と 言 わ れ て い る,い わ ゆ る「ス ペ シャル・サービ ス 仮 説」は,そ れ 以 前 に Yamey(1954)において既に 察されており,本論で議論される「古典的議論」に包摂することが 可能であると思われる。.

(5) 24. 三. 田. 商 学 研. 究. RPM に関する初期の数少ない学術的研究であり,どれもがロス・リーダーと RPM との関連性を 指摘した内容のものである。またそこでは―― 諸学説間の直接的関連は かしか確認できないもの の―― 漸進的な問題移動と,古い学説が説明に失敗した問題の解決という認識上の進歩が認められ 11). る。これら学説の整序により,マーケティング論の中で議論されてきた初期 RPM 論の基本的体系 の形成過程と,個々の学説が果たした知的貢献が明らかとなるであろう。また,その基本的体系の 理解は―― これまでほとんど議論されてこなかった―― 古典的 RPM 論の全貌に迫る上で,また現 今の(経済学的手法に基づく)RPM 研究と,(マーケティング要素が分析に多分に含まれた)マーケ 12). ティング論としてのそれとの知的接合を図る上でも重要な起点となるであろう。 13). 2.RPM 研究の萌芽―― RPM 正当化論の展開――. 2−1.当時の問題状況 学説研究に着手する前に,まずは RPM の問題がどのような状況を背景にして当時のマーケティ ング学者や経済学者の注目を集めることとなったのかについて概観する。 前述の通り,アメリカにおいて RPM は既に19世紀後半には行なわれていた。当初の RPM は医 薬品業界のそれに代表されるように,強い流通支配力を持った卸売業者や小売業者同士の水平的な 結合を基盤とし,彼らの計画に製造業者を追従させるといった性格が強かった。しかし,製造業者 は生産技術や経営技法の大幅な改善により規模の経済性を獲得し,また自社製品を大量に広告しブ ランド化することで徐々に流通上の主導権を握り始め,そうして製造業者が主体となった価格維持 の試みが徐々に見られるようになっていった。すなわち製造業者は「トラスト」に代表される水平 的・垂直的性質を併せ持った結合によって価格維持を試みるようになっていったのであった。 14). こうした試みにとって1890年に制定されたシャーマン反トラスト法は大きな. となった。この. 法律により,事業者間の水平的結合は原則として禁止され,製造業者はより個別に価格維持の問題 に対処することを強いられた。シャーマン法の下では「個別実施による RPM 」(個別製造業者によ る RPM )も表向きは「当然違法」という扱いであったが,実際には,シャーマン法制定後も依然 11) 学説研究及び学説評価に際しては,進化論的な問題移動を通じた認識進歩のプロセスを明らかにし, またその進歩に対する各学説の知的貢献の如何を検討することは重要である。このような え方は, 堀田(1998), pp.122-124 の中で指摘されており,その発想の原点であると思われる Popper:邦訳 (1974),特に pp.269 -275 と併せて参照されたい。 12) 本稿脚注10で指摘したような20世紀後半の諸仮説への批判は古典的議論との比較対照を通じて初め て提起され得るものである。その意味でも,本稿がその基礎を提供する古典的 RPM 論の整序は後の 学説の理論的妥当性を検討する上でも不可欠と思われる。 13) ここでの RPM 正当化論とは, RPM がミクロ的にもマクロ的にも理に適っており望ましい行為 であることを正当化するための論法」ということが意味される。これに関しては本稿第2節の表1と 図1,並びにそれに関連した議論も併せて参照されたい。 14) Ch. 647, 26 Stat. 209 (July 2, 1890)。.

(6) 再販売価格維持行為に関する初期学説研究. 25. 15). として行なわれ,その是非を争った訴訟でも,幾つかの例外を除き,合法と判断されていた。 16). しかし,その傾向は1911年の Dr. M iles 事 件の最高裁判決において,これまで黙認されていた RPM がシャーマン法の下で「当然違法」と判断されたことによって一変した。これを契機に,こ 17). れまで法的地位が曖昧であった個別実施による RPM の合法化を目指す運動が急速に発展 し, RPM の問題が広く注目を集めることになった。また1910年代は,マーケティング論が学科領域と して確立された時期とも重なっており,RPM はマーケティング論の中でも主要な議題して取り扱 18). われたのであった。以下で,その最初の試みと見做されるチェリントンの学説を検討する。. 2−2.チェリントンの学説 19). チェリントンは自著『経営力としての広告』の中で,広告を流通プロセスにおけるコンフリクト を抑制する手段(経営力)と捉え,主として流通との関連性に着目して広告を分析した。そして価 20). 21). 格維持 (RPM )の問題にも1章を設けて言及した。以下で彼の RPM 観と RPM 論を検討する。. 15) 著作物に関して提起された幾つかの訴訟[Bobbs-Merrill Co.v.Straus,210 U.S.339 (June 1908) など]と,商標品に関して,製造・卸売・小売業者での「三者協定」が問題とされた Jayne et al. v. ,そして契約による Loder 事件[149 Fed.21(reversing 142 Fed.1010),(Dec.1906,3rd C.C.A.)] RPM システムが違法と判断された John D. Park & Sons v. Hartman 事件[153 Fed. 24(March 1907, 6th C. C. A.)]など。 16) Dr. Miles M edical Co. v. John D. Park & Sons Co., 220 U. S. 373(April 1911)。 17) 1913年には RPM 合法化を目的としてアメリカ公正取引協会(American Fair Trade League)が 組織された。その 始者の1人であるブランダイス(Brandeis, L. D.)は,翌年に議会に提出した RPM 合法化のためのスティーヴンズ法案に多くの製造・卸売・小売業者を代表した143もの組織のリ ストを添付した。 18) チェリントン以前の RPM に関する研究として,当時,全米金物協会(The National Hardware Association of the United States)の財務書記官(Secretary-Treasurer)であったファーンレイ (Fernley, T. J.)の著作[Fernley(1912)]が挙げられる。ただし,この著作では RPM に関連する 事項の列記と各項目に対する(RPM を擁護する)見解が漫然と述べられているだけで,学術的な研 究と認定するにはその内容が極めて散漫であると言わざるを得ないため,本稿では 察の対象外と なっている。 19) Cherington(1913)。この著作は大概において,当時の有力な広告雑誌である『プリンターズ・イ ンク』(Printers Ink),『システム』(System), 『広告と販売』(Advertising and Selling)各誌の記 事を引用・再編集したものであり,RPM に関する第12章も同様の形式が採られている。しかし,そ の作業はチェリントン自身の問題関心に基づいて為されており,本論文ではその学説をチェリントン 自身のものとし,彼が引用している各雑誌や論者等の出典は原則として省略されている。チェリント ンの著作のより詳細な内容及びその研究手法に対する評価は,堀田(2003), pp.209 -211 を参照され たい。 20) チェリントンの学説には「再販売(resale)」という用語は見当たらないが,ここでの「価格維持」 は「個別実施による再販売価格維持行為」と同義であり,本稿では基本的に RPM と記されている。 これは後に検討される諸学説に関しても同様である。本稿での RPM の定義については本稿脚注1も 併せて参照されたい。 21) RPM に関するチェリントンの見解は Cherington(1913)の他に,後述のタウシッグの論文への 批判的議論[Cherington(1916),in Haney,Gephart,Turner,Cherington & Bowker(1916),pp.199 -207]にも見出され,それに関してはタウシッグの学説研究の後で検討することにする。.

(7) 26. 三. 田. 商 学 研. 究. 22). 2−2−1.チェリントンの RPM 観 元々チェリントンの議論は, 広告は流通システムを円滑にする機能を持っている」という前提 からスタートしており, 小売段階での価格競争は流通システムにもたらされるはずの広告効果を 阻害する故に,小売価格の固定化のための RPM は流通システムに望ましい効果を及ぼす」と彼は えたのであった。しかし,分析に際しての彼のスタンスは「現状容認的態度」に終始しており, 議論の主目的は RPM の合理性・正当性を擁護することであった。こういった態度は,RPM 反対 論に対して(どの誌からの引用でなく)彼自身が示した次のような否定的見解に象徴される:. 多くの卸売業者は価格維持の原則を支持してきたし,我々は既に―― 中略―― 小売業者がど 23). れだけその価格維持計画を評価しているのか見てきた。また消費者も,販売システム内の全 ての人(訳者注:製造・卸売・小売業者)が売買に関して固定された条件と利潤に満足している ならば,長期的にはそれが自身の利益になるということに納得するだろう。[Cherington (1913), p.404]. そして彼は,RPM の正当性を擁護するために様々な事例を紹介する。それらの事例を通じて チェリントンが提示しようとした RPM 正当化の論拠は「商品の価格が固定されているからといっ 24). て小売業者はそれほど多くの利潤を得ている訳ではない」という逸話と経験的データであった。ま た, 固定価格は販売促進費が加わっている分だけ割高であり,製造業者は法外な利潤を得ている」 という批判に対して,チェリントンは「製造業者は莫大な販売費を負担しており,利潤はそれに よって相殺され,実際に製造業者が手にする最終的な利潤は,RPM を行なっていない製造業者と 変わりない」と反論したのであった。. 22) 本稿において「RPM 観」という言葉が意味するのは, (各論者が)RPM をどのような問題とし て理解し,また RPM の正当性についてどのような立場を採っていたか」というものである。しかし 実際には,そういった(しばしば主観的要素を伴う)RPM の是非論と,(本来は客観的視点から為 されるべき)理論的分析との厳密な線引きは困難である。本論における「RPM 観」と「RPM 論」 との区分けは,各論者の学説をより簡潔且つ正確に再構成するために便宜上採用されており,理論的 分析を主として取り扱った「RPM 論」の中に RPM の是非論が紛れ込んでいる場合も,またその逆 のケースも存在している。 23) チェリントンは,ケロッグ社のコーン・フレークを取り扱うディーラーに対して行なわれた RPM の是非を尋ねる投票の結果を紹介している。そこでは,1405の業者のうち1397業者(99.44%)が RPM に賛成したとされている。 24) その中で最も注目すべきは,インガーソル(Ingersoll, W. H.)によって蒐集されたデータに基づ き作成された「価格維持されている╱いない商品の価格表[Cherington(1913), pp.386-390] 」であ る。そこでは,食料品や衣類といった6つの製品カテゴリーごとに, 価格が固定されている╱いな い」に分類された商品について,小売業者が手にする利潤率(1−仕入れ値÷小売価格)が記載され ている。ちなみにリストに挙げられた159品目のうち固定価格商品40品目と,そうでない商品119品目 の利潤率を平 すると,それぞれ29.4%と28.2%といった極めて近しい値をとる。.

(8) 再販売価格維持行為に関する初期学説研究 図1. 27. チェリントンの RPM 論の概要. 2−2−2.チェリントンの RPM 論 RPM に関する彼の議論の中に散見される理論的側面を要約・図式化したものが図1である。製 造業者(広告主)は自らが生産する製品の品質に鑑み,その製品を広告するか否かを選択する。優 れた品質の製品の生産者は広告活動を行なうべきであり,すると,広告品は流通段階での(往々に して不公正な)価格競争に晒され,ディーラーが手にするはずだった適正な利潤が消失してしまう。. その場合,ディーラーはその商品を取り扱いたがらなくなり,中にはプライベート・ブランドを販 売する者まで現われるようになる。従って,製造業者(広告主)は競争環境が流通段階に及ぼす影 響を. 慮した上で,価格競争を防止し,ディーラーの適正な利潤を確保し,ディーラーが商品を扱. いたがらなくなるという事態を回避するために RPM を採用する,とチェリントンは. えたので. 2 5 ). あった。 また,チェリントンは,広告主は競争環境がディーラーへ及ぼす影響を 慮しつつ,最大利潤が 2 6 ). 得られるよう特別な注意を払って販売促進費を決定すべきであると主張する。販売促進費の増加に よって卸売価格が上昇しディーラー側のマージンが減少しようとも,その代わりにディーラー自身 が行なう販売努力(もしくは販売促進費)が少なく済めばディーラーはその商品を受け入れるので あるから,製造業者は,これまで費やしてきた広告などの販売努力を無駄にしないためにも,価格 競争防止のために RPM を行なう必要があるとチェリントンは. えたのであった。. 2 5 ) チェリントンは,ドーバー製造会社(Dove rManuf act ur i ngCompany)の社長であるジョンソン (Johns )の以下のような証言を参照している。 固定価格はディーラーが首尾良く販売を行 on,C.T. ない,適正利潤を得られるようにするためのものである。―― 中略―― 消費者への直接販売は事実上 困難であり,ディーラー側の協力を得ずして生産活動の継続は不可能である。」 [Che ), r i ngt on(191 3 pp. 39239 3] 2 6 ) 原文では“c ”もしくは“s ” 。 os tt os el lt hegoods e l l i ngc os t.

(9) 28. 三. 田. 商 学 研. 究. 2−2−3.チェリントンの学説評価 こうした彼の RPM 論に見られる主に理論上の問題点としては以下の点が指摘できる。 27). 1.価格維持される商品が如何なる性質かについて明確に述べられていない。 2.流通段階での価格競争によって期待される販売数量の増加と RPM との関連が無視されている。 3.製造業者が流通段階におけるどのような状況に鑑み RPM を採用するのかが明らかでない。す なわち,流通段階で勃発すると主張する価格競争の性質やその影響について過度に短絡的な議 論が展開されている。 チェリントンはあくまで「現状において見られる RPM は容認されるべき」と主張するばかりで, また価格競争による販売数量増加の問題や RPM の採用を促す流通段階の状況について未. 察で. あったが故に,広告品の製造業者がどのような状況において RPM を採用するかという問題に明快 な解答を導出することができなかったのである。とは言え,彼の学説は RPM とロス・リーダーと の関連を指摘した最初の学術レベルでの研究であると評価することができるだろう。. 2−3.バトラーの学説 バトラーは初期マーケティング学者の中で最も RPM 問題に関心を寄せた論者の1人であり,自 28). らの著作でしばしばこの問題を取り上げている。以下で彼の主張内容を検討する。. 2−3−1.バトラーの RPM 観 バトラーはグッドウィルに関連付けて以下のように RPM 問題を規定する。すなわち,グッド ウィルとは「良い製品,広告,顧客との永年の公正な取引によって次第に得られた大衆の好意的な 態度であり,製造業者やディーラーにとって最も価値のある資産であることがしばしばで」 ,グッ ドウィルの保護は「マーケティングにおける最も重要な問題の1つである。そして製造業者にとっ てこの問題は主として価格維持の問題である」と。そしてバトラーはグッドウィルを保護するため 29). の価格政策として,RPM の正当性を示そうと試みる。ロス・リーダーとそれを防止する手段とし 27) チェリントンは RPM が全ての人にとって有益な手法であり,しかも RPM 政策は小売価格の高騰 をもたらさないと主張するが,それでは何故自社製品を広告しているうちの一部の製造業者だけが また,価格維持されている製品は相対的に高品質のものだけなのか といっ RPM を行なうのか た疑問にチェリントンの説明は有効な答えをもたらさない。 28) ① Butler,DeBore & Jones(1914)及び② Butler(1917)。①に関しては,簡略化のため以降の表 記は Butler(1914)で統一することとする。また本論におけるバトラーの学説の再構成に際しては, 既存研究である光澤(1984,1988& 1990)及び薄井(1986& 1999)も参照されている。ちなみに② は①の内容を修正・加筆したものであり,バトラーの RPM 論の骨子は①で既に出来上がっていたと えるのが妥当であろう。本論では,②は①を補完するものとして取り扱われる。 29) 1917年 の 著 作 で バ ト ラーは グッド ウィル を「消 費 者 グッド ウィル(consumer good-will)」と 「ディーラーのグッドウィル(good-will of dealers)」に区分している[Butler(1917),pp.296-298] 。 前者は,消費者が特定の製造業者や製品に対して持つ好意的な態度で,後者は,ディーラーがある特 定の製品に対して持つ好意的態度(それをずっと取り扱っていきたいという態度)のことである。バ.

(10) 再販売価格維持行為に関する初期学説研究. 29. ての RPM に対するバトラーの立場は以下の主張に象徴されている。. 無制限な価格競争は往々にして公衆にとって害悪である。―― 中略―― 無制限な価格競争が 競争を促進させることに失敗してきたことは明らかとなっている。価格維持が―― 中略―― 禁止するのはごく一部の価格競争であり,というのも,再販売価格をコントロールすること であらゆる利益を(訳者挿入:独占的に)手にした製造業者は過去においてごく. かであっ. たし,未来においても同様であろうからである。製造業者が競合する財の価格も含め 一な 価格を共謀して維持することが法律によって禁止されている限り,消費者にとって危険なこ とは存在し得ない。[Butler(1917), p.311]. 2−3−2.バトラーの RPM 論 バトラーの RPM 論を要約すれば,RPM は個別製造業者にとって「グッドウィル保護のための 価格政策」であり,公益(public interest)という観点からは「小売独占を防止し,またロス・リー ダーという欺瞞的な小売手法を抑止するための手法」となるだろう。ただし,彼の RPM 論は, 製造業者の保持するグッドウィルがロス・リーダーによって不当に破壊される」という前提の上に 成り立っている。この問題に対するバトラーの見解は以下の通りである。. 通常価格(訳者注:標準価格,すなわち標準化された商品の固定価格のこと)が切り下げられる 場合,それは通常,利潤危険ライン(profit danger line)を下回る切り下げを意味する。販 売コストが低いという理由で価格を過度に引き下げてもまだ利潤を獲得できるディーラーは 例外的だろう。平. 的なディーラーはそのような立場にない。彼(同上:平. 的なディー. 30). ラー)は広告の手法としてのみ価格を切り下げる。 [Butler(1914), p.207]. 販売コストの面で際立った優位性を何らか有しているディーラーというのはほとんど存在し ないことが信じられている。 [Butler(1917), p.305]. このようにバトラーは販売コストの面で同じコスト構造を有したディーラーのうち,一部の(悪 徳な)業者がロス・リーダーという販売手法を採用すると主張している。. トラーはチェリントンが明示した「ディーラーが商品を取り扱いたがらなくなる事態」を「ディー ラーのグッドウィルが損なわれる事態」と表現したのであった。これに関しては,本論のバトラーの 学説評価及び脚注31を併せて参照されたい。 30) 暗にコスト以下での「ロス・リーダー販売」のことを指している。.

(11) 30. 三. 田. 商 学 研. 究. 2−3−3.バトラーの学説評価 バトラーの学説において評価すべき点は幾つか指摘することができる。第1に,バトラーはチェ リントンが提示した「RPM は小売段階における過当な価格競争によってディーラーが商品を取り 扱いたがらなくなることを防ぐ手段である」という え方を「ディーラーのグッドウィル」という 31). 概念を用いることでより明確にしている点であ る。バトラーは「ロス・リーダーによってディー ラーのグッドウィルも深刻な打撃を受ける」としており,これによりグッドウィル保護のための マーケティング政策として RPM が明確に定式化されたと評価されるのである。 第2に,チェリントンは価格維持される商品について明確に述べていなかったのに対し,バト ラーは「RPM は大規模生産と全国広告の産物である」として,RPM の対象となる財を広告に よって「識別された商品(identified merchandise)」であると位置付けた点が挙げられる。バト ラーは, 広告品は価格維持される(べき)」というチェリントンの主張を一歩進め,RPM の対象 となるのは「広告によって消費者にそのブランドが識別された商品」であり,その商品に関して積 み上げられてきたグッドウィルがロス・リーダーによって損なわれることを防止するために RPM が行なわれると明確に主張したのであった。 しかしながら,バトラーはチェリントンの学説の問題点(本論で言及された2と3の点)を克服し ているとは言い難い。2点目(数量増加の問題)に関して,バトラーは以下のような簡単な言及し か行なっておらず,事実上その問題は未解決のままであると言わざるを得ない:. これは調べれば分かるような事実の問題である。あるケースでは,製造業者は(訳者挿入: 安売りによって)損害を被らないだろう。しかしながら,圧倒的な割合のケースにおいて,. 製造業者は損害を被る。―― 中略―― (同上:他のディーラーの急速な売上の落ち込みという) 販売量の減少は1人のディーラーの販売増加では補われず,総販売量は減少する。 [Butler (1917), p.298]. また3点目(ディーラーの状況)に関して,彼は「価格切り下げ行為は総じてロス・リーダーとい う過度な原価割れ販売であり製造業者のグッドウィルを損なう」という前提に立脚して議論を展開 しているが,当時,既にチェーン・ストアに代表される大規模小売業が登場し,大量仕入れによる 数量割引や効率的な経営によるコスト構造の優位性を基に価格切り下げを行なっていたことを え 32). 33). 合わせると,彼の RPM 論の妥当性は疑問の余地が生じるのである。 31) 脚注29で述べた通り, ディーラーのグッドウィル」という概念は1917年の著作で初めて登場して おり,その意味では,1914年の学説自体を評価する場合には本論の評価は当てはまらない。とは言え, チェリントンの学説との比較において,バトラーが「ディーラーのグッドウィル」という概念を用い ることでチェリントンの主張を明確にしたということは間違いない。 32) 当時のチェーン・ストアが大幅な原価割れ販売を行なっていなかったとは断定できないが, 例えば,.

(12) 31. 再販売価格維持行為に関する初期学説研究. 2−4.本節のまとめ―― RPM 正当化論に見られる理論的不備―― このように,チェリントンとバトラーの RPM 論は,当時その法的地位が大きな争点となってい 34). た RPM を擁護する目的を多分に有しており,理論的観点に乏しかったと言える。しかしながら, バトラーの学説では公益という観点からより多角的な正当化の論拠が案出されており,チェリント ンの学説では断片的にしか示されなかった RPM 正当化論は,バトラーの議論を通じてある程度体 35). 系化されたと評価できるだろう(両者の正当化論の概要は次頁表1にまとめられている)。 表1に引き続いて,RPM 正当化論の説明経路を示したのが次頁図2である。本稿でその各論拠 の理論的・経験的妥当性を一々検討することは困難であるが,この図からは,彼らの RPM 正当化 論に見られる1つの重要な問題点を見出すことができる。それはミクロ的視点の不備であり,すな わち「個別製造業者にとって RPM の採用はどのような状況において合理的なのか (図2の反論 Ⅲに該当)」という視点である。. 反論Ⅲへの回答として,チェリントンは「広告効果の持続と販売費の削減(表1の2(b))を挙 げているが,ここでの「販売費」とは流通業者にとってのものであり,反論への精確な回答とは言 えない。また両者は「製品に対するディーラー離れを食い止める」ことを主要な論拠に挙げている が,その回答は「小売段階での価格競争は社会(公益)と製造業者の両方に弊害をもたらす」とい う前提があって初めて成立するのである。仮にロス・リーダーが公益上好ましくないとしても,個 別製造業者の RPM へのインセンティブが必ずしも削がれる訳ではなく,マクロ的弊害の如何は反 脚注15で挙げられている Bobbs-Merrill 事件では,1ドルと規定された商品を89セントで販売した小 売業者が被告にされている。この小売業者は大半の商品を,小売価格を40%も下回る価格で仕入れて おり,89セントという価格が原価を大幅に下回っていたとは えにくく,この事実からは,RPM シ ステムの存続を望む業者にとって, かな価格切り下げであっても大きな問題になり得たということ が窺える。Bobbs-M errill 事件に関しては,Murchison(1919 ), p.184 を参照。 33) バトラーが展開した正当化論は他にも多くの矛盾や問題点を抱えていた。ただし,本論での一義的 な問題関心は RPM 正当化論の妥当性や論理的整合性の検討・評価ではないため,より詳細な議論は 捨象される。しかしながら,バトラーの正当化論は,彼自身が言及した以下の2点を強調することで 補強される余地があるということは指摘するに値するであろう:(1)小売業者による広告品の安売 りは製造業者の広告費へのただ乗り行為であり不公正である,(2)製造業者のグッドウィルが流通 段階での安売りによって不当に損なわれる。この2点を検討し損なったことが彼の正当化論の1つの 大きな失敗要因であったと えられる。 34) 表1からも分かる通り,RPM に関するバトラーの主張は本論で特に指摘した以外にも様々な観点 から行なわれている。しかし,その多くは RPM を正当化するために都合良く拵えられた過度な 「RPM 楽観論」もしくは「ロス・リーダー悲観論」であり,論理的根拠が極めて乏しく,また散漫な 内容と言わざるを得ない。そのため本稿では,彼がロス・リーダーをどのように理解し,RPM 正当 化論を導き出したかということだけに着目して議論が進められる。バトラーの正当化論に関する妥当 性及びその評価に関しては,光澤(1988), p.65 と光澤(1990), p.219 を参照されたい。 35) 表1の1(b)について本論では言及されていないが, 過当な価格競争によって,価格に引き ら れるようにして品質が低下・悪化する」という主張がチェリントンの議論の中[Cherington(1913), p.393]に見られる。また3(b)にあるように,バトラーは小規模流通業者の保護を正当化の根拠に 挙げているが,それは―― 後で 察される論者が主張するような―― 個別製造業者にとって流通網を 確保する必要性があるといったミクロ的観点からではなく,ロス・リーダーという不正な販売手法に よって小規模小売業者が排除され公益が損なわれるといったマクロ的観点から為されている。.

(13) 32. 三 表1. 田 商 学 研 究. チェリントンとバトラーの正当化論の主張内容 正当化の論拠. マクロレベル. ミクロレベル. 1.価格競争もしくはロス・リーダーの弊害(の抑制) (a)消費者への欺瞞性(B) (b)品質の悪化(C). (c )グッドウィルの消失(B・C) (d)広告効果へのただ乗り(B) 2.RPM による流通費の削減(C). (a)固定価格は相対的に高価格とは言えない. (b)広告効果の持続と販売費用の削減. 3.過当な小売価格競争による独占を防止(B) (a)価格差別政策による独占の促進(の防止) (b)小規模流通業者の不当な排除(の防止) 4.ブ ラ ン ド 間 競 争 が 保 持 さ れ て い る た め RPM は独占につながらない(B・C). 図2. (B):バトラーの学説で見られる正当化論 (C):チェリントン 〃 (B・C) :両者に共通して見られる正当化論. ロス・リーダーに関連した RPM 正当化論の説明経路. 論Ⅲの回答にとって重要でないことが分かる。すると,反論Ⅲに答えるためには「ロス・リーダー は製造業者に多大な損害を及ぼし,RPM はその損失を補って余りあるほどのゲインを製造業者に もたらす」必要があるだろう。 しかし,彼らの正当化論はこうしたミクロ的条件を反古にして展開されている観が否めず, 小 売段階での価格競争は必然的にロス・リーダー(=不当な原価割れ販売)であり,すなわち悪であ る」という単純な図式の上に初めて成り立っていると言える。これは当時の RPM 正当化論に見ら れる典型的な欠陥と批判することも可能だが,他方で RPM に対するミクロ的視点に基づいた理論 的問題関心を喚起させる1つの大きな契機になったと. えられ,彼らの RPM 正当化論は初期. RPM 論の形成にとって不可欠な「踏み台」の役割を期せずして果たしたとも評価することができ.

(14) 再販売価格維持行為に関する初期学説研究. 33. るのである。次節では,RPM 正当化論における上記の欠陥を指摘・批判し,RPM 問題に対してよ り理論的なアプローチを試みた2人の代表的論者の議論について詳しく吟味する。. 3.RPM に対するより理論的な接近. 3−1.タウシッグの学説 36). 37). 1916年にタウシッグは RPM 研究にとって重要な論文を発表している。以下でその内容を詳しく 検討することにする。. 3−1−1.タウシッグの RPM 観 38). タウシッグは主として RPM を「小売業者に対して製造業者が行なう小売価格規定」と捉え,製 造業者間の結合がなくブランド間競争が残存した状況での RPM が製造業者に及ぼす「間接的影 39). 響」について関心を示している。彼の基本的な問題意識を要約すると以下のようになる:. 小売価格もしくは小売段階での価格競争は製造業者が受け取る卸売価格に少なくとも直接的 には影響を及ぼさない。従って,既存の経済学理論に従えば小売価格の減少は販売数量の増 加をもたらすのであり,そのことは製造業者にとって好ましいと思われる。にもかかわらず 製造業者は,小売業者が需要を刺激すべく小売価格を切り下げ,自社商品を売り出してくれ ることに満足せず,何故その価格切り下げを防止しようとするのか [Taussig(1916), p. 171 を要約。] 36) 前節におけるチェリントンとバトラー,そして後に述べられるトスダルは一般にマーケティング学 者と位置付けられている一方で,タウシッグは経済理論・国際貿易・貨幣・関税問題など幅広い分野 で研究活動を行なっており,理論経済学者や国際経済学者もしくは経済史家などと呼び得る人物であ る。タウシッグに関しては,大阪市立大学経済研究所(1992), p.845 を参照。 37) Taussig(1916)。この 論 文 は RPM 研 究 に とって 重 要 と さ れ る 後 の 論 文[Bowman(1952)や Telser(1960)]や次節で 察されるトスダルの論文でも引用されており,初期の代表的な RPM 研 究の1つであると言える。ちなみに Telser(1960), p.86, f.1 では, 製造業者は何故小売価格を維持 しようとするのか 」という問題を 察した経済学者の1人としてシルコック(Silcock, T. H.)を 挙げ,更に初期の論者としてタウシッグの名前が挙げられている。そのためか Klein & M urphy (1988), p.265, f.1 で は Telser(1960)を 古 典 と す る「サービ ス 仮 説」と 類 似 し た 論 理 が Silcock (1938)と Taussig(1916)にも見られるとされている。確かに前者には「サービス仮説」を連想さ せる記述が見られるが,タウシッグの論文の場合「サービス仮説」との関連を見出すことは困難であ る。 38) 彼は卸売業者(ジョバー)が小売業者に再販売するときの価格を製造業者が指示・固定化する試み についても言及しているが,その行為は「小売業者を(直接)拘束するよりも実施が難しく,またあ まり頻繁でない」として,RPM を主として小売業者に対する製造業者の直接的な価格拘束の問題と 規定している。 39) タウシッグはトラストなど水平的結合を伴う価格維持の影響を「直接的」と呼び,それと対応する 形で,そのような結合の伴わない RPM の影響を「間接的」としている。.

(15) 34. 三. 田. 商 学 研. 究. 40). また彼は 間の RPM 正当化論に批判的であるという意味で,前の2人の論者とは立場を異にし ている。こうした彼のスタンスは, RPM は統制された経済システムであり,自由価格(固定化さ れていない価格もしくは価格メカニズム)は全ての人にとってより良い状況をもたらす」という彼の. 自由経済主義的信念と密接に関連するものであった。. 3−1−2.タウシッグの RPM 論 タウシッグは上記の問題に接近するために2つの説明経路を用意する。(1)経済理論が慣れ親 しんできたトピックである需要のヴァリエーションと需要スケジュールの構造,(2)中間業者を 介した伝統的な流通における(複雑な)手続き,である。タウシッグは前者を「心理学的(問題)」 , 後者を「マーケティング(問題)」と名付け,それぞれについて分析している。 1つ目の説明経路において,彼は低価格が必ずしも数量増加に結びつかない例外的ケースを以下 のように指摘する。. 需要心理に関する問題の解答は―― 中略―― 需要スケジュールが通常のコースに従わない ―― 中略―― という事実に見出されるはずである。少なくとも普遍法則と想定されているも のには1つの例外が存在する可能性がある。ある商品の価格下落によってその商品がより多 く購買されるということは普遍的に真である訳ではない。 [Taussig(1916), p.172。下線は 本文ではイタリック。 ] 41). 彼は,消費者が持つ「他人に見せびらかしたい」または「他人と張り合おうとする」気持ちが満た されるのはその商品が稀少且つ貴重であるからだとして,その稀少性が失われると商品の価値は主 として有用性に依存することになり,代替財との競争に晒されることから,事業者は商品の名声や 魅力を保持するために RPM を実施する,としている。ただし,彼は(1)の説明が当てはまるの は,ダ イ ヤ モ ン ド な ど の 装 飾 品 や 高 級 ド レ ス と いった 種 類 の 財 で,そ の 他 大 部 分 の 識 別 財 (identified goods)の RPM はマーケティング条件に基づいて生起すると主張する。それが2つ目. の説明経路である「マーケティング問題」である。 タウシッグは識別財の価格規定システム(RPM )は,価格切り下げをよしとしない伝統的な流 40) 彼の批判の主な論点は,(1)RPM は品質の劣化を防止するか (2)(RPM によって防止され る)ロス・リーダーは本当に公益を損なうのか (3)RPM 下においてディーラーが手にする利潤 は適正なものか というものであった。しかし,後で述べられるトスダルとは異なり,この点に関す るタウシッグの批判は不十分且つ一方的主張の域を出ないものであった。 41) これは Veblen(1899 )における「衒示的消費」に類似した概念ではあるが,それとの関連性は不 明である。.

(16) 再販売価格維持行為に関する初期学説研究. 35. 通業者によって支えられていると主張する。製造業者が RPM を採用する理由についての彼の見解 を要約すると以下のようになる。. ごく一部の識別商品を除き消費者は一般的により安い価格を好むので,一旦,因習打破的な 安売り業者が現われ価格競争が始まると,標準価格が知られていればいるほど標準価格の維 持は難しくなる。すると小売業者は「もはや標準価格を維持できない」という不満をジョ バーに言い,ジョバーに卸売価格(ジョバーから小売業者への引き渡し価格)を引き下げるよ う要求する。すると今度はジョバーが同様の要求を製造業者にするようになる。 [Taussig (1916), p.174 を要約。 ]. また彼は,この説明を補完するために「アクセス可能性(accessibility)」という概念を導入する。 つまり,幅広い地域に分散している消費者が商品に容易にアクセスできる状態を確保する,言い換 えれば流通網を確保する,ために RPM は必要であるということである。また,タウシッグは製造 業者自らが新たに流通システムを構築するという選択肢についても言及し,そのことは困難且つ高 コストであるため,製造業者は既存の流通システムに順応し,反抗的なディーラーを服従させるよ うな RPM 政策を採用すると結論付けている。. 3−1−3.タウシッグの学説評価 タウシッグの学説は,前述の2人の論者が未 察であった「数量増加の問題」に初めて真正面か ら取り組んだ点でまず評価されるだろう。彼は需要法則に従わない「心理学的」要因を例外的事例 として抽出することによって,その他大部分の識別財の RPM が主としてマーケティング問題であ ると同定することに成功しており,こうした試みは,数量増加の問題を RPM 論に接合・包摂した 意味で,その理論をより豊かな内容にしたと評価される。 また「アクセス可能性」という概念は,チェリントンとバトラーの学説では曖昧であった「全国 広告によって拡大した消費エリアをまかなうだけの広範な流通網の確保」という観点を明確にして いる点で評価できる。このように,ミクロ的観点に基づくタウシッグの議論によって「製造業者に とって何故 RPM は合理的な政策なのか. 」という理論的問題が俎上に乗せられ,結果としてチャ. ネル政策としての RPM という側面がより鮮明にされたのであった。 しかし,タウシッグが提案した2つの説明経路はそれぞれ問題点を抱えている。第1に,心理学 的問題に関連して,その商品の「稀少性」や「高級感」を維持したいと望むのならば,製造業者は 単に卸売業者へ販売する際の価格を高い水準に設定しさえすればその評判の維持が可能であり,わ 42). ざわざ RPM を採用する必要は生じなくなるだろう。 第2に,マーケティング問題に関連して,タウシッグは RPM を支える伝統的流通システムは非.

(17) 36. 三. 田. 商 学 研. 究. 効率であると批判しているにもかかわらず,他方で,消費者の多様な嗜好やニーズを満たすことで (社会的)存在意義を持ち得るとしている点である。彼は,大抵の価格切り下げは,配送の手間を. 省いたり現金支払いを奨励したりするといった簡単な方法で実現しているとしており,その説明に 則れば,小規模小売業者であってもサービス水準を変更することによって容易に価格競争に対応で きることになる。つまり,タウシッグの説明からは,個々の消費者に対してサービス面で優位性を 持つ小規模小売業者が価格設定の自由を自ら放棄する理由を,そしてまた,製造業者が非効率的な 43). 小売業者からの RPM の要求を受け入れる理由を見出せなくなってしまうのである。このようにタ ウシッグは,既存の流通業者を非効率と指摘しながらも,その非効率性について曖昧な態度を採り, 小規模小売業者の中にも効率的な業者とそうでない業者がいて,その大部分が後者であるというこ とを. 慮しなかったために,自らの主張に論理的矛盾を残す結果を招いてしまったのであった。 44). 3−1−4.タウシッグの学説に対するチェリントンの批判 ここでトスダルの学説に移る前に,タウシッグの主張に対するチェリントンの批判を検討するこ 42) 幾らか説明を補足しよう。製造業者にとって好ましくない事態を生じさせる―― ある高級品への消 費者の需要心理が覆され,消費者が「これまで高級品だと思っていたが,実はそれほどの物ではな い」と意識するようになる―― には,ロス・リーダー販売が長期間もしくは恒常的に行なわれる必要 がある。しかし,そもそも卸売業者への販売価格を高く設定すればそのような事態は回避できると えられる。というのも,ロス・リーダーにとっては原価割れ分が大きくなり,そのロスを他の商品の 売上で補塡することがより困難になるからである。また,もしも生産(販売)数量が少ない場合には, 製造業者にとって流通業者の管理・統制はより容易になり,彼らは RPM よりも流通業者の内部化す なわち直営化を選択するかもしれない。 43) この論証には幾らか複雑な説明を要する。(大規模)安売り小売業者を α,サービス面で優位性を 持つ(小規模)小売業者を β,何らの優位性も持たない小売業者を γとする。自由競争下において, αと βが同じ費用構造を持っていると仮定すると,αと βの共存は可能であり(αと βは必要最小 限の数は生き残り,γは市場から排除される),製造業者にとって競争によって排除される運命にあ る γの要求に応じずとも販路は確保される。従って,製造業者が販路確保の目的で RPM を採用す る必要性は理論上生じ得ない。また,βのサービス(主に店頭での商品説明)を受けた顧客が αで 購入するという「ただ乗り」問題も えられるが,βがそのサービスを中止し,その分だけ価格を下 げれば理論的には問題は解消される。というのも,店頭での商品説明を省いた βが,αと比較して 依然として高い価格で商品を販売していたとしても,アフターサービスや自宅までの配送などに価値 を置く消費者は引き続き βで商品を購入するからである。また仮に,サービスの中止が価格低下に 反映されない場合には,αが同様のサービスを省く理由が見出せなくなる。 44) タウシッグの論文のすぐ後の頁には,彼の主張に対する5人の論者のディスカッション[Haney, Gephart,Turner,Cherington & Bowker(1916)]が掲載されている。ハニー(Haney,L.H.,pp.185 -190)は特にタウシッグの「価格維持によって品質が維持される訳ではない」という主張を支持し, ゲファルト(Gephart, W. F., pp.190-195)はタウシッグと同様に自由競争による流通システムの効 率化を支持し,2人は共に RPM (及びその合法化)に批判的な立場を採っている。逆にターナー (Turner, J. R., pp.195-199 )は RPM がもたらすマーケティング費用の削減効果を主張し,ボウカー (Bowker, R. R., pp.207-209 )はフォード社の事例を紹介し RPM 支持の立場を表明している。チェ リントンを含め,彼らの主張はタウシッグの議論を踏まえた上での各自の意見表明といった性格が強 く,タウシッグの RPM 論を拡張したりそれに建設的な批判を加えたりするものではなかった。故に, 本論ではチェリントンを除く4人の論者が行なった議論についてこれ以上詳細な検討は避けることに する。.

(18) 再販売価格維持行為に関する初期学説研究. 37. とにする。ただし,初めに断っておかねばならないが,彼の批判は必ずしも建設的であるとは言え ず,またタウシッグの主張の問題点を適切に言い当てている訳でもない。しかし,そこでのチェリ ントンの批判は,彼の RPM に対する え方をより明確に理解する一助となるであろう。 チェリントンはタウシッグの議論を4つ;(1)定義(2)RPM を説明するための2つの経路 45). (3)RPM 是非論(4)結論に分け,それぞれについて異論を唱える。(1)に関してチェリント ンは,タウシッグが RPM を製造業者による小売価格規定の問題としたことを批判し,RPM は複 数の卸売業者・小売業者との間の協定に基づく価格規定の問題であると定義の修正を試みる。また (2)に関しては,タウシッグの2つの分類に基づく RPM 論は「抽象的であり事実に基づいてい ない」と批判し,確立された既存の流通システムにおいてこそ最適なサービスが提供されるという 見解が簡便に述べられている。また(4)では特にタウシッグの自由経済主義的な え方が批判さ れ,市場原理の下で大規模小売業者の競争行動が公益をもたらすかどうかについて疑問が呈されて いる。 (3)に関してチェリントンは特に熱心に議論しているが,そこでの彼の主張を要約すると以下 のようになる。 ①小売業者は取り扱う財の品質に責任を負わず,②また彼らの関心は専ら競争相 手の排除と市場シェアの拡大のみである。③そのことを 慮すると,大抵の価格切り下げ行為は不 正であると言え,④従って小売業者に価格の決定権を与えることは好ましくない。⑤逆に RPM は 品質・サービスの維持を容易にし,また,⑥ブランド間競争が維持されている限り消費者は維持さ れている品質や価格やその他条件が満足できない商品の購買を拒否できる,のであるから,⑦ RPM を違法とすべきではない」。このチェリントンの主張は,彼が「抽象的で事実性に欠ける」 と批判したタウシッグの言説に対する,同じく「具体的・経験的データに欠ける」批判であり理論 的根拠にも乏しく(①③⑤),RPM 擁護という彼の信念を反映した内容になっている(②④⑥⑦)。 ただし,タウシッグが「RPM と品質」との関連性を疑問視した結果として, RPM は(特に製品 に付随する小売サービスの)品質を維持する」という新たな論点がチェリントンの批判を通じて明確. にされた点は注目に値するであろう。これは後に「スペシャル・サービス仮説」として展開される 議論の―― 極めて不完全ではあるが―― 端緒と呼び得るものであり,その意味で RPM と小売サー ビスとの関連性を指摘したチェリントンの主張は RPM 論にとって1つの意義を持っていたと言え る。. 3−2.トスダルの学説 トスダルは主に販売活動や販売管理の研究者として知られているが,彼は RPM の問題にも関心 45) (2)と(3)の正確な見出しはそれぞれ「ケースの叙述(Statement of the Case)」と「審議 (The Sitting in Judgment)」である。本論では,その意味内容と本論での表現の一貫性を 慮して 意訳されている。.

(19) 38. 三. 田. 商 学 研. 究. 46). を寄せ,複数の論文を発表している。また彼は自身の論文の参 文献に上述のタウシッグの論文を 挙げており,直接的な影響関係が見て取れる。以下で,トスダルの学説を詳しく検討する。. 3−2−1.トスダルの RPM 観 トスダルは RPM を「商標・ブランド・著作権・特許によって識別された商品が,ある購買者や更 なる購買者によって再販売される際の価格に対する製造業者の押し付け(imposition)から成る 47). マーケティング政策」と定義し,こうした識別財の市場流通において RPM 問題が重要となった経 緯を次のように指摘する。. 製造業者やその誠実な代理商が消費者に直接販売する場合,RPM 問題は生じ得ない。なぜ ならば,製造業者は消費者に対して(訳者挿入:直接的に)価格を設定することができるか らである。しかし,このようなマーケティング手法は大抵の製造業者にとって利用可能な訳 ではなく,また非経済的であるだろう。―― 中略―― 大抵の製造業者は卸売業者の助けなし で財を販売し,流通させることは賢明でないことに気付いた。―― 中略―― 結果,RPM に 関しては消費者だけでなく全ての流通業者も関心を示すようになった。[Tosdal(1918a), p.30]. すなわちトスダルは,広告を通じて自社商品を消費者に直接「売り込む」ことが可能になったこと で製造業者が販売・流通上の主導権を握るようになった,という歴史的状況を踏まえた上で,RPM は製造業者にとって販売や流通を円滑に行なうためのマーケティング政策であると えていたと言 える。 ここで重要なのはトスダルが RPM を製造業者にとって一義的に必要であるとは えていないこ とである。言い換えれば,RPM は製造業者のみの事情に鑑みれば必ずしも合理的な政策とは言え ず,製造業者が流通業者の都合や圧力を加味して初めてその必要性が生じるということである。ト スダルはこの論証の手掛かりとして, ロス・リーダーがもたらす諸々の弊害を抑制する手段として 46) Tosdal(1918a & 1918b)。共に「価格維持」というタイトルが付けられたこれらの論文は,前者 では RPM 問題の概観が示され,後者では理論的視点から RPM 問題の分析が試みられている。本論 では主に「RPM 観」を前者に, RPM 論」を後者に依拠している。尚,トスダルはそれ以外にも, 書籍取引の RPM に関する歴史研究[Tosdal(1915)]を行なっているが,それに関しては本論での 察対象からは除外される。 47) Tosdal(1918a), p.29 。定義に関してトスダルは,タウシッグの定義を批判したチェリントンの定 義を取り上げ,以下のように述べている。 政府機関の前に示された証拠の大半は価格固定化の基礎 としての『協定』の存在についてほとんどもしくは全く言及していない。価格は唯一製造業者によっ てのみ固定化されるのであり,(訳者挿入;社会的な)流通費用を 慮して為されている訳ではない [Tosdal(1918a), p.29, f.4]」。こうした彼の指摘からも,トスダルがチェリントンとは異なり,主に ミクロ的観点から RPM 問題にアプローチしていたことが窺える。.

(20) 再販売価格維持行為に関する初期学説研究. 39. RPM は正当化されるべきだ」とする主張が立脚するそもそもの前提条件について批判的に吟味し ている。以下でその内容を見てみることにしよう。. 3−2−2.トスダルの RPM 論 まずトスダルは「価格切り下げによって消費者及び流通業者のグッドウィルが損なわれ製造業者 の販売数量・利潤・商品価値が減少することから,それを防止するために RPM が行なわれる」とい う RPM 擁護論を紹介する。彼はこの一連の議論が説得力を持つためには,(1)略奪的価格切り 48). 下げは製造業者からグッドウィルという便益を奪い,(2)そのグッドウィルの剥奪は社会的に望 49). ましくなく,(3)RPM はそのような事態を防ぐ適切な処方箋である,という3つの命題が満た されなければならないと主張する。 ここで彼が問題にしたのは略奪的価格切り下げ(=ロス・リーダー)の実行可能性であった。彼は 「製造業者は消費者に対する直接広告を通じて流通上の影響力を持っており,流通業者は消費者が 求める商品を常に店頭に揃えておく必要があるから,長期的な消費者へのサービスを えると,彼 らがコスト以下販売を長期間行なうことは困難である」という趣旨の主張を行なっている。補足す ると,消費者が絶えず求める商品を絶えずコスト割れ販売し,そのロスを他の商品で回収するとい うことも不可能ではないが,そのような安売りが長期間続くと「客寄せ」の効果が逓減しロスの蓄 積が進み,結局のところ略奪的価格切り下げが恒常的に行なわれる可能性は低い,ということであ る。このようにして彼は「略奪的価格切り下げは消費者及び流通業者のグッドウィルが損なわれる 50). ほど長期間は続かず,仮にそれが短期間であれば,流通業者は消費者の要望に応えてその商品を店 頭に揃えて置く必要があるため,製造業者は大きな打撃を被らない」とし,ロス・リーダーによっ てグッドウィルが損なわれるという主張を批判する。 次いでトスダルはブランド間競争の存在が RPM 擁護論の根底にあることを逆手にとって,ブラ ンド間競争下での RPM が製造業者に及ぼす効果を 察する。彼は RPM によって広告費が増大し, また小売価格競争による数量増加に伴う生産費用逓減の効果も享受できないために,製造業者は 51). RPM を採用する動機を持たないと主張する。 48) (コストを大幅に下回る価格での)ロス・リーダー販売」のこと。 49) トスダルは「価格の低下に次いで需要が減少するのは唯一,その財が(価格低下によって減少する 性質の)識別価値を持つ場合にのみ限られる」と述べている。しかし,彼は「広告が 出する,価格 切り下げに耐え得ない価値が社会的に便益を持つかは疑わしい[Tosdal(1918b), p.285] 」としてそ の主張を退けている。 50) トスダルはタウシッグの議論を踏襲する形で「RPM によって品質が維持される訳ではなく,また 価格切り下げが製造業者にとって品質低下の誘因にはならない」と主張している。このことは価格切 り下げによって消費者のグッドウィルが損なわれる訳ではないことを補足的に説明している。 51) この主張が成り立つためには,追加的な広告によって新規需要が 出されず,寡占的競争下で熾烈 な「パイの取り合い」だけが展開されるという前提条件が必要となる。とは言え,既に大規模広告さ れている製品に関して,RPM 下での追加的な広告による限界収入が,(小売業者による)価格切り.

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