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節 しごと班の問題意識

本章では、「AI としごと」について、文献調査とフィールドワークで得られた知見から 我々の考えを述べる。

AI と仕事に関する議論で必ず参照される論文が 2013 年オズボーン「雇用の未来」であ る。同論文では、アメリカにおいて現在ある職業のうち47.5%はAIにより代替される可能 性が高いとの試算結果を示した。オズボーン氏の論文は実は職業が奪われると主張してい るわけではなかったが代替される職業が47.5%であるという数字が独り歩きし、AIにより 仕事が自動化され、人間の雇用が奪われるというイメージが急速に広まっていく。では、

オズボーン氏の言う通り、20年程度の近い未来に、AIが人間の仕事を奪い、失業者が溢れ る時代がやってくるのだろうか。

我々がフィールドワークで取材をしたデコム社の松本氏(「AI は人間の仕事を奪うの か」)は、ヨーロッパ経済研究センターのアルツ氏の研究~自動化される仕事は 9%~を例 に挙げ、AI が代替できる仕事に関する未来予測は前提により大きく変わると指摘し、人工 知能に仕事を奪われると考えるのではなく、人工知能という武器を身に着けて仕事に就く という考え方を推奨している。フィールドワークの取材は5章に詳述するが、AIに関わる 現場の技術者の視点から、AI が何でもできる夢の技術であると考えるのは技術を知らない 学者の考えであると批判されていた点が印象的であった。

シリコンバレーで最も注目される企業家の一人であるペイパルの共同創業者であり投資 家のピーター・ティール氏も、著書「ZERO to ONE」でAIや機械と人間は代替関係より も補完関係にあると理解すべきだと主張している。一般にAIとロボットは非常に人間に似 たものだとおもわれているが、実際には人間とAIは、それほど似ていない。雇用という観 点から考えても、AI よりも他国(例えば日本からみたアジア諸国)の人間のほうが雇用の 代替性が高いと理解すべきだとの指摘は非常に興味深い。

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図6「ZERO to ONE 君はゼロから何を生み出せるか」を元に著者が作成

IT 革命により、国境を越えた「ヒト」「モノ」「カネ」の移動が容易になり、日本の工 場は海外へ移転し、ブルーカラーの労働は中国を筆頭としたアジア諸国に奪われていっ た。国内のブルーカラーの仕事が奪われても低い失業率を保っていることは、代わりに新 しいサービス産業の雇用や付加価値の高いホワイトカラーの仕事が生み出されているため であり、雇用の海外移転を必ずしもネガティブなことと捉える必要はない。将来の日本を 考えた場合には、海外企業に AI や IoT、ロボット技術という成長市場での優位性を握ら れ、付加価値の高いホワイトカラーの国内における雇用が先細る可能性こそ、最大の脅威 と捉える必要がある。

図7 (経済産業省 構造新産業ビジョン H29.5発表 P16)

ティール氏は、投資家・起業家として、技術による社会変革を本気で進めている人物で ある。世界で最もテクノロジーの未来ビジョンを描くことのできる人物の一人といってよ いだろう。そのティール氏がAIに対して、「SFの世界で想像されるAI〜例えばターミネ ーターのスカイネットは、自我を持ち人類を滅ぼそうとする〜は、強いAIと言われ、その ようなAIが今後実現しないと断言することはできないが、いつどのように実現するかわか るレベルにはなっていない。ぼんやりとした心配事と言ってよい。」と結論付けている点 も見逃せない。

オズボーン氏の研究と共に世間を騒がしたのが、未来学者カーツワイル氏のシンギュラ リティ(技術的特異点)仮説である。(2005年、『The Singularity Is Near:When Humans

Transcend Biology)カーツワイル氏は、2045年にAIが人間の知能を超えるという未来予

測を提示した。

一方、カーツワイル氏のシンギュラリティ仮説に対して、日本の情報学の権威である西 垣通 氏は、人間と人工知能・機械に対する根本的な誤解があると指摘する。さらには、人

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間には意志があり、自律的な存在である。対して人工知能を含む機械はどんなに複雑化し ても今のところ、自我や意志は持たない、プログラミングされたことを実行する他律的な 存在である。つまり、高度なAIを使って、富を独占しようと試みたり、他者を支配しよう とする意志は、あくまでAIを利用する人間がもっているということを意味している、とも 指摘している。カーツワイルにそのような認識はないかもしれないが、シンギュラリティ の恐怖をあおることは、AI を使った巧みな支配を行う人間がいることを覆い隠す結果にな りかねない。インパクトのある言説は人の心を惹きつけるが、発信力の強い海外の情報を 鵜呑みにせず、別の意見を述べている人がいればそうした主張にも目を通し、様々な角度 から考える自分達の視点を持つ必要がある。カーツワイルに対して反論を展開する西垣 は、人間にはできない AI・機械の得意分野と人間の得意分野(判断力、綜合力)を組み合 わせることが身近な未来で目指すべき姿である、と説く。西垣は著書「ビックデータと人 工知能」で、人間と AI のよい協働関係、補完関係を表現するために、AI(Artificial Intelligence・人工知能)という代わりに、IA(Intelligence Amplifer・知能増幅)と呼ぶべ きだと主張している。人工知能という言葉には、人間の知能に対抗する機械の知能が登場 するという誤解を生みやすいので、あくまでも人間の知能を増強するための機械があると いう西垣の主張は、我々が今後どのような仕事をしていくかを考える上で重要な示唆を与 えてくれている。

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