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ふぞろいなリボソームの発見とその役割 - J-Stage

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化学と生物 Vol. 54, No. 2, 2016

ふぞろいなリボソームの発見とその役割

新たな翻訳制御 がん化メカニズムとしての構造不均一性

 細胞質のリボソームと聞いて多くの方がまず思い浮 かべるのは,書籍・ネットなどでよく見かける二段重ね の鏡餅をひっくり返したような形状であろう.現在で は,2009年にノーベル化学賞に輝いた細菌のリボソー ムはもちろん,巨大さゆえに困難と言われてきた哺乳類 を含めた真核生物のリボソームについても,X線結晶解 析などにより原子レベルでの構造が明らかになってい る.こうした華々しい構造化学的な研究成果の一方,生 物学的に見たリボソームはどうであろうか.たとえばタ ンパク質合成の初期段階である転写についてはさまざま な転写因子を巡る幾多の知見が今なお発表されているの に比べると,その後を引き継ぐ翻訳のほうは分子生物学 の教科書に書かれている基本過程以外に印象が薄く,出 来合いのmRNAからリボソームがポリペプチド鎖を律 儀に作っている受動的な過程と思われがちとは言い過ぎ であろうか.

このような状況に一石を投じるきっかけとして,赤血 球造血障害を特徴とする遺伝性のダイヤモンド・ブラッ クファン貧血の患者がリボソームタンパク質S19の遺伝 子に変異をきたしていたことが挙げられる(1).その後,

骨髄異形成症候群の一つで5番染色体長腕の一部欠失な どの特徴を有する5q−症候群の原因欠損遺伝子として リボソームタンパク質S14遺伝子が明らかにされた.ま た,リボソームRNAのシュードウリジン化修飾にかか わる酵素ジスケリンの変異がX連鎖型先天性角化不全 症を引き起こすことが見いだされた.さらに無脾臓で生 まれる先天性無脾症の原因遺伝子としてリボソームタン パク質Saが報告された.これらを含むリボソーム関連 遺伝子の異常を原因とする疾患はリボソーム病(ribo- somopathy)と総称されている(1, 2).リボソーム病の不 思議なところは,その症状が特定の部位・器官に生じる 点にある.ショウジョウバエで古くから知られている Minute変異体はリボソームタンパク質遺伝子のハプロ 不全(低発現)が原因とされており,短剛毛に加えて細 胞増殖能低下および発育遅延の特徴をもつ.対してリボ ソーム病ではMinuteと違い全身に症状が出るわけでは ない.

リボソーム病の正確な発症メカニズムは今のところ不

明であるが,その部位特異的な発症メカニズムを包括的 に説明しうるものとしてリボソームフィルター仮説(3)が 挙げられる.これはリボソームがその構成因子の一部を 取り換えることで翻訳すべきmRNAを選択するという ものである.リボソームタンパク質L38遺伝子のノック アウトマウスにおいて,形態形成にかかわるホメオボッ クスmRNAの翻訳が特異的に抑制されたことはこの仮 説を支持する(4).リボソームにおいてフィルターとなる 因子(原因遺伝子産物)の選択性とその異常(欠損な ど)が各リボソーム病特有の症状を生じさせているのか もしれない.

ではこのフィルターのようにリボソームにおいて翻訳 を制御する未知因子は存在するのだろうか.たとえば フィルターの存在は,リボソームによって構成成分の一 部が異なること,すなわちリボソームにおける構造上の 不均一性を意味する.真核生物のリボソームは,4種類 のリボソームRNAと約80種類と言われるリボソームタ ンパク質を含むメガダルトン級の複合体である.不均一 性の理解に必要なリボソーム構成因子の全体像の解明に ついては,リボソームがこのように巨大で多数のタンパ ク質を含むために大きな技術的困難を伴った.この困難 にもかかわらず構成成分のたゆまぬ分析が数十年にわ たって続けられ多数のリボソームタンパク質が同定され た.その一方で,従来の二次元電気泳動法による正常組 織やHeLaを含むがん細胞の間の比較において,リボ ソームタンパク質の泳動パターンは「ほとんど」同じと いう結論であった.

ヒトリボソームタンパク質遺伝子の多型の網羅的な探 索中,筆者らのグループは偶然にリボソームタンパク質 L39のパラログL39-likeの遺伝子を発見した.L39-like のmRNAは,それまでの普遍的な発現のリボソームタ ンパク質の場合と異なり,多様な臓器由来のがんおよび 正常組織では精巣のみに発現が観察された.この知見を リボソーム不均一性の理解への糸口と捉え,プロテオミ クス的手法によるげっ歯類リボソームの網羅的解析に取 り組んだ.電気泳動法の改良等により既知の哺乳類リボ ソームタンパク質を網羅的に俯瞰できる分析系を構築し た(5)(図1.この系を利用して精巣特異的に発現する3

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種類のリボソームタンパク質のパラログ(L10-like, L39- likeおよびS4-like)を同定し,これらが翻訳中のリボ ソームに含まれることなど,リボソーム不均一性の存在 を報告した(5, 6).また,ジンクフィンガータンパク質 Lyarを精巣リボソームの新たな不均一性因子として同 定し,その翻訳促進効果を の実験から示した(7). 同定されたリボソームタンパク質のパラログは,それぞ れのオルソログとの一次構造の高い相同性から,オルソ ログに置き換わる形でリボソームの構成因子になると思

われる.このようないわば置換因子に,Lyarのような リボソームに付加・結合することで不均一性を生じさせ る因子(付加因子)が加わり,細胞/組織レベルにおい てリボソームに構造上の不均一性がもたらされると考え られる(図2

上記のL39-likeおよびLyarは精巣以外にがん細胞に 高発現する.このことは正常組織のみならずがんにおい てもリボソーム不均一性がある,いわば「がんリボソー ム」の存在が推定される.Lyarはその翻訳促進効果か

図1マウス肝臓リボソームのタンパク質二 次元電気泳動像

各スポットから質量分析によって同定された 既知のリボソームタンパク質の名称を図に示 す.リボソームタンパク質の多くは強塩基性 かつ低分子量であり,既存の方法による哺乳 類リボソームの分析には限界があった.文献5 よりAmerican Chemical Societyの許諾を得て 掲載.

図2哺乳類リボソームの構造不均一性およ びその推定される意義

精巣の生殖細胞において,精巣特異的な置換 因子(リボソームタンパク質のパラログL10- like, L39-likeおよびS4-like)ならびに付加因子

(Lyar)によって正常組織体細胞の場合と一部 構造が異なるリボソームが存在する(5〜7).この ような不均一性はLyarを高発現するがん細胞 においても見いだされ,翻訳亢進を介して細 胞増殖に関与する可能性が示唆されている(7)

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ら翻訳亢進を介してがん細胞の増殖へ寄与することが示 唆されている(図2).がん抑制遺伝子やがん原遺伝子 の中にリボソームの生合成に影響するものが存在する(8) などがんとリボソームの関係解明は重要と考えられる.

またがんリボソームに関連してリボソーム病において興 味深い報告がされており,意外なことに多くのこれら疾 患の患者にがんの頻発が示されている(8).細胞増殖にタ ンパク質合成の亢進が不可欠であることを考えると,リ ボソームの機能不全が推定されるリボソーム病における がん発生は一見矛盾するように思われ,その謎解きが待 たれる(2)

がんなどの疾患を含めたリボソームにおける不均一性 のさらなる構造解析,ならびに同定された新規リボソー ム構成因子の機能解析によって,フィルターとしてのリ ボソームの役割を含めた翻訳制御機構の解明が期待され る.そしてそれは新たながん化メカニズムの発見にもつ ながると推察される.最後に,本稿では筆者らが取り組 んできた哺乳類リボソームに焦点を当てた.もし興味を もっていただけたなら,より広範な内容で文献引用も豊 富なリボソーム不均一性の総説(4, 9)を参照されたい.

  1)  A. Narla & B. L. Ebert:  , 115, 3196 (2010).

  2)  K.  De  Keersmaecker,  S.  O.  Sulima  &  J.  D.  Dinman: 

125, 1377 (2015).

  3)  V.  P.  Mauro  &  G.  M.  Edelman: 

99, 12031 (2002).

  4)  S.  Xue  &  M.  Barna:  , 13,  355  (2012).

  5)  Y. Sugihara, H. Honda, T. Iida, T. Morinaga, S. Hino, T. 

Okajima, T. Matsuda & D. Nadano:  , 9,  1351 (2010).

  6)  Y.  Sugihara,  E.  Sadohara,  K.  Yonezawa,  M.  Kugo,  K. 

Oshima, T. Matsuda & D. Nadano:  , 521, 91 (2013).

  7)  K. Yonezawa, Y. Sugihara, K. Oshima, T. Matsuda & D. 

Nadano:  , 395, 221 (2014).

  8)  C. R. Stumpf & D. Ruggero:  , 21

474 (2011).

  9)  M.  Sauert,  H.  Temmel  &  I.  Moll:  , 114,  39  (2015).

(灘野大太,杉原圭彦,名古屋大学大学院生命農学研究 科)

プロフィール

灘野 大太(Daita NADANO)

<略歴>1984年東京大学理学部生物化学 科卒業/1986年同大学大学院理学系研究 科修士課程修了/1993年博士(医学)取得

(福井医科大学)/2001年名古屋大学大学 院生命農学研究科助教授/2007年同准教 授に職名変更,現在に至る<研究テーマと 抱負>翻訳制御を含む哺乳類の巧みな仕組 みの解明<趣味>クラシック音楽鑑賞<所 属研究室ホームページ>http://www.agr.

nagoya-u.ac.jp/˜molreg00/index.html 杉原 圭彦(Yoshihiko SUGIHARA)

<略歴>2009年名古屋大学農学部応用生 物科学科卒業/2011年同大学大学院生命 農学研究科博士前期課程修了/同年キリン ビール株式会社入社/2013年キリン株式 会社基盤技術研究所に所属,現在に至る

<研究テーマと抱負>お客様のQOL向上 に寄与できる商品の開発を目指しています

<趣味>酒(特にビール),テニス,料理

Copyright © 2016 公益社団法人日本農芸化学会 DOI: 10.1271/kagakutoseibutsu.54.77

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はじめに 花は儚い(はかない)ものの象徴にもなっているが, 仕方なくしおれているのではなく,自ら進んでしおれて いく.そもそも花は種子を作るための器官である.ヒト が見て美しいと思う花の多くは,昆虫を引き寄せて受粉 を成功させるために,多種多様に進化したものである. 受粉が成功した後,あるいは受粉しなくても咲いてから