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わが国における権利保護保険の 機能と課題

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わが国における権利保護保険の 機能と課題

関東学院大学経済学部非常勤講師

早稲田大学保険規制問題研究所招聘研究員

内藤 和美

(2)

本報告の構成

Ⅰ.わが国の権利保護保険の沿革と意義

1.権利保護保険の沿革

2.権利保護保険の意義

Ⅱ.権利保護保険の2つの機能

1.費用リスク負担機能

(1)

責任保険の防御給付機能とてん補方式

①責任保険における防御給付機能

①責任保険における防御給付機能

②責任保険における防御費用のてん補方式

(2)

ドイツの権利保護保険の機能

①ドイツの権利保護保険普通保険約款の概要

②ドイツの権利保護保険と責任保険の防御機能

(3)

わが国の権利保護保険における費用リスク負担機能 2.法的サービス・アクセス機能

Ⅲ.わが国における権利保護保険の課題

(3)

Ⅰ.わが国の権利保護保険の沿革 と意義

と意義

(4)

1.権利保護保険の沿革

●権利保護保険制度は、2000年10月1日に発足した。

保険契約者およびその家族※が、対象となる事故・事件の被害者となり、

弁護士に損害賠償請求の法律相談や事件依頼をする場合に、弁護士費用 および手続き費用が保険金として支払われるとともに、弁護士紹介を希望 する被保険者に対して、日弁連リーガル・アクセス・センター(日弁連

LAC

)を 介して各弁護士会

LAC

が弁護士紹介を行う制度として発足した。

介して各弁護士会

LAC

が弁護士紹介を行う制度として発足した。

現在は企業等を契約者とする団体契約も存在し、この場合は団体の構成員と家族である。

●保険による弁護士費用等のてん補機能と弁護士会の弁護士紹介制度が 結び付けられているものをいう。

=費用の問題とアクセス・ルートの問題の解消を目的とする。

(5)

●権利保護保険制度を利用することができるのは、日弁連と協定を締結した 保険会社等※が販売する権利保護保険の保険契約者とその家族である。

※2015101日現在の協定保険会社等(損害保険会社、共済組合、少額短期保険会社)

13社。

●法律扶助は、低所得者層への救済的な政策。一方、富裕層は訴訟費用や 弁護士費用を負担感なく支出できる。

1.権利保護保険の沿革(続1)

弁護士費用を負担感なく支出できる。

権利保護保険は、主として中間所得層の権利を保護するための費用調 達手段として開発された。

⇒中間所得層である市民の日常生活に定着した存在である保険会社を

弁護士へのアクセス・ルートにする。

(6)

●権利保護保険の名称は、ドイツの“

Rechtsschutzversicherung

”の直訳。

法的権利を防護する意義に止まらず、第三者に対して権利を主張する意義 をも包含するニュアンスがある。

欧州や米国の状況にも鑑み、わが国でも原告となる者のための訴訟費用 や弁護士費用をカバーする保険の必要性が認識されるように。

●わが国では、自動車保険に付帯される弁護士費用特約が、権利保護保険 1.権利保護保険の沿革(続2)

●わが国では、自動車保険に付帯される弁護士費用特約が、権利保護保険 の普及・発展の契機となった。

=「加害交通事故における加害者と被害者の間のアンバランスな事情」

●権利保護保険の契約件数の推移

☞図1【弁護士保険※販売件数・

LAC

取扱件数の推移】

※日弁連は、当初の名称である「権利保護保険」とともに、「弁護士保険」という通称も使用して いる。

(7)

【☞図1 弁護士保険販売件数・LAC取扱件数の推移】

弁護士保険 販売件数

(件)

LAC取扱 件数(件)

(年度)

出所:日本弁護士連合会『弁護士白書 2015年版』245頁(なお、弁護士販売件数は日弁連協定会社のみ(一部概算)。

LAC取扱件数には、全ての紹介件数と「選任済み(依頼者が自身で弁護士を選任した案件)」の件数が含まれている。

2001年度 弁護士保険販売 件数:11,488件 LAC取扱件数:3

(8)

●権利保護保険の対象分野の拡大

・交通事故等の日常生活に起因する損害賠償請求だけでなく、貸金、離婚、

労働等のいわゆる一般民事事件に関する弁護士費用が対象となる単独 の保険商品を販売する少額短期保険会社が協定保険会社に加わった。

・協定保険会社である大手損害保険会社が、企業等を契約者とする団体契 1.権利保護保険の沿革(続3)

約で、団体の構成員を加入者(被保険者)※とする傷害保険や医療保険 の特約として、被害事故、借地・借家、離婚調停、遺産分割調停、人格権 侵害、労働(オプション)を対象とする権利保護保険商品を発売した。

※補償対象は、被保険者本人と被保険者が親権を有する子。

●中小企業向けの権利保護保険の開発に着手。

(9)

2.権利保護保険の意義

●「国民の裁判を受ける権利をその費用面から実現化したいという裁判を受ける 権利としての人権保障の実質化」を図る。

●「権利保護保険は、広義においては被保険者が有する法的権利を実現ないし 防護するために要した費用を保険給付の対象とする損害保険であるが・・・こ の保険は、法を必要としている人々に対してリーガルサービスを普及させる 手段の一つとして観念されるものであって、この点、他の保険に見ない特色 を有している」。

●保険とは、様々なリスクの実現により、財貨の滅失・損傷、責任の発生、費用 の支出または生命の喪失という事態が生じる場合に、従来の経済生活を維 持するために一定の金銭を必要とするという「金銭的入用」の充足を目的と する。

⇒被保険者は、紛争当事者となった場合に、紛争解決のために必要となる費用

(訴訟費用や弁護士費用等)を負担するリスク(費用リスク)を保険者へ転嫁 するとともに、弁護士へのアクセス・ルートを確保することができる。

=権利保護保険の「費用リスク負担機能」と「法的サービス・アクセス機能」

(10)

Ⅱ.権利保護保険の2つの機能

Ⅱ.権利保護保険の2つの機能

(11)

1.費用リスク負担機能

●自動車保険以外の責任保険と権利保護保険の関係

「責任保険における争訟費用のてん補と類似の保険」と言及される。

●権利保護保険は、主として、被害者たる被保険者が、自らの法的権利を 実現するために必要となる訴訟費用や弁護士費用等を負担することに より被る損害をてん補する保険(ファースト・パーティ保険)である。

より被る損害をてん補する保険(ファースト・パーティ保険)である。

●賠償責任保険(サード・パーティ保険)の防御給付機能もまた、「権利保護 機能」と呼ばれている。

⇒責任保険の防御給付機能と権利保護保険の関係とは?

(12)

(1)

責任保険の防御給付機能とてん補方式

①責任保険における防御給付機能(権利保護機能)

●「権利保護機能」における「「権利」とは被保険者の権利であり、「権利を保 護する」とは、不当な賠償請求に対して被保険者の行う防御の費用を補償 すること」である。

●賠償責任の確定(賠償責任の存在や額の確定)プロセスにおいて、防御給 付機能(権利保護機能)が重視される。

●賠償責任保険は、歴史的に、社会における権利義務意識の高揚と賠償水 準の高額化に伴って、次第に重要性が認識されるようになり、普及した。

⇒わが国の責任保険における防御給付は、「示談交渉役務」(自動車保険)、

「防御費用のてん補」(一般的な責任保険)※の形で提供される。

※海外での事故を補償対象とする英文約款には、賠償事故に関して保険会社が被保険者の ために防御行為を行うことを定めるものがある(例えば、海外PL保険)。

(13)

②責任保険における防御費用のてん補方式

●「保険者が防御給付として争訟費用をてん補するのは、保険者の利益に もなることであり、責任保険本来の給付とは別個の判断に基づく負担で ある」。

一般的な賠償責任保険の争訟費用に関する説明

「被保険者の損害賠償責任に関する訴訟において、被保険者が保険会社の 同意を得て支出した訴訟費用、弁護士報酬ならびに調停、和解または仲裁に 要した費用。被保険者に損害賠償責任ありという結果になったときはもちろん、

賠償責任がないと判断された場合であっても、このような費用は保険金として

●責任保険は、理論上、消極財産保険に分類される。

あらかじめ損害の最大額を評価することができないために、保険価額の 概念は当てはまらない

てん補限度額の設定。

●責任保険の防御費用に関する2つのてん補方式

=「外枠比例てん補方式」と「枠内てん補方式」がある。

賠償責任がないと判断された場合であっても、このような費用は保険金として 支払われる」。

(14)

②責任保険における防御費用のてん補方式(続1)

●外枠比例てん補方式【図2-1 外枠比例てん補方式】

・一般的な賠償責任保険において採用される。

・争訟費用は「外枠比例」、それ以外の費用(損害防止軽減費用、緊急措置 費用、協力費用)は「外枠」である。

●被保険者は、その責任を争う意欲を失うおそれは少ない。

●被保険者は、その責任を争う意欲を失うおそれは少ない。

一方、被保険者は、賠償請求金額が少額にもかかわらず必要以上に責任の 有無を争ったり、正当な根拠を持つと考えられる損害賠償請求についても、

防御費用をかけて争うインセンティブを持ちやすい。

⇒保険者と被保険者との間で、防御費用のコントロールについて異なるインセ

ンティブを持つケースが想定される。

(15)

②責任保険における防御費用のてん補方式(続2)

●枠内てん補方式【図2-2 枠内てん補方式】

・争訟費用が高額化しやすい場合(例えば、D&O保険)に採用される。

・損害賠償金と争訟費用がてん補限度額を共有する。

●被保険者は、責任の有無を争う意欲を失うおそれがある。

●保険者側からは、防御のための争訟費用をコントロールするインセン ティブが被保険者に働きやすく、防御費用損害の拡大防止の観点からは 外枠てん補方式よりも望ましいとされる。

⇒(被保険者の意向にそうかどうかという問題は残るが)防御費用をコント

ロールしようとするインセンティブが保険者と被保険者の間で一致しや すい。

(16)

【☞図2-1外枠比例てん補方式】

損害額

(争訟費用) co-insur

てん補される争訟費用の額※ ance

てん補される各種費用の額 損害額

(各種費用)

損害額

(損害賠償金)

てん補額(損害賠償金)

免責金額

※損害賠償金の額が支払限度額を超える場合に、争訟費用は、1回の事故につき、

以下の算式によって算出される額となる。

争訟費用(損害額)×支払限度額/損害賠償金の額

支払限度額

(17)

【☞図2-2枠内てん補方式】

損害額

(損害賠償金

co -in su ra nc e

てん補額(損害賠償金

+争訟費用) 支払限度額

(損害賠償金 +争訟費用)

免責金額

in su ra nc e

免責金額

出所:各種資料に基づき、筆者作成。

(18)

(2)

ドイツの権利保護保険の機能

●ドイツの権利保護保険は、

1928

年に自動車保護株式会社が設立され、自 動車事故に基づく請求権行使のための権利保護保険が提供されることと なったことを嚆矢とする。

●ドイツ保険協会の統計データによれば、

2014

年では、

47

の保険事業者が権 利保護保険を販売し、総保険料収入は

34

8,580

万ユーロ(対前年比

2.0

% 上昇)であり、全損害保険種目の保険料収入額に占める割合は約

5.6

%で ある。

ドイツは世界最大の権利保護保険市場であり、歴史的にも同保険分野を

ドイツは世界最大の権利保護保険市場であり、歴史的にも同保険分野を リードしてきたとされる。

●ドイツ保険契約法(

VVG

)は、将来における権利保護保険商品の発展を阻 害しないために、権利保護保険の経済的目的として、「保険契約者または 被保険者の法的利益を擁護するために必要な約定された給付をなすこと」

を定めるにとどまる。

ドイツ保険協会は、模範的な権利保護保険普通保険約款(

ARB

)を作成 し、公表している。

(19)

①ドイツの権利保護保険普通保険約款の概要

1954

年に最初の模範約款(

ARB54

)が認可されて以降、幾度も改定が重 ねられ、内容および形式の見直しがなされてきた。最新の模範約款は、

ARB2012

である。

ARB2012

は、

ARB2010

を全面的に改定したものである。

=「文言上および構造上の最適化を図ることにより、より分かりやすくする こと(

Erhöhung der Transparenz

)」が改定の目的である。

●権利保護保険は損害保険の中の費用保険であり、主たる機能は、法的 紛争の解決に伴う費用の負担であるが、付随的機能として、弁護士の選 任につき補完的役割を果たす(保護機能)。

1.権利保護保険の任務

保険者は、保険契約者(被保険者)の法的利益を擁護する。保険者は、法的 利益の擁護のために必要な給付を行う。その給付の範囲は、申込書、保険証 券および保険約款に記載される。

(20)

●第一次

Risiko

制限

「2.保険契約者(被保険者)は、どのような権利保護を与えられるのか?」

保険保護の境界を画する規定、すなわち、「第一次

Risiko

制限」の規定を 含む=危険(

Gefahr

)の範囲の限定

⇒権利保護保険の保険契約者が保険者へ転嫁することができる危険は、

保険契約者が選択する「権利保護保険商品」(Bausteine)※に応じて、

※私生活権利保護、自営業者または会社のための権利保護、組合(団体)のための権利保護、

農業経営者のための権利保護、(非自営業者の)職業権利保護、交通権利保護、交通用具権利 保護、住居・土地権利保護の8つのラインナップから顧客のニーズに応じて、個別にまたは組み 合わせて購入することができる。

が定められることによって、その範囲が記述される(第一次

Risiko

制限)。

合わせて購入することができる。

給付の種類 どのような権利保護の領域(例えば、損害賠償請求の権利保護、

労使関係および公法上の職務関係に基づく権利保護など)が保険 の対象となるのか?

給付の範囲 保険契約者の法的利益を擁護するための役務給付を提供および 仲介すること、ならびに、弁護士報酬・裁判費用・鑑定費用などを 保険事故毎に契約上合意された保険金額を限度に支払うこと)

(21)

【私生活権利保護(模範約款上、Pと表記される)】

・損害賠償請求権の行使(契約違反、不動産等の物権侵害は除く)

・私法上の債権関係および物権に基づく法的利益の擁護

・租税法および会計法上の事件における法的利益の擁護

・社会裁判所における法的利益の擁護

・刑法上の軽罪の非難に対する防御(重罪または故意のみによる軽罪は除く)

・秩序違反の追及に対する防御

・家族法・生活パートナー法および相続法における法律相談

・被害者権利保護

【☞図3 個別の権利保護保険商品における給付の種類】

【自営業者または会社のための権利保護(模範約款上、Uと表記される)】

・損害賠償請求権の行使(契約違反、不動産等の物権侵害は除く)

・労使関係および公法上の職務関係に基づく法的利益の擁護

・社会裁判所における法的利益の擁護

・懲戒法および職業倫理法の手続における防御

・刑法上の軽罪の非難に対する防御(重罪または故意のみによる軽罪は除く)

・秩序違反の追及に対する防御

・被害者権利保護

(22)

●第二次

Risiko

制限

「3.何が保険保護の対象とならないのか?」

特定の危険を保険保護の範囲から除外する規定(第二次

Risiko

制限ま たは

Risiko

除外)を含む。

時間的除外 いわゆる「待機期間」(

Wartezeit

)を定めるとともに、「保険保護 の開始より前になされた意思表示または法律行為により生じ た保険事故」については、保険保護は与えられないことなどを 規定する。

内容的除外 5つの類型がある。

①集積リスク

このほかに、保険契約者のモラル・ハザード防止などを目的とした「保険 者の給付義務の制限」に関する規定がある。

①集積リスク

②特定の法律問題の除外(損害賠償請求の防御が含まれる)

③特定の手続きの除外

④特定の請求の除外

⑤保険契約者による故意の犯罪行為と因果関係がある場合 の利益擁護

(23)

②ドイツの権利保護保険と責任保険の防御機能

●純粋な権利保護保険以外の保険において、権利保護の要素が含まれる 可能性は否定されない=自由な商品設計が認められる。

ARB2012

では、第三者からの被保険者に対する損害賠償請求の防御は

Risiko

除外事由とされるが、これは責任保険との境界を明確にすることが

目的である。

第一次

Risiko

制限である「給付の種類」において、「損害賠償請求権の

第一次

Risiko

制限である「給付の種類」において、「損害賠償請求権の

行使」について保険保護を提供することが明らかにされている。

⇒責任保険の防御機能との分野調整を図っている。

●責任保険の防御機能(権利保護機能)は「消極的私権保護」、権利保護 保険は「積極的私権保護」を与えることをその本質とする。

(24)

(3)

わが国の権利保護保険における費用リスク負担機能

●自動車保険をはじめとして、すでに責任保険が先行して普及している個人 分野を対象とする権利保護保険は、被保険者が被害者となった場合の権 利の保護を目的とする点で、責任保険の防御給付機能を補完する役割を 担っており、それによって分野調整が図られてきたといえる。

●近年は、損害賠償請求のみならず、一般民事紛争も対象とし、権利保護

●近年は、損害賠償請求のみならず、一般民事紛争も対象とし、権利保護 保険の対象となる法的領域が拡大している。

責任保険の防御給付機能を補完する役割はもとより、権利保護保険の 領域が一層拡充している。

●損害賠償請求以外の給付請求など、権利保護保険は、積極的私権保護 のみならず、消極的私権保護として機能する場合※も少なからず想定さ れる。※賃借人が賃貸人から未払であるとして賃料支払いの請求を受ける場合の防御等。

(25)

(3)

わが国の権利保護保険における費用リスク負担機能(続)

●中小企業分野では、大企業に比べて責任保険の普及率が低い※ことを 考慮し、損害賠償請求の防御も含めて、潜在的な費用リスクを転嫁できる 権利保護保険へのニーズが存在すると考えられる。

※中小企業(製造業)を対象として実施された保険需要に関するアンケート調査の結果が参考になる。

日弁連

LAC

は、中小企業向けの権利保護保険商品を開発・販売していくに際 し、まずは民事事件を対象とし、他の保険分野として責任保険との調整が必 要となる損害賠償請求に対する防御も除外しない方針である。

要となる損害賠償請求に対する防御も除外しない方針である。

●権利保護保険は、主として被保険者が争訟費用を負担することにより被る損 害をてん補する費用保険であり、被保険者は費用をかけて自らの権利の実 現を図ろうとするインセンティブが働きやすい。

争訟費用をコントロールしようとするインセンティブが保険者と被保険者 の間で異なる場合が想定される。

●弁護士報酬を保険金として支払う場合に、「適正かつ妥当な」範囲で、合理性 および相当性をもって損害額が算出されることが必要である。

【☞図4 主な弁護士報酬の種類および保険金の計算方法】

(26)

主な弁護士報酬の種類 保険金の計算方法

①法律相談料 依頼者に対して事件受任前に行う法律 相談の対価(事件受任後は発生しない)

1時間当たり1万円とし、超過15分毎 2500円を請求できる。

②着手金・

報酬金方式

※原則として、

同一の事故で 時間制報酬方 式、手数料方 式は併用でき

着手金

事件又は法律事務の性質上、委任事務 処理の結果に成功・不成功があるもの について、その結果にかかわらず委任 時に受けるべき委任事務処理の対価。

原則として、弁護士が被保険者から 依頼を受け、委任事務を処理すべき 事故等について、依頼時の資料によ り計算される賠償されるべき経済的 利益の額を基準とする。

報酬金

事件等の性質上、委任事務処理の結果

弁護士の委任事務処理により依頼 者が得られることとなった経済的利

【☞図4 主な弁護士報酬の種類および保険金の計算方法】

式は併用でき

ない。 事件等の性質上、委任事務処理の結果 に成功不成功があるものについて、そ の成功の程度に応じて受ける委任事務 処理の対価。

者が得られることとなった経済的利 益の額を基準とする。

③時間制報酬

(タイム

チャージ)方式

1時間当たりの委任事務処理単価にそ の処理に要した時間(移動に要する時 間を含む)を乗じた額により計算される 弁護士報酬をいう。

原則として、

①1時間当たり2万円

②1事件当たり所要時間30時間を 一応の上限とする(所要時間が超 過する可能性が出てきた場合には、

別途、依頼者・保険会社と協議する)

(27)

2.法的サービス・アクセス機能

●権利保護保険の「法的サービス・アクセス機能」は、弁護士紹介を適法に かつ円滑に行うという目的のもと、弁護士会と協定保険会社等が密接に協 働するシステムの利用を提供するものである。

●「中小企業の弁護士ニーズ全国調査」の調査結果報告によれば、わが国 の中小企業において、「顧問弁護士がいる」と回答した企業は約2割で、

顧問弁護士や身近に相談できる弁護士が「いない」と回答した企業は6 割を超えている。

割を超えている。

●他方で、8割近くの中小企業は、自社内に何らかの法的課題があることを 認識している(例えば、債権回収、雇用問題、クレーム対策など)。

「法的サービス・アクセス機能」は、(アクセス手段を持たない)中小企業と 弁護士の橋渡しをすることにより、紛争解決にかかる費用を軽減すること を可能にする(費用リスク・コントロール手段)。また、保険者のリスク・コ ントロールにも寄与することが期待できる。

(28)

Ⅲ.わが国における権利保護保険 の課題

の課題

(29)

●権利保護保険では、被害者の側に費用をかけて権利を実現しようとする インセンティブが働きやすい。

「泣き寝入り」を免れるという効果をもたらす反面、被保険者が理由のな い恣意的な訴訟を提起したり、無用な訴訟の長期化を招くといった「モラ ル・ハザード」の問題が生じやすい。

●保険者・保険契約者(被保険者)・弁護士の三者が保険契約に関与する ために、モラル・ハザード問題はいっそう複雑化する。

●弁護士のモラルの問題が理論上、考えられる。

法的サービス・アクセス機能の中心をなす弁護士紹介制度が、協定保

法的サービス・アクセス機能の中心をなす弁護士紹介制度が、協定保 険会社等との信頼関係の下で適切に運営されることは重要である。

●権利保護保険のモラル・ハザード問題を検討するに際しては、同じく費用 保険であり、専門家が保険制度に深く関係するという点において、医療 保険との類似性を見出すことができる。医療保険分野における研究成果 から学ぶべきことは多い。

権利保護保険のモラル・ハザード問題は今後の検討課題としたい。

【モラル・ハザード問題の全体像を概観するものとして、☞図5・図6を参照のこと】

(30)

取引当事者 と契約関係

保険者と被保険者

(保険契約関係)

弁護士と被保険者

(委任関係)

弁護士と保険者

モラル・

ハザード の原因

・保険の構造上、不可避的に発 生する問題。

・契約締結後の被保険者のリス ク水準に関する情報および保険 商品内容(約款)・価格(保険料)、

保険者の経営に関する情報等 の偏在により発生する問題。

・保険により弁護士費用 が支払われる。

・被保険者のリスク水準に 関する情報の偏在および 法的知識に関する情報格 差。

事件や紛争に関する 情報が弁護士の側に 偏在。

保険者側にモニタリ ングコストがかかる。

モラル・

ハザード の態様

・被保険者の行動の変化

Ex-ante moral hazard

経済的損失予防のインセンティブへ

・弁護士は、左記のEx- ante moral hazard および Ex-post moral hazardを主

・弁護士は、その努力 水準が保険者により 十分にモニターされな

【☞図5 モラル・ハザードの原因・態様・対処方法】

の態様 経済的損失予防のインセンティブへ の影響(ex.理由のない恣意的な 訴訟の提起)

Ex-post moral hazard

経済的損失発生後にその拡大 を最小限にするインセンティブへの 影響(ex.無用な訴訟の長期化)

・保険取引上の公平性が損なわ れるおそれ。

Ex-post moral hazardを主 導する誘因が生じる。

・被保険者は弁護士に対 して事件への時間とコスト の投入を増大させるよう 働きかける。

十分にモニターされな いことにより、過大報 酬の請求、業務上の 懈怠を行う誘因が生 じる。

・保険者による弁護士 報酬に対する影響力 行使の可能性。

対処方法 ・保険商品設計上の工夫(免責 金額、コ・インシュアランス、免責条項、

・保険商品設計上の工夫。

・「弁護士職務基本規程」

・弁護士と保険者の信 頼関係に基づく良質

(31)

主な特徴 モラルハザード問題の顕在化および その対策など

ドイツ 弁護士報酬の法定化。

弁護士選任の自由。

法律事務は弁護士が独占。

単独の保険商品。

保険約款の透明性の原則。

弁護士報酬の予測可能性の高さゆえ、恣意的・

濫用的な訴訟を提起するインセンティブが弱い。

自己負担額(個人:150ユーロ~500ユーロ)の設定、

免責事由、特別な解約条件、保険会社間の情 報交換、担保する企業リスクの限定 など。

フランス 弁護報酬の自由化。

弁護士選任の自由。

ジュリスト(弁護士でない法律

保険会社が、ジュリスト(訴訟以前の段階)を利 用することにより、弁護士報酬の低額化を図って いる。

【☞図6 諸外国におけるモラル・ハザード問題とその対策】

ジュリスト(弁護士でない法律 家)の存在。

低額な保険金額(付帯契約)

保険金額の低さおよび保険契約者の付保の認 知度の低さから、問題が顕在化していないとも。

ベルギー 弁護士報酬の自由化(大部 分はタイムチャージ制)。

弁護士選任の自由。

弁護士は訴訟代理のみ独占。

法律相談等はジュリストが担当。

弁護士報酬基準を設けることが認められていな いため、その予測可能性を高めることが課題。

少額紛争に関するフランチャイズの設定。

保険会社のサービスの質が悪い場合、告知期 間を設けて、保険契約を解約できる場合がある。

イギリス パネル弁護士紹介制度。

事前の訴訟費用保険のみな らず事後保険が存在(条件付 成功報酬制との組合せにより

保険会社は、パネル・ソリシタを利用することに よってリーガル・コストを抑制し、モラル・ハザー ド問題に対処しようとしている。

保険会社間での加入情報の共有(重複して保険

(32)

参考文献

【邦語文献】

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石田満=海野俊雄=甘利公人「西ドイツ権利保護保険普通約款(1)(4)」損保企画1202-6頁(1980)、同 1227-9頁(1981)、同1248-12頁(1981)および同1265-8頁(1981)。

1227-9頁(1981)、同1248-12頁(1981)および同1265-8頁(1981)。

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(頸草書房、2006121-146頁。

應本昌樹「ドイツの権利保護保険に関する一考察-法制度的枠組みを中心に-」損害保険研究721 153-192頁(2010)。

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(33)

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Referensi

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