2010年度 上智大学経済学部経営学科 網倉ゼミナール 卒業論文
カメラ女子
―“自称”個性派女性の集団化―
A0742440
雲内 三佳
提出日 2 月 11 日
【目次】
1. はじめに
2. 女性がカメラに惹かれた理由 2-1. 「カメラ女子」の定義
2-2. カメラの機能とブームの関係性 ⅰ) コンパクトフィルムカメラ篇 ⅱ) デジタル一眼レフカメラ篇 2-3. 製品が持つ性差
2-4. カメラ雑誌の種類
2-5. ファッションとしてのカメラ 2-6. まとめ①
3. カメラ女子からみる女性の集団化 3-1. 次々に生まれる女性のカテゴリー
ⅰ) 個性派女性その①:「山ガール」
ⅱ) 個性派女性その②:「釣りガール」
ⅲ) 「山ガール」「釣りガール」から見えてくること 3-2. “自称”個性派女性とは
3-3. まとめ②
4. 結論
5. 最後に
6. 参考資料
1.はじめに
数年前、森ガールという女性のカテゴリーが生まれた。それまでは、「流行に乗り遅れず、
常にトレンドを追いかけている女性」がオシャレな女性であったが、森ガールはそういった
「他人から評価されるファッション」ではなく、「自分がしたいファッションをして、他人の 目を過度に気にし過ぎずに自然体で生きる」ということを特徴とした女性であり、今度はそ うした女性像を追いかける女性が増えた。また、デジタル一眼レフカメラやトイカメラが流 行り、カメラを持ち街中や公園で風景をパシャパシャ取る女性も登場したのもこの頃だ。
彼女たちは「カメラ女子」と呼ばれカテゴライズされたが、彼女たちが使用するカメラは それまでのマニュアル操作の一眼レフカメラやトイカメラではなく、オート機能の揃った カメラであった。これらは、お手軽に今までのスナップ写真とは違った、味のある写真が取 れるとされ、ブームになった。
そして、私が今回考えたいことは、
① なぜ女性は「写真を撮りたい」と感じたのか、カメラに惹かれた理由は何なのか。
② カメラ女子からみる女性の集団化 である。
2. 女性がカメラに惹かれた理由
2-1.「カメラ女子」の定義
私は、カメラ女子を単に「カメラ好きな女性」というだけではなく、より細かく定義したい
そもそも、カメラ好きな女性とは
① 本格的にカメラ、写真が好き。男性のカメラマニアの中に存在する女性。
② 森ガールから派生してカメラに興味を持った女性。カメラ女子に惹かれてカメラを始 める。カメラの小型化が進んだ頃から利用し始めた人々。カメラがファッションアイ テムの一つ。
の二つに分類されると考える。この二つの違いとは「カメラに対して抱くイメージの違い」
である。
①に分類される女性は、もともと男性が多いカメラマニアの中に混じって少数存在する 女性である。一方、②に分類される女性は、カメラというものがそれまでの「イカツい」イメ ージから女性でも気軽に持てる、マニア臭さが少なくなったものとして浸透し始めたこと で、カメラに挑戦した女性である。
女性が街で持ちやすい物としてカメラのイメージが変化したことで使用し始めた女性と 、 そうではなくカメラそのものへの興味からそれ以前に使用し始めた女性とでは、抱くカメ ラカメラへのイメージが違うのだ。
そして、今回取り上げたい「カメラ女子」は②の女性達だ。なぜ①の女性は除外したかとい うと、○○女子という言葉自体が、「イマドキの女性のカテゴリー」を表すと考えるからだ。
昔から、オリーブ少女やかまやつ女、Can Cam 系といった女性のカテゴリーがいくつも作ら れてきたが、まず「カテゴライズされる女性」というのはそもそも母体数が多い。カメラ好き な女性に当てはめて考えてみても、①のような只のカメラマニアは、「女性のカメラマニア」
でしかなく、カメラ女子という女性の種類として認知されているものではなかった。ある程 度、認知され惹かれる人が増えると集団化されてカテゴライズされていく。
よって「カメラ女子」と呼ばれる人々と「女性カメラマニア」は分けて考え、②を「カメラ女 子」として今回扱いたい。
2-2. カメラの機能とブームの関係性
カメラ女子を定義したところで、女性とカメラブームとの関係について考えたい。
もともと操作が難しく、価格が高い機械であるカメラが、広くブームになったことには
「小型化・低価格化・充実したオート機能・それらによる女性ユーザーの急増」が考えられ る。
ⅰ) コンパクトフィルムカメラ篇
まず、90年代のコンパクトフィルムカメラのブームを考える。このブームのキッカケとな ったのは、konicaのBIG MINIだ。BIG MINIは小型、オート機能搭載、低価格な商品として広 まった。このBIG MINIは特に女子高生の間で広まり、彼女たちはこのカメラにシールを貼り
「自分の持つアクセサリーの一つ」としてカバンに入れて持ち歩いた。BIG MINIの登場は、カ メラで写真を撮るということがカメラマニア以外の人にとっても日常化することとなった。
それからは、デジタルカメラの低価格化によってコンパクトデジタルカメラが普及して いった。ここでも、小型化、オート機能の充実、低価格化によってユーザーを拡大し、特に女 性に向けたデザインが多くなっていった。
ⅱ) デジタル一眼レフカメラ篇
デジタル一眼レフカメラにおいて見てみると、このようなブームの火付け役となったも のは2006年に発売されたCanonのKiss Xである。Kiss Xは、重さ500 g以下のオート機能 の揃った小型デジタル一眼レフカメラであり、その後X2、X3、X4と改良されていき、より小型 で手軽さを追及したKiss Fも発売されヒット商品となった。
Kiss X以前の主要なデジタル一眼レフカメラは、「プロ仕様」のものがほとんどであり、使 用者も一部であったため企業側もその一部をターゲットにしていた。
しかし、Kiss Xの登場により手軽に一眼レフを使うということが実現され、ターゲットは 大きく変化した。「デジイチブーム」と言われた小型のデジタル一眼レフカメラの流行は「そ れまで一眼レフユーザーではなかった人」を取り込んだことによるものである。ここで重要 なことは、そういったカメラに慣れていない人・素人は主に女性である、ということだ。こ れは製品の機能、アピールポイント、広告の表現・トーンから読み取れる。
もともと、重く、使い方も煩雑で、価格も高い一眼レフカメラは、明らかに男性をターゲッ トにした広告やモデルの起用をしてきた。しかし、Kiss Xから始まる小型化された一眼レフ カメラは、軽く、操作もコンパクトデジタルカメラと同じくらいに簡単で、価格もぐっと下 がったものである。これらの製品の広告は、それまで高級感を表した一眼レフカメラの広告 とは違い、子供や女性をモデルに起用したより身近に感じるイメージを映し出したもので ある。人々が無意識に抱く男性的なイメージである一眼レフカメラに、女性的なイメージを 取り入れることでユーザーを拡大していった。このことは、フィルムカメラBIG MINIの流 行にも当てはめることができる。
つまり、製品には「男性的要素」と「女性的要素」があり、この要素の違いは、我々が商品を 選択する際に非常に重要な判断基準になっているのだ。
2-3. 製品が持つ性差
ある製品が男性的要素の強い場合、ターゲットは“狭く深く”コアな消費者を狙ってい くが、女性的要素を強くしていくと、それはポピュラーな製品となりターゲットも拡大して いく。
では、要素が変わると製品自体の性質はどうなるのか。男性のユーザーが実際に多い、ま たは男性的なイメージが先行して女性や素人には敷居が高いと感じさせる製品の場合は、
スペックを重視するといったように機械的な部分を追求していく。一方で、もっと敷居の低 い製品の場合は、製品や広告の色使いもポップであり、女性のユーザーを多く獲得している あからさまには「男性向け/女性向け」と線引きをしている訳ではないにも関わらず、我々 は製品に対して自然にイメージを浮かべる場合、それは性差による違いが大きい。すなわち スペックを上げたり、機械的な部分を高めていく製品の場合は男性的要素を多く取り入れ ていき、反対に細かい複雑な機能に焦点を当てずにあくまでも「使いやすさ」があれば満足 できる幅広いユーザーを対象にして、商品の数を多く売り出していきたい、(ブームを作 る)場合には女性的要素を多く取り入れていく、ということになる。
実際に、デジタル一眼レフカメラがブームにまでなったのには、「今までの一眼レフカメ ラよりも使いやすく、簡単にきれいな写真を撮ることができる」という女性的要素を取り入
れていったことが一つの要因であると考える。
しかし、このブームにおいて私がもう一つ考えたいことは【<製品が持つ性別的要素>と
<実際のユーザーの性別>の違いからくるギャップ】についてである。
一眼レフカメラ自体のイメージや一眼レフで写真を撮る、ということは男性的イメージ が非常に強い。しかしその製品を“女性”が使うことによって、先程述べたギャップが生ま れる。このギャップは、男性-男性的要素の製品/女性-女性的要素の製品、という結びつ きを無視したものであり、それによって「普通とは違う自分らしさ」を作り出す。このギャッ プがカッコよさ、センスのよさ、へと繋がっていく。
2-4. カメラ雑誌の種類
カメラ雑誌といえば、製品のスペックや機能、裏技などを特集しているものが主であり、
「専門誌」で括られるものが一般的であった。しかし、2005年に『女子カメラ』が創刊されて以 降、カメラ雑誌はファッション誌に似たものとなり、製品の特徴よりもカメラを使う人に焦 点を当てたものとなった。可愛いモデルが可愛い服を着て、公園などで写真を撮る姿や、モ デルのライフスタイルを紹介するような記事が多く、カメラ自体への興味ではなく、カメラ を使う「人」への興味、憧れを持った読者を対象にしたものになった。
<カメラ女子登場前から出版されている主なカメラ雑誌>
『日本カメラ』
『アサヒカメラ』
『カメラマン』
『デジタルカメラマガジン』
『CAPA』
<カメラ女子のためのカメラ雑誌>
『カメラ日和』
『女子カメラ』
『写ガール』
見出しの違いを見るために、『日本カメラ』と『カメラ日和』それぞれの見出しを比較して みる。
●『日本カメラ』(2011.02 号 1 月 20 日発売)
・「スーパーミドル級最強伝説 ニコンD7000とライバル機たち」
・「勝手に大胆予測 二大メーカーの後継機と戦略はいかに」
・「オートで絶対安心? ホワイトバランスを極める」
・「新 AF方式“Piezo Drive”で小さく、静かになったタムロン18~270mm F3.5-6.3 DiⅡ VC PZD 」
など ※HPから一部抜粋
●『カメラ日和』(1 月 20 日発売 vol.35)
・「特集 シャシンの教科書」
・シャシンの基本をおさらい
・みんなが今ハマっている被写体&お悩み相談室 ・「カメラ日和学校」
・おすすめカメラ ・おすすめカメラグッズ ・おすすめショップ
・「見応えたっぷりなフォトブックのつくり方7か条」
・よしもと写真部参上!
・iPhoneアプリが熱い!
・カメラグッズご自慢大会 など ※HPから一部抜粋
見出しを比較したら違いは一目瞭然だ。特に日本カメラの「オートで安心?ホワイトバラ ンスで極める!」は、オート機能充実のカメラが広まっていく現在、それを主に使用してい るユーザーに対して「オート機能だけで満足するのではなく、ワンステップ上を目指そう」
というメッセージを感じる。扱うテーマが違うだけでなく、カメラ日和の見出しはひらがな を多様してあったり、写真をなぜか「シャシン」と言ってみたりと柔らかい雰囲気を出そう としているのが読み取れる。またカメラ日和の媒体概要には「カメラを切り口とした新しい ライフスタイルマガジン。既存のカメラ雑誌のような、カタログ・マニュアル的な雑誌では ありません。写真を撮ることを楽しむ女の子たちが必要とする情報を紹介し、カメラがある 魅力的なライフスタイルを提案する雑誌です。」とある。
雑誌のオンライン書店「Fujisan.co.jp」でも、カメラ日和・女子カメラ・写ガールのカテゴ リー分類には【趣味・芸術】の他に【ファッション雑誌】が加わっている。カメラ女子を対象 にしたカメラ雑誌は、ファッション誌とそう変わらなくなった。
2-5. ファッションとしてのカメラ
カメラ雑誌がファッション誌化した、と書いたが、これらの雑誌にとってのカメラは「写 真を撮る機械」というだけではなく、「ファッションアイテムの一つ」として扱われている。
森ガールのアイテムの一つにカメラがあるのは、カメラというものが「ふとした日常風景 を写真に収める=自然と共存したナチュラル志向」であることを示すためのアイテムであ るようだ。
2-2. カメラの機能とブームの関係性で【<製品が持つ性別的要素>と、<実際のユー ザーの性別>の違いからくるギャップ】について述べた。デジイチブームは一見、「<イカつ いカメラ>を<若い女の子>が持ち歩く」というギャップを生んでいるように見える。森ガ ールやカメラ女子は、赤文字系・青文字系雑誌の女性たちとは違うジャンルを作り出して おり(赤文字系・青文字系雑誌はあくまでも流行を追いかける女性たちであるのに対し、
森ガール・カメラ女子は「自分らしさ」を強く押し出しているから。)、「女性が女性的要素 の強いモノだけを身に付ける」ということを否定し、製品の性別的要素とユーザーの性別の 結びつきを変えた。しかし、ここで重要なことは、彼女たちの間で使用されている製品は、実 際に見てみると機能的には男性的要素が少なく女性的要素を強めた「お手軽」に使用できる ものであり、女性たちにとってもファッションの一つとしての役割が非常に大きかったと いうことだ。
つまり、ブームとして多くのユーザーを取り入れることができた要因は、このギャップに 加えて「男性的要素の強い製品にできるだけ女性的要素を取り入れて、敷居を低くした」こ とである。ギャップから生まれるかっこよさだけでは、実際に使いこなす人は限られてくる が、機能面では女性的要素を強くすることで購入障壁は低くなり実際に使用するユーザー を多く取り込むことができたと言える。
2-6. まとめ①
1.はじめに、で述べた今回の論点の一つ目「①なぜ女性は「写真を撮りたい」と感じたの か、カメラに惹かれた理由は何なのか。」についてまとめる。
①「流行に踊らされない、自分らしさをもったナチュラルな女性」のカテゴリーの登場。
②カメラという男性的要素の強い製品を女性が持つことによって起こるギャップ。
③男性的要素が強い製品であるにも関わらず、デジタル一眼レフカメラの小型化・低価 格化・オート機能の充実、といった機能面で女性的要素を強くしたことにより、購入す る際の障壁が低くなった。
の3つが挙げられる。
特に①については、主なファッション雑誌が「流行を追いかける女性」をオシャレとして
きた風潮に対して違和感を抱いていた女性たちが、もっと自分らしいファッションをした いと思っていた、または思うようになったことによって、森ガールとして集団化されるまで に増えたと言える。
3. カメラ女子からみる女性の集団化
3-1. 次々に生まれる女性のカテゴリー
次に、論点②「カメラ女子からみる女性の集団化」について考える。
最近はカメラ女子だけでなく、山ガール、釣りガールなるものも登場している。女子のカ テゴリーがどんどん「男性のテリトリー」に入ってきているのだ。
この「男性のテリトリーに入ってくる女性」はそれまで男性が主であった分野に進出して きた女性であり、これについても【<製品が持つ性別的要素>と<実際のユーザーの性別>
の違いからくるギャップ】に当てはめることができる。私はこの「ギャップ」を追い求める女 性を「個性派女性」と名づけたい。それまで女性らしくない、男性らしいとされてきた分野や 製品に手を出すことは、「新しい女性のイメージ」を作り出すことであり、それは「それまで の一般的な女性とは違う」女性なのだ。
そしてこの「個性派女性」のカテゴリーをいくつか挙げてみる。本格的な山登り、アウトド アを楽しむ「山ガール」、釣りを楽しむ「釣りガール」、そしてホルモン好きな「ホルモンヌ」な どである。女性のカテゴリーは次々登場するが、ここで私はこれらのカテゴリーは大きく2 つに分けられると考える。
①ファッションとして成り立つカテゴリー 例:カメラ女子、山ガール、釣りガール
②ファッションとして成り立たないカテゴリー 例:ホルモンヌ
①は、あるカテゴリーの女子を表す場合、そのファッションアイテムが存在する(見た目 ではっきり分かる)ものである。カメラ女子であればカメラ、山ガールであればアウトドア ファッション、釣りガールであればフィッシングウエアやレインスカート、というように。
一方②は、そのカテゴリーを表すアイテムが無いものである。
私はカメラ女子について、カメラ=ファッションアイテムの一つと考えている女性を取 り上げているため、「個性派女性」については②は排除し①のみを考えたい。
ⅰ) 個性派女性その①:「山ガール」
山ガールはどのようにして生まれたのか。まず、「山に登る女子」の存在が一般的になった 背景の一つには『山女子ブログ』というブログの人気が挙げられる。この『山女子ブログ』は 2010年10 月には単行本化された。また『日経TRENDY』(2010年9 月号)でこの山ガールブー ムについて取り上げている記事「山スカがブームの引き金に 登山の本質を楽しむ若者」を 発見したので記事の概要をまとめる。
「山という非日常に身を置き、深い感動を味わいたいという女性が増えているが、山ガー ルブームの最大の追い風となったのは、山登り用のスカート、通称“山スカ”の存在だ。こ の“山スカ”がファッション誌で取り上げられ、山登り特集が組まれるようになると、広く 山ガールが浸透した。今ではアウトドア専門店だけではなく、セレクトショップ、量販店、百 貨店などでも、アウトドアウエアは勢いを増している。また山スかブームが拡大した結果、
最近ではアウトドアウエアを街着に活用する人もふえている。山スカにレギンス、トレッキ ングシューズを合わせるスタイルは定番。街なかでもアウトドアウエアを着るのは、自分の 生き方をファッションで表現する“ライフスタイルのファッション化”がトレンドになっ ているから。」
ライフスタイルのファッション化は、ファッションアイテムの売上アップに繋がり、より 売上を伸ばすには「広く消費者を取り入れる」ことが重要である。すなわち、潜在的なユーザ ーを取り込むことであり、企業や小売店も購入の障壁を低くすることが必要だ。
山ガールとは、今や「山に登る女子」という意味だけではなく、「アウトドアファッション に身を包む女性」といった女性のファッションのカテゴリーを表す一つになっている。
ⅱ) 個性派女性その②:「釣りガール」
森ガール、山ガールの流れに乗っかっているとしか思えない「釣りガール」だが、このカテ ゴリーも「ファッションアイテムの消費」に繋がるものだ。今まで女性向けのフィッシング ギアを扱ってきたブランドだけでなく、女性用アイテムに力を入れるブランドが増えてい る。ここでも『日経TRENDY』(2010年12 月号)で釣りガールに関する記事を発見した。(記 事の中では、釣りガールではなく「釣女(ちょうじょ)」という呼び方をしている。)
フィッシング・アウトドア用品を扱うブランドは、山ガール風のスタイルとフライフィ ッシングの初心者用キットを店頭で一緒に展示し始めたり、また大手アウトドアメーカー のコロンビアスポーツウエアジャパンは、複数の釣り専門メーカーとコラボし、2011年春に 第一弾としてジャケットを売り出す計画だという。
釣りガール(釣女)は、山ガールほど完全なブームにはまだなっておらず、「これからブ ームになるだろう」と予測されている。しかし、ソーシャルネットワーキングサービスmixi
では着実に「釣りガール」コミュニティは着実にメンバー数を増やしており、「最近人気のコ ミュニティ」として上げられている。
ⅲ) 「山ガール」・「釣りガール」から見えること
山ガール・釣りガールは共に「アウトドアファッション」のブームの一つにまとめること ができる。よって、「アウトドアファッションに興味を持ったことで山ガール化した女性」が 次は釣りガール化することはごく自然な流れであると言える。
具体的な数字としては、コロンビアジャパンが「2010年に1回以上登山をした女性500 名」を対象に意識調査を行った結果がある。「登山以外で今後挑戦してみたいアウトドアは 何ですか?」という質問に対し、1位キャンプ(53%)2位釣り(43%)であった。
この釣りガールは、まさにアウトドアブランドが作ったカテゴリーであるともいえる。ア ウトドアファッションに興味のある女性に対し、登山の次に挙げられた釣りに今度は焦点 を当て、釣りガールを増やしていこうとしている。
こうして、どんどん「ライフスタイルと関連づけたファッション」が生み出されているが、
では肝心な「ライフスタイル」の部分(例えは山ガールだったら登山、釣りガールだったら 釣り)に関しては、果たして女性たちはそれを追求しているのだろうか、という疑問が湧く 実際に、山ガール=「山登りの素晴らしさに目覚めた女性」という定義は現実とはかけ離れ ている気がする。先程取り上げた『日経TRENDY』の記事「山スカがブームの引き金に 登山の 本質を楽しむ若者」では、「女性が登山の本質に気がついた」というようなことが書かれてい たが、山ガールはそういった「山を楽しむ女性」であると言えるのだろうか。
女性たちは、ファッション誌やブランドの戦略によって集団化され、一つのブームなっ ていることで安心してその輪に加わることができる。ファッション誌やメディアによって、
あるカテゴリーが認知されると、今までの女性カテゴリーからはみ出したものであっても
「ただの変わった趣味の奴」ではなく、「新しい女性のカテゴリー」として市民権を得ること ができ、堂々と存在することができるのだ。Can Cam 系女子の衰退後に生まれた森ガールは、
宮崎あおいを筆頭とする「ナチュラルな女性」を目指し、その女性達がアウトドア女子であ る山ガールや釣りガールに繋がっていったのではないか。また『日経TRENDY』(2010年12 月 号)で「フォトレック」というキーワードが挙げられていたが、これは「フォト」と「トレッキ ング」を組み合わせた造語で、風景撮影を目的とした山登りのことであるらしい。このフォ トレックは、カメラ女子とアウトドアを繋ぐキーワードの一つである。
3-2. “自称”個性派女性とは
3-1.で【<製品が持つ性別的要素>と<実際のユーザーの性別>の違いからくるギャ ップ】を追い求める女性を「個性派女性」と呼んだが、これについてもっと深く考えてみる。
“ライフスタイルのファッション化”が意味することは、ファッション=自分の生き方 を表すもの、であり決して「トレンドとされているファッションに無理やり自分を当てはめ る」のではないのだ、と考える女性が増えていることではないか。
しかし、その“ライフスタイルを表したファッション”もブームになるにつれファッシ ョンの部分だけが追い求められるようになる。今現在、アウトドアファッションに身を包ん でいる女性が全員「登山や釣りの本質に目覚めた女性たち」であるかといったらそうではな い。
半ば強引に作られている◯◯ガール(女子)というジャンルだが、◯◯女子という呼び 方をするだけで女性を集団化することができ、その分野に挑戦してみようとする女性を取 り込みやすくする。森ガール、カメラ女子、山ガール、釣りガールと、女性のカテゴリーは 次々に生まれているが、ブームを支えるユーザーは、カメラ女子であればデジタル一眼レフ カメラの“入門機”を買う女性たちであり、山ガールであれはアウトドアファッションを
身に纏う
女性たちである。男性のテリトリーに入ってきているとされる女性のカテゴリー であるが、実際にはそのカテゴリーに該当する分野に興味を持つ男性と女性では求めてい ることが異なっており、両者の間にはしっかりと線引きがされている。【<製品が持つ性別的要素>と<実際のユーザーの性別>の違いからくるギャップ】を追 い求めた女性は、実際には<製品(分野)の女性的要素>の部分と強く結びついており、こ のギャップは見せかけであるといってよい。よってこうした「ブームを構成する女性」を私 は“自称”個性派女性と呼びたい。
個性派女性が「“トレンドを追い求める風潮”から脱却し、もっとファッションで自分を 表そうとする人々」であるならば、この“自称”個性派女性は、そういった個性派女性の生 き方に共感し、その人をモデルにし真似ることでブームを支えた人々だ。女性ファッション 誌には、赤文字系・青文字系雑誌とあり、両者は「可愛いらしい女性(男性目線を意識す る)」か「カッコイイ女性(男性目線を意識しない)」で大きく別れていた。しかし、森ガー ルから生まれた「ナチュラルな女性」は次々に生まれるファッションの流れについて行くこ とに疲れたと感じていた女性や、そういった新しい女性に惹かれた女性が、集団化された。
しかし、結果としてはこれもファッションの一つとなっていった。
3-3. まとめ②
男性の趣味とされていた分野に挑戦する女性が増えてきた。こういった「男性のテリトリ ー」に入ってきた女性達は、それまでの「女性らしい」女性ではない部分が面白いとされ「新 しい女性のジャンル」として注目された。こういった新しい女性のジャンルを個性派女性と 呼んだが、実際ブームを支える人々とは「モノを消費する人々」と言えるのではないか。カメ ラや洋服や釣り道具の売上が伸び、それらを身につけている女性が増えると「流行ってい る」と感じることができる。そして企業も、こういったブームをより大きくしようと、またブ ームを作ってしまおうと、商品を打ち出していく。購入障壁が低いモノとは、低価格・簡単 で使いやすい・小型といった「女性的要素の強い」ものであるので、商品を作る・売る側も、
こうした女性的要素を重視し戦略を立てる。しかし、購入障壁が低い商品(=入門機)購入 した人々は、次にワンステップ上の商品を購入しているのだろうか。デジタル一眼レフカメ ラに関しても、次々と入門機が売りだされ、ボディのカラーバリエーションも増えていき、
優れたオート機能を持った製品がぞくぞくと生まれているが、入門機より上の機能を持っ た製品に関しては、女性も企業もそれほど注目してはいない。入門機=女性的要素の強い製 品から男性的要素の強い製品(高価格・操作が煩雑・使いやすさより機能性重視・持ち歩 きにくい)に以降していく女性達は減っていくだろうと予想できるし、そういった男性的 要素の強い製品は購入障壁が低い。釣りガールに関しても、初心者向けの釣り道具を購入し た女性達が次にはよりプロ使用の道具の購入に至るのか、といったら疑問だ。機能性を重視 していけば、それは男性的要素の強い製品となり、そういった製品は女性にとって非常に購 入障壁が高いからだ。
4. 結論
今回、論文では
・なぜ女性は「写真を撮りたい」と感じたのか、カメラに惹かれた理由は何なのか。
・カメラ女子からみる女性の集団化
について考えた。【<製品が持つ性別的要素>と、<実際のユーザーの性別>の違いからく るギャップ】が新しい女性のカテゴリーを生んだが、結局は売れる商品やブームを支える女 性が求めているものは、それまでの女性とはそう変わらない。女性がどんどん男性の趣味に 興味を持つようになったと見えるが、実際は男性と女性では求めているものは同じではな く、モノを売る側も「男性の趣味に入りやすい“女性的要素の強い”」商品を展開している だけである。カメラ女子や山ガールが今後さらに広まるかといったらそうではなく、そうい ったカテゴリーに惹かれる女性たちの共通項を探し出し、その共通項をもった新しいカテ ゴリーを作り出していくことでブームをまた起こしていくだろう。また、「同年代の女性」を モデルとして取り上げることも重要だ。山ガールに関しても、ブームの火付け役になった人 に「アウトドア・クリエーター」として活躍する若い女性が挙げられているが、(『日経
TRENDY』2010年9 月号)女性を取り込むにはこうした「消費者と同年代の女性」をモデルと し、憧れを持つことがブームの大きな力になる。
“自称”個性派女性たちは、こうして姿を変えて、また「新しい女性のカテゴリー」としてブ ームを支えていくのではないか。
5. 最後に
今回、私は「カメラ女子」を始めとする女性たちを“自称”個性派女性と名づけて少々悪 口めいたことを書いてしまったが、一言付け加えると私もカメラや写真に興味をもった「カ メラ女子」(の成り損ない)である。
大学一年生の時(2007年)に、家電量販店へデジタル一眼レフカメラとズームレンズを 見に行ったことがあるが、そこでカメラ売り場のおじいさん店員に「若い女の子なのに珍し いね」と言われたことを覚えている。そうか、ちょっと今どきの女の子とは違うのか、と思っ たりしたが、既に2006年にはcanonのkiss Xが発売されており、「デジタル一眼レフカメラ の低価格化」によって私のように「デジタル一眼レフカメラに興味を持った女の子」という のは着実に増えていっていたのだ。少し経つと「カメラ女子」として様々なところで若い女 性のカメラ人気が伝えられるようになり、私は自分もそういった「カメラ女子」の一員でし かなかったのか、と少々がっかりして一眼レフカメラもズームレンズも買うのを諦めた。
同時期の大学一年生(2007年)は、Can Cam 系女性も一定数存在していた時代だったと記 憶している。しかし、私が高校生の頃はもうエビちゃんの人気は全盛期に比べて大きく衰え てはいたし、また若いお姉さま達がこぞってCan Cam 系女性になっていくのを見ていた高校 生の私や私の周りの子は、アンチ Can Cam 系になっていく人が増えていた。大学生になれば、
ファッションにかけられるお金も増え、また行動範囲も広がるので様々な洋服屋に足を運 ぶ機会が増える。それまで制服を着ていた女子達は大学デビューしていくが、もうCan Cam 系に見飽きていた私たち大学一年生は、「エビちゃんスタイル」が滑稽に見えてきた人が多 くなっていたのではないか。(実際、私の周りには「エビちゃんスタイルを真似るCan Cam 系 女性」を“カニちゃん”と呼んで揶揄していた人たちもいた。)
こういった私のような女性達が、「<一眼レフカメラ=男性的>なものを持つ<女性>」
というギャップに惹かれ、カメラに挑戦していった可能性が高い。(しかし検証は出来てお りません。)
よってこれからも、こうしたギャップを生む分野に女性が進出し、なおかつ女性的要素を 強くしていくことで多くの女性を取り入れていけば、ブームは生まれていくのではないか と思う。
6. 参考資料
・日経TRENDY 2010年9 月号 「山スカがブームの引き金に 登山の本質を楽しむ若者」
・日経TRENDY 2010年12 月号 「特集1 2011 ヒット予測ランキング」
・Fashionsnap.com 2010年12 月 23 日
「山ガールの次は釣りガール?アウトドアファッションの人気調査」
http://www.fashionsnap.com/news/2010-12-23/columbia-outdoor-girl/
・カメラ日和HP http://www.camerabiyori.com/
・日本カメラHP http://www.nippon-camera.com/
・Fujisan.co.jp HP http://www.fujisan.co.jp/
・Canon HP http://canon.jp/
・コニカミノルタHP コニカの歩み1990年代
http://ca.konicaminolta.jp/history/konica/1990/index.html
・「女の子写真」の時代 飯沢耕太郎著 2010年2月 NTT出版