グ ロ ー バ ル 化 の 中 の イ ン ド I T 産 業
︱ ﹁ 人 材 育 成
﹂ と そ の 問 題 点
︱
宮 越 典 子
は じめ に 現 在 世 界 か ら 熱い 注 目 を 浴 びて いる 国の ひ と つに イン ド が あ る
︒I T 産 業の 急 成 長 と そ れ を 支 え る 高 水 準 の 技 術 者
︑彼 ら を 育 成 す る 高 等 教 育 機 関の レベ ルの 高 さ な どが その 理 由で あ る︒ イン ド IT 産 業の 躍 進の 背 景 に はア メリ カを は じめ とす る 先 進 国 企 業の 経 営 戦 略が あ る︒ 現 在 では
︑優 秀 な 人 材 や 安い 賃 金
︑イ ンド 自 体の もつ 経 済 的 潜 在 力 に注 目 して 外 国 企 業が アウ トソ ー シン グ を 行っ てい る
︒し か し
︑グ ロー バル 化 に 伴い 成 長 し 続 け るイ ンド での 多 国 籍 企 業の アウ トソ ーシ ング は︑ そ れぞ れの 国 が 抱 える 経 済 問 題 を さら に 深 刻に して いく こと にな った
︒ 本 稿で は︑ アメ リカ 企 業の アウ トソ ーシ ング で 生 じ た 問 題 点 を
︑イ ンド のI T 産 業 と それ を 支 える
﹁ 人 材 育 成
﹂を 中 心 にし て 述べ たい と 思 う
︒ そこ でみ えて き たの は
︑グ ロー バル 化に よっ てさ ら に 広が った 経 済格 差 が子 供 たち の将 来 を 左 右し
︑
﹁ 人 材 育 成
﹂の 場で 激 しい 競 争 を 生み 出 して いる とい う こと であ った
︒
Ⅰ イ ンド IT 産 業の 特 徴 イン ドI T 産 業 が 急 成 長 し た 背 景 を 経 済 転 換 期に 着 目 して 見て みよ う
︒ 一
I T産 業 成 長の 背 景 ま ず イン ド IT 産 業 が 発 展 し た 歴 史 的 な 背 景 を 確 認 して お こ う
︒イ ンド は一 九 四 七 年の 独 立 後︑ 混 合 経 済 を 基 盤 と する 社 会 主 義 型 社 会 を 目 指 し た︒ 植 民 地 化の 経 験 から
︑﹁ 自 助
﹂﹁ 自 力
﹂ の 理 念 を 政 策の 柱に して 基 幹 産 業 は 公 的セ クタ ーが 担 う こと にな った
︒し かし
︑そ の後 の長 い低 迷 か ら国 際 競 争 力 低 下 が 著 し く な り
︑七 九〜 八〇 年に かけ ての 実 質G DP の伸 び率 はマ イナ ス五.
二 パー セン ト と 大 き く 落 ち 込 んだ
︒そ し て︑ 一 九 九 一 年に IM Fか らの 融 資 を 受 ける こと にな り
︑融
資 の 条 件 と し て﹁ 新 経 済 政 策
﹂︵ N E
P:New
Economy Policy
︶が 義 務づ け られ た︒ NE Pに よ り 従 来の 混 合 経 済 体 制に 基づ く 社 会 主 義 体 制 は 変 更 さ れ た
︒政 府 は︑ 基 幹 産 業へ の新 規 参 入 許 可
︑外 資の 誘 致 政 策
︑輸 入 自 由 化
︑ 市 場 原 理 の 導 入 な ど
︑い ま まで の 厳 しい 規 制 を 次々 と撤 廃 して いっ た︒ 産 業 政 策 を みる と︑ 従 来 低 生 産 性 が 問 題 と なっ てい た﹁ 基 幹 産 業
﹂の 競 争 制 限 業 種 が削 減 さ れ 民 間 企 業 が 参 入で き るよ う にな った
︒貿 易 制 度 改 革 につ いて も
︑輸 入 に 関 わる 規 制 の 除 去 と 緩 和 を 行い
︑コ スト ダウ ンに よっ て 国 内 価 格 を 国 際 価 格 に 近 づけ るこ とに よ り
︑国 内 企 業 の輸 出 競 争 力 を 強 化 さ せ た
︒ま た 関 税 も 大 幅 に 引 き 下 げ ら れた
︒自 由 化 以 前の 一九 九
〇
/ 九一 年に は 最 高 税 率 四
〇
〇パ ー セン ト
︑加 重 平 均 税 率 八 七パ ーセ ント で あっ た が
︑一 九 九 七
/ 九 八 年に はそ れ ぞ れ 四二 パー セン ト
︑二
〇パ ーセ ント と な った
︒こ の 結 果
︑一 九 九
〇
/ 九 一 年 と 九 九
/ 二
〇
〇
〇 年 を 比べ る と︑ 輸 出 は 一八
〇 億 ドル か ら 三 七
〇 億 ドル
︵ 平 均 八パ ーセ ント の伸 び︶
︑輸 入 は 二 四
〇 億 ドル か ら五 六
〇 億 ドル
︵ 同 一
〇パ ーセ ント の 伸び
︶と 順 調 に伸 びて いる
︒
外 資 政 策で あ るが
︑自 由 化 以 前の 厳 しい 規 制 から 一 転 して 積 極 的 誘 致 を 行 う よ う に なっ た
︒ 特 に 直 接 投 資 を 促 し
︑ま た 外 資の 出 資 比 率 制 限 も四
〇パ ーセ ント 以 下 から 五 一パ ーセ ント 以 下 に 引 き 上 げ られ た
︒ こう し た 貿 易
︑外 資 規 制の 大 幅 な 緩 和 はソ フ トウ ェア 開 発 に 必 要 なハ ー ド
︑ソ フト の 輸 入 を 格 段 に容 易に し
︑外 資 参 入 を 通 じて 世 界 最 先 端の 技 術の 獲 得 も 当 た り 前 に行 える よ うに なっ た︒ 二 ソ フト ウェ ア主 導の IT 産 業 イン ドの IT 産 業 に おい て 特 徴 的 なの は
︑ハ ー ドウ ェア より もソ フト ウェ アの 比 重 が 大 きい こと だ
︒ハ ード ウェ アと ソフ トウ ェア とで 比べ た と きに
︑ ソフ トウ ェア は一 九九 一
/ 九二 年に はI T産 業 全 体の 二六.
一パ ーセ ント を 占め てい たが
︑九 五
/ 九 六 年 に は 四 七.五 パー セン ト
︑二
〇
〇 二
/
〇 三 年 には 七 七.八 パー セン ト と 割 合 を 増 やし てい る︒ ま た 現 在
︑イ ンド 国 内の 売 り 上 げで は︑ ハー ド ウェ アの シェ アは 高 く
︑ソ フト ウェ ア は 輸 出 向 け と なっ てい る
︒自 由 化の 始 まっ た 九
〇 年 代 ころ か ら 輸 出 が 国 内 市 場 を 圧 倒 し︑ 一九 九 一/ 九二 年 か ら二
〇
〇二
/
〇 三 年 に か けて 国 内 市 場 向 け 売
上 げ の成 長 率 が 年 平 均 実 質 三一.
二パ ーセ ント に 対 して
︑輸 出 は四 四.
七パ ーセ ント であ った
︒ま た︑ 九 一
/ 九二 年 か ら
〇 二/
〇 三年 にか けて の期 間 中︑ ソフ トウ ェア 売 上に 占め る輸 出の シェ アは 五 三.
九パ ーセ ント か ら七 七.五 パー セン トに 上 昇 し た
︒ その 後 IT 産 業 全 体 でも 輸 出 が 多 く を 占 めて い る︒
︵ 表一 参 照︶ イン ドの NA SS C OM
︵ 全 国ソ フト ウェ ア・ サ ービ ス業 協 会
︑加 盟 五 二 社
︶と アメ リ カの ビジ ネ スコ ンサ ルタ ント のマ ッキ ンゼ ーと の共 同 報 告に よ れ ば
︑イ ンド のI T 産 業 の規 模 は二
〇
〇 八 年 に は 七
〇
〇
〜八
〇
〇 億 ドル に達 する もの と 予 測 さ れて いる
︒そ の う ち 輸 出 は五 七
〇
〜六 五
〇 億 ド ルに 達 し
︑国 内 市 場 は 一三
〇
〜一 五
〇 億 ドル と 見 込 ま れて いて
︑今 後 も 輸 出 に 傾 斜 す る 傾 向 が 続 く
︒︵ 表 二参 照
︶ な ぜ︑ ソフ トウ ェア 産 業 は 輸 出 に 傾 斜 して いる の だろ う か
︒そ れ は
︑海 外 市 場の ソフ ト ウェ ア 料 金 が 国 内 より 三
︑四 倍 以 上 高い た めイ ンド のI T 企 業 は海 外 市 場 を 優 先 して いる か らで あ る
︒ ま た︑ 国 内 での ハー ドウ ェア の値 段 が高 くパ ソコ ン・ イン ター ネッ トの 普 及 率 が 低い こ と︑ 通 信 イン フ ラが 整っ てい ない こと が 原 因 とさ れて いる
︒
この イン ドの 経 済 体 制の 変 化 とI T 産 業の 特 徴 に着 目 し
︑自 国の アウ トソ ーシ ング 先 にし て き たの がア メリ カ企 業で あっ た
︒
Ⅱ グ ロー バル 化 での アウ トソ ーシ ング 戦 略 アメ リカ の多 国 籍 企 業 は どの よ う に して アウ トソ ーシ ング を 行っ たの だろ う
︒ま た︑ そ れを 行っ たこ とに よっ て どの よ う な 問 題 が 生 じ たの だ ろ う か︒ 一
ア ウト ソー シン グ戦 略 ま ず アウ トソ ーシ ング の 意 味 を 確 認 して おこ う
︒ア ウト ソー シン グと は︑ 自 社 の内 部に 統 合 し て き た 生 産
︑販 売
︑人 事 な どの 企 業 活 動 を 分 解 し
︑自 社の 中 核 と な る 企 業 活 動 に 特 化 し
︑他 の 企 業 活 動 は 外 部 に 依 存 す る とい う 戦 略で あ る
︒ ま た その 場 合
︑垂 直 統 合 型の 多 国 籍 企 業 は︑ 自 社 に無 い経 営 資 源 を 取 り 込 む ため に︑ 市 場 を 通 じ た 取 引や
︑買 収・ 合 併 な どの よ う な 内 部 化に よる もの で な く
︑そ の中 間 形 態 であ る 外 部 委 託 とい う 方 法 を 採る
︒ 一 九八
〇 年 代 中ご ろか らア メリ カ多 国 籍 企 業 のア ウ トソ ーシ ング は 盛 んに 行 われ る よ う に なっ
た︒ その 背 景 と して
︑一 九八
〇 年 代 以 降の IT の 技 術 革 新に より 技 術 開 発 と陳 腐 化の スピ ード が 速 く なっ たこ とや
︑顧 客の ニー ズが 多 様 化 し たこ と な どの 技 術 と 市 場の 変 化 が あ る︒ し か し もっ と も 大 き な 要 因 は 企 業 の競 争 環 境の 変 化 で あ る
︒一 九 八
〇 年 代 に 経 済の グロ ーバ リゼ ーシ ョン が 進 展 し てN IE S
︑A SE AN 諸 国 が 輸 出 主 導 型の 経 済 発 展 を 遂 げ て 世 界 経 済 の競 争 に 加 わ り
︑ま た 九〇 年 代に ロシ ア︑ 中 国 な どの 社 会 主 義 諸 国 が 市 場 経 済 体 制 を 取 り 入 れ
︑市 場 経 済 的 な 競 争 をい っそ う 激 し く し た から だ︒ この 結 果
︑ 個々 の多 国 籍 企 業に とっ て︑ 製 品の 技 術 開 発 費 が 増 大 する に も 関 わら ず
︑技 術 開 発の 不 確 実 性 が 増 大 し 危 険 負 担 が 増 大 し た
︒そ のた めこ れに 対 応 す る 形で 多 国 籍 企 業 は︑ 特 定 事 業 領 域の みに 経 営 資 源 を 集 中 して 製 品の 開 発 や 製 造 な ど を 他 企 業 に 委 託 す るア ウ トソ ーシ ング を 選 択 す る よ うに なっ た︒ 一 九 九
〇 年 代 から
︑I T 革 命 とグ ロー バリ ゼー ショ ンが 進 展 す る な かで 多 国 籍 企 業 のア ウ トソ ーシ ング 戦 略 はオ フシ ョア リン グと いう 新 たな 段 階 に 入っ た︒ これ まで は︑ 多 国 籍 企 業 は 製 造コ ス ト 圧 縮の ため に︑ 国 際 競 争 力の 心 臓 部 分 であ る
研 究 開 発 やマ ーケ ティ ング
︑経 営 管 理 機 能 を 本 国 に 残 し なが ら︑ 製 造 機 能 やル ーチ ン︵ 日 常 業 務 的
︶な 研 究 開 発 機 能 を 海 外に 移 転 して き た
︒し かし
︑一 九 九
〇 年 代 か らの オフ ショ アリ ング とい わ れる 事 業 活 動 は︑ 本 国に 残 して いた 本 社の 事 務・ 管 理 部 門︵back office
︶︑ 研 究 開 発 の一 部 まで も 海 外へ 移 転 し 始 めた
︒I T革 命 とグ ロー バリ ゼー ショ ンが 進 展 し 企 業 間 競 争 が激 し く なる なか で︑ 多 国 籍 企 業 は 投 資 収 益 率 を 上 げ るこ と を 目 標 掲 げ
︑固 定 費 圧 縮 のた め 投 資 戦 略 を 模 索 し
︑こ のオ フシ ョア リン グ を 開 始 し た
︒現 在
︑ア メリ カの 多 国 籍 企 業 は
︑本 社の 戦 略 的 な 意 思 決 定 機 能 を 残 して それ 以 外の 経 営 管 理 機 能 を 外 部 企 業 に 委 託 する 方 向 を 目 指 して いる とさ れる
︒ 二
イ ンド のア ウト ソー ス業 務 アメ リカ のア ウ トソ ーシ ング や オフ ショ アリ ング とい う 経 営 戦 略 に 合 致 し たの が イン ドで あ る
︒ も と も と
︑イ ンド はそ のソ フト ウェ アの 輸 出 に は
﹁オ ンサ イト
・サ ービ ス﹂ とい う 形 を とっ てい た︒
﹁ オ ンサ イ ト・ サー ビス
﹂と いう のは
︑顧 客 がい る 現 地
︑ つま り イン ド か らア メリ カな どの 国 外 に 企 業の 技 術 者 が 出 向い てサ ービ ス を 提 供 す る もの だ
︒
し か し
︑技 術 者 の渡 航 費 用 な どの コス ト 削 減 や アメ リカ の経 営 戦 略 に 対 応 す る か た ちで オフ シ ョア
・サ ービ スへ と 変 化 して いっ た︒ ま た
︑イ ンド はさ ま ざ ま な 分 野 での 業 務の 請 負 を 行っ てい る が︑ イン ドの ソフ トウ ェア 産 業 はこ の﹁ オフ ショ ア
﹂が な け れば 飛 躍 的 な 成 長 はで き なか った と 思 われ る
︒九
〇 年 度に は︑ ソフ トウ ェア 生 産 額 に 対 して 輸 出 額 の占 める 割 合 は﹁ オン サ イト
﹂が 九五 パー セン トで
︑﹁ オフ ショ ア
﹂は わず か 五パ ーセ ント であ った が
︑九 九 年 度に は
︑﹁ オン サ イト
﹂が 五 八パ ーセ ント に 対 し
︑﹁ オフ ショ ア﹂ が四 二パ ーセ ント にま で 達 して いる
︒ では な ぜ︑ イン ド がこ れ ほ ど まで に オフ ショ ア 先 とし て成 功 し て き たの だ ろ う か
︒そ の 最 大 の 要 因 は︑ イン ドは 専 門 的 な 技 術 を持 って いる 人 材 を 豊 富 に 抱 え︑ 国 際 的 に 見て 賃 金 が 安い か らで あ る︒ 技 術 者 た ち は英 語に 堪 能 で︑ アメ リカ のホ ワイ トカ ラー やI T技 術 者 より も 賃 金 は二 分の 一 から 一〇 分の 一程 度 低い
︒例 えば
︑金 融 アナ リス ト の場 合
︑ア メリ カで の 給 料 は 月に 七 千 ドル 以 上 で あ るが
︑イ ンド 国 内で は一 千 ドル であ る
︒︵ 表 三 参 照
︶ 三
専 門 性の 高い イン ド 人 労 働 者 ア ウ トソ ーシ ング を 担っ てい る イン ド 人 労 働 者 は 具 体 的に ど うい う 人 た ちな のだ ろう か︒ ア メリ カで 就 労 す る た めに は 労 働ビ ザ が 必 要 であ る︒ 一 九五 三 年の
﹁ 移 民 国 籍 法
﹂は 一 時 的に 労 働 者 を 必 要 と す る ア メリ カの 雇 用 主 を 支 援 す る た めに
﹁ H︲ 1
﹂非 移 民 ビザ を 制 定 し た
︒ 一 九 九
〇 年 に は﹁ 移 民 法
﹂で 専 門 職 やフ ァッ ショ ン・ モデ ルと し て 働 く 非 移 民 の た めに 与 え ら れ る﹁ H︲ 1B
﹂ビ ザ が 創 設 さ れ
︑こ の 取 得 者 は 年 間 六 万 五
〇
〇
〇 人に 制 限 さ れた
︒こ のビ ザ は 有 効 期 限 が三 年 間で さ らに 延 長が 可 能 であ る
︒ ア メリ カで の﹁ H︲ 1B
﹂労 働 者の 国 籍 はイ ンド が 四 七.五 パー セン トで 圧 倒 的に 多 く
︑そ のほ とん どが IT 関 連の 職 業に 就い てい る
︒ま た︑ イン ド 生 まれ の﹁ H︲ 1B
﹂労 働 者 が取 得 して いる 学 位 を 見 る と︑ その 五 六.八 パー セン トで が学 士 号に 相 当 す る もの を 取 得 して いた
︒ま た
︑四 一パ ーセ ント でが 修 士 号 か も し く はそ れ 以 上 の学 位 を 取 得 し
︑一
〇パ ーセ ント でが 専 門の 学 位 ない し 博 士 号 を 取 得 して いる
︒こ のこ とか ら も
︑イ ンド か らや って く るH
︲1 B 労 働 者 が 専 門 的 な 知 識 を 持っ てい るこ とが わか る︒
四 ア ウト ソー シン グで 生 じ た 問 題 点 一 九 九
〇 年 代 中 ご ろ に
︑専 門 性 に 優 れ 低 コス ト で 雇 え る とい う 理 由 か ら
︑外 国 人 I T 技 術 者 が ア メ リ カ の ホ ワ イ ト カ ラ ー や I T 技 術 者 の 雇 用 を 脅 か し てい る とい う 社 会 の 不 安 が 高 まっ た
︒こ の た め ア メ リ カ 政 府 は ビ ザ 発 給 を 通 じ て イ ン ド な ど 海 外 か ら の I T 技 術 者 の 入 国 を 制 限 す る 措 置 を 講 じ る よ う に なっ た
︒ し か し
︑こ の 措 置 は
︑国 際 競 争 力 を 維 持 し よ う とす るア メリ カ企 業の 経 営 戦 略 を オン サ イ ト か らオ フシ ョア リン グに 加 速 さ せる こ とに な り
︑ アウ トソ ーシ ング そ れ自 体の 拡 大 を 食い 止 める こ と はで き な かっ た
Ⅲ IT 技 術 とそ れ を 支 える 教 育 イン ドで は︑ IT 技 術 者 は 社 会 的 地 位 が 高 く 世 界 的 に も 需 要 が あ る た め 人 気の あ る 職 業 で あ る
︒ま た
︑イ ンド 国 内 のソ フト ウェ ア 企 業で は 技 術 革 新 に 遅 れ ない よ う に
︑研 修 も 充 実 さ せて いる
︒し かし
︑高 等 教 育 機 関へ と 進 ま な け れば I T 企 業へ 就 職 で きる 高 水 準の 技 術 は 学 ぶこ と が
で き ない
︒そ こ まで 進 む た めに は 激 しい 競 争 を 経 な けれ ばな らず
︑経 済 格 差 が 教 育へ のア クセ ス に 強 く 反 映さ れて し ま う
︒ 一 企 業で の教 育 訓 練 イン ド では 新 卒 者 に 対 す る 企 業 内 訓 練 に 力 をい れて いる
︒I T 産 業 で は 技 術 革 新 に 遅 れ を と ら ない よ う に
︑技 術 者 に 対 す る 訓 練 が 重 要 な 問 題 に なっ てい る た めで あ る
︒こ れ は
︑イ ンド のト ップ 企 業 とい われ るイ ンフ ォシ スや タタ コン サ ルテ ィン グサ ービ スか ら 中 堅の IT 企 業 まで 行っ てい る︒ この 教 育 訓 練 は 数ヶ 月 から 一 年 かけ て 行 われ るの が普 通 だ︒ また
︑日 本 企 業 との 取 引の た め︑ 教 育 訓 練の 一環 とし て日 本 人ス タッ フが 技 術 者に 日 本 語 を 教 えて いる 企 業 も ある
︒ あ るソ フト ウェ ア開 発 企 業の 場 合で は︑ 技 術 教 育 担 当 者 は 博 士 学 位 を 取 得 して いる
︒ま た
︑社 外の コン サル タン トに よる 訓 練 も 実 施 して いる
︒ この 企 業で は︑ 最 初の 三ヶ 月 は集 合 教 育 を 行い
︑ 残 りの 九ヶ 月は OJ T︵on the job training
︶を 行 って いる
︒ま た
︑部 門 間の 異 動 を 行 わ ない こ とで
︑ 技 術 者に 特 定 分 野の 知 識 を身 につ け させ てい る︒ ま た
︑イ ンド では 政 府 系 の教 育 機 関 がI T 技 術 のト レー ニン グ を 行っ てい る
︒例 え ば︑ ムン バイ
市の 近 郊 に あ るプ ネ とい う 町 に
︑イ ンド で最 初 のス ーパ ーコ ンピ ュー タ を 開 発 し た 政 府 系の 研 究 機 関 であ るC
︱ DA C が1 99 3 年 設 立 し たA CT Sと いう 機 関 が あ る︒ ここ は イン ドの みな ら ず 世 界で も 有 数の IT 技 術 者 の教 育 機 関 とし て 知 ら れて いる
︒イ ンド 人 技 術 者 は 大 学 での 高 等 教 育 機 関 を 経 て企 業 に就 職 して から も
︑技 術 革 新 に遅 れ を と らな いよ う にさ らに 学び 続 け る ので ある
︒ 二
イン ドの 高 等 教 育 機 関 で は︑ IT 技 術 者 を 生み 出 す 高 等 教 育 機 関 と は どの よ う な とこ ろだ ろ う か︒ イン ドで は近 年 は 工 学 系の 大 学に 人 気 が 集 中 して いて 競 争 率 が高 い︒ イン ドで 代 表 的 な 工 学 系 大 学 が
︑イ ンド 最 高 峰の 高 等 教 育 機 関 で あ るI I Sc
︵ イン ド 科 学 大 学 院 大 学
︶︑ 全 国に 七 校 あ るI IT
︵ イン ド 工 科 大
︶で あ る︒ II Sc は︑ 一九 一一 年 にイ ンド 最 大の 財 閥で あ るタ タの 篤 志 金 に よっ て 設 立 さ れ た︒ それ まで の 大 学 が
︑英 国の 大 学 をモ デル にし たの に 対 し
︑I I Sc は 研 究 に 重 点 的 な 機 能 を 持っ たア メリ カの ジョ ンズ
・ホ プキ ンス 大 学 に 範 を
とっ てい た
︒I IS c は︑ 民 間 企 業 との 研 究 交 流 が 盛 んで あ り
︑現 在 は 百 を 越 え る 企 業 とコ ンタ ク ト を とり なが ら︑ 数 百 もの 研 究 プロ ジェ クト を 進 行 さ せて
︑イ ンド の科 学 技 術 の発 展 に 貢 献 し てい る︒ この II Sc の 成 功 か ら政 府 はI IS c 型 の研 究 大 学 を イン ド 全 土 に広 げる こと によ って
︑科 学 技 術 立 国 化 を 成 し 遂 げよ う とい う 意 図 を 強 め︑ アメ リカ の 支 援 のも とI IT を 積 極 的に 設 立 し 始 め た︒ ま た
︑I IS cが 学 問 研 究 を 目 指 して い るの に 対 して
︑I IT はI T企 業に おい て 即 戦 力 とな るこ とを 明 確 に意 識 して いる 点 が異 なっ てい る ︒ そ して
︑イ ンド では 教 育 機 関 と 政 府 機 関
︑そ れ に 加 えI T 企 業 との 連 携 によ って IT 研 究 が 相 乗 効 果 を 上 げて いる
︒イ ンド 最 大の IT 都 市で あ るバ ンガ ロー ルに は︑ 工科 大 学 が 七 七校 あ り
︑そ の 中に はI IS cや II M︵ イン ド経 営 大 学
︶と いう ハー バー ドビ ジネ スス クー ルと 提 携 して いる 教 育 機 関 が 含 まれ てい る︒ そ れに 加 え
︑も と も と 存 在 し てい た国 防や 宇 宙 分 野 な どの 研 究 機 関 とI T 企 業 も あ る︒ この よ う に産
・官
・学 の連 携 が︑ イン ド のI T産 業 をさ らに 発 展さ せる 要 因 とな って いる
︒
三 教 育 に対 する 価 値 観 イン ド が 国 を 挙 げ てI T 産 業に 力 をい れ るよ う にな った 理 由 は︑ イン ド 固 有の 社 会 的
︑歴 史 的 条 件 とソ フト ウェ ア産 業の 特 殊 性 と が う ま く 結 びつ いた か らだ
︒イ ンド では
︑伝 統 的に 知 的・ 精 神 的 活 動 を 尊 び︑ 数 学や 科 学 を 学ぶ こ とが 知 的 教 養 とし て 長 年 重 視 さ れて き た
︒ま た 一 方で
︑肉 体 労 働 を 低 く 見 る 傾 向 があ り
︑技 術 系の 大 学の 卒 業 生で も な か なか 工 場で 働 かな かっ た
︒だ が︑ ソフ ト ウェ ア 産 業 は 純 粋 な 頭 脳 労 働 で あ るの で 人 気 が 集 中 す る︒ この よ う な イン ド 固 有の 社 会 的 伝 統 がI T産 業 と う ま く 結 びつ いた ので あ る︒ そ の結 果 政 府 は 高 等 教 育 機 関 での I T 教 育 を 重 視 して き た
︒ だが
︑イ ンド 固 有の 伝 統 以 外に も
︑I T産 業に 人々 が集 中 す る要 因が ある
︒そ れ は︑ イン ド が長 い間 抱 えて き た貧 困 問 題 だ
︒ 現 在 GD P は 毎 年 六〜 七パ ーセ ント の 安 定 成 長に 入っ てい る イン ド だ が
︑デ ータ な どで 見 る 限 り は ま だ 貧 しい 国で あ る
︒一 日の 生 活 費 が 一 ド ル以 下の 人 々は 全 人 口の 三 四% いて
︑い ま だに 残 るカ ース ト 制 度の せい で一 一 億 もの 人 口の 大 半 が 高
等 教 育 か ら疎 外 さ れて き た
︒し かし
︑経 済 状 態 が厳 しい 家 庭の 子 供で も 奨 学 金 制 度 な どの お か げで 高 等 教 育へ の門 戸 が開 かれ るよ う にな り︑ 貧 困 か ら 抜 け 出 す 切 符 を 手 に す るこ とが 可 能 にな って き た
︒ま た
︑ソ フト ウェ ア 産 業 は 他の 産 業 に 比べ て 給 料 が 高い とこ ろか ら
︑人 々の 間 に は小 さい ころ から 英 語 と 数 学 を 勉 強 して 高 等 教 育 機 関へ 進 み
︑I T 技 術 者 に な るこ と が 貧 困 か ら 脱 出 す る 方 法 で あ る とい う 考 え が 浸 透 して いる
︒ その ため
︑イ ンド は 非 常 に教 育 熱 心で あ り
︑子 供 た ち は 小 さい ころ か ら激 しい 競 争 に 巻 き 込 ま れ てい る︒
四 初 等・ 中 等 教 育 カリ キュ ラム イン ドの 就 学 年 齢 は六 歳で
︑初 等 教 育︵ 八 年︶
︑ 中 等 教 育︵ 二年
︶︑ 高 等 中 等 教 育︵ 二 年
︶︑ 高 等 教 育︵ 三
〜四 年
︶と いう 制 度に なっ てい る︒ 十 年 生 と 十二 年 生の 終 了 時に ほぼ 全 国 一律 の﹁ 進 級・ 卒 業 試 験
﹂が 課 され
︑そ こで 各 科 目 四 割 程 度の 成 績 を 収め な くて は︑ 進 級・ 卒 業が でき ない
︒︵ 表四 参 照︶ また
︑最 大の 難 関で ある 大 学 入 試に 向 けて 激し い 競 争 が 行 われ てい る
︒I IT の 場 合
︑試 験 科 目 は 数 学・ 物 理・ 化 学で あ り
︑毎 年 全 国で 四 百 万 人 が
受 験 して 合 格 す るの はわ ず か四 百 人で ある
︒ ま た
︑国 力 を 高 め︑ あ らゆ る 技 術 の 基 礎 に な る とい う 認 識 か ら 数 学 教 育 に 力 を 入 れて いる
︒ 教 育 内 容 も 諸 外 国 より 高い 水 準 に あ り
︑カ リ キ ュラ ムの 進 度 も 速い
︒そ の た め︑ 数 学 でつ ま ず く 子 供 た ち も 増 えて きて
︑学 校 自 体 か ら も ドロ ッ プア ウ ト して し ま う 場 合 も あ る
︒だ が
︑実 際に 子 供 た ちの 教 育 を 妨 げ てい るの は む し ろ︑ 経 済 的 な 要 因 であ る
︒ 五
経 済 格 差 と教 育 イン ドで は
︑経 済 格 差 が 激 し く
︑子 供 の受 け る 教 育 に 鋭 く 反 映 さ れて いる
︒ま た
︑教 育 を 受 ける 前 提 とし ての 識 字 率の 問 題 も あ る︒ イン ドで は 中 高 一 貫の 私 立 学 校 の う ち 政 府 から の補 助 を 受 けて いな い一 流 校 が あ り︑ この 学 校 が 十 年 生 と 十二 年 生で 行 われ る﹁ 進 級・ 卒 業 試 験
﹂の 合 格 率 が 一 番 高い
︒補 助 を 受 け てい る 私 立 学 校 がこ れ に 次 ぐ
︒ま た
︑私 立 の 学 校 で は ほと んど 英 語で 授 業が 行 われ る︒ 一 方 公 立 学 校 は﹁ 進 級・ 卒 業 試 験
﹂の 合 格 率 は 最 低 と なっ て
︒ま た
︑月 謝 三 百 ルピ ー︵ 七 二
〇 円
︶の スラ ムの 公 立 学 校で は 英 語 とヒ ンド ゥー 語
の 混 合で あ り
︑月 謝 三ル ピー
︵三 円
︶の テン ト 張 り の 公 立 学 校 では ヒン ドゥ ー 語 だ け で 授 業 が 行 わ れる
︒イ ンド の 大 学 では
︑ほ とん どの 授 業 が 英 語 で行 われ る
︒英 語 が 使 え ない とい う こ とは 高 等 教 育 機 関へ 進 学で き ず
︑貧 困 か ら脱 出 す る 道 が 狭 まっ てし ま う こ と を 意 味 す る
︒高 所 得の 家 庭 であ れば 子 供 を 学 習 塾に 通 わ せる こ とが でき て 英 語 な ど 授 業 以 外で も わ か ら ない 部 分 は 補 え るこ と がで き る︒ だ が︑ その 他 の大 部 分の 家 庭で は そ れ は 難 しい
︒今 イン ドで は 無 理 を し てで も 自 分の 子 供 を 私 立の 学 校に 通 わ せる 中 産 階 級 の 教 育 負 担 が もっ と も 高い とい う
︒ 政 府 の 調 査 で は 低 学 年 で は 約 八 割 が 就 学 し てい る が
︑年 齢 と と も に 就 学 率 が 下 が り
︑十 二 年 生︵ 十 八歳
︶の 就 学 率 は二 割 ほ どだ
︒特 に 人 口 の 七
〇パ ーセ ント が 暮 らし てい る 農 村 部の 家 庭で は
︑日 々の 生 活 を 送る のに 精 一 杯で あ る から
︑そ の 稼 ぎ 手 とし て子 供 た ち は早 い段 階 で次 々 と学 校 を やめ てし ま う
︒二
〇
〇一 年 から 二
〇
〇 二年 にか けて の︑ 一 年 生 か ら五 年 生 では 三 九パ ーセ ン トの 子 供 た ち が︑ ま た 一 年 生 か ら八 年 生で は 五 五パ ーセ ント の 子 供 た ちが 学 校 をや めて いる
︒ その よ う な 状 況 の中 で︑ 貧 困 層の 家 庭の 子 供