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ストリゴラクトンの生物活性を 担う立体化学の重要性 - J-Stage

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【解説】

植物ホルモンの一つであるストリゴラクトンを立体制御しな いで有機合成すると,少なくとも4つの立体異性体が生成す る.これら異性体のなかで高い生物活性を示す立体はある程 度限定されているものの,いずれの異性体も高濃度では活性 を示すと考えられてきた.しかし生物種によってはストリゴ ラクトンの立体を厳密に認識し,活性を示した立体以外の異 性体は,逆に阻害作用を有することが明らかになってきたここではストリゴラクトンの立体異性体とさまざまな生物種 に対する活性の違いについて概説する.

ストリゴラクトンとは?

ストリゴラクトン (strigolactone ; SL) は,根寄生雑 草のストリガ属(ストライガ・  spp.)およびハマ ウツボ属(オロバンキ・  spp.)の発芽刺激物 質として同定された化学物質である(1).後に植物と共生 するアーバスキュラー菌根菌(AM菌)の菌糸分岐を誘 導する物質と同一であることがわかり,さらに近年,植

物の枝分かれを抑制することも判明し,植物ホルモンの 一種として考えられるようになった(2).このSLもほか の植物ホルモンで見られるように,いくつかの類縁体が 存在し多くが活性を有している(3).最初に同定されたの は1966年,ストライガの被害を軽減させる効果があっ たワタの根滲出物から単離されたストリゴールとそのア セチル体である.ただしワタはストライガの宿主ではな かったため,宿主植物も同様の化合物を分泌しているの か疑問視された.しかし1992年にストリゴールの類縁 体として  の宿主であるソルガムからソ ルゴラクトンが,さらに の宿主であるサ サゲからアレクトロールが単離されたことにより,SL と総称される化合物群が自然界でストライガの発芽にか かわると認知された.一方,オロバンキに対する発芽刺 激物質としてはオロバンコールが, の宿主で あるアカクローバーから単離された.これら類縁体の基 本骨格を端的に示しているのは,ミヤコグサから単離さ れた5-デオキシストリゴール (5-deoxystrigol, 5-DS) で ある(図1.6員環(A環)と5員環(B環),ラクトン

(C環)が連なった三環性部分とメチルフラノン(D環)

がエノールエーテルで結合している.類縁体はいずれも

ストリゴラクトンの生物活性を 担う立体化学の重要性

上野琴巳 * 1 ,滝川浩郷 * 1 , 2 ,杉本幸裕 * 1 , 2

The Importance of Stereochemistry of Strigolactones for Biologi- cal Activities

Kotomi UENO, Hirosato TAKIKAWA, Yukihiro SUGIMOTO, 

*1神戸大学大学院農学研究科,*JST/JICA SATREPS

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A環やB環が酸化修飾を受けている一方で,2つのラク トン(C環とD環)は一切修飾を受けていないことか ら,根寄生雑草発芽刺激活性を示すためにはこれらラク トンとエノールエーテル結合が必要であるもののAB環 の修飾は活性に大きな影響を与えないと考えられてい る.ただ,それぞれの植物が根圏に放出している主要な SLと植物の科名との間には関連性が見られない.たと えばマメ科植物において,ミヤコグサは酸化修飾を受け ていない5-DS,レンゲはA環酸化型のソルゴモール,

アカクローバーはB環酸化型のオロバンコールやアレク トロールを放出している.またイネ科植物においてイネ はB環酸化型のオロバンコール,ソルガムはA環酸化型 のソルゴモールを放出する.さらにほかの植物の根滲出 物からは構造が決定していないSL様化合物の存在が確 認されており,構造の多様性に関してはいまだ底がしれ ない.

ストリゴラクトンの立体構造の謎

SLの構造多様性を生み出しているのは酸化修飾だけ ではない.立体異性がより複雑化させている.SLの基 本骨格には,化合物の立体を決定づける不斉炭素が3カ 所存在する.不斉炭素とは4つの結合がすべて違う置換 基との間で形成されている炭素のことで,そのような炭 素が分子内に一つあると,置換基の位置が異なる(立体 が違う)異性体が2つできる.不斉炭素を3つもつ5-DS の場合,異なる立体の組み合わせから計算上は8つの立 体異性体が考えられる.しかしB環とC環は自然界にお いても有機合成的にもシスの形でのみ縮合するため,B 環とC環のつなぎ目にあたる不斉炭素2つの立体の組み 合わせは,2通りしかない.そしてD環とエノールエー テルをつなぐ炭素の立体が2通りあるので,存在しうる 立体異性体は4種類となる(図2上段).実際に5-DSを 立体制御しないで有機合成すると4つの立体異性体がほ ぼ同じ比率で生じる.類縁体の場合は置換基が導入され た箇所も不斉炭素となる場合が多いため,立体異性体は 図1天然ストリゴラクトンの構造

C環とD環の絶対配置から,現在同定されている天然SLは大きく2種類(中央点線で分離)に分けることができる.オロバンコール(中央 四角内)ははじめストリゴールと同じ絶対配置を有しているとされていたが,立体の再解析によって絶対配置が修正された(4).アレクト ロール(右四角内)は,はじめモノヒドロキシSLと推定されたが,実際にはアセチル化されたオロバンコールであった.

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8つに増えることもある.以下,分子の立体を直感的に 理解できるように,それぞれの立体異性体をud型(ス トリゴールの立体;C環up, D環down),du型(エント 体),uu型(エピ体)およびdd型(エントエピ体)で 表記することにする.

天然SLの立体は図1を見てもわかるように,大きく2 つに分けることができる.一つは5-DS,ストリゴール,

ソルゴラクトンの立体(ud型,図1左)で,もう一つ はオロバンコールの立体(dd型,図1右)である(3, 4). 両者はABC環の立体が反転しているが,D環2′位の立 体は同じ( 体)である.最初に単離されたストリゴー ルと次に発見されたソルゴラクトンが同じud型の立体 を有していたことから,はじめはオロバンコールもスト リゴールと同じ立体を有していると考えられた.そのた めSLの立体を議論するときはストリゴールの立体ud型 が基準となり,そこからエント体,エピ体,エントエピ 体と見ることが多かった.しかし最近単離同定された複 数のSLの立体がエントエピ体であったこと(3, 5),さら にオロバンコールやそのアセチル体の立体を再検証した ところこれらもエントエピ体であったから(4),天然SL は5-DS(ud型)もしくはエントエピ-5-DS(dd型)か ら派生していると考えられている.

有機合成では,特別な試薬を使わない限り4種以上の 立体異性体が生じる.このため天然SL以外の立体異性

体は,SLがどのように機能しているのか,すなわち活 性を示すためにはどのような立体構造が必要なのか解明 する際の化学ツールとなる.立体異性体は原子の空間的 な配置が大きく異なってくるので,それを認識するタン パク質との相互作用も異性体によって変わってくる.タ ンパク質と正確に相互作用できるのは,特定の立体を有 した化合物のみであり,そのほかの立体異性体は相互作 用できないことが多い.SLの場合は受容体が同定され ていないため(ただし受容体である可能性が高いタンパ ク質の同定がごく最近報告された(6)),生物試験の結果 でのみ化合物の立体認識を測ることになる.根寄生雑草

の や に対しては,すべての立

体異性体が活性を示したという報告がある(7).また,そ れぞれの立体異性体を単一にするのは容易なことではな かったため,全立体異性体の混合物もしくはラセミ体で 生物試験は行われ,いずれの場合も活性が見られたこと から,化合物の立体が活性発現に及ぼす影響は小さいと 思われていた.しかし次に述べるように,それぞれの生 物に対する活性を詳細に解析すると,実際には対象生物 によるSLの立体偏好性が見られ,扱う生物種が増える につれSLの構造と活性を統一的に論じることが困難に なってきた.また, によるSLの化合物

認識は, や による認識とは異

なっていることも明らかになった.

図2ストリゴラクトンの立体異性体4種の構造

上段:5-DSの立体異性体.破線‒くさび形表記法に基づいて構造式を描いたとき,くさび形で示した紙面の手前にある結合をup,破線で示 した紙面の向こう側にある結合をdownとし,C‒D環の順に立体を並べたものを各立体異性体の簡易名としている.下段:合成SL・GR24 とその4位酸化類縁体 (HO-GR24とAcO-GR24) の構造.特に記載がない場合,GR24は4種の立体異性体の混合物である.ここで対象にし ているHO-GR24とAcO-GR24の4位置換基の立体は,C環とトランスの関係にあるもののみである.

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それぞれの生物におけるストリゴラクトンの立体認識 1.  AM

AM菌は80%以上の陸上植物と共生関係を構築し,宿 主植物のリン吸収を促進する役割を担う.このなかには 6属含まれているがいずれも植物と共生しない限り生存 できないため取り扱いが難しく,長年どのようなメカニ ズムで宿主を認識しているのか謎であった.しかし 2005年,AM菌の宿主認識反応である菌糸先端の分岐は SLによって誘導されることが明らかとなり(8),先行し ていた根寄生雑草種子発芽刺激物質の研究とともに,

AM菌におけるSL認識機構の解明も進められることに なった.したがってまだ報告例は少ないものの,

においては,ud, dd型のほうがuu, du 型より10倍程度強い活性を示す場合が多いと確認され ている(9).またエノールエーテルの二重結合が還元され た飽和型GR24ではdd型のみが活性を示し,ほかの異性 体は活性を示さない.これらの結果から,

では2′ 体のほうが活性は強いと考えられている.

2.  宿主植物

植物の枝分かれ抑制に対するSLの機能も最近明らか になったこともあり,立体による活性の違いはほとんど 論文として発表されていない.唯一,ソラナコールの一 部の立体異性体においてエンドウの腋芽伸長阻害活性が 調べられており,du型のほうがdd型(ソラナコール天 然体)よりも高い活性を示したという報告がある(5).そ の一方でイネに対する腋芽伸長阻害活性は,2′ 体(ud 型,dd型)のほうが強いと言われている(10)

3.  根寄生雑草

ハマウツボ科 (Orobanchaceae) に属する植物はすべ て寄生植物で,そのなかの約30属は宿主の根に寄生す ることから駆除が難しい雑草とされている.そのなかの 代 表 格 が ,  お よ び 属 で あ

り,特に と に関しては詳しく

研究されている(11).なぜならば前者はアフリカ・サブ サハラ地域でソルガムやトウモロコシ,ミレット,イネ などに寄生し,後者はアフリカ北部やヨーロッパ南部,

地中海沿岸でソラマメに寄生し,ともに農作物の収量を 大きく低下させる原因となっているためである.そのた め海外では,主にこの2種に対して,合成されたSLの 活性が調べられている.しかしこれら根寄生雑草は日本 に侵入していないため,取り扱いには植物防疫法の適用 を受ける.そこで日本国内での研究では,すでに侵入し

ており同法の適用を受けない (ヤセウツボ)

に対して活性を確認することもある.

や に対して合成ストリゴラ クトンGR24のラセミ体(ud+du型,もしくはuu+dd 型)はともに活性を示し,活性の強さは4種の立体異性 体混合物でも大して変わらない(7).しかし立体異性体を 別々に試験すると,GR24だけでなくソルゴラクトンの 立体異性体においても,ud型が最も高い活性を示す一 方でdu型は低い活性しか示さない場合が多い(12).残り のuu型とdd型は中程度でほぼ同じ活性を示す.一方

に対しては,ラセミ体の場合,uu+dd型混合物 の方がud+du型混合物より高い活性を示す傾向があ

(13, 14).それぞれの立体異性体単独の場合,試験結果

が少ないので断言できないが,dd型が最も強い活性を 示し,ud型がこれに続く.du型とuu型はud型に比べ て活性が1/10に低下する(13)

はアフリカの広範囲にわたって見られ る根寄生雑草で,主に野生の植物に寄生しているが,西 アフリカでは人間にとって重要な植物性タンパク質の供 給源となるササゲに寄生するため,農業的に問題視され る種である(11).またタバコやサツマイモに寄生する亜 種も確認されている.このように複数の亜種が存在する ため,採取場所によって,標準的な発芽刺激物質として 用いられているGR24に応答する種子と応答しない種子

がある(15, 16).GR24に応答しない でも,

宿主となるササゲが分泌しているSL,アレクトロール には応答して発芽する(16).単離された当初,アレクト ロールはストリゴールの構造異性体として推定構造が提 出されたが(図1),その推定構造あるいはいくつかの 類縁体のいずれでもないことが有機合成的に確認され た(17).その後,ササゲおよびアカクローバーから再度 アレクトロールが単離され,その構造はオロバンコール のアセチル体であることが判明した(15, 18).アレクト ロールをアセチル基ではなく水酸基を一つ有したSLと 同定してしまったのは,EI-MS分析においてアセチル基 が脱離しやすいため分子イオンが観測されず,アセチル 基脱離イオン(オロバンコールのイオン)を分子イオン とみなしてしまったためと考えている.しかし有機合成 されたオロバンコール(図1,最初に提示された構造)

やそのアセチル体は 種子の発芽を誘導し なかった(19).またオロバンコールのように,GR24のB 環に水酸基を有したヒドロキシGR24(HO-GR24)やそ のアセチル体(AcO-GR24)でも は発芽 しなかった(図2下段,すべての立体異性体の混合物). しかし,ササゲの根滲出物では確かに発芽が誘導され

(5)

る.そこで筆者らはササゲの根滲出物から

種子発芽刺激物質の単離を行うと同時に(4),これま では立体異性体の混合物で使用していたGR24やHO- GR24, AcO-GR24を光学分割し,立体異性体一つずつで 発芽刺激活性を調べてみた(19).すると活性を示したの は,dd型のHO-GR24とAcO-GR24だけで,ほかの立体 異性体は発芽を誘導しなかった.またササゲから単離さ れた発芽刺激物質も立体がdd型であるオロバンコール とそのアセチル体であった.そこでアカクローバーが作 る根寄生雑草種子発芽刺激物質を再検討した結果,ササ ゲのSLと同一であったことから,天然のオロバンコー ルおよびそのアセチル体(アレクトロール)の立体は,

ud型ではなくdd型であることが判明した(図1,真の 構造).一方,何も修飾されていないGR24のdd型も含 め発芽を誘導しなかった立体異性体には,いずれも発芽 を阻害する作用が見られた.そのためGR24酸化類縁体 の立体異性体混合物は発芽を誘導しなかったのである.

立体異性体による発芽阻害メカニズムはいろいろ考えら れるが,阻害活性が高かった化合物の立体がud型,す なわちストリゴールやソルゴラクトンと同じ立体であっ たことや,ササゲの根滲出物による発芽誘導を濃度依存 的に阻害すること,ほかの根寄生雑草ではすべての立体 異性体で発芽が誘導されることを考えると,活性を有す るdd型化合物が受容体に結合するのをそのほかの立体 異性体は直接的に阻害すると筆者らは推定している.少 なくともGR24のdd型は,B環に酸素官能基を有してい ないだけで阻害的に働くようになるので,この化合物は 受容体に結合できてもその後のシグナル伝達を活性化で きないアンタゴニスト(拮抗剤)であろう.SLの立体 異性体はどんな立体であっても発芽を誘導できると考え られていたなか,阻害的に作用するSL類縁体の最初の 報告である.このような厳密な立体認識は限定された種 での話かもしれない.しかし や

,  ,  でも多少なりとも立体偏好性 があることから,立体に注意して化合物を試験していく と新たな生物活性が見つかるのかもしれない.

ストリゴラクトンの立体がもつ意味

上述のように,いずれの生物に対しても化合物の立体 はその活性に何かしらの影響を与えていた.では,SL の基本骨格と言われる5-DSの立体異性体4種は立体的 にどのようなところが類似しているのだろうか.

4種の立体異性体を,活性を示すために必要と言われ ているD環部分で重ね合わせてみると,ABC環の部分

はそれぞれ異なった方向へ広がる(図3a).D環2′位の 立体が同じであるud型とdd型はC環まで重なるが,B 環とC環の連結部の立体が反転しているためAB環が反 対方向に広がることになる.またuu型とdu型のペアも C環を鏡面としてAB環の広がりが左右対称になってい るだけでなく,D環部分の立体で,ud, dd型のペアと対 称になっている.SLの4つの立体異性体はすべて活性 を示す場合が多い.もしSLがD環部分で受容体に固定 されるのであれば,受容体の基質ポケットはさまざまな 方向に広がるABC環を受け入れられるくらい空間的に 余裕があるのか,もしくはABC環部分がほとんど受容 体の外にありタンパク質との相互作用に関与していない か,が考えられる.イネの枝分かれ抑制に対してはAB 環が欠けているほど活性が強い一方で(10),根寄生雑草 種子発芽刺激活性はABC環が揃っているほうが強い(7). 前者の場合は主にD環部分で受容体に結合しているの かもしれないが,後者はABC環部分もタンパク質との 相互作用に関与している可能性が高い.

そこで4つの立体異性体をC環とエノールエーテル部 位で揃えて重ね合わせてみると(図3b),図3aと比べて それら立体異性体は互いに接近し,あたかもエノール エーテル部位を鏡面とした鏡像が2つあるようにしか見

図35-DS立体異性体の重ね合わせ(ステレオ表示):(a D環 を重ね合わせたとき b エノールエーテルで重ね合わせたとき ud型,du型,uu型およびdd型の立体をそれぞれ青,緑,マゼン タおよび赤で示した.またすべての立体はMOPAC 6.0で構造最 適化を行った.

(6)

えない.しかし注意して見てみると,D環部分はud型 とdd型が,uu型とdu型が重なっているのに対し,AB 環部分はud型とuu型が,dd型とdu型が重なっている.

ABC環とD環部分がそれぞれの立体同士で重なってい るためだが,それぞれの立体異性体を別個に確認するの が図3aより困難になっているところは,逆に各異性体 の立体類似性を示しているように思われる.最近同定さ れたSL受容体候補D14の結晶化がタンパク質のみでし か行われていない現時点では推測の域を出ないが(6),根 寄生雑草種子の発芽刺激活性に必要とされるエノール エーテル結合部位を中心に受容体に認識されているので あれば,SL結合ポケットに大きな空間的余裕がなくて もすべての立体異性体と結合できるのかもしれない.

ストリゴラクトンの立体異性体と今後の研究 さまざまな生物に対して,特に実際にSLを生合成し ている植物に対して,SLの立体異性体がどのように作 用するのか調べ始められたところであるが,今後はさら に注目されるであろう.なぜならばSLの生合成経路も 徐々に明らかになってきているためである.

SLははじめ,セスキテルペンラクトン類の一つと考 えられていたが,カロテノイドの生合成を阻害すると SLも作られなくなることから,少なくともABC環の部 分はカロテノイドに由来すると言われてきた(2).実際に カロテノイド酸化開裂酵素CCD7とCCD8が欠損すると SLが生合成されないこと,またそれらの組換え酵素が 

β

-カロテン (

β

-carotene) を基質にしてSLのA環を含む ような炭素数18のケトン (

β

-apo-13-carotenone) を生成

することから,カロテノイドから作られたABC環とD 環が縮合してSLになるとして研究が進められていた.

しかし2012年,これまで機能が不明であったD27とい う鉄含有タンパク質が 

β

-カロテンの9位を異性化するこ と,そして異性化された 

β

-カロテンを基質にしてCCD7 とCCD8を作用させると,SLのD環のようなメチルフ ラノンを有するカルラクトン (carlactone) が生成する と報告された(20) (図4.カルラクトンは,B環とC環が 直鎖になったSLのような構造をしている.そのためSL は,カルラクトンのさらなる酸化と閉環によって生合成 される説が有力になってきた.ただしカルラクトンの生 成は組換え酵素を用いた実験で確認されたのみで,植物 体内からカルラクトンは検出されていない.そしてD 環2′位の立体,天然SLではたいてい となっているが,

この実験で合成されたカルラクトンのラクトン部分の立 体は明らかにされなかった.D環はCCD8による酸化開 裂の過程で生成するので何かしらの立体制御がかかって いると予想される.その制御は,これまで単離されてき たSLのD環の立体に矛盾しないのか,あるいは逆にD 環の立体について見直す必要が出てくるのか,それらが はっきりするにはもう少し時間がかかりそうだが,それ ほど遠い未来の話ではないだろう.

SLは,さまざまな類縁体が存在するものの,構造の 類似性から5-DSを共通の中間体として派生していると 考えられている.しかし植物体内における内生量が少な いためにC環とD環の立体決定が困難であり,また 5-DSやオロバンコールのエピ体も存在することから,

SLは置換基による修飾だけでなく立体的にも多様なの かと研究者達を悩ませてきた.そして有機化学的に合成

図4ストリゴラクトンの生合成経 路

β-Caroteneを基質にした場合,CCD7 とCCD8によってβ-13-apo-caro tenone が生成する.一方 β-caroteneがD27 によって9位が異性化すると,CCD7 とCCD8に よ っ てcarlactoneが 生 成 する.β-13-Apo-carotenoneでは炭素 が一つ少ないことやcarlactoneがす でにSL様活性を有していることか ら(20),carlactoneを経由したSLの生 合成経路が有力視されている.

(7)

した立体異性体がいずれも活性を示すということも,

SLの立体を吟味されてこなかった原因かもしれない.

しかし注意深く一つ一つの立体異性体を見てみると,そ れぞれの生物に対して活性の強弱があること,そして場 合によっては立体異性体が阻害剤として働くことが明ら かになってきた.さらにSLの生合成研究も少しずつだ が確実に進んできている.SLの生合成と単離されるSL の立体,そしてそれぞれの生物に対する立体異性体の活 性の違いが結びつくのか,もしもつながったら次にどの ような扉が開かれるのか,今後の展開が楽しみな研究分 野である.

謝辞:ササゲの根滲出物に含まれる 種子発芽刺激物質の

構 造 決 定 の 際 に 使 用 し た (+)-orobanchol, (+)-2′-epiorobanchol, 

(+)-4-epiorobancholおよび (+)-4,2′-bisepiorobanchol を分与していただ いた東京大学名誉教授・森 謙治先生に,この場を借りて心より感謝申 し上げます.

文献

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プロフィル

上野 琴巳(Kotomi UENO)    

<略歴>2003年静岡大学農学部応用生物 化学科卒業/2005年静岡大学大学院農学 研究科修士課程修了/2008年岐阜大学大 学院連合農学研究科博士課程修了/同年東 京大学大学院農学生命科学研究科特任研究 員/2010年神戸大学大学院農学研究科学 術推進研究員/2011年4月より日本学術振 興会特別研究員PD(神戸大学大学院農学 研究科),現在に至る<研究テーマと抱 負>低分子プローブを用いた植物ホルモン の機能・代謝機構の解明<趣味>絵(デジ タルペイント)を描くこと

滝川 浩郷(Hirosato TAKIKAWA)  

<略歴>1988年東京大学農学部農芸化学 科卒業/1993年同大学大学院農学系研究 科博士課程修了/1993年三菱化成株式会 社 入 社/1994年 東 京 理 科 大 学 理 学 部 助 手/2001年神戸大学農学部講師/2002年 同大学助教授/2010年同大学教授,現在 に至る<研究テーマと抱負>生物活性天然 物の合成研究<趣味>フラッグフットボー ル,スキー(双方ともやる方というよりは 支援・指導)

杉本 幸裕(Yukihiro SUGIMOTO)   

<略歴>1982年東京大学農学部農芸化学 科卒業/1984年東京大学大学院農学系研 究科農芸化学専攻修了/同年花王石鹸(現 花王)株式会社研究員/1992年鳥取大学 乾燥地研究センター講師/1993年鳥取大 学乾燥地研究センター助教授/2003年神 戸大学農学部教授/2007年神戸大学大学 院農学研究科教授,現在に至る<研究テー マと抱負>寄生性植物の巧みな生存戦略の 解明.得られた知見に基づいて,根寄生雑 草の実践的な防除法を考案したい<趣味>

山歩き,旅行

Referensi

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ンドの乾燥地農業での重要性以外に,もう一つ注目され ていることがある.それは,ゲノム研究の材料として優 れていることである.優れている点としては,ゲノムサ イズが小さく,染色体数の少ない2倍体であること,自 殖性であるということ,栽培しやすいことが挙げられ る.さらに,C4植物であることや北米などでバイオエ タノール作物として利用されているスイッチグラスなど

体は一つでも、多くの部分から成り、体のすべての部分の数は多くても、体は一つであるように、キリストの場合も同様 である。つまり、一つの霊によって、わたしたちは、ユダヤ人であろうとギリシア人であろうと、奴隷であろうと自由な 身分の者であろうと、皆一つの体となるために洗礼を受け、皆一つの霊をのませてもらったのです。体は、一つの部分で