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種子植物における性決定の多様性 - J-Stage

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植物の「性別」を決定する性染色体の研究が始まって以来,

およそ100年もの時間が経つが,いまだにその決定遺伝子や 制御機構に関する知見は非常に限られている.ここでは,植 物では初めて性別決定遺伝子が同定されたカキ属植物におけ る研究を出発点として,進化理論的観点から見た植物の性別 決定メカニズム・性染色体の進化動態など,主に種子植物の 性決定に関する一般性と多様性についての最新の知見を紹介 していく.

植物の「雌雄異株性」

動物における「性」というと,私たちが普段「オス・

メス」と認識している雌雄個体が分離するタイプの性表 現が一般的であるが,植物においてはこの概念は必ずし も一般的ではないかもしれない.種子植物において,そ の性の起源は両性花のみを着生する両全性であるとされ ているが,この両全性は全(種子)植物種のおよそ 70%以上を占めると考えられている.一方で,植物の世 界ではマイノリティーではあるが,最大で5%程度の植

物種では動物と同様に雌雄個体が分離する性(雌雄異株 性)を獲得してきた(1)

.この雌雄異株性の決定因子の進

化は植物種間で独立していると考えられ,これまでに主 に研究されてきたヒロハノマンテマ,スイバ,ホップな どにおいて決定因子の存在する性染色体は定義されてき たものの,そのなかに存在する明確な決定因子はいずれ の植物種においても未同定であった(2).

雌雄異株性の性決定因子と性染色体

具体的な性決定因子の同定はなされなかったものの,

植物における雌雄異株性に寄与する性染色体の進化成立 過程に関する観察・考察は古くから行われてきた(3)

.オ

スヘテロ接合型の性決定様式(XY型性決定)とその決 定因子の性質についての代表的なモデルがD. Charles- worthとB. Charlesworthによって1978年に提唱されて おり,ここでは両全性(hermaphrodite)からのY染色 体の成立について,以下に挙げる2つのイベント,1. 雄 化因子(M)の機能損失(M→m)

,2.  優性の雌化抑制

因子(SuF)の成立,が必要であるとされてきた(4)(図

1

.また,由来の古い性染色体では,染色体間の組換え

日本農芸化学会

● 化学 と 生物 

【解説】

Diversity  of  the  Sex  Determination  in  Seed  Plants:  From  a  Finding of the Sex Determinant in Persimmon

Takashi AKAGI, 京都大学大学院農学研究科

種子植物における性決定の多様性

植物の「性別のしくみ」を解き明かす―柿における発見より―

赤木剛士

(2)

抑制や,大きなY染色体特異的な領域(Male Specific  region of Y chromosome; MSY)が形成されることが示 唆されている(2, 3)

.この概念はこれまで解析されてきた

いくつかの雌雄異株性植物種では共通しており,植物の 遺伝学においては一般的な,組換え価に基づく順遺伝学 的アプローチによる性決定因子の同定が難しかったこと の理由の一つであると思われる.しかし,以下で紹介す るようなカキ属植物を含む非モデル植物を含む多くの雌 雄異株性植物でゲノムワイドな解析が進むにつれ,この 性染色体や性決定因子における性質は,必ずしも普遍的 ではない可能性が示されてきたようにも思える.

カキ属における雌雄異株性とその決定因子の同定 カキ属植物は500種以上を含む広い属全体において,

基本的には雌雄異株性を示すことが示唆されている(5, 6)

さらに,カキ属が含まれるカキノキ科(Ebenaceae)の 周辺属にも雌雄異株性が多く見られることから,その起 源は少なくとも2000万年前,最大で5000万年以上前に までさかのぼると考えられる(5, 6)

.これは,これまで性

染色体解析が盛んに行われてきたヒロハノマンテマやパ パイヤと比較すると,かなり古い由来をもった雌雄異株 性形質であるだろう(7)

.それにもかかわらず,カキ属の

染色体群からは,ヒロハノマンテマなどのような明確な 異型性染色体は観察されていなかった.

植物の性別とは?

「植物の性別」と言われてもピンとこない方が多いかも しれない.実は,その感覚はとても理にかなったことで,

植物の「性別」とは私たち動物とは大きく異なった概念の 上での性別のことを指しているかもしれない.図に示し たように,まず,その性表現の最小単位である花におい て,オス・メスに加えて両性という性別が存在しており,

この両性こそが植物の花という単位における性表現の起 源である.さらに,植物は単一の個体中に花という独立 した性表現の単位を複数所有することが可能であり,これ に対して筆者は「植物は個にして全である」という表現を 個人的に好んで使っている.この概念は動物の個体には 当てはまらない.これらを踏まえて,一つの種における

「可能な性」を網羅的に挙げてみると,少なくとも21種類 もの性表現が存在していることになる.もっとも,植物 の世界では両性が起源であり,大多数である.この潜在 的に多様な性表現の中で,最も明確な性別表現,すなわち

「雄と雌」を示すものは,全植物種の5%程度においての みである.この「雄と雌がはっきり分かれる性別」の成立 要因は植物種間で異なっていると考えられており,言い 換えると,植物は種間で独立した収斂進化として性別表 現を獲得してきたという事になる.

全ゲノム情報から掘り当てる性別決定遺伝子

植物の性別(ここでは雌雄個体が明確に分かれる性別)

は,動物と同様に性染色体によって制御されているケー スが多い.この植物性染色体の研究は,古くはダンゴゴ ケ科の植物において行われ,その後,ヒロハノマンテマ・

パパイヤ・スイバといった植物で広く行われるようになっ た.しかし,さまざまな植物において性染色体は見つかれ ども,その上に存在する性別を決定する因子は,いずれの 種においても見つかっていなかった.この理由には性染 色体の進化様式が少なからず関与してようなのだが,詳

しくは本稿を参照していただきたい.そんななか,「柿」

を含むカキ属植物においてY染色体上に存在する性別決 定遺伝子が同定された.本来,性別の研究にはそれほど 注目されておらず,また遺伝・ゲノム情報も十分には整 備されていなかったカキ属植物であるが,近年のDNA配 列解読技術の躍進により,早急な全ゲノムワイド解析が 可能となり,性別決定遺伝子の同定に至ったのである.

ここで見つかったカキ属植物の性別決定遺伝子群は,そ

の機能と日本語の由来の両者を取り入れられ「 (=雄

木)」「 (=雌木)」と名づけられた.

コ ラ ム

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(3)

カキ属の性決定機作は,ほかの雌雄異株性を示す植物 種の多くと同様に,XY型性染色体によって制御されて

いる(8, 9)

.カキ属植物はいわゆる非モデル植物であり,

全ゲノム情報はおろか,遺伝地図情報や発現データベー スさえも構築されていなかったが,次世代シークエンシ

ング(Next Generation Sequencing; NGS)データの新 規解釈(図

2

)により,2倍体種マメガキ( )ゲ ノムからY染色体上の雄特異的領域(MSY)が特定さ れ,トランスクリプトームデータの統合によって,そこ に存在する性決定因子群の解析が行われた(8)

.僅か22

の遺伝子がY染色体によってコードされる候補遺伝子 として検出されたが,多様なカキ属植物における進化学 的観点から,このうち21の遺伝子はいずれもカキ属雌 雄異株性の成立以後に生じたアレルであり,性決定因子 とはなりえないことが示唆された.しかし,残りの一 つ,非翻訳small RNAをコードする「 (雄木)」と 名づけられた遺伝子「のみ」がカキ属植物全体で雄特異 的に保存され,性決定を統御している可能性を示され た.研究を進めるうち, と相同な配列を有する

「 (雌木)」と名づけられたホメオドメイン遺伝子 が同定され,この常染色体遺伝子は雄個体で発現が抑制 されていることが示唆された.最終的には,形質転換実 験などによって, は に対して移行性RNAiの トリガーとなり,雌化の機能をもつ の発現を抑え こむことで雄化を誘導することが示唆された(図

3

さて,ここで思い出したいのは,上述した「Y染色体 の成立には2つのイベント(因子)が必要である」とい うモデル(以降「2因子モデル」と略記,図2)である.

以外のY染色体上における未同定因子もカキ属の 性決定に関与している可能性は否定できないが,ここで は 単一因子による雌雄異株性の成立の可能性も考 えてみたい.それというのも,単一因子による雌雄異株 性の成立をほのめかすような例や考察が近年になって多 く報告されているのである(10).

図1二因子モデル(3, 4)による雌雄異株性成 立過程

(A)種子植物は本来,両全性であり,ここで は雄性機能を維持する因子(M)に着目して いる.(B)M遺伝子座における機能欠損変異 のヘテロ性固定により,集団は雌花両性花異 株性(ginodioecy)になる.雌雄比の概念か ら進化理論上起こりやすい変異の固定である.

(C)両全性から雌性不稔因子(SuF)の新規 獲得により雄花両性花異株性(androdioecy)

になる.理論上は起こりにくい.(D)M因子 の機能欠損変異(M→m)雌性不稔因子の新 規獲得(f→SuF)の両者が同一のハプロブ ロック内で生じると,雌雄異株性を発現する ことができるディプロタイプが成立する.

図2次世代シークエンシングデータ(Illuminaリード)のサ ブシークエンス(k-mer)カタログ化に基づく全ゲノム情報の ない非モデル植物での目的領域の同定法(8)

ここでは,マメガキ交雑後代においてXY型性染色体をもつ雄個 体群における雄特異的領域(MSY)の同定の例を示す.Illumina リードをゲノム中において特異性が確保される程度の長さに k-mer化し,個体ごとにカタログ化を行う.雌雄プールにおいて カタログの比較を行い,雄プール特異的に出現するk-merを抽出 する.この雄特異的k-merはY染色体の性決定因子に対して組換 えのない領域の多型を網羅するものであり,この雄特異的k-mers を含む元のIlluminaリードを用いてアセンブリを行うことで,  MSYの多型領域のみを構築可能である.

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(4)

雌雄異株性成立の道:カキ属は特殊?

D. Charlesworthらが1978年に掲げた2因子モデル(4) において,雌雄異株性の成立は両全性からの進化であっ た.実際,雄個体からの変異による両全性(両性花のみ を着花する)個体の出現など,このモデルを支持する  結果はヒロハノマンテマやパパイヤ,キウイフルーツ  な ど,多 く の 雌 雄 異 株 性 の 植 物 種 か ら 得 ら れ て い

(7, 11〜12)

.一方で,近年になって単一因子によるモデ

ルもいくつか報告されている.たとえば,雌雄異株性で あるイチョウでは,雄個体の一部から枝変わり(芽条突 然変異)によって雌花が生じた可能性を示している(13)

枝変わりにおいて複数の変異が同時に発生したと考える ことは難しく,単一因子の成立による雌雄異株性の獲得 が起こったことを支持するものであろう.さらに,近年 になってウリ科における研究から明確な単一因子による 雌雄異株性成立過程が提案された(14)

.ここでの前提条

件は上の2因子モデルとは異なっており,雌雄異花同株 性(monoecy)を出発点とした進化である.つまり,図

4

に示したように,雄花・雌花の着生を個体内の内的環 境要因に依存させている状態(言い換えると,雌雄いず れへのベクトルも植物がもちあわせた状態)で,雌雄ど ちらかへのベクトルが強くなるようなイベントが生じた 場合,雌雄のバランスを保つ適応進化によって,逆のベ クトルが成立されるような遺伝的因子の選抜が行われる だろう,というモデルである(3, 15)

.そのなかの一つ

(3)で は,脊椎動物における環境的な要因による性決定進 化(16)を植物における雌雄異花同株と同じように捉えた 例が示されており,ウリ科のモデルと同様,雌雄へのベ クトルを内的環境に依存させている状態(ESD: Envi- ronmental Sex Determination)からの遺伝的因子の成 立と適応進化が述べられている.

このような単一因子の成立に依存した雌雄異株性の獲 得の例は,カキ属植物にも適用可能であるかもしれな い.そのポイントに関与してくる可能性があるのが,六

図4単一因子モデルによる雌雄異株性成立過程の一例

(A)出発点は雌雄異花同株性(Monoecy)である.この段階では,個体内部の性は内的環境に依存しており,環境的性決定(ESD)と定 義される.(B)同じくESDであるが,内的環境の寄与が雌雄のどちらかに偏ることがある.自然条件でも頻繁に観察される現象である.

しかし,外的環境によっては好ましくない状況にもなる.(C)好ましくない性比の歪みへの適応進化の一つとして,性を画一的に決定す る新規遺伝的因子(または機能欠損変異)が発生・選抜され,ヘテロ接合で固定されて遺伝的性決定(GSD)が成立する.内的環境の寄与 はもはや優勢ではなくなり,遺伝的因子の影響を補正する方向に固定されて雌雄異株性(Dioecy)が確立される.

図3 / システムによるカキ属植物の性決定メカニズ ム

雄個体ではY染色体上にある ( )がsmall-

RNAとなって相同な ( )の発現を抑

制する. は雄器官の発達を阻害するため,発現量が多いと 雌花になるが, によって の発現量が減少すると雄花に なる.

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(5)

倍体の栽培ガキ( )の性決定メカニズムである.

栽培ガキのほとんどの品種は雌花のみを着花する雌個体 もしくは雄花・雌花のいずれも着花する雌雄異花同株個 体であり,雌雄異株性を示す野生2倍体種とは少々異な る性決定システムを示す.しかし,興味深いことに,こ の雌雄異花同株個体はすべてY染色体を有しており,

「雄性の発現」にY染色体が必要であるという基本機作 自体は2倍体の雌雄異株性株も6倍体の栽培ガキも同様 であると考えられた(8, 9)

.さて,雌雄異花同株の栽培ガ

キの場合,雄花を着花できるポテンシャル自体はY染 色体に依存しているが,個体中で雄花・雌花どちらを着 花するかは何らかの内的環境要因に依存している.も し,Y染色体中に雄性を発現させるための2因子を定義 するのであれば,性を決定する内的環境要因の寄与はこ の2因子間で完全に同調的な動向を示す必要がある.カ キ属の性決定遺伝子 は非翻訳遺伝子であり,その 機能は の発現抑制のトリガーに限られ,移行性 RNAiを発動したのちは自動的に の発現抑制のポ ジティブループが始まる.したがって,2因子を考える うえではこの の発現抑制ポジティブループと完全 に同調した別のY染色体因子の存在が必要になるわけ である.この状況は不可能ではないかもしれないが,考 慮するうえでは何か特別な機作が必要であろう.

性染色体の進化の一般性? 多様性?

上述のように,由来の古いY染色体(ZW型性決定の 場合はW染色体)は対となるX染色体に対して特異的 な領域(MSY)を拡大することが示唆されている(10, 11)

パパイヤの性染色体進化の例を見てみると,性染色体の 成立が200〜900万年前程度であっても,5〜10 Mbと いった広い領域でMSYを形成しており(7, 17)

,成立がよ

り古いヒロハノマンテマでは,さらに広い範囲でMSY を形成し,性染色体の異型化が進んでいる(2, 3, 11)

.一方

で,カ キ 属 植 物 の 解 析 に お い て は,顕 著 なMSYは 1〜2 Mb程度であるという可能性も推察された(8)

.この

カキのMSY領域内では,反復配列やトランスエレメン トの蓄積など,哺乳類などで定義されている性染色体の 特徴自体は保存されていた.しかし,カキ属の雌雄異株 性起源(つまり性染色体の成立)が少なくとも2000万 年にさかのぼり,パパイヤやヒロハノマンテマの性染色 体成立年代と比較すると古いものであることを考える と,その進化(あるいはY染色体の退化?)は非常に遅 いことが示唆される.興味深いことに,同じような例は 雌雄異株性の木本性植物に共通して見られる.キウイフ

ルーツを含むマタタビ属( )も属全体に雌雄 異株性が保存されており,それを統御するY染色体因子 は属内で共通である可能性が示唆されている(2, 18)

.マタ

タビ属の起源も古いものであると考えられるが,性染色 体の異型化は見られず,交雑分離後代における組換え調 査によってY染色体のごく狭い領域まで性決定遺伝因 子の存在領域を特定することが可能である(19)

.さらに,

ブドウ属( )も属全体で雌雄異株性が保存される

(栽培ブドウなど一部例外を含む)が,その性決定因子 存在領域は,交雑分離後代における組換え調査およびブ ドウ属の多様な種における連鎖不平衡解析より,僅か 150 kb程度にまで限定することが可能であるという報告 がある(20)

.ブドウ属のケースでは,報告されている

データのうえでは,明確なMSYは見受けられず,X‒Y 間は常にPARのような(X‒Y間で相同塩基配列が保存 される)状態で保存されている可能性が示されている.

このような状況が見られる理由はいくつか考えられ る.カキ属・マタタビ属・ブドウ属,いずれも基本的に 木本性種で構成される属であり,世代交代時間は草本性 植物と比較してはるかに長い.さらに,木本性植物の特 徴の一つとして,栄養繁殖が可能であり容易に世代間で の交雑も頻繁に行われる.染色体の乗換えとその結果と して生じる組換えは生殖細胞における減数分裂時に見ら れる現象であり,木本性植物と草本性植物では,この頻 度が大きく異なり,その結果として一見異なった性染色 体進化を示すように見えているのかもしれない.

雌雄異株性から柔軟な性表現への進化

雌雄異株性は時として多様な性表現への変化を示すこ とが示唆されており,植物種間で多様なパターンが見ら れる.たとえばパパイヤ(7, 17)やキウイフルーツ(12)のよ うに雄個体由来の両全性が生じる場合があるが,これは 上述した両全性からの2因子モデルにおいて雌化抑制因 子(SuF)に変異が生じたパターンであると考えられて いる.近年の報告(17)から,パパイヤでは栽培化(また は特定の品種群分化)において,この「両全性への回帰

(SuFへの変異)」に強い選抜圧がかかっていることが示 されている.栽培化の過程では,一般的に,性決定や自 家不和合性といった他殖性が打破されると考えられてお り(21)

,パパイヤの例はこの仮説と一致するだろう.ブ

ドウ属においても,野生種は基本的に雌雄異株性を示す にもかかわらず,栽培ブドウ( など)は雌雄 性決定遺伝子座において両全性アレル(SuFへの変異だ ろうか?)を有することからも(20)

,同様の栽培化の過

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(6)

程における両全性への選抜が疑われるかもしれない.上 述のように,栽培ガキ( )の性決定にも,ある 種の「柔軟性」があり,Y染色体をもっていても雄花・

雌花の両者が着花可能である.この柔軟性の発現機作に ついては,現在,鋭意解明中ではあるが,やはり性決定 遺伝子 とそのターゲットである を中心とし た発現制御がかかわっている可能性が示唆されている.

カキ属の2倍体野生種で見られるような雄個体・雌個体 が完全に分離する画一的な性決定から,より柔軟で可塑 性に富んだ性決定を発現するための変異には選抜(ある いはボトルネック)の形跡も見えており,ここではゲノ ム構造だけではなく,エピジェネティックな制御機作に ついても研究が進められている(22)

.このような,本来

は雌雄異株性であったカキ属植物における性の可塑化 は,栽培ガキに限った話ではなく,6倍体カキ属種のコ クタン( )においても見られる現象である.

コクタンは栽培ガキと同じく高次倍数体種であること や,同様に高次倍数体であるロウヤガキ(

)においても性の柔軟化(両性花様の着生)が見ら れることから,カキ属の倍数化と性決定の柔軟性には何 らかの共通した機作が潜んでいる可能性もあるだろう.

おわりに

本稿では,種子植物の性決定について,主にその進化 や遺伝的因子の多様性について述べさせていただいた.

理論的なモデルから一般性が推定されるようで,しか し,それがすべてではないような…何とも煮え切らない 定義のなかにある植物の雌雄異株性であるが,この煮え 切らなさの由来は,つまるところ雌雄異株性は植物種間 で独立して獲得されてきた,ということにあるのだろ う.一種の収斂進化として雌雄異株性という共通概念は あるものの,特に雄性器官の発達についてはさまざまな 段階での機能不全によって雌個体という概念が成立す る(23)

.生理機作という観点においては,雄ずいがそも

そも形成されないことと,葯内のタペート組織が崩壊し ないことは全く異なる現象であるが,性進化という観点 では一様に「雄性機能欠損」とも言えるだろう.これと 関連して,「性決定の多様性」というと,植物ではその 生理経路において顕著である.たとえば,ウリ科ではエ チレン経路を中心とした作用が機能しているのに対し て(14)

,トウモロコシではブラシノステロイド経路もそ

の性決定に関与していることが示されている(24)

.外的

処理では,サイトカイニンはアサなどで雄性化を誘導す る一方で,ホウレンソウ・ブドウやカキでは雌性化に影

響を与え,オーキシンはアスパラガスやホップなどでは 雄性化を誘導するが,アサでは雌性化に寄与する(25, 26)

これだけ見ても共通性を見いだすのは難しい.もっと も,これは雌雄異株性の話ではなく,もっと広義の性,

雌雄異花同株性なども考慮した際の多様性である.

現在,筆者が個人的に知る限りでも,いくつかの植物 種において雌雄異株性の性決定因子が単離間近(もしく は同定済み)という状況である.今後,カキ属植物に限 らず,多くの植物種でその最上流因子となる遺伝因子が 同定されれば,おのずとその進化や機作の一般性・特殊 性は定義できるようになるだろう.最後に,性表現は育 種や栽培の側面で考慮すべき最重要課題の一つである.

農学研究者という立場から,今後の植物の性決定に関す る研究の進展が大いに農学分野に応用され,多くの農作 物において性表現型の人為的な選抜・改変・制御が可能 になってくることを期待したい.

文献

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プロフィール

赤木 剛士(Takashi AKAGI)

<略歴>2006年京都大学農学部資源生物 科学科卒業/2011年同大学大学院農学研 究科博士課程修了/同年同大学白眉プロ ジェクト特任助教/同年同大学大学院農学 研究科助教/2012〜2014年日本学術振興 会海外特別研究員・カリフォルニア大学 デービス校ゲノムセンター客員研究員(兼 任)/2015年JSTさきがけ研究員(兼任), 現在に至る<研究テーマと抱負>果樹作物 の性決定とゲノム進化<趣味>演奏活動,

釣り

Copyright © 2017 公益社団法人日本農芸化学会 DOI: 10.1271/kagakutoseibutsu.55.35

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例)日本の審議会等における女性委員の比率についての目標設定 ・プラス要素方式 採用などにおいて、同等の能力・資格があることを前提とし、プラスの要素として 進出が遅れている性であることを重視する方式 例)ドイツの公務部門における同等の資格を条件とする女性優先採用 ・その他の穏健な手法 例)女性の応募の奨励や、仕事と家庭の両立支援・環境整備 ○