2011 年度 上智大学経済学部経営学科 網倉ゼミナール 卒業論文
スポーツクラブ市場の潜在需要 スポーツクラブ市場の潜在需要 スポーツクラブ市場の潜在需要
スポーツクラブ市場の潜在需要開拓に向けて 開拓に向けて 開拓に向けて 開拓に向けて
~ ~ ~
~何故我が国 何故我が国 何故我が国 何故我が国のスポーツクラブ市場は のスポーツクラブ市場は のスポーツクラブ市場は のスポーツクラブ市場は伸び悩んでいる 伸び悩んでいる 伸び悩んでいる 伸び悩んでいるのか~ のか~ のか~ のか~
A0842516 古澤 遼
提出年月日 1 月15日(日)
目次
Ⅰ.はじめに………P3
Ⅱ.我が国のスポーツクラブ市場規模(海外との比較)………P4
Ⅲ.仮説(日本の市場が伸び悩んでいる理由)………P5 1. 競争激化による単価の低下
2. 不十分な施設数 3. 市場の需要が無い
Ⅳ.検証………P6 1. Ⅲの1に対する検証
2.Ⅲの2に対する検証
(1)施設数の推移(各国比較)
(2)国内の市場規模と施設数の関連性 3.Ⅲの3に対する検証
(1)スポーツクラブ(運動機会)の潜在需要
(2)実際の運動実施状況
Ⅴ.我が国のスポーツクラブ市場の現状と課題………P12 1.利用目的
2.利用者の割合(世代別・性別)
3.スポーツクラブ登録・利用状況 4.退会率と退会理由
Ⅵ.我が国のスポーツクラブ市場の潜在需要開拓に向けて………P17 1.退会率を減らすための施策(新規顧客を開拓するための施策)
(1)適切な顧客単価
(2)求められるサービスの種類
(3)求められる施設の環境
(4)その他
2.利益を上げるための施策 (1)売上増
(2)コスト削減
Ⅰ.はじめに
近年のダイエットや「メタボリック症候群対策」、アンチエイジングに代表される健康ブーム の広がりなど、個人の健康や体の均整美を志向する社会的機運が高まっている。また、医療費増 による健保財政の逼迫や特定健診と保健指導の制度化により、老若男女問わず、運動機会を提供 するニーズは広がってきていて、スポーツクラブ市場に注目が集まっている。こういった流れを 受けてスポーツクラブが提供するサービスが多様化しつつあり、マシンエクササイズやジョギン グ、ヨガ、エアロビクス、などがあり、その中で、インストラクターが複数の利用客を指導する グループエクササイズや 1 対 1 で行うパーソナルエクササイズがある。そして多くのクラブでは 会員制をとっている。
本論文の目的は、近年スポーツクラブ市場が注目され競争が激化するなかで、我が国のスポー ツクラブ市場規模が伸び悩んでいる原因を解明すること、加えてどのように顧客の潜在需要を掻 き立て市場規模を拡大できるのかについて、具体的な施策を提案することである。本論文でのス ポーツクラブの定義は、「トレーニングジムやスタジオ、プールなどの機能を持ち、ストレス発 散や健康維持を目的として、利用客に運動する場所と機会を提供する施設」である。
Ⅱ.国内のスポーツクラブ市場規模(海外との比較)
我が国のスポーツクラブ市場規模は、経済産業省の平成 22 年特定サービス産業実態調査によ ると、平成 10 年比で約 40.6%増の 4,142 億円となっている。そして、平成 18 年 1 月の特定サ ービス産業動態統計調査においては、その売上高は前年同月比 7.3%増と 46 ヶ月連続の増加とな っていた。しかし、2006 年以降売上高が少しずつ減少してきている。加えて伸び率も僅かでは あるが減少してきている。(表1)この数字は、既存市場内で競争が激化してきているスポーツ クラブの市場において、その市場規模が近年の健康ブームに反して伸び悩んでいることを示すで あろう。
それに対して米国や英国は、市場規模を順調に拡大している。特に英国は、柔軟なサービスや、
高齢化へのニーズを背景に施設数を増やし、市場規模を 1988 年から 2010 年にかけて 5 倍以上に 拡大することに成功した。また人口一人当たりの市場規模の観点から見ても、2010 年時点で日 本は 3,251 円であり、米国の 4,986 円や英国の 10,761 円に大きく引けをとっている。(表2、
3)この数字からは、仮に日本における人々の運動に対する需要と、欧米における人々の運動に 対する需要が同程度だと仮定した場合、我が国のスポーツクラブ市場の潜在需要は大いにあると 考えることができる。
表 表 表 表
1 1 1 1
民間クラブ市場規模民間クラブ市場規模(億円、%)民間クラブ市場規模民間クラブ市場規模億円、%)億円、%)億円、%)
年 年年
年 20052005 年20052005年年年 20062006 年20062006年年年 20072007 年20072007年年年 20082008 年20082008年年年 2009200920092009 年年年年
売上高 4,019 4,272 4,220 4,157 4,087
伸び率 ― 6.30 -1.22 -1.49 -1.68
日本のクラブ業界のトレンド
2009
年版P1
をもとに編集 表表表表
2 2 2 2
民間クラブ市場規模民間クラブ市場規模(億円)民間クラブ市場規模民間クラブ市場規模億円)億円)億円)
年 年年
年 1998年年年年 2002年年年年 2005年年年年 2008年年年年 2010年年 年年 日本 2945.0 3259.0 4019.0 4157.0 4142.0
米国 6396.0 ― ― 14898.0 15834.0
英国 1200.0 1920.0 ― 8508.0 6661.2
1ドル=78 円、1ポンド=120 で計算
Fitness online For Business のデータをもとに作成 表
表 表 表
3 3 3 3
人口一人当たりの市場規模(百円)
年年
年年 1998年年 年年 2002年年 年年 2005年年年年 2008年年 年年 2010年年年年
日本 23.45 25.57 31.46 32.60 32.51
米国 22.22 ― ― 47.80 49.86
英国 20.37 32.32 ― 139.02 107.61
Ⅲ.仮説(日本の市場が伸び悩んでいる理由)
以上のような日本のスポーツクラブ市場規模の現状を踏まえて、現在のスポーツクラブ市場が 伸び悩んでいる原因について以下のような仮説を設定することにした。
1. 競争激化による単価の低下
近年までの我が国のスポーツクラブ市場は、健康ブームの加速に反して伸び悩んでいる。その 主な原因の1つとして「スポーツクラブ展開企業による競争激化」という仮説を立てた。近年の ファーストフードやファストファッション市場に見られるように、顧客獲得や売上高の拡大のた めに、価格競争が激化する業界は多い。そのため、市場全体としての売上高が伸び悩むという結 果になってしまったのではないか。スポーツクラブ市場もその1つとした。
2. 不十分な施設数
後に表 5 で示すが、我が国のスポーツクラブ数は欧米と比較するとかなり少ない。仮に我が国 の国民が、日ごろから運動したいという欲求を持ち、必要性を感じていると仮定すると、市場規 模が拡大しない主な原因の1つとしては、十分な施設数がないことが挙げられる。以上のことか ら不十分な施設数も仮説の1つとした。
3. 市場の需要が無い
個人的な見解として、日本人は欧米の人々と比較し日ごろから運動する習慣が少ないように思 われる。仮に日本人が日ごろから運動する欲求を持つことなく、必要性を感じていなかったら、
すなわちそれは、我が国の人々の運動をすることに対する需要の無さと捉えることができる。仮 に当仮説が、市場の伸び悩みの答えだとするとスポーツクラブ市場に潜在需要の存在自体が否定 されることになる。
Ⅳ.検証
1. Ⅲの1に対する検証
ここでは、本当に日本のスポーツクラブの顧客単価が低いことが、市場規模拡大の弊害になっ ているかについて確認していきたい。表4は、日・米・英の民間クラブ顧客単価を表している。
会員一人当たりの単価は、日本において 1998 年から 2010 年にかけて大きな変化は見られない。
この傾向は恐らく今後も大きく変わらないものと考えられる。一方、米国は 1988 年から 2005 年にかけて僅かながら顧客単価が上昇している。恐らく現在は 4000 円程度で顧客単価が推移し ているものと考えられる。英国は 1998 年から 2005 年にかけて大きく顧客単価が上昇している。
この要因としては主に、英国におけるスポーツジム施設の設備の充実や、本格的なインストラク ターやスタッフの導入等が考えられる。
検証の結果、日本は欧米と比較して顧客単価が高いことがわかった。この要因としては、スポ ーツクラブの人件費が他国より高いことや、維持コストの高いプールを併設している施設が他国 よりも多いことが挙げられる。以上のことから、スポーツクラブ展開企業間で起こる競争激化に よる単価の低下という説は否定される。
表 表 表 表
4 4 4 4
民間クラブ月間客単価(円)民間クラブ月間客単価(円)民間クラブ月間客単価(円)民間クラブ月間客単価(円)
年 年 年
年 1998年年年年 2002年年年年 2005年年年年 2008年年 年年 2010年年年年
日本 8,430 8,249 8,343 8,829 8,490
米国 3,891 ― 4,290 ― ―
英国 3,360 ― 7,560 ― ―
1ドル=78 円、1ユーロ=120 で計算
Fitness online For Business のデータをもとに作成
2.Ⅲの2に対する検証
(1)施設数の推移(各国比較)
ここでは、日本のスポーツクラブ施設数が少ないことが、市場規模拡大の弊害になっているか について確認していきたい。表 5 は、日・米・英の民間クラブ数を表している。まず、単純な施 設数に関して見てみると 2010 年時点で日本が 3,574 軒で最も少ない。次いで英国の 5,885 軒、
米国の 29,890 軒と続く。3 カ国の施設数の上昇率に関してみると 1998 年から 2010 年まで、日 本約 130%、米国約 150%、英国約 227%と運動する機会の必要性が問われるとともに、需要の 拡大に合わせ、全ての国々で施設数が急増する結果となった。
表 表 表 表
5 5 5 5
民間クラブ数(軒)民間クラブ数(軒) 民間クラブ数(軒)民間クラブ数(軒)
年年年
年 1998年年年年 2002年年年年 2005年年年年 2008年年年年 2010年年 年年
日本 1,548 1,708 1,880 3,269 3,574
米国 12,000 ― ― 30,022 29,890
英国 1,800 1,943 1,980 5,755 5,885
日本のクラブ業界のトレンド
2001~2009
年版 各P1
をもとに作成次に1民間クラブ数あたりの人口(万人)(表6)について確認しておきたい。最も注目すべ き点は日本の数字である。日本のスポーツクラブ市場は競争が激化しているとか、飽和状態にあ ると囁かれているが、人口当たりの潜在需要を仮に同程度と仮定した場合に、欧米に比べ施設数 はかなり少ないことがわかる。また、表5では一見すると米国に施設が多すぎ飽和状態になって いるように思われるが、英国と米国の1民間クラブ数あたりの人口(万人)の水準は変わらない ことがわかる。国土面積と国土構成、人口の兼ね合いもあるが、それらを考慮しても日本の施設 数は欧米と比較して多いということはできないであろう。ここまでの検証で、我が国のスポーツ クラブ数が少ないことが、市場規模拡大の弊害になっているという点に関して、クラブ数が少な いという点に関してのみある程度実証できた。次に、他国と比較して少ない施設数と市場規模の 停滞の間の因果関係について見ていくことにする。
表表 表表
6 6 6 6
1民間クラブ数あたりの人口(万人)1民間クラブ数あたりの人口(万人) 1民間クラブ数あたりの人口(万人)1民間クラブ数あたりの人口(万人)
年 年 年
年 1998年年 年年 2002年年 年年 2005年年 年年 2008年年 年年 2010年年 年年
日本 8.11 7.46 6.80 3.90 3.56
米国 2.40 ― ― 1.04 1.06
英国 3.27 3.06 3.04 1.06 1.05
総務省統計局「国勢調査」及び「人口推計」による人口をもとに作成
(2)国内の市場規模と施設数の関連性
表の 1,7 は、2005~2009 年までの民間クラブ市場規模(億円、%)と施設数の推移(軒、%)
について表している。過去 5 年間を見てみると、「売上高(市場規模)」と「施設数」の間の相関 がかなり小さくなっていることがわかる。2005 年は新規施設数の件数に合わせて、売上高もほ ぼ同じ割合で上昇しているが、国内で急激に新規施設が増えはじめた 2006 年以降、「売上高」と
「施設数」の2つの間の相関関係は低くなってきている。実際に 2005 年から 2009 の間の両者の 相関を見てみると約「0.22」となり、我が国の市場規模と施設数の間の相関はほとんどないこと になる。更に 2006 年から 2009 年の間の両者の相関は約「-0.93」となりマイナスの相関となる。
以上の検証結果より、施設数が増加したことによって、殆ど市場規模が拡大していないことから、
施設数が市場規模に与える影響は大きくないものと判断できる。よって、日本のスポーツクラブ
施設数が少ないことは考えられるが、その事実が市場規模拡大の弊害になっている可能性は低い と考えられる。
このことは、一見現在のスポーツクラブの市場規模が飽和状態であることを示しているようだ が、調査を進めるなかで売上高が伸び悩んでいる原因の1つに、各スポーツクラブが提供するサ ービスの類似性の高さがあるのではないかと考えられた。もし仮にそうであるとするならば似通 っている店舗を何店舗も増やしたところで、新規(潜在)顧客のニーズは満たすことはできない。
それ故、市場規模も拡大しない。現在の国内の市場は、限られた需要を各スポーツクラブが奪い 合っている状況に他ならないのかもしれない。
表 表 表 表
7 7 7 7
施設数の推移(単位:軒、%)施設数の推移(単位:軒、%) 施設数の推移(単位:軒、%)施設数の推移(単位:軒、%)
年 年年
年 2005200520052005 年年年 年 2006200620062006 年年年 年 2007200720072007 年年年 年 20082008 年20082008年年年 20092009 年20092009年年年
施設数 2,049 2,541 3,040 3,269 3,388
新規施設数 106 499 512 245 152
伸び率 ― 24.01 19.64 7.53 3.64
日本のクラブ業界のトレンド
2009
年版P1
をもとに編集3.Ⅲの3に対する検証
(1)スポーツクラブ(運動機会)の潜在需要
ここまでの話は、国民一人あたりのスポーツクラブに関する潜在需要を仮に、欧米と同じ程度 とした議論もあった。ここでは、実際に日本国民は体を動かすことに対する必要性を感じている のかを以下で検証することにする。図 1 を見ると、運動することに対する必要性を少なからず感 じている人の割合は全体の 93%にも達する。また、その年に実現したい項目でも、1 位に「定期 的な運動」、5位にダイエットとあり、運動以外の項目と比較してみても体を動かすことに対す る需要は高いことがうかがえる。(図 2)加えて、今後希望するスポーツ活動に関して見ても、
自宅や 1 人での運動を含む「他の活動」の項目を抑え、「フィットネスクラブ(スポーツクラブ)」
の需要もかなり高いことがわかる。(図1)以上の検証結果から、実際に日本国民は体を動かす ことに対する必要性を感じていることが実証できた。
図 図 図 図
1 1 1 1
出典:一般市民に健康観と運動の実践及びフィットネスクラブに関する意識調査(FIA)
N=2502 図
図 図 図
2 2 2 2
出典:株式会社クロスマーケティングアンケート資料 N=1141 よりグラフを編集
【実施対象】全国 18~69 歳
【調査時期】2006 年 1 月
(2)実際の運動の実施状況
では実際にかなり多くの日本国民が運動する必要性を感じている中、どれほどの割合の人々 が実際に運動を行っているのかについて確認する。下のグラフは、運動をしている頻度について 伺ったものである。内訳を確認すると、週 1 回以上運動している人は全体の約 3 割程度にしかな らない。月 1 回でも運動をしている人を含めても半数強である。(図3)
また各国のスポーツ実施率(週 1 回以上の運動を行う者の割合)と日本のそれを比較してみ
58.8%
55.0%
46.7%
32.5% 30.9%
19.4%
16.7% 16.2% 15.2% 14.5%
0.0%
10.0%
20.0%
30.0%
40.0%
50.0%
60.0%
2006 2006 2006
2006 年に実現したいことトップ10(複数回答可) 年に実現したいことトップ10(複数回答可) 年に実現したいことトップ10(複数回答可) 年に実現したいことトップ10(複数回答可)
ると、欧州、豪州に加え、同じアジア圏に位置する韓国と比較しても、我が国のスポーツ実施率 は最低水準である。(図4)ここで注目すべきは韓国と日本の比較であり、生活習慣や生活水準、
文化を大きく変わらない 2 カ国の間でスポーツ実施率に 20.8%のギャップが生じる原因につい ては考える必要がある。この原因として考えられる理由の1つは、兵役の有無であると思われる。
男性を中心に世界各国には現在も兵役があるが、ある国とない国を比較するとない国の方が体を 動かす習慣が少ないことが想定される。
また別の要因としては、日本人の方が韓国人と比較し健康志向が低いことが考えられる。実 際に図5が示している通り、日常生活で健康に良くないと思いつつ続けている習慣として「運動 不足」はトップに挙がっている。余暇時間に行うことの優先順位の違いがこのような結果を招い ていると考えることもできる。しかしこの事実は逆の発想をすれば、日本のスポーツ実施率を韓 国と同程度の水準まで引き上げる余地があることを示している。
以上のことから、我が国の人々は絶対的に見ても、相対的に見ても運動する必要性を日ごろ から感じているにも関わらず、実際に運動できている割合が非常に少ないことがわかる。更に、
先ほど図1で示した通り運動する場所としてのスポーツクラブの需要も高い。これらのことは、
我が国のスポーツクラブ市場には大きな潜在需要が潜んでいることを示しているとともに、その 潜在需要を開拓することが我が国のスポーツクラブ産業にかかる課題といえる。
図 図 図 図
3 3 3 3
(ここでいう「運動」とは、例えば営業などの仕事や、通学などは含まない。) 日本のクラブ業界のトレンド2009年版 P3よりグラフを編集
【調査対象】インターネットコミュニティ「MyVoice」のアンケートモニター
【調査方法】インターネット調査(ネットリサーチ)
【調査時期】2009 年 6 月 1 日~6 月 5 日【回答者数】15,106 名
【実施機関】マイボイスコム株式会社
5.60%
4.70%
12%
11.50%
6.40%
3.30%
9.20%
47.10%
運動の頻度に関するグラフ 運動の頻度に関するグラフ 運動の頻度に関するグラフ 運動の頻度に関するグラフ
ほぼ毎日 週4~5 週2~3 週1回 月2~3 月1回 月
1
回未満全く運動をしていない
図 図 図 図
4 4 4 4
(備考)スポーツ実施率:「週1回以上の運動を行う者の割合 SFF笹川スポーツ財団「スポーツ白書」2006年より作成 図
図 図 図
5 5 5 5
出典:nikkeiBP 社サイト nikkeiBPnet 2004 年 7 月 29 日 http://nikkeibp.co.jp/archives/322/322497.html
【実施機関】:日経 BP 社医療情報開発 日経 BP コンサルティング 調査第一部
38.5%
59.3% 60.0%
69.7%
77.0%
0.0%
10.0%
20.0%
30.0%
40.0%
50.0%
60.0%
70.0%
80.0%
90.0%
スポーツ実施率の国際比較
スポーツ実施率の国際比較
スポーツ実施率の国際比較
スポーツ実施率の国際比較
Ⅴ.我が国のスポーツクラブ市場の現状と課題
これまで、幾つかの仮説の検証を通じて我が国のスポーツ市場の現状は、多くの潜在需要はあ るものの、近年市場規模が停滞しているということまでは明らかにできた。しかし、なぜ多くの 潜在需要があるにも関わらず市場規模が拡大しないのかという原因は解明できていない。この章 では、今までの仮説の検証を踏まえつつ、更に我が国のスポーツクラブ市場の現状を深く分析す ることでそこに潜む課題を明らかにしていく。
1.利用目的
はじめに、そもそもなぜ人々はスポーツクラブを利用するのかという動機について見ていく。
図6は「スポーツクラブに通う理由」を示している。これを見ると、「運動不足の解消」のため、
「健康の維持・回復」のため、「気分転換・ストレスの解消」になるから等、多くの人々が日ご ろから思っているような些細な動機をきっかけに、スポーツクラブを利用する顧客の割合が高い ことがわかる。このことを考えると、普段から本格的にスポーツをしている人々の割合よりも、
そうではないスポーツクラブ利用者の割合の方がはるかに大きいことがわかる。
図 図 図 図
6 6 6 6
日本のクラブ業界のトレンド
2007
年版P3
よりグラフを編集N=495
2.利用者の割合(世代別・性別)
クラブの利用者に関して年齢別に見ていくと、20 代が全体に占める割合としては最も高く2 001年の時点では、26.4%である。次いで 30 代が 24.4%、40 代は 17.9%、50 代以上は 31.2%
となっている。(図7)高齢化の進展や医療費の高騰によって中高年層の健康管理への関心が高 まっていることもあって、今後の流れとしては、少子高齢化の流れを受け 20 代、30 代の利用者
75.4% 74.7%
62.8%
45.3%
41.6%
37.2%
13.7%
7.5% 6.5% 5.9% 4.6% 2.4% 0.6%
0.0%
10.0%
20.0%
30.0%
40.0%
50.0%
60.0%
70.0%
80.0%
スポーツクラブに通う理由(複数回答可)
スポーツクラブに通う理由(複数回答可)
スポーツクラブに通う理由(複数回答可)
スポーツクラブに通う理由(複数回答可)
図 図 図
図
7 7 7 7
スポーツクラブ利用者の年齢別構成比のグラフ スポーツクラブ利用者の年齢別構成比のグラフスポーツクラブ利用者の年齢別構成比のグラフスポーツクラブ利用者の年齢別構成比のグラフ出典:Fitness online For Business
(図 7,8 は、日本のフィットネスクラブ 17 社の成人クラブ会員の年齢別・性別構成比の推移を 過去 5 年間にわたりチェックしたもの。「フィットネス産業基礎データ資料 2001」(社団法人日 本フィットネス産業協会)掲載のデータを Fitness online For Business の「フィットネスビジ ネス」編集部がグラフ化したもの。)
次に、世代間だけでなく男女間の観点から利用者を分析する。図8は、男女別スポーツクラ ブ利用者の年齢別構成比のグラフについて示している。このグラフからは主に2つのことが 理解できる。1つ目は、1995年から2001から一貫して女性の利用者の割合が高く、男女 全体で女性の占める割合が増加しているという点である。2つ目は、図5において50代以降の 利用者の割合が増加していることを示したが、男性の割合は大きな変化はなく、50代以降の利 用者の増加における要因がほぼ女性によってもたらされていることがわかる。以上のことを踏ま え、高齢者における男女間のスポーツクラブの需要差が、若者と比較しほぼ無いと仮定すると、
既存のスポーツクラブは、高齢者のなかでも女性のニーズは開拓しつつあるが、一方で男性に対 するスポーツクラブのニーズを十分に取り入れられていないと考えられる。
図 図 図
図
8 8 8 8
男女別スポーツクラブ利用者の年齢別構成比のグラフ 男女別スポーツクラブ利用者の年齢別構成比のグラフ男女別スポーツクラブ利用者の年齢別構成比のグラフ男女別スポーツクラブ利用者の年齢別構成比のグラフ出典:Fitness online For Business
3.スポーツクラブ登録・利用状況
スポーツクラブ登録・利用状況に関して、以下の図9を見ると、「登録(利用)したことはな い」と回答した人が 63.1%を占め、「会員登録をしていてかつ利用している」人は、全体の 1 割 弱にとどまっている。ここで最も注目して欲しい点は、「登録している又は登録していたのに現 在は利用していない(退会した)」人が全体の 28.5%を占めることである。登録しているが利用 していない人は、今後解約する確率が高いものと考えられることから退会予備軍とすることがで きるかもしれない。これらのことから、スポーツクラブ市場の市場規模拡大のためには「登録(利 用)したことはない」63.1%の層を顧客に取り入れることは勿論のこと、「登録している又は登録 していたのに現在は利用していない(退会した)」28.5%の層の顧客の退会率を如何に減らすか が最優先課題になると考えられる。また図1と比較すると、運動することに対する必要性を非常 に感じる割合が 46%であり、少なからず感じている人の割合が全体の 93%にも達する。加えて 図3,4で示した通り日本人の実際のスポーツ実施頻度が低いことを考慮すると、何らかの理由 でスポーツクラブに行きたくても行けない人々が多くいることや、この市場の潜在需要が大きい ことが考えられる。
図 図 図 図
9 9 9 9
日本のクラブ業界のトレンド2009年版 P3よりグラフを編集
【調査対象】インターネットコミュニティ「MyVoice」のアンケートモニター
【調査方法】インターネット調査(ネットリサーチ)
【調査時期】2009 年 6 月 1 日~6 月 5 日【回答者数】15,106 名
【実施機関】マイボイスコム株式会社
4.退会率と退会理由 退会率
表 8 は性別・年齢別の退会率について示している。まず男女全体の傾向として確認できること は、年齢が上になるにしたがって退会率が低下していくということである。逆に言うと若い世代 の高い退会率が全体の退会率を低下させてしまっているということである。その原因として挙げ られることはいくつかあるが、主要なものは「金銭的な問題」、「運動の必要性を感じない」、「上 の年代に比べて時間がない」等があると思われる。
では実際に退会する人々の意見としてはどのようなものがあるかについて見ていきたい。
表 表 表 表
8 8 8 8
性別・年齢別の退会率性別・年齢別の退会率性別・年齢別の退会率性別・年齢別の退会率 年齢年齢年齢
年齢 ~~~29~2929 歳29歳歳 歳 30~~~~39歳歳歳歳 40~~~~49494949 歳歳歳 歳 50~~~~59595959 歳歳歳 歳 60~~~~69696969 歳歳歳 歳 70歳~歳~歳~歳~
男性 9.8 7.5 5.4 4.5 3.9 2.9
女性 11.3 7.9 5.7 5.3 4.0 2.6
出典:『フィットネス産業基礎データ資料 2001』(FIA)。全体平均 5.9%
6.1%
2.1%
0.5% 1.5%
26.5%
63.1%
0.3%
クラブの利用に関するグラフ クラブの利用に関するグラフ クラブの利用に関するグラフ クラブの利用に関するグラフ
月額会員として登録 し、利用
都度会員として登録 し、利用
月額会員として登録 し、利用せず 都度会員として登録 し、利用せず 退会した
登録したことがない
退会理由
次の図 10 は、退会あるいは非利用理由について伺ったものである。最も多い理由としては「忙 しくなり、時間が無くなった」が 49.0%でトップ、以下、「通うのが面倒くさくなった」(31.7%)、
「お金がかかる」(26.7%)と続く。以下の項目は、「利用者の個人的な事情によるもの」と「スポ ーツクラブ側の事情」と大きく2つに分けて区分できる。ここでは、黒丸「●」が項目の前につ いている項目を「利用者の個人的な事情によるもの」とした。すると、前者に占める割合が約 117.5%、後者に占める割合が約 59.4%となる。(その他と無回答除く)このことから全体の退 会理由のうち約 66.4%は「利用者の個人的な事情によるもの」であり、残り約 33.6%が「スポ ーツクラブ側の事情」であると分かる。以上のことから、前者に関する問題はスポーツクラブ側 が改善できるものではないと考えると、後者の問題を解決することによって如何に退会率を減ら すかということが大きな課題であると分かる。
図 図 図 図
10 10 10 10
日本のクラブ業界のトレンド2009年版 P3よりグラフを編集
【調査対象】インターネットコミュニティ「MyVoice」のアンケートモニター
【調査方法】インターネット調査(ネットリサーチ)
【調査時期】2009 年 6 月 1 日~6 月 5 日【回答者数】15,106 名
1.8%
1.6%
8.9%
0.8%
1.2%
1.9%
2.2%
4.2%
5.8%
6.6%
7.3%
10.0%
10.1%
17.8%
26.7%
31.7%
49.0%
0.0% 10.0% 20.0% 30.0% 40.0% 50.0%
無回答
●特にない(なんとなく)
その他
●体を動かす必要を感じなくなった スポーツクラブが移転した 公共のスポーツ施設に変更 インストラクターの指導が迷惑
●個人で運動を行うようになった
●体調が良好でなくなった
●期待していた効果がでない 営業時間と通える時間の不一致 混雑でトレーニングしにくい 飽きてしまった
●引っ越しをした お金がかかる
●通うのが面倒くさくなった
●忙しくなり、時間がなくなった
退会理由(複数回答可)
退会理由(複数回答可)
退会理由(複数回答可)
退会理由(複数回答可)
Ⅵ.我が国のスポーツクラブ市場の潜在需要開拓に向けて
1. 退会率を減らすための施策(新規顧客を開拓するための施策)
この章では、第4,5章で明らかになった事実をもとに、我が国のスポーツクラブ市場の潜在 需要を開拓するために、本来あるべきスポーツクラブ市場の在り方について提案していくことに する。まず初めに申し上げておきたいことは、前提として、退会率を減らすための施策と新規顧 客を開拓するための施策は、その目的が顧客のニーズを満たすということにあり、前者と後者の ニーズに大きな違いは考えられないということから、1つの問題として捉えることとした。言い 換えると、図9において「登録している又は登録していたのに現在は利用していない(退会した)」 28.5%に対する施策と、「登録(利用)したことはない」63.1%に対する施策を1つの問題と捉える ということである。図1と図9の調査対象は異なるが、その年齢・性別構成割合に大きな違いが 見られないと仮定し、両者のグラフの構成を比較すると「登録している又は登録していたのに現 在は利用していない(退会した)」層と、「登録(利用)したことはない」層で区別することはあま り意味がなく一緒に考える方が効果的と考えた。
これらのことを踏まえた上で以下では、上で示した退会理由のうち、スポーツクラブ側が対応 可能なものとして考えられる原因を中心について改善方法を探っていく。ここで扱う主要な理由 は、「お金がかかる」26.7%、「飽きてしまった」10.1%、「思うようにトレーニングができなか った」10%、「スポーツクラブの営業時間と通える時間が合わなくなった」7.3%である。これら すべてを足し合わせると 54.1%となり、「スポーツクラブ側の事情」による退会理由(59.4%)
の 9 割以上をカバーできることがわかる。更に全退会理由の割合(185.8%)で見ても 3 割程度 を占めることになる。
(1)適切な顧客単価
まず 1 つ目の理由の「お金がかかる」については、顧客単価を下げることによって対応できる。
表4で示した通り我が国のスポーツクラブの顧客単価の水準は、欧米と比較したときにかなり高 い水準にあることがわかる。米国と比較した場合では 2005 年時点で、我が国の顧客単価は米国 の約2倍にも達する。また現在、顧客が求めるスポーツクラブの希望月会費金額 は 5,500 円で ある。(「一般市民の健康観及びフィットネスクラブに関する意識調査」データより)世界的にみて先進 国のスポーツクラブの顧客単価の適正水準は「4500~7,500 円」の間にあると考えられることか ら、我が国のスポーツクラブは顧客単価を今の水準から2割~3割程度下げるべきである。そう することで、金銭面を理由に退会した顧客を取り戻し、あるいは通うことができない顧客を獲得 することができると考える。
(2)求められるサービスの種類
次に、2つ目の「飽きてしまった」の背景としては、ここではクラブのサービスのバリュエー ションが十分になかった、あるいは顧客のニーズを満たすサービスがなかったものと仮定する。
我が国のスポーツクラブの特徴は、欧米と比較してクラブの多様性がないことがあげられる。こ
のことが「飽きてしまう」ことの大きな要因であると考えられる。欧米では、ヨガやエクササイ ズに特化したクラブもあれば、ダンスやピラティスに特化したクラブもある。それ以外にも、高 齢者向けのクラブ等も増えてきている。それに対して、我が国のスポーツクラブは多くの企業が 参入しているのにも関わらず、それらが提供するサービスはどこも似通っているとともに、サー ビスの価格帯もほとんど変わらない。筋力トレーニングやランニングマシン、バイク等誰もが想 像する一般的なスポーツクラブにあるようなサービス以外を中心サービスとして提供するスポ ーツクラブが少ない。顧客の年齢層に関しても、高齢者向けのスポーツクラブ数は本来の市場の 潜在需要に対して非常に少なく、20~50 代をターゲットにしているスポーツクラブがほとんど である。
ではどういった種類のサービスが今日求められているのか。図 12 のグラフは、スポーツクラ ブでよくやる種目(1 つのみ選択)について示したものである。これを見ると、図 11(複数回答 可)とは異なり、1 位にエアロビクス、2 位にヨガ、4 位にスイミング、またそれ以外にもダン スやピラティス、アクアビクスといったものまで、スポーツクラブの主要サービス以外の種目も よく行われていることが分かる。以上の種目の共通の特徴として、「そこまで激しくなく、体に 大きな負担にならず、長い間続けられる」ということがある。このような結果がでる背景には、
図6で見られるように、多くの人々が日ごろから思っているような些細な動機をきっかけに、ス ポーツクラブを利用する顧客の割合があるだろう。またこのような種目のニーズは特に女性で高 いことは勿論のこと、高齢者層でも高いことを考えると、高齢者向けのスポーツクラブの潜在需 要は拡大の余地があると思われる。またこのアンケートが実施されてから現在まで、ダンスやピ ラティス、アクアビクス等のサービスを提供するスポーツクラブ自体が少ないことを考慮すると、
これらのサービスを特化して提供する潜在需要は特に大きいと考えることもできる。
以上のこと考えると、日本のスポーツクラブも欧米のように、高齢者をターゲットにしたスポ ーツクラブや、ある程度特定の種目に特化したサービスを提供するスポーツクラブが求められて いる。またそうすることで副次的に顧客単価や人件費の減少も望めるかもしれない。
図 図 図 図
11 11 11 11
58.2%
52.7%
46.7%
35.8% 34.5% 32.7%
23.0% 20.6%
12.1% 9.7%
0.0%
10.0%
20.0%
30.0%
40.0%
50.0%
60.0%
スポーツクラブでよくやる種目(複数回答可)
スポーツクラブでよくやる種目(複数回答可)
スポーツクラブでよくやる種目(複数回答可)
スポーツクラブでよくやる種目(複数回答可)
図 図 図 図
12 12 12 12
日本のクラブ業界のトレンド
2007
年版 各P2
をもとに作成 N=163(3)求められる施設の環境
退会理由の 3 つ目に挙がった「思うようにトレーニングができなかった」の背景として、本論 文では「やりたいサービスが十分になかった、やりたいサービスはあるが行いたいときに行うこ とができなかった」と仮定する。まず前者は、2 つ目の「飽きてしまった」ことに対する施策で カバーできる。残りの問題は、やりたいときにサービスを利用できないことである。これはすな わち、顧客による混雑や機械数の不足等が原因で、顧客がサービスを十分に利用できない状態と 言い換えることができる。当問題に対する解決策としては、マシンや施設の使用に時間制限を設 け適切に管理することである。実際に、体力がない利用者や高齢者の利用者は、周囲に本格的に トレーニングしている利用者がいる環境では、満足にサービスを利用できないケースが多いと思 われる。当改善策は、普段スポーツをしていない人々にとってスポーツクラブの敷居を低くする ことができるとともに、スタッフ研修を徹底することで十分に達成可能である。そして我が国の 施設の面積や機械の購入費用を考慮すると当改善策が最も適切な策と考えられる。
退会理由の4つ目は「スポーツクラブの営業時間と通える時間が合わなくなった」である。我 が国のスポーツクラブにおける問題のうちの1つが、営業時間にある。日本は欧米と比較して 24 時間営業あるいは深夜早朝営業を行う店舗が非常に少ない。このことは、それほど大きな問 題と思えないという声もあるかもしれないが、日本という国においては特に大きな問題になって いる。その理由は、日本人の労働時間は世界的に見てもとても長く、1 日あたりの余暇時間が非 常に限られているためである。このことが図 10 の退会理由の項目で「忙しくなり、時間が無く なった」が 49.0%でトップになるという結果とともに、当問題である「スポーツクラブの営業時 間と通える時間が合わなくなった」事態を招いていると考えられる。
29.6%
15.3% 14.7% 13.5%
9.2% 8.6%
6.1%
3.7% 3.1% 2.5%
0.6%
0.0%
5.0%
10.0%
15.0%
20.0%
25.0%
30.0%
スポーツクラブでよくやる種目(1つのみ選択)
スポーツクラブでよくやる種目(1つのみ選択)
スポーツクラブでよくやる種目(1つのみ選択)
スポーツクラブでよくやる種目(1つのみ選択)
この様な問題を解決するための方法は、スポーツクラブの営業時間を延長することしかない。
現在の日本企業が展開する店舗の営業時間の平均は約 9 時~23 時ごろ(筆者が各店舗の情報を もとに計算)である。実際に我が国において早朝深夜営業あるいは 24 時間営業する店舗を展開 している企業は海外企業が多く、海外企業がフランチャイズ店を展開するという形態が一般的で ある。日本企業も人件費やメンテナンス費用の問題等、当問題解決へのハードルは高いと思われ るが、店舗の立地やターゲットを踏まえ店舗ごとに営業時間を変更するなど、柔軟な経営体制を とりいれることが求められているのかもしれない。
以上、「スポーツクラブ側の事情」による退会理由4点に関して解決策を検討してきた。これ ら4つの回答割合は、「スポーツクラブ側の事情」による退会理由の 9 割以上をカバーしている ため、完全に4つの原因を取り去ることができなくとも、退会率を減少させるとともに、スポー ツクラブ市場の潜在需要を開拓することができることは言うまでもない。
(4)その他
次に上に挙げた以外の施策として、我が国のスポーツクラブ市場の潜在需要を開拓するためにど のようなものがあるか考えることにする。ここでは、市場規模拡大の弊害として2つのことを考 える。1 つは「女性に比べて少ない男性の利用者」である。そして 2 つ目が「日本における他国 と比較し、当たり前のように運動をする習慣の不足」である。
まず1つ目に関して、図8では我が国において、女性に比べ男性の利用者が少ないことを示し た。その原因としては、まず男性向けのサービスのバリュエーションがすくないこと。若しくは 男性が利用したいと考えるサービスはあるが、女性が主に利用するという固定観念があるため、
男性が利用しにくいことが考えられる。仮にこれが事実だとするならば、フィットネスやヨガ、
ピラティスといった一般的に女性向けのサービスと考えられているものを、男性も利用しやすく することでより多くの男性顧客を取り込めることができると考えられる。
次に考えられる原因は、余暇時間が作りやすい夜間や休日に男性のほうが屋外で運動しやすい ことが挙げられる。特に夜間の場合は、女性一人だと安全面の問題で危険があり一人で運動でき ない女性も少なくないものと思われる。また女性の方が人目を気にする傾向があるので、屋外の トレーニングよりもスポーツクラブでのトレーニングを選択するのかもしれない。こういった背 景による問題は性別上生じることが必然であるので、当原因によって生じる差は妥当なものと判 断する。
次に 2 つ目の問題について、図4で示した通り我が国のスポーツ実施率は他国と比較して低い レベルにある。この背景としては、まず日本人は欧米の人々と比較し余暇時間が限られているこ とが考えられる。図 10 において「忙しくなり、時間がなかった」が退会理由の 1 位にあがった ことも、このことが大きく影響していると思われる。しかしすでに述べた通り、韓国と日本は生 活習慣や生活水準、文化が大きく変わらないにも関わらず、スポーツ実施率に 20.8%のギャッ
率が改善するとともに、スポーツクラブ市場が拡大することを示唆している。
次に考えられる背景は、忙しい、忙しくない関係なく日本人は他国の人々と比較しスポーツを する習慣が少ないことがあると思われる。特に男性において世界各国には兵役があるが、ある国 とない国を比較するとない国の方が体を動かす習慣が少ないと思われる。事実図4では、様々な 条件が似ている韓国と比較してみても、兵役がある韓国の方が日本よりもスポーツ実施率が高く なっている。今後は、日本において「習慣的に運動する文化の浸透」のために、民間企業、公共 団体等が一体となり、あらゆるメディアを通じて体を動かすことへの重要性を長期的に喚起し続 けることが必要である。
2. 利益を上げるための施策
当章では、これまで退会率を減らすための施策(新規顧客を開拓するための施策)について検 討してきたが、その中には顧客単価を下げることや、場合によっては営業時間を延長することが 含まれていた。しかし、スポーツクラブ側の懸念としてはそれらの手段は売上高や利益が低下す る要因となる可能性も考えられる。この問題について、以下では売上増とコスト削減の両面から 検討していく。
(1)売上増
先ず売上増に関しては、すでにスポーツクラブに登録している又は登録していたのに現在は 利用していない(退会した)人が全体の 28.5%を占めることを示した(図9)。仮に顧客の対象 になりうる年齢を 20~89 歳とおいたときに、0~19 歳と 90~歳の割合が占める割合は 2010 年時 点で 19.7%である(出所:国立社会保障・人口問題研究所)。このことから、2010 年時点で顧客 になりうる人口は(12,740 万×80.3%)約 1 億 230 万人ということになる。そのなかで、図1 ですでに示した通り 93%の割合の国民が体を動かす必要性を感じている。その数は約 9,514 万 人(1 億 230 万×93%)。さらに今後希望する活動の種類や場所として、スポーツクラブの占め る割合は全回答割合の約 24.7%(図1)である。その数は約 2,350 万人(9,514 万×24.7%)。
また前提として、退会者と潜在需要者のニーズが同様と仮定していることから、2350 万人の約 14.3%(全退会理由の内に占める「お金がかかる」という回答の占める割合)(図 10)にあたる 最大約 336.1 万人の需要増を見込むことができる。
また表10より、現在の我が国の民間クラブ会員数は約 399 万であることから、仮に 336.1 万人程度の潜在市場が開拓されることになると、最大で現在の約 184%の顧客数が見込める。仮 に、顧客単価を顧客が求めるスポーツクラブの希望月会費金額 の 5,500 円まで下げ、それによ って生まれた新たな需要のうち、5 割程度確保するだけでも、スポーツクラブ市場全体で見ると 顧客単価の減少分を補って余りある需要増により売上高の拡大が期待できる。
表 表 表 表
9 9 9 9
民間クラブ会員数民間クラブ会員数 (百万人)民間クラブ会員数民間クラブ会員数 百万人)百万人)百万人)
年 年 年
年 1998年年 年年 2002年年 年年 2005年年 年年 2008年年 年年 2010年年 年年
日本 2.9 3.29 3.85 4.01 3.99
米国 13.7 17 ― 45.6 50.22
英国 3 3.4 3.6 7.2 7.4
Fitness online For Business のデータをもとに作成
(2)コスト削減
次にコスト削減についてみていきたい。現在の我が国の1民間クラブあたりの市場規模は以 下のとおりであり、2005 年を境に減少傾向にある。(表 10)この理由としては、市場規模の拡大 と比較し民間クラブの件数が急激に増加しすぎたためである。この結果は一見我が国の民間クラ ブの数が多すぎることが原因のように思われ、クラブ数を削減することがコスト削減の最優先事 項のように見えるが実はそうではない。そのことは表6ですでに示しているとおり、1 民間クラ ブ数あたりの人口は欧米と比較し 3 倍以上にもなっていることを見れば明らかである。
我が国のスポーツクラブの現状を見る限り、コスト削減のカギは人件費にあると考えるのが 妥当である。表 11 はスポーツクラブの雇用形態別スタッフ数の推移(人)を示したものである。
この表から、正社員、パートアルバイト、指導者のすべてに関して、1施設あたりの人数が増加 していることがわかる。多すぎるスタッフ数は時として、マイナスの影響を及ぼすことがある。
それは図10の退会理由の1つであげられている通り「インストラクターの指導がわずらわしく なった」ために、退会してしまう顧客もいるということである。他人の干渉をそこまで積極的に 受け入れない文化がある我が国では、スポーツクラブのスタッフ数を削減する余地は十分にある と考えられる。特に指導者・パートアルバイトの項目を見ると、2002 と 2009 年の間で指導者は 約 5 人、パートアルバイトは約 4 人程度各施設で増えていることがわかる。(図 13)店舗数が上 昇し続け、売上高が横ばいになっている近年のスポーツクラブ市場の現状を見ると、各スタッフ の作業効率を上げ 2002 年の水準まで雇用人数・人件費を削減することが、より多くの利益を得 るために必要になってくる。
表 表 表 表
10 10 10 10
1民間クラブあたり市場規模民間クラブあたり市場規模(百万円)民間クラブあたり市場規模民間クラブあたり市場規模百万円)百万円)百万円)
年年
年年 1998年年 年年 2002年年 年年 2005年年年年 2008年年 年年 2010年年年年
日本 190.25 190.81 213.78 127.16 115.89
日本のクラブ業界のトレンド
2001~2009
年版 各P1
をもとに作成表 表 表 表
11 11 11 11
スポーツクラブの雇用形態別スタッフ数の推移(人)
スポーツクラブの雇用形態別スタッフ数の推移(人)
スポーツクラブの雇用形態別スタッフ数の推移(人)
スポーツクラブの雇用形態別スタッフ数の推移(人)
年年
年年 2002200220022002 年年年 年 2003年年 年年 2004200420042004 年年年年 2005年年 年年 20062006 年20062006年年年 2007年年年年 2008200820082008 年年年 年 2009年年 年年
正社員
総数総数
総数総数 5215.0 5535.0 5970.0 6359.0 7159.0 7410.0 7009.0 7208.0 1施設
1施設 1施設
1施設 6.5 6.7 7.1 7.3 7.5 7.5 6.9 7.1
パートアルバイト 総数総数
総数総数 20375.0 20743.0 22981.0 24525.0 26833.0 28864.0 29006.0 29880.0 1施設
1施設 1施設
1施設 25.5 25.1 27.4 28.0 28.2 29.3 28.6 29.3
指導者
総数 総数 総数
総数 20066.0 22216.0 23862.0 26043.0 31101.0 32381.0 30101.0 30753.0 1
11
1 施設施設施設 施設 25.0 26.9 28.4 29.8 32.7 31.6 29.7 30.2
日本のクラブ業界のトレンド
2009
年版P11
の表を編集 図図 図 図
13 13 13 13
24.0 25.0 26.0 27.0 28.0 29.0 30.0 31.0 32.0 33.0
2002
年2003
年2004
年2005
年2006
年2007
年2008
年2009
年Ⅶ.終わりに
本論文では、近年スポーツクラブ市場が注目され競争が激化するなかで、我が国のスポーツク ラブ市場規模が伸び悩んでいる原因を解明すること、加えてどのように顧客の潜在需要を掻き立 て市場規模を拡大できるのかについて具体的な施策を提案してきた。特にそもそもの需要がおお いにあることを確認した上で、顧客価格の減少やサービスの多様化といった動きは、現在のスポ ーツクラブ市場において強く求められていることを示すことができた。また施設数と売上高の関 連性から、現在のスポーツクラブの非効率的経営について明らかにし、どのような種類のサービ ス・施設が求められているかについても示すことができた。これらの点に関しては、今までの先 行研究にはなかった自分なりの提言をできたことは収穫であった。
しかし、男性よりも女性のスポーツクラブ利用者の割合が高い原因や、日本が他国より運動す る習慣を持たない理由に関して、明確な答えを示すことができなかった点は今後の課題である。
また施設の分類に関してもより細分化したデータを用い、より多くの国のスポーツクラブ市場と 比較することでより説得力のあるものにする必要がある。
今後のスポーツクラブ市場において、仮にこの論文の内容と同様のことを一部の市場関係者が 考えているとするならば、以下のようなことが起きると考えられる。まず1つは、既存クラブの 売上が大幅に減少することである。その理由は、市場規模は、2006 年の 4,272 億円をピークに 減少に転じていて、それに加えて参加層の拡大によってニーズが多様化し、既存のフィットネス クラブのビジネスモデルでは対応しきれていない状態が起き、さらに景気悪化がこれに追い打ち をかけると考えるためである。その流れを受け、今後は一部の変革を成し遂げる勝者と多数の淘 汰の危機にさらされる敗者にドラスティックに2極化する構造も考えられる。ここでいう勝者と なる企業・クラブとは、顧客本位のバリューを提供し、人々が求めているクラブを創造する企業 ということができる。
2 つ目は、様々なスタイルのクラブが登場し、顧客単価のレンジが拡大することである。売上 高減少が続くこの業界において、スポーツクラブは変革を成し遂げていく。様々な生活者のニー ズにあった様々なクラブが登場することで、一層参加者が増えると考えられる。例えば、全会員 の半数以上が 50 歳過ぎの高齢者向けスポーツクラブや徹底的にコストを抑えた激安スポーツク ラブ、逆に設備がプロスポーツ選手級の高級スポーツクラブ等も生まれると考えられる。スポー ツクラブ市場の新たな時代に向けて、今後どのように市場が変化していくのかが楽しみである。
参考文献
・一般市民に健康観と運動の実践及びフィットネスクラブに関する意識調査(FIA)
・株式会社クラブビジネスジャパン 日本のクラブ業界のトレンド
2001
年版・株式会社クラブビジネスジャパン 日本のクラブ業界のトレンド
2002
年版・株式会社クラブビジネスジャパン 日本のクラブ業界のトレンド
2003
年版・株式会社クラブビジネスジャパン 日本のクラブ業界のトレンド
2004
年版・株式会社クラブビジネスジャパン 日本のクラブ業界のトレンド
2005
年版・株式会社クラブビジネスジャパン 日本のクラブ業界のトレンド
2006
年版・株式会社クラブビジネスジャパン 日本のクラブ業界のトレンド
2007
年版・株式会社クラブビジネスジャパン 日本のクラブ業界のトレンド
2008
年版・株式会社クラブビジネスジャパン 日本のクラブ業界のトレンド
2009
年版・株式会社クロスマーケティングアンケート資料
・国立社会保障・人口問題研究所
・総務省統計局 「国勢調査」及び「人口推計」
・経済産業省 特定サービス産業実態調査報告書
・一般社団法人
日本フィットネス産業協会
フィットネス産業基礎データ資料・IHRSA グローバルレポート
・SFF 笹川スポーツ財団「スポーツ白書」2006 年
参考 URL
・Fitness online For Business(http://fitnessclub.jp/business/index.html)
・nikkeiBP 社サイト nikkeiBPnet 2004 年 7 月 29 日
(http://nikkeibp.co.jp/archives/322/322497.html)