• Tidak ada hasil yang ditemukan

バイオリファイナリーの現状と展望 - J-Stage

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2023

Membagikan "バイオリファイナリーの現状と展望 - J-Stage"

Copied!
7
0
0

Teks penuh

(1)

持続可能な社会へ向かうためには再生可能エネルギーが中心 的な役割を果たすことが求められている.そのなかで,バイ オマスから液体燃料やバルクケミカルを経済性良く,高効率 で生産する技術の開発が期待されている.バイオマスとして は,安 定 的 な 供 給 が 可 能 で,食 糧 と 競 合 し な い リ グ ノ セ ル ロース系バイオマスの利活用が望まれている.本稿ではリグ ノセルロース系バイオマスからのエタノールの製造プロセス について研究の課題と最新の知見を紹介するとともに,バイ オプロセスによるバルクケミカル生産に関する最近の研究例 についても紹介する.

はじめに

石油資源の枯渇や地球温暖化を回避して持続可能な社 会を構築するために,燃料や化学製品(プラスチックや 繊維など)製造の原料を石油から再生可能な資源「バイ オマス」へと転換する「バイオリファイナリー技術」の 開発が強く求められている.バイオリファイナリーと

は,サトウキビなどから得られる糖蜜,トウモロコシな どのデンプン,および木質系・草本系バイオマス(リグ ノセルロース系バイオマスと呼ばれる)の分解によって 得られる糖類を微生物で発酵することによりにより,燃 料(バイオ燃料と呼ばれる)や化学品(バイオベース化 学品と呼ばれる)を生産する技術体系である(図

1

バイオ燃料としては,バイオエタノールの大規模な生 産が行われるようになってきている.特にブラジルと米 国はバイオエタノール生産大国であり,ブラジルではサ トウキビ由来の糖液を,米国ではトウモロコシデンプン を原料として,バイオエタノール生産が行われている.

トウモロコシデンプンを原料とする場合は,粉砕して,

高温で可溶化した後にデンプン分解酵素(アミラーゼ)

処理に供し,デンプンをグルコースやマルトースに分解 する.分解により得られた糖類を酵母により嫌気条件下 で発酵することによりエタノールを効率的に生産させ る.発酵で得られたエタノールは最終的に蒸留・脱水工 程を経て回収される.一方,バイオエタノール生産量が 増えるにつれて,原料となるトウモロコシの使用量と価 格の上昇,トウモロコシを主原料とする家畜飼料の価格 の上昇が起こり,最終的には食肉加工食品の価格にまで

【解説】

Current Status and Future Perspectives of Bio-Refinery

Tomohisa  HASUNUMA,  Jun  ISHII,  Chiaki  OGINO,  Akihiko  KONDO, *1 神戸大学自然科学系先端融合研究環,*2 神戸大学大学 院工学研究科

バイオリファイナリーの現状と展望

バイオマスからの化学品燃料の生産

蓮沼誠久 * 1 ,石井 純 * 1 ,荻野千秋 * 2 ,近藤昭彦 * 2

(2)

影響する事態を招いた.そこで,食糧の供給と競合しな いバイオマスの供給が急務となり,リグノセルロース系 バイオマスへの転換が求められている(1)

.本稿ではま

ず,第二世代バイオエタノールとして期待される,リグ ノセルロース系バイオマスからのエタノールの製造プロ セスについて,研究の課題と最新の知見を紹介したい.

一方,バイオベース化学品の生産は,バイオエタノール の場合と比べて発酵工程の生産性・収率などが低く,よ り挑戦的な課題である.本稿ではバイオプロセスによる 化学品生産の最新の研究例についても触れたい.

リグノセルロース系バイオマスからの バイオエタノール生産プロセス

主なリグノセルロース系バイオマスとして,稲藁,麦 藁,籾殻,バガス(サトウキビ搾汁後の残渣)

,コーン

ストーバー(トウモロコシ茎葉)のような草本系バイオ マスと,廃材,木材チップなどの木質系バイオマスが挙 げられる.地球上で最も賦存量の多いバイオマスである が,実用化に際しては課題が残されている.その理由 は,リグノセルロースの強固な分子構造にあり,加水分 解酵素による糖の生成がデンプンと比べて困難である.

リグノセルロース系バイオマスの主成分はセルロースで あり,グルコースが

β

-1→4グルコシド結合で直鎖状に重

合した高分子である.セルロース分子は水素結合を介し て束になり,繊維状の結晶構造をとる.セルロース繊維 の周囲にはヘミセルロース(キシロースが

β

-1→4結合し たキシラン主鎖にグルコースやアラビノース,グルクロ ン酸からなる側鎖が連結した高分子)が存在し,さらに その外層には,芳香族化合物の重合体であるリグニンが 沈着して構造を強化している.発酵によりエタノールに 変換されうるのはセルロースおよびヘミセルロースであ るが,結晶性のセルロースからグルコースを取り出すこ とは容易ではない.

一般に,バイオマスを糖化して利用するシュガープ ラットフォームでは,リグノセルロース系バイオマスか らのエタノール生産プロセスは,①バイオマスを膨潤化 し,利用しやすい構造に変換する前処理工程,②酵素に よりセルロースおよびヘミセルロースを加水分解して糖 を生成する糖化工程,③糖(主としてグルコース,キシ ロース)を炭素源として微生物による発酵でエタノール を生産する発酵工程,④生産物を回収する蒸留・脱水工 程に分けられる(図

2

前処理工程では,硫酸などを用いた酸処理が主流の一 つとなり,バイオマスに対して0.4%程度の硫酸を使用 して200〜230 Cで1〜5分程度処理を行う「希硫酸法」

が用いられる.硫酸はセルロース分子間で形成している 図1バイオリファイナリーの概要   

(3)

水素結合を切断することにより,結晶構造を破壊して不 定形にする.この条件では,95%のヘミセルロースと 20%のセルロースが可溶化される.また,100 C以上の 熱水を用いた加水分解により脱リグニンする方法「水熱 処理法」も用いられる.加圧した熱水は酸と同様の作用 を し,ヘ ミ セ ル ロ ー ス は150 C前 後,セ ル ロ ー ス は 230 C前後で可溶化することが知られている.こうした 物理化学的前処理はバイオマスの高次構造を破断する一 方で,生成した糖が二次分解や縮合を起こして多くの二 次生成物(酢酸やギ酸,レブリン酸などの弱酸類,フル フラールや5-ヒドロキシメルチフルフラールのようなフ ラン誘導体,シリングアルデヒドやバニリンのような フェノール類など)を生成することが問題となっている

(図2)

.これら過分解物の生成はバイオマスから得られ

る糖の収率を下げるだけでなく,発酵工程における微生 物の物質代謝を阻害する.したがって,前処理工程で は,糖化酵素(セルラーゼ)の基質への接触を可能にす る結晶構造の緩和を施すとともに,二次生成物の生成を 抑える最適な条件決定が求められる.

糖化工程では,酵素製剤を添加して,そのなかに含ま れるセルラーゼやヘミセルラーゼの性質に合わせた50 C前後での加水分解反応を行うことが多い.セルロース は,単一の酵素による分解が不可能であり,数種の異 なった分解酵素の相乗効果により糖化されている(2)

.一

般に,セルラーゼとは,セルロースを加水分解するため の数種類の混合した酵素の総称であり,その機能・役割 により次のように大別できる;①非結晶セルロースをラ ン ダ ム に 切 断 す る エ ン ド 型 の エ ン ド グ ル カ ナ ー ゼ

(EG)

,②結晶セルロースの末端からセロオリゴ糖を遊

離するエキソ型のセロビオハイドロラーゼ(CBH)

,③

セロオリゴ糖の末端からグルコースを生成するエキソ型 の

β

-グルコシダーゼ(BGL)

.微生物は,基質認識性や

生成物分布の異なる複数のセルラーゼ関連酵素を生産

し,なかでも糸状菌 は力価の高い

酵素群を大量に生産するため,酵素製剤の生産菌として 最もよく用いられている.リグノセルロース系バイオマ スの分子構造は,原料となる植物の種類によって異な り,前処理によってその構造が変化するため,効率的に 酵素糖化を進めるためにはそれぞれの結晶性に応じたセ ルラーゼ成分の量比の最適化が重要であり,検討が行わ れている.またタンパク質工学的手法による基質分解性 や酵素構造安定性の向上など,酵素の高機能化も積極的 に進められている.一方,ヘミセルラーゼは,ヘミセル ロースを加水分解するための酵素の総称であり,キシラ ナーゼとキシロシダーゼなどの相乗効果によりキシロー ス,グルコース,アラビノースなどの単糖を遊離する.

糖化によって生成するヘキソースとペントースは微生 物発酵によりエタノールへと変換される.エタノール生 産能力の高い微生物としては,

などの真菌類,

などの細菌類が知られ

ている.なかでも, は伝統的に食品産業に 用いられている酵母であり,安全性が高いだけでなく,

強力な発酵力,ストレス環境への耐性,エタノールへの 耐性,遺伝学的安定性を有しており,バイオエタノール 生産に用いる発酵微生物として有望と考えられている.

リグノセルロース由来バイオエタノール生産を 効率化する微生物育種

リグノセルロース系バイオマスからのエタノール生産 図2リグノセルロース系バイオマスから のエタノール生産プロセス(左)および,

前処理工程で生成する代表的な発酵阻害物 質(右)

(4)

プロセスの難点の一つとして,前処理から製品回収に至 る工程が多いことが挙げられる.その分,エネルギー投 入量や設備投資が増大し,実用化の足かせになってい る.なかでも,酵素生産,糖化,発酵のバイオプロセス は効率化が必要である.かつては,糖化が終了した後に 微生物を投入して発酵を行うSHF(Separate Hydroly- sis and Fermentation)が行われていたが,生成したグ ルコースが糖化酵素の加水分解反応を阻害するため,バ イオマスからの糖回収率が頭打ちになるという問題が生 じた.そこで,糖化と発酵を単一バッチで同時に行う SSF(Simultaneous  Saccharification  and  Fermenta- tion)を採用することで,生成したグルコースを微生物 が即座に利用するため糖化酵素の生成物阻害が起こらな いので,エタノール生産の効率化に成功した.また,エ タノールが槽内に蓄積するため雑菌によるコンタミネー ションを抑える利点も見いだした.さらに近年,酵素生 産,糖化,発酵の生化学的変換過程をすべて統合化した CBP(Consolidated Bioprocessing)が検討され,バイ オエタノール生産を最も効率化できるプロセスとして期 待されている(3)

.従来,酵素生産は最もコスト削減が必

要な工程であるが,遺伝子組換えにより,十分なセル ロース/ヘミセルロース分解能を有した微生物(図

3

を開発できれば,酵素生産に必要なリアクターを削減す ることが可能である.筆者らは,微生物の細胞表層に酵 素などの機能性タンパク質を集積して,細胞に新しい機 能を付与する「細胞表層工学技術」に取り組んできた.

そこで, においてセルラーゼやヘミセル ラーゼを遺伝子から発現させて細胞表層に集積させるこ とにより,リグノセルロース系バイオマスを細胞表層で 分解すると同時に,単糖を細胞内に取り込んでエタノー

ルを生産することに成功した(図3)

.たとえば200 g/L

のリグノセルロース系バイオマスから理論収率の89%

という高い収率でのエタノール生産を実現している(4)

細胞表層工学技術によって開発した「CBP酵母」は,

単一槽内でバイオマスをワンステップでエタノールに変 換できるため,低コストのエタノール生産を実現する切 り札として期待されている.

一方,リグノセルロース由来バイオエタノールの生産 におけるもう一つの課題は,前処理工程で生成する過分 解物質(図2)が発酵工程に持ち込まれ,酵母の生育や 発酵を阻害することである.特に,キシロース資化系酵 素を導入した出芽酵母のキシロース発酵は強く阻害され る.したがって,発酵阻害物が存在していても基質を高 い収率でエタノールに変換させる微生物の開発が求めら れている.筆者らは,細胞内の代謝状態を俯瞰すること が可能なメタボローム解析技術を用いて,酢酸が酵母の キシロース発酵に与える影響を調べた.実験としては,

由来キシロースレダクターゼ

(XR)遺伝子,キシリトールデヒドロゲナーゼ(XDH)

遺伝子, 由来キシルロキナーゼ(XK)遺 伝子を染色体に導入したキシロース資化性酵母株を用い て,0, 30, 60 mMの酢酸存在下でキシロースを単一炭素 源とする微好気発酵を行い,解糖系,ペントースリン酸 経路,TCA回路の中間代謝物や補酵素類の細胞内蓄積 量の経時変化を調べた.その結果,添加する酢酸濃度に 依存してペントースリン酸回路の代謝中間体が蓄積して いることがわかった.特に,発酵開始24時間後のセド ヘプツロース7リン酸(S7P)の蓄積量は,60 mMの酢 酸を添加することで20倍以上増加した.この結果から,

酢酸添加によりペントースリン酸回路の代謝速度が減速 図3CBPの プ ロ セ ス フ ロ ー(左) お よ び,セルラーゼ・ヘミセルラーゼを細胞表 層に集積したCBP酵母によるエタノール 生産経路(右)   

(5)

していると考え,S7Pを基質とするトランスアルドラー ゼ の 遺 伝 子, を 過 剰 発 現 さ せ た.そ の 結 果,

高発現型キシロース資化性酵母は酢酸存在下で高 いエタノール生産性を示し,30 mM酢酸存在下では 83%の対糖エタノール収率を達成した.実際, 過 剰発現株ではペントースリン酸回路の中間代謝体の蓄積 が解消されていることが確認された(5)

.また,

の 過剰発現はギ酸存在下のエタノール生産性を向上させる ことも明らかとした.ギ酸は酢酸よりも低濃度で発酵を 阻害することがわかっている.そこで,酵母のギ酸耐性 能をさらに強化するため,トランスクリプトーム解析に よりギ酸応答性の遺伝子を探索したところ,ギ酸デヒド ロゲナーゼ遺伝子( )の転写物量が発酵液中のギ 酸濃度依存的に増加していることが明らかとなった.筆 者らはギ酸デヒドロゲナーゼによるギ酸分解反応がキシ ロース発酵中の酵母の生存戦略の鍵となると推測し,

を過剰発現させたところ,20 mMのギ酸存在下で もギ酸非存在下と同程度のエタノールを生産することが わかった.筆者らの研究では,メタボローム解析やトラ ンスクリプトーム解析に基づく代謝改変を行うことで,

発酵阻害物存在下での酵母のエタノール生産能を向上さ せることに成功した(6)

.近年,システムバイオロジーと

いう概念が定着しつつあり,遺伝子発現やタンパク質の 蓄積,代謝物の生合成などの生物情報をグローバルに捉 えようとする研究が進められている.システムバイオロ ジーの解析は,ブラックボックスの多い細胞内代謝メカ ニズムのなかから,微生物に目的の形質を付与するため の遺伝子組換え戦略を導出するのに有効であることが示 された.今後,微生物を育種する際のキーテクノロジー になることが期待される.

近年,バイオリファイナリー技術の開発は世界的な競 争となっており,欧米では数百億円単位の研究開発予算 が投入されている.神戸大学では,バイオリファイナ リーの学術基盤の整備,技術の体系化を目指して,2007 年12月に「統合バイオリファイナリーセンター」を設 立した.バイオリファイナリーに関する研究センターの 開設は国内では初めてであり,日本の得意とする技術領 域である微生物育種技術や発酵技術の高度化を核として 独自かつ世界をリードするバイオリファイナリー技術の 開発を推進している.微生物を利用したバイオプロセス では,バイオマスの分解と微生物発酵の効率化が鍵とな る.筆者らは,上述の細胞表層工学と代謝工学を組み合 わせ,ベンチスケールでのプロセス開発を展開している ところである.

バイオベース化学品生産の検討

バイオエタノール以外にも,プラスチックや繊維など の化学品を植物由来のバイオマスを原料として製造しよ うとする動きが近年活発化しつつある.米デュポン社が 実用化したBio-PDOはトウモロコシなどに含まれる糖 成分(グルコースやキシロース)から作られる100%植 物由来の1,3-プロパンジオールであり,化粧品や冷却液 などの用途のほか,ポリウレタンやポリマーの原料とし ても利用されている.また,米ネイチャーワークス社は 植物由来原料から乳酸を生産し,ポリ乳酸などのプラス チックを製造している.これらのバイオベース化学品の 製造例は大きく注目され,現在では国内を含め多くの化 学メーカーが1,3-プロパンジオール以外のさまざまな化 学品についてもバイオ由来製品を実用化しようとする研 究を行っている.

バイオベース化学品を生産するための微生物宿主とし ては,大腸菌が最もよく使用されている.実際,Bio- PDOの生産は,遺伝子組換え大腸菌を用いていると言 われている(7)

.しかしながら,大腸菌は大規模スケール

における長期間の安定的な連続発酵プロセスの確立や雑 菌汚染リスクの回避が難しく,バイオマス前処理物に含 まれる発酵阻害物や発酵副生成物の酸などにより収率が 低下するなどの理由から,実用化においてはより強靭な 微生物の利用が望まれている.候補の一つとして,酵母 は非常に魅力的な宿主の一つである.酸などのストレス への耐性が強いため,酸洗浄や酸性条件下発酵によりコ ンタミネーションリスクの低減が可能であり,溶菌しに くいため,長期の連続発酵や繰返し発酵も可能にする.

醸造で伝統的に使用されている実績やバイオエタノール などの先行研究のノウハウも活用できることからも,バ イオベース化学品の実用化において有望な宿主である.

一方で, は主にエタノールを生産する微生 物であるため,エタノール以外の化合物を大量生産する ための代謝工学手法を開発することが重要である.酵母 以外の宿主としては,コリネ型細菌

が有望である.酸耐性が強く,特定の有機 酸やアミノ酸を高生産する株が育種されており,本稿で は を用いたバイオナイロン生産に関する 取り組みを紹介したい.

γ

-アミノ酪酸(GABA)は新しいバイオプラスチック 原料としてポテンシャルをもつ化合物であり,2-ピロリ ドンを経て重合させることによりナイロン4の合成が可 能である(8)

.そこでGABAを糖類から発酵生産するこ

とができれば,原料を石油に依存しないバイオ由来のプ

(6)

ラスチック製造が可能となる.ナイロン4は従来の石油 由来ナイロン6と同様に高結晶性のポリアミドであり,

融点も265 Cと高く,エンジニアリングプラスチックと しての利用が期待される.さらに,土壌中で微生物群に より良好な生分解を受ける(9)ため,廃棄処理も容易にな ることが期待され,環境に調和した「バイオナイロン」

として一般消費者に対するインパクトも強いと考えられ る.GABAは乳酸菌や大腸菌ではグルタミン酸脱炭酸 酵素(Gad)の作用によりグルタミン酸から生合成され る.従来,食品分野で行われてきた乳酸菌を用いる GABA発酵は,培地中に高価なグルタミン酸もしくは グルタミン酸ナトリウムを添加することが難点であり,

発酵の副生物が多いためポリマー原料の生産には適して いなかった.そこで,グルタミン酸高生産菌である

でGadを発現させることにより,培地中 へのグルタミン酸添加を回避するとともに高純度の GABA生産を試みた.大腸菌由来のGad遺伝子を菌体 内で高発現させた  GAD株を用いてグル コースを炭素源とする培地で好気発酵を行ったところ,

培養96時間で8.0 g/LのGABAを培養液中に生産した.

さらに,培養液にGadの補酵素であるピリドキサル5′- リン酸を添加したところ,GABA生産量は向上し,発 酵72時間で12.3 g/Lの生産量に達した(10)

は食品および化学品生産で使用が認可されている 微生物であり,安全面においても利点がある.発酵液か らの分離・精製方法を確立することができれば,GABA はバイオプラスチック・バイオ繊維原料として広く利用 可能と考えられる.プラスチックは現在,その原料のほ とんどが石油から生産されている.わが国では年間約 1,500万トンのプラスチックが石油から生産されており,

それらをバイオベースに置き換えることは大きな課題で ある.バイオマスを原料として,発酵によって得られた 生産物をモノマーとして重合し,機能性ポリマーを合成 することができれば,従来の石油化学品を代替し,環境 に調和したプラスチック製品を社会に供給する可能性が 生まれる.

おわりに

バイオマス資源から,燃料やプラスチックなどの大量 生産・消費される製品群を社会に供給することは,持続 可能な低炭素化社会を実現するうえで重要である.バイ オリファイナリーは,低環境負荷型のバイオ技術を駆使 して作り出すことが望ましい.神戸大学では,ラボス ケールでの実験結果をもとにベンチプラントの設計・製

作を行い,CBPを核とした一貫プロセスの実証試験を 開始した.今後,研究が促進し,微生物の高機能化がバ イオプロセスの用途を拡大し,バイオリファイナリーの 構築を加速させることを期待したい.

文献

  1)  吉田和哉,植田充美,福崎英一郎: 第二世代バイオ燃料

の開発と応用展開 ,シーエムシー出版,2009.

  2)  近藤昭彦,天野良彦,田丸 浩: バイオマス分解酵素研

究の最前線 ,シーエムシー出版,2012.

  3)  T.  Hasunuma  &  A.  Kondo:  , 30,  1207  (2012).

  4)  Y. Matano, T. Hasunuma & A. Kondo: 

108, 128 (2012).

  5)  T.  Hasunuma,  T.  Sanda,  R.  Yamada,  K.  Yoshimura,  J. 

Ishii & A. Kondo:  , 10, 2 (2011).

  6)  T.  Hasunuma,  K.  Sung,  T.  Sanda,  K.  Yoshimura,  F. 

Matsuda  &  A.  Kondo:  , 90,  997 (2011).

  7)  向山正治,堀川 洋:生物工学会誌,90, 407 (2012).

  8)  N.  Kawasaki,  A.  Nakayama,  N.  Yamano,  S.  Takeda,  Y. 

Kawata,  N.  Yamamoto  &  S.  Aiba:  , 46,  9987  (2005).

  9)  K. Hashimoto, T. Hamano & M. Okada: 

54, 1579 (1994).

10)  C.  Takahashi,  J.  Shirakawa,  T.  Tsuchidate,  N.  Okai,  K. 

Hatada, H. Nakayama, T. Tateno, C. Ogino & A. Kondo: 

51, 171 (2012).

プロフィル

蓮沼 誠久(Tomohisa HASUNUMA)

<略歴>1998年大阪大学工学部応用生物 工学科卒業/2004年同博士課程修了/同 年地球環境産業技術研究機構(RITE)研 究員/2008年神戸大学大学院工学研究科 特命助教/2009年同大学自然科学系先端 融合研究環講師/2012年同准教授/2015 年同教授/2010〜2014年JSTさきがけ研 究者<研究テーマと抱負>代謝解析技術の 開発,代謝解析に基づく細胞育種,バイオ マスからの有用物質生産,バイオマス前処 理,藻類培養技術の開発<趣味>料理,水 泳,スノーボード

石 井  純(Jun ISHII)

<略歴>2008年神戸大学大学院自然科学 研究科博士課程修了/同年同大学自然科学 系先端融合研究環学術推進研究員,同特命 助教/2012年同特命准教授/2013年同准 教授<研究テーマと抱負>合成生物学,代 謝工学,遺伝子工学<趣味>旅行

(7)

荻野 千秋(Chiaki OGINO)

<略歴>1999年神戸大学大学院自然科学 研究科博士後期課程中途退学/同年金沢大 学工学部助手/2007年神戸大学大学院工 学研究科准教授,現在に至る<研究テーマ と抱負>バイオマスの前処理技術,放線菌 の分子育種,バイオリファイナリー,バイ オナノ粒子による医療応用<趣味>スポー ツ(テニス,スキー)

近藤 昭彦(Akihiko KONDO)

<略歴>1988年京都大学大学院工学研究 科博士課程修了/同年九州工業大学講師/

1993年同助教授/1995年神戸大学工学部 助教授/2003年同教授/2007年同研究科 教授/同年同大学統合バイオリファイナ リーセンター長/2012年理化学研究所バ イオマス工学プログラムチームリーダー

(兼任),現在に至る<研究テーマと抱負>

バイオマスからの燃料,化学品生産,合成 生物工学,細胞表層工学,ナノバイオテク ノロジー<趣味>旅行,テニス,お酒<所 属 研 究 室 ホ ー ム ペ ー ジ>http://www2. 

kobe-u.ac.jp/~akondo/

Copyright © 2015 公益社団法人日本農芸化学会 DOI: 10.1271/kagakutoseibutsu.53.689 

Referensi

Dokumen terkait

とで、「やりがいの搾取」に陥ってしまう「下請 け化構造」が日本では常に問題視されるのに対 し(1)、デンマークではそのような問題はないの か。また「18条」についてはどの程度、知られ ているものなのか。今回、デンマークを訪問し たのは、これら点について現場での理解を調査 するためである。「ソーシャル」な領域、すなわ ち福祉国家と市民社会の間で、個別の団体はど

現在東京で行っているダンスの仕事の中で、高校でもダ ンスのクラスを受け持っています。そこでいつも感じる のは、どんな生徒も無限の可能性に溢れているというこ と。高校時代はその可能性を夢中で探していい時期だと 思います。それがどんなに遠い夢でも、チャンスは意外 と世の中に溢れていて、それが見えるようになるまで努 力するのか、それが目の前に来た時に自分の手でつかめ