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ヒト腸内メタゲノム解析が 広げる医療展開 - J-Stage

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【解説】

ヒト腸内メタゲノム解析が 広げる医療展開

山田拓司

ヒトには1,000種,100兆細胞を超える細菌が共生していると

言われている.特に腸管内に共生する腸内細菌叢(腸内マイ クロバイオーム)は,もう一つの臓器とも呼ばれており,ヒ トの健康状態やさまざまな疾病に関与していることが示唆さ れている.近年,細菌群集を研究する新たな方法として,メ タゲノム解析と呼ばれる新たな研究手法が開発され,ヒト共 生細菌研究は大きな飛躍を見せている.特に共生微生物研究 が医療分野に与える影響とその可能性には大きな期待が寄せ られている.本報ではこれまでの研究成果を踏まえ,①メタ ゲノム解析と腸内マイクロバイオーム,②近年の国内外の動 向や発見,③医療との関係,さらに,④実際の応用に向けて の可能性,について紹介していきたい.

メタゲノム解析と腸内マイクロバイオーム

1. 

メタゲノム解析とは

微生物は地球上の至る所に生息しており,さまざまな 面でわれわれとかかわっている.レーウェンフックが自 作の顕微鏡を用いて微生物を観察して以来,微生物はさ まざまな手法により研究がなされてきた.肉眼では見え

ない小さな微生物を研究するためには培養は必須であっ たため,さまざまな培養法の開発研究が進められてき た.しかしながら,多くの微生物が難培養性であり,顕 微鏡下では観察できるものの,培養することができな い.このような培養をすることが困難な微生物を調べる 方法の一つがメタゲノム解析である.

培養できない微生物を研究するための手法として,海 洋や土壌といった 環境サンプル からそこに含まれる 細菌叢(マイクロバイオーム)DNAを直接抽出して解 析するという方法が開発されてきた.代表的な手法とし て,DGGEやT-RLFPな ど を 挙 げ る こ と が で き る.

DGGEは,環境中に含まれるDNAを抽出し一本鎖DNA へ解離させ,電気泳動法を用いてそれらのDNAを分離 して得られるバンドパターンで菌叢構造明らかにする手 法である.T-RLFPは,環境中から得られたDNAから 16SrRNA領域をPCRにより特異的に増幅し,制限酵素 で処理後にキャピラリー電気泳動によるフラグメント解 析を行うことにより菌叢構造を明らかにする手法であ る.これらの手法により異なる環境サンプル間の菌叢構 造を比較することができるため広く用いられてきた.し かしながら,これらの手法では菌叢構造は明らかにでき Human Gut Metagenomic Analysis toward Clinical Studies

Takuji YAMADA, 東京工業大学

(2)

ても,非常に少量しか存在しない種を認識することは非 常に難しい.さらには遺伝子の機能組成などを明らかに することができない.このようななか,1998年,メタ ゲノム解析という新たな手法が提唱された(1)

.新型シー

ケンサーの強力な遺伝子配列解読能力を背景に, 環境 サンプル から直接DNAを抽出し,それらを直接シー ケンシングすることで細菌叢を明らかにしようという画 期的な手法である.その後,2004年にヒトゲノム研究 で有名な J. C. Venter らがサルガッソー海のメタゲノム 解析を当時の新型シーケンサーを用いて行い一気にこの 手法が普及した(2)

.この手法の利点として,まず第一

に,培養が困難な細菌種であっても,遺伝子情報からそ の存在を推測することができる.第二に,完全に未知な 遺伝子を大量に得ることができる.これは従来の菌叢解 析手法では全く不可能であった.そして,最後に最も重 要な点として,環境情報とそこに含まれる遺伝子情報を 結びつけることができる.一例として,ヒト腸内環境に おいて加齢が進むと増える細菌由来遺伝子群が報告され ている(3)

.年齢や疾病情報と腸内遺伝子情報を関連づけ

ることにより,特定の疾病に特異的な菌種や菌叢に加 え,どのような遺伝子が疾病と関連しているかなどを明 らかにすることができると期待されている.

わが国では古くからヒト腸内細菌叢に研究がなされて きた.それらを礎に,kurokawaらがいち早くメタゲノ ム解析に着目し,日本人ヒト腸内細菌叢の解析に取り入 れている(4)

.この研究では13人の日本人の糞便サンプ

ルを用いたメタゲノム解析を行い,今までは見ることが

できなかった,培養が極めて困難であったさまざまなヒ ト共生細菌叢とその機能が明らかになってきた.

腸内細菌叢の解析はウシなどのヒト以外の哺乳類につ いてもなされており(5, 6)

,それぞれの宿主ごとに細菌叢

は類似していることが示されている.また,哺乳類共生 系は海洋や土壌などに含まれる細菌叢と比較して全く異 なる細菌組成をもっていることも示されている.これは すなわち,宿主となる動物とその細菌叢が共進化を遂げ ていることが推測され,宿主と共生細菌叢の相互作用は 今後さらなる詳細な解析が進んでいくだろう.

2. 

解析パイプライン

今日ではヒト腸内細菌叢のメタゲノム解析はさらに大 規模に進められている.糞便中にどのような細菌群が存 在しているかを調べるためには,実験と情報解析を組み 合わせた一連の解析パイプラインを回す必要がある.こ こではヒト腸内細菌叢を解析するための一般的なパイプ ラインの概要を紹介する(図

1

①サンプルコレクション:ヒト腸内細菌の解析において は,ボランティアや病院などの協力を経て糞便を採取す る.採便の際に年齢や体重といったサンプルに付属する メタデータ を同時に取得する.たとえば,肥満との 腸内細菌の関連性を調べる場合は体重のデータは必須で ある.ヒトから分離された微生物を体重などの個人デー タを用いて解析する場合,わが国ではそれらの研究は疫 学研究として分類される.疫学研究は 疾病のり患をは じめ健康に関する事象の頻度や分布を調査し,その要因

図1メタゲノム解析パイプライン

①から③は実験 (wet), ④から⑦はバ イオインフォマティクス解析 (dry) 

を示す.

(3)

を明らかにする科学研究である と定義されており(厚 生労働省の疫学研究に関する倫理指針)

,その倫理指針

内に個人情報の取り扱いなどに対する指針が盛り込まれ ている.研究計画の段階で各研究機関における倫理審査 委員会などにその研究計画が指針内容に従っているか

(個人情報の取り扱いについて十分に考慮されているか など)の判断が委ねられている.メタゲノム解析の発展 により,ヒトゲノム情報同様にヒト由来の微生物情報か ら個人を特定できる可能性があるため,これらの情報を どのように扱うかについて,今後さらに変更が加えられ ることが予想される.

②DNA抽出:ヒト腸内細菌叢にはさまざまな細菌が生 息しており,そこからDNAを抽出する方法も試行錯誤 がなされている.酵素により細胞を溶かして抽出する方 法,激しく振動させて細胞を破砕する方法などがあり,

DNA抽出後に行う操作によって適切な方法も異なる.

また,手法においては特定の細菌からはDNAが抽出さ れない場合があるので,複数サンプルを用いた糞便のメ タゲノム解析の場合,同一の抽出方法を用いたデータを 使用する必要があると考えられる.

③遺伝子配列決定:抽出されたDNA断片をそのまま シーケンシングするメタゲノム解析と,16S rRNA領域 をPCRによって増幅することで菌叢を調べる16S rRNA 解析が存在する.一般にメタゲノム解析は前者であり,

後者はメタ16S解析や単に16S解析と呼ばれることが多 い.メタ16S解析はシーケンシングの前にPCRをする 必要があるものの,非常に少ないDNA量で菌叢を明ら かにすることができるという強みがある.また,同時に 大量のサンプルを比較的安価で解析することが可能であ る.一方で,メタゲノム解析はコストのうえでは高価で あるが,PCRをする必要がない,さらに特定の領域に 限らず含まれる遺伝子情報が網羅できる.このため,新 規遺伝子の発見や,細菌叢の機能性を解析するうえでは メタゲノム解析が必須である.2013年の現時点で主に 使用されているシーケンサーはIllumina社のHiseq2000 や Miseq, Life Technology  社  の Ion Proton  や PGM,  Roche社の454 GS FLXなどが挙げられる.これらの シーケンサーにおいては100万塩基当たりのシーケンシ ングコストが0.1ドルを下回っており(7)

,多くの研究室

で広く使われるようになっている.シーケンサーの開発 はさまざまな企業や研究期間がしのぎを削っており,今 後もさらに低価格化が進み,ますます普及していくと考 えられる.シーケンサーからのアウトプットとして得ら れる大量の遺伝子配列断片はアセンブリ,遺伝子予測,

マッピング,データベース検索による機能アノテーショ

ンなどの,バイオインフォマティクス解析へとつなげら れていく.

④アセンブリ:シーケンサーから得られた短い遺伝子配 列断片をつなぎ合わせることをアセンブルと言い,つな ぎ合わされた配列はcontigと呼ばれる.メタゲノム解 析の場合,リファレンスとなるゲノムを用いず直接得ら れた配列をつなげる de novo assembly が主流である.

SOAPdenove(8), Meta-Velvet(9), Meta-IDBA(10)  などの ツールが用いられることが多い.

⑤遺伝子予測:アセンブリにより得られたcontig配列上 の遺伝子領域を予測する.ゲノム解析においても遺伝子 領域予測プログラムは必須であり,さまざまなツールが 開発されている.メタゲノム解析においては Meta- GeneAnnotator(11) などが用いられることが多い.

⑥系統組成:得られた配列断片からそこに含まれる細菌 系統の組成を明らかにする.この過程はさまざまな手法 が存在しているが,ここでは16S rRNAと予測された遺 伝子領域や各ゲノムに1コピーのみ存在することが知ら れている遺伝子(ユニバーサルシンゴルコピー遺伝子)

などに得られた短い配列断片を再度貼り付けることによ り(マッピング)

,系統組成を検出する.Blastなどの配

列相同検索プログラムよりも短く配列かつ類似度の高い 領域を高速に検出する bowtie(12)  などのツールを用い る.

⑦遺伝子機能組成:予測された遺伝子に対して,KEGG(13) 

やCOG(14) などの遺伝子機能を蓄積したデータベースを 用いて遺伝子機能をアサインする.多くの大型プロジェ クトにおいては,これらの解析パイプラインは自動化さ れており,ライブラリ化されたツールとして提供してい る場合もある(15, 16)

.次章では近年の大型プロジェクト

について紹介していく.

最近の動向

1.  Metagenome

関連論文の増加数

1998年に初めてmetagenomeという言葉が発表され て以来(1)

,これまでに数多くの研究が進められてきた.

特に2010年以降は次世代シーケンサーの発展により,

報告論文の数が飛躍的に増加しており(図

2

,今後も

この傾向は続いていくことが予想される.ヒト共生細菌 叢関連論文もこの傾向を示しており,欧米では2008年 から2012年にかけて大規模なプロジェクトが進められ た.アメリカの Human Mirobiome Project (HMP), お よびヨーロッパのMetaHITである.以下にこの2大プ ロジェクトの成果の概要を紹介する.

(4)

2.  Metagenomics of Human Intestinal Tract    

MetaHIT

MetaHITは2008年 に 設 立 さ れ,8カ 国,13研 究 グ ループにより構成されるコンソーシアムであり,大腸が んや炎症性腸疾患の原因になる遺伝子や細菌種を見つけ ることを大きな目的として掲げている.2010年度に報 告された最初の論文では,Illumina社のシーケンサーを 用いて127人の糞便サンプルを抽出し,極めて大規模な 細菌叢解析を行っている(3, 17)

.約330万の遺伝子を同定

し,腸内細菌叢のリファレンス遺伝子カタログを作成し ている.また,2011年度の報告ではエンテロタイプと いう概念を提唱している.日本人,アメリカ人,フラン ス人,スペイン人,イタリア人,デンマーク人の糞便サ ンプルから得られたメタゲノムデータを解析すること で,腸内細菌が地域,年齢,性別に依存せずに3つのタ イプに3つに大別できるということを見いだすととも に,それぞれの腸内タイプにはそれぞれ異なる機能が存 在することも示している.ヒト腸内細菌はビタミンを合 成することが知られているが,それぞれの腸内タイプに よってビタミン合成にかかわる遺伝子の存在量に有意な 差が確認されている.

3.  Human Mirobiome Project 

HMP

HMPもMetaHIT同様,2008年にアメリカで始まっ た大型プロジェクトであり,5年間で100億円を超える 予算を費やしている(18, 19)

.腸内細菌叢のみならず,口

腔,皮膚,膣といったさまざまな部位における細菌叢を

解析することで,ヒト共生細菌叢のコアとなる細菌群集 構造を明らかにすることを目指している.これまでに関 連論文数が200以上も報告されており,ほとんどのデー タはすべて詳細に公開されており,非常に有用なリソー スとなっている.また,メタゲノム解析だけでなく,シ ングルセルゲノミクスといった技術を用いて,共生細菌 のゲノムを直接決めていくという試みもなされている.

情報解析においてもQimmeやUnifracのような細菌群 集構造の解析に用いるさまざまな情報解析用ツールが独 自に開発され,公開されている.これらの大型プロジェ クトの結果に付随して,さまざまな研究が進められてい る.次章ではメタゲノム解析による医療研究の例を紹介 していく.

腸内マイクロバイオームと疾病:医療との関係 共生微生物がヒトの健康状態に影響を与えていること は間違いないであろう.しかしながら,その詳細なメカ ニズムが解明されている例は多いとはいえない.十分な エビデンスが得られていないものも多いが,肥満,糖尿 病,大腸がんおよび炎症性腸疾患について,メタゲノム 解析という手法で明らかになりつつある微生物と疾病の 関連性について紹介していきたい(表

1

1. 

肥満

肥満と腸内細菌の関係性について,マウスの腸内細菌 叢を用いた詳細な解析がなされており,肥満マウスでは 

 の比率が   と比べて低いこと(20)

また,無菌マウスに肥満マウスの腸内細菌を移植する と,通常のマウスが肥満マウスになるという報告がなさ れている(21)

.ヒトにおいても,

 の増加がヒ トの体重減少と関連があり,また,肥満においては脂質 と炭水化物を分解する経路の遺伝子が多く見いだされて いるという報告がなされている.HMPの論文では肥満 度の高い糞便サンプルにおける腸内細菌はその多様性が 低いことが示されている.また,乳児期における影響を 調べた別の報告では,生後6カ月までの抗生物質の使用 が,その後に肥満になる可能性を有意に高くすることが 図2メタゲノム関連論文の推移

論文のタイトルもしくはアブストラクトにmicrobiomeもしくは microbiota(青),metagenomeも し く はmetagenomics(赤), metagenomeおよびgut(緑)がそれぞれ含まれている論文数の推移 を示す.

表1細菌叢と疾病の関係

疾患名 細菌叢の関連

大腸がん  spp. の増加

IBD  の増加

肥満 および の比率の変化

2型糖尿病 ゲノムワイドスタディーにより,関連する6 万のマーカーを類推

(5)

報告されている(22, 23)

.これらのさまざまな結果から腸

内細菌と肥満が密接な関係性が明らかになりつつあり,

今後は遺伝子機能やヒトとの相互作用解明など,詳細な メカニズムの解明に向けて研究が進んでいくのではない だろうか.

2. 

タイプ

2型糖尿病

上記のとおり,肥満と細菌叢の強いかかわりがメタゲ ノム解析により明らかになってきた.肥満と糖尿病は密 接にかかわっていることはよく知られている.糖尿病は 世界で3億人以上が罹患する疾病であり,わが国でも 700万人以上の罹患患者が存在している(国際糖尿病連 合より)

.2型糖尿病は脂肪細胞の増加がインスリン作

用の不具合を引き起こし,血糖の代謝が上手くいかずに 発症につながっていく.日本人患者の90%が2型糖尿病 であり,その原因の一つとして,腸内細菌の関連が示唆 されている.2012年の報告では,345人の腸内細菌叢の メタゲノム解析を行い,MGWAS(24) と呼ばれる手法を 用いることで,腸内細菌メタゲノムデータから6万を超 えるマーカーとなる遺伝子領域を特定した.診断や治療 に使用するにはまだ十分な知識ではないが,糖尿病診断 を微生物によって定義できる可能性を示している.

3. 

大腸がん

腸内細菌は古くから大腸がんの原因になっていると考 えられてきた(25)

.がん化には微生物が合成する酪酸な

どの短鎖脂肪酸がアポトーシスや細胞の細胞分化を誘導 し,がん化を促していることが疑われている.マウスを 用いた実験では,Th17細胞の活性化を通じて 

  が結腸における腫瘍形成に強くかかわって いることが示されている(26)

  はヒト腸内に も分布する非病原性の細菌であり,このような日和見菌 によって,上皮組織のがん化が誘導される可能性が示唆

されている.また, も大腸が

んを発症しているマウスにおいて有意に多く存在してい ることが示されている(27)

.微生物がかかわるさまざま

な証拠が蓄積されているものの,はっきりとした原因を 特定するには至っていないのが現状である.今後さらに データが蓄積されることで,原因菌の特定が進んでいく と考えられる.

4. 

炎症性腸疾患 IBD

炎症性腸疾患は腫瘍性腸疾患 (Ulcerative colitis ; UC) 

とクローン病の2つに大別される.炎症性腸疾患は微生 物のかかわりが指摘されている代表的な疾患の一つであ る.肥満と同様に,幼児期に抗生物質を多く摂取した場 合,クローン病のリスクが高くなるという報告がなされ ている.また,クローン病の患者の細菌叢は多様性が低 いという報告もなされている.さらに,サンプル数が少 数の例ではあるが,UCとクローン病の患者は健常人と その細菌叢パターンが異なっているという報告もなされ ている(17)

.このように,肥満やほかの疾病の場合と同様

に,通常とは大きく異なる細菌叢が疾患の原因になって いる可能性があることを強く示唆している.

 属がUCの罹患リスクを高くすることや,ク ローン病の患者にはProteobacteriaが多いなどの例が報 告されているが,がんの場合と同様に,決定的な証拠と なるにはさらなるエビデンスの蓄積が必要だと考えられる.

図3エンテロタイプにおける細菌間相互作用

それぞれのタイプがもつ細菌の共起ネットワークを示す.

(6)

実際の応用に向けての課題

前述のとおり,現在までに多くの成果や結果について 述べてきた.しかしながら,メタゲノム解析を通して微 生物の影響を診断や臨床に実践的に行うためにはさまざ まな課題が残されている.以下にそれらの例を挙げてい きたい.

1. 

サンプルの採取法,抽出方法,情報解析パイプライ ンの統一

今日までに色々な研究期間から数多くのサンプルが蓄 積されている.これらのサンプルを相互に比較していく ためには,サンプルの採取方法,DNA抽出方法,さら には情報解析パイプラインを統一する必要がある.しか しながら,現状で生産されているメタゲノムデータは異 なるサンプル採取方法,DNA抽出方法,プロトコル,

および異なるシーケンサーを用いられて生産されてお り,正確なサンプル間の比較解析を困難にしている.今 後は異なるプラットホームで生産されたデータをどのよ うに統合するか,もしくはどのようにして統一規格を用 いるのか,が重要な課題になってくると考えられる.

2. 

疾病との関連性,原因かそれとも結果か

炎症性腸疾患では特定の細菌種が多く確認できる,多 様性が少ないなどの事例が報告されている.糖尿病にお いてはマーカーとなりうる遺伝子領域までもが報告され ている.しかしながら,それらが原因なのか,もしくは ほかの要素による結果なのかについて,現時点では判断 がつけられないものが多い.マウスにはさまざまな病態 モデルが存在しているので,それらを用いた研究は,細 菌種の直接的な影響を調べるなどが原因か結果かを見極 めるために有効であると考えられる.また,疾病に付属 するほかのメタデータのデザインも重要になってくる.

すなわち,メタゲノム配列データに付属するBMIや年 齢などのデータは細菌叢がどういったデータと関連して いるのかを調べるために,できるだけ多くの種類を集め ておく必要がある.腸内細菌叢に異常をもたらす要因は 数多くあることが予想されているが,実際にはどのよう な要因によってもたらされているかがまだわかっていな いので,MetaHITプロジェクトでは昨日見たテレビの 時間などもメタデータとして記録されている.

3. 

診断へ

現時点で公開されている大規模な腸内細菌メタゲノム データとして,HMPが公開しているアメリカ人154人,

MetaHITが公開しているヨーロッパ人124人,さらに BGIの中国人345人である.今後,さまざまな疾病患者 からのサンプルなど,さらなるデータを蓄積すること で,それぞれの疾病のリスクを腸内細菌の観点から調べ ることができると考えられる.大量のデータを集めるこ とがその第一ステップであり,MetaHITプロジェクト では,ボランティアベースの研究モデルを立ち上げてい る (my.microbes.eu)

.これは,一般に協力者を募り,

糞便サンプルとその研究資金の一部を提供してもらうと いう研究モデルであり,希望する協力者には,自分の腸 内に含まれる細菌群集構造,遺伝子,そして自分の腸内 タイプを伝える.このプロジェクトにより,最終的には 世界中から5,000人分のサンプルを集めることを目的と している.日本からの参加希望者は筆者の所属する東京 工業大学基金を通してこのプロジェクトに参加すること が可能である.疫学研究に分類されるこれらの研究にお いては,そのデータサイズが重要であり,すべてのプロ トコルにおいて,統一したデータ生産を行う必要があ る.将来的に,腸内細菌叢のメタゲノム解析を利用し た,がんやそのほか疾病の早期発見に向けた診断キット や診断ツールの開発ができることが期待される.

おわりに

本報ではメタゲノム解析と,この解析手法を用いて明 らかになるヒト腸内細菌叢が与える健康への影響を述べ た.ゲノム情報がすでにテーラーメイド医療に用いられ ている.しかしながら,本邦で紹介した共生細菌叢の情 報なしには,真のテーラーメイド医療はなしえない.ヒ ト共生微生物群集はわれわれを環境として生活してい る.次の10年,間違いなくこれらの共生細菌叢との相 互作用機序の詳細なメカニズムが明らかになっていくだ ろう.

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プロフィル

山田 拓司(Takuji YAMADA)    

<略歴>2006年京都大学大学大学院理学 研究科生命科学専攻単位取得退学/同年 学位取得(同大学,理学博士),同大学 特 任 助 手/2007年 European Molecular  Biology Laboratory (EMBL) Postdoctoral  Fellow/2010 年  European  Molecular  Biology  Laboratory (EMBL) Senior  Technical Officer/2012年東京工業大学生 命理工学部講師<研究テーマと抱負>腸 内マイクロバイオームの動的変化とコン トロール,data visualization<趣味>格闘 技,石集め

Referensi

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