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プロダクト イノベーション - J-Stage

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Academic year: 2023

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プロダクト イノベーション

ラット体外受精技術の実用化と今後の展望

株式会社フェニックスバイオ

青砥利裕

ラットはマウスとともに古くから汎用されているげっ 歯類の小型実験動物で,自然発症の病態(疾患)モデル も多数樹立されて広く利用されている.基礎データの蓄 積も豊富で,病理学的な研究,栄養学や行動薬理学的な 研究に汎用されている.マウスの10倍の体サイズをも つラットは,反復採血や生化学的解析に必要な材料を容 易に確保でき,解剖や外科的手技を行ううえでも有利 で,外科的病態モデルの作製も容易にできる.さらに,

学習能力がマウスよりも高いことから,神経科学領域の 研究にも利用が広がっている.

一方,近年の遺伝子工学および発生工学技術の進展 は,遺伝子設計に基づいた疾患モデルの作出をもたらし た.これを支えるゲノム情報や遺伝子改変技術などの基 盤技術の構築ではマウスが先行していたが,新しい遺伝 子ターゲティング技術が開発されて,ラットの利用を制 限する遺伝子ノックアウトがマウスに四半世紀遅れて可 能になった.このため,遺伝子機能解析,疾病機構解 析,治療法や治療薬の開発などのさまざまな領域での利 用拡大が期待される.

ラットを用いる研究者の多くは,大きな体サイズに魅 力を感じていることだろう.臓器移植は同じげっ歯類の マウスと比較して格段に行いやすい.採血量の確保や経 時的な反復採血を必要とする研究でも,マウスよりも ラットのほうが有利である.しかし,魅力ある体サイズ のメリットは,動物の維持繁殖という点では,一転して デメリットになってしまう.なぜなら,ラットをマウス と同じ規模で飼育する場合のスペースは,マウスの少な くとも4 〜5倍となるためである(1) (図

1

.動物実験施 設の限られた飼育スペースのなかで,大きなスペースを 確保することは難しく,いかにしてスペースを有効に利 用するかが重要な課題と言える.このように,ラットと マウスは異なる特性をもっているが,生命科学において

は両者ともに必要不可欠な実験動物である.しかし,飼 育スペースを確保することの難しさからラットの利用が 大きく制限されている.

体外受精技術はこのスペースという課題を解決する有 力な手段であることから,実用性の高い技術を開発する ことが実験動物としてのラットの利用に不可欠と考え た.

体外受精技術を用いたラットの維持管理 体外受精技術は運動性を保持する精子をもつにもかか わらず,自然交配では次世代を作出できない雄に対して 有効な技術で,ヒトでは不妊治療に用いられる.同じ実 験動物のマウスでは自然交配による繁殖が困難な個体か ら次世代を生産するだけでなく,大量の受精卵を調製し て大規模に繁殖生産する場合にも利用されている.ラッ トの体外受精は,1968年に初めて成功し,すでに40年 が経過したが,マウスのように繁殖技術として一般的に

図1マウス用ケージとラット用ケージ

小さいほうがマウス用ケージ,大きいほうがラット用ケージであ る.マウス用ケージは床面積318 cm2,内寸高14.4 cm.ラット用 ケージは床面積1084 cm2,内寸高19.5 cm.収容匹数はマウス用 ケージで3 〜 8匹,ラット用ケージで500 g未満個体を2 〜 8匹と なっている.つまり,マウスと同等数収容するために必要なラッ ト用のケージサイズは,マウスの約4 〜5倍となる.

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利用されていない.これは既存のプロトコールが,早朝 や夜中の作業が必要で,容易に利用できなかったことに よる.

ラットの体外受精が容易に利用できれば,1匹の繁殖 用の雄個体から大量の受精卵を一度に作出できるため,

多数の種雄を維持する必要もなく,さらに,作出した受 精卵を凍結保存することができれば,いつでも必要なと きに必要なだけ生体に戻すことができるため,飼育ス ペースを計画的に利用できる.このようなことから,

ラットの使用を制限する「限られたスペース」の問題を 一掃できる.さらに,精子の運動性があるにもかかわら ず,老齢や遺伝子改変で経験する自然交配による次世代 の作出が難しい場合に活用することで,これらの雄をい つまでも維持する必要がなくなり,限られた飼育スペー スを長期間にわたって占有されないで済む,というメ リットも生れる(図

2

そこで,体外受精技術プロトコールを誰もが容易に利 用できるプロトコールに改良して,飼育スペースを取る というデメリットを克服すべく,本稿にて紹介するラッ トの体外受精技術の改良に取り組んだ.

体外受精技術を容易に利用できる  プロトコールにするための課題の抽出

現在最も採用されているラットの体外受精プロトコー ルはToyodaらの報告(2) に基づき,その後の研究で精子 の前培養時間および精子と卵子の共培養時間が最適化さ

れたプロトコールである.しかし,本法では効率を重視 するあまり,深夜や早朝の作業を余儀なくされるため,

誰もが容易に採用できる方法ではない.そこで,誰もが 使える実用的なプロトコールにするべく4つのポイント を抽出して精査した.

第一点は精子の前培養時間である.通常,精子が卵子 と受精するには受精能を獲得する必要がある.Toyoda らは,5 〜 5.5時間の精子の培養時間が体外において ラット精子の受精能獲得を誘導するために必要不可欠で あることを示した.その後5 〜 5.5時間希釈した状態で 前培養したラット精子は0.5時間以内に卵子内に侵入し 始めることが報告された.これ以降のラット体外受精で は5 〜7時間の前培養時間が採用された.この時使用さ れた培地は修正KRB培地だったが,修正R1ECM/BSA 培地が多精子受精を抑制することが報告(3)  されて以降 は,本培地が採用されるようになった.

第二点は精子と卵子の共培養時間である.マウスは媒 精してから5 〜6時間目に前核形成が完了するため,そ の時間に卵子を回収して新鮮な培地に移す.一方,ラッ トは体外受精時の精子と卵子の最適な共培養時間を受精 率および胚盤胞までの体外発生率に基づいて評価して 10時間とされている.精子侵入直後に用いる培養培地 が胚発生に大きく影響することが報告された(4)  ことか ら,このときに使用する培地はラットの体外受精におい て重要なことがわかる.この初期の培養において,修正 R1ECM/BSA培地がその後の体外発生で良好だったこ とが報告(3) されて以降は,修正R1ECM/BSA培地は精 図2体外受精技術を活用したラット飼育管理の展望

自然交配による繁殖は労力が最小限で済むというメリットがあるが,大量の次世代動物を生産することは難しい.また,交配しても妊娠し ない場合には,次世代を取得する作業が遅々として進まないというデメリットがある.これに対し,体外受精による繁殖では,雄から活発 に動く精子が取得できれば,大量の受精卵を一度に得て1匹の雄からでも多数の次世代産仔を獲得できる.自然交配による繁殖では多数の 交配用の雄を用意しなければならないが,体外受精法を活用する場合はその必要がない,また,自然交配では次世代産仔を取得できなかっ た雄でも体外受精を活用すれば,次世代産仔を取得できる.繁殖能力が乏しい雄を長期間維持する必要もなくなり,飼育スペースの圧迫が なくなる.一方,凍結保存法を併用することで,実験スケジュールに合わせて動物の準備ができ,飼育スペースを有効に利用できる.

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子の前培養だけでなく,卵子との共培養にも採用され た.

第三点は過剰排卵誘起のための hCG (Human chori- onic gonadotropin) 投与から採卵までの時間である.体 外受精の際には,自然排卵で排卵される卵子以上の卵子 数を採取するために,供試雌に過剰排卵誘起処置を施 す.排卵を誘起するためにhCGを投与するが,体外受 精のための最適な採卵時間帯の詳細な報告はない.過去 の報告ではhCG投与後12 〜 14時間目までの2時間以内 が多い.

第四点は作出した受精卵を移植するタイミングであ る.移植した胚が効率的に個体になるタイミングが繁殖 に最も適したタイミングである.しかし,詳細な報告が なく,初期胚の体内での発生能力を維持できる体外培養 技術が確立されていない現状では,1細胞期胚あるいは 2細胞期胚で卵管に移植することが妥当と考えざるをえ ない.

上記の4点を考慮して体外受精のタイムスケジュール をシミュレートしてみた.仮に採精を朝の9時から実施 した場合,媒精は5 〜 7時間後の14から16時,hCG投 与は12 〜14時間前にあたる体外受精当日の0から4時,

卵子の回収は媒精10時間後にあたる体外受精翌日の0時 から2時,移植時間は1細胞期胚で移植する場合は回収 直後から開始となる(図

3

.したがって,現行のプロ トコールは非実用的なものと言わざるをえない.

一般的な労働時間を考慮したプロトコールに改良する にあたり,上述した4つのポイントの中で精子の前培養 時間に着目して,タイムスケジュールを組み換えた.

精子の前培養時間の短縮または延長

通常,精子が卵子と受精するためには,あらかじめ受 精能力を獲得する必要がある.その時間は既存の体外受 精プロトコールでは 5%CO2, 37℃環境下で5 〜7時間で

ある.この時間を大幅に変更することで,早朝や夜中の 作業がないプロトコールとすることを検討した.

ラットと同じげっ歯類のマウスで,前培養時間が室温 下で延長できることが報告されていた(5).また,ヒトの 体外受精のために開発されたHTF培地がマウスの体外 受精に応用でき,かつ多様な系統に利用できることが報 告されていた(6).そこで前培養時間の延長を考えた.ま ず,マウスの精子を室温下でHTF培地を用いて培養し た際の精子の生存性とその精子を用いた体外受精を確認 したところ,既知の報告で最良とされたM2培地に比 べ,精子の生存性も受精率も高い結果を得た.この結果 を得て,ラットの精子前培養時間についてHTF培地を 用いて,室温下で16あるいは40時間まで延長すること を検討した.さらに,ラット体外受精で一般的に用いら れている修正R1ECM/BSA培地を受精時に使用せず,

前培養と受精を同じHTF培地を用いて同時に行うこと で受精能獲得と受精に要する培養時間の短縮を狙った.

また,その後の作業は前培養時間を延長したものと同じ タイムスケジュールでできるように,前培養は精子を採 取して濃度を調製したのちに,卵子を採取して先に調製 した精子液へ導入するために必要な1時間未満に短縮す ることを検討した.これらを一般的なクローズドコロ ニー系統のWistar系統を用いて,同時に行った.驚い たことに,いずれの実験群でも過去の報告と遜色がない 受精率および個体発生率が得られ,精子前培養時間の短 縮および延長がいずれも可能であることがわかった(図

4

.この結果,幸運にも,精子の前培養と体外受精培地 にHTF培地を利用したことで,精子の前培養時間を短 縮あるいは延長した作業時間が実用的な新しいラット体 外受精プロトコールを一挙に構築するに至った(7)

系統汎用性と遺伝子改変ラットへの適用 新たなラット体外受精プロトコールが多様な系統に利

図3ラット体外受精法のタイムス ケジュール

ラット体外受精で汎用される方法の タイムスケジュールを示した.精子 回収を早朝9時から開始した場合,

背景を色づけた作業が一般的な労働 時間帯から逸脱した時間 (20 : 00 〜 8 : 00) の作業を余儀なくされる.こ のことが,ラットの体外受精法を定 常的に利用することを難しくしてい る.※体外受精の実験日をday 0とする.

背景色づきは一般的な作業時間外 

(20 : 00 〜8 : 00) を示す.

(4)

用できれば,利用の幅がさらに広がる.そこで,系統汎 用性の確認を目的に,Wistar系統と同じクローズドコ ロニーであるLong-Evans系統,Wistar系統とは最適な 体外受精条件が異なることが報告されているSD系統,

および体外受精の報告例がない近交系のLewis系統を用 いて,新しいラットの体外受精プロトコールを検討し た.その結果,3つのすべての系統において実用可能な 受精率と個体発生率を確認することができた(7)

新しい体外受精プロトコールが野生型ラット系統に対 して十分に活用できることがわかったため,トランス ジェニックラットの繁殖への利用を2種類のトランス ジェニックラットについて検討した.1種類は,加齢ト ランスジェニック雄ラットAおよびBで,もう1種類 は,自然交配で低繁殖能を示すトランスジェニック雄 ラットCを使った.精子を76週齢のトランスジェニッ クラットAおよび68週齢のトランスジェニックラット Bから回収し,それぞれを体外受精に供した結果,体外 受精率はともに98%,  個体発生率はそれぞれ 58%, 56% 

の高率を示し,加齢トランスジェニックラットの体外受 精に有効な方法であることがわかった.次に,自然交配 で低繁殖能を示した雄のトランスジェニックラットCに 適用した.16匹の供試雌を使用した際の受精率,供試 雄数,実験日数および総受精卵数は,自然交配ではそれ ぞれ59%,6匹,19日間および196個だったのに対し,

体外受精では95%,1匹,4日間および433個であった.

このように,新しい体外受精プロトコールが,自然交配 で低繁殖能を示したトランスジェニックラットの繁殖に 有用で,少ない供試雄でも短期間で効率的に受精卵を作 出できた.

これらの結果から,今回構築した新しいプロトコール は系統汎用性が高く,実用性の面でも非常に期待できる ものであった.

体外受精で作出した受精卵の凍結保存

体外受精技術は,凍結保存技術と併用することで,1 匹の雄から系統保存に十分な数の胚を作出して保存し,

いつでも必要なときに必要な分だけ生体に戻す合理的な 繁殖計画が実行できる.一方,大量の受精卵を凍結保管 することで,繁殖に必要な雄を恒久的に維持する必要が なくなる.特に,繁殖系統ではない特定の遺伝子改変系 統を維持するうえで利用すれば,個体で維持する必要が なくなるため,使用する飼育スペースの削減に役立つ.

そこで,新しい体外受精プロトコールにより得たラッ ト体外受精卵の凍結保存を,WistarおよびLong-Evans クローズドコロニー系統の体外受精卵を用いて検討し た.受精卵の凍結保存は,マウス胚の凍結保存で広く汎 用されているDAP213を使用したガラス化法で行った.

図4従来法と実験群のタイムスケジュールと成績の比較

ラット体外受精で汎用される従来法と実験群のタイムスケジュールを比較した.従来法では,背景を色づけた一般的な労働時間帯から逸脱 した時間 (20 : 00 〜8 : 00) の作業を余儀なくされるが,実験群ではその時間に行う作業は一つもない.また,実験群の成績は受精率,個体 発生率ともに従来法と比べて遜色がないことがわかる.

※体外受精の実験日をday 0とする.背景色づきは一般的な作業時間外 (20 : 00 〜8 : 00) を示す.

(5)

その結果,それぞれ作出した体外受精卵の融解直後の生 存率はWistar系統が 92% (161/175), Long-Evans 系統 が 87% (321/369) であった.産子率は新鮮胚よりも低 下したが,Wistar系統が 47% (53/113), Long-Evans 系 統が 32% (99/280) で,実用レベルにあると判断でき た.このように,新たに構築したラット体外受精プロト コールによって得られた体外受精卵はDAP213を用いた ガラス化法による凍結保存が可能で,飼育スペースの計 画的利用に有効であることがわかった.

新しいラット体外受精技術の有効性と今後の展望 新しい体外受精プロトコールは,効率も労務管理上も 実用レベルにある優れた方法であり,ラットもマウスの ように体外受精技術を容易に利用できることから胚保存 の選択が広がり,実務において繁殖や系統保存における 要望の多さを実感している.このプロトコールを構築す るにあたって系統汎用性を少しでも高くすることを狙 い,Wistarと SDの系統間の汎用性に乏しいことが報告 さ れ た 一 般 的 な ラ ッ ト 体 外 受 精 培 地 で あ る 修 正 R1ECM/BSA培地を使わず,マウス精子の室温保存が できたこと,マウスでの系統汎用性の高さから,HTF 培地をラット体外受精に試行した.その結果,修正 R1ECM/BSA培地では効率が低いことが報告されたSD 系統を含む4系統で実用に十分な汎用性が確認できたこ とは,幸運だったと言える.

しかしながら,実用的に利用する最低限が整備できた にすぎないととらえることもでき,ラット体外受精技術 のさらなる普及を考えるには,多様な系統にも実施例を 広げて信頼ある作業システムに作り上げる必要がある.

すなわち,これらの体外受精技術や体外受精胚の凍結 保存技術が,多くの系統に利用できるかどうかを早急に 確認しなければならない.免疫・アレルギー研究分野で は,Wistar系統やSD系統が利用されている.塩基配列 解読の対象には近交系のBN系統が利用された.また,

がん研究分野では,近交系のF344系統が利用されてい る.このように,研究分野によって利用される系統は多 様であるため,多様な系統で新しい体外受精プロトコー ルを検討して汎用性を確認することで普及を図る必要が ある.

一方,体外受精で得た胚の凍結保存の成否は,限られ た飼育スペースの計画的な利用に重要な技術であるた め,体外受精卵の凍結保存についても系統汎用性を確認 する必要がある.いまのところ,クローズドコロニーの Wistar系統とSD系統で確認したがLong-Evans系統や

Lewis系統では確認していない.マウスの胚保存で汎用 されているDAP213を用いたガラス化保存法では保存で きない場合も考えられる.

受精卵での凍結保存が難しい場合には,凍結精子の利 用を考える必要がある.凍結精子を使用する体外受精法 で,受精卵を実用的な方法で効率的に作出することがで きれば,受精卵ではなく精子を遺伝資源として保存でき るため,遺伝子改変した系統を保存するうえで大きなア ドバンテージになり,遺伝資源として精子が選択でき る.

しかし,ラットの凍結精子を用いた体外受精は汎用さ れるに至っていない.最初の報告では,凍結精子融解後 の前培養時間には5時間が採用されており実務レベルの 活用は難しい(8) (図4).また,ラット精子の凍結に鶏卵 を利用することがある.鳥インフルエンザの流行から凍 結精子を介した微生物汚染が懸念される.凍結保存に要 する時間もマウスが15分間と比較的短時間であるのに 対し,ラットではプログラムフリーザーを使用して段階 的に保存温度を下げるため全所要時間も55 〜60分間と 長い.このように,ラットの凍結精子の利用にあたって は,前培養時間や鶏卵の使用などの点で克服すべき課題 がある.

新技術への挑戦を振り返って; 

目的意識と専門外研究者意見の採用

本研究を始めるにあたって,最初に苦慮したのは常識 を打破することであった.「精子の前培養は温湿度が一 定の環境下で5時間が必要.修正R1ECM/BSA培地を 前培養および卵子との共培養に用いる」といった常識と される従来法と相反するプロトコールの採用だった.う まくいくとわかっている現行のプロトコールをそのまま 利用することは,非常識な時間帯の作業を強いられるた め,企業人として労務管理上採用できない.しかし,精 子や卵子,胚を扱う発生・生殖工学技術は過去の実績を 基盤とする経験技術である.経験に基づく既知のプロト コールの「正確な実施」に重点を置くため,これからの 脱却には勇気を要した.それには,「常識的な作業時間 帯を守る」という目的意識のもとで,「成功例にとらわ れない」,ということを貫かなければならなかった.そ こで,ラットの体外受精培地として使用前例のない HTF培地の使用,ならびに精子の前培養時間を調整す ることで,一般的な作業時間帯に体外受精の全作業工程 を完了させることを検討した.

前培養時間の延長はマウスで報告があったが,短縮に

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ついては,むしろ必要性をうたう報告があり,なかなか 発想ができなかった.しかし,受精能獲得の前培養時間 を短縮するのではなく,受精能獲得と受精を同じ工程で 行ってしまうという発想の転換を行った.それには,専 門外の研究者の意見が大きくかかわった.当時社会人修 士として在学し所属していた宇都宮大学大学院農学研究 科家畜繁殖生理学研究室で家畜生殖のプロではあるが,

ラットの体外受精は門外漢であった長尾慶和教授により もたらされた.長尾教授との度重なるディスカッション と最終的な「やってみては?」という言葉の後押しが あったことが成功につながったと振り返る.常識にとら われていたら,試行さえも見送っていたと思う.この場 をお借りして,今一度感謝申し上げたい.

この研究を通して,既知の報告にとらわれない新しい 発想と強い目的意識をもったチャレンジが研究において 重要なことを改めて思い知らされたことを付け加えた い.

文献

  1)  日本実験動物環境研究会:「実験動物の飼養及び保管等 に関する規準」についての日本実験動物環境研究会改正 案 ,2003, p. 3.

  2)  Y.  Toyoda  &  M.  C.  Chang : , 36,  9 

(1974).

  3)  S. Oh, K. Miyoshi & H. Funahashi : , 59, 884 

(1998).

  4)  K.  Miyoshi,  T.  Kono  &  K.  Niwa : , 56,  180 

(1997).

  5)  M.  Sato,  A.  Ishikawa,  A.  Nagashima,  T.  Watanabe,  N. 

Tada & M. Kimura : , 31, 147 (2001).

  6)  S.  Kito,  T.  Hayao,  Y.  Noguchi-Kawasaki,  Y.  Ohta,  U. 

Hideki & S. Tateno : , 54, 564 (2004).

  7)  T. Aoto, R. Takahashi & M. Ueda : , 20,  1245 (2011).

  8)  Y. Seita, S. Sugio, J. Ito & N. Kashiwazaki : ,  80, 503 (2009).

プロフィル

青砥 利裕(Toshihiro AOTO)    

<略歴>1999年宮城県農業短期大学畜産 科卒業/同年株式会社ワイエスニューテ クノロジー研究所(ワイエス研究所の前 身)入社/2003年株式会社ワイエス研究 所入社/2007年株式会社フェニックスバ イオ入社(ワイエス研究所の吸収合併によ り)/2008年放送大学教養学部教養学科卒 業/2011年宇都宮大学大学院農学研究科 生物生産科学専攻修士課程修了<研究テー マと抱負>発生生殖工学技術力の向上,安 定化,効率改善.受精方法による受精卵の 質の違いに興味を持っています<趣味>旅 行,訪れた温泉名の入ったタオル集め

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