• Tidak ada hasil yang ditemukan

ペプチドアレイによる短鎖機能性ペプチドのスクリーニング

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2023

Membagikan "ペプチドアレイによる短鎖機能性ペプチドのスクリーニング"

Copied!
7
0
0

Teks penuh

(1)

20種 類 の ア ミ ノ 酸 の ポ リ マ ー で あ る ペ プ チ ド は,短 鎖 で も 多くの配列多様性をもち,ヘキサマー(6-mer)でも6,400 種類に及ぶ.リガンドタンパク質に代わって受容体に結合で きるペプチドなど,タンパク質の機能を代替するペプチドも 探索されており,タンパク質の多様な機能が代替できる.わ れわれは短鎖ペプチドをアレイ状フォーマットで固相合成し たペプチドライブラリー(ペプチドアレイ)で種々の機能性 ペプチドを探索している.さらに,配列機能相関を解析する ことで高機能ペプチドの配列特異性を抽出可能である.これ は 創 薬 リ ー ド 化 合 物 の 探 索 に も 使 え る ケ ミ カ ル ラ イ ブ ラ リーと捉えることができる.

はじめに

1. ケミカルライブラリーとしてのペプチドの多様性 ペプチドはアミノ酸のポリマーである.その配列は極 めて重要であり,その配列を最適化することでさまざま な機能をもつペプチドがデザインでき,ペプチドは配列 置換によって改良・改変が可能である.われわれは,ペ プチド固相合成法という手法で,ペプチドをアレイ状に

スポット合成する装置を使っている(図

1

.これで数 百種類のペプチドを合成し,機能性ペプチドを精力的に 探索している.ペプチドはアミノ酸20種類の組み合わ せであることから6-merであっても6,400万種類にも及 ぶ多様性をもつ.19-merでは20の19乗種類になる.こ れらの種類の分子が,すべて1分子ずつ合成できたとす ると,約40 kg, 37-merでは6×1027 gとなり,地球と同 じ重量となる.また単分子膜が形成できるとすれば1g で1,000 m2に達し,17-merのワールド(約45 g)で,野 球場のグラウンドの面積(13,000 m2)の3倍に達する.

このような膨大なバリエーションをもつペプチドワール ドは,医薬品原薬や機能性食品素材のリード化合物探索 のためのライブラリーにふさわしいと考えられる.

後述するように,私たちはタンパク質などの生体分子 と結合して機能するペプチドを多数探索した.細胞に結 合して細胞死や増殖分化シグナルを伝えるペプチドも探 索した.たとえば,コレステロールの吸収は,腸管内で コレステロールを巻き込んだ胆汁酸ミセルを形成し吸収 される.われわれが探索したコレステロール吸収阻害ペ プチド(たとえばPWWWMY)は,疎水性分子である 胆汁酸の一種,タウロコール酸(log  値=2.2の疎水性

【解説】

Screening of Short Length Functional Peptide by Peptide Array Hiroyuki HONDA, 名古屋大学大学院工学研究科

ペプチドアレイによる短鎖機能性ペプチドのスクリーニング

本多裕之

(2)

分子)に結合できる(1),比較的疎水性の高い分子であ る.アミラーゼ阻害ペプチド(RHWYYRYW)は

α

アミ ラーゼの多糖結合ポケットに先回りして結合できる(2), 多糖構造を模倣できるペプチドである.タンパク質分子 を形成するL型のアミノ酸に限ってみても,その疎水度 は,log  =−4.2(アルギニン)から−1.05(トリプト ファン),等電点は,10.76(アルギニン)から2.77(ア スパラギン酸)である.さらにペプチド結合でポリマー になれば,疎水性は増し,等電点は変更可能である.ケ ミカルライブラリーとしての可能性が感じられる.特に 生体内分子と結合して機能を発揮するリード化合物を 探索する という現場においてはよりいっそう魅力的で ある.

実際に,ペプチドは短鎖でも機能性をもつものが知ら れている.血圧安定化作用を示すペプチド(ラクトトリ ペプチド)や細胞接着ペプチド(RGD)はその好例で ある.われわれは,この魅力的な,そして非常に膨大な ワールドを探索フィールドにするため,①まず数百種類 の短鎖ペプチドをペプチドアレイにより合成し,機能性 ペプチドを探索する,②次にそれらの機能性ペプチドの 特徴を,特定位置のアミノ酸の特徴で説明するという探 索法を提案している.この方法をPeptide informaticsと 呼んでいる(3, 4).光解裂するフォトリンカーを使った遊 離ペプチド探索系や細胞を使った評価系も構築してい る.本稿では,これらのペプチド探索法を使った ペプ チドケミカルライブラリー の可能性に関して紹介す る.

2. ファージディスプレイとの比較

機能性ペプチドの探索では,多くの研究者がファージ ディスプレイ法を試みている.この方法はキット化され

ていて利用しやすい.しかし,一方で,ファージディス プレイ法でのスクリーニングに不安を感じている研究者 は少なくない.確かに結合するペプチドは得られたけれ ど,果たして本当にこれが最良のペプチドなのか(検出 漏れの危険性),これ以外に同様の活性をもつペプチド 配列はないのか(類似性の危険性)という不安である.

われわれは,ファージディスプレイ法で得られた金属微 粒子ZnOを認識するペプチドEAHVMHKVAPRPをシー ド配列にして,組成が同じで配列の異なる類縁体ペプチド をペプチドアレイに合成し,ZnOとの認識能を評価した.

その結 果,HPVPRHMVAEAKやKAEAHVPMHVPRが シード配列より高い認識能をもつことを発見した(5).ま た,シード配列を元にして6-merのペプチドを探索した ところ,2種類の重要部位HVMHKV, HKVAPRの特定 に成功し,さらにHKVAPRの残基置換によりHCVAPR という非常に高結合を有するペプチドの探索に成功し た.これは,(i)ファージディスプレイ法による探索が 万能ではなく,スクリーニング漏れがあり,また(ii)

同程度の機能をもつ短鎖ペプチドが実際に存在すること を示している.検出漏れは,発現困難なペプチドであっ たためかもしれないし,ファージ表面タンパク質と発現 ペプチドとの相互作用が無視できないためかもしれな い.短鎖でも良いものがあるのは,酵素‒基質の認識が 3から4個のアミノ酸残基で起きることにつながると考 えている.

3. 受容体ライブラリーによる探索

注目するタンパク質に結合して機能を発揮するペプチ ドをどのように探索するかは重要である.受容体(レセ プター)が知られているタンパク質では,そのリガンド 機能を代替するペプチドを探索するため,受容体のアミ 図1ペプチドアレイ作製装置(a)と作 製原理(b

作製装置はシリンジポンプにつながった X-Yスポッターであり,コンピュータ制御 で目的の位置にアミノ酸をスポッティング で き る.具 体 的 な ペ プ チ ド 合 成 原 理 は Fmoc固相合成法である.

(3)

ノ酸配列から探索するのが適切であろう.

われわれは,アンジオテンシン結合ペプチドの探索の ためにアンジオテンシン受容体のアミノ酸配列を網羅し た8-merのペプチドライブラリーを作製した.アンジオテ ンシンをFITCで蛍光ラベルし,結合するペプチドを探索 した結果,46から56残基目までの領域,NSLVVIVIYFY が特に強く結合した.さらに絞り込んだ結果,6残基の VVIVIYで十分であり,ラット大動脈組織を使った血管 収縮作用を84%抑制できることを明らかにした(6)

抗体は生化学検査だけでなく,抗体医薬として注目さ れる重要な生体分子である.われわれはそのFc領域に 結合するペプチドをFc

γ

受容体配列から探索することを 試みた.細胞表面に存在するFc

γ

受容体はI, II, IIIの3種 類があるため,それらの配列を網羅した全740種類の 6-merペプチド受容体ライブラリーを作製し,IgG-Fc認 識ペプチドを探索した.その結果,図

2

に示すように,

3種類の高結合配列が探索できた(7)

4. ペプチドアレイ細胞機能アッセイ法

上記のように,リガンドの結合を で評価する ことが可能な場合は,蛍光ラベルしたリガンドが利用で きるため探索しやすい.しかし,単離精製が困難なレセ プターで容易に アッセイ系が構築できない場合 や,ターゲットになるレセプターが特定されていない場 合は,細胞を使って直接評価する方法が必要である.そ こでわれわれは,アレイ表面のペプチドと細胞表面上の 受容体( . インテグリン)を直接相互作用させること で,シグナル伝達に伴って引き起こされる細胞の変化

(ペプチドの機能)を直接検出できる “Peptide array- cell assay system” を開発した(8).これは,合成したペ プチドアレイを十分に乾かした後,Biopsy Punchを用 いて直径6 mmのディスク状にくり抜き,96穴の培養プ レートに沈め,細胞を播種した後一定時間後の生細胞数 をカルセインAMで検出する方法である.

がん細胞を選択的にアポトーシス(周囲の正常な組織 に影響を与えない細胞死)に誘導するタンパク質として TRAIL(TNF related apoptosis inducing ligand)が知 られている.TRAIL配列ライブラリーを作製し,上記 の方法で探索を行ったところ,TRAILと同様な機能を もったペプチドとしてRNSCWSKD配列を発見した(9). これ以外に,FASリガンドを代替する細胞死誘導ペプ チドCNNLPの探索にも成功している(10)

間葉系幹細胞(MSC: mesenchymal stem cell)は骨 芽細胞・脂肪細胞・軟骨細胞・筋細胞などに分化するこ とができる分化能と自己複製能を併せ持つ細胞で,再生

医療に有効な細胞である.しかし,MSCは骨髄中にわ ずかしか存在しないため少量の細胞を効率良く接着・増 殖させることが重要である.われわれはフィブロネクチ ンのアミノ酸配列をもとに6残基ペプチドライブラリー を作製し,MSC接着ペプチドの探索を行った.その結 果,細胞接着ペプチドとして知られているRGDと同な どの活性をもった配列ALNGRを探索することに成功し た(11)

コラーゲンタイプIV(Col IV)は動物の組織におい て上皮細胞層と間質細胞層を分ける基底膜に存在する主 要な細胞外マトリックスである.そこで,血管内皮細胞

(Endothelial cell; EC)と平滑筋細胞(Smooth muscle  cell; SMCs)に選択的に接着するペプチドを探索するた め,Col IVに存在するトリペプチドのペプチドライブ ラリーを作製し,細胞の接着評価を行った.フィブロネ クチン中に存在し,細胞選択性を示さない細胞接着トリ ペプチド,RGDを比較のため同時に評価した.その  結果,配列CAGのトリペプチドが最もEC選択性が  高 い こ と が わ か り,CAGを 含 浸 さ せ たPCL(poly-

ε

-  caprolactone)のシートを作製したところ,EC接着性 が非常に高いシートであることがわかった(12)(図

3

これらの結果からペプチドアレイを用いた細胞アッセ イ法が機能性ペプチド探索手法として有用であることが 確認された.

5. アミノ酸配列の残基置換

上述の機能性ペプチドはいずれも生体内に存在するタ ンパク質由来のアミノ酸配列である.ペプチドのバリ エーションから考えると生体内に存在しない機能未知の ペプチドは無数にあると考えられる.そこで,探索した 実在のタンパク質上のアミノ酸配列を置換して,全く新 規の機能性ペプチドの探索を試みた.

図26-merからなるFcγ受容体ペプチドライブラリーの作製 とIgG-Fc認識ペプチドの探索

(4)

上述のIgG‒Fc結合ペプチドとして探索した配列に関し て,アミノ酸組成を変えずに配列置換したペプチドを合成し て結合活性を評価した.Fc

γ

RI由来のYRNGKAFKFFHW と い う12-merの 高 結 合 配 列 か ら は8-merペ プ チ ド NARKFYKGが,またFc

γ

RIII由来のNGKGRKYFから はNKFRGKYKという高結合活性を示すペプチドが得 ら れ た.NKFRGKYKお よ びNARKFYKGのIgGへ の 結合定数は,8.9×106および6.5×106 M−1と非常に高く,

IgGの精製に使えるだけでなく(7),その相補配列と組み 合わせることでIgG検出に使えることを明らかにし た(13)

上述の細胞死誘導ペプチドRNSCWSKDも改変ペプ チドを合成し,評価した.各アミノ酸残基をそれぞれほ かの19種類に置換した配列(たとえばANSCWSKDな ど),全152配列を作製した(19種類×8カ所=152種類). 細胞死活性を評価した結果,さらに高い活性をもつ配列 CNSCWSKDを得た.この配列は元の配列RNSCWSKD より5倍程度活性が高かった(14)

配列機能相関

われわれのペプチドアレイを使うと上記のようにさま ざまな機能性ペプチドが得られる.また合成したすべて の配列が,どれくらいの活性を示すのかがすべて定量的 に明らかになる.配列と機能の特長を明示的に明らかに することが 機能性ペプチド を理解するうえで極めて 重要であろう.そこでわれわれは,情報解析の方法を用 いて,ペプチド配列とその機能の相関を調べ,さらにそ の結果を探索に活用することを想起した.

1. コレステロール吸収抑制ペプチドのルール

コレステロールは胆汁酸ミセルに取り込まれて小腸壁 から吸収される.大豆由来のペプチドVAWWMYは,

胆汁酸に結合し,ミセル崩壊を促すことでコレステロー ルの吸収を抑制できる.この原理に基づき,2,212種類 のペプチドライブラリーを作製し,胆汁酸との結合活性 を調べた.またアミノ酸の性質(特徴量と呼ぶ)とし て,疎水度,電荷,サイズを選択し,結合実験の結果を 解析した.その結果,胆汁酸結合ペプチドでは,「N末

図3細胞選択性ペプチドの探索 a)Col IV特異的ペプチドに対する血管内 皮細胞(EC)選択性,b), c), d)走査電子 顕微鏡写真(b: PCLシート上のEC細胞,

c: CAG含 浸PCLシ ー ト 上 のEC細 胞 お よ び,d: CAG含 浸PCLシ ー ト 上 のSMC細 胞),EC細胞はCAG含浸PCLシート上で 高い接着性を示しSMC細胞はあまり接着 していない.

図4コレステロール吸収阻害ペプチドの配列機能相関 1stルール:「N末端3残基目のアミノ酸のサイズが大きく,4残基 目のタンパク質安定化指標が大きいと胆汁酸結合活性が高い」に 合致するものを作製して評価.2ndルール:「1stルールにさらに 加えて,N末端2残基目のアミノ酸のタンパク質安定化指標が大 きいと胆汁酸結合活性が高い」に合致するものを作製して評価.

(5)

端3残基目のアミノ酸のサイズが大きく,4残基目のタ ンパク質安定化指標が大きいと胆汁酸結合活性が高い」

という1stルールが得られた.さらに解析し「N末端2 残基目のアミノ酸のタンパク質安定化指標が大きいと胆 汁酸結合活性が高い」という2ndルールまで加えて,

ルールに合致したライブラリーを作製して評価したとこ ろ,約45%が高活性のペプチドであった(ランダムラ イブラリーでは僅か6%)(1)(図

4

.また,既知の大豆グ リシニンタンパク質由来VAWWMYペプチドよりも高結 合性を示す28配列が得られた.VIWWFKやPWWWMY という高活性ペプチドをラットに投与したところ,血 清,肝臓,小腸でのコレステロール吸収量が1/2から 1/3に低下することがわかった.

2. 細胞接着ペプチドのルール

上述の “Peptide array-cell assay system” を使って

線維芽細胞接着ペプチドを探索した.643種類の5-mer ランダムペプチドライブラリーを作製して評価した結 果,「N末端アミノ酸のサイズが小さく,2残基目の電荷 が大きく,3残基目のサイズと電荷が大きく,4残基目 のサイズが小さければ細胞接着ペプチドとして機能す る」というルールが発見でき,さらに270種類の4-mer ペプチドで解析したところ「3残基目のサイズと電荷が 大きければ細胞接着ペプチドになる」という追加ルール が得られた.このルールにしたがってペプチドを作製し たところ,活性の高い配列は84%と約4倍以上含まれる ことがわかり,線維芽細胞の接着に重要なルールである ことが実証できた(3).このペプチドは,再狭窄を防ぐ人 工血管表面修飾分子として使える可能性がある.

このように配列‒機能相関(ルール)を組み合わせれ ば,最初からライブラリーが網羅されていなくても高機 能性ペプチドが探索できることがわかる.一部を探索す ることで,6-merでは6,400万種類のペプチドを掌中に 収めた探索が可能になるのである.

そのほかの機能性ペプチド探索

上述の結果以外に最近われわれが挑戦している研究内 容について少し紹介する.

1. 遊離ペプチドライブラリー

ペプチドアレイは固相合成法でありC末端で拘束され ている.遊離のペプチドに比べるとタンパク質との結合 に不利に働く.多くのペプチドは遊離で使用されるの で,最初から遊離で探索できたほうが良い.このため

紫外線照射で解裂・遊離できるフォトリンカー(4-[4-

(1-(Fmoc amino)ethyl)-2-methoxy-5-nitrophenoxy]bu- tanoic acid)を合成し(2),紫外線照射でペプチドが遊離 できるライブラリーを作製した.対象として,糖尿病の 症状を改善するため実用化されているアミラーゼ阻害剤 の探索を試みた.ペプチドアレイを合成した後,光解裂 させ,96穴プレートにパンチアウトし,緩衝液を加え て遊離ペプチドとした.このライブラリーに膵液アミ ラーゼを添加し,合成基質を用いた酵素活性測定で,ペ プチドの阻害活性を評価した.その結果,RHWYYRYW という8-merペプチドが探索できた(2).このペプチドの 阻害様式は拮抗阻害であり,その阻害定数は4.65 

μ

Mで あり,アカルボースの阻害定数8.9 

μ

Mより高い阻害活 性を示した.消化管での加水分解の問題が解決できれば 糖尿病治療薬として可能性が高い.

2. 分岐鎖ペプチドライブラリー

タンパク質分子が2種類組み合わせることでシグナル が伝わることがある.アレルギー反応の2量体化もその 一つである.そこで,2種類のペプチドを組み合わせて 合成する分岐鎖ペプチドライブラリーの合成を試みた.

これは主鎖をFmoc基,側鎖をivDde基で保護したリジ ンを用い,主鎖と側鎖に別々のアミノ酸を合成すること で実現できる.この方法により,2種類のIgEエピトー プを1リジン残基に合成し,RBL-2H3細胞によるヒスタ ミン放出が検出できた.この方法はヘテロ2分子でもホ モ2分子でも可能であり,ペプチドの組み合わせ効果を 検証するためにユニークなツールになるものと期待でき る(15)

3. 細胞内機能性ペプチドライブラリー

これまでのペプチドはいずれもタンパク質との結合や 細胞外から細胞に作用するペプチドであった.細胞内で 機能するペプチドの探索は,ペプチドの機能を水平展開 するうえで重要である.すでに多くの研究者により細胞 内導入ペプチド(Cell Penetrating Peptide; CPP)の研 究が進められている.特にアルギニン8残基からなる R8ペプチドは有名である.われわれは,上記のフォト リンカーとR8ペプチドを組み合わせ,さらにライブラ リーペプチドを連結して,細胞内で機能するペプチドが 探索できるライブラリーの構築を目指した.ライブラ リーペプチドとして31種類のトリペプチドを取り上げ,

N末端にFITCを連結し,細胞内導入量を蛍光顕微鏡で 調べた.ペプチドアレイでスポット合成したFITC付き R8連結トリペプチドをUV照射で遊離し,96穴プレー

(6)

トにパンチアウトしたところ,遊離ペプチド量はどのペ プチドも約7 nmol/spotであった.蛍光観察を妨害する 夾雑物をろ過排除し,HeLa細胞を播種し,細胞内導入 実験を試みた.その結果,18種類はCPPのみでの細胞 内導入量より高い導入量を示し,5種類は同等,残り8 種類は導入量が有意に減少した.トリペプチドを疎水度

(Hydrophobicity; H) と 等 電 点(Isoelectric point; p ) で整理した結果を図

5

に示す.トリペプチド全8,000種 類を図中に小さいドットで示し,試験した31種類のペ プチドはダイヤ印で示す.負電荷をもつ親水性のペプチ ドで導入効率が低下することがわかった(未発表デー タ).この現象は,5-merのペプチドでも再現しており,

汎用性が確認できた.R8は正電荷ペプチドである.こ のため負電荷をもつペプチドを連結するとR8でも細胞 内導入しにくくなることが確かめられた.図中の式,

1.5 p+H>−0.6で示される領域に含まれるペプチド は,R8を連結することで細胞内に導入されるペプチド である.このグラフを使えば,目的ペプチドがCPPを 連結することで細胞内導入可能かどうかを事前に知るこ とができるだけでなく,この領域のペプチドだけで細胞 内導入ペプチドライブラリーを構築することで,細胞内 機能性ペプチドの探索が可能になる.負電荷をもつ親水 性のペプチドに関しては負電荷をもつCPPが開発され ているので,そのCPPを使えば導入可能と考えられる.

また,現在,細胞内に導入した後で解裂することができ るリンカーを作製しており,このリンカーでCPPと探 索ペプチドを連結した細胞内導入ペプチドライブラリー の構築と実際に細胞内で機能するペプチドの探索を目指

している.

おわりに

スポッティング方法の技術革新は目覚しい.われわれ はある国内メーカーと協働で,600種類のペプチドを,

約2,000スポット打ち込んだ高集密ガラスアレイの準工 業生産に成功した(16, 17)(図

6

これには,このメー カーが開発したセラミックアクチュエーターのスポッ ティング技術(pLオーダーの液滴吐出を可能)を活用 されている.作成したスライドガラスには16-merのミ ルクタンパク質(6種類)が網羅してあり,ミルクアレ ルギー患者のIgEエピトープの解析に成功した.さらに その正診率は80%を超え,小児科の先生にも高く評価 されている.

しかし,それでも探索したいペプチドのバリエーショ ン(化合物数)は膨大であり,その探索は大きく深い山 に分け入る行為である.しかし,その膨大なペプチド ワールドであっても,数百から1,000個程度のペプチド を合成し,実験データを集積して配列‒機能相関を決定 すれば,計画的かつ志向性をもって探索を進めることが でき,深い山に分け入るための羅針盤を手に入れること ができる.ペプチドライブラリーは広範な探索を可能に し,創薬のリード化合物の発見にも強力なツールにな る.ペプチドが多くの研究者の対象分子になることを期 待したい.

図5細胞内導入可能な3残基ペプチドの 特長

等電点(横軸)と疎水度(縦軸)のグラフ にすべてのトリペプチドをドットで示す.

ダイヤは評価した31種類のトリペプチドを 示し,それぞれ導入効率によって色を変え てある.点線より上の領域のペプチドはR8 の付加で導入できるトリペプチドである.

(7)

文献

  1)  T. Takeshita, M. Okochi, R. Kato, C. Kaga, Y. Tomita, S. 

Nagaoka & H. Honda:  , 112, 92 (2011).

  2)  T.  Ochiai,  T.  Sugita,  R.  Kato,  M.  Okochi  &  H.  Honda: 

76, 819 (2012).

  3)  C. Kaga, M. Okochi, Y. Tomita, R. Kato & H. Honda: 

44, 393 (2008).

  4)  本多裕之,生物工学会誌,87, 280 (2009)

  5)  M.  Okochi,  T.  Sugita,  S.  Furusawa,  M.  Umetsu,  T. 

Adschiri & H. Honda:  , 106, 845 (2010).

  6)  R. Kato, M. Kunimatsu, S. Fujimoto, T. Kobayashi & H. 

Honda:  , 315, 22 (2004).

  7)  T. Sugita, M. Katayama, M. Okochi, T. Ichihara, R. Kato 

& H. Honda:  , 79, 33 (2013).

  8)  R. Kato, C. Kaga, M. Kunimatsu, T. Kobayashi & H. Hon-

da:  , 101, 485 (2006).

  9)  M.  Okochi,  M.  Nakanishi,  R.  Kato,  T.  Kobayashi  &  H. 

Honda:  , 580, 885 (2006).

10)  R. Kato, Y. Okuno, C. Kaga, M. Kunimatsu, T. Kobayashi 

& H. Honda:  , 66 (Suppl. 1), 146 (2006).

11)  M.  Okochi,  S.  Nomura,  C.  Kaga  &  H.  Honda: 

371, 85 (2008).

12)  K. Kanie, Y. Narita, J. Owaki, Y. Zhao, F. Kuwabara, M. 

Satake, S. Honda, H. Kaneko, T. Yoshioka, M. Okochi 

:  , 109, 1808 (2012).

13)  T.  Sugita,  M.  Okochi  &  H.  Honda:  , 43,  550  (2014).

14)  C. Kaga, M. Okochi, M. Nakanishi, H. Hayashi, R. Kato & 

H.  Honda:  , 362,  1063 

(2007).

15)  H. Sugiura, N. Okazaki, T. Sugiura, H. Honda & M. Okochi: 

87, 8 (2014).

16)  N. Matsumoto, M. Okochi, M. Matsushima, A. Ogawa, T. 

Takase, Y. Yoshida, M. Kawase, K. Isobe, T. Kawabe & 

H. Honda:  , 107, 324 (2009).

17)  N.  Matsumoto,  M.  Okochi,  M.  Matsushima,  R.  Kato,  T. 

Takase, Y. Yoshida, M. Kawase, K. Isobe, T. Kawabe & 

H. Honda:  , 30, 1840 (2009).

プロフィル

本多 裕之(Hiroyuki HONDA)

<略歴>1983年名古屋大学工学部化学工 学科卒業/1988年同大学大学院工学研究 科博士課程後期課程修了/同年同大学工学 部助手/1990年東京工業大学生命理工学 部 助 手/1992年 名 古 屋 大 学 工 学 部 助 教 授/2004年 同 教 授,現 在 に 至 る<研 究 テーマと抱負>機能性ペプチド探索,1細 胞機能解析,分子認識とその多様性<趣 味>小説の乱読

Copyright © 2015 公益社団法人日本農芸化学会 DOI: 10.1271/kagakutoseibutsu.53.503 図6ミルクタンパク質由来全網羅ペプ チドアレイ

患者血清中のIgEおよびIgG4が認識するペ プチドエピトープが分析できる.下段はス ライドガラスアレイである患者血清を解析 した全体像.上段:ある患者血清の解析結 果,赤がIgE認識部位で緑はIgG4認識部 位.上段左は両者を重ね合わせて表示し た.

Referensi

Dokumen terkait

リテラシーとは Gee 1990 は,リテラシーを定義するにあたって, まず,私たちが他者との関わりにおいて獲得するディ スコースについて説明している。ここでGeeが取り上 げているディスコースとは,ある社会で受け入れられ ている言語やシンボリックな表現や利用可能なアー ティファクトの用いられ方に相当するものである。私