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ミドルテネシー州立大学早期支援センターの 地域貢献・教育・研究活動

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調 査 報 告

ミドルテネシー州立大学早期支援センターの 地域貢献・教育・研究活動

〜プロジェクト HELP に学ぶもの〜

人間発達文化学類  

松 﨑 博 文  昼 田 源四郎  鶴 巻 正 子 

は じ め に

 我々特別支援クラスの教員3名は文科省の「平成18 年度大学教育の国際化推進プログラム(海外先進研究 実践支援)」の採択を受けて,それぞれが2006年5月 から2007年の2月にかけて米国で一連の調査研究を 行った。その一環で筆者(松﨑)は2006年8月から

10月までの3カ月間,米国のミドルテネシー州立大

学(MTSU)の早期支援センターであるプロジェク トHELPで研修する機会を得た。また2007年12月には MTSU より3名の研究者を招聘して,発達障害児の 就学前支援について国際シンポジウムを開催した。

 そこで本稿では,テネシー州及びHELPでの調査研 究に基づき,シンポジウムでの議論も踏まえながら発 達障害児に対する早期支援と保護者支援の在り方を中 心に,今後我々が学ぶべき点について報告する。

1.センター設立の経緯

 ミドルテネシー州立大学(以下,MTSU と略)の プロジェクトHELP(Help Educate Little People)は MTSU とテネシー州(ラザフォード郡)が連携して 運営している早期支援プログラムである。プロジェ クトHELPの設立は1983年で,それには早期療育の必 要性を早くから提唱したアン・キャンベル博士(Dr.

Ann Campbell)の功績に負うところが大きい。1983 年に MTSU附属小学校内の幼稚園クラスに設置され

たのが最初で,翌年MTSU のキャンパス内(Jones  Hall)に移転し,大学構内の空き教室を利用して15年 間運営された。そして1977年に現在地に新築移転し,

2007年に新装HELPの創立10周年を迎えたところであ る。したがって設立当初から数えると既に30年近い歴 史を有している。

2.センターの概要

1)設置場所・施設

 プロジェクトHELPは現在MTSUのキャンパス内 にあり,広さ4,200平方フィートの建物は3つの教 室,多目的教室,観察室,キッチン,会議室,事務 室と待合室から成っている。それに園庭(遊び場)

が併設され,野外での外遊びが出来るようになって いる。

2)運 営 資 金

 プロジェクトHELP の運営資金は MTSU とテネ シー州(精神保健・精神遅滞局)及び慈善団体(United  Way)からの資金援助と企業及び個人からの献金 によって賄われている。寄付は MTSU財団(プロ ジェクトHELP特別基金)で受け付けている。日産 自動車や小松製作所といった日本企業も資金を提供 している。

3)支援対象児

 プロジェクトHELPは設置当初は誕生から4歳ま での発達遅滞幼児(その疑いも含む)への支援を行 うプログラムとしてスタートしたが,2000年の法改

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正により4歳から3歳へ支援対象年齢が下がり,現 在は0歳(6カ月)から3歳(36カ月)までの障害 児(その疑いを含む)と通常児(typical child)へ の支援(保育)を併せて行っている。

4)入級資格・費用

 Project HELPへの入級資格は人種,肌の色,国籍,

性別,障害の有無を問わない。入級許可の順番は先 着順が原則となる。順番のリストが作成され,両親 と連絡を取って,いつからHELPのプログラムが利 用可能か,そのリストによって入級の順番が決めら れる。

 0歳から3歳の誕生までの乳幼児に以下の5領域 についてのアセスメントを実施し,5領域の1つで 40%以上の遅れ,或いは2つの領域において25%以 上の遅れがある子ども,または医者が障害があると 診断した乳幼児がその対象となる。

 ①社会的/情緒的発達(social/emotional),②コ ミュニケーション能力(communication),③適応 行 動(adaptive behavior), ④ 認 知(cognition),

⑤巧緻・粗大運動(fine motor/gross motor)の5 領域について検査する。

 通常児保育は15カ月から3歳までの幼児で,年 齢相応に発達していて,障害児のモデル役(peer  model)となりうる子どもを受け入れている。

 プロジェクトHELPの保育料は障害児は無料であ るが,通常児は有料(1日に25ドル)である。

5)障害児への超早期支援と通常児保育

 プロジェクトHELP で0歳からの乳幼児と通常 児を受け入れるに至った背景には以下のような動 きがあった。米国では1975年に「全障害児教育法

(P.L.94‑142)」が制定され,3歳から21歳までの

全ての障害児に対して「最も制約の少ない環境」

(Least Restrictive Environment:LRE) の も と で

「無償で適切な公教育」(Free Appropriate Public  Education:FAPE)を提供することになった。その 後,1986年の同修正法で0歳から5歳までの乳幼児 が支援対象として追加された。そして1990年には

「全障害児教育法」は「障害者教育法(Individuals  with Disabilities Education Act:IDEA)」へと改正 され,支援プログラムの適用範囲がさらに拡大され た。IDEA では障害のある子どもの発見(Find)・

検査(Assess)・支援(Serve)をモットーに,0 歳から3歳未満の乳幼児には主としてコミュニテ イ ー 中 心 の「 個 別 家 族 支 援 計 画(Individualized  Family Service Plan:IFSP)で,3歳から5歳まで の幼児には主に学校教育システム中心の「個別指導 計 画(Individual Education Program:IEP)」 を 作 成して支援することになった。

 結果的にはプロジェクトHELPは修正全障害児教 育法(1986)に3年も先駆けて,0歳からの乳幼児 へ支援を開始したことになる。さらに2001年からは 通常児(typical child)の受け入れも開始した。そ の理由は,障害の有無に拘わらず子どもは「自然な 環境(natural environment)」で教育すべきである という連邦法とテネシー州政府の決定を受けてのも のである。

 テネシー州政府は障害や特別なニーズのある子 どもは可能な限り最も制約の少ない「自然な環境

(natural environment)」で教育を受けることを義 務づけたのである。それを踏まえてプロジェクト HELPでも,障害のある子どもと共に通常の子ども を受け入れ,障害のある子の教師役(peer models)

として一緒に保育(支援)することになったので ある。

3.センターの特徴と機能

1)早期支援の基本方針

 プロジェクトHELPが掲げる早期支援の基本的方 針は下記の5つに要約される。

① 家族を中心にして(Family‑centered),

②  親 を 専 門 家 と し て 位 置 づ け て(Parents as  experts),

③ 自然な環境の中で(Natural environment),

④ わが家に近いところで(Close to home),

⑥ 通常児と一緒に(Educated with typical peers), 

〈 写真1.プロジェクトHELP 〉

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教育(支援)することを目的としている。

2)家族(保護者)への支援

 子どもへの支援に併せて家族支援は個別家族支援 プログラム(Individualized Family Service Plan:

IFSP)によって実施される。5つの発達領域につ いてアセスメントが実施され,先ず子どもの発達状 況とニーズが把握される。次に子どものニーズに関 連して家庭での日課や家族のニーズ,スケジュール,

家庭環境が調べられ議論される。そして子どもの短 期目標と長期目標が決められ,3歳以後の移行支援 が計画される。提供されるサービスには,保健,医 療,看護,栄養管理,カウンセリング,音声訓練,

補助器具,作業療法,理学療法,心理,社会福祉事業,

会話・言語指導,視覚的支援,送迎サービス,等々 がある。

3)学生・院生への実習・実地訓練

 プロジェクトHELP は MTSU の学生や院生の実 習の場としても機能している。200名以上の特殊教 育及び早期教育,さらに看護学,社会学,心理学,

体育学専攻の学生がHELPで実習を受ける。実習は 基本的には学生が各自の都合で日時を決め,定めら れた時間(1セメスターにつき最低8時間)の実習 を行う。学生は1クラス5名を上限に配当され,ほ とんどがマンツーマン体制の実習となる。学生に とっては実習・実地体験の場となり,HELPのスタッ フにとっては補助者の確保に繋がり,一石二鳥と なっている。

4)通常児への保育

 通常児(15カ月〜36カ月)の保育は午前7時半か ら午後4時半までの時間で月曜日から金曜日までの 週5日間実施されている。保育料は有料となるが,

保護者は有料であっても,優秀なスタッフが揃って いることや豊富な教材・教具が用意されていること,

さらには個別指導計画が用意されていることなどを 理由に,質の高い保育を求めてプロジェクトHELP での保育を希望している。障害児と一緒でも別に気 にしないところが,「名を捨て実を取る」米国式の 実利主義である。

5)保護者への情報提供

 プロジェクトHELPにはミーティングルームが設 置されており,そこには保護者用の図書やビデオ等 が用意されている(図書ライブラリー)。またそこ は保護者との面談や討論,雑談の場となり,会議に も使用される。さらにスタッフのミーティングや研 修会,昼食休憩の場所としても使用される。

 プロジェクトHELPでは毎月1回保護者懇談会を 実施している。懇談会への参加はHELPに通ってい る子どもの両親や,家庭プログラムに参加している 親,それに入級希望の順番待ちの親も自由に参加で きる。また毎月1回「ニュースレター」を発行して HELPでの取組の様子や情報提供を行っている。そ の他,部屋には各種のパンフレットも用意されてお り,親が自由に持ち帰れるようになっている。

4.クラス編制とタイムスケジュール

 プロジェクトHELPのクラスは年齢別に下記のよう に編制されている。

○緑組(Green Room):15カ月〜24カ月の年少児

○青組(Blue Room):24カ月〜30カ月の年中児

○赤組(Red Room):30カ月〜36カ月の年長児

☆赤ちゃん組(Purple Room):6カ月〜15カ月の乳児

☆保育組(Yellow Room):15カ月〜36カ月の通常児  筆者が滞在した2006年時点では赤組(年長組)・青 組(年中組)・緑組(年少組)の3クラス体制だったが,

現在は「赤ちゃんクラス」を Purple Room ,午前 中の「通常児保育クラス」を Yellow Room と名付 けて5グループ編制とし,スタッフも2名加配されて いる。

表1.HELP の開設曜日と時間

午 前 昼 食 昼 寝 午 後 その他

30〜1100 1100〜1130 1130〜1300 1300〜1530

月 赤・緑・青組 赤・緑・青組 HippoTherapy

火 赤・緑・青組 赤・緑・青組

水 赤・緑・青組 赤・緑・青組

木 赤・緑・青組 赤・緑・青組 DoggyTherapy

Day Care 30〜1630(月〜金) Baby Class

 赤・青・緑の各クラスは月曜日から木曜日までの週 4日開設され,午前のプログラム(8:30〜11:00)

と午後のプログラム(13:00〜15:30)に分けて,そ れぞれ150分(2時間半)同じ内容で実施される。定 員は各クラス8名が原則であるが,実際は若干の変動 がある。

 通常児保育(Day Care)は月曜日から金曜日まの

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週5日間実施され,時間は午前7時半から午後4時半 までで,途中に昼食(11:00〜11:30)と昼寝(11:

30〜13:00)が入る。障害児がセンターに来所する8

時半までの1時間と,障害児が帰ったあとの4時半ま での1時間は自由遊び(保育)となる。

 「自然な環境(natural environment)」での保育・支 援を実施しているために,各クラスに通常児が障害児 のモデル役(peer model)や教師役(peer teaching)

として入り,一緒に保育(支援)を受けている。

 赤ちゃんクラス(Baby Class)は毎週金曜日の午前 中に開設され,午前9時から10時までの1時間,マン ツーマンで個別に支援される。対象となるのは生後6 カ月から15カ月までの障害があると診断された(発達 が遅れている)乳幼児で,それぞれの個別家族支援プ ログラム(IFSP)に基づいて6つの発達領域(認知・

言語・社会性/情緒・適応行動/自立技能・巧緻運動・

粗大運動)について支援を行っている。

 その他,HELPでは月曜日の午後に希望者には大学 の馬房(Horse Science Center)へ出向いて乗馬療法

(Hippo Therapy)を受けさせている。子ども1人に 大人3人が付き添い,馬上で姿勢を変えながらバラン スを取り馬と一緒にゆっくりと歩く。乗馬はリラック ス出来,重力感やリズム感を養う点で,自閉症や脳性 まひの子どもに有効であるとのことであった。

 また,毎週木曜日には Dog Therapy が実施され,

治療動物協会(Delta Society)から治療師と共にセラ ピードッグが来所し,子どもたちの相手をしてくれる。

各クラスを10分〜15分間で回り幼児の相手をする。通 常は2千ドルから3千ドルの費用がかかるそうである が,オーナーの善意で無料にしてもらっている。

 表2と表3に緑組(年少組)と赤組(年長組)の時 間割を示したが,各セッションの時間が10分〜20分と 短く,細切れに活動が用意されている。しかも次の活 動への切り替えをスムーズに行うために,活動が切り 替わる度に瞬間的に照明を切っていた。ライトを瞬間 的に切ることで,子どもたちに次の活動を意識させス

表2.年少組(緑組)のタイムテーブル(午前)

時 程 活      動 時間(分)

1 30‑900 Center Play / Table time / Obstacle Course 30 2 50‑915 Table Activity(Group) 25 3 915‑30 Obstacle Course / Fine Motor Activity 15

4 30‑945 Circle Time 15

5 45‑1015 Snack Time 30

6 1015‑1045 Outside / Art 30

7 1045‑1050 Dance Time 5

8 1050‑1055 Story Time 5

9 1055‑1100 Goodbye Circle 5

〈 写真2.Day Care 〉

〈 写真3.Baby Class 〉

〈 写真4.Dog Therapy 〉

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ムーズな移行を促していた。

 また意図的に照明を暗くしていたが,その理由とし て白色灯は自閉症児を興奮させるので,あまりよくな いとのことであった。照明は暗い方が落ち着くため,

自閉症児には白色灯よりはランプのような赤色灯が好 ましいとのことであった。

5.指導体制と方法及び内容

1)スタッフ

 プロジェクトHELPのスタッフは,筆者が滞在し た時(2006年度)は赤・青・緑の3クラスの主任教 員と補佐教員,それに所長と事務員を加えた総勢8 名であったが,現在は新たに黄色組(2名)の教師 が加配され総勢10名となっている。常勤スタッフの ほかに非常勤職員として,言語療法士(6名),作 業療法士(2名),応用行動分析者(ABA)が2名 配置されている。作業療法士(OT)は市教委から 派遣されて週に2〜3回通って来る。理学療法士

(PT)はHELPには来てないが,子どもたちは訓練 を受けに通っている。その他,支援教員(Supported  Teacher)や食事療法士(Feeding Therapist),感 覚統合(Sensori‑Integration)の専門家が適宜通っ て来ている。また,言語療法士(ST)や応用行動 分析者(ABA)は家庭にも出向いている。

2)訓練法・理論(Teaching Methods)

 プロジェクトHELPで取り入れている訓練法は特 定の理論に固執するのでなく,下記の各種の理論や 方法を折衷しバランスよく取り入れている。

TEACCHプログラム

PECS(Picture  Exchange  Communication  Sysytem)

ABA(Adaptive Behavior Analysis):応用行動 分析学

SI(Sensori‑Integration):感覚統合理論

Relationships with TEIS:テネシー早期支援シス テムと連携した指導

表3.年長組(赤組)のタイムテーブル(午前)

時 程 活      動 時間(分)

1 30‑850 Table Top Activity 20 2 50‑915 Centers / Obstacle Course 25 3 15‑935 Circle Time‑Welcome 20 4 35‑950 Centers / Obstacle Course 15 5 50‑1000 Story Time / Oral Motor 10

6 1000‑1015 Snack Time 15

7 1015‑1035 Outdoor / Gross Motor Time 20

8 1035‑1055 Dance 20

9 1055‑1100 Goodbye / Transition Home 5

〈 写真5.Green Room 〉

〈 写真6.Blue Room 〉

〈 写真7.Red Room 〉

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3)指導内容・カリキュラム

 プロジェクトHELPで取り上げる主な内容は下記 の5領域である。これは我が国にも導入されている

「ポーテージ乳幼児教育プログラム(主婦の友社)」

の6領域の内容(乳幼児期の刺激・言語・社会性・

身辺自立・認知・運動)とほぼ一致する。

① コミュニケーション(communication)

② 微細・粗大運動(fine motor,gross motor)

③ 適応行動(adaptive behavior)

④ 社会性・情緒的発達(social/emotional)

⑤ 認知(cognition)

 Project HELP のプログラムは個々の子どもの成 長や発達に基づいて子どものニーズに合わせて作成 される。教師は子どもの個別の目標を明らかにする と共に両親と協力して個々の子どもの発達レベルと 興味を検査する。カリキュラムは柔軟で,子ども中 心に作成される。遊び活動には,芸術,音楽,児童 文学,言語,認知の発達,粗大・微細筋肉活動,演 劇遊びなどが提供される。個々の子どもが様々な教 具を使用し仲間と接触するとき,教師たちは学習を 観察し助長する。

 HELPのプログラムは日常生活をベースにして実 施される。例えば,お集まり(circle time),おやつ 

(snack time),粗大運動(gross motor activities),

言語,それに巧緻運動(fine motor activities),さ らに自由遊びを通して社会性を身につけていく。

個々の子どもの個別目標にしたがって毎日(daily)

実施される。

 遊び活動に加えて,個々の子どもの個別目標は毎 日の重要な日課である。これらの個別目標は IFSP から取り入れられ,個別指導やグループ活動に組み 込まれる。

 Project HELP での全活動を通して,個々の子ど もの以下の発達を促す:

 集団所属の感情;愛と尊敬;友情;共感と他人へ の敬意;自信;自主性と肯定的な自己像;問題解決 能力;感情表現の能力;大集団及び小集団での活動;

そして個々の子どもに身体的,社会的,認知的,情 緒的,な各領域の発達技能を提供する。

4)家庭訪問プログラム(Home Program)

 乳幼児や医学的な治療が必要な子どもに対しては 家庭訪問プログラムが実施される。家庭訪問プログ ラムではプロジェクトHELPの教師が1週間に1度 の割合で家庭を訪問する。訪問時間は約1時間で,

家庭訪問を通して教師は個別家族支援計画(IFSP)

に基づいて子どもと両親の個別目標の達成に向けて 一緒に活動する。これまでの研究の結果,家庭プロ グラムでの子どもの成功は両親と家族を含めてこ そ,最大限の効果があがることが明らかになって  いる。

6.テネシー早期支援システム(TEIS)

  

(Tennessee's Early Intervention System:TEIS)

 TEIS は0歳から2歳までの特別なニーズを有する 子どもの家族に対して,「最も自然な環境(the most  natural environment)」でサービスを提供するために 開発されたシステムである。TEIS はテネシー州が15 年以上にわたり0歳からの乳幼児を対象に実施して きたサービスである。「明日の成功は今日に始まる」

(Tomorrow's Success Begins Today)を合い言葉に,

先ずはサービスを必要としている子どもを「発見」す ることであり,次に子どもと家族が必要としている サービスを「調和」させることである。したがってこ のシステムでは「家族(家庭)第一主義」に立ち,子 どもと家族のニーズが最初に考慮され,その中心は保 護者支援であり,そのための人材とプログラムを用意 し,専門家が保護者の質問や疑問に対応するシステム になっている。

 具体的にはテネシー州を9つの地区(ブロック)に 分けて州全域をネットワークで結び,支援が必要な保 護者に対してサービスを行っている。その一環とし て個別家族支援計画(Individualized Family Service  Plan:IFSP)があり,個々の子どもとその家族の個別 的なニーズに応じて,作業療法士(OT)や理学療法 士(PT),言語療法士(ST)などの専門家の協力を 得て支援を行っている。このようにTEISの目的は家 庭中心の介入(family centered intervention)を提供 することにあり,子どもと家族のことが全てに優先さ れる。また保護者には0歳からの早期支援の重要性を 認識させると共に,子育てのエキスパートとしての役 割を果たすことが期待されている。

 ちなみに2005年現在,全米でサービスを受けてる0 歳から2歳までの障害児は約30万人,3歳〜5歳の子 どもは約70万人いる。すなわち米国では現在約100万 人の障害のある乳幼児がサービスを受けている。

 一方,テネシー州では図1と図2に示すような現状 である。ところでテネシー州は面積はアメリカ合衆国 で34番目の小さな州であるが,それでも日本の北海道

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と福島県を合わせた面積よりも広い。人口は約600万 人で福島県の約3倍である。

 そのテネシー州でサービスを受けている特別なニー ズを有する0〜2歳児は,2005年現在で約4,200人で 率にして1.8%となっている。同様に3〜5歳児は約

12,000人で,障害種でいえば言語障害と発達遅滞で8

割強を占めている。その他,自閉症,健康障害,重複 障害,聴覚障害,肢体不自由,視覚障害,精神遅滞,

外傷性脳損傷,特殊な学習障害と続いている。そして 3歳〜5歳の特別なニーズを有する子どもの出生率は 全体で5.84%となっている(P. Waldrop, 2007)。

7.保護者への支援と訓練(STEP)

  

(Support and Training for Exceptional Parents:STEP)

 STEP は0歳から22歳までの特別なニーズを有す る人の保護者を支援するために1989年に設立された。

STEPは保護者に対して障害児を支援するための情報 や,親としての権利の保障を提供するもので,テネシー 州を3つの支部(東部・中部・西部)に分けて全州を カバーしてサービスを行っている。もちろん保護者に は無料である。STEPの最大のねらいは「親こそ最良

の教師なり」(Parents are the best "teachers")を合 い言葉に,親を子どもの指導者として育てることに  ある。

 親は我が子の発達や特性,ニーズについて独自の情 報を持っているために,子どもの教育プログラムを作 成する際に専門家とパートナーを組ませ,エキスパー トとしての役割を担ってくれることを期待しているの である。そのために,以下の11種の子どもたちについ て,それぞれの種別に啓発パンフレットを発行し情報 提供を行っている。天才児や英才児をもその支援対象 としている点が注目される。

健康障害(Health Impairment)

知的障害(Mental Retardation)

視覚障害(Visual Impairment)

聴覚障害(Hearing Impairment/Deafness)

情緒障害(Emotonal Disturbance)

言語障害(Speech/Language Disabilities)

学習障害(Learning Disabilities)

注意/欠陥多動性障害(ADD/ADHD)

自閉症(Autism)

重複障害(Multiple Disabilities)

天才児・英才児(Gifted)

8.個別家族支援プログラム(IFSP)

 個別家族支援計画(IFSP)は家族の利点とニーズ を明らかにし,子どもの発達と関連させる証拠書類 となる。IFSP には次の事項を記載することになって  いる。

① 子どもの現在の発達レベルについての記載

② 子どもの発達に関連した家族(家庭)の長所と ニーズについての記載

③ 子どもや家族に期待される主な成果といつどの ようにしてそれが達成されるのかについての記載

④ どのような早期支援サービスが提供されるべき かについての記載

⑤ いつサービスが開始されどのくらい継続される べきかについての記載

⑥ サービスをコーディネートする人の名前−

IFSP の実施責任者の署名と他機関や他の人の名 前の記載

⑦ 子どもの就学前プログラムの開始を手助けする 段取り(ステップ)についての記載

 この IFSP の作成と実行によって,保護者と早期支 援チームが連携して早期から家族支援を行う。

0 1,000 2,000 3,000 4,000 5,000 6,000

Year 1995

3,156

1996 3,308

1997 3,334

1998 3,367

1999 3,757

2000 4,250

2001 4,701

2002 5,426

2003 4,215

2004 3,973

2005 4,217

図1.テネシー州でサービスを受けている0〜2歳児

10,000 10,500 11,000 11,500 12,000 12,500 13,000

11,713

12,008 11,967

2004 2005 2006

図2.テネシー州でサービスを受けている3〜5歳児

(8)

9.プロジェクトHELP の特長

 プロジェクトHELP の特長(strength)として所長 のスーザンは,①子ども第一主義,②スタッフの過重 労働,③協力的な保護者,④豊富な教材・教具の4つ を挙げたが,筆者はこれに加えて豊富なスタッフを挙 げたい。なお今後の課題としては,敷地の拡張と将来 的には支援対象を5歳までに引き上げたいと述べてい た。実際滞在して痛感したのは,多くのスタッフと豊 富な教材・教具である。しかも個別的に対応(調整)

できるように教具がよく工夫されていた。また教室の 脇の教材庫には常時多くの教材が用意されていて,必 要に応じていつでも取り出せるようになっていた。

 次にプロジェクトHELPでの実践や工夫で,特に参 考になった点として以下が挙げられる。

① 活動ごとのライト(照明)の点滅

② 歌の活用(常に歌で始まり,歌で終わっていた)

③ 豊富な教材・教具(非常にカラフルで子どもに マッチしたものが用意されていた)

④ 必要というニーズの活用(おやつの時間には意 図的に「お代わり(more)」と言わせていた)

⑤ 細切れな時間配分(活動と活動の時間を短くし て,メリハリをつけていた)

⑥ ゴム手袋の着用(オムツの取り替えやおやつの 時間等,常に衛生管理がなされていた)

⑦ タイマーの常時使用(時間厳守)

お わ り に

1.就学前早期支援の重要性

 我々は1997年度から福島大学学術振興基金の助成 を受けて自閉症の早期療育に関する一連の研究に取 りかかり,この間,保健所,保育所及び幼稚園,盲・聾・

養護学校における早期支援体制を調査しその課題を 明らかにしてきた。その結果,母親を含めた早期支 援の重要性と保健所を始めとする医療・保健機関や 保育所・幼稚園・学校と連携した支援体制を構築し ていくことが喫緊の課題であることが明らかになっ た。こうした研究成果を踏まえて2002年度に福島大 学内に早期支援教室(通称「つばさ教室」)を開設 し,発達障害幼児とその保護者に対する支援を開始 し,本格的な研究に取り組む体制を整えた。そして

2009年6月には福島大学プロジェクト研究所(「発

達障害児早期支援研究所」)を立ち上げた。

 文科省が2001年1月に出した「21世紀の特殊教育 の在り方について(最終報告)」でも「教育,福祉,

医療,労働等が一体となって乳 学校卒業 後まで障 を行う体制を整備する」(傍点筆者)必 要性が提言されている。しかも「乳 学校卒 業後までの一 の整備」(同)に ついて,その必要性を提言している。さらに2004年 12月に制定された「発達障害者支援法」では,発達 障害者を早期に発見し発達支援を行うことを市町村 の責務として明らかにしている。特に発達障害の早 期発見と早期支援の重要性に鑑み,同法の第3条で は,国及び地方公共団体に対して発達障害の早期発 見のための必要な措置を講じることを課している。

具体的には発達障害児に対する早期の発達支援とそ の保護者への支援を挙げている。

 一般に幼児期の子どもの脳は可塑性に富むと言わ れ,発達障害児への支援は早ければ早いほどよいと されている。例えば読み障害の子どもに就学前に1 日に30分で済む訓練を就学後の8〜9歳で開始する とすれば,その4倍の2時間が必要になるとの指摘 がある(Lyon,1999)。障害を早期に発見し早期に 支援(治療)することによって,その後の障害は軽 減し社会的予後も良いとされている。しかも支援 が早ければ早いほど障害の状態は改善が早いとさ  れる。

 また早期支援は障害児本人の障害の予防や改善

(軽減)のみならず,その保護者の精神的・経済的 負担の軽減にも繋がる。米国で早期支援が早くから 取り組まれているもう一つの理由に財政的視点があ る。障害者をその誕生から生涯にわたって面倒をみ た場合の経費を,早期支援を行った場合とそうでな い場合を比較して,早期支援を行った方がはるかに 公費の削減に繋がるというのである。我が国の早期 支援を考える場合も,こうした視点をもっと強調す る必要がある。長期的な視点から考えると,行政サ イドとしてもむしろ積極的に早期支援を推進した方 が財政的には得である。費用対効果(成果)の観点 から見ても,早期支援は理にかなっているといえる。

もっとグルーバルな視点から,思い切った発想の転 換が必要であろう。

 就学前の早期支援へシフトする施策が,結果的に 学校教育へのスムーズな移行を可能にし,就学後の 障害の状態の改善や軽減に繋がり,卒業後の社会参 加・自立をよりスムーズにしていくものと確信する。

(9)

それはまた,家族や保護者にとっても物心両面の負 担軽減となり大いに歓迎されるところである。

2.福島大学に求められる今後の対応

 我々は2002年度から福島大学内に早期支援教室

(通称「つばさ教室」)を開設して,発達障害幼児と その保護者に対して支援を行っている。MTSU の プロジェクトHELPでの実践には学ぶ点が多く,本 学の「つばさ教室」でもいくつか応用している。た だ学内の研究室と心理療法室を使って開設している ために教室が狭いという問題がある。しかも施設設 備が大学の建物であるために,幼児向けの施設設備 がないという難点がある。理想を言えば,「発達障 害センター(仮称)」を学内に設立し専門のスタッ フを配置して,3歳未満児への支援も開始すべきで あろうが,地方大学を取り巻く厳しい財政事情のも とでは夢物語に過ぎない。

 またプロジェクトHELPと同様に,「つばさ教室」

を学生や院生の実習の場としても位置づけている。

学生や院生が子どもたちの様子や活動の経過を卒論 や修論でまとめている。HELP と違って,「つばさ 教室」に参加しても学生にとっては全くのボラン ティアなので,現在「自己学習プログラム」として 単位化を目指して申請中である。学生は療育グルー プ,親教室(ペアトレ)グループ,SSTグループと 3つのグループに分かれて,個別指導計画の作成や 教材・教具の作成にかなりの時間を割いて取り組ん でいる。そのために単位は出ないが,学生はそれな りの実践力を身につけて卒業し,大学院へ進学した り,教育現場で活躍している。

 これまでの実践から,「つばさ教室」を修了した 後の就学後支援をどうするかが当面の課題である。

附属特別支援学校の発達相談室「けやき」や附属小 学校の少人数支援室「ほっとルーム」など,大学と 附属校園が連携して引き続き支援していくことが今 後の課題である。幸いに2009年6月に福島大学プロ ジェクト研究所として「発達障害児早期支援研究所」

が認可されたので,MTSUのプロジェクトHELPに 学びながら,今後さらに研究を深めていく所存で  ある。

3.5歳児健診の必要性

 現在我が国には1歳半健診と3歳児健診という素 晴らしい制度がある。これは発達障害児の早期発見 という点からそれなりの成果を果たして来たが,3

歳児健診以降就学までの3年間の空白が問題として 指摘される。最近,「5歳児健診」という言葉を耳 にするようになり,いくつかの自治体で実施される ようになった。

 現在,5歳児健診を全県レベルで実施している のは鳥取県と栃木県のみである。厚労省の報告書

(2006)によると,5歳児健診で鳥取県では9.3%, 栃木県では8.2% の児童が発達障害の疑いがあると 診断されたものの,これら児童の半数以上は3歳児 健診では何ら問題を指摘されなかったということで ある。つまり,3歳児健診の限界(不備)とそれを 補完する意味での5歳児健診の必要性が指摘され る。早期支援を充実させていくためには5歳児健診 の制度化が不可欠である。

資 料

 プロジェクトHELPに常備の下記のパンフレット。

1)Project HELP:PARENT Handbook.

2)Middlle  Tennessee  State  Univercity:Project  HELP.

3)STEP(Support and Training for Exceptional  Parents)

4)TEIS(Tennessee's  Early  Intervention  Sysytem)

 及び平成19年12月15日に実施した福島大学とミドル テネシー州立大学との国際シンポジウム「これからの 特別支援教育〜就学前に必要な支援とは何か〜」の基 調講演及びシンポジウムで配布した以下の資料。

5)Jane L.Williams(2007):An Overview of Early  Intervention for Preschoolers with Special Needs  in the U.S.:Find.Asess,and Serve.

6)Phillip  Waldrop(2007):Early  Intervention  Services in Tennessee.

7)Susan Waldrop(2007):What is Project HELP.

(参考URL):http://www.mtsu.edu/projecthelp/

謝辞:

 プロジェクトHELPのスーザン・ウオールドロップ 所長を始め,HELPの先生方には快く研修を引き受け ていただき,しかも多くの資料を提供していただき大 変お世話になりました。また MTSU教育学部のフィ リップ・ウオールドロップ副学部長とジェーン・ウイ リアムズ教授にはテネシー州の学校訪問や聞き取り調 査に快くご協力を賜り,筆者らの MTSU滞在中何か とお世話になりました。さらに,我々3名の米国滞在

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を支えてくださった福島大学の教職員の皆様,とりわ け学校教育専修の先生方には留守中大変お世話になり ました。この場を借りて衷心よりお礼を申し上げます。

付記:

 本調査研究は「平成18年度大学教育の国際化推進プ ログラム(海外先進研究実践支援)」の補助金を受け て実施したものである。

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