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メタン発酵プロセスにおける好熱性細菌の応用 - J-Stage

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(1)

国 連 気 候 変 動 に 関 す る 政 府 間 パ ネ ル(IPCC) の 第5次 評 価 報 告 書 に よ る と,人 間 活 動 が20世 紀 半 ば 以 降 に 観 測 さ れ た 温暖化の要因である可能性が極めて高いと発表した.人間活 動に伴う二酸化炭素の排出量は自然が吸収できる量の2倍を 超 え て お り,Cool Earth 50で の 長 期 戦 略 に は,現 在 の 技 術 の 延 長 線 上 で は 困 難 で あ る と す る も の の,2050年 ま で に 世 界 全 体 の 二 酸 化 炭 素 排 出 量 を 半 減 す る こ と を 目 標 と し て い る.その実現に向けて,「革新的技術の開発」とそれを中核 と す る「低 炭 素 社 会 づ く り」 と い う 長 期 の ビ ジ ョ ン を 示 し た.ここでは循環型社会構築のための技術の一つであるメタ ン発酵を紹介したい.

はじめに

20世紀の日本は驚異的な経済成長を遂げ,大量生産・

大量消費・大量廃棄型の社会構造が形成された.21世 紀に入り,循環型社会形成推進基本法(2000年)にお いて環境を配慮した3R(Reduce・Reuse・Recycle)の

考え方が導入され,循環型社会の基盤が市民や企業に定 着し始めた.また,バイオマス・ニッポン総合戦略が閣 議決定(2002年)されたこともあり,大量生産・大量消 費から資源循環型社会の時代となってきた.エネルギー資 源が乏しく,食料をはじめとした物資の大半を輸入に委 ねている日本が資源循環立国を目指すことは地球環境保 全の観点からも重要課題であることは明白である(1)

日本のエネルギー動向を図1に示す.高度経済成長期

図1国内エネルギーの供給源および電力化率の推移

(出典)経済産業省エネルギー庁「エネルギー白書2015」

日本農芸化学会

● 化学 と 生物 

【解説】

Application of Thermophilic Bacteria to Methane Fermentation  Process:  To  Efficiently  Extract  Energy  from  Garbage  Using  Bacteria

Takuji NAKASHIMA, Yasuhiro ISHIBASHI, *1 北里大学北里生 命科学研究所,*2 熊本県立大学環境共生学部環境資源学科

メタン発酵プロセスにおける好熱性細菌の応用

微生物を利用してゴミから効率良くエネルギーを取り出す

中島琢自 * 1 ,石橋康弘 * 2

【2013年農芸化学研究企画賞】

(2)

である1970年代前半に石油の使用によるエネルギー消 費量が一気に増加した.1973年および1979年の石油高 騰(オイルショック)によりエネルギー安全保障の面か ら省エネ化が進んだ.1980年代に入るとバブル期を迎 え,石油から石炭,液化天然ガス(LNG)および原子 力を供給源としてエネルギー消費量が増大した.2011

年の東日本大震災以降,原子力はほぼゼロになり,その 代わりにLNGが使用されている.しかし,「持続可能な 社会づくり」を考えるとエネルギー供給源を化石燃料の 最低使用量まで低下させ,その代わりに再生可能なエネ ルギーへのシフトが重要である.広義での再生可能エネ ルギーは,太陽光,風力,水力,地熱,太陽熱,大気中

日本農芸化学会

● 化学 と 生物 

メタン発酵は,第1段階で有機性廃棄物(生ゴミや家畜 の糞尿など)に含まれる有機物を加水分解し,単糖,脂肪 酸やアミノ酸等へ分解する.第2段階で酸生成細菌によ り,低級脂肪酸,アルコールやアルデヒドなどが分解さ れ,これらプロセスを経て,メタン生成菌によるメタン発 酵が行われる.このプロセスの中で,初期段階の有機物 の可溶化(分解)が重要な工程の一つである.

可溶化方法はいくつか提案されているが,有機性廃棄 物の熱処理方法は,比較的低コストによる高可溶化が期 待できる.この熱処理行程に注目し,好熱性細菌である 属MU3株(図A)を利用し,有機性廃棄物 の効率的な可溶化を試みた.MU3株は別府温泉地から分 離された好熱性細菌で,耐熱性に優れたプロテアーゼを 生産する.図Bは中心の白い部分がMU3株の集落(コロ ニー)である.MU3株はプロテアーゼ(酵素)を菌体外 に生産し,周りの有機物(ここではスキムミルク)を溶解 し,ハロー(透明な円)として観察される.

検証実験として使用したメタン発酵システムの全体像 を図Cに示す.可溶化槽は80℃に加熱でき,内部は3槽に 分けられ,それぞれプロペラで撹拌が行えるようになって

いる.一般的な可溶化槽では有機物の分解によりアンモ ニアが発生し,メタン発酵を阻害するが,アンモニアは 熱により蒸留され除去できるしくみになっている.可溶 化された有機物はメタン発酵槽へ送り込まれ,メタン発 酵が行われる.発生したメタンガスは脱硫後,可溶化槽 の加熱エネルギーとして使用される.

80℃に加熱した可溶化槽にMU3株を添加した.定期的 に可溶化槽からサンプリングを行い,可溶化の計測を実 施した.メタン発酵槽で有機酸および全有機炭素濃度が 著しく減少していることおよび粗タンパク質,全窒素,

粗脂質および炭水化物の濃度は汚泥貯蔵槽,可溶化槽,メ タン発酵槽と減少していることからメタン発酵は順調に 進んでいた.長期運転によるバイオガス発生量は平均 6,300 L/dayで,そのバイオガスに含まれるメタン濃度は 63%  であった.この結果は,既存のメタン発酵施設の発 酵期間と比較して,1/2 〜1/3短縮された発酵時間で同程 度のメタンガス発生量を示した.

一般的に,有機性廃棄物は焼却処理されている.しか し,この処理法は廃棄物に含まれる水分含量が高いため,

膨大なエネルギーが必要となる.このため,焼却処理法 よりも環境に優しい好熱菌を利用したメタン発酵が有効 な手段として期待される.

好 熱 性 細 菌

sp. MU3株とメタン発酵プラント A)電子顕微鏡写真

B)スキムミルク資化性試験 C)メタン発酵プラント

コ ラ ム

(3)

の熱そのほかの自然界に存在する熱,バイオマスなどが 挙げられる.

平成25年度の産業廃棄物の種類別排出量は384,696千t であり,大量の廃棄物が発生している.その上位を占め ている廃棄物の種類は汚泥(164,169千t),動物の糞尿

(82,626千t),瓦礫類(63,233千t)であり,この3品目 で総排出量の約8割を占めている(2).汚泥や家畜の糞尿 は廃棄物系バイオマスと呼ばれている.廃棄物系バイオ マスとは,生活や産業活動によって生じるいわゆる副産 物や廃棄物(一般に産業廃棄物)のうちエネルギーやマ テリアルとして利用可能な生物資源全体を指している.

このような汚泥や家畜の糞尿などの生物由来廃棄物系バ イオマスの利用は大気中の二酸化炭素を増加させない

「カーボンニュートラル」と呼ばれる特性により,地球 温暖化対策に有効で,化石燃料などの天然資源の使用削 減につながっている(3).リサイクル社会(循環型社会), ひいては「持続可能な社会づくりの実現」が期待され る.

持続可能な社会づくりのためには,近年,地域におけ る環境保全や循環型社会の創造に加えて,地球規模で生 じている温暖化への対策やエネルギー対策などが強く要 望されるようになり,これに大きく貢献する手段として 廃棄物系バイオマスによるメタン発酵が注目されてい る.メタン発酵は,下水汚泥,生ごみ,浄化槽汚泥,家 畜排泄物,食品加工残渣など多様な有機性廃棄物原料に 対応可能である.

メタン発酵

メタン発酵は,嫌気条件下で複数種の嫌気性細菌の代 謝作用により有機性廃棄物などに含まれる有機物をメタ ンと二酸化炭素にまで分解する反応であり,自然界での 炭素循環として重要な役割を果たしている.メタン発酵 によるエネルギー生産は欧州で盛んに行われており,そ の規模として282の発電所で毎年およそ9.4 TWhを発電 している.そのうちドイツ154カ所,スウェーデン54カ 所,オランダ23カ所にメタン生産施設がある(4).ドイ ツでメタン発酵による発電が盛んな理由として,1991 年に電力供給法,さらに2000年に再生可能エネルギー 法(Erneuerbare-Energien-Gesetz; EEG)を制定してい ることが挙げられる.このEEGにより「固定価格買取 制度(Feed-in Tariff; FIT)」が導入され,再生可能エ ネルギーにより発電された電力を電力会社が高い価格で 買い取ることが義務づけられたことによる(5).日本にお いては,廃棄物の有効利用は1970年代にすでに重要視

され,当時の通産省において1973年度から1982年度ま での10年間にわたって,「資源再生利用技術システム」

に関する総合研究開発プロジェクト スターダスト ʻ80”

が実施された(6).同プロジェクトでは,都市ごみを混合 収集し,前処理サブシステムで厨芥類,紙類,プラス チック類,残渣に分け,厨芥類を原料にメタン発酵を行 うパイロットプラントを実施した(7).しかし,エネル ギーの回収や排水処理にかかる経済性の問題から従来行 われていた廃棄物の埋め立や焼却といった処理方法に競 合できず,実用化には至らなかった.

これまでのように有機性廃棄物を焼却により処理する と外部からエネルギーを加え,二酸化炭素も排出され る.メタン発酵は農家から排出される家畜の糞尿をため ておくタンクから自然に発生するメタンガスを回収し,

電力や熱エネルギーとして利用してきた.メタン発酵は 家畜廃棄物よりエネルギーを回収するだけでなく,消化 液を液肥として有効に活用できることも大きな利点であ る.その有機性廃棄物からメタンガス(CH4)を取り出 し,そのCH4を電力や熱エネルギーに変換し,排出され る二酸化炭素(CO2)は植物などの光合成により有機物 に変換される.つまり,メタン発酵は有機性廃棄物に含 まれる炭素を利用して新たなバイオマスを生じるカーボ ンニュートラルな技術である.

メタン発酵プロセス

メタン発酵技術の概要は多くの報告(8〜10)があるので,

ここでは簡単に説明する.メタン発酵における有機物の 分解工程を図2に示す.厨芥類や家畜性廃棄物中に含ま れている固形物または高分子有機物などは第1段階で加 水分解菌の働きにより低分子化され,単糖・アミノ酸・

高級脂肪酸などまで分解される.高分子有機物であるセ ルロースやデンプンの分解にはそれぞれ

(11)(12)が関与していること が報告されている.この発酵工程を経て,第2段階で酸

図2メタン発酵プロセスの概略

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● 化学 と 生物 

(4)

生成細菌の働きにより酢酸とプロピオン酸などの揮発性 有機酸や水素まで発酵分解される.

や  sp.  はグルコースから酢 酸を生産することが知られている(13, 14).また,揮発性 有機酸分解菌としてプロピオン酸から酢酸と水素に変換

する が知られてい

(15).ホモ酢酸菌と呼ばれる細菌群は二酸化炭素と水 素から酢酸を作り出す能力を有する(16).メタン発酵プ ロセスにおける酢酸は最も重要な中間代謝物であり,生 成されるメタンガスの約70〜80%が酢酸由来とされ,

6〜35%がプロピオン酸由来であると報告されてい る(17).第3段階のメタン生成工程に関して,酢酸からメ タンガスに変換する経路として2種類が知られてい る(18).酢酸資化性メタン生成菌として 属 と 属が知られ,前者の古細菌は酢酸の みを資化できるが,後者は酢酸のみならずメタノールや メチルアミドなども資化することができる(19).もう一 つの経路では,酢酸が嫌気条件下でCO2へと酸化され,

水 素 資 化 性 メ タ ン 生 成 菌 に よ りCH4へ と 変 換 さ れ

(18, 20).このようにメタン発酵はさまざまな微生物が

関与し,そのプロセスが成立している.

メタン発酵効率

メタン発酵は,厨芥類や家畜性廃棄物などの廃棄物系 バイオマス中に含まれる多糖類,脂肪,タンパク質など の有機物の可溶化・加水分解過程を経て,酸生成過程,

メタン生成過程の流れで進行する.メタン発酵の主役を 担うメタン生成菌は水素・ギ酸,酢酸とメチル化合物

(メチルアミン類,メタノール,メチルメルカプタンな ど)と限られた物質を利用してメタンを生成する.その ため,廃棄物系バイオマスの可溶化・加水分解工程がメ タン発酵の高効率化につながる.

従来のメタン発酵は生ゴミなどの処理には固形物濃度 を8〜10%に調整するため,大量の希釈水が必要とな る.また,投入する原料の濃度を高くすれば発生ガスは

増加するが,タンパク質やアミノ酸の分解によりアンモ ニア性窒素が発生し,アンモニア濃度が高くなることで 有機酸の蓄積やメタン生成速度の低下などメタン発酵を 阻害する原因となる.メタン発酵槽は原料の可溶化から メタン発酵まで一つの槽で実施されていたため,大規模 な発酵槽,膨大なエネルギーの使用,大量の消化液の処 理など金銭的・時間的な問題があった.

高分子有機物の可溶化には表1のようにさまざまな可 溶化方法が提案されている(21).しかし,これらの方法 は高圧粉砕や超音波などは高い可溶化が可能であるが,

一方で設備の複雑さやエネルギー消費量の大きさなどの 問題がある.

われわれは,低コストで高い可溶化を期待できる熱処 理と生物学的処理を組み合わせた可溶化に注目した.

超高温急速可溶化技術

われわれの研究において,メタン発酵プロセスの前処 理に80 Cの可溶化槽を設け,その超高温可溶化槽に耐 熱性プロテアーゼを生産する好熱性細菌を投入する方法 を実プラントで実施した(22, 23)

使用した好熱性細菌は別府温泉地より分離された  sp. MU3を使用した(図3.本菌株の生育 温度は40〜90 Cで至適温度は45〜80 C,生育pHは6〜

10で至適pHは9付近であった.3.0%のNaCl濃度まで 耐性で,運動性,胞子形成能,そのほかの生化学的性質 および16 S rRNA塩基配列による系統解析より

属 と 同 定 し た.MU3株 は 菌 体 外 に 分 子 量 約 57,000のプロテアーゼを生産し,その活性はpH 6およ び60〜70 Cで最も強い活性を示し,それ以上の温度 でも活性を保持していた.カゼインを基質に70および 90 Cで経時的に酵素反応を行った場合,分解活性は70 および90 Cで一次的に低下するものの反応2時間をすぎ る頃から酵素活性の低下は見られず,8時間以上安定で あった(24).このような性質を有するMU3株を用いて,

可溶化試験を実施した.

表1可溶化方法の利点および欠点

可溶化方法 分解率(%) 利点 欠点

高圧粉砕 85 高効率・省エネルギー 設備が複雑

超音波 100 完全分解が可能 エネルギー消費量大

熱分解 55 簡単な装置構成 装置腐食対策が必要

酸・アルカリ処理 30 簡単な装置構成 中和が必要

熱・酸・アルカリ処理 15〜60 簡単な装置構成 中和が必要

オゾン処理 60 簡単な装置構成 高価な設備費

生物学的処理 5〜50 簡単な作業・低コスト 低い分解率

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● 化学 と 生物 

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溶解性化学酸素要求量(CODcr)の80〜90%がバイ オガスカへと転換(25)し,そのうちのCODcr 1 gで 0.35 L のメタンが生成する(26).家畜糞尿1 t(20%固形物濃 度),53 Cで撹拌,発酵期間10日間という条件で,この 式により従来法と本方法の物質収支を比較した(表2 従来法でメタン発酵を行うと家畜糞尿1 tを5%の固形物 濃度まで水で希釈する.10日分の処理のためには40 tの 発酵槽が必要となる.バイオガスの発生量は標準的レベ ルである消化率60%の場合,200 L×0.6となり,1日あ たり120 Lとなる.消化液は1日あたり3,800 L,残渣は 80 Lとなる.一方,超高温急速可溶化技術でメタン発酵 を行うと希釈する必要がなく,10日分の処理に10 tの発 酵槽ですむ.廃棄物系バイオマスを高温処理するため,

消化率は標準レベルよりも向上し,消化率80%の場合,

バイオガスの発生量は200 L×0.8となり,1日あたり 160 Lとなる.消化液は1日あたり800 L,残渣は40 Lと なる.このように発酵効率も向上し,発酵槽の縮小化も 行うことが可能である.

 sp. MU3株を用いた可溶化

使用した下水汚泥は長崎東部下水処理場の濃縮汚泥

(含水率は約98%)で,下水処理過程において脱水前の 汚泥を用いた.1 Lビーカーに500 mL汚泥を入れ,実プ ラントの可溶化槽と同じく80 Cに加温した.前培養し たMU3株を加温した汚泥に10 mL(菌数として5×105  cfu/mL)添加した.MU3株添加汚泥および無添加汚泥

を恒温槽で保温しながら撹拌(100 rpm)した.MU3株 を投入後,経時的に5 mL回収し,CODcr法を用いて汚 泥の可溶化率を算出した.図4にMU3株添加群と無添 加群の可溶化率を示した.MU3株を添加することで有 意な可溶化率の向上が認められた.しかし,熱処理汚泥 に添加後約20時間後にMU3株は死滅しており,実プラ ント検証実験では1回/2日の回分添加によりMU3株の 効果を持続させることとした.

メタン発酵プラントを用いたMU3株の有効性評価 長崎市東部下水処理場に建設された検証用メタン発酵 プラント(実規模の1/100スケール)を使用した.メタ ン発酵システムの全体像を図5に示す.下水汚泥貯蔵庫 より1日あたり0.5 m3の汚泥を可溶化槽に投入した.可 溶化槽は80 Cに加熱でき,3槽に分けられ,それぞれプ ロペラで撹拌が行えるようになっている.可溶化槽から 発生するアンモニアは熱により蒸留され除去できる仕組 みになっている.可溶化された汚泥はメタン発酵槽へ送 り込まれ,バイオガス発酵が行われる.発生したバイオ ガスは脱硫後,可溶化槽の加熱エネルギーとして使用さ れる.

MU3株の培養液(10 L)を2日に1回可溶化槽に添加 した.定期的に可溶化槽(1〜3槽)からサンプリング を行い,寒天培養によるコロニー数および可溶化率の計

図3  sp. MU3株の電子顕微

鏡写真とスキムミルク資化性

A)走査型電子顕微鏡像,B)透過型電子顕微 鏡像(酢酸ウラニルで染色),C)スキムミル クの資化性試験

表2従来法と超高温急速可溶化技術の比較

従来法 超高温急速可溶化技術

家畜糞尿 1 t 1 t

希釈水 3 t 0

可溶化槽 なし 必要(1 tレベル)

発酵槽の大きさ 40 t 10 t

消化率 60% 80%

ガス発生量 120 L/日 160 L/日 消化液発生量 3,800 L 800 L

残渣発生量 80 L 40 L

図4MU3株添加群(○)および無添加群(●)の可溶化率

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● 化学 と 生物 

(6)

測を実施した(図6.MU3株添加時にコロニー出現率 は高まり,数時間で103 CFU/mLの一定状態になった.

第1槽より第3槽で高い可溶化率を示し,有機物の可溶 化が進んでいることがわかった.図7に可溶化槽内の有 機酸濃度および固形成分(全有機炭素)の分析結果を示 す.可溶化槽で全有機炭素(TOC)濃度が著しく上昇 した.この理由として,サンプリング弁が可溶化槽の底

部に設置されているため,TOCが濃縮されたと考えら れる.一方,メタン発酵槽で有機酸およびTOCは著し く減少していることおよび粗タンパク質,全窒素,粗脂 質および炭水化物の濃度は汚泥貯蔵槽,可溶化槽,メタ ン発酵槽と減少していることからメタン発酵は順調に進 んでいた.長期運転によるバイオガス発生量は平均 6,300 L/day(図8)で,そのバイオガスに含まれるメタ ン濃度は63%であった(表3.本結果は,既存のメタ ン発酵施設の発酵期間と比較して,1/2〜1/3短縮され た発酵時間で同程度のメタンガス発生量を示したことか らメタン発酵プロセスにおいて好熱菌の利用は有用であ ることがわかった.

高温可溶化に適した好熱菌の探索

 sp. MU3株はメタン発酵プラントの超 高熱可溶化槽に添加することで可溶化率の向上およびメ タンガスの発生量を増大させた.しかし,MU3株は可 溶化槽に投与後,数時間で死滅することがわかった.そ こで,好熱菌の添加回数の減少およびより強力なプロテ アーゼを生産する好熱菌を求めて温泉地より分離を行っ た.寒天栄養培地に有機物としてスキムミルクを添加 し,温泉地より採取した試料を塗末後,70 Cで培養し た.出現してきたコロニーの周りに透明帯(スキムミル ク資化)が観察された株を釣菌した.16 S rRNA塩基配 列の解析の結果,そのほとんどが 属であっ た. 属は自然界に広く分布している細菌で 温泉などの極限環境下で生育することが知られ(27),耐 熱性を示すα-アミラーゼの研究材料として利用されてき た(28).しかし,菌体外プロテアーゼ産生能や培養時間 によるスキムミルク資化性能は菌株に依存している.増

図7可溶化槽内の有機酸濃度(左図)お よび固形成分(全有機炭素)(右図)の分 析

図6メタン発酵プラント検証実験(左 図:コロニー出現率,右図:可溶化率)

図5メタン発酵プラント

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● 化学 と 生物 

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殖初期段階から培養5日までプロテアーゼ産生が継続す る阿蘇分離株  sp. KK12-0012を選択し,ドッ クフードを用いた可溶化試験を実施した.その結果,

MU3株は20時間あたりで可溶化率が定常状態になるの に対してKK12-0012株の可溶化率はさらに増加してい た(図9.なお,雲仙から分離した

 sp. MU11はMU3株より僅かに高い可溶化を示した.

おわりに

現代の社会では人間の産業活動が活発になるにつれ て,限りある資源が無頓着に使用され,大切な自然が無 制限に破壊されている.それが温暖化や異常気象を引き 起こしている.多くの人たちがこのままでは取り返しが つかないと言うことに気づき始め,生まれたキーワード が「持続可能な発展」で,1987年の国際的なブルトン ラント委員会で初めて提唱された.この「持続可能な発 展」とは,「将来の世代も私たちの世代と同じように幸 せな暮らしができるようにしよう」という意味である が,「現状のままだと将来の世代は幸せに生きていけな い」という意味にも取ることができる.「持続可能な発 展」を目指した会議は1992年に開催された地球サミッ ト(国際環境開発会議)を皮切りに2000年にミレニア ム開発目標が策定され,それを受けて持続可能な開発の ための2030アジェンダが国連総会で採択された(29)

「持続可能な発展」のためには「循環型社会の構築」

が必要となってくる.メタン発酵技術はその一つの役割 を担っている.これまで燃焼廃棄されてきたバイオマス からメタンガスを取り出し,エネルギーとして使用す る.その際に発生する二酸化炭素は植物などの光合成に より吸収され,有機物へと変換される(カーボンニュー トラル).筆者らはメタン発酵の向上を目指し,メタン 発酵プロセスの初期段階である有機物の熱分解と好熱菌 を利用した生物学的処理に注目した.本方法はメタン発 酵槽の小型化が可能であるため設備投資を抑えることが でき,これまでのメタン発酵よりもメタン発生量を向上 させることができる.これまで使用してきた好熱菌は良 好なメタン発酵を行えることができた.しかし,多種多 様な好熱菌を分離して,家畜糞尿や下水汚泥など個々の 原料に最適な好熱菌を用いることで差別化が可能とな る.今回の研究では耐熱性プロテアーゼに絞って行って きたが,セルロースやリグニンなどの難分解性物質の分 解菌探索も必要である.本研究をコンセプトにしたメタ ン発酵プラントが青森スマートメタン発電事業(株式会 社あうら)として実働している.今後,多くのメタン発 酵事業が活発になり,「循環型社会の構築」に少しでも 近づくことが期待される.

文献

  1)  帆秋利洋,天石 文,小嶋令一,羽川富夫,大原孝彦:

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  3)  環境省:平成26年度2050年再生可能エネルギー等分散型 図8長期運転によるバイオガス発生量

表3発生ガスの種類と割合

発生ガス種類 発生ガスの割合(脱硫後)

メタン 63%

水素 <0.1%

二酸化炭素 33.5%

硫化水素 <1 ppm

アンモニア <1 ppm

全硫黄 <1 ppm

図9ドックフードを用いた可溶化試験

○:   sp. K12-0012, △:   sp. MU3,    

□:   sp. MU11, ×:無添加コントロール

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● 化学 と 生物 

(8)

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24)  村松 毅,高松伸枝,中島琢自,石橋康弘:特願2005- 381160

25)  李 玉友:日本環境衛生施設工業会:73, 4 (2005).

26)  李 玉友,張 岩,野沢達也: , 9,  15 

(2004).

27)  T.  N.  Nazina,  T.  P.  Tourova,  A.  B.  Poltaraus,  E.  V. 

Novikova, A. A. Grigoryan, A. E. Ivanova, A. M. Lysen- ko, V. V. Petrunyaka, G. A. Osipov, S. S. Belyaev  : 

51, 433 (2001).

28)  F. E. Feeherry, D. T. Munsey & D. B. Rowley: 

53, 365 (1987).

29)  環境省ホームページ:持続可能な開発のための2030ア ジ ェ ン ダ/SDGs,  http://www.env.go.jp/earth/sdgs/in- dex.html

プロフィール

中島 琢自(Takuji NAKASHIMA)

<略歴>1990年長崎大学大学院水産学研 究科修了/同年ポーラ化成工業新薬研究 所/2002年 博 士(薬 学)(長 崎 大 学 薬 学 部)/同年長崎県産業振興財団/2006年製 品評価技術基盤機構バイオ本部/2008年 北里大学感染制御研究機構/2011年日本 体育大学非常勤講師(自然科学)/2014年 北里大学北里生命科学研究所/同年特任准 教授,現在に至る<研究テーマと抱負>新 規二次代謝産物の探索,産業利用<趣味>

釣り,映画鑑賞

石橋 康弘(Yasuhiro ISHIBASHI)

<略歴>1989年長崎大学工学部材料工学 科卒業/同年同大学環境保全センター教務 職員/1990年同大学環境保全センターセ ンター助手・業務室長/2004年同大学共 同交流研究センター環境マネジメント部門 助手・業務室長/2006年長崎総合科学大 学人間環境学部・大学院工学研究科助教 授/2007年同大学人間環境学部・大学院 工学研究科教授/2011年熊本県立大学環 境共生学部・大学院環境共生学研究科教 授/2016年同大学環境共生学部環境資源 学科学科長,現在に至る<研究テーマと抱 負>廃棄物の再資源化・エネルギー利用

<趣味>テニス,映画鑑賞

Copyright © 2017 公益社団法人日本農芸化学会 DOI: 10.1271/kagakutoseibutsu.55.27

日本農芸化学会

● 化学 と 生物 

Referensi

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