133
化学と生物 Vol. 53, No. 2, 2015
ヴォート基礎生化学 第4版
D. Voet, J. G. Voet, C. W. Pratt 著,田宮信雄,村松正實,八木達彦,遠藤斗志也 訳 A4変型判,784頁,本体価格7,600円
東京化学同人,2014年
生命を分子レベルで解明する生化学の分野の発展は,
近年目覚ましいものである.生化学の基礎的な内容やその 発展に寄与した最新の研究成果を理解することは,生化学 を志す若手には極めて有益である.この点を強く意識さ れ,『ヴォート基礎生化学 第4版』では生化学・分子生 物学の基礎的な内容について,必要な最新の内容とともに わかりやすく記され,理解を深める細工が施されている.
これまでに私はヴォート基礎生化学の初版から触れてきた が,第4版で一番に目を引いたのは,100以上の図が改め られた分子グラフィックスの美しさである.これによって 酵素反応や分子間相互作用など生体分子が働くメカニズム について,分子レベルで深く理解することを助ける効果が ある.特にシグナル伝達タンパク質やミトコンドリア関連 の複合体などをはじめとした複雑系の巨大分子構造のモデ ルについては目を奪われるものがあり,これと同時に構造 生物学の発展の風を強く感じることもできる.さらに,メ タゲノム解析や原子間力顕微鏡などの新たな実験方法につ いても触れられており,基礎から最新の内容が適切な均衡 でまとめられている.
また,初版から続く学生の学習効果を高めるための丁 寧な工夫が施されている.各節の初めと終わりに学習ポイ ントとチェックポイントが必ず置かれ,生化学への好奇心 を駆り立て,理解度を自ら把握できる.これに加え,第4 版ではプロセスの図解として,生化学的に重要な現象に関
する図に説明文が盛り込まれ,視覚的に理解がより進むよ うに工夫されている.また,図表の直後に質問を設置し,
画像や表のデータを自ら考察・解釈でき,研究者として重 要な要素の一つでもある得られたデータについて自ら考え る力を身につけることができる.そして,本文中に,医 学,健康,薬剤関係の重要な話題を取り扱った 使者の杖 マーク とそれらを含めてまとめた 臨床への応用 とい う目次ページがあり,これらによって生化学の知識を背景 にした人の健康と病気を意識することができるため,大学 生・大学院生などをはじめとする若い研究者がもつこの分 野へのモチベーションを高めるであろう.
このように,本書は,化学を基盤とした生化学・分子 生物学の基礎に加えて,生化学の分野において最新かつ重 大な内容を盛り込んだVoet夫妻とPratt先生が執筆された Fundamentals of Biochemistryの第4版の訳本であり,訳 者の先生方が原著者の見識を見事に汲み取った内容になっ ている.このように高い教育効果が期待できる本書を若い 研究者が手に取って精読することによって,生化学の分野 がますます発展することが確信できる.一部の訳者の先生 方に学会でお会いする機会がある.生化学に精通している のはもちろんだが,若手研究者を強くエンカレッジする姿 勢が訳本の第4版の出版につながっていると感じる.
(川村 出)
Copyright © 2015 公益社団法人日本農芸化学会