二 〇 一 四 年 度 大 学 入 試 セ ン タ ー 試 験
解 説
︿ 古 典 ﹀
文
﹃ 源 氏 物 語 ﹄
﹁ 夕 霧 ﹂
﹄は
、平 安時 代中 期に 成立 した 物語
。作 者は 紫式 部。 出題 され た﹁ 夕霧
﹂は
、第 三十 九帖 で、 光源 氏五 十歳 の時 分を 描い てい る巻
。登 場し て
、光 源氏 の長 男︵ 母は 源氏 の最 初の 正妻 であ る葵 の上
︶。 夕霧 は、 父の 教育 方針 で、 大学 で学 問を 修め
、ま め人
︵実 直な 人物
︶と して 成長 し、 ある 雲居 雁と 結婚 する
。今 回出 題さ れた のは
、そ のま め人 であ った はず の夕 霧が
、柏 木︵ 光源 氏の 親友 で、 葵の 上の 兄で ある 頭中 将の 子︶ の未 落葉 宮と いう 女性 に心 惹か れ、 その こと に腹 を立 てた 雲居 雁が 実家 へ帰 って しま った 場面 であ る。 近年 のセ ンタ ー試 験の 古文 の問 題は
、中 世・
~江 戸時 代︶ の小 説類
︵擬 古物 語・ 御伽 草子
・仮 名草 子な ど︶ から の出 題が 多く
、平 安時 代成 立の 物語 から の出 題は 久々 のこ とで
、本 試で は二
﹃宇 津保 物語
﹄以 来の こと であ る。 なお
、﹃ 源氏 物語
﹄は
、一 九八 九年 にセ ンタ ー試 験の 前身 であ る共 通一 次試 験で
﹁胡 蝶﹂ の巻 が出 題さ れた
、セ ンタ ー試 験に なっ てか らは
、一 九九 九年 の追 試験 で﹁ 薄雲
﹂の 巻、 二〇
〇三 年の 追試 験で
﹁手 習﹂ の巻 が出 題さ れて いる が、 セン ター 試験 出題 は初 めて であ る。
、﹁
︵夫 との 関係 はも う︶ お終 いで ある よう だ﹂ と、
︵ま た︶
﹁﹃
︵ま さか
︶そ れほ どの こと
﹇= 夫に 捨て られ るほ どの こと
﹈も ある まい
﹄と
、一 方
︶頼 みに 思っ てい たが
、﹃ 実直 な人 が心 変わ りす ると 跡形 もな く︵ 別人 のよ うに なる
︶﹄ と︵ 人か ら︶ 聞い たの は、 本当 であ った よ﹂ と、 夫婦 の た感 じが して
、﹁ 何と して も夫 の無 礼な しう ちを 目に する まい
﹂と お思 いに なっ たの で、 父お とど の邸
﹇= 実家
﹈へ
﹁方 違え
﹇= 外出 先が 凶に にま ず他 所へ 泊ま って そこ から 目的 地へ 行く こと
﹈に 行こ う﹂ とい うこ とに して お移 りに なっ たと ころ
、︵ 姉妹 に当 たる
︶女 御が 実家 に︵ 戻っ しゃ る折 など に対 面な さり
、少 し悩 みが 晴れ るこ とだ とお 思い にな って
、い つも のよ うに 急い でお 帰り にも なら ない
。 お聞 きに なっ て、
﹁や っぱ りね
、実 に短 気で いら っし ゃる 御気 性だ
。こ の人 の父 おと ども
、ま た、 いか にも 大人 らし い落 ち着 いた とこ ろが 何と く、
︵父 娘と もど も︶ ひど くせ っか ちで
、派 手に ふる まっ て事 を荒 立て なさ る人 たち であ って
、﹃ 気に くわ ない
、︵ 顔も
︶見 たく ない
、︵ 声も
︶聞
たく もな い﹄ など と、 きっ とい ろい ろと ひね くれ たこ とを しで かし なさ るだ ろう
﹂と
、思 わず はっ とな さっ て、 三条 殿の
︵日 常住 まう
︶邸 にい らっ ゃっ たと ころ
、子 ども たち も何 人か は残 って いら っし ゃっ たの で、
︱︱
︵三 条殿 は︶ 姫君 たち と、 それ から 幼い 子と を連 れて
︵実 家に
︶い らっ しゃ った だっ た︱
︱、
︵父 の姿 を︶ 見つ けて 喜ん でま つわ りつ き、 ある いは 母上 を恋 い慕 い申 し上 げて 悲し んで 泣き なさ るの を、
︵大 将殿 は︶
﹁か わい そう だ﹂ と 思い にな る。
︵大 将殿 は三 条殿 に︶ 手紙 を度 々差 し上 げて
、迎 えに
︵使 いの 者を
︶参 上さ せな さる けれ ど、
︵三 条殿 から は︶ お返 事さ えな い。
﹁こ のよ うに 頑な で軽 は みな 妻で ある よ﹂ と、 気に くわ なく 感じ なさ るけ れど
、父 おと どが 見聞 きな さる よう なこ とも ある ので
、日 が暮 れて から 自ら
︵父 おと どの 邸へ
︶参 上な った
。﹁
︵三 条殿 は︶ 寝殿 にい らっ しゃ る﹂ とい うこ とで
、︵ 三条 殿が 実家 で︶ いつ もい らっ しゃ る部 屋に は、 女房 たち だけ が控 えて いる
。若 君た ちが 乳 と一 緒に いら っし ゃっ た。
︵大 将殿 が︶
﹁今 さら
︵年 甲斐 もな く︶ 若者 じみ た御 交際
︵を する こと
︶で すね え。 この よう な︵ 幼い
︶子 を、 あち らこ ちら に放 って 置き なさ って
、ど う て寝 殿で の御 交談 など
……
。︵ 私と は︶ 不釣 り合 いな 御性 格と は長 年見 てい てわ かっ てお りま した けれ ど、 そう なる 前世 から の宿 縁で あっ たの でし ょう
、昔 から
︵あ なた とは
︶離 れら れな いと 思い 申し 上げ て、 今で はこ のよ うに わず らわ しい ほど まで に子 ども が大 勢で きて しみ じみ とい とお しく 思わ れる で、
﹃お 互い に見 捨て るこ とが でき よう か︵ いや
、と ても でき ない
︶﹄ と︵ あな たを
︶頼 みに 思い 申し 上げ て来 たの です
。と るに たら ない ちょ っと した こ で、 この よう に振 る舞 いな さっ てよ いも ので しょ うか
﹂
、た いそ うた しな めて 恨み 言を 申し 上げ なさ ると
、
︵三 条殿 は︶
﹁何 もか も、
︵あ なた 様が
︶﹃ もう
︵ いた くな い︶
﹄と 見飽 きな さっ てし まっ たこ の身 でご ざい ます から
、今 さら
、ま た、
︵私 の気 性が
︶直 る ずで もな いの で、
﹃ど うし て︵ 一緒 にい られ よう か︶
﹄と 思い まし て︵ こち らへ 来た ので す︶
。見 苦し い子 ども たち は、 見捨 てず にく ださ るな らば 嬉し い しょ う﹂ 申し 上げ なさ った
。
︵大 将殿 は︶
﹁穏 やか な御 返事 です ねえ
。︵ こう して
︶言 い続 けて いく と、 誰の 名折 れに なる でし ょう か︵ あな たの 名折 れに なる だけ です よ︶
﹂ おっ しゃ って
、無 理に
﹁︵ 私の もと へ︶ 来て くだ さい
﹂と も言 わず
、そ の夜 は独 りで お休 みに なっ た。
︵大 将殿 は︶
﹁妙 に中 途半 端で 身の 置き 所が ない この 頃で ある なあ
﹂と 思い なが ら、 子ど もた ちを 前に 寝か せな さっ て、 あち ら﹇
=落 葉宮
﹈で も、 また
、 れほ ど思 い乱 れて いら っし ゃる かと その 様子 を思 いや り申 し上 げ、 思い 悩ん で気 が安 まる こと もな いの で、
﹁︵ 一体
︶ど のよ うな 人が
、こ のよ うな こと
=恋 愛﹈ を、 おも しろ いと 感じ てい るの だろ う﹂ など と、 何と なく 懲り 懲り して しま いそ うに 感じ なさ る。 夜が 明け たの で、
﹁人 が見 聞き する よう なこ とに つけ ても 大人 げな いこ とな ので
、︵ あな たが
︶﹃
︵も う︶ お終 い﹄ と言 い切 りな さる なら ば、 その よう にし
﹇= 離れ て暮 らし て﹈ みま しょ う。 あち ら﹇
=三 条殿 の邸
﹈に いる 子ど もた ちも
、い じら しい 様子 でお 慕い 申し 上げ てい るよ うだ った が、
︵あ なた があ 子た ちを
︶選 び残 しな さっ たの には
、﹃ 何か わけ があ るの だろ う﹄ とは 思う もの の、 見捨 てが たく 思い ます から
、と もか く必 ず何 とか いた しま しょ う﹂
、脅 し申 し上 げな さる と、
︵三 条殿 は︶
﹁︵ 大将 殿は
︶き っぱ りと した 御気 性で ある ので
、こ の子 ども たち
﹇= 三条 殿が 実家 へ連 れて きた 子ど もた ち﹈ ま も、 知ら ない 所へ 連れ て行 きな さる ので はな かろ うか
﹂と
、心 配に なる
。
︵大 将殿 は︶ 姫君 に、
﹁さ あ、
︵こ ちら へ︶ おい でな さい な。
︵あ なた に︶ お会 いす るた めに この よう に参 上す るこ とも 体裁 が悪 いの で、 そう しょ っち ゅう 上す るこ とも でき そう にあ りま せん
。あ ちら
﹇= 三条 殿の 邸﹈ に残 って いる 子ど もた ちも かわ いい ので
、せ めて 同じ 所で お世 話申 し上 げよ う﹂ と申 し上 なさ る。
︵姫 君が
︶ま だた いそ う幼 くか わい らし くい らっ しゃ るの を、
︵大 将殿 は︶
﹁た いそ うし みじ みと いと おし い﹂ と拝 見な さっ て、
﹁母 君の 御教 えに いな さっ ては なり ませ ん。 本当 に情 けな いこ とに
、︵ 物事 の︶ 分別 がつ かな い性 質で ある のは
、と ても 悪い こと なの です
﹂と
、︵ 姫君 に︶ 言い 聞か せ申 し げな さる
。 解
説﹈ 語意 の解 釈の 問題 重要 単語
・重 要文 法を 確認 し、 前後 の文 意も 踏ま えて 解答 した い。 標準
﹁い かさ まに して この なめ げさ を見 じ﹂ の解 釈と して 最も 適当 なも のを 選べ
。
﹁い かさ まに
/し
/て
/こ
/の
/な めげ さ/ を/ 見/ じ﹂ と単 語分 けさ れる
。﹁ なめ げさ
﹂は
、﹁ 無礼 だ・ 失礼 だ﹂ と訳 す必 修の 形容 詞﹁ なめ し﹂ か ら派 生し た名 詞。
﹁悲 しげ
﹂や
﹁悲 しさ
﹂が 形容 詞﹁ 悲し
﹂か ら派 生し た名 詞で ある こと を考 える こと など がで きれ ばわ かる だろ う。 選択 肢の 中で
、 これ を正 しく 訳し てい るの は2
と5
。﹁ いか さま に︵ いか 様に
︶﹂ は、 形容 動詞
﹁い かさ まな り﹂ の連 用形 で﹁ どの よう に﹂ の意 であ るが
、類 義語 の 副詞
﹁い かで
﹂が 希望 や意 志を 示す 表現 と呼 応す ると
﹁ど うに かし て~ した い・ 何と かし て~ しよ う﹂ と訳 すよ うに
、﹁ いか さま に~ 希望
・意 志﹂ の 状態 では 同意 にな る可 能性 を考 えた い。 ここ では
、﹁ じ﹂ が、 打消 推量
︵~ しな いだ ろう
︶・ 打消 意志
︵~ する まい
︶の 助動 詞で ある から
、﹁ どう にか して
~す るま い﹂ とい った 意味 であ る。 これ が正 しい のは で5
ある から
、正 解は
。5 2
と迷 うが
、﹁ じ﹂ との 呼応 を考 える と5
が正 しい
。厳 密に 言 うと
、2
は﹁ すれ ば﹂
﹁に すむ
﹂が 余計 な訳 語で ある
。
基礎
﹁ら うた げに 恋ひ 聞こ ゆめ りし を﹂ の解 釈と して 最も 適当 なも のを 選べ
。
﹁ら うた げに
/恋 ひ/ 聞こ ゆ/ めり
/し
/を
﹂と 単語 分け され る。
﹁ら うた げに
﹂は
、形 容詞
﹁ら うた し﹂ から 派生 した 形容 動詞
﹁ら うた げな り﹂ の 連用 形。
﹁ら うた し﹂ は﹁ かわ いら しい
・愛 らし い・ いと おし い﹂ 等の 意の 必修 の形 容詞
。こ れに つい ては
・3 4
が正 しい こと が明 らか だが
、1
・ の2
﹁い じら しい
・い じら しげ に﹂ もほ ぼ同 意で 間違 って いな い。
﹁聞 こゆ
﹂は
、一 般動 詞と して
﹁聞 こえ る・
さ れる
﹂、 謙譲 の本 動詞 とし て﹁ 申 し上 げる
﹂、 謙譲 の補 助動 詞と して
﹁~ 申し 上げ る・ お~ する
﹂と 訳す ヤ行 下二 段活 用動 詞。 ここ では
、動 詞﹁ 恋ふ
﹂に 付い て使 われ てい るの で、 謙 譲の 補助 動詞 であ る。 これ が正 しく 訳さ れて いる のは
、1
と5
。﹁ 聞い てい た﹂ とし てい る2
・3
は誤 り。 の4
﹁と 申し 上げ てい た﹂ は、
﹁聞 こゆ
﹂ を謙 譲の 本動 詞と して 扱っ てお り正 しく ない
。よ って
、﹁ らう たげ に﹂ も﹁ 聞こ ゆ﹂ も正 しく 訳し てい る1
が正 解。 なお
、﹁ めり
﹂は
、﹁ よう だ﹂ と訳 す推 定の 助動 詞。
﹁し
﹂は 過去 の助 動詞
﹁き
﹂の 連体 形で ある
。 基礎
﹁い ざ、 給へ かし
﹂の 解釈 とし て最 も適 当な もの を選 べ。
﹁い ざ、
/給 へ/ かし
﹂と 単語 分け され る。
﹁い ざ給 へ﹂ は、
﹁さ あい らっ しゃ い﹂ と訳 す必 修の 熟語
。﹁ いざ 来給 へ・ いざ 行き 給へ
﹂の 省略 され た表 現で ある
。よ って
、正 解は
。4
なお
、﹁ かし
﹂は
、﹁
~よ
・~ ね﹂ 等と 訳す
、念 押し の終 助詞 であ る。 正解
5
1
4
21
22
23
文法
︵﹁ な・ れ・ て・ せ﹂ の識 別︶ の問 題 基礎 波線 部
a
~
d
の文 法的 説明 の組 合せ とし て正 しい もの を選 べ。a
を 含む﹁な めり
﹂は
、断 定の 助動 詞﹁ なり
﹂に 推定 の助 動詞
﹁め り﹂ が接 続し た﹁ なる めり
﹂の
﹁る
﹂が 撥音 便化 して
﹁な んめ り﹂ とな った 状態 の﹁ ん﹂ が無 表記 とな って いる もの
。﹁ な︵ ん︶ なり
・な
︵ん
︶め り﹂ の﹁ な︵ ん︶
﹂の よう に、 撥音 便化 して いる 助動 詞﹁ なり
﹂は 断定 なの であ る。 また
、
a
の直 前の﹁限 り﹂ は﹁ 限界
・極 限・ 終わ り・ 臨終
・~
︵し てい る︶ 内・ 全部
﹂等 の意 を表 す必 修の 名詞 であ るか ら、 選択 肢2
・4
のよ うに
a
を 形容 動詞 の活 用語 尾と 考え るこ とは でき ない。よ って
、
a
につ いて は1・3
・5
が正 しい
。
b
の 前後 は﹁ 驚か/れ
/給 う﹂ と単 語分 けさ れる
。﹁ 驚か
﹂︵ カ行 四段 活用
︶が 未然 形で あり
、﹁ 給う
﹂︵ ハ行 四段 活用
﹁給 ふ﹂ の連 用形
﹁給 ひ﹂ の語 尾が ウ音 便化 した 状態
︶が 用言 であ るこ とか ら、
﹁れ
﹂は
、未 然形 に接 続す る助 動詞
﹁る
﹂の 連用 形で ある とわ かる
。助 動詞
﹁る
﹂は
、受 身・ 可能
・ 自発
・尊 敬の 意を 表す 助動 詞だ が、 ここ のよ うに 補助 動詞
﹁給 ふ﹂ の直 前に ある 場合 は絶 対に 尊敬 の意 を示 すこ とが なく
、受 身か 自発 の意 であ るこ と が多 い︵ 可能 の意 を表 すこ とも 多く ない
︶。 一方
、﹁ 思ひ 出づ
﹂の よう な心 情を 表す 語や
、﹁ 泣く
﹂の よう な心 情に 関わ りの 深い 語に 付い てい る場 合は 自発 の意 を示 して いる こと が多 く、 ここ でも 直前 の﹁ 驚く
﹂は 心情 語と 言え るで あろ うか ら、
b
の﹁れ
﹂は 自発 を示 して おり
、3
~5
が正 解で ある 可能 性が 高い
。た だし
、こ れは 文意 に照 らし て判 断し なく ては なら ない 面も ある ので
、
b
の意 味の 判断 は保 留し て、c
・d
の 意味 の判 断か ら正 解を 導 いて もよ いだ ろう。
c
の 前後 は﹁﹃限 り﹄
/と
/の たま ひは て/ ば﹂ と単 語分 けさ れる
。﹁ のた まひ はて
﹂は
、タ 行下 二段 活用 動詞
﹁宣 ひ果 つ︵ のた まひ はつ
︶﹂ の未 然 形で ある
。よ って
、
c
は動 詞の 活用 語尾 であ り、・4 5
が正 しい
。﹁ 宣ふ
︵の たま ふ︶
﹂は
﹁お っし ゃる
﹂の 意の 尊敬 語で ある から
、﹁ 宣ひ 果つ
﹂は
﹁言 ひ果 つ﹂
︵言 い切 る・ 最後 まで 言う
︶の 尊敬 表現 であ る。 選択 肢1
~3
が説 明し てい る﹁ 完了 の助 動詞
﹂と は、 完了 の助 動詞
﹁つ
﹂の 未然 形・ 連 用形
﹁て
﹂の こと であ るが
、助 動詞
﹁つ
﹂は 連用 形に 接続 する
。と ころ が、 直前 の﹁
~は
﹂は ア段 の音 であ る。 あら ゆる 活用 語の 中に 連用 形末 尾が ア 段の 音に なる 語は 存在 しな い︵ 末尾 がア 段の 音に なる のは
、四 段・ ナ変
・ラ 変動 詞、 及び
、そ れら と同 パタ ーン で活 用す る助 動詞 の未 然形 だけ であ る︶
。つ まり
、
c
を完 了の 助動 詞と 考え るこ とは でき ない ので ある。よ って
、そ の面 から 見て も
c
は4・5
が正 しい
。
d
の 前後 は﹁ 言ひ/知 ら/ せ/ 奉り
/給 ふ﹂ と単 語分 けさ れる
。﹁ 知ら
﹂︵ ラ行 四段 活用
︶が 未然 形で あり
、﹁ 奉り
﹂が 用言 であ るこ とか ら、
﹁せ
﹂は
、 未然 形に 接続 する 助動 詞﹁ す﹂ の連 用形 であ ると わか る。 助動 詞﹁ す﹂ は、 使役
・尊 敬の 意を 表す 助動 詞だ が、 直前 か直 後︵ たい がい は直 後︶ に﹁ 給 ふ﹂ のよ うな 尊敬 語を 伴っ てい ない 場合 は絶 対に 尊敬 を示 すこ とが ない
。
d
の﹁ せ﹂ は、 尊敬 語を 伴っ てい ない︵直 前の
﹁知 る﹂ は一 般動 詞、 直後 の
﹁奉 る﹂ は謙 譲語
︶の で、 尊敬 を示 すこ とは なく
、使 役で ある こと にな る。 よっ て、
d
は・1
・3
が5
正し い。 以上 のこ とか ら、 正解 は5
。正 確な 判断 に文 意が 関わ る
b
を保 留し てお いて も、a
とc
、 もし くは、
c
とd
がわ かれ ば正 解は 得ら れる。 正解
5
24
主体
、及 び、 心情 説明 の問 題 標準 傍線 部
X
﹁﹃ 心苦 し﹄ と思 す﹂ とあ るが
、誰 が、 どの よう に思 って いる のか
。そ の説 明と して 最も 適当 なも のを 選べ
。
まず
、﹁ 心苦 し﹂ は、
﹁つ らい
﹂﹁ 気が かり だ・ 心配 だ﹂ の意 も表 すが
、﹁ 気の 毒だ
・か わい そう だ﹂ の意 が問 われ やす い必 修語
。よ って
、﹁ かわ いそ うだ
﹂と 説明 して いる
3
と、
﹁気 の毒 だ﹂ と説 明し てい る5
が正 解で ある 可能 性が 高い こと にな り、 大き な意 味と して は﹁ つら い﹂ の意 に含 まれ ると はい え、
﹁心 苦し
﹂の 意味 から 遠い
﹁愚 かな こと をし た﹂
︵1
︶、
﹁す まな いこ とを した
﹂︵
︶2
、﹁ ひど い﹂
︵4
︶は 正解 とは 考え にく いこ とに なる
。 一方
、第 二段 落は
﹁大 将殿 も︵ 三条 殿が 実家 へ戻 った と︶ 聞き 給ひ て﹂
、﹁
︵三 条殿 やそ の父 おと どが 短気 でひ ねく れた こと をし でか しか ねな いと
︶ 驚か れ給 うて
﹂、
﹁三 条殿
︵の 日常 の住 まい
︶に 渡り
﹇= 行き
﹈給 へれ ば﹂
、﹁ 君た ち﹇
=子 ども たち
﹈も 片へ
﹇= 一部
﹈は とま り給 へれ ば﹂
、訪 れた 父 大将 を﹁ 見つ けて 喜び 睦れ
、あ るは 上﹇
=母 上・ 三条 殿﹈ を恋 ひ奉 りて 愁へ
﹇= 悲し み﹈ 泣き 給ふ
﹂と いう こと で、 その 子ど もた ちの 姿を 見た 人物 が
﹁心 苦し
﹂と 思っ てい ると いう ので ある から
、﹁ 心苦 し﹂ の主 体は 大将 殿で ある
。三 条殿 は﹁ 姫君
﹂や
﹁い と幼 き︵ 子た ち︶
﹂を
﹁率 て﹇
=連 れて
﹈﹂ 実 家へ 帰っ てし まっ てい て、 日常 の住 まい には いな いの であ る。
﹁姫 君た ち~ おは しに ける
﹂は 三条 殿の 様子 を説 明す る挿 入句 であ るの で、 文意 を把 握 する 際に 注意 した い。 よっ て、
﹁誰 が﹂ とい う問 いの 説明 を﹁ 大将 殿﹂ とし
、第 二段 落の 内容 を正 しく 踏ま えて おり
、﹁ 心苦 し﹂ の意 も正 しく 説明 して いる が3
正解
。4
も主 体を
﹁大 将殿
﹂と して いる が、
﹁姉 妹や 弟を うら やん で﹂ や﹁ 我が 子の 扱い に差 をつ ける 三条 殿を ひど いと 思っ てい る﹂ は本 文中 にこ れに 相当 す る表 現が ない
。 正解
3
25
心情 説明 の問 題 標準 傍線 部
Y
﹁も の懲 りし ぬべ うお ぼえ 給ふ
﹂と ある が、 この とき の大 将殿 の心 情の 説明 とし て最 も適 当な もの を選 べ。 傍線 部
Y
は﹁ もの 懲り/し
︵サ 変﹁ す﹂ 連用 形︶
/ぬ
︵完 了・ 強意 の助 動詞
﹁ぬ
﹂終 止形
︶/ べう
︵推 量の 助動 詞﹁ べし
﹂連 用形 のウ 音便 化し た状 態︶
/お ぼえ
﹇= 感じ る﹈
/給 ふ︵ 尊敬 の補 助動 詞︶
﹂と 単語 分け され
、﹁ 何と なく 懲り 懲り して しま いそ うに 感じ なさ る﹂ など と訳 され る部 分。 注目 した いの はそ の直 前の 内容 であ る。
︵注
︶に よる と、 大将 殿は
﹁落 葉宮 には 疎ま れ、 妻﹇
=三 条殿
﹈に は家 出さ れる とい う、 身の 置き 所の な 12 い﹂ 状態 にあ る。 そし て、
﹁や すか らぬ 心づ くし
﹂︵ 気が 安ま るこ との ない 思い 悩み
︶を し、
﹁い かな る人
、か うや うな るこ と、 をか しう おぼ ゆら ん﹂
︵ど のよ うな 人が
、こ のよ うな こと を、 おも しろ いと 感じ てい るの だろ う︶ と思 って
、傍 線部
Y
の よう に感 じて いる ので ある。﹁ やす から
﹂は
﹁安 心 だ・ 安泰 だ﹂ の意 の形 容詞
﹁安 し﹂ の未 然形
、﹁ ぬ﹂ は打 消の 助動 詞﹁ ず﹂ の連 体形
、﹁ 心づ くし
﹂は
﹁悩 み﹂ の意 の名 詞、
﹁い かな る﹂ は﹁ どの よう であ る﹂ の意 の形 容動 詞﹁ いか なり
﹂の 連体 形、
﹁を かし う﹂ は﹁ 興味 深く てお もし ろい
・趣 深く て美 しい
﹂の 意の 形容 詞﹁ をか し﹂ の連 用形
﹁を か
しく
﹂が ウ音 便化 して いる 状態
、﹁ おぼ ゆ﹂ は﹁ 感じ る・
︵自 然と
︶思 われ る﹂ の意 の動 詞、
﹁ら ん︵ らむ
︶﹂ は現 在推 量の 助動 詞。 つま り、 大将 殿は 恋 愛に 思い 悩み
、﹁ 一体 どこ の誰 がこ のよ うな 恋愛 をお もし ろい と思 うの だろ う、 気が 知れ ない
﹂と 思っ て、
﹁も う恋 愛は 懲り 懲り だ﹂ と感 じて いる ので ある
。よ って
、こ の内 容を 正し く踏 まえ てい る2
が正 解。
2
にあ る﹁ 落葉 宮は 落葉 宮で 傷つ いて いる だろ うと 想像 され て﹂ は、 少々 解釈 が難 しい 箇 所だ が、 傍線 部
Y
の一 行前 にあ る﹁ かし こに、ま た、 いか に思 し乱 るら んさ ま思 ひや り聞 こえ
﹂が これ に相 当す ると 考え られ る。
﹁か しこ
﹂は
﹁あ ち ら﹂ の意 で、 遠い 場所 を指 す語 であ るか ら、 これ が﹁ 落葉 宮﹂ を指 して いる と考 えれ ばよ いの であ る。 は1
、本 文全 体か ら感 じら れる 大将 殿の 思い とし ては さほ ど間 違っ たこ とが 書か れて いる よう に見 えな いが
、直 前の 内容 を踏 まえ てお らず
、特 に
﹁ど うし てこ んな 女を 良い と思 った のか
﹂に 相当 する 表現 が本 文の どこ と定 めが たい ので 正解 にで きな い。 は3
、ま ず﹁ この 子を 残し て﹂ が正 しく な い。 ここ はま だ場 面が 大殿
︵三 条殿 の実 家︶ であ り、 大将 殿の そば に寝 てい るの は三 条殿 が連 れて きた 子ど もた ちで ある
。ま た、
﹁三 条殿 の苦 悩を 思 いや って 心が 痛み
﹂が 本文 には ない
。大 将殿 は三 条殿 を苦 々し く思 って いる ので あり
、思 いや って いる わけ では ない
。た だし
、﹁ 自分 はつ くづ く恋 愛 には 向い てい ない
﹂は
、﹁ いか なる 人、 かう やう なる こと
、を かし うお ぼゆ らん
﹂か ら読 み取 れる こと とし て大 きな 間違 いは ない
。4
は、
﹁不 思議 と 落葉 宮と 三条 殿と の間 で心 が揺 れ﹂ が本 文に ない
。︵ 注
︶に ある よう に、 大将 殿は 三条 殿に も落 葉宮 にも 距離 を置 かれ てい るの であ り、 二人 の間 で 12 どち らの 女性 をと ろう かと
﹁心 が揺 れ﹂ てい るわ けで はな い。
﹁死 にそ うな
﹂も 本文 には なく 大袈 裟な 表現 であ る。 は5
、﹁ 三条 殿が いる 限り 先が 見 えず
﹂や
﹁三 条殿 との 生活 が嫌 にな り、 別れ たい と望 んで いる
﹂が 正し くな い。 そも そも 大将 殿は
﹁︵ 三条 殿に
︶消 息た びた び聞 こえ て、 迎へ に︵ 人 を︶ 奉﹂ って いる ので あり
、そ の返 事が ない から 自ら 大殿
︵三 条殿 の実 家︶ まで 出向 いて いる ので ある
。三 条殿 と別 れた いと 望ん でい ると は本 文の ど こに も書 かれ てい ない
。 正解
2
26
主体
、及 び、 会話 部説 明の 問題 応用 本文 中の 会話 文
A
~
C
に関 する 説明 とし て最 も適 当な もの を選 べ。A
は、﹁ かか る人 を、 ここ かし こに 落と し置 き給 ひて
、な ど寝 殿の 御ま じら ひは
﹂と 言っ て﹁ 恨み
﹂の 気持 ちを 述べ てい る。
﹁か かる
﹂は
﹁こ うい う﹂
、﹁ かし こ﹂ は﹁ あち ら﹂
、﹁ など
﹂は
﹁な ぜ﹂ の意 であ るか ら、
﹁こ れら の人 達を あち らこ ちら に落 とし て置 いて
、な ぜ寝 殿の 交じ らい をす るの か﹂ とい った 意味 であ るが
、こ れは 第二
~第 三段 落に 書か れて いる 次の こと に相 当す る。 つま り、 三条 殿が 姫君 や幼 い子 だけ を連 れて 邸を 出、 他の 子ど も たち を邸 に置 き去 りに して おり
、連 れて 行っ た子 ども たち も﹁ 御達
﹇=
︵注
︶女 房達
﹈﹂ と共 に﹁ 例の 渡り 給う 方﹇
=︵ 注
︶実 家で いつ も使 って 11
10
いる 部屋
﹈﹂ に置 き去 りに して
、自 分は
﹁寝 殿﹇
=︵ 注
︶女 御の 部屋 があ る﹈
﹂で 女御 と対 面し て気 を晴 らし てい る︵ 本文 三行 目︶ とい うこ とで ある
。 とす れば
、こ の﹁ この よう な子 ども たち を、 あち らこ ちら に放 って 置き なさ って
、ど うし て寝 殿で の御 交談 など
﹂と いう 恨み 言を 言う のは
、大 将殿 で ある
。よ って
、
A
を三 条殿 の言 葉と して いる は3正し くな い。 また
、2
は
A
を大 将殿 の言 葉と して いる もの の、﹁子 育て の苦 労ぐ らい で実 家に 帰る
﹂ と説 明し てい るこ とに 誤り があ る。 三条 殿が 実家 に帰 って しま った 理由 は、 本文 の前 書き にあ るよ うに
、大 将殿 が浮 気を した から であ る。 また
、大 将 殿自 身は
、そ の理 由を
A
の 会話 文で﹁は かな き一 ふし
﹇= とる にた らな いち ょっ とし たこ と﹈
﹂と 言っ てい るが
、こ こで も﹁ 子育 ての 苦労
﹂を 持ち 出 して はい ない ので ある
。
B
はA
に 対す る三 条殿 の返 事で ある から、3
は
B
を大 将殿 の会 話文 とし てい る点 でも 正し くな いこ とに なる。ま た、 話者 が自 分で 自分 の動 作に 尊 敬語 を使 うこ とは まず ない ので
、三 条殿 が主 体で ある
B
の 会話 文の 中で﹁見 飽き 給ひ
﹂の よう に尊 敬語 が使 われ てい るの は、 大将 殿の 動作 を表 して い るこ とに なり
、2
の﹁
︵三 条殿 が︶ 子を 育て るの に今 は飽 き飽 きし てお り﹂ のよ うに 尊敬 語が 付い てい る動 作を 三条 殿の 動作 とし てい るの は間 違っ て いる
。一 方、 恨み 言を 言い なが らも 三条 殿は 夫で ある 大将 殿の 動作 に尊 敬語 を使 って いる ので ある から
、﹁ 今、 はた
、直 るべ きに もあ らぬ
﹂の よう に 尊敬 語を 使っ てい ない 箇所 は話 者で ある 三条 殿本 人の 動作 であ るこ とに なり
、5
の﹁ あな たの お気 持ち がも はや もと に戻 るは ずも なく
﹂の よう に尊 敬語 が付 いて いな い動 作を 大将 殿の 動作 とし てい るの も間 違っ てい るこ とに なる
。そ の点
、1
と4
は﹁ 見飽 き給 ひ﹂ を大 将殿 の動 作、
﹁直 るべ きに も あら ぬ﹂ を三 条殿 の動 作と して いて 誤り がな い。 また
、﹁ 思し 棄て ずは 嬉し うこ そは あら め﹂ も、
﹁思 す﹂ が尊 敬語 であ り、
﹁嬉 しう こそ はあ らめ
﹂に は尊 敬語 がな いの で、
﹁大 将殿 が︵ 子ど もた ちを
︶見 捨て ずに くだ さる なら ば、 私は 嬉し いで しょ う﹂ とい った 意味 であ ると 解釈 した い。 敬語 の使 わ れ方 によ って 主語 を判 断す るこ とで 正解 に近 付く こと がで きる ので ある
。な お、
﹁あ やし き人 々﹂ が誰 であ るか を自 分で 考え るの は難 しい が、 全て の 選択 肢で
﹁子 ども たち
﹂と して 説明 して いる ので
、そ のよ うに 理解 すれ ばよ いだ ろう
。
C
はB
に 対す る大 将殿 の返 事。﹁誰 が名 か惜 しき
﹂は
﹁誰 の名
︵名 声・ 評判
︶が 惜し いか
﹂と 直訳 され る部 分で
、つ まり は、
﹁誰 の名 声が 傷つ くか
・ 誰の 名折 れか
﹂と いっ た意 味で ある が、 これ を4
は、
﹁私 の名 誉も 考え てほ しい
﹂と し、 は5
﹁あ なた の名 折れ にな るだ けだ
﹂と して いる
。大 将殿 は、
A
の 部分 でも 柔ら かく 言い はし てい るが ひた すら 三条 殿を 責め てい て、 自分 の立 場を わか って ほし いと いっ た発 言は して おら ず、 他の 箇所 でも 自分 の 名誉 にこ だわ って いる 様子 は描 かれ てい ない ので、5
のよ うに 解釈 する のが 適当 であ り、
4
のよ うな 解釈 は正 しく ない と考 えら れる
。﹁ 言ひ もて いけ ば、 誰が 名か 惜し き﹂ は﹁
︵こ うし て︶ 言い 続け てい くと
、誰 の名 折れ にな るで しょ うか
︵あ なた の名 折れ にな るだ けで すよ
︶﹂ とい うこ とな ので ある
。 ちな みに
、﹁ 言ひ もて いけ
﹂の
﹁も てい く﹂ は﹁ 次第 に~ する
・だ んだ ん~ する
﹂の 意で ある
。 以上 のよ うに 見る と、 選択 肢の 説明 に本 文内 容と の矛 盾が ない が1
正解 であ るこ とに なる
。 正解
1
27
内容 説明 の問 題 標準 この 文章 の内 容に 関す る説 明と して 最も 適当 なも のを 選べ
。 内容 合致 問題 であ るか ら、 ひた すら 本文 と選 択肢 の内 容を 照合 して 判断 しな くて はな らな い。 復習 の際 は通 釈で 文意 を確 認し なが ら照 合し てほ しい
。 正解 とな る4
は、
﹁三 条殿 は、 強気 に帰 宅を 拒み
﹂が
B
の 会話 文に、﹁ 思い 切り のよ い~ 危惧 した
﹂が 本文 の後 ろか ら四 行目
﹁﹃ すが すが しき
~﹄ と、 あや ふし
﹂に
、そ れぞ れ相 当し てい て誤 りが ない
。 は1
、﹁ おと どと 語る こと で﹂ が誤 り。 本文 三行 目に
﹁女 御の 里に おは する ほど など に対 面し
﹂と あり
、姉 妹で ある 女御 と語 るこ とで
﹁少 しも の思 ひ晴 るけ どこ ろ﹂ を見 つけ たこ とが わか る。 は2
、﹁ おと どは
、~ 大将 殿に
﹂が 誤り
。第 三段 落冒 頭の
﹁消 息た びた び聞 こえ て﹂ に主 語が 書か れて いな いの は、 直前 の﹁
﹃心 苦し
﹄と 思す
﹂の 主体 であ る大 将殿 が、 その まま 第三 段落 冒頭 の主 語で ある から であ る。 また
、直 後に ある
﹁迎 へに
﹂が
﹁実 家に 帰っ た三 条殿 を迎 えに
﹂の 意で ある だ ろう こと も合 わせ て考 える と、
﹁消 息﹇
=手 紙﹈
﹂は
、大 将殿 が三 条殿 に送 った もの であ る。 よっ て、
﹁全 く返 事を しな い﹂ のも
、三 条殿 であ って
、2
が言 う﹁ 大将 殿﹂ では なく
、﹁ かた くな しう 軽々 しの 世や
﹂と 嘆い てい るの も大 将殿 であ って
、2
が言 う﹁ おと ど﹂ では ない
。ち なみ にこ の部 分に あ る﹁ 世﹂ は﹁ 男女 の仲
・夫 婦の 仲﹂ の意 を表 すこ とが ある 必修 語で
、こ こで は﹁ 夫婦 仲で ある 相手
﹂、 つま り、
﹁妻
﹇= 三条 殿﹈
﹂の こと であ る。 は3
、﹁ すぐ さま 大殿 へ迎 えに 行っ た﹂ が誤 り。 大将 殿が
、﹁ 三条 殿の 家出 を知 り、 三条 殿父 娘の 短気 で派 手な 性格 を考 える と、
﹃ひ がひ がし きこ と﹄ をし でか しか ねな いと 驚い
﹂た こと は、 第二 段落 にあ り、 が3
言う 通り だが
、︵ 注
︶が 付い てい る箇 所に 書か れて いる 通り
、大 将殿 はま ず三 条 殿の 日常 の住 まい
︵大 将殿 夫妻 の邸 宅︶ へ行 き、 残さ れた 子ど も達 に会 い、 三条 殿に
﹁消 息た びた び聞 こえ
﹂て
、一 向に 返事 がな いの で、 大殿
︵三 条 殿の 実家
︶へ 行っ たの であ る。 は5
、ま ず﹁ 三条 殿の 手も とで 育つ こと にな る﹂ が正 確で はな い。 確か に姫 君は 三条 殿が 実家 へ連 れ帰 って いる ので はあ るが
、大 将殿 夫妻 はま だ 離婚 する と決 まっ たわ けで はな く、
﹁三 条殿 の手 もと で育 つこ とに なる
﹂と いう 決定 も成 され ては いな い。 この まま 大将 殿夫 妻が 別れ るこ とに なれ ば、 その よう な可 能性 もあ ると いっ た程 度の こと でし かな い。 よっ て、 大将 が﹁ 姫君 の将 来を 心配 して
﹂い るこ とも なく
、別 れて 暮ら すこ とに なる 姫君 に
﹁せ めて 教訓 を言 い聞 かせ るこ とで
、父 の役 割を 果た そう とし た﹂ わけ でも ない こと にな る。 本文 後ろ から 五行 目に
﹁威 し聞 こえ 給へ
﹂あ るよ うに
、 ここ で大 将殿 は三 条殿 を威 して 家に 帰っ てく るよ うに 促そ うと して いる ので あり
、最 終段 落の 大将 殿の 言動 も同 様の もの であ ると 考え るべ きで ある
。 姫君 との 別れ を惜 しん だり
、姫 君の 身を 心配 して いる わけ では ない ので ある
。 正解
4
28
問 漢 文
陸
りく樹
じゆ声
せい﹃ 陸
りく文
ぶん定
てい公
こう集
しゆう﹄
書き 下し 文﹈ 江かう
南なん
に竹たけ
多おほ
し。 其そ の人ひと
筍たけの
をこ
食く らふ を習なら
ひと す。 春はる
の時とき
に方あ たる 毎ごと
に、 苞はう 甲かふ
土つち
より 出い で、 頭とう
角かく
繭けん
栗りつ
、 率おほむ ね以もつ
て採さい
食しよく に 供きよう す。 或ある
いは 蒸じよう 瀹やく
して 以もつ
て湯たう と し、 茹じよ
介かい
茶ちや
開せん
以もつ
て饋き に充あ つ。 事こと
を好この む者もの
目もく
する に清せい
嗜し を以もつ
てし 方まさ
に長ちやう
ずる を靳と らず
。故ゆゑ
に園ゑん
林りん
豊ほう
美び
、複ふく
垣ゑん
重ちよう 扃けい にし て、 主しゆ
人じん
居きよ
嘗しやう 愛あい
護ご すと 雖いへど も、 其そ の を食く らふ に甘うま しと する に及およ
ぶや
、剪せん
伐ばつ
して 顧かへり みず
。独ひと
り其そ の味あぢ
苦にが
くし て 食しよく 品ひん
に入い らざ る者もの
のみ
、 筍たけの
常こつね
に 全まつた し。 毎つね
に渓けい
谷こく
巌がん
陸りく
の間かん に当あ たり て、 地ち に 漫まん
して 収をさ
めら れざ る者もの
は、 必かなら ず苦にが
きに 棄す てら るる 者な り。 而しか
るに 甘うま
き者もの
は之これ
を取と りて 或ある
いは 其そ の類るい
を尽つ くす に至いた
る。 然しか
らば 甘うま
き者もの
は自みづか ら 戕そこな ふに 近ちか
し。 るに 苦にが
き者もの
は棄す てら ると 雖いへど も、 猶な ほ剪せん
伐ばつ
を免まぬか
るる がご とし
。夫そ れ物ぶつ
類るい
は甘うま
きを 尚たつと ぶも
、苦にが
き者もの
は全まつた
きを 得え たり
。世よ に貴き は取と られ 賤せん
は棄す てら れざ るは し。 然しか
れど も亦ま た取と らる る者もの
の幸さいは
ひな らず して
、 偶たまた
棄ます
てら るる 者もの
に 幸さいは ひな るを 知し る。 豈あ に荘さう
子し の所いは
謂ゆる
無む 用よう
を以もつ
て用よう
と為な す者もの
の比たぐ
ひな るか
。 通
釈﹈ 江南 地方 には 竹が 多い
。︵ その ため
︶江 南の 人々 はタ ケノ コを 食べ るの を習 慣と して いる
。毎 年春 の季 節に なる と、 タケ ノコ の身 を包 む皮 が土 から 顔を し、
︵そ の生 えた ばか りの 子牛 の角 のよ うな
︶小 さな タケ ノコ の若 芽を
、み な採 って 食べ る。 ある もの は蒸 した り煮 たり して スー プに し、 穂先 のや わら いと ころ やお 茶を 食卓 に並 べる
。も のず きな 人は 清雅 なも のへ の嗜 好を よし とし て、 大き くな りか かっ たタ ケノ コは 採ら ない
。そ れゆ え、 庭園 を美 しく つら えて
、幾 重に も垣 根や 門扉 を作 って
、主 人が ふだ んか ら大 事に して いて も、 食べ ごろ の時 期に なる と、 かま わず 切り 取っ てゆ く。 ただ 味が 苦く て食 るの に適 さな いも のだ けが
、タ ケノ コと して
︵の 生を
︶無 事に 生き られ るの であ る。 ずっ と渓 谷や 山の 中で
、地 面に 散ら ばり 広が って 生え て、 人に 採ら ない もの は、 必ず 苦い もの とし て見 捨て られ るも ので ある
。し かし
、う まい もの は取 り尽 くさ れて しま うこ とに もな る。 なら ば、 うま いも のは
︵う まい ゆえ に︶ 自ら を殺 して いる よう なも ので ある
。し かし
、苦 いも のは 見捨 てら れる とは いえ
、︵ それ は︶ 切り 取ら れず に︵ つま り殺 され ずに
︶す んだ のと じよ うな こと だ。 そも そも
、物 はう まい もの を尊 重す るが
、苦 いも のは 身を 全う する こと がで きる
。世 を見 るに
、常 に、 貴く すぐ れて いる 者は 取り 上げ れ、 賤し く下 等な 者は 捨て て放 って おか れる
。し かし
、必 ずし も、 取り 上げ られ る者 が幸 い︵ なば かり
︶で なく
、捨 てら れる 者が 幸い であ るこ とも ある も周 知の こと だ。 これ こそ
﹁荘 子﹂ の言 うと ころ の﹁ 無用 を以 て用 を為 す﹂ もの のた ぐい では なか ろう か。
解 説﹈ 語の 意味 の問 題
⑴ 基礎
⑵ 基礎 傍線 部⑴
﹁習
﹂・
⑵﹁ 尚﹂ の意 味と して 最も 適当 なも のを
、そ れぞ れ選 べ。 問 は、 昨︵ 二〇 一三
︶年 度、 久々 に﹁ 語の 意味 と熟 語の 合致 の問 題﹂ が出 て、 しば らく 続く かと も予 想さ れた が、 今回 は再 び、 二〇
〇九 年度 から 二〇 一二 年度 まで 四年 連続 出題 され た﹁ 語の 意味 の問 題﹂ に戻 った
。二
〇〇 四年 度か ら二
〇〇 八年 度ま で五 年続 いた
﹁漢 字の 読み 方の 問題
﹂の 形も 含 め、 流動 的に なっ てき てい る。
⑴﹁ 習﹂ は、
﹁江 南に 竹多 し。 其の 人 筍たけの
をこ
食ら ふを
~﹂ とい う文 脈に ある ので ある から
、1
﹁学 習す る﹂
、3
﹁習 得す る﹂
、5
﹁習 練す る﹂ は明 ら かに おか しい
。つ まり
、﹁ 習なら
ふ﹂ と読 むの では ない
。2
の﹁ 弊D 習と して いる
﹂は
﹁悪D いD なら わし とし てい る﹂ とい う意 味に なる
。タ ケノ コを 食べ るの が﹁ 悪D いD なら わし
﹂と いう のも おか しい であ ろう から
、意 味を あて はめ てみ て、 正解 は4
﹁習 慣と して いる
﹂に なる
。﹁ 習なら
ひと す﹂ と読 むこ とに なる
。
⑵﹁ 尚﹂ は、
﹁ 尚しよう 賢けん
・尚しよう 古こ
・ 尚しよう 武ぶ
﹂な どの 熟語 から
、動 詞と して
﹁た つと ぶ︵ たふ とぶ
︶﹂ と読 み、
﹁尊 重す る﹂ 意が ある こと を知 って いた い。
﹁慕 う﹂ 意や
、﹁ 誇る
﹂意 も、 字義 とし ては なく はな いが
、﹁ 物類 は甘うま
きを
~﹂ とい う文 脈か らも
、﹁ 尊重 する
﹂と か﹁ よし とす る﹂ とい った 意味 と考 え たい
。正 解は
。3
正解
⑴
4
⑵
3
29
30
返り 点の 付け 方と 読み 方︵ 書き 下し 文︶ の組 合せ の問 題 標準 傍線 部
A
﹁好 事 者 目 以 清 嗜 不 靳 方 長﹂ の返 り点 の付 け方 とそ の読 み方 とし て最 も適 当な もの を選 べ。
﹁好 事者
﹂は
、す べて の選 択肢 が﹁ 事を 好む 者﹂ で共 通し てい る。
﹁好こう 事ず
﹂は
﹁も のず き﹂ なこ と。 あと は、
﹁清せい
嗜し
﹂に
﹁清 雅︵
=清 らか でみ やび なこ と︶ なも のへ の嗜し 好こう
︵= この み︶
﹂と いう
︵注 ︶ がつ いて いる 以外
、句 法上 のポ イン トも ほと ん どな い。
﹁目
﹂は
、1
・2
・3
・5
が﹁ 目もく
す﹂ と読 んで いる
。﹁ 目す
﹂は
、﹁ 見る
﹂﹁ 目を つけ て見 る・ 注視 する
﹂﹁ 目く ばせ する
﹂﹁ 評価 する
﹂な どの 意で あ る。
﹁不 靳方 長﹂ につ いて は、 おそ らく
、﹁ 長ず るを 靳と らず
﹂、 つま り、 成長 して 大き くな った タケ ノコ は採と らな いと いう こと を言 って いる と思 われ る。
﹁長 きに 方なら
ぶを 靳と らず
﹂と して いる
・1
で4
はな いで あろ う。 あと は、 選択 肢の よう に読 んだ 場合 の文 意を 考え てみ るし かな い。 は2
、﹁ もの ずき な人 は見D てD
︵注 視し て︶ そD れD でD 清雅 なも のへ の嗜 好でD あD っD てD もD 大き くな りか かっ たタ ケノ コは 採ら ない
﹂。 は3
、﹁ もの ずき な人 は、 清雅 なも のへ の嗜 好に よっ て、 大き くな りか かっ たタ ケノ コは 採D らD なD いD とD 見D るD
︵評 価す る︶
﹂。 は5
、﹁ もの ずき な人 は、 清雅 なも のへ の嗜 好を よし とし て︵ 清雅 なも のへ の嗜 好と いう 点か ら見 て︶
、大 きく なり かか った タケ ノコ は採 らな い﹂
。
・2
は3
FF Fの 部分 の文 意が おか しい
。正 解は で5
あろ う。 正解
5
31
空欄 補充 の問 題 応用 空欄
Ⅰ
・Ⅱ
・
Ⅲ・
Ⅳ に入 る語 の組 合せ とし て最 も適 当な もの を選 べ。 空欄 補充 問題 は、 二〇 一一 年度 以来 であ る。 ただ
、こ の四 カ所 の空 欄に
、﹁ 甘﹂ と﹁ 苦﹂ をど う組 合せ て入 れる かは
、論 理の 展開 をと らえ る問 題で あっ て、 難度 が高 い問 題と もい える
。
Ⅰ は、
﹁渓 谷巌 陸︵
=山 の中
︶の 間﹂ で、
﹁地 に散 漫し て収 めら れざ る︵
=採 られ ない
︶﹂ タケ ノコ は、
﹁
Ⅰ に棄 てら るる
﹂も のだ
、と いう 文脈 に ある
。こ こは
、﹁ 苦き に棄 てら るる
﹂つ まり
﹁苦 いと して 見捨 てら れる
︵放 って おか れる
︶﹂ のか
、﹁ 甘うま
きに 棄て らる る︵ うま いのD にD
︶見 捨て られ る﹂ のか
、迷 うと ころ であ る。 厳密 には
、﹁ 於﹂ のは たら きか らは
、後 者の よう にと るこ とは 無理 があ るが
、受 験生 レベ ルで は難 しい とこ ろで あろ う。
Ⅱ は、
﹁而 るに
﹂と いう 逆接 が直 前に ある から
、
Ⅰ とは 逆な もの が入 る。
Ⅱ は、
﹁之 を取 りて 或い は其 の類 を尽 くす に至 る﹂
、要 は、
﹁取 り尽 く され てし まう
﹂こ とも ある ので あろ う。
﹁苦
﹂け れば
﹁取
﹂っ たり もし ない であ ろう から
、こ こは
﹁甘 き﹂ 者は
、と しな くて はな らな い。
Ⅲ は、
﹁然 らば
︵= それ なら ば︶
﹂の あと にあ り、
﹁
Ⅲ 者は 自ら 戕そこな ふに 近し
﹂と ある
。こ の﹁ 自ら 戕ふ
︵= 自分 で殺 して いる
︶﹂ は、 直前 の﹁ 其 の類 を尽 くす に至 る﹂ を言 って いる
。と いう こと は、
Ⅲ も﹁ 甘き
﹂が 入る
。
Ⅰ が不 明確 でも
、Ⅱ
・Ⅲ
がど ちら も﹁ 甘﹂ であ る選 択肢 は1
しか ない ので
、こ こで 答は 出る こと にな り、
Ⅰ は﹁ 苦﹂ であ るこ とも 決定 でき る。 正解 は1
。
Ⅳ は、 やは り、 逆接 の﹁ 而る に﹂ が直 前に ある ので
、Ⅲ
とは 逆に
﹁苦
﹂で なく ては なら ない
。﹁ 甘き 者は 自ら 戕ふ に近 し﹂ であ るの とは 反対 に、