二 〇 二 〇 年 度 大 学 入 試 セ ン タ ー 試 験
解 説
︿ 古 典 ﹀
文
﹃ 小
さ夜
よ衣
ごろも﹄
は、 鎌倉 時代 に成 立し たと 見ら れる 物語 であ る。 作者
・成 立と もに 未詳 の作 品だ が、
﹃源 氏物 語﹄ など の影 響を 大き く受 けて いる と見 られ る表 ら見 て、 平安 時代 の物 語を 模し て書 かれ た、 鎌倉 時代 に書 かれ たい わゆ る擬 古物 語の 一つ であ る。 今ん
上じよう 帝の 甥おい
に当 たる 兵ひよう 部ぶ Dきよう 宮のみや
と、 山里 に暮 らす 大納 言の 姫君 との 恋の 物語 であ る。 今回 出題 され たの は、 冒頭 に近 い箇 所で
、宮 が病 気の 乳 た際 に、 同じ 山里 に、 姫君 の祖 母で ある 尼君 の庵 室が ある のを 見つ け、 宰相 とい う女 房︵ 姫君 の遠 縁に 当た る︶ と面 会し
、姫 君の 祖母 に当 たる る見 舞い を言 いつ つ、 姫君 との 仲を 取り 持つ よう に宰 相に 促す 場面 であ る。 この 後、 宮と 姫君 は恋 に落 ちる が、 宮が 親の 命令 で他 の女 性と 結婚 り、 姫君 が帝 に気 に入 られ てし まっ たり
、さ らに は、 姫君 の継 母の 悪だ くみ など もあ って
、そ の恋 はな かな か進 展し ない
。し かし
、姫 君の 父が くみ を知 って 離縁
、宮 と姫 君は 結ば れ、 二代 にわ たる 帝の 退位 もあ って
、宮 が帝 に即 位、 姫君 は皇 后と なる
。
﹄や
﹃住 吉物 語﹄ のよ うな 継子 いじ め物 語の 要素 もあ るが
、一 般的 な継 子い じめ 物語 では 貴公 子が 継母 を懲 らし める のに 対し
、父 が継 母と 離 で問 題が 解決 に向 かう とい うよ うな
、こ の物 語独 特の 面も 見ら れる
。 ンタ ー試 験本 試験 の古 文の 問題 は、 平安 時代 の物 語・ 鎌倉 時代 の擬 古物 語・ 室町 時代 の御 伽草 子・ 江戸 時代 の仮 名草 子な ど、 物語
︵小 説︶ 類か 多く
、本 年度 の出 題も その 傾向 から はず れて いな い。 本文 の長 さは 過去 十年 の平 均よ り二
〇〇 字ほ ど少 なく
、解 釈が 難し い和 歌も 含ま れて いな
︵第 二段 落︶ の尼 上の 発言 内容 や後 半︵ 第三 段落
︶の 女房 たち の様 子な どを 正確 に読 み取 って 最後 まで 読み 通す ため には
、精 密に 文章 を読 む力 る。 こか
﹂と
、︵ 宮が
︶御 供の 人々 にお 尋ね にな ると
、︵ 供の 者が
︶﹁ 雲う 林りん
院いん
と申 す所 でご ざい ます
﹂と 申し 上げ るの で、
︵宮 は︶ お耳 にお 留め に 相が 通う 所で あろ うか
﹂と
、︵ また
、︶
﹁︵ 姫君 は︶ 今は ここ に︵ いる
︶と 聞い たが
、ど こで あろ うか
﹂と
、知 りた くお 思い にな って
、御 車を 停
めて 外を 御覧 にな った とこ ろ、 卯の 花が 咲い てい るの はど こも 同じ とは 言う もの の、 垣根 にな って 咲き 続い てい るの は︵ 卯の 花の 名所 であ る︶ 玉川 のよ う な感 じが して
、︵ ここ は︶ ほと とぎ すの 初声 も︵ いつ どこ で聞 ける かと
︶気 をも むこ とも なく 聞け る場 所で はな かろ うか と、 自然 と︵ その 様子 を︶ 知り た くお 思い にな って
、夕 暮れ の頃 であ るの で、 静か に葦 で編 んだ 垣根 の隙 間か ら格 子な どが 見え る︵ 庵室 の︶ 様子 を覗 きな さる と、 手前 のほ うは 仏間 らし く、 ささ やか な閼あ 伽か 棚だな
があ って
、妻 戸や 格子 など も開 け放 して あり
、樒しきみ
の花 が青 々と 散っ て、
︵誰 かが
︶花 をお 供え しよ うと して
、︵ 花を 入れ る器 が︶ から か らと 鳴る
︵の が聞 こえ る︶
。そ れに つけ ても
、こ うい う︵ 仏教 的な
︶面 の行 いも
、こ の世 でも たゆ むこ とな く︵ 熱心 に行 い︶
、︵ その ため に︶ 来世 もま たた いそ う︵ 極楽 往生 が︶ 期待 でき るこ とで ある よ︵ と思 われ る︶
。こ のよ うな
︵仏 教的 な︶ 面は
︵宮 とし ても
︶心 にと まる こと であ るの で、 うら やま しく 御 覧に なっ てい た。
︵む なし く︶ 味気 ない この 世で は、 この よう にも 暮ら した いも のだ と、
︵そ の暮 らし ぶり が︶ 御目 にと まっ て見 えな さっ てい ると
、召 し使 いの 少女 たち の姿 もた くさ ん見 える 中に
、例 の宰 相の もと に仕 える 少女 もお り、
﹁こ の少 女が いる のは
、︵ やは り宰 相が 通う 姫君 の住 まい は︶ ここ なの であ ろう か﹂ とお 思い にな るの で、 御供 であ る 兵ひよう 衛えの
督かみ
とい う者 をお 呼び にな って
、︵ その 人を 介し て︶
﹁宰 相の 君が いる のは ここ でご ざい まし ょう か﹂ と、 対 面し たく 思っ てい る旨 を︵ 庵室 内へ
︶申 し上 げな さっ た。
︵こ れを 聞い た宰 相は
︶驚 いて
、﹁ どう いた しま しょ う。 宮が
、こ こま で訪 ねて 来て いら っし ゃる ので すね
。畏 れ多 いこ とで ござ いま す﹂ と言 って
、あ わて て︵ 応対 に︶ 出て 来た
。仏 間近 くの 南向 きの 部屋 に、 お座 りに なる 場所 など を用 意し て、
︵宮 を︶ 入れ 申し 上げ る。
︵宮 は︶ 微笑 みな さっ て、
﹁こ のた び︵ この 山里 へ︶ お訪 ねし てみ ると
、︵ あな たが
︶こ のあ たり にい らっ しゃ るな どと 聞い て︵ やっ て参 りま した
︶、 ここ まで
︵草 深い 場所 を︶ 分け 入っ て参 りま した 気持 ちを
、お 察し くだ さい
﹂な どと おっ しゃ るの で、
︵宰 相が
︶﹁ 本当 に、 畏れ 多く も︵ この よう な場 所ま で︶ 訪ね て来 てく ださ った お気 持ち には
、恐 縮い たし ます
。年 寄り
﹇= 尼上
﹈が
、こ れが 最期 かと いう ほど に患 って おり ます ため に、 最後 まで 看病 しよ うと 思 いま して
、︵ ここ に︶ 籠こ もっ て︵ おり ます
︶﹂ など と申 し上 げる と、
︵宮 は︶
﹁そ のよ うに 重病 でい らっ しゃ ると いう のは
、お 気の 毒な こと です
。そ の御 病状 もお 聞き しよ うと 思っ て、 わざ わざ 参っ たの です が﹂ など とお っし ゃる
。そ こで
、︵ 宰相 が︶ 部屋 の奥 へ入 って
、﹁ この よう に︵ 御見 舞い の︶ 御言 葉を いた だき まし た﹂ と︵ 尼上 に︶ 申し 上げ なさ ると
、︵ 尼上 は︶
﹁そ のよ うな 者﹇
=重 病の 自分
﹈が いる と︵ 宮が
︶お 耳に なさ って
、︵ 私は
︶老 いの 果て に、 この よう に素 晴ら しい 御恵 みを こう むり まし たの で、
︵無 駄に
︶生 き永 らえ てお りま した この 命も
、今 は嬉 しく
、︵ 宮の 御見 舞い は︶ この 世で の︵ この 上な い︶ 名誉 であ ると 思わ れま す。
︵宰 相に
︶仲 介さ せる ので はな く︵ 直接 お会 いし て︶ お礼 を申 し上 げる べき でご ざい ます が、 この よう に衰 弱し た状 態で
︵ご ざ いま すの で︶
﹂な どと
、途 切れ 途切 れに 申し 上げ るが
、そ れも
︵宮 は︶ たい そう 好ま しい 対応 であ ると 思っ てお 聞き にな って いた
。
︵尼 上に 仕え る︶ 女房 たち が、
︵こ っそ り︶ 覗い て︵ 宮の 姿を
︶拝 見す ると
、明 るく 差し てい る夕 方の 月光 の中 で、 威儀 を正 して いら っし ゃる 様子 は、 た とえ よう もな いほ どに 素晴 らし い。 山の 端か ら月 の光 が輝 き出 たよ うな その 御様 子は
、正 視で きな いほ どに 美し い。 つや やか さも 色合 いも
︵あ たか もあ た りに
︶こ ぼれ 落ち そう なほ どで ある 御着 物に
、直 衣が それ とな く重 なっ てい る色 合い も、 どこ に加 わっ てい る気 品の ため であ ろう か、 この 世の 人が 染め 上
たも のと も思 われ ず、
︵と ても
︶あ りき たり な色 とは 見え ない その 様子 は、 目に も鮮 やか で本 当に 見た こと がな いほ どに 素晴 らし い。
︵宮 より も︶ 見劣 り る平 凡な 男で さえ 見馴 れな い︵ 女房 たち の︶ 心に は、
﹁世 の中 には この よう な人 もい らっ しゃ った のだ なあ
﹂と
︵思 われ て︶
、︵ 皆︶ 心も 落ち 着か ず褒 め やし てい る。
︵女 房た ちは
︶本 当に
、︵ 姫君 の夫 とし て宮 を︶ 姫君 に並 べて みた く思 われ て、 微笑 みな がら 座っ てい た。 宮が
、そ の住 まい の様 子な どを 御 にな ると
、︵ 都に ある
︶他 の家 とは 様子 が違 って 見え る。
︵仕 える
︶人 は少 なく
、ひ っそ りと して いて
、こ のよ うな 所に 思い 悩み がち であ るよ うな 人﹇
= 君﹈ が住 んで いる なら ばと
、そ の心 細さ など が自 然に しみ じみ と気 の毒 に思 われ なさ って
、︵ 宮は
︶む やみ にも の悲 しく 思い
、御 袖を 涙で 濡ら しな さり がら
、宰 相に も、
﹁必 ず、 甲斐 があ るよ うに
﹇= 姫君 の気 持ち が自 分に 向く よう に﹈ 申し 上げ てく ださ い﹂ など と言 い含 めて お帰 りに なる ので
、女 房た もた いそ う名 残惜 しく 感じ る。 解
説﹈ 解釈 の問 題 まず は重 要単 語・ 重要 文法 を確 認し
、必 要に 応じ て前 後の 文意 も踏 まえ て解 答し たい
。
標準
﹁ゆ かし くお ぼし めし て﹂ の解 釈と して 最も 適当 なも のを 選べ
。
﹁ゆ かし く/ おぼ しめ し/ て﹂ と単 語分 けさ れる
。
﹁ゆ かし く﹂ は、 本来
﹁心 ひか れる
﹂の 意で
、多 くは
﹁見 たい
・聞 きた い・ 知り たい
﹂と 訳す 形容 詞﹁ ゆか し﹂ の連 用形
。こ れが 正し いの は、
・3
。5
﹁お ぼし めし
﹂は
、﹁ お思 いに なる
﹂と 訳す 尊敬 の動 詞﹁ おぼ しめ す﹂ の連 用形
。こ れが 正し いの は、
・1
・3
。4
と2
の5
﹁~ 申し 上げ る﹂ は 謙譲 の訳 であ る。 よっ て、 正解 は、 二つ のポ イン トが 正し く訳 され てい る3
であ る。 重要 単語 と敬 語の 訳か ら正 解は 得ら れる
。
基礎
﹁や をら
﹂の 解釈 とし て最 も適 当な もの を選 べ。
﹁や をら
﹂は
、﹁ 静か に・ そっ と﹂ と訳 す副 詞。 今こん
日にち
では
﹁突 然に
・不 意に
﹂の 意で 使わ れる こと があ るが
、誤 用で ある
。 よっ て、 正解 はズ バリ で2
ある
。
応用
﹁重 なれ るあ はひ
﹂の 解釈 とし て最 も適 当な もの を選 べ。
﹁重 なれ
/る
/あ はひ
﹂と 単語 分け され る。
﹁重 なれ
﹂は
、四 段活 用の 動詞
﹁重 なる
﹂の 已然 形。 意味 は、 その まま
﹁重 なる
﹂で
、こ れが 正し いの は1
・3
・4
。2
と の5
訳の
﹁重 ねる
﹂は 他動 詞の 訳で
、﹁ 重な る﹂
︵自 動詞
︶と は違 う。 ちな みに
、﹁ 重ね る﹂ の意 であ れば
、単 語は 下二 段活 用の
﹁重 ぬ﹂ であ り、
﹁重 ね・ 重ね
・重 ぬ・ 重ぬ る・ 重ぬ れ・ 重ね よ﹂ と活 用し
、﹁ 重な れ﹂ には なら ない
。﹁ る﹂ は、 存続
︵~ して いる
︶・ 完了
︵~ した
︶の 助動 詞﹁ り﹂ の連 体形
。助 動詞
﹁り
﹂は
、 サ変 動詞 の未 然形 と四 段動 詞の 已然 形に 接続 する 助動 詞で あり
、こ こで は直 前の
﹁重 なれ
﹂が 四段 動詞 の已 然形 であ るか ら、
﹁る
﹂は 本来
﹁り
﹂で あ ると わか る。 この 訳が 正し いの は、 完了 で訳 して いる
・2
と3
、存 続で 訳し てい る4
・5
。1
は﹁ る﹂ が訳 され てい ない
。こ こま でで 選択 肢は と3 4
に絞 られ る。
﹁あ はひ
﹂は
、﹁ 間﹂ の字 が当 たり
、一 般に は﹁ 間︵ あい だ︶
・間 柄︵ あい だが ら︶
・形 勢﹂ など の意 であ るが
、﹁ 色の 組み 合わ せ・ 配 色・ 調和
﹂な どの 意も 示す 名詞
。こ の﹁ あは ひ﹂ の意 味を 知っ てい れば
、正 解は と4
なる が、
﹁あ はひ
﹂は やや 難し い。
﹁あ はひ
﹂が わか らな い場 合 は、 傍線 部を 含む 第三 段落 前半 が、
﹁似 るも のな くめ でた し︵
=た とえ よう もな いほ どに 素晴 らし い︶
﹂、
﹁月 の光 のか かや き出 でた るや うな る御 有様
、 目も およ ばず
。︵
=月 の光 が輝 き出 たよ うな その 御様 子は
、正 視で きな いほ どに 美し い︶
﹂と
、﹁ 宮﹂ の見 た目 の美 しさ を言 って おり
、﹁ 艶も 色 もこ ぼる ばか りな る御 衣︵
=つ やや かさ も色 合い もこ ぼれ 落ち そう なほ どの 御着 物︶
﹂に
、﹁ 直衣
﹂が 重な って いる
﹁あ はひ
﹂が
、﹁ この 世の 人の 染 め 出だ した ると も見 えず
、常 の色 とも 見え ぬ︵
=こ の世 の人 が染 め上 げた もの とも 思わ れず
、あ りき たり な色 とも 見え ない
︶﹂ と、 色の 面で その 素晴 らし さが 語 られ てい るこ とを 根拠 にし て、
﹁あ はひ
﹂の 意味 は4
の﹁ 色 合い
﹂が よさ そう だと 考え たい
。 よっ て、 正解 は4
であ る。
正解
3
2
4
21
22
23
敬語
︵敬 意の 対象
︶の 問題 標準 波線 部
a
~
d
の敬 語︵ 奉る・給 ふ・ 侍る
・聞 こえ
︶は それ ぞれ 誰に 対す る敬 意を 示し てい るか
。そ の組 合せ とし て正 しい もの を、 次の
1
~
5
のう ちか ら一 つ選 べ。 まず
、敬 意の 対象 につ いて 確認 して おく
。 まと め
敬意 の対 象 尊敬
語 動作 の主 体︵ 主語
︶に 対す る敬 意を 示し てい る。 謙譲 語 動作 の受 け手
︵相 手︶ に対 する 敬意 を示 して いる
。 丁寧 語 話の 聞き 手に 対す る敬 意を 示し てい る。 会話 文中 の丁 寧語
その 会話 の聞 き手
︵会 話の 相手
︶に 対す る敬 意を 示し てい る。 地の 文の 丁寧 語
読者 に対 する 敬意 を示 して いる
。
a
﹁奉 る﹂ は、 謙譲 の補 助動 詞で ある
。謙 譲語 であ るか ら、 動作 の受 け手
︵相 手︶ に対 する 敬意 を示 す。
﹁入 れ奉 る﹂ は、
﹁宰 相﹂ が、 訪ね て来 た
﹁宮
﹂を 室内 へ﹁ 入れ る﹂ ので ある
。よ って
、﹁ 入れ 奉る
﹂は
、﹁ 宮﹂ が受 け手
︵相 手︶ であ るか ら、
a
の﹁奉 る﹂ は、
﹁宮
﹂に 対す る敬 意を 示し てい る こと にな る。
a
が 正し いの は1・2
・3
であ る。
b
﹁給 ふ﹂ は、 尊敬 の補 助動 詞で ある
。尊 敬語 であ るか ら、 動作 の主 体︵ 主語
︶に 対す る敬 意を 示す
。
b
を含 む会 話部 分は、宮 が庵 室を 訪問 した 理由 を﹁ 宰相
﹂に 述べ てい る箇 所で
、﹁ この ほど 尋ね 聞こ ゆれ ば、 この わた りに もの し給 ふな ど聞 きて
﹂は
、﹁ この 度︵ こち らの 山里 を︶ 訪ね 申し 上げ ると
、こ のあ たり にい らっ しゃ るな どと 聞い て﹂ とい う意 味で ある
。﹁ もの し﹂ は、
﹁あ り・ 行く
・来
﹂な どの 代わ りに 用い られ るサ 変動 詞﹁ もの す﹂ の連 用形 で、 ここ では
﹁あ り﹂ の代 わり とし て用 いら れて いる
。要 は、
﹁こ こに いる と聞 いて やっ て来 た﹂ と言 って いる ので ある
。こ の﹁ いる
﹂の 主 体と して 考え られ るの は﹁ 宰相
﹂か
﹁姫 君﹂ であ るこ とに なる が、 選択 肢に は﹁ 姫君
﹂は ない ので
、
b
の﹁ 給ふ﹂は
、動 作の 主体 であ る﹁ 宰相
﹂に 対
する 敬意 を示 して いる こと にな る。
b
が 正し いの は1・2
・5
であ る。
c
﹁侍 る﹂ は、 丁寧 の補 助動 詞で ある
。丁 寧語 であ るか ら、 話の 聞き 手に 対す る敬 意を 示す
。
c
を含 む会 話部 分は、
b
で見 た﹁ 宮﹂ の言 葉を うけ て、﹁宰 相﹂ が﹁ 御訪 問は 畏れ 多い
。尼 上が 重病 なの で最 期を 看取 ろう と、 ここ に籠 もっ てい た﹂ と返 事を して いる 場面 であ るか ら、 話し 手は
﹁宰 相﹂ であ り、 話の 聞き 手は
﹁宮
﹂で ある
。よ って
、
c
の﹁ 侍る﹂は
、﹁ 宮﹂ に対 する 敬意 を示 して いる こと にな る。
c
が 正し いの は1・3
であ る。
d
﹁聞 こえ
﹂は
、﹁ 申し 上げ る﹂ と訳 す、 謙譲 の本 動詞
。謙 譲語 であ るか ら、 動作 の受 け手
︵相 手︶ に対 する 敬意 を示 す。 ここ は、
﹁尼 上の 見舞 い に来 た﹂ とい う﹁ 宮﹂ の言 葉を 受け て、
﹁宰 相﹂ が、 部屋 の奥 へ行 って
、そ こに いる 人︵ 大病 で寝 てい る﹁ 尼上
﹂と 考え るべ き︶ に、
﹁か うか うの 仰せ 言こ そ侍 れ︵
=宮 から この よう な御 見舞 いの 御言 葉を いた だき まし た︶
﹂と 申し 上げ たの であ る。 よっ て、
﹁聞 こえ
﹂の 動作 の主 体は
﹁宰 相﹂
、動 作の 受け 手︵ 相手
︶は
﹁老 い人
﹇= 尼上
﹈﹂ であ るか ら、
d
の﹁聞 こえ
﹂は
、﹁ 老い 人﹂ に対 する 敬意 を示 して いる こと にな る。
d
が 正し いの は1・3
・ で5
ある
。 以上 から
、正 解は で1
ある
。 セン ター 試験 の問 は 多く は文 法問 題で
、数 年に 一回 のペ ース で敬 語に 関す る問 題も 出題 され てき たが
、二
〇二
〇年 度は 前年 度に 続い て、 二年 連続 敬意 の対 象の 問題 が出 題さ れた
。 正解
1
24
問内容 説明 の問 題 標準 傍線 部
A
﹁う らや まし く見 給へ り﹂ とあ るが
、宮 は何 に対 して うら やま しく 思っ てい るか
。そ の説 明と して 最も 適当 なも のを
、次 の
1
~
5
のう ちか ら一 つ選 べ。 傍線
部直 前の
、﹁ この かた のい とな みも
、こ の世 にて もつ れづ れな らず
、後 の世 はま たい と頼 もし きぞ かし
。こ のか たは 心に とど まる こと なれ ば﹂ は、
﹁こ うい う仏 教的 な面 の行 いも
、こ の世 でも たゆ むこ とな く熱 心に 行い
、︵ その ため に︶ 来世 もま たた いそ う︵ 極楽 往生 が︶ 期待 でき るこ とで ある よ。 この よう な仏 教的 な面 は︵ 宮と して も︶ 心に とま るこ とで ある ので
﹂と いう 意味 であ る。 二箇 所あ る﹁ かた
﹂は
﹁方
﹂の 字が 当た り、
﹁方 角・ 方 法・ 方 面﹂ など と訳 され る名 詞で
、こ こで は﹁ この かた
﹂で
﹁こ うい う方 面﹂ の意 であ るが
、最 初の
﹁こ のか た﹂ の直 前に 書か れて いる
﹁こ なた は仏
の御 前と 見え て~ から から と鳴 るほ ども
﹂は
、﹁ 手前 のほ うは 仏間 らし く、 ささ やか な閼 伽棚 があ って
、妻 戸や 格子 など も開 け放 して あり
、樒 の花 が 青々 と散 って
、︵ 誰か が︶ 花を お供 えし よう とし て、
︵花 を入 れる 器が
︶か らか らと 鳴る
︵の が聞 こえ る︶
﹂と いう 意味 で、 この 庵室 に住 まう 人が 熱心 に勤 行︵ 仏教 修行
︶し てい るこ とが 書か れて いる ので ある から
、﹁ この かた
﹂は
﹁こ うい う仏 教的 な面
﹂の 意と 考え たい
。宮 は、 自身 にと って も、 仏 教は
﹁心 にと どま るこ と﹂ なの で、 日々 仏教 的行 いに いそ しん でい ると 見え るこ の庵 室で の暮 らし ぶり を﹁ うら やま しく
﹂思 って 見て いる ので ある
。 よっ て、 この こと を正 しく 説明 して いる が3
正解 であ る。 は1
﹁極 楽浄 土の よう に楽 しく 暮ら す﹂ が誤 り。
﹁こ の世
﹂で 仏教 的行 いに 励め ば﹁ 後の 世︵ 来世
︶﹂ に極 楽往 生が 期待 でき ると は書 かれ てい るが
、 山里 の暮 らし 自体 が極 楽浄 土の よう だと は書 かれ てい ない
。 は2
﹁姫 君と 来世 まで も添 い遂 げよ うと 心に 決め てい る﹂ が本 文に なく
、う らや まし さの 対象 も﹁ 姫君 のそ ばに いる 人た ち﹂ では ない ので 誤り
。 は4
﹁来 世の こと を考 えず に暮 らす こと ので きる 姫君
﹂が 誤り
。宮 は、
﹁こ の世
﹂で この よう に仏 教的 行い に励 めば
﹁後 の世
﹂に 極楽 往生 が期 待で きる と感 じて いる ので ある
。こ の庵 室に 住む 人が
﹁来 世の こと を考 えず に﹂ 暮ら して いる とは 見て いな い。 また
、本 文中 に姫 君は 登場 して おら ず、 こ の仏 教に 熱心 な暮 らし ぶり をし てい る人 は、 庵室 の主 であ る尼 上で ある とす るこ とは でき ても
、姫 君に 限定 する こと はで きな い。 は5
、﹁ 自由 に行 動で きな い身 分で ある 自分
﹂が 本文 から は読 み取 れな い上 に、 傍線 部の 直前 に書 かれ てい るこ とを 全く 踏ま えて いな いの で、 誤り であ る。 正解
3
25
心情
︵傍 線部 の発 言を 生ん だ心 情︶ 説明 の問 題 応用 傍線 部
B
﹁つ てな らで こそ 申す べく 侍る に﹂ とあ るが
、尼 上は どの よう な思 いか らこ のよ うに 述べ たの か。 その 説明 とし て最 も適 当な もの を、 次 の
1
~
5
のう ちか ら一 つ選 べ。 登場
人物 の心 情は その 人の 会話 文や その 人が 詠ん だ和 歌に あら われ やす く、 ここ でも 尼上 の心 情は
、尼 上自 身の 会話 文、
﹁さ る者 あり と御 耳に 入り て~ かく 弱々 しき 心地 に﹂ から 読み 取る べき であ る。
﹁さ る者 あり と御 耳に 入り て~ かく 弱々 しき 心地 に﹂ は、
﹁そ のよ うな 者﹇
=重 病の 自分
﹈が いる と︵ 宮が
︶お 耳に なさ って
、︵ 私は
︶老 いの 果て に、
この よう に素 晴ら しい 御恵 みを こう むり まし たの で、
︵無 駄に
︶生 き永 らえ てお りま した この 命も
、今 は嬉 しく
、︵ 宮の 御見 舞い は︶ この 世で の︵ この 上な い︶ 名誉 であ ると 思わ れま す。
︵宰 相に
︶仲 介さ せる ので はな く︵ 直接 お会 いし て︶ お礼 を申 し上 げる べき でご ざい ます が、 この よう に衰 弱し た 状態 で︵ ござ いま すの で︶
﹂と 訳さ れる
。傍 線部
﹁つ てな らで こそ 申す べく 侍る に﹂ は、
﹁つ て﹂ が﹁ 人づ て﹂ の意
、﹁ で﹂ が﹁
~な くて
・~ ない で﹂ と訳 す打 消の 接続 助詞
、﹁ 侍る
﹂が
﹁~ です
・~ ます
﹂と 訳す 丁寧 の補 助動 詞で ある から
、﹁ 人づ てで はな くて 申し 上げ るべ きで すが
﹂、 つま り、
﹁直 接 申し 上げ るべ きだ が﹂ の意 であ る。 この 会話 文は
、﹁ 宮の 見舞 いは あり がた く、 生き てい てよ かっ た、 この 上な い名 誉で ある
。直 接お 会い して お礼 を 言う べき だが
、衰 弱し てい てで きな い﹂ と言 って いる ので ある
。 よっ て、 正解 は、 この こと を正 しく 踏ま えて 説明 して いる で5
ある
。 尼上 は姫 君に つい ては 一言 も言 及し てい ない ので
、1
の﹁ 姫君 と宮 との 仲を 取り 持っ て、 二人 をお 引き 合わ せ申 し上 げる べき だ﹂
、2
の﹁ この 折に 姫君 のこ とを 直接 ご相 談申 し上 げた い﹂ は誤 りで ある
。 の3
﹁宮 から 多大 な援 助を いた だけ る﹂ も、 その よう な事 実は 本文 には 書か れて おら ず、 当然
﹁つ てな らで
﹂の 意味 も﹁
︵援 助を
︶直 接お 受け 取り 申し 上げ る﹂ とい う意 味で はな い。 また
、尼 上は 仏道 につ いて も述 べて はい ない ので
、4
の﹁ 仏道 につ いて 直接 お教 え申 し上 げ﹂ も本 文か らは 読み 取れ ない
。 正解
5
26
問心情 説明 の問 題 標準 傍線 部
C
﹁笑 みゐ たり
﹂と ある が、 この 時の 女房 たち の心 情に つい ての 説明 とし て最 も適 当な もの を、 次の
1
~
5
のう ちか ら一 つ選 べ。
﹁こ の時 の女 房た ち﹂ の様 子は 第三 段落 冒頭 の﹁ 人々
、の ぞき て見 奉る に﹂ から
、傍 線部 直前 の﹁ げに
、姫 君に 並べ まほ しく
﹂ま でに 書か れて おり
、 その 内容 は、
﹁女 房た ちが
、宮 の姿 を覗 き見 する と、 月に 照ら され たそ の姿 はた とえ よう もな く素 晴ら しく
、宮 自身 が月 であ るか のよ うに 美し い。 着 てい る衣 の美 しい 色合 いも 見た こと がな いほ どで
、平 凡な 男さ えも 見馴 れて いな い女 房た ちに は、
﹃世 の中 には こん なに 素晴 らし い人 もい るの だな あ﹄ と思 われ
、皆 で褒 めそ やし てい る。 本当 に、 宮を 姫君 と夫 婦と して 並べ て見 たく 思わ れる
﹂と いう もの であ る。 特に
、傍 線部 直前 の﹁ 姫君 に並 べま ほ しく
﹂が
、﹁ 宮を 夫と して 姫君 に並 べて みた く﹂ の意 であ るこ とを 理解 しな くて はな らな い。
よっ て、 その 内容 を正 しく 説明 して いる が2
正解 であ る。 の1
﹁普 段か ら上 質な 衣裳 は見 馴れ てい る﹂
﹁姫 君の 衣裳 と比 べて みた い﹂
、3
の﹁ 以 上の
﹂﹁ 姫君 が宮 を見 たら きっ と驚 くだ ろう と想 像し
﹂、
4
の﹁ 仏道 に導 き、 姫君 とそ ろっ て出 家す るよ うに 仕向 ける こと がで きた
﹂、 の5
﹁こ れま で平 凡な 男と さえ 縁談 がな かっ た姫 君﹂
﹁宮 が釣 り合 うは ず がな いと あき れて いる
﹂は
、い ずれ も本 文に 書か れて いな かっ たり
、本 文の 内容 と合 致し なか った りし て、 誤り であ る。 正解
2
27
内容 説明
︵内 容合 致︶ の問 題 応用 この 文章 の内 容に 関す る説 明と して 最も 適当 なも のを
、次 の
1
~
5
のう ちか ら一 つ選 べ。
︵傍 線部 なし
︶ この
設問 は、 問い 方は 右の よう であ るが
、要 は内 容合 致問 題で ある
。 は1
、第 一段 落四 行目 の﹁ やを ら葦 垣の 隙よ り﹂ 以降 に相 当す る選 択肢 だが
、ま ず、
﹁美 しい 女性 の姿 を見 た。 この 人こ そ に聞 いて いた 姫君 に違 いな いと 確信 した
﹂が 誤り であ る。 宮は
、そ の庵 室に 住む 人の
﹁仏 事に いそ しむ
﹂生 活ぶ りは 見て いる もの の、 姫君 らし き人 の姿 は見 てい ない
。﹁ か の宰 相の もと なる 童べ
︵例 の宰 相の もと に仕 える 少女
︶﹂ を見 かけ て、
﹁こ こに や︵ やは り宰 相が 通う 姫君 の住 まい はこ こな ので あろ うか
︶﹂ と思 って いる だけ であ る。 また
、御 供の 兵衛 督を 仲介 とし て宰 相を 呼び 出し た宮 は、 尼上 の病 気を 気づ かう 旨な どを 話し てい て︵ 第二 段落
︶、
﹁す ぐ に
︵姫 君と の︶ 対面 の場 を設 ける よう に宰 相に 依頼 した
﹂わ けで はな い。 姫君 との 対面 を促 して いる 言葉 は、 帰り 際の
、﹁ かま へて
、か ひあ るさ まに 聞こ えな し 給へ
︵= 必ず
、甲 斐が ある よう に﹇
=姫 君の 気持 ちが 自分 に向 くよ うに
﹈申 し上 げて くだ さい
︶﹂
︵第 三段 落の 最後 の一 文︶ だけ であ る。 は2
、第 一段 落八 行目 の﹁ 御供 なる 兵衛 督と いふ を召 し給 ひて
︵御 供で ある 兵衛 督と いう 者を お呼 びに なっ て︶
﹂か ら第 一段 落の 最後 まで に相 当す る選 択肢 だが
、ま ず、
﹁宰 相は
、兵 衛督 を呼 んで
、ど のよ うに 対応 すれ ばよ いか 尋ね た﹂ が誤 りで ある
。本 文に よれ ば、 宮が 兵衛 督に 命じ て、
﹁宰 相の 君は これ にて 侍る にや
︵宰 相の 君が いる のは ここ でご ざい まし ょう か︶
﹂と 言わ せて
、宰 相を 呼び 出し たの であ る。 宰相 が兵 衛督 を呼 んだ り、 相談 を 持ち かけ たり した 事実 はな い。 また
、宰 相が 宮を 入れ た部 屋に つい ては
、﹁ 仏の かた はら の南 面︵
=仏 間近 くの 南向 きの 部屋
︶﹂ と書 かれ てい るだ けで ある
。﹁ 尼上 と姫 君が いる
﹂と は書 かれ てい ない
。第 二段 落の 内容 から 尼上 は奥 の部 屋に いる こと がわ かる が、 姫君 は本 文全 体を 通し て一 度も 登場 し てい ない
。
は3
、第 二段 落の 尼上 の会 話文
﹁さ る者 あり と御 耳に 入り て…
﹂か ら第 二段 落の 最後 まで に相 当す る選 択肢 だが
、ま ず、
﹁自 分の 亡き 後の こと を宮 に頼 んだ
。姫 君に つい ても 大切 に後 見す るよ う懇 願﹂ が誤 りで ある
。こ この 尼上 の会 話文
、﹁ さる 者あ りと 御耳 に入 りて
~か く弱 々し き心 地に
﹂は
、
﹁宮 の見 舞い はあ りが たく
、生 きて いて よか った
、こ の上 ない 名誉 であ る。 直接 お会 いし てお 礼を 言う べき だが
、衰 弱し てい てで きな い﹂ とい う内 容 であ る。
﹁亡 き後 のこ と﹂ や﹁ 姫君
﹂に つい ては 一言 も言 及し てい ない
。ま た、
﹁姫 君と の関 係が 自ら の望 む方 向に 進ん でい きそ うな 予感 を覚 えた
﹂も 誤り
。尼 上の 言葉 を伝 え聞 いた 宮に つい ては
、﹁ いと あら まほ しと 聞き 給へ り︵
=た いそ う好 まし い対 応で ある と思 って お聞 きに なっ てい た︶
﹂︵ 第二 段落 の最 後︶ と書 かれ てい るだ けで ある
。 は4
、第 三段 落に 相当 する 選択 肢で ある が、
﹁宮 はこ の静 かな 山里 で出 家し
、姫 君と とも に暮 らし たい と思 うよ うに なっ た﹂ が誤 りで ある
。第 三段 落で は、 宮の 様子 は、
﹁宮 は、 所の 有様 など
﹂以 降に 書か れて いる が、 その 内容 は、
﹁宮 は、 庵室 の様 子を 見て
、こ のよ うに 寂し げな 所で 姫君 が物 思い がち に暮 らし てい るの なら 気の 毒な こと だと 悲し み、 姫君 との 対面 をか なえ てく れる よう に宰 相に 促し て帰 った
﹂と いう もの であ る。 自身 の﹁ 出家
﹂ や﹁ 姫君 とと もに 暮ら した い﹂ とい う思 いに つい ては 全く 言及 して いな い。 は5
、ほ ぼ第 三段 落後 半に 相当 する 選択 肢で
、﹁ 宮は 山里 を~ 言い 残し た﹂ は、 で4
見た
﹁宮 は、 所の 有様 など
﹂以 降に 書か れて いる 宮の 様子 に合 致し てい て誤 りが ない
。ま た、
﹁女 房た ちは 宮の すば らし さを 思い
、そ の余 韻に ひた って いた
﹂も
、第 三段 最後 の﹁ 人々 も名 残多 くお ぼゆ
︵= 女房 た ちも たい そう 名残 惜し く感 じる
︶﹂ に相 当し てい て誤 りは ない
。﹁ 女房 たち は宮 のす ばら しさ を思 い﹂ は、 第三 段落 前半
﹁人 々、 のぞ きて 見奉 るに
~め でま どひ あへ り﹂ に書 かれ てい るこ とを 踏ま えて いて
、こ こに も誤 りは ない
。 よっ て、 正解 は5
であ る。 正解
5
28
問 漢 文
﹃ 文
もん選
ぜん﹄ ︵ 雑 詩 下 謝
しや霊
れい運
うん﹁ 田
でん南
なんに 園
えんを 樹
たて 、 流
ながれ を 激
げきし 援
えんを 植
うう ﹂
︶
出 典﹈
﹃文もん
選ぜん
﹄は
、六りく
朝ちよう 時代 の 梁りよう の 昭しよう 明めい
太たい
子し
︵五
〇一
~五 三一 年︶ が編へん
纂さん
した 詩文 選集
。全 六〇 巻。 周しゆう から 梁に 至る 約一
〇〇
〇年 間の 詩・ 文の 選集 で、 収 られ た作 品は 七六
〇編
、作 者は 一三
〇人 にの ぼる
。後 世、 文学 を志 す人 の必 読書 とし て広 く読 まれ
、日 本に も早 く伝 わり
、平 安時 代の 王朝 文学 に大 きな 響を 与え た。 謝しや
霊れい
運うん
︵三 八五
~四 三三 年︶ は、 六朝 時代 の宋そう
の詩 人。 名門 とし て知 られ た陳 郡陽よう
夏か
︵河 南省 太たい
康こう
県︶ の貴 族の 出身 で、 宮廷 文人 とし て重 用さ れた が、 負心 が強 く野 心家 で、 政治 面で の処 遇に は不 満が 多く
、不 遇で あっ た。 財力 にあ かせ て山 水に 遊歴 し山 水詩 人と して 知ら れ、 ほぼ 同時 代の 陶とう
淵えん
明めい
と並 び せら れる
。の ち、 謀反 の嫌 疑を 受け て広 州に 流さ れ、 処刑 され た。 六朝 時代 を代 表す る詩 人で ある
。 書き
下し 文﹈ 樵せう
隠いん
俱とも
に山やま
に在あ るも
由ゆ 来らい
事こと
同おな
じか らず 同おな
じか らざ るは 一いち
事じ に非あら
ず
痾やまひ を 養やしな ふも 亦ま た園ゑん
中ちゆう 園ゑん
中ちゆう 氛ふん 雑ざつ
を 屏しりぞ け
清せい
曠くわう 遠ゑん
風ぷう
を招まね
く 室しつ
を卜ぼく
して 北きた
の阜をか
に倚よ り
扉ひ を啓ひら
きて 南みなみ の江かは
に面めん
す 澗にが
をは
激せきと めて 井せい
に<く むに 代か へ
槿むくげ を挿う ゑて 墉かき に 列つらな るに 当あ つ 群ぐん
木ぼく
既すで
に戸と に羅つらな り
衆しゆう 山ざん
亦ま た窓まど
に対たい
す 靡び 迤い とし て下か 田でん
に 趨おもむ き
迢てう
逓てい
とし て高かう
峰ほう
を瞰み る 欲よく
を寡すく
なく して 労らう
を期き せず
事こと
に即そく
して 人ひと
の功こう
罕まれ
なり 唯た だ 蔣しやう 生せい
の径みち
を開ひら
き
永なが
く求きう
羊やう
の蹤あと
を懐おも
ふ 賞しやう 心しん
忘わす
るべ から ず
妙めう
善ぜん
冀こひね
はが
くは 能よ く同とも
にせ んこ とを
﹇通 釈﹈ 木こ りと 隠者 とは とも に山 に暮 らし ては いる が、
︵山 に暮 らす
︶理 由は 同じ では ない
。 同じ でな いの は一 事に 限っ たこ とで はな く、 都の 生活 で疲 れた 心身 を癒 やす のも この 庭園 のあ る住 居の 中。 この 住居 にあ って 俗世 のわ ずら わし さを 払い 除き
、清 らか で広 々と した 空間 は遠 く吹 き来 る風 を招 き寄 せる
。 家を 北方 の岡 を背 にし た地 に占 い定 め、 門扉 を開 けば 南を 流れ る川 が眼 前に ある
。 谷川 の水 を引 き込 んで 井戸 で水 を<
む代 わり とし
、む くげ の木 を植 えて 家の まわ りの 垣根 とす る。 多く の樹 木が 連な って 戸口 に迫 り、 山々 もま た窓 に向 きあ って そび えて いる
。 うね うね と連 なり 続く 道を たど って 下の 畑に 行き
、は るか 遠く の高 い峰 を眺 める
。 欲を すく なく して 苦労 は求 めず
、あ るが まま に従 って 人の 手は かけ 過ぎ ない
。 ただ 蔣しよう 詡く のよ うに 庭に 小径 を作 り、 いつ も求 仲や 羊仲 のよ うな 友が 訪ね てく れる こと を思 う。 美し い風 景を めで る心 を忘 れて はな らな い、 この 上な い幸 福を 友と とも にわ かち 合い たい もの であ る。
﹇解 説﹈ 問
語の 読み の問 題
基礎
基礎 波線 部
﹁俱
﹂・ ﹁ 寡﹂ のこ こで の読 み方 とし て最 も適 当な もの を、 次の 各群 の
1
~
5
のう ちか ら、 それ ぞれ 一つ ずつ 選べ
。 ﹁ 俱﹂ は、
﹁と もニ
﹂で ある
。﹁ 共・ 与・ 偕・ 同﹂ も﹁ とも ニ﹂ の読 み方 があ る。 正解 は5
。
﹁1
たま たま
﹂は
﹁偶
・会
・適
﹂。
﹁2
つぶ さに
﹂は
﹁具
﹂。
﹁3
すで に﹂ は﹁ 既・ 已﹂
。4
﹁そ ぞろ に﹂ は﹁ 漫・ 坐﹂ であ る。 ﹁ 寡﹂ は﹁ すく なシ
﹂と 読む 字で
、﹁ 少・ 鮮﹂ も同 じ。 対義 語は
﹁お ほシ
﹂で
、﹁ 多・ 衆・ 庶﹂ など
。い ずれ も、 漢文 の学 習上 の重 要語 であ る。 王 侯の 自称
・謙 称で ある
﹁寡くわ
人じん
﹂が
、﹁ 人徳 の 寡すくな い私
﹂の 意で ある こと で覚 えて おき たい
。正 解は
﹁3
すく なく して
﹂。
﹁1
いつ はり て﹂ は﹁ 偽・ 詐・ 佯﹂ など
。2
﹁つ のり て﹂ は﹁ 募﹂
。4
﹁が へん じて
﹂は
﹁肯
﹂。
﹁5
あづ けて
﹂は
﹁預
﹂。 正解
5
3
︵各 E点
︶
29
30
返り 点の 付け 方と 書き 下し 文の 組合 せ問 題 標準 傍線 部
A
﹁由 来 事 不 同、 不 同 非 一 事﹂ につ いて
、⒜ 返り 点の 付け 方と
、⒝ 書き 下し 文と の組 合せ とし て最 も適 当な もの を、 次の
1
~
5
のう ちか ら一 つ選 べ。 二〇 一八
・二
〇一 九年 度は
、書 き下 し文 と解 釈の 組合 せ問 題で あっ たが
、こ の、 返り 点の 付け 方と 書き 下し 文の 組合 せ問 題も
、頻 出の 形式 であ る。 ポイ ント は、 傍線 部の 中に
、再 読文 字や
、疑 問・ 反語
・否 定・ 使役
・受 身な どの 何ら かの 句法 上の 読み 方の 特徴 がな いか とい うこ とと
、書 き下 し文 のよ うに 読ん だと きの 文意 が通 るか
、ま た、 その 文意 が前 後の 文意 にあ ては まる かど うか
、で ある
。返 り点 は、 本当 はそ のよ うな 返り 方︵ 付け 方︶ が 文の 構成 上ア リな のか
? とい うこ とは ある ので ある が、 とも かく 読み 方ど おり 返っ てい るよ うに つい てい るケ ース がふ つう なの で、 返り 点の 付け 方 をチ ェッ クす るの は時 間の 無駄 であ る。 この
﹁由 来 事 不 同、 不 同 非 一 事﹂ では
、句 法上 のポ イン トは
、否 定の 基本 形の
﹁不
﹂と
﹁非
﹂、 いず れも 返読 文字 で、
﹁不
﹂は 活用 語の 未然 形か ら返 読し て、
﹁ず
﹂。
﹁非
﹂は 体言 ある いは 活用 語の 連体 形プ ラス
﹁ニ
﹂か ら返 読し て、
﹁あ らズ
﹂で ある
。
﹁不
﹂の 読み 方に つい ては
、ど の選 択肢 も間 違っ てい ない
。
﹁非
﹂は
、﹁
…に 非ず
﹂と 読ん でい るの は、 と2
の3
み。
・1
の5
よう に﹁ 非ひ とす る﹂ と読 むこ とも
、4
のよ うに
﹁非 を﹂ と名 詞に 読む こと も、 で きな くは ない が、
﹁… に 非ず
﹂と して いる 選択 肢が あり なが ら、 そう でな いの が正 解と いう こと はな いと 言っ てよ いで あろ う。 また
、前 半に も、 後半 にも
、﹁ 不同
﹂を
、﹁ 同じ から ず﹂ にし てい る選 択肢 と、
﹁同 じう せず
﹂に して いる 選択 肢の 配分 があ る。
﹁同 じか らず
﹂で あれ ば、
﹁同 じで ない
。異 なっ てい る﹂ の意 であ るが
、﹁ 同じ うせ ず﹂ であ れば
、﹁ 共通 しな い。 一致 しな い。 共有 しな い。 関与 しな い。 合わ せな い﹂ など の意 にな る。 前半 の、
﹁由 来事
︵= 木こ りと 隠者 が山 中に 暮ら して いる 理由 は…
︶﹂ との つな がり から 考え ると
、前 半部
・1
、2
後半 部2
・5
の﹁ 同 じか らず
﹂の ほう が適 当で ある
。 こう した ポイ ント が見 えな い場 合は
、書 き下 し文 のよ うに 読ん だと きの 文意 が通 るか
、文 脈に あて はま るか をチ ェッ クす るこ とに なる が、 文意 が通 るの も、 文脈 にあ ては まる のも
、2
﹁由 来、 事は 同じ から ず、 同じ から ざる は一 事に 非ず
︵= 山に 暮ら す理 由は 同じ では ない
。同 じで ない のは 一事 に限 った こと では ない
︶﹂ しか ない
。 正解
2
︵H 点︶
31
問
詩中 の四 句の 情景 の読 解の 問題 応用 傍線 部
B
﹁卜
㆑室 倚㆓
北 阜㆒
、啓
㆑扉 面㆓
南 江㆒
、激
㆑澗 代㆑
<㆑
井、 挿㆑
槿 当㆑
列㆑
墉﹂ を模 式的 に示 した とき
、住 居の 設備 と周 辺の 景物 の配 置と して 最も 適当 なも のを
、次 の
1
~
4
のう ちか ら一 つ選 べ。 詩句 に描 かれ た情 景︵ 住居 の設 備と 周辺 の景 物の 配置
︶を 図で 答え ると いう
、非 常に 珍し い形 式が 出た
。セ ンタ ー試 験と して の最 終年 度に 突如
﹁新 傾向
﹂と いう のも どう かと 思わ れる が、 次年 度以 降の
﹁共 通テ スト
﹂に 向け たメ ッセ ージ もあ るの かも しれ ない
。 見な れな い形 で、 一瞬 面食 らう が、 要は
、傍 線部
B
の 読解 の問 題で ある。
﹁室 を卜ぼく
して 北の 阜をか
に倚よ り﹂ は、
﹁家 を北 方の 岡を 背に した 地に 占い 定め
﹂と いう 意味 であ る。 この 点は
、選 択肢
~1 4
はい ずれ も間 違い はな い。 図で は、 上方 が北 とい うこ とで ある
。
﹁扉ひ を啓ひら
きて 南の 江かは
に面 す﹂ は、
﹁門 扉を 開け ば南 に流 れる 川に 面し てい る﹂ とい うこ とで ある から
、川 の位 置は
1
~4
いず れも 正し い。 ポイ ント は﹁ 扉を 啓き て﹂ であ る。 南を 流れ る川 に﹁ 扉を 啓﹂ いて いる のは
、2
と3
であ る。
・1
は4
、南 に門 がな く、 東に ある
。
﹁ 澗たにが
をは
激せきと めて 井せい
にく むに 代へ
﹂は
、﹁ 谷川 の水 をせ きと めて
︵引 き︶ 井戸 で水 を<
むか わり とし
﹂で ある から
、庭 に井 戸が ある
・1 3
は間 違い
。 図で は左 の川 から 水を 引い てい る2
・4
が正 しい
。
﹁槿むくげ
を挿う ゑて 墉かき
に 列つらな るに 当あ つ﹂ は、
﹁む くげ の木 を植 えて 家の まわ りの 垣根 とす る﹂ の意
。木 を植 えた 垣根 にな って いる のは
1
・2
。3
・4
は土 塀の よう にな って いる
。 よっ て、 正解 は2
であ る。 正解
2
︵H 点︶
32
問詩中 偶数 句末 の空 欄補 入問 題 標準 空欄
C
に入 る文 字と して 最も 適当 なも のを、次 の
1
~
5
のう ちか ら一 つ選 べ。 詩の 中の 偶数 句末 の空 欄補 入問 題は 押おう
韻いん
の決 まり の問 題で ある
。 一般 に押 韻は
、絶ぜつ
句く や律りつ
詩し など の近 体詩 の決 まり とし て学 んで いる が、 長い 古体 詩で も、 偶数 句は 韻を ふむ
。判 断と して は、 日本 語の 音よ みで 母音