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300 化学と生物 Vol. 54, No. 5, 2016

揮発性成分プロファイリングで香りのより良い農産物を育種する

育種効率化を目指す香気成分マーカーの探索

近年,スーパーマーケットの野菜売り場ではバラエ ティに富んだ品種が販売されており,消費者の購入選択 肢の広がりが感じられる.これら品種の充実はブリー ダーによる品種交配の苦労のたまものであるが,品種選 抜には対象作物への莫大な知識を要求されるだけでな く,数万〜数十万に及ぶ交配組み合わせから候補を絞っ ていくため長い年月を必要とする.そのため,育種の効 率化を目的とした研究はさまざまな分野で行われている が,本稿では成分分析をメインとする品質評価を担う研 究者の立場からニンジン(  L.)を題材と して,新しい育種の方向性や可能性について議論した い.

ニンジンは独特の香味を有するアフガニスタン原産の 野菜であり,日本では北海道や千葉県,徳島県などで約 60万トン(2013年)が生産されている.ニンジンの育 種は20世紀の早い時期から日本を含め世界各地で盛ん に行われている(1).ニンジンに限らず農産物の育種戦略 は,病害抵抗性と多収量性が第一義であるが,近年では 栄養素や見た目,あるいは風味といった品質面にフォー カスした品種選抜もなされてきている.なかでも味や香 りは消費者の嗜好に直接的にかかわることから非常に重 要な因子といえる.ここで,もしニンジンの香りに強い 影響を与える香り成分を把握することができれば,成分 マーカーとして含量を基に選抜をすることが可能とな る.そこで本稿では官能評価により数値化したニンジン の香りと成分測定値との関連性を見いだす(図1,新 しい農産物の育種への活用方法について紹介したい.

代謝物プロファイリング手法(メタボロミクス)は対 象サンプルの成分を網羅的に観察することができ,医 療・環境・エネルギー・食品といったさまざまな分野で 用いられている(2).一方,農産物や食品の香りは単一の 香り成分ではなく多くの揮発性成分の絶妙なバランスを 基にして,その香りたらしめていることがわかってお り,より多くの成分を解析対象とすることが望まれる.

よって,今回は複数品種のニンジンの揮発性成分を対象 としてガスクロマトグラフ質量分析計(GC/MS)を用 いたメタボロミクス手法により成分を網羅的に分析・解 析し,香りに強く貢献する成分を探索した.揮発性成分 のサンプリング方法は古くから用いられている溶媒抽出 法や蒸留法などが挙げられるが,筆者らはTwister(ゲ ステル)を用いたヘッドスペースサンプリング法を用い た(3).この方法は試料を設置したヘッドスペース(密閉 空間)において,吸着液相であるジメチルポリシロキサ ン(PDMS)をコーティングした撹拌子であるTwister を一定時間暴露した後,GC試料注入部に直接Twister を挿入し,吸着した成分を熱脱着することにより分析す る.ここで,PDMSは無極性成分と強度な親和性を示 すが,ニンジンの主要な揮発性成分であるテルペン炭化 水素類も低極性であるため高効率な成分収集が可能であ り,より実際の香りに近い成分情報が得られることが期 待できる.これによりモノテルペン・セスキテルペンを 主とした43の揮発性成分が定性・定量され,解析対象 とした.

一方,目的変数である香りの官能評価はトレーニング

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化学と生物 Vol. 54, No. 5, 2016

を受けた複数のパネルにより行った.近年は科学的な議 論に耐えうるさまざまな官能評価法が開発されている が,今回は特徴を項目化し,定量的に評価する定量的記 述分析法(QDA法)を用いた(4).結果としてパネルの 合意により8つの言葉がニンジンの香りを特徴づける項 目として抽出された.これらすべての項目について官能 評価を実施したところ,7つの特性について品種間にお ける有意な差( <0.05)が検出された.

本研究の目的はニンジンの香り特性に対して貢献度の 高い成分を探索することであるため,香りの評価値を目 的変数,成分分析結果を従属変数としてPLS回帰分析 を行った.PLS回帰分析は重回帰分析などと同じ多変量 回帰分析の一手法であるが,変数間の相関や変数の項目 数などに制約がある重回帰分析と異なり適用範囲の広い 強力な解析法である.実際にPLS回帰分析によりそれ ぞれの香りの官能評価値( )と43の揮発性成分定量値

( )の関連性について解析した結果,8つの項目のうち

「インクのような」香りが最も高い関連性が得られた.

ちなみに「インクのような」香りは「全体的なニンジン 臭さ」と強い相関がある項目であり いわゆるニンジン 臭さ と近いイメージを持ってもらっても実験結果との かい離は大きくない.

では,測定した43の揮発性成分の中でどれが「イン クのような」に寄与の高い成分なのであろうか.PLS回 帰分析の結果から香りへの貢献度を数値化した結果,サ ビネンや酢酸ボルニルなどの主にモノテルペン類が高く 寄与していることが明らかとなった(表1.すなわち,

これらの成分をマーカーとしてモニタリングすれば,育 種途中の交配産物に対してもある程度「インクのよう な」香りを予測することができることが明らかとなっ た.今回は紙面の関係上,「インクのような」について のみ記載したが当然同じ方法でほかの香り項目の強度と 関連づけることが可能である.

本稿では成分分析をいかに農産物の育種へ活用するか 図1複数品種のニンジンに対して,香りの 官能評価と揮発性成分のGC/MS分析を行う その後2つのデータを多変量解析により関連性 を見いだし,高度貢献成分を探索する   

表1「インクのような」香りに対する貢献成分

成分 貢献度(VIP値)

サビネン 2.901

ボルニルアセテート 2.372

テルピノレン 2.171

β-ミルセン 2.078

γ-テルピネン 1.814

Volatile̲24 1.399

α-テルピネン 1.276

β-ピネン 1.174

ボルネオール 1.062

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ということについて紹介した.本研究により官能評価に よって得られた香り特性を指標として成分マーカーとな りうる高度寄与成分を見いだしたが(5),指標は定量的な データであればいかなる形質に対しても適応が可能であ る.実際に農業王国オランダでは育種現場での活用を目 論み,トマトの香りに対して成分を特定しDNAマー カーに落とし込んだ報告も見られる(6).このようなツー ルの開発は莫大な種類の交配組合わせに対する官能評価 にかかる労力を低減することから,育種の効率化にも貢 献できる可能性を有する.近年のライフスタイルの複雑 化に伴い,食料消費は量的拡大から質的向上へシフト し,ますます食の価値観に対する高度化・多様化が求め られていくと考えられる.社会ニーズが目まぐるしく変 わる中で,本研究が未来の新しい食品素材を提供する農 産物の育種における効率化・迅速化に向けた取り組みに 対して役立てられれば幸いである.

  1)  P. W. Simon:  Plant Breeding Reviews 19: Domestication,  historical development, and modern breeding of carrot.  

Wiley, 2000, pp. 157‒190.

  2)  O. Fiehn:  , 48, 155 (2002).

  3)  B. Tienpont, F. David, C. Bicchi & P. Sandra: 

12, 577 (2000).

  4)  M. Meilgaard, G. V. Civille & B. T. Carr: “Sensory evalu-

ation techniques, fourth edition.” CRC Press Inc., 2006.

  5)  T.  Fukuda,  K.  Okazaki  &  T.  Shinano:  , 78,  S1800 (2013).

  6)  Y. Tikunov, J. Molthoff, R. C. de Vos, J. Beekwilder, A. 

van  Houwelingen,  J.  J.  van  der  Hooft,  M.  Nijenhuis-de  Vries, C. W. Labrie, W. Verkerke, H. van de Geest  : 

25, 3067 (2013).

(福田朋彦,ホクレン農業総合研究所)

プロフィール

福田 朋彦(Tomohiko FUKUDA)

<略歴>2004年北海道大学理学部化学科 卒業/2006年同大学大学院理学研究科化 学専攻修士課程修了/同年ホクレン農業協 同組合連合会 農業総合研究所,現在に至 る.2014年博士(農学)取得(北海道大 学)<研究テーマと抱負>代謝物プロファ イリング,官能評価,代謝物プロファイリ ングの技術をベースとした研究を農業,食 品産業へ役立てる.さらに農や食に対し て,少しでも興味を高めてもらえるような 研究活動をしていきたい<趣味>野球談 議,TVの旅番組,息子と飼い猫の相手,

カラオケ,ももクロ

Copyright © 2016 公益社団法人日本農芸化学会 DOI: 10.1271/kagakutoseibutsu.54.300

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