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水が食品の物理的性状変化に及ぼす影響 - J-Stage

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540 化学と生物 Vol. 54, No. 8, 2016

水が食品の物理的性状変化に及ぼす影響

澱粉含有食品の品質制御

水は食品の構成成分の一つであり,食品の物性を支配 する.乾燥食品においては微量成分でありながらも,食 品の物性に対しては大きな存在感を発揮する.食品の物 性,ならびに品質を制御するうえで,食品と水との相互 作用を理解することは必要不可欠である.このような見 解は,水との親和性が高い炭水化物を主成分とした食品 に対して,とりわけ大きな意義をもつ.本稿では,澱粉 含有食品の物理的性状変化における水の役割について解 説するとともに,品質設計への利用を紹介する.

澱粉の主成分はアミロペクチンである.アミロペクチ ンはグルコースの房状高分子であり,天然状態では結晶 質(ダブルヘリックス)部分と非晶質(アモルファス)

部分が混在した半結晶性高分子として存在する.澱粉に 水を加えて加熱すると,アミロペクチンの結晶質部分は 融解するとともに,水和・膨潤する.これは一般に 糊 化 と呼ばれる.糊化は澱粉の種類によって若干異なる が,おおよそ50 C程度より開始する.多くの澱粉含有 食品は澱粉が糊化するのに十分な水を含んでおり,加熱 加工過程で糊化する.アミロペクチンの融解は,水分含 量が少ない環境でも起こりうる.この場合,融解温度は 水分含量の低下とともに上昇する.たとえば,水分含量 を30%に調節した小麦澱粉の場合,アミロペクチンの 融解温度は100 C程度となる.水分含量が少ない澱粉含 有焼成食品の場合,焼成過程において水分蒸発と温度上 昇とが同時に進行する.このとき,水分蒸発に伴う融点 上昇が温度上昇を上回った場合,アミロペクチンは融解 を免れる.

こうした見解は澱粉(アミロペクチン)と水との単純 な混合物などを対象とした基礎研究を通じて導かれたも のであり,組成が複雑な加工食品における定量的な知見 は乏しい.その理由の一つとして,実験結果の解釈が困 難なことが挙げられる.たとえば,澱粉の融点は示差走 査熱量計(DSC)によって決定できるが,多成分系試料 では各成分の熱応答が連続的に検出されるため,結果は 不明瞭となる.一方,澱粉の偏光顕微鏡観察により,結 晶性を意味する偏光十字の有無から澱粉の融解を判定す ることができる.筆者らは,クッキー生地(薄力粉,砂 糖,バター,卵の混合物)を試料とし,DSC測定と偏

光顕微鏡観察とを併用(DSCによる昇温測定を注目す るピークの前後で停止し,回収した試料を偏光顕微鏡で 観察)することで,クッキー生地における澱粉の融点を 明らかにした(1)

.また,減圧乾燥によってクッキー生地

の水分含量を調節し,それらの融点を調べることで,融 解曲線(融点の水分含量依存性)を得た(図

1

.澱粉

のみでの結果との比較により,クッキー生地中では澱粉 の融点は引き下げられることがわかった.これは,水以 外の親水性低分子(ショ糖など)が可塑剤として作用し た結果と考えられる.

焼成過程におけるクッキー生地の温度および水分含量 の経時変化を調べ,図1にプロットすることで,そのと きの澱粉の融解挙動を知ることができる.筆者らが採用 した実験系では,クッキー生地の温度は焼成直後に温度 上昇し,澱粉の融解曲線を上回ること,すなわち,澱粉 は融解する(非晶質になる)ことがわかった(図1:通 常の焼成過程)

.非晶質は結晶質よりも物理的に不安定

であり,化学反応に優れる.澱粉の場合,融解すると分 解酵素の作用を受けやすくなり,体内では速やかにグル コースへと変換される.一方,未融解(結晶質)澱粉は

図1クッキー生地における澱粉の融解曲線およびクッキーの ガラスラバー転移温度( g)曲線

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化学と生物 Vol. 54, No. 8, 2016

分解酵素の作用に耐性をもつため,体内ではゆっくりと 分解される,あるいは分解されないという性質をもつ.

クッキーにおいても,澱粉の融解曲線を超えない焼成方 法を採用すれば,未融解澱粉を増加させることが可能で あり,それによって澱粉の消化遅延効果が期待される.

筆者らは澱粉の融解曲線を踏まえて,減圧乾燥によって あらかじめクッキー生地の水分含量を低下させてから

(澱粉の融点を上昇させてから)焼成する方法(図1:

予備乾燥焼成過程)や焼成温度を澱粉の融点以下に保ち つつ,水分蒸発に伴う融点上昇とともに焼成温度を上げ ていく方法(図1:昇温焼成過程)を採用することで,

澱粉の融解を完全に回避したクッキーが得られることを 確認した(2)

.また,澱粉の融解を完全に回避したクッ

キーは,通常のクッキーと比較して,澱粉の酵素分解速 度が低下すること,マウスにおける食後血糖値のピーク 値が有意に低下することなどを確認した(3)

.これらの結

果は,食品に特定の機能性成分を添加することなく,加 工条件を適切に設定することで,新たな機能性を付与で きる可能性を示すものである.

未融解澱粉は口腔内においてザラザラとした感覚を与 えるため,柔らかい食感を呈する高水分系澱粉含有食品 に未融解澱粉を共存させることは望ましくない.一方,

クッキーのようにサクサクした食感を呈する低水分系澱 粉含有食品においては未融解澱粉がもたらす違和感は少 なく,食品として十分に受け入れられるものとなる.こ のサクサクとした食感は,焼成過程において融解した ショ糖や澱粉の非晶質部分が,放熱過程で冷え固まるこ とによって生み出される.このとき,クッキーにはガラ ス‒ラバー転移が起こっている.ガラス‒ラバー転移は非 晶質材料が示す状態変化の一つであり,ガラス‒ラバー 転移温度( g)を境とする.ガラス状態(

g)で は巨視的な分子運動性は見かけ上凍結しており,弾性率 が非常に高い(硬い)

.この状態から温度が上昇して

g

を上回ると,分子運動性が回復して柔らかい粘弾性体,

すなわちラバー状態になる.澱粉やショ糖などの親水性 成分の場合, gは水分含量の増加によって低下するた め(水の可塑効果)

,ガラス‒ラバー転移は一定温度でも

起こりうる.たとえばクッキーの場合,焼成直後は常温 でガラス状態にあるため,サクサクとした食感を呈する が,保存過程で吸湿し, gが常温以下になる(ラバー 状態になる)と,グニャグニャとした食感になる.混合 系の gは構成成分の gによって支配されるため, g

の高い成分を加えれば,混合系の gも上昇する.クッ キーの場合, gを引き上げることで吸湿耐性を高める ことが, gを引き下げることで,低水分でありながら 柔らかい食感を呈するクッキー(ラバー状態のクッ キー)を作り出すことが,それぞれ可能になる.

ガラス‒ラバー転移に基づく技術戦略をクッキーに採 用するには,その g曲線( gの水分含量依存性)を理 解する必要がある.一般に非晶質材料の gはDSCに よって決定されるが,ガラス転移に伴う熱応答は融解な どの一次転移と比べると非常に小さく,多成分系での複 雑な熱応答から gを読み解くことは困難である.筆者 らはレオメーターに温度制御装置を取り付けた測定シス テムにより,ガラス転移に伴う軟化を読み取る方法を考 案した.これにより,クッキーの g曲線を決定するこ とに成功した(図1)

.また,クッキーに用いるショ糖の

一部を, gの高いトレハロースや gの低いソルビトー ルに置き換えることで,クッキーの g曲線を制御可能 なことを確認した(4)

.これらの結果は

gによって食品の 保存性や食感を設計できることを示すものである.

以上,本稿では澱粉含有食品における物理的性状変化 とその利用について,融解とガラス‒ラバー転移を中心 に紹介した.このほかに澱粉の再結晶化(老化)

,アミ

ロースの複合体形成とその融解,凍結濃縮によるガラス 転移などの物理的性状変化が食品の品質に影響を及ぼす ものとして知られている.これらもまた温度と水分含量 とが支配する現象であり,その解明には本稿で述べたも のと同様のアプローチが有効と考えられる.

  1)  K.  Kawai,  H.  Kawai,  Y.  Tomoda,  K.  Matsusaki  &  Y. 

Hagura:  , 135, 1527 (2012).

  2)  K. Kawai, K. Hando, R. Thuwapanichayanan & Y. Hagu-

ra:   (Campinas.), 66, 384 (2016).

  3)  K.  Kawai,  K.  Matsusaki,  K.  Hando  &  Y.  Hagura: 

141, 223 (2013).

  4)  K.  Kawai,  M.  Toh  &  Y.  Hagura:  , 145,  772  (2014).

(川井清司,広島大学大学院生物圏科学研究科)

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542 化学と生物 Vol. 54, No. 8, 2016 プロフィール

川井 清司(Kiyoshi KAWAI)

<略歴>1999年東京水産大学水産学部食 品生産学科卒業/2005年同大学大学院水 産学研究科食品生産学専攻博士後期課程修 了/同年食品総合研究所研究員/2007年 東京工科大学バイオニクス学部バイオニク ス学科助教/2008年広島大学大学院生物 圏科学研究科講師/2013年同准教授,現 在に至る<研究テーマと抱負>食品の物理 的 性 状 変 化(融 解,結 晶 化,ガ ラ ス‒ラ バー転移,包摂複合体形成など)につい て,温度,圧力,水分含有量などの因子に 着目し,その解明に取り組んでいる.学術 的な研究だけでなく,食品開発の現場で役 立つ実用的な研究の進展にも努めたいと考 えている<趣味>仕事,酒,想像<所属研 究 室 ホ ー ム ペ ー ジ>http://home.hiroshi- ma-u.ac.jp/hife2cre/index.html

Copyright © 2016 公益社団法人日本農芸化学会 DOI: 10.1271/kagakutoseibutsu.54.540

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セミナー室 食品加工の科学と工学―小麦粉製品を例として-5 小麦粉製品の内部構造と食感の評価 西津貴久 岐阜大学応用生物科学部 小麦粉製品は,麺類を除いて,パン,スポンジケー キ,クッキーや天ぷらの衣など,多孔質構造をもつもの が多い.空隙に存在している気体(空気)の物性は,小 麦粉を主体とした食材本体の物性と大きく異なる.この