• Tidak ada hasil yang ditemukan

食品用ゲルの破壊による香気成分のリリース - J-Stage

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2023

Membagikan "食品用ゲルの破壊による香気成分のリリース - J-Stage"

Copied!
3
0
0

Teks penuh

(1)

15

化学と生物 Vol. 53, No. 1, 2015

食品用ゲルの破壊による香気成分のリリース

食品テクスチャーと香料化学の接点

日本は,高齢社会を迎えて咀嚼・嚥下に支障がないよ うなゲル状食品に関心がもたれている.高齢者が食事中 の誤嚥により,重篤な肺炎(誤嚥性肺炎)を起こすケー スが少なくないからである.また,自然災害などにより 現場で特に調理を必要とせず,比較的長期間保存が可能 な非常食にも関心が寄せられている.このような背景の もとで,ゲル状食品は,栄養的に優れているのみならず

「おいしさ」も求められている.食品ゲルを咀嚼するこ とを前提としてゲルを破壊したときに,味物質や香気成 分が口腔内に放出,放散される現象をフレーバーリリー スと言う.フレーバーリリースの研究は,分野が異なる 専門家と共同で研究を行う必要があると考えられる.こ こでいう異分野とは,多糖やタンパク質ゲルのテクス チャーに関する研究,ゲル内を食塩やショ糖などが拡散 する現象を物理的に解析する研究,咀嚼や嚥下に伴い,

口腔内の舌や喉頭・咽頭にある筋肉の動きと食塊(咀嚼 によって食べ物が唾液と混ざり合いながらある程度の大 きさに分解されて嚥下できるようになった食べ物の塊 り)が移動する現象を口腔生理学的に解明する研究,さ らに味覚・嗅覚など官能評価に関する研究を専門とする 人たちが連携して研究を行うことによって相互の理解を 深め複合的,統合的に研究を進めることが重要であると 考えられる.食品物性学が専門である西成勝好教授(大 阪市立大学名誉教授,湖北工業大学教授)らのグループ は食品用ゲルのテクスチャーとフレーバーリリースの関 係について研究を行っている.筆者は食品用ゲルを破壊 したときにリリースされる香気成分について,主に GCMSを用いて実験を担当する機会を得た.これまで ゲル物性の研究と香気成分の研究は,それぞれ独立して 研究が行われてきたので両者の間にほとんど交流がな かったと言えよう.しかし咀嚼・嚥下の過程におけるフ レーバーリリースの現象では,両者は密接に関係してい る.一例を挙げると,ゲルを咀嚼したときにゲルの破壊 により食塊(ゲルの破片)ができるが,ゲルの物性によ り食塊の大きさや形状が異なる.したがって,破壊され て生じたゲル小片の大きさやその分布,小片全体の表面 積が,味物質や香気成分のリリースに著しい影響を与え ることになる.つまり,ゲルの物性がフレーバーリリー

スをコントロールする大きな要因の一つである(1)(図

1

フレーバーは,風味成分とも言われるが,一般的には 味物質と香気成分を指すことが多い.代表的な甘味物質 であるショ糖を寒天に添加した場合のリリースについ て,西成らは寒天ゲルをテクスチャーアナライザー

(TA.XT Plus)を用いて一軸圧縮などの力学的測定を行 うと同時に,リリースされたショ糖を高速液体クロマト グラフィー(HPLC)と屈折率計(糖度計)を用いて定 量分析している.ゲル中のショ糖濃度が40%以上では,

興味深いことに,先にショ糖を溶解させてから寒天を加 えた場合のほうが,寒天を先に溶解させてから後でショ 糖を加えた場合よりも,ゲルを破壊したときにショ糖の リリース量が多いことを見いだしている(2)

.次に香気成

分のフレーバーリリースについて実験を行う上での問題 点について述べる.一つには,香気成分は一般的に疎水 性分子が多いため水にほとんど溶解しない.したがっ て,寒天のようなハイドロコロイドゲルに添加するに は,少量のエタノールに溶解してから水で希釈するか,

または界面活性剤の存在下でゾル状態の寒天に添加しな ければならない.このときに注意すべきことは,当然の ことながら香気成分は揮発性物質であるので,寒天を溶 解した温度約95 Cで香気成分を添加するとすぐに揮散 するか,または酸化や熱分解が起きてしまう.したがっ

図1食品用ゲルの物性・テクスチャーとフレーバーリリース の関係

今日の話題

(2)

16

化学と生物 Vol. 53, No. 1, 2015

て,筆者はゲルが固化しないうちに65 Cで香気成分を 添加して均一に分散させ,密封したホモジナイズ用 チューブ内でゲル化させた後にフレーバーリリースを測 定した(3)

.また,テクスチャーも測定するため同様にゲ

ルを調製して一晩,冷蔵庫(8 C)で保管した.ゲル形 成時の冷却速度が最終的なゲルの網目構造に影響を与え るので,冷却速度が一定になるようにする注意が必要で ある.また,保存時間が長くなるとシネレシスなどによ り構造が変化することにも留意する必要がある.寒天ゲ ルでは,香気成分が取り込まれた多糖(アガロース,ア ガロペクチン)の網目構造(マトリクス)が,冷却速度 によって変化するためであろうと考えられる.このゲル 構造の違いが,テクスチャーおよびリリースに大きな影 響を与える.筆者は,各種の香気成分についてリリース 率を測定した結果から,揮発性成分とゲル素材の組合せ が重要であると考え,これを明らかにするために実験 データを蓄積している.たとえば,代表的なゲル化剤と してタンパク質であるゼラチンや多糖類の寒天が使用さ れている.食品素材の影響により,pHが酸性であれば ゼラチンはゲル化しないので使用されない.それに対し て,寒天はアガロースとアガロペクチンが加水分解され ない範囲の酸性条件で,フルーツなどを含むゲル状食品 をつくるのに使用される.しかしながら,フルーツや香 気成分の種類によっては寒天ゲルからのフレーバーリ リースがかなり抑制されているという知見をGCMS分 析により得ている.フレーバーリリースの抑制現象を官 能評価により論じることも可能であろうが,まず化学的 に香気成分とゲルマトリクスとの相互作用やゲル化過程 で香気成分が分解または酸化劣化する現象を解析するこ とが重要であると考えている.現在,香気成分を含むゲ ル状態でNMRスペクトルを測定する実験に取り組んで いる.ゲル状食品の場合は,水溶液や乳化状態の飲料と は異なる視点と方法論からフレーバーリリースを評価す ることが必要である.

実験方法に関する2つ目の問題点は,リリースされた 揮発成分をGCMSで分析するためのサンプリングの方 法である.通常,ガスのサンプリングは固相マイクロ抽 出(Solid Phase Micro Extraction; SPME) が 行 わ れ る.しかし,寒天などのゲルからリリースされる微量の 香気成分を同定・定量するためには,このときに使用さ れている固相の材質別に,目的対象とする食品由来の多 様な香気成分について,少なくとも香りの特徴づけに大

きく寄与するKey compoundについては回収率を前 もって測定しておくことが必要であろう.固相に使用さ れている材質によって目的対象とする揮発物質の回収率 に か な り 差 が あ る.ま た,加 熱 脱 着 法(Thermal  Desorption Method)では,250 C程度の加熱によって 揮発成分をリリースさせてからMSで分析することが多 いので,揮発成分が熱分解する程度を調べておくことも 必要である.

さらに での実験,すなわち実際に咀嚼して口 腔や鼻腔から揮発成分をサンプリングして分析する方法 にも関心がもたれる.なぜなら,咀嚼中に感知する香り は前鼻孔からの香り(orthonasal aroma)よりも後鼻孔 からの香り(retronasal aroma)のほうが重要であるか らである.したがって,咀嚼中に鼻腔から揮発成分をサ ンプリングして,大気圧下でリアルタイムに分析するた めには,大気圧化学イオン化質量分析(Atmospheric  Pressure  Chemical  Ionization  Mass  Spectrometry; 

APCI-MS)が優れていると言えるだろう.しかし,大 気圧下で揮発成分をイオン化して効率よく質量分析計に 取り込むことは容易ではない.最近,工藤らは直接質量 分析法と飛行時間型質量分析法を組み合わせた方法

(Direct Analysis in Real Time‒Time of Flight‒Mass  Spectrometry; DART-TOF-MS)に新規デバイスを導入 した高感度な分析法を報告した(4)

.機器分析の技術は日

進月歩であるが,これらの方法論をいかにしてゲル状食 品のフレーバーリリースを向上させる研究に活用するか が,農芸化学的な立場からは重要課題と言えるであろ う.

  1)  K.  Nishinari: “Food  Polysaccharides  and  Their  Applica- tions,” 2nd ed., ed. by A. M. Stephen, G. O. Phillips & P. 

A. Williams, Taylor & Francis, New York, USA, 2006, p. 

541.

  2)  K. Yang, Z. Wang, T. Brenner, H. Kikuzaki, Y. Fang & 

K. Nishinari:  , 43, 100 (2015).

  3)  山田恭正:香料,259, 45 (2013).

  4)  Y. Kudou, T. Sagawa, T. Nishiguchi & K. Kinoshita: 62nd  American Society for Mass Spectrometry (ASMS) Annual  Conference, Abstract, 2014, p. 838.

(山田恭正,同志社女子大学生活科学部食物栄養科学科)

今日の話題

(3)

17

化学と生物 Vol. 53, No. 1, 2015 プロフィル

山田 恭正(Yasumasa YAMADA)

<略歴>1980年同志社大学工学部工業化 学科卒業/1982年同大学大学院工学研究 科工業化学専攻修士課程修了/1987年大 阪市立大学大学院生活科学研究科栄養保健 学専攻博士課程修了(学術博士)/1998年 同志社女子大学生活科学部食物栄養科学科 教授,現在に至る<研究テーマと抱負>食 品用ゲルからのフレーバーリリース,食用 植物に由来するアントシアニン色素や生理 活性物質などの構造と食品機能<趣味>

旅,ライブの鑑賞(音楽・文楽・古典落 語),愛犬との散歩

Copyright © 2015 公益社団法人日本農芸化学会

今日の話題

Referensi

Dokumen terkait

【解説】 清酒は,世界の醸造酒の中で最もアルコール度数の高い飲料 の一つであり,長年育まれてきた高い醸造技術によりその製 造が可能となった.特に,清酒中のエタノールやさまざまな 香味成分を生産する「清酒酵母」については,先人たちがよ り旨い清酒をより効率的に造るために多くの試行錯誤を繰り 返した結果,現在のような優れた醸造特性を有する菌株群に

数のAGEsが関与することによって多くの生体タンパク 質を修飾している可能性が高い.また,以前は生体に存 在するAGEs構造体の種類についてはあまり議論がなさ れてこなかったが,生体にはさまざまなAGEs生成経路 が存在することや,組織や病態によって蓄積するAGEs 構造体が異なることが明らかになるにつれ,まずは「ど