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交流高電界殺菌法を利用した 果汁製品の製造 - J-Stage

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プロダクト イノベーション

交流高電界殺菌法を利用した 果汁製品の製造

ポッカサッポロフード & ビバレッジ株式会社

井上孝司,大澤直樹,平光正典

326 化学と生物 Vol. 53, No. 5, 2015

果汁などの飲料は,食品衛生法により清涼飲料水と定 義され,製品のpHや保存温度によって加熱殺菌の基準 が定められている食品である.しかしながら,この加熱 過程で熱に弱い香気成分や有用な機能成分の損失が問題 となっていた.さらに,近年においては,果汁のような 低pH(pH 4.0未満)状態で生育し高い耐熱性を有する 好酸性耐熱性菌(TAB)や耐熱性カビなどが発見され,

pH 4.0未満の果汁の殺菌においても100 C以上で数十秒 間といった超高温短時間殺菌(UHT殺菌)を行い,商 業的無菌の観点から耐熱性芽胞を死滅させることが製造 上必要になっている.この商業的無菌が達成できる加熱 殺菌条件は,もちろん食品衛生法に定められた基準より も非常に高い加熱条件で処理する必要があり,食品の品 質を大きく損なう要因になっている.一方,お客様の果 汁飲料に対する嗜好は,搾りたての品質を求める傾向に あり,非加熱果汁,ストレート果汁や混濁果汁に対応し た商品が望まれている.

そこで,筆者らは,食品衛生法の基準に適合し,耐熱 性芽胞などを効率的に殺菌可能な技術開発を2003年よ り開始した.具体的には,農研機構食品総合研究所と共 同で電気エネルギーを利用した食品自身を発熱させる内 部加熱の中でも比較的低い周波数を用いる交流電気を用 いて,熱的な効果に加えて電気的な殺菌効果も得られる 新規の殺菌法である交流高電界殺菌法である.本稿で は,筆者らが開発した交流高電界殺菌法の特徴とその開 発の経緯および製造された果汁製品に及ぼす効果を中心 に紹介する.

交流高電界殺菌法とは

本法は,電気抵抗をもつ食品に一対の金属の電極を介 して,その電極間に交流電源で電圧を印加すると食品内 部を流れる電流とそれに逆らう電気抵抗により食品自身

が自己発熱することを利用したジュール加熱(オーミッ ク加熱)と高電界の印加によって微生物細胞内外の電位 差でクーロン力が生じることを利用した電気穿孔(エレ クトロポーレーション)などによる微生物損傷の相乗効 果によって,液状食品中の微生物を0.1秒以内のごく短 時間で殺菌できる技術である.

ジュール加熱とは材料の両端に電圧( )を印加した 場合に材料内部に生じた電気勾配を小さくしようとする 力に従って電気を運ぶキャリアーの移動が起こる.この ときに食品では,+と−イオンがキャリアーとなり,食 品に含まれる成分や不純物などにより電気抵抗( )が 生じる.ジュール加熱とは,この電気抵抗により運動エ ネルギーが熱エネルギー( )に変換されることを指 し,材料に流れる電流( )と ,  から下記により計算 される法則である. 

= 2 = 2/ P I R V R  

また,細胞の電気穿孔とは,細胞の種類や大きさにかか わらず,細胞1個当たり1 V以上の電位差が与えられた 場合,細胞膜の絶縁破壊が生じ,細胞膜に局所的な電気 機械的な不安定性のために穴が開く現象を指し,これに より細胞が死滅することが報告されている(1, 2).図1 ジュール加熱および細胞の電気穿孔を示す.

交流高電界殺菌装置

交流高電界の殺菌装置は,材料を連続的に送るポンプ 部,高周波の交流を発生させる交流電源部,交流電界を 材料に印加する電極部,発熱した被処理物を冷却する冷 却部,および処理系内を一定圧力に保持する保圧部と必 要に応じて材料の熱劣化が起こらない程度まで予備加熱 する加熱部から構成される(図2上)

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化学と生物 Vol. 53, No. 5, 2015

高周波としては,使用する電極を腐食させない周波数 として20 kHzとし,電極材質としてチタニウム製の並 行平板電極を採用している(図2下).本技術の特徴と して,電極の通過時間(加熱時間)が0.1秒以内と短時 間であるため,昇温速度が,実際には1,000 C/s以上と なる.極めて短時間で処理が完了し,昇温速度が速いこ

とから,僅かな流速の変動や脈流の発生が処理温度の大 きなブレにつながることがわかった.そのため,脈流を 発生させない工程上の工夫と無脈流ポンプを選定してい る.

電極設計とシミュレーション解析

交流高電界殺菌法の殺菌効果および電極の耐久性や安 定性を確保するうえで重要な要因となるのは,電極の構 造である.ただし,交流高電界法は,電極の通過時間が 0.1秒以内と極短時間である点と用いられる電極間には 数百〜数千V/cmの電界が生じているため,そこに熱電 対などのセンサーを挿入して直接材料の温度を測定する ことは不可能である.そこで,われわれは,流れる食品 に電界を印加したときに材料にどのような電界が印加さ れて,加熱されるのかをコンピューターシミュレーショ ン(Computer Fluid Dynamics)による解析結果をもと にした電極設計を行った.具体的には,電極内部の流速 分布,温度分布,電界分布を明らかにし(3),最終的な実 生産機には,流速,温度分布の偏差が最も小さくなるよ うに設計することができた.

交流高電界法の殺菌特性

われわれは交流高電界の殺菌特性を明らかにするため に,食品中の変敗の原因となる中温性や高温性および好 酸性の各種耐熱性芽胞菌を用いて殺菌特性を明らかにし てきた.食品の殺菌条件を設定するうえでは,食品物性 である熱伝達試験による熱伝達曲線の導出と殺菌対象で ある微生物の耐熱性試験から生存曲線( 値)と熱耐性 曲線( 値)を導出し,それらの値から致死曲線を求め 殺菌条件を算出する必要があるためである(ただし,本 技術は食品自体が自己発熱するため,熱伝達曲線の導出 は不要となる).交流高電界法の殺菌特性の結果として,

殺菌が開始する温度は胞子が有する耐熱性( 値)から 推定されることがわかり,電界強度を高くすることで殺 菌効果が向上した.そのときの向上率は, 値の減少と して表され, 値が大きい胞子(高い温度で処理しない と殺菌できない胞子)ほど,その効果が大きくなること を明らかにした(4).また,果汁で問題となるTABは,

従来の加熱のみの処理に比べ殺菌速度として約30倍速 いこともわかった(5)

図1ジュール加熱と電気穿孔 図上:ジュール加熱,図下:電気穿孔.

図2交流高電界の殺菌システムと電極 図上:高電界システム,図下:電極構造.

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328 化学と生物 Vol. 53, No. 5, 2015

交流高電界殺菌装置のスケールアップと実証試験 清涼飲料の実ラインは,一般的に一時間当たり数千か ら数万Lを処理する能力の設備が求められる.当初は,

時間60 Lの処理能力の殺菌処理装置を製作し,各種微生 物の殺菌特性の解明や果汁,茶飲料,コーヒー飲料の殺 菌など幅広く適応できる処理装置に改良した.その後,

処理能力を時間500 Lにまでスケールアップしても殺菌 効果に違いがないことを明らかにし,実証試験機として 毎時2,000 Lの液状食品を殺菌できる装置によって,殺 菌試験,製品の品質検査,製品の保存試験を行い,食品 製造に問題ないことを確認した.さらに,食品を数千時 間処理しても電極の平滑性が損なわれず腐食などが発生 しないことも確認し,飲料の製造設備として問題ないこ とを実証した.

交流高電界の実用化と新ラインの特徴

交流高電界殺菌技術を利用した新たな工場として,

2013年12月に弊社名古屋第3工場に,毎時5,000 Lの処 理能力を有する工場を竣工した.本生産ラインの特徴 は,食品を品質劣化させる要因である酸化・熱劣化を低 減・抑制したライン構成(ナチュラルレモンテイスト製 法)になっている点である.酸化劣化を防止するため に,原料水および製造工程中のタンクや配管中の酸素を 可能な限り除去した調合工程と殺菌工程に交流高電界殺 菌法を利用して熱劣化を防止することで,お客様の要望 であるフレッシュで搾りたての高品質な商品をお届けす ることができるライン構成になっている.

生産アイテムは,120 mL, 300 mL, 450 mLのポッカレ モン100を中心とする果汁製造ラインで2014年2月より 発売を開始することができた(図3

本ラインで製造した商品は,従来の加熱殺菌のみによ る殺菌法に比べて,熱による変色を約2/5に抑制し,加

熱臭の発生を約1/8,  ビタミンCの減少を約1/10などに 抑えられ,当社官能評価パネリストによる試験によって も,爽やかなレモンの風味やレモンの果皮の風味などの 項目で有意に向上し,逆に,焦げた風味やイモ臭などの 項目で有意に抑制されるなど,成分分析の結果を裏づけ る高品質な製品を製造することができている.

交流高電界殺菌法の実用化を振り返って 食品の製造にとって最も大事なことは,安心・安全を 確立することである.とりわけ食品においては,微生物 的な安全性が最重要であることは言うまでもない.実際 に,交流高電界殺菌法を実用化するために,基礎的な殺 菌のメカニズムの解明から応用研究や装置開発における スケールアップまでを行い,非常に多くのデータを蓄積 することで実用化に至った.

また,今回紹介した交流高電界殺菌法の実用化の事例 は,消費者の嗜好の変化や余分な添加物を使用すること なく,安心・安全と高い品質を兼ね備えた食品を求める ニーズをいち早く予測したマーケティングによる潜在 ニーズの顕在化および食品製造における問題点として殺 菌工程の熱劣化という課題を抽出できたことで大きな意 味をもつ.

実用化までには,多くの試行錯誤の連続と電極構造も 含めた試作品の製作の繰り返しであったが,お客様に高 品質な食品を届けたいとの思いとその目的達成の信念が ブレなかったことが実用化できた一因であると考えてい る.

また,産学連携として,農研機構・食品総合研究所植 村ユニット長,日本大学の五十部教授,筑波大学の中嶋 教授をはじめ多くの先生方のご助言や社内でのよい上 司,仲間に恵まれたことが成功につながったと思われ る.この場をお借りして,御礼を申し上げたい.

今後は,交流高電界処理により食品中に含まれる不要 な酵素も効率的に失活できることから(6),食品の殺菌以 外にも食品加工への応用範囲を拡大していきたい.

文献

  1)  U.  Zimmermann  &  R.  Benz:  , 53,  33  (1980).

  2)  T.  Imai,  A.  Noguchi  &  K.  Uemura:   

(Campinas.), 30, 461 (1990).

  3)  植村邦彦,小林 功,井上孝司,中嶋光敏:食総研報,

71, 21 (2007).

 4)  井上孝司,河原(青山)優美子,池田成一郎,土方祥一,

五十部誠一郎,植村邦彦:日本食品工学会誌,8, 123 (2007).

  5)  K. Uemura, I. Kobayashi & T. Inoue: 

図3交流高電界法により生産している果汁製品群

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化学と生物 Vol. 53, No. 5, 201515, 211 (2009).

  6)  井上孝司,河原(青山)優美子,池田成一郎,五十部誠一 郎,植村邦彦:日本食品科学工学会誌,54, 195 (2007).

プロフィル

井上 孝司(Takashi INOUE)

<略歴>1993年岐阜大学大学院農学研究 科卒業/同年(株)ポッカコーポレーション 中央研究所入社/2007年筑波大学大学院 生命環境科学研究科博士後期課程修了,博 士(農学)/2008年(株)ポッカコーポレー シ ョ ン 中 央 研 究 所 マ ネ ジ ャ ー/2013年 ポッカサッポロフード&ビバレッジ(株)

中央研究所(経営統合による社名変更)/

2014年名古屋工業大学大学院産業戦略専 攻卒業(MOT取得),現在に至る<研究 テーマと抱負>食品の製造プロセスの開発 とレモンを中心とする健康機能の解明<趣 味>ジョギング

大澤 直樹(Naoki OSAWA)

<略歴>1991年名古屋工業大学応用化学 科卒業/同年(株)ポッカコーポレーション 中 央 研 究 所 入 社/1998年 ポ ッ カ コ ー ポ レ ー シ ョ ン シ ン ガ ポ ー ル 出 向/2013年 ポッカサッポロフード&ビバレッジ(株)

中央研究所(経営統合による社名変更)現在に至る<研究テーマと抱負>食品の製 造プロセスの開発<趣味>スポーツ観戦 平光 正典(Masanori HIRAMITSU)

<略歴>1992年名古屋大学農学部食品工 業化学科卒業/同年(株)ポッカコーポレー シ ョ ン 中 央 研 究 所 入 社/2013年 ポ ッ カ サッポロフード&ビバレッジ(株)中央研 究所(経営統合による社名変更)/2014年 三重大学大学院医学系研究科博士後期課程 修了,博士(医学),現在に至る<研究テー マと抱負>レモンを中心とする健康機能の 解明<趣味>野球観戦

Copyright © 2015 公益社団法人日本農芸化学会

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