保 険 契 約 関 係 者 の 変 動 を 巡 る 法 的 諸 問 題
大 阪 大 学 助 教 授 山 下 典 孝
1 . 報 告 の 目 的
保 険 契 約 者 の 地 位 の 変 更 と は 保 険 契 約 上 の 一 切 の 権 利 義 務 を 第 三 者 に 承 継 さ せ る こ と で あ る 。 一 切 の 権 利 義 務 に は 、 保 険 契 約 に 基 づ く 債 権 ・ 債 務 の 総 和 を 意 味 す る の で は な く 、 解 除 ( 解 約 ) 権 、 取 消 権 等 の 形 成 権 の よ う に 契 約 当 事 者 と 切 り 離 せ な い 権 利 も 含 め て 包 括 的 に 移 転 す る こ と を 意 味 す る1。
生 命 保 険 契 約 に お い て 保 険 契 約 者 の 地 位 の 変 更 が な さ れ る 場 合 に は 、 被 保 険 者 の 同 意 と 共 に 、保 険 者 の 同 意 を 要 す る 旨 約 款 に 規 定 さ れ て い る の が 一 般 的 で あ る 。 保 険 契 約 者 の 地 位 の 変 更 は 生 命 保 険 会 社 に と っ て 利 害 関 係 が あ り 、 変 更 に つ い て 保 険 会 社 の 同 意 が な い 限 り 、 保 険 契 約 者 の 変 更 の 効 力 は 発 生 し な い2。
近 時 、 生 命 保 険 買 取 に 関 し 、 保 険 契 約 者 変 更 に お け る 保 険 者 の 同 意 を 巡 る 訴 訟 が 提 起 さ れ 高 裁 レ ベ ル で の 判 断 が 下 さ れ て い る3。 そ の 訴 訟 に お い て 、 簡 易 生 命 保 険 法 57条 に お い て 、保 険 者 の 同 意 を 得 る こ と な く 保 険 契 約 者 の 地 位 を 任 意 承 継 で き る 旨 規 定 し て お り 、 そ の こ と を 理 由 に 、 保 険 者 は 同 意 義 務 が あ る と す る 主 張 が な さ れ て い る 。 ま た 保 険 者 に と っ て は 、 保 険 料 の 支 払 い を 受 け な け れ ば 、 保 険 金 支 払 義 務 の 履 行 を 免 れ る だ け で あ る こ と か ら 、 債 権 譲 渡 に 準 じ て 、 債 務 者 た る 保 険 会 社 は 保 険 契 約 者 の 地 位 の 譲 渡 の 成 否 に 利 害 関 係 を 有 し な い と す る 考 え 方 も 成 り 立 ち 得 る こ と が 指 摘 さ れ て い る 。 さ ら に モ ラ ル ハ ザ ー ド と は 無 関 係 な 保 険 契
1 日 本 生 命 保 険 生 命 保 険 研 究 会 編 著『 生 命 保 険 の 法 務 と 実 務 』236 頁( 金 融 財 政 事 情 研 究 会 、 2004年 ) 。
2 日 本 生 命 保 険 生 命 保 険 研 究 会 編 著 ・ 前 掲 書 237頁 。
3 東 京 高 判 平 成 18年3月 22日 金 判 1240 号6頁 ( 最 高 裁 に 上 告 さ れ た が 上 告 不 受 理 と な っ て い る ) 。 本 件 の 評 釈 に つ い て は 、 野 村 修 也 「 判 批 」 保 険 事 例 研 究 会 レ ポ ー ト 207号 1頁 以 下 (2006年 ) 、 肥 塚 肇 雄 「 判 批 」 金 法 1783号 37頁 以 下 (2006年 ) 〔 以 下 、 「 肥 塚 ・ 前 掲
① 文 献 」 と す る 。 〕 、 原 審 の 評 釈 等 に つ い て は 、 肥 塚 肇 雄 「 保 険 金 受 領 権 買 取 に 関 す る 法 的 問 題 点 - 東 京 地 裁11月18日 判 決 を 契 機 と し て - 」日 本 保 険 新 聞2005年11月28日3頁(2005 年 ) 、 鈴 木 達 次 「 判 批 」 ジ ュ リ ス ト1313号 115頁 以 下 (2006年 ) 、 榊 素 寛 「 判 批 」 私 法 リ マ ー ク ス33号 126頁 以 下 (2006年 ) 、 西 原 慎 治 「 生 命 保 険 契 約 者 の 地 位 の 譲 渡 - 東 京 地 裁 平 成 一 七 年 一 一 月 一 七 日 判 決 を 契 機 と し て - 」神 戸 学 院 法 学35巻4号35頁(2006年 )、山 下 典 孝 「 判 批 」 金 判 1240号 57頁 以 下 (2006年 ) が あ る 。
約 者 の 地 位 の 変 更 が な さ れ る 場 合 に は 、 保 険 者 は 同 意 義 務 を 負 う べ き と す る 見 解 も 唱 え ら れ て い る4。
他 方 、 保 険 契 約 者 の 地 位 の 変 更 と は 異 な り 、 保 険 金 受 取 人 の 指 定 変 更 に 関 し て は 、 一 般 的 に 、 被 保 険 者 の 同 意 以 外 に 、 保 険 者 の 同 意 を 求 め る 旨 の 約 款 規 定 は 置 か れ て い な い 。 さ ら に 、 保 険 金 受 取 人 変 更 に 対 す る 保 険 者 の 対 抗 要 件 を 加 重 す る 約 款 規 定 で は 、 保 険 会 社 所 定 の 手 続 書 類 の 提 出 及 び 保 険 証 券 の 承 認 裏 書 を 要 す る 旨 の 規 定 が 置 か れ て い る が 、 こ の 申 請 が な さ れ た 場 合 、 保 険 者 は そ の 申 請 手 続 に つ い て 原 則 と し て 、 そ れ を 承 認 す る こ と を 要 す る と 解 さ れ て い る5。
ま た 後 述 す る が 、 保 険 金 受 取 人 の 指 定 変 更 を 単 独 行 為 と 解 し 、 相 手 方 の な い 意 思 表 示 と 解 す る の が 学 説 の 多 数 説 で あ り 、 近 時 の 下 級 審 裁 判 例 の 立 場 で あ る 。 こ の 見 解 に 従 え ば 、 生 命 保 険 買 取 会 社 を 保 険 金 受 取 人 に 変 更 す る 旨 の 通 知 及 び 定 款 所 定 の 手 続 書 類 が 生 命 保 険 会 社 に 提 出 さ れ た 場 合 、 保 険 者 で あ る 生 命 保 険 会 社 は 、 保 険 金 受 取 人 の 指 定 変 更 を 拒 否 で き な い こ と と な る の で は な い か と い っ た 問 題 が 生 じ る 可 能 性 が あ る 。
し か し 、 保 険 者 は 、 生 命 保 険 契 約 引 受 の 際 に 、 被 保 険 者 の 健 康 状 態 と い っ た リ ス ク 以 外 に 、 モ ラ ル ハ ザ ー ド 対 策 と し て 、 被 保 険 者 と 保 険 金 受 取 人 の 関 係 等 を 調 べ 、 一 定 の 利 害 関 係 の な い 者 が 保 険 金 受 取 人 と な っ て い る 場 合 に は 、 引 受 を 拒 否 す る こ と も 許 さ れ る も の と 解 さ れ て い る6。 ま た 近 時 、 下 級 審 裁 判 例 で は 、 保 険 金 受 取 人 指 定 を 公 序 良 俗 と し て 指 定 部 分 の み を 無 効 と す る 考 え 方 が 示 さ れ て お り 、 学 説 も こ の 結 論 を 妥 当 と 考 え る 見 解 が 多 数 を 占 め て い る7。
そ う な る と 、 引 受 段 階 に お い て は 、 引 受 基 準 に 妥 当 す る 保 険 金 受 取 人 を 指 定 し 生 命 保 険 契 約 締 結 後 に 保 険 金 受 取 人 を 自 由 に 変 更 で き る こ と が 認 め ら れ る こ と に
4 肥 塚 ・ 前 掲 ① 文 献41-42 頁 。
5 山 下 友 信 著 『 保 険 法 』504頁 ( 有 斐 閣 、2005年 ) 。 も っ と も 、 実 務 的 に は 、 生 命 保 険 会 社 は 、 保 険 金 受 取 人 変 更 請 求 書 の 提 出 に よ り 、 保 険 金 受 取 人 に 伴 う 被 保 険 者 同 意 の 有 無 、 被 保 険 者 と 無 関 係 な 者 が 保 険 金 受 取 人 に 変 更 さ れ る な ど の モ ラ ル ハ ザ ー ド 的 な 要 素 の 有 無 を も 、 チ ェ ッ ク し て い る と さ れ て い る( 日 本 生 命 保 険 生 命 保 険 研 究 会 編 著・前 掲 書234頁 )。な お 、 保 険 者 に 対 す る 対 抗 要 件 の 通 知 に 関 す る 問 題 に つ い て は 、 山 下 典 孝 「 判 批 」 保 険 事 例 研 究 会 レ ポ ー ト209号 で 若 干 の 検 討 を な し て い る 。
6 山 下 友 信 ・ 前 掲 書488 頁 。
7 東 京 地 判 平 成 8年7月 30日 金 判 1468号 45頁 、 東 京 高 判 平 成 11 年 9月 21 日 金 判 1080 号30頁 等 。学 説 に つ い て は 、塩 崎 勤「 保 険 金 受 取 人 の 指 定 と 変 更 」塩 崎 勤 ・ 山 下 丈 編『 新 ・ 裁 判 実 務 大 系19 保 険 関 係 訴 訟 法 』293頁 -294頁 (2005年 ) 参 照 。
つ い て 妥 当 性 が あ る の か と い っ た 疑 問 が 出 て き て も お か し く は な い 。 さ ら に 、 近 時 、 モ ラ ル ハ ザ ー ド 対 策 と し て 、 約 款 で 、 保 険 金 受 取 人 の 変 更 に は 、 被 保 険 者 同 意 に 加 え 、 保 険 者 の 同 意 を 要 す る 旨 の 条 項 を 置 く 生 命 保 険 会 社 も 出 て い る8。 本 報 告 で は 、 生 命 保 険 契 約 の 買 取 を 発 端 と し た 保 険 契 約 者 の 地 位 の 変 更 及 び 保 険 金 受 取 人 の 指 定 変 更 を 巡 る 法 的 問 題 を 中 心 に 、 保 険 契 約 関 係 者 の 変 動 を 巡 る 法 的 問 題 に つ き 検 討 を 加 え る こ と を 目 的 と し て い る 。
2 東 京 高 判 平 成 18年 3月 22日 の 紹 介
ア メ リ カ で は 、 生 命 保 険 の 売 却 を 希 望 す る 者 か ら 被 保 険 者 の 余 命 に 応 じ て 割 り 引 か れ た 価 格 で 死 亡 保 険 金 受 領 権 を 買 い 取 る 生 命 保 険 買 取 事 業 が 定 着 し つ つ あ る
9。 こ の 事 業 の 仕 組 み は 、 ① 買 取 型 、 ② 完 全 移 転 型 、 ③ 複 数 投 資 型 、 ④ 信 託 利 用 型 に 分 類 さ れ る が 、 我 が 国 で 問 題 と な っ た も の は 、 ① 買 取 型 で あ る 。
買 取 型 の 基 本 的 な 仕 組 み は 次 の 通 り で あ る 。 す な わ ち 、 生 命 保 険 買 取 会 社 、 生 命 保 険 の 売 却 を 希 望 す る 被 保 険 者 か ら 、 余 命 に 応 じ て 割 り 引 か れ た 価 格 で 生 命 保 険 契 約 を 買 い 取 る 。 そ し て 、 当 該 保 険 契 約 の 保 険 契 約 者 及 び 保 険 金 受 取 人 の 地 位 は 、 買 取 会 社 に 移 転 し 、 被 保 険 者 が 死 亡 す る ま で 買 取 会 社 が 以 後 の 保 険 料 を 支 払 う 。 従 っ て 、 生 命 保 険 契 約 の 売 却 後 は 、 売 主 で あ る 者 は 保 険 料 の 支 払 い を 免 除 さ え る 。 被 保 険 者 死 亡 時 に 、 買 取 会 社 は 死 亡 保 険 金 を 受 け 取 り 、 買 取 価 格 と 資 金 コ ス ト を 控 除 し た 金 額 を 利 益 と し て 得 る こ と に な る10。
8 例 え ば 、1 社 で は あ る が 、 あ る 生 命 保 険 会 社 の 5 年 ご と 利 益 配 当 付 き 積 立 型 介 護 保 険 普 通 保 険 約 款30条1項 で は 、「 契 約 者 ま た は そ の 承 継 人 は 、保 険 金 お よ び 死 亡 給 付 金 の 支 払 事 由 の 発 生 前 に 限 り 、 被 保 険 者 お よ び 会 社 の 同 意 を 得 て 保 険 金 受 取 人 を 指 定 ま た は 変 更 す る こ と が で き ま す 。 」 と 規 定 さ れ て い る 。
9 ア メ リ カ で の 生 命 保 険 買 取 事 業 に 関 し て は 、 田 中 邦 和 「 生 命 保 険 買 取 会 社 の 管 理 規 制 - 末 期 患 者 救 済 を 目 的 と し た 米 国 の 州 保 険 監 督 局 規 制 - 」生 命 保 険 経 営62巻3号48頁 以 下(1994 年 )、阪 口 恭 子「 米 国 に お け る 保 険 買 取 ビ ジ ネ ス と 各 州 の 対 応 」生 命 保 険 経 営64巻4号107 頁 以 下 (1996 年 ) 、 石 田 眞 得 「 米 国 に お け る 生 命 保 険 買 取 業 の 法 規 制 (1)- 証 券 的 規 制 の 検 討 - 」 富 大 経 済 論 集 45巻 3号 1頁 以 下 (2000年 ) 、 古 澤 優 子 「 ア メ リ カ で 拡 が る 生 命 保 険 買 取 事 業 と わ が 国 に お け る 展 望 」Business & Economic Review 15 巻8号92頁 以 下 (2005 年 ) 、 岡 田 太 「 米 国 市 場 、 動 向 と 将 来 の 展 望 」 保 険 毎 日 新 聞 〔 代 理 店 版 〕2005年 3月31 日 6頁 以 下 (2005年 ) 、 肥 塚 肇 雄 「 保 険 金 受 領 権 買 取 に 関 す る 法 的 問 題 点 - 東 京 地 裁 11月17 日 判 決 を 機 縁 と し て - 」 日 本 保 険 新 聞 2005年11月28日3頁 (2005年 ) 、 溝 渕 彰 「 米 国 に お け る 生 命 保 険 の 買 取 に 関 す る 法 規 制 の 概 要 」 生 命 保 険 論 集 154 号93頁 以 下 (2006年 ) 等 参 照 。
10 古 澤 ・ 前 掲 論 文 95頁 ~96頁 、 石 田 ・ 前 掲 論 文 4頁 ~7頁 参 照 。
以 下 で は 、 我 が 国 で 初 め て 、 生 命 保 険 買 取 に 関 し て 訴 訟 で 争 わ れ た 事 案 を 以 下 で 紹 介 す る 。
(1)事 実 の 概 要
X( 原 告 、控 訴 人 )は 、51歳 の 男 性 で あ り 、現 在 、肝 硬 変 及 び 肝 癌 等 に 罹 患 し て 、 療 養 生 活 を 送 っ て い る 。 X は 、 平 成 元 年 、Z 生 命 保 険 相 互 会 社 ( 会 社 更 生 手 続 を 経 て 平 成 15年 7月 28日 、Y 生 命 保 険 株 式 会 社( 被 告 、被 控 訴 人 。以 下 、「 Y 社 」 と い う ) に 組 織 及 び 商 号 を 変 更 ) と の 間 で 、 死 亡 保 険 金 を 3,000 万 円 ( 現 在 は 2,830 万 円 に 減 額 さ れ て い る 。 ) と し 、 保 険 契 約 者 の 変 更 に つ い て 、 「 保 険 契 約 者 は 、 Z 社 ( 現 在 は 、 Y 社 ) の 同 意 を 得 て 、 保 険 契 約 上 の 一 切 の 権 利 ・ 義 務 を 第 三 者 に 承 継 さ せ る こ と が で き る 」 と の 約 款 ( 以 下 「 本 件 約 款 」 と い う 。 ) が 定 め ら れ た 生 命 保 険 契 約 ( 以 下 「 本 件 契 約 」 と い う 。 ) を 締 結 し た 。
X は 、 平 成 5 年 か ら の 長 期 に わ た る 闘 病 生 活 に よ り 全 く 稼 働 で き ず 、 親 族 か ら の 借 入 金 、自 宅 の 売 却 等 、X の 妻 の 稼 働 に よ っ て X の 家 族 の 生 活 を 維 持 し て い た 。 し か し 、X の 妻 の 収 入 は 月 額 12万 円 程 度 に す ぎ ず 、こ れ 以 上 親 族 に 借 入 金 を 依 頼 す る こ と は 困 難 で あ り 、 売 却 す る 資 産 も な く な り 、 生 活 費 や 治 療 費 等 を 捻 出 す る こ と が 困 難 な 経 済 状 態 に あ っ た 。
X は 、 平 成 7 年 こ ろ 、 米 国 等 の 諸 外 国 に お い て 、 生 命 保 険 を 買 い 取 る 会 社 が 存 在 す る こ と を 知 り 、 以 後 、 イ ン タ ー ネ ッ ト 等 で 情 報 を 探 し て い た が 、 平 成 16 年 10月 こ ろ 、生 命 保 険 契 約 に お け る 保 険 契 約 者 の 地 位 を 買 い 取 る こ と を 業 と す る 訴 外 A 社 の 存 在 を 知 っ た 。 そ こ で 、 X は 、 生 活 費 、 治 療 費 、 息 子 の 学 費 等 を 捻 出 す る 目 的 で 、 A 社 に 対 し 、 次 の 約 定 で 、 本 件 契 約 に お け る 保 険 契 約 者 の 地 位 を 以 下 の 条 件 で 売 却 し た ( 以 下 「 本 件 生 命 保 険 譲 渡 」 と い う 。 ) 。
購 入 代 金 849万 円
弔 慰 金 ( X の 死 亡 時 期 に よ り 支 払 額 は 次 の と お り 異 な る ) 平 成 17 年 度 に 死 亡 し た 場 合 849万 円
平 成 18 年 度 に 死 亡 し た 場 合 566万 円 平 成 19 年 度 に 死 亡 し た 場 合 283万 円 平 成 20 年 度 に 死 亡 し た 場 合 141万 5,000 円
平 成 21 年 度 以 降 に 死 亡 し た 場 合 56万 6,000 円
X は 、 Y 社 に 対 し 、 本 件 約 款 に 基 づ き 、 本 件 生 命 保 険 譲 渡 に 対 す る 同 意 を 求 め た が 、 Y 社 は 同 意 を 拒 否 し た 。 そ こ で 、 X は 、 ① 本 件 約 款 が Y 社 に 同 意 義 務 を 課 し て い る 、② 仮 に 本 件 約 款 が 同 意 義 務 を 課 す も の と は 解 さ れ な い 場 合 で あ っ て も 、 Y 社 の 同 意 拒 否 は 権 利 濫 用 に あ た り 、 Y 社 は 信 義 則 上 同 意 す べ き 義 務 を 負 う 旨 主 張 し 、 Y 社 に 対 し 、 本 件 保 険 契 約 者 の 変 更 に 同 意 す る よ う 求 め た 。
原 審( 東 京 地 判 平 成 17年 11月 17 日 金 判 1230号 11頁 )は 、通 常 、契 約 当 事 者 の 地 位 の 譲 渡 に は 相 手 方 の 承 諾 が 必 要 と 解 さ れ て お り 、 約 款 規 定 は そ れ を 確 認 し た に す ぎ な い と 解 す る の が 相 当 で あ る 。 し た が っ て 、 保 険 会 社 が 契 約 者 変 更 に 同 意 す る か 否 か は 、 原 則 と し て そ の 裁 量 に 委 ね ら れ て い る と 解 す べ き で あ る 。 本 件 で は 、 同 意 を 義 務 付 け る 法 令 や 特 別 の 約 定 も な く 、 む し ろ 各 保 険 会 社 は 契 約 者 の 地 位 が 売 買 対 象 と さ れ る 場 合 は 契 約 者 変 更 を 認 め て い な い こ と が う か が わ れ る の で 、 Y 社 は 自 由 に 同 意 ・ 不 同 意 の 判 断 を す る こ と が で き る と し て 、 Y 社 の 同 意 義 務 を 否 定 し た 。
次 に 、 生 命 保 険 契 約 の 売 買 は 唯 一 の 資 金 取 得 方 法 で な く 、 例 え ば 保 険 金 請 求 権 に 質 権 を 設 定 し て 融 資 を 受 け る 方 法 も あ る 。 そ も そ も 、 暴 利 行 為 や 詐 欺 的 取 引 等 の 様 々 な 問 題 が 生 じ る 危 険 性 も 否 定 で き な い 。 よ っ て 、 Y 社 が 保 険 契 約 者 の 地 位 を 売 買 対 象 と す る こ と の 危 険 性 を 危 惧 し 、 同 意 し な い と 判 断 し た こ と は 直 ち に 不 当 と は い え ず 、 少 な く と も 、 Y 社 の 裁 量 権 を 逸 脱 し て 権 利 の 濫 用 に 当 た る と ま で い え な い と し て 、 X の 請 求 を 棄 却 し た 。
そ こ で 、X が 控 訴 し た の が 本 件 で あ る 。控 訴 審 に お い て X 側 は 、① Y 社 が 同 意 を 拒 否 す れ ば 、 X に 甚 大 な 不 利 益 を 及 ぼ す 反 面 、 Y 社 に と っ て は 格 別 不 利 益 は な く 、 逆 に 莫 大 な 死 差 益 を Y 社 に 取 得 さ せ る こ と 、 Y 社 は 譲 受 人 の 人 柄 を 問 題 に し て い る こ と は 明 ら か で あ る が 、 X の 悲 痛 な ま で の 窮 状 と 比 べ て 極 小 の 利 益 に す ぎ ず 社 会 的 妥 当 性 を 欠 く こ と か ら 、 Y 社 の 同 意 、 不 同 意 の 裁 量 権 は 収 歛 さ れ 、 Y 社 は 同 意 す べ き 義 務 が あ る 、 ② 同 意 拒 否 事 由 の 例 示 が な け れ ば 余 程 の 事 情 が な い 限 り 同 意 さ れ る と 理 解 す る の が 通 常 で あ る 、 同 意 を 拒 否 す る 場 合 を 具 体 的 に 明 記 す べ き で あ る の に こ れ を 怠 っ た 、X が 本 件 保 険 契 約 締 結 を し て か ら 10年 後 に 作 成 さ
れ て 内 規 を 遡 及 適 用 し た も の で あ り 、 法 の 基 本 原 則 で あ る 遡 及 禁 止 に 反 す る 不 当 な 取 り 扱 い で あ り 、 こ れ ら の 諸 事 情 に 照 ら せ ば 、 同 意 の 拒 否 は 信 義 則 に 反 す る 、 と す る 補 足 的 主 張 を な し て い る 。
( 2 ) 判 旨 ( 請 求 棄 却 )
「X が 現 在 置 か れ て い る 窮 状 に 照 ら せ ば 、X が 本 件 保 険 契 約 上 の 地 位 の 譲 渡 を Y 社 に 対 し て 求 め る 理 由 は 理 解 で き な く も な く 、 ま た そ の 必 要 性 は 高 い と い う こ と が で き る 。
し か し な が ら 、 ・ ・ ・ 、 Y 社 に は 上 記 譲 渡 に つ い て の 同 意 を 原 則 と し て 拒 否 す る こ と が で き る の で あ り 、 そ の 形 式 的 理 由 は 契 約 の 性 質 か ら 導 か れ る も の で は あ る が 、 本 件 事 案 に 鑑 み れ ば 、 一 般 的 に 生 命 保 険 契 約 に お け る 保 険 契 約 者 の 地 位 が 売 買 取 引 の 対 象 と な る こ と に よ る 不 正 の 危 険 の 増 大 や 社 会 一 般 の 生 命 保 険 制 度 に 対 す る 信 頼 の 毀 損 が 実 質 的 な 理 由 と し て 存 在 す る 。
す な わ ち 、 米 国 に お い て も 、 健 康 状 態 の 優 れ な い 被 保 険 者 の 生 命 保 険 ほ ど 買 取 会 社 や 投 資 家 に と っ て 魅 力 的 な 投 資 対 象 と な る の に 対 し 、 買 取 会 社 の 交 渉 相 手 た る 被 保 険 者 は 、 気 力 、 体 力 と も に 衰 弱 し た 病 人 で あ る 場 合 が 多 く 、 当 事 者 間 の 交 渉 能 力 に 当 初 か ら 格 段 の 差 が 存 す る こ と 、 生 命 保 険 契 約 譲 渡 の 対 価 の 合 理 性 を 判 定 す べ き 客 観 的 基 準 が 存 在 し な い た め 、生 命 保 険 契 約 の 譲 渡 を 自 由 放 任 と す れ ば 、 買 取 会 社 が 、 窮 乏 し た 契 約 者 、 高 齢 者 、 判 断 能 力 の 不 十 分 な 者 、 死 期 が 迫 っ た 者 等 か ら 不 当 に 廉 価 で 生 命 保 険 契 約 を 買 い 取 る 等 の 暴 利 行 為 を 招 き や す い こ と ( 我 が 国 に お け る 利 息 制 限 法3条 や 貸 金 業 の 規 制 等 に 関 す る 法 律14条1号 等 が 利 息 と 同 視 す べ き み な し 利 息 に つ い て 厳 格 に 規 制 し て い る 趣 旨 を 逸 脱 し か ね な い こ と に な る 。 な お 、 本 件 事 案 に お い て は 、 本 件 保 険 契 約 の 譲 受 人 と さ れ て い る リ ス ク ・ マ ネ ジ メ ン ト は 、最 少 額 で も 約 1100 万 円 の 利 益 を 取 得 す る こ と が 売 買 契 約 上 予 定 さ れ て い る 。 ) 、 詐 欺 的 取 引 や 暴 力 団 の 資 金 源 と さ れ る 等 の 危 険 性 が 危 惧 さ れ る こ と 、 米 国 で も 生 命 保 険 買 取 業 界 は 未 成 熟 で 競 争 が 少 な く 、 監 督 機 関 の 監 視 が 行 き 届 か ず 、 デ ィ ス ク ロ ー ジ ャ ー も ほ と ん ど さ れ て い な い 上 に 、 そ の 代 理 店 も 未 だ 十 分 に 教 育 や 訓 練 を 受 け て お ら ず 、 買 取 会 社 の 買 取 資 金 の 出 所 も ほ と ん ど 知 ら れ て い な い こ と ・ ・ ・ 等 の 事 情 が 指 摘 さ れ て い る 。 そ し て 、 こ れ ら を 理 由 と し て 、
生 命 保 険 買 取 事 業 に 反 対 す る 考 え も 表 明 さ れ て お り 、ま た 、米 国 フ ロ リ ダ 州 で は 、 買 取 会 社 に つ い て 認 可 制 を 採 用 し 、 認 可 を 受 け て い な い 業 者 に つ い て は 、 生 命 保 険 の 売 買 を 認 め て い な い 。
我 が 国 に お い て は 、 生 命 保 険 買 取 事 業 を 規 制 す る 法 令 は 存 在 せ ず 、 生 命 保 険 を 業 と す る 生 命 保 険 会 社 は 、 生 命 保 険 契 約 締 結 の 前 提 と し て 、 保 険 契 約 者 、 被 保 険 者 、 保 険 金 受 取 人 の 間 に 生 命 保 険 を 必 要 と す る 相 当 の 関 係 が あ る こ と を 認 め て い る の に 加 え 、 生 命 保 険 契 約 に お け る 保 険 契 約 者 の 地 位 が 売 買 取 引 の 対 象 と な る こ と は 、 場 合 に よ っ て は 人 命 が 売 買 の 対 象 と な る こ と に 等 し い 事 態 も あ り 得 る の で あ り 、ひ い て は 社 会 一 般 の 生 命 保 険 制 度 に 寄 せ る 信 頼 を 損 ね る 結 果 に な る と 考 え 、 い ず れ も 、 生 命 保 険 契 約 に お け る 保 険 契 約 者 の 地 位 の 売 買 に 対 し て は 、 内 規 に 定 め る 一 定 の 要 件 が 充 足 さ れ な け れ ば 原 則 と し て 同 意 を し な い と い う 取 扱 い を し て い る も の と 窺 わ れ る 。 そ し て 、 死 期 が 切 迫 し た 余 命 6 箇 月 以 内 の 被 保 険 者 の 場 合 に つ い て の み リ ビ ン グ ニ ー ズ 特 約 の 対 象 と し て 、 そ れ に 該 当 す る 場 合 に は 死 亡 前 の 保 険 金 の 支 払 に 応 じ て い る 。 ま た 、 簡 易 保 険 の 保 険 契 約 者 の 任 意 承 継 に つ い て は 、 被 保 険 者 の 同 意 は 必 要 と さ れ る が 、 保 険 者 の 同 意 は 必 要 と さ れ て い な い ( 簡 易 生 命 保 険 法 57条 )。し か し 、こ の 点 は 、保 険 金 額 が 民 間 の 生 命 保 険 の 場 合 よ り も 少 な く 、上 限 も 設 定 さ れ て い て( 同 法 20 条 )、モ ラ ル リ ス ク や 公 序 良 俗 に 反 す る 場 合 が 少 な い か ら で あ る と み ら れ る 。
以 上 に よ れ ば 、 Y 社 は 、 X か ら の 本 件 保 険 契 約 上 の 地 位 の 譲 渡 に つ い て の 同 意 の 求 め に 対 し 、 単 に 本 件 個 別 事 情 に 限 定 さ れ ず に 同 意 を 必 要 と す る 実 質 的 理 由 と さ れ る こ れ ら の 一 般 的 事 情 に 照 ら し 、 上 記 同 意 を 拒 否 す る こ と が で き る と い う べ き で あ り 、 し た が っ て 、 Y 社 に よ る 本 件 同 意 の 拒 否 は 、 権 利 濫 用 又 は 信 義 則 違 反 に 該 当 す る と は い え な い 。
も っ と も 、 こ の よ う に 解 し た と き は 、 X の 現 在 の 窮 状 は 解 消 さ れ な い お そ れ が 高 い こ と に な る が 、 そ れ だ か ら と い っ て 、 現 時 点 に お い て Y 社 が 上 記 同 意 を 拒 否 し た こ と が 権 利 濫 用 又 は 信 義 則 違 反 に 当 た る と は い え な い と い う べ き で あ る 。 こ の 点 に つ い て は 、 上 記 の と お り 個 別 事 案 に よ る 解 決 は 困 難 で あ る と い う ほ か は な い 。 生 命 保 険 契 約 の 被 保 険 者 の 死 期 が 切 迫 し た と ま で は い え な い も の の , 重 篤 な
疾 病 の た め に 死 の 危 険 が あ り 、 そ の 治 療 費 や 生 活 費 等 の 捻 出 に 困 難 を き た し て お り 、 そ の た め に 当 該 生 命 保 険 契 約 を 使 用 す る し か 方 途 が な い 場 合 に つ い て 、 今 後 い か な る 救 済 を 図 る べ き か 、 同 生 命 保 険 契 約 の 買 取 の 効 力 を 認 め る た め に は 、 生 命 保 険 買 取 業 者 の 規 制 を も 含 め て 法 令 に よ る べ き か 、 そ の 場 合 の 要 件 は ど う す べ き か 、 保 険 業 界 の 自 主 的 規 制 に 委 ね る と し た 場 合 は 、 今 後 本 件 の よ う な 事 案 を も 踏 ま え て 、 保 険 業 界 と し て 保 険 契 約 の 譲 渡 の 同 意 の 可 否 の 規 準 に つ い て 更 な る 検 討 が 必 要 と な ろ う が 、 い か な る 具 体 的 な 規 準 を 設 定 す る の が 相 当 か 等 に つ い て の 慎 重 な 検 討 が 必 要 で あ る と 考 え る 。 そ し て 、 こ の よ う な 議 論 が 未 だ 熟 し て い る と は い え な い 現 段 階 に お い て 、 主 と し て X の 個 別 の 事 情 を 重 視 し 過 ぎ る 余 り 、 Y 社 の 上 記 同 意 の 拒 否 を 否 定 す る こ と は で き な い と い う べ き で あ る 。 」
X の 上 記 補 足 的 主 張 に 対 す る 判 断
( 1 ) ( 裁 量 権 の 収 斂 ) に つ い て
X は 、 本 件 に お い て は Y 社 の 裁 量 権 は 収 斂 さ れ る と 主 張 し 、 な る ほ ど 、 X が 保 険 期 間 を 超 え て 生 存 す る こ と を 前 提 と す れ ば 、 Y 社 が 本 件 に つ い て 同 意 を 拒 否 す る こ と に よ り X に 莫 大 な 不 利 益 を も た ら す 反 面 、 Y 社 に と り 金 銭 面 で は 格 別 の 不 利 益 は な い( な お 、死 差 益 の 有 無 に つ い て は 、同 意 の 有 無 を 問 わ ず 、変 わ ら な い 。)。
し か し な が ら 、 上 記 の と お り 、 Y 社 が 本 件 に つ い て 同 意 す る か ど う か は 、 本 件 事 案 の 個 別 事 情 の み に 係 る も の で は な く 、 本 件 の よ う な 保 険 契 約 の 売 買 を 承 認 す る こ と が 一 般 に も た ら す で あ ろ う 弊 害 や 社 会 的 信 用 の 毀 損 等 を 斟 酌 す る こ と が で き る の で あ る か ら 、 主 と し て 本 件 の 個 別 的 事 情 か ら Y 社 の 裁 量 権 は 収 斂 さ れ る と す る X の 主 張 は 理 由 が な く 採 用 す る こ と は で き な い 。
( 2 ) ( 信 義 則 違 反 ) に つ い て
X は 、本 件 保 険 契 約 上 の 地 位 の 譲 渡 が で き る か ど う か は 重 大 な 関 心 事 項 で あ り 、 ま た 、 本 件 約 款 に つ い て の 素 人 解 釈 で は 同 譲 渡 に つ い て の 同 意 が 得 ら れ る と 解 釈 す る の が 当 然 で あ る か ら 、 金 融 専 門 家 で あ る 被 控 訴 人 と し て は 、 同 意 の 可 否 に つ い て の 具 体 的 基 準 を 本 件 保 険 契 約 締 結 に 当 た っ て 明 記 す べ き と こ ろ 、 こ れ を 怠 っ た こ と や 、 同 契 約 締 結 後 に 策 定 し た 内 規 を 本 件 に 適 用 し て い る が 、 そ れ は 遡 及 禁 止 の 法 原 則 に 違 反 す る こ と を 理 由 と し て 、 被 控 訴 人 の 本 件 同 意 の 拒 否 は 信 義 則 に
反 す る と 主 張 す る 。
し か し な が ら 、 保 険 契 約 の 売 買 は 法 令 又 は 特 約 の 存 在 し な い 限 り 、 Y 社 の 同 意 が な け れ ば 効 力 を 生 じ な い の は 契 約 の 性 質 上 当 然 で あ る 上 、 同 売 買 が 可 能 か ど う か と い う 点 は 、 保 険 契 約 の 基 本 的 事 項 を 構 成 す る も の と は い え な い か ら 、 本 件 約 款 の 文 言 以 上 に 同 売 買 に つ い て Y 社 が 同 意 す る 場 合 又 は 同 意 を 拒 否 す る 場 合 を 同 契 約 締 結 の 際 に 明 記 し な け れ ば な ら な い と す る 合 理 的 理 由 は な い 。 ま た 、 内 規 を 遡 及 的 に 適 用 す る の は 不 当 で あ る と の 点 に つ い て は 、 仮 に そ の 適 用 が な い と し た 場 合 は 、 Y 社 は 、 内 規 の よ う な 比 較 的 明 確 な 基 準 が な く て も 上 記 同 意 を 拒 否 す る こ と が で き る の で あ る か ら 、 そ の よ う な 場 合 に 同 意 の 可 否 を 決 す る 時 点 に お い て 既 に 存 在 し て い る 内 規 を 適 用 し て 本 件 同 意 を 拒 否 し た と し て も 、 あ え て 不 当 で あ る と は い え な い 。
し て み れ ば 、 信 義 則 違 反 を い う 控 訴 人 の 主 張 は 理 由 が な く 採 用 す る こ と は で き な い 。 」
3 保 険 契 約 者 の 地 位 の 変 更 と 生 命 保 険 買 取 (1)保 険 者 の 同 意 を 要 求 す る 理 由
保 険 契 約 者 の 変 更 に つ き 保 険 者 の 同 意 を 要 求 し て い る 理 由 は 、 ① 契 約 上 の 地 位 の 移 転 に 関 す る 一 般 原 則 に 基 づ く も の で あ る こ と11、 ② 保 険 契 約 者 は 、 契 約 上 の 諸 義 務 を 有 す る と と も に 、 保 険 者 に 対 し て は 保 険 料 支 払 等 の 義 務 を 負 う の で 、 保 険 契 約 者 が 誰 で あ る か は 保 険 者 に と っ て も 利 害 関 係 が あ る こ と12、 ③ 生 命 保 険 契 約 で は 道 徳 的 危 険 の 増 加 を チ ェ ッ ク す る 意 味 が あ る と 解 さ れ て い る13。
保 険 契 約 者 の 地 位 の 変 更 に つ い て 、 保 険 者 は 保 険 事 故 の 発 生 を 条 件 に 保 険 金 支 払 義 務 を 負 う と い う 面 の み で は 、 債 務 者 の 地 位 に あ る が 、 保 険 契 約 上 、 保 険 契 約 者 に 対 し て 保 険 料 支 払 を 求 め る 権 利 を 有 す る と い う 面 で は 、 債 権 者 の 地 位 に あ る と 言 え る 。
11 山 下 友 信 ・ 前 掲 書590頁 。
12 日 本 生 命 保 険 生 命 保 険 研 究 会 編 著・前 掲 書 235頁 、山 下 孝 之 著『 生 命 保 険 の 財 産 的 側 面 』 45頁 ( 商 事 法 務 、2003年 ) 。
13 山 下 友 信 ・ 前 掲 書 590頁 。
し か し 、 ② の 理 由 付 け に 関 し て は 、 譲 受 人 ( 新 保 険 契 約 者 ) が 保 険 料 を 支 払 わ な か っ た 場 合 に は 、 一 定 の 条 件 の も と 、 保 険 契 約 は 失 効 す る こ と が 通 常 で あ り 、 保 険 者 は 解 約 返 戻 金 を 支 払 え ば そ れ 以 上 の 義 務 を 負 担 す る こ と は な く 、 保 険 料 支 払 義 務 の 移 転 に 関 し て 、 保 険 者 に と っ て 格 別 の 不 利 益 は 存 し な い と す る 指 摘 が な さ れ て い る14。
し か し 、 保 険 料 の 支 払 を 利 用 し て 、 テ ロ 資 金 供 与 や マ ネ ー ・ ロ ー ン ダ リ ン グ 等 に 生 命 保 険 契 約 が 利 用 さ れ る 可 能 性 が あ る 。 そ う 考 え た 場 合 、 保 険 者 は 誰 が 保 険 料 支 払 債 務 を 負 う の か に つ い て 利 害 関 係 を 有 し 、 更 に 、 モ ラ ル ハ ザ ー ド と の 関 係 上 、 誰 が 保 険 契 約 者 で あ る か も 重 大 な 関 係 を 有 す る こ と か ら 、 保 険 者 の 同 意 を 求 め る 生 命 保 険 実 務 に 合 理 性 が あ る と 言 え る15。
実 務 に お い て は 、 保 険 契 約 者 と 被 保 険 者 と の 関 係 、 被 保 険 者 と 保 険 金 受 取 人 と の 関 係 に つ い て 申 込 書 記 載 欄 に 続 柄 等 を 記 載 し 、 モ ラ ル ハ ザ ー ド の 事 前 予 防 と し て 、 各 社 の 引 受 基 準 に 従 い 審 査 が な さ れ て い る 。 一 般 的 に は 、 モ ラ ル ハ ザ ー ド と の 関 係 上 、 保 険 金 受 取 人 が 親 族 以 外 の 第 三 者 と な っ て い る 場 合 に は 、 合 理 的 な 理 由 が な い 限 り は 引 受 を 拒 否 す る こ と と さ れ て い る 。 こ れ は 、 保 険 契 約 者 の 地 位 の 変 更 又 は 保 険 金 受 取 人 の 指 定 変 更 の 際 に も 同 様 な 立 場 が 採 ら れ て い る16。 (2)保 険 者 の 同 意 義 務
保 険 契 約 者 の 地 位 に 変 更 に つ き 保 険 者 の 同 意 を 求 め る 理 由 に つ き 、 モ ラ ル ハ ザ ー ド の 予 防 を 主 目 的 と す る 見 解 に よ れ ば 、 モ ラ ル ハ ザ ー ド の 危 険 性 が な い 場 合 に は 、 保 険 者 は 同 意 義 務 を 負 う と す る 見 解 も 唱 え ら れ て い る と こ ろ で あ る17。 ま た 、 生 命 保 険 会 社 に は 、 保 険 契 約 が 保 険 料 不 払 に よ り 失 効 す れ ば 、 保 険 金 支
14 西 原 ・ 前 掲 論 文 57頁 。
15 実 際 に 、 民 間 の 生 保 会 社 に 対 し て は 、 テ ロ 資 金 供 与 や マ ネ ー ・ ロ ー ン ダ リ ン グ 等 に 保 険 契 が 利 用 さ れ る こ と を 防 止 す る た め の 措 置 を 求 め て い る ( 金 融 庁 ・ 監 督 ハ ン ド ブ ッ ク 『 保 険 会 社 向 け の 総 合 的 な 監 督 指 針 』 「 Ⅱ - 3 - 7 本 人 確 認 、 疑 わ し い 取 引 の 届 出 」 参 照 ) 。 監 督 法 上 の 問 題 で あ り 、私 法 上 の 契 約 の 効 力 に は 影 響 が な い と い う 考 え 方 も あ り 得 る 。し か し 、 保 険 契 約 法 と 保 険 監 督 法 と は 重 要 な 関 連 性 を 有 す る も の で あ り 、 公 益 的 事 業 で あ る 保 険 事 業 の 根 幹 に 関 わ る 事 項 に 関 し て は 、 私 法 上 の 保 険 契 約 の 解 釈 論 に お い て も 配 慮 す る 必 要 が あ る も の と 考 え る 。
16 先 述 の 通 り 、 近 時 、 保 険 金 受 取 人 の 指 定 変 更 が 公 序 良 俗 に 反 す る 場 合 に は 、 そ の 指 定 自 体 を 無 効 と す る 下 級 審 裁 判 例 が あ る 。 モ ラ ル ハ ザ ー ド と の 関 係 で 変 更 の 際 に 保 険 契 約 者 、 被 保 険 者 及 び 保 険 金 受 取 人 の 関 係 を 審 査 す る こ と は 合 理 的 な こ と で あ り 、 一 定 の 場 合 に は 、 変 更 行 為 が 公 序 良 俗 に 反 す る こ と も 考 え ら れ る 。
17 溝 渕・前 掲 論 文 112頁 以 下 、肥 塚 肇 雄「 生 命 保 険 買 取 の 法 的 諸 問 題 」7頁 以 下(2006年 )。
払 義 務 を 免 れ る こ と 、 逆 ザ ヤ 問 題 が 完 全 に 解 消 さ れ て い な い 生 命 保 険 会 社 に と っ て は 、 予 定 利 率 が 高 い 保 険 契 約 が 保 険 料 不 払 に よ り 失 効 さ れ る な ら ば 、 保 険 会 社 に と っ て 重 い 負 担 の 1 つ が 消 え 身 軽 に な る と い っ た 、 保 険 者 の 経 済 的 メ リ ッ ト を 指 摘 す る 見 解 も あ る 。 そ し て 、 こ の 点 を 根 拠 と し て 、 保 険 者 は 利 益 相 反 的 な 立 場 に あ る こ と か ら 、 主 と し て モ ラ ル ハ ザ ー ド の 誘 発 の お そ れ が 認 め ら れ な い 場 合 に 限 っ て 同 意 を 拒 否 で き る と す る 見 解 も 唱 え ら れ て い る18。
し か し 、 上 記 の よ う な 保 険 者 の 経 済 的 メ リ ッ ト は 、 本 当 に 生 じ る こ と に な る の で あ ろ う か 。 通 常 、 被 保 険 者 の 近 い 将 来 の 死 亡 が 予 見 さ れ る 場 合 は 、 近 い う ち に 保 険 金 が も ら え る た め 、 保 険 契 約 者 側 が 解 約 し 、 ま た は 保 険 料 不 払 の た め に 失 効 さ せ る と は 考 え づ ら く 、 経 済 的 に 困 窮 し 等 を 理 由 に 保 険 料 が 支 払 え な い 、 と い っ た ケ ー ス は 、 極 め て 稀 で は な い か と 考 え ら れ る 。 そ う な る と 、 支 払 い が 若 干 増 加 す る こ と が 予 想 さ れ る に し て も 、 そ の 程 度 の レ ベ ル は 会 社 収 益 に 影 響 を 与 え 、 保 険 会 社 に 経 済 的 メ リ ッ ト を 与 え る も の と は 考 え ら れ な い と す る 指 摘 も あ る19。 ま た 逆 ザ ヤ 問 題 が あ る こ と は 確 か で は あ る が 、 保 険 契 約 を 失 効 さ せ ず に 、 保 険 契 約 を 継 続 さ せ る こ と が 長 期 的 に は 、死 差 益 等 を 考 え れ ば 、会 社 収 益 に と っ て は 、 プ ラ ス に 働 く こ と も 考 え ら れ る と す る 指 摘 も あ る20。
加 え て 、 保 険 料 支 払 の 確 実 性 や 、 モ ラ ル ハ ザ ー ド の 増 加 と い っ た こ れ ら の 可 能 性 は あ ら ゆ る 場 合 に 存 在 す る こ と か ら 、 保 険 契 約 者 の 地 位 の 変 更 を 認 め る か 否 か は 、 こ れ に よ っ て 不 利 益 を 受 け る お そ れ の あ る 保 険 者 自 身 の 判 断 ( 自 己 責 任 ) に 委 ね た も の で あ る と し て 、 保 険 者 の 同 意 義 務 を 否 定 す る 見 解 も 唱 え ら れ て い る
21。 私 見 も 上 記 の 反 論 は 妥 当 な も の と 考 え 、 同 意 義 務 は な い も の と 考 え る 。 も っ と も 、 保 険 者 に 同 意 義 務 が な い と い っ て も 、 保 険 者 に 広 範 な 裁 量 権 を 認 め る わ け で は な く 、 モ ラ ル ハ ザ ー ド の 危 険 や 、 前 掲 ・ 東 京 高 判 平 成18 年 3月 22日 が 判 示 し た 生 命 保 険 制 度 の 信 頼 を 揺 る が す な ど の 問 題 が な い 場 合 に も 、 保 険 者 が 同 意 を
18 肥 塚 ・ 前 掲 ① 文 献41-42 頁 参 照 。
19 山 下 典 孝・前 掲 注 (3)の 内 容 に つ き ご 意 見 を 頂 い た 際 に 、生 命 保 険 会 社 に 勤 務 さ れ て い る 実 務 家 か ら こ の よ う な 指 摘 を 受 け た 。
20 山 下 典 孝・前 掲 注 (3)の 内 容 に つ き ご 意 見 を 頂 い た 際 に 、生 命 保 険 会 社 に 勤 務 さ れ て い る 実 務 家 か ら こ の よ う な 指 摘 を 受 け た 。
21 鈴 木 ・ 前 掲 116頁 。
拒 否 す る と き に は 、 信 義 則 上 、 同 意 を 拒 否 で き な い も の と 考 え る 。 (3)生 命 保 険 買 取 に よ る 保 険 契 約 者 の 地 位 の 変 更 に つ い て の 妥 当 性
前 掲 ・ 東 京 高 判 平 成 18年 3 月 22日 で は 、 X の 現 在 置 か れ て い る 窮 状 を 考 え れ ば 、 保 険 契 約 上 の 地 位 の 譲 渡 を Y 社 に 求 め る 理 由 や そ の 必 要 性 に つ い て 、 一 定 の 理 解 を 示 し て い る 。 し か し 、 こ の 個 別 的 事 情 を 配 慮 し た 上 で も 、 原 審 同 様 に 、 契 約 の 性 質 と い う 形 式 的 理 由 と 、 保 険 契 約 者 の 地 位 が 売 買 取 引 の 対 象 と な る こ と に よ る 不 正 の 危 険 の 増 大 や 社 会 一 般 の 生 命 保 険 制 度 に 対 す る 信 頼 の 毀 損 を 実 質 的 理 由 か ら 、 Y 社 に は 、 保 険 契 約 上 の 地 位 の 譲 渡 に つ い て の 同 意 を 原 則 と し て 拒 否 で き る と す る 。 原 審 同 様 に 、 控 訴 審 に お い て も ア メ リ カ で の 状 況 や そ こ で の 問 題 点 等 を 踏 ま え た 上 で 、 我 が 国 で は 何 ら の 法 規 制 も 存 し な い こ と 、 生 命 保 険 売 買 を 認 め る こ と が 人 命 売 買 の 対 象 と な る こ と に 等 し く 事 態 も あ り 得 、 社 会 一 般 の 生 命 保 険 制 度 に 寄 せ る 信 頼 を 損 ね る 結 果 を 招 く こ と 等 か ら 、 内 規 に 定 め る 一 定 の 要 件 が 充 足 さ れ な け れ ば 原 則 と し て 同 意 を し な い と す る 保 険 会 社 の 取 り 扱 い 、 簡 易 生 命 保 険 に お い て は 、民 間 の 生 命 保 険 の 場 合 よ り も 保 険 金 額 の 上 限 が 設 定 さ れ て お り 、 モ ラ ル リ ス ク や 公 序 良 俗 に 反 す る 場 合 が 少 な い こ と か ら 日 本 郵 政 公 社 の 同 意 を 要 し て い な い こ と ( 簡 易 生 命 保 険 法 57 条 )22、 こ れ ら の 一 般 的 事 情 に 照 ら し た 上 で 、 Y 社 の 同 意 拒 否 は 、 権 利 濫 用 又 は 信 義 則 違 反 に 該 当 し な い と 判 断 す る 。 生 命 保 険 買 取 制 度 に 関 し 何 ら 法 規 制 の 我 が 国 に お い て は 、 判 旨 で も 述 べ ら れ て い る よ う に 、利 息 制 限 法 3条 や 貸 金 業 法 14条 1 号 等 の 規 制 を 脱 法 す る 手 段 と し て 利 用 さ れ る 問 題 も あ る 。 さ ら に 、 な し 崩 し 的 に 保 険 契 約 者 変 更 の 承 認 を 容 易 に 認 め る こ と は 、 引 受 段 階 で の 保 険 者 の 審 査 を 容 易 に 回 避 す る 手 段 を 認 め る こ と に な っ て し ま い 、 生 命 保 険 契 約 が 犯 罪 等 に 利 用 さ れ る 機 会 を 増 加 さ せ る 危 険 を は ら む こ と に な る23。現 行 の 保 険 者 の 引 受 基 準 が 妥 当 な も の で あ る こ と を 前 提 と す る 限 り は 、 容 易 は 回 避 手 段 を 認 め る こ と は 許 さ れ な い 。 X の 個 別 的 な 状 況 を 考 慮 し た と し て も 、 容 易 に 例 外 を 認 め る こ と は 困 難 で あ る こ と か ら 、 現 行 の 実 務 と し て 、
22 民 間 の 生 命 保 険 会 社 が 販 売 す る 保 険 金 額 が 少 額 の 生 命 保 険 契 約 で あ っ て も そ れ を 利 用 し て 保 険 金 詐 欺 等 の モ ラ ル ハ ザ ー ド の 問 題 が 発 生 し て い る の が 現 実 で あ る 。 そ の こ と か ら 考 え れ ば 、 簡 易 生 命 保 険 法57条 の 規 定 が 妥 当 か と い う 点 に つ い て 疑 問 が な い わ け で は な い 。
23 野 村 ・ 前 掲 6-7頁 参 照 。
生 命 保 険 買 取 に よ る 保 険 契 約 者 の 地 位 の 譲 渡 を 否 定 し た 、 判 旨 の 結 論 は 妥 当 な も の と 考 え ざ る を 得 な い 。
4 保 険 金 受 取 人 の 指 定 変 更 に 関 す る 諸 問 題 (1)保 険 金 受 取 人 指 定 変 更 の 自 由 の 妥 当 性
保 険 契 約 者 は 保 険 金 受 取 人 の 指 定 変 更 権 を 留 保 し て い る 場 合 に は 、 保 険 事 故 発 生 前 で あ れ ば 、 保 険 金 受 取 人 の 指 定 変 更 を 行 う こ と が 認 め ら れ て い る ( 商 法 675 条 1項 ) 。 生 命 保 険 会 社 の 普 通 保 険 約 款 で は 、 保 険 契 約 者 が 保 険 金 受 取 人 の 指 定 変 更 権 を 留 保 す る こ と を 原 則 と す る 条 項 が 設 け ら れ て い る の が 一 般 的 で あ る 。 大 判 昭 和15 年 12月 13日 民 集 19巻 2381 頁 は 、保 険 金 受 取 人 の 指 定 変 更 の 意 思 表 示 は 、 保 険 者 に 対 し て す る 意 思 表 示 の 場 合 に は 、 相 手 方 の あ る 単 独 行 為 と し て 意 思 表 示 の 到 達 を も っ て そ の 効 力 を 生 じ る と 解 し て い る 。 こ れ に 対 し て 、 最 一 判 昭 和 62 年 10月 29日 民 集 41巻 7号 1527頁 は 、保 険 契 約 者 が 保 険 金 受 取 人 を 変 更 す る 権 利 を 留 保 し た 場 合 ( 同 法 675条 1項 但 書 ) に お い て 、 「 保 険 契 約 者 が す る 保 険 金 受 取 人 を 変 更 す る 旨 の 意 思 表 示 は 、 保 険 契 約 者 の 一 方 的 意 思 表 示 に よ つ て そ の 効 力 を 生 ず る も の で あ り 、 ま た 、 意 思 表 示 の 相 手 方 は 必 ず し も 保 険 者 で あ る こ と を 要 せ ず 、 新 旧 保 険 金 受 取 人 の い ず れ に 対 し て し て も よ く 、 こ の 場 合 に は 、 保 険 者 へ の 通 知 を 必 要 と せ ず 、 右 意 思 表 示 に よ つ て 直 ち に 保 険 金 受 取 人 変 更 の 効 力 が 生 ず る も の と 解 す る の が 相 当 で あ る 」 と 判 示 し 、 保 険 金 受 取 人 の 指 定 変 更 の 意 思 表 示 の 相 手 方 を 保 険 者 、新 旧 保 険 金 受 取 人 と す る 旨 を 明 ら か に し た 。し か し 、 こ の 意 思 表 示 が そ れ ら の い ず れ か に 到 達 す る こ と を 要 す る の か 、 ま た 意 思 表 示 の 相 手 方 を こ れ ら 3者 に 限 定 す べ き か に つ い て は 明 確 に は 示 さ れ て い な い 。 し か し 、 下 級 審 裁 判 例 で あ る が 、 近 時 の 多 く の 裁 判 例 は 後 述 す る 学 説 の 多 数 説 の 影 響 を 受 け 、 相 手 方 の な い 意 思 表 示 と 解 し て い る24。
次 に 学 説 で あ る が 、 相 手 方 の あ る 意 思 表 示 と 解 す る 見 解 と 相 手 方 の な い 意 思 表
24 大 阪 地 判 昭 和 60年1月 29日 文 研 生 命 保 険 判 例 集 4巻 146頁 、東 京 地 判 平 成 9年9月30 日 金 判 1029号28頁 、 そ の 控 訴 審 で あ る 東 京 高 判 平 成 10年3月 25日 金 判 1040号6頁 、 京 都 地 判 平 成 18年7月 18日 金 判 1250号43頁 等 。
示 と 解 す る 見 解 と の 対 立 が あ る が 、 後 者 が 多 数 説 で あ る25。
多 数 説 を と っ た 場 合 に は 、 指 定 変 更 の 意 思 表 示 の 有 無 が 明 確 で な く な り 紛 争 を 招 く と す る 批 判 も あ り 得 る が 、 指 定 変 更 の 意 思 表 示 が 外 部 か ら 明 確 に 確 認 で き る も の で あ れ ば 、 そ の 意 思 表 示 が 相 手 方 を 要 す る 必 要 も な い 。 そ し て 相 手 方 の あ る 意 思 表 示 と 解 す る 見 解 を 採 っ た と し て も 、 例 え ば 、 指 定 変 更 の 意 思 表 示 が 口 頭 で 行 わ れ て い た と き に は 、変 更 の 意 思 表 示 が 実 際 に 存 在 し た の か 否 か が 問 題 と さ れ 、 指 定 変 更 の 意 思 表 示 が 相 手 方 を 必 要 と す る か 否 か が 重 要 な 問 題 と な る と は 限 ら な い26。
多 数 説 が 保 険 金 受 取 人 の 指 定 変 更 を 単 独 行 為 と し て 相 手 方 の な い 意 思 表 示 と す る 理 由 の 一 つ に は 、 で き る だ け 保 険 金 受 取 人 の 指 定 変 更 権 に 関 し て は 保 険 金 受 取 人 の 意 思 を 尊 重 す べ き こ と 、 保 険 者 に よ っ て は 保 険 金 受 取 人 が 誰 で あ る か 自 体 に つ い て と く に 利 害 関 係 は な い こ と が 挙 げ ら れ て い る27。 も っ と も 、 保 険 金 受 取 人 の 指 定 変 更 を ど の よ う な 要 件 で 認 め る べ き か は 、 論 理 必 然 的 に 決 ま る も の で は な く 、 政 策 的 判 断 の 問 題 で あ る と も 指 摘 さ れ て い る28。
そ う で あ れ ば 、 先 述 の 通 り 、 契 約 申 込 段 階 で の 引 受 基 準 を 保 険 金 受 取 人 指 定 変 更 の 際 に も 、 適 用 す べ き 必 要 性 が あ る と 保 険 者 が 判 断 す れ ば 、 す な わ ち 、 保 険 金 受 取 人 の 指 定 変 更 に 関 し て も 、 保 険 者 は 重 大 な 利 害 関 係 を 有 す る と 考 え 、 約 款 で 保 険 者 の 同 意 を 必 要 と す る 旨 の 条 項 を 置 く こ と も 認 め ら れ る こ と に な る 。 こ の 場 合 、 問 題 と な る の は 、 保 険 者 の 同 意 を 要 求 す る こ と に な れ ば 、 保 険 契 約 者 兼 被 保 険 者 が 危 篤 な ど で 、 保 険 者 の 同 意 を 得 ら れ な い よ う な 場 合 、 保 険 契 約 者 の 意 思 を 尊 重 す る こ と が で き な い と い う こ と に な る 。 こ の 場 合 、 例 外 的 に 、 保 険 契 約 者 の 意 思 の 尊 重 を 認 め 、 保 険 金 受 取 人 の 指 定 変 更 の 効 果 を 認 め る こ と も 考 え ら れ な い こ と は な い 。 す な わ ち 、 こ の よ う な 場 合 に は 、 保 険 者 に 対 す る 対 抗 要 件 と し て の 通 知 も な さ れ て い な い の で あ り 、 保 険 者 は 、 従 来 の 保 険 金 受 取 人 に 支 払 え ば 免 責 さ れ る こ と に な る 。 そ の 後 、 新 旧 保 険 金 受 取 人 間 で 、 保 険 金 の 帰 属 を 巡
25 学 説 の 状 況 に 関 し て は 、 山 下 友 信 ・ 前 掲 書 496-499 頁 、 山 下 典 孝 「 判 批 」 保 険 事 例 研 究 会 レ ポ ー ト 188号17-18 頁 (2003年 ) 参 照 。
26 山 下 典 孝 「 保 険 金 受 取 人 の 指 定 ・ 変 更 」 金 判 1135号75頁 (2002年 ) 。 27 山 下 友 信 ・ 前 掲 書496頁 。
28 山 下 友 信 ・ 前 掲 書496頁 。
り 交 渉 し て も ら え れ ば 良 い と い う 考 え 方 も 成 り 立 つ で あ ろ う 。
し か し 、 対 抗 要 件 の 通 知 に つ き 、 被 保 険 者 死 亡 後 で あ っ て も 、 保 険 金 支 払 前 で あ れ ば 、 保 険 者 へ の 対 抗 要 件 の 通 知 を 肯 定 す る の が 下 級 審 裁 判 例 及 び 通 説 の 見 解 で あ る29。 こ の 見 解 に よ れ ば 、 保 険 者 の 同 意 が な い 場 合 に 、 保 険 契 約 者 の 保 険 金 受 取 人 指 定 変 更 の 意 思 表 示 が 明 確 に な さ れ て い た と き に は 、 保 険 者 は 、 新 旧 保 険 金 受 取 人 間 の 保 険 金 帰 属 を 巡 る 争 い に 巻 き 込 ま れ る 可 能 性 が あ る こ と に な る 。 そ の 場 合 に は 、 保 険 者 は 引 受 基 準 に 従 い 同 意 を 認 め る べ き 指 定 変 更 に 該 当 す る か 否 か を 主 張 立 証 し 、 紛 争 を 解 決 せ ざ る を 得 な い こ と に な る 。
次 に 今 日 の 実 務 で 最 も 問 題 と な る の は 、 約 款 で 保 険 金 受 取 人 の 指 定 変 更 に 保 険 者 の 同 意 を 規 定 し て い な い 場 合 に 解 釈 論 と し て 、 一 定 の 場 合 、 指 定 変 更 を 拒 否 で き る の か と い う こ と で あ る 。
生 命 保 険 買 取 会 社 が 、 保 険 料 支 払 の 負 担 に つ き 引 受 を 条 件 に 、 保 険 金 受 取 人 を 生 命 保 険 買 取 会 社 に 指 定 変 更 す れ ば 、 保 険 契 約 者 の 地 位 の 変 更 を 認 め た こ と と 同 じ 結 果 に な っ て し ま う 。 生 命 保 険 買 取 に 関 し て 、 こ れ を 否 定 す る 下 級 審 裁 判 例 及 び 学 説 が 指 摘 し た 一 般 的 な 問 題 点 は 、 保 険 金 受 取 人 指 定 変 更 の 場 合 に も 当 て は ま る こ と に な る 。 そ う で あ れ ば 、 解 釈 論 と し て も 、 モ ラ ル ハ ザ ー ド の 危 険 、 利 息 制 限 法 等 の 規 制 を 脱 法 す る 手 段 と し て 生 命 保 険 制 度 が 利 用 さ れ 生 命 保 険 制 度 の 信 頼 を 揺 る が す 内 容 等 、 と な り 得 る 保 険 金 受 取 人 の 指 定 変 更 は 、 そ の 指 定 行 為 自 体 に
29 服 部 榮 三 = 星 川 長 七 編『 基 本 法 コ ン メ ン タ ー ル 商 法 総 則・商 行 為〔 第 4 版 〕』287頁〔 金 澤 理 〕 ( 日 本 評 論 社 、 1996 年 ) 、 肥 塚 肇 雄 「 不 明 確 な 遺 言 に よ る 保 険 金 受 取 人 変 更 に 関 す る 若 干 の 考 察 」奥 島 孝 康・宮 島 司 編『 商 法 の 歴 史 と 論 理 - 倉 澤 康 一 郎 先 生 古 稀 記 念 』287 頁( 新 青 出 版 、2005 年 )、田 邊 康 平『 新 版 現 代 保 険 法 』244頁( 文 眞 堂 、1995年 )、西 嶋 梅 治 著『 保 険 法 〔 第 3 版 〕 』335 頁 ( 悠 々 社 、1998 年 ) 、 山 下 友 信 ・ 前 掲 書 502 頁 、 東 京 地 判 昭 和 47 年7月 28日 下 民 集 23 巻 5~8号 403頁 、 大 阪 高 判 昭 和 63年 12月 21日 文 研 生 命 保 険 判 例 集5巻 388頁 、 前 掲 ・ 東 京 地 判 平 成 9年9月30日 、 前 掲 ・ 東 京 地 判 平 成 10年 2月 23日 、 前 掲 ・ 東 京 高 判 平 成 10年3月25日 等 。 反 対 ・ 山 下 典 孝 ・ 「 保 険 金 受 取 人 の 指 定 ・ 変 更 」 金 判1135号 77 頁 ( 2002 年 ) 。
反 社 会 的 要 素 が あ れ ば 、 公 序 良 俗 違 反 と し て 、 指 定 の 効 力 を 否 定 す る 解 釈 も 成 り 立 ち 得 る 。 あ る い は 、 保 険 金 受 取 人 指 定 変 更 に 関 し て そ の 原 因 関 係 ( 対 価 関 係 ) に 重 大 な 問 題 が あ る 場 合 に は 、 当 初 よ り 当 該 指 定 変 更 行 為 が 否 定 さ れ る と い う 解 釈 論 も あ り 得 る か も 知 れ な い 。
し か し 、 従 来 の 多 数 説 及 び 近 時 の 下 級 審 裁 判 例 の 立 場 に よ れ ば 、 保 険 金 受 取 人 の 指 定 変 更 の 意 思 表 示 が な さ れ た 時 点 で 、 そ の 効 果 が 発 生 す る こ と に な る 。 そ う な る と 、 一 旦 、 保 険 金 受 取 人 の 指 定 変 更 の 効 力 を 認 め た 上 で 、 保 険 者 の 引 受 基 準 に 妥 当 し な い 保 険 金 受 取 人 指 定 に つ い て 、 そ の 意 思 表 示 の 撤 回 を 保 険 契 約 者 に 求 め る し か な い こ と に な る 。 確 か に 、 こ の よ う な 理 論 構 成 が 素 直 な 解 釈 と い え る 。 し か し 、 保 険 契 約 者 が 保 険 金 受 取 人 指 定 変 更 の 意 思 表 示 の 撤 回 を 行 わ な け れ ば 、 結 局 は 、 保 険 契 約 引 受 段 階 の 引 受 基 準 容 易 に 回 避 す る 抜 け 道 が 残 る こ と に な っ て し ま う こ と に な る 。 解 釈 論 と し て 難 し い の で あ れ ば 、 実 務 サ イ ド と し て は 、 約 款 に 何 ら か の 手 当 を す る こ と が 今 後 は 、必 要 と な る30。も っ と も 、保 険 金 受 取 人 の 指 定 変 更 の み の 方 法 で 、 生 命 保 険 買 取 を 行 う 場 合 に は 、 保 険 契 約 者 に 保 険 金 受 取 人 の 指 定 変 更 権 の 留 保 を 放 棄 さ せ る 必 要 性 が 生 じ る 31。た だ 、保 険 金 受 取 人 の 指 定 変 更 権 の 留 保 を 放 棄 す る 旨 の 求 め を 保 険 契 約 者 が 保 険 者 に 行 っ た と し て も 、 保 険 者 の 側 と し て 、 単 に 、 保 険 契 約 者 が 権 利 行 使 を し な け れ ば 良 い だ け で あ る と し て 、 特 約 の 求 め に は 応 じ な い こ と に な る で あ ろ う 。 そ う な る と 、 保 険 金 受 取 人 指 定 変 更 の み で は 、 確 実 に 保 険 金 の 取 得 を 確 保 で き な い と い っ た デ メ リ ッ ト が あ る こ と な り 、 こ の 利 用 形 態 で の 保 険 契 約 者 の 地 位 の 変 更 を 回 避 す る 手 段 と は 必 ず し も な り 得 な い と い っ た こ と も 考 え ら れ な く は な い 。
30 保 険 金 受 取 人 の 指 定 変 更 に 被 保 険 者 同 意 以 外 に 、保 険 者 の 同 意 を 要 す る 旨 を 約 款 に 設 け る こ と は 、 保 険 契 約 者 の 権 利 を 不 当 に 制 限 す る と い っ た 批 判 も 成 り 立 ち 得 る が 、 今 日 の 社 会 状 況 を 見 た 場 合 、 モ ラ ル ハ ザ ー ド の 予 防 的 見 地 か ら い っ て 、 不 当 条 項 と ま で は 解 せ な い も の と 考 え る 。
31 保 険 金 受 取 人 は 自 己 固 有 の 権 利 と し て 保 険 金 請 求 権 を 取 得 す る こ と が 認 め ら れ て い る( 最 3小 昭 和 40年2月2日 民 集 19巻1号1頁 、最1小 判 平 成 14年11月5日 民 集56巻8号2069 頁 、 最 2小 判 平 成 16年10月29日 民 集 58巻 7号1979頁 等 ) 。 そ の た め 、 生 命 保 険 買 取 契 約 の 内 容 と し て 、 生 命 保 険 買 取 会 社 が 生 命 保 険 を 買 い 取 り 、 か つ 保 険 金 受 取 人 の 指 定 変 更 を 行 っ た と し て も 、 そ の 後 、 別 の 誰 か ら 保 険 金 受 取 人 に 指 定 変 更 し た 場 合 に は 、 新 た な 保 険 金 受 取 人 の 権 利 が 優 先 さ れ る こ と に な る 。 そ の た め 、 生 命 保 険 買 取 会 社 は 確 実 に 生 命 保 険 売 買 契 約 に 基 づ き 、 死 亡 保 険 金 請 求 権 を 取 得 す る こ と に は な ら な い 。
5 お わ り に
以 上 、 保 険 契 約 関 係 者 の 変 動 に 関 し 若 干 の 検 討 を 加 え た 。 生 命 保 険 買 取 制 度 を 巡 っ て は 、 個 別 事 案 を 具 体 的 に 検 討 し 、 モ ラ ル ハ ザ ー ド の 危 険 が な い 場 合 に は 、 生 命 保 険 買 取 を 認 め 、 保 険 契 約 者 の 地 位 の 変 更 を 肯 定 す べ き 見 解 が あ る が 、 私 見 は こ れ を 否 定 的 に 解 す る 。 も っ と も 、 今 後 、 立 法 的 な 規 制 に よ り 生 命 保 険 買 取 制 度 を 巡 る 社 会 的 な 懸 念 が 払 拭 さ れ る こ と に な れ ば 、 話 は 別 で あ る 。 ま た 、 生 命 保 険 買 取 と は 別 の 方 法 と し て 、 生 存 給 付 保 険 制 度 の 拡 充 や 、 保 険 金 額 を 基 準 と し て 契 約 者 貸 付 等 の 新 た な 制 度 の 構 築 な ど も 提 案 さ れ て い る32。
今 後 、 立 法 論 的 に 、 生 命 保 険 買 取 制 度 に 関 す る 法 規 制 に つ い て 、 整 備 を 進 め る 方 向 に 向 か う の か 、 あ る い は 、 生 前 給 付 保 険 等 の 充 実 に つ い て 生 命 保 険 会 社 に そ れ を 委 ね る 方 向 に 向 か う の か 、 今 後 の 我 が 国 の 社 会 ・ 経 済 状 況 等 を 総 合 的 に 判 断 し て 慎 重 な 議 論 が 必 要 と な る と 考 え る 。
当 「 レ ジ ュ メ 」 の 著 作 権 は 日 本 保 険 学 会 に 帰 属 し ま す 。
32 野 村 ・ 前 掲 7頁 参 照 。