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分裂酵母を用いた経時寿命 制御因子の探索と機能解析 - J-Stage

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Academic year: 2023

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【解説】

「健康で長生きしたい」は,多くの人の願いだろう.近年の 健康ブームとも相まって,人々の健康長寿への意識はますま す高まっている.食による健康維持や,薬による老年疾患の 克服などを通して健康長寿社会を構築するためには,寿命や 老化に関する基礎知識の蓄積が必須である.近年,寿命の決 定機構に関しては,ヒトから酵母まで共通性があると指摘さ れている.細胞レベルでの寿命・老化研究に適したモデル生 物である酵母を用いて,寿命制御機構の理解を目指している 研究を中心に,細胞寿命研究の現状を紹介するとともにその 将来を展望する.

寿命はどのようにして決まるのか? それを理解する ことは現代生物学が取り組むべき挑戦的課題の一つであ る.酵母からヒトまでを対象とした研究が進展した結 果,寿命研究が新たな研究フロンティアとして浮かび上 がってきた.筆者らは,分裂酵母をモデルとして細胞の 経時寿命(増殖を停止した細胞の生存可能期間)がどの ように決まるのかを解明しようとしている.このため,

経時寿命が延長する分裂酵母の変異株を取得・解析する 試みと,高発現した際に分裂酵母の経時寿命を延長する 因子の探索とを並行して進めてきた.

本 解 説 に お い て は,経 時 寿 命 が 延 長 す るP型H-  ATPase ; Pma1の変異株(筆者らはこれを長生き変異株 と呼称している)

,ならびに高発現すると分裂酵母の経

時寿命を延長する新規因子Ecl1ファミリー(筆者らは これを長生き因子と呼称している)に焦点を当て,これ らが経時寿命を延長する機構について寿命研究の現状と 併せて紹介する.

寿命研究のモデル

細胞寿命の制御に関しては,酵母からヒトまで共通性 があることが指摘されている.これは,種々のモデル生 物を用いた寿命研究が進んだ結果による.現在までに明 らかにされている寿命延長効果として最も有名なのは

「カロリー制限」(caloric restriction : CR)(または「食 餌制限」(dietary restriction : DR))である.食餌制限 は摂取カロリーを制限すること(食べる量を減らすこ と)であるが,酵母などの場合には,培地に添加するグ

分裂酵母を用いた経時寿命 制御因子の探索と機能解析

饗場浩文,大塚北斗

Characterization of Factors Involved in Chronological Lifespan in  Fission Yeast

Hirofumi AIBA, Hokuto OHTSUKA, 名古屋大学大学院創薬科学 研究科

(2)

ルコースの濃度を下げることで食餌制限を行なう.表

1

には,寿命研究に用いられるモデル生物とそれぞれにつ いて明らかになっている寿命延長効果についてまとめ た(1)

.栄養失調にならない程度の食餌制限によって多く

の生物種(アカゲザル,マウス,魚,ハエ,線虫,酵 母)の寿命が延長することが知られている.アカゲザル の場合には,摂取カロリー量を70%(3割減)にするこ とで,寿命延長効果が見られる.その際,癌や心疾患,

糖尿病など,加齢に伴う疾病のリスクも低減されるとい う(2)

.おそらくヒトでも同様の効果があるのだろう.

他方,遺伝的な変異や薬剤処理によっても寿命延長が 認められる.これまでに寿命が延長すると報告されてい る変異の多くは,栄養源の情報伝達系に生じた変異であ ることが知られている.図

1

には,生物間で保存された 栄養情報伝達経路と寿命との関連を示した.多くの生物 種で,インシュリン/インシュリン様成長因子 (IGF) 情 報伝達経路や,TOR (target of rapamycin) 経路の活性 が低下すると寿命延長が見られる.これらは,食餌制限 による栄養飢餓状態と同様の生理的変化が細胞に生じた 結果であると考えられている.したがって,どのように 表1寿命・老化研究に用いられるモデル生物

食餌制限 変異または薬剤処理

出芽酵母 3倍 10倍(飢餓/DR)

線虫 2 〜3倍 10倍

ショウジョウバエ 2倍 60 〜70%

マウス 30 〜50% 30 〜50% 

(DRとの組み合わせ〜100%)

サル 延長傾向あり 未解析

ヒト 未解析 未解析

食餌制限 (DR) がひき起こす寿命延長効果ならびに遺伝的変異や 薬剤処理によって起こる寿命延長効果をまとめた.ヒトに関して の長期的な影響についてはほとんど不明である.文献1を参考に 改変した.

図1各種生物に保存された栄養情報伝達系と寿命制御のモデル

食餌制限(カロリー制限)はTOR-S6K (ribosomal protein S6 kinase) 情報伝達系,RAS-AC (adenylate cyclase)-PKA (protein kinase A) 

情報伝達系,ならびにインシュリン/IGF-1情報伝達系を抑制する.栄養が豊富な状況下ではこれら保存された情報伝達系は活性化される.

各情報伝達系の下流には,抗老化に関わる転写因子(GIS1, MSN2/4, HIF-1, DAF-16, FOXOなど)が存在し,食餌制限時にこれらが活性 化されることで寿命延長に関わる遺伝子群が発現される.

(3)

食餌制限が寿命延長効果を示すのかを理解することは,

加齢に伴う機能低下や疾病の予防法,ならびに創薬ター ゲットを明らかにするのに重要である.

酵母の寿命研究

酵母の寿命は2つの側面から研究される.一つは分裂 寿命 (replicative life span), もう一つは経時寿命(chron- ological life span) である(図

2

.分裂寿命は,細胞が

死ぬまでに分裂する回数で測定され,主として分裂の様 子が観察しやすい出芽酵母を用いて解析が行なわれてい る.出芽酵母は,出芽によって娘細胞を生み出すため,

顕微鏡下において新しい母細胞から生み出された娘細胞 をマニピュレータを用いて分離し続け,母細胞がそれ以 上出芽(分裂)できなくなるまでの回数を解析する.通 常,出芽酵母は,20回程度出芽をすると,ほぼ半分の 細胞はそれ以降分裂をしなくなり死滅する.この過程 で,母細胞は肥大化し,増殖速度ならびに接合などの性 的分化能力も低下することが知られている.

出芽酵母を用いた分裂寿命の研究では米国マサチュー セッツ工科大学 (MIT) のLeonard Guarente博士なら びに彼のポスドクであったDavid Sinclair博士(現ハー バード大)らが先駆的な研究を進めた.彼らは,カロ リー制限による寿命延長にはSir2(高等生物にもそのホ モログが保存されておりサーチュインと総称される.

Sir2はNAD依存的脱アセチル化酵素活性を有する)が

必要であることを示すと同時に,ブドウの皮に豊富に含 まれるポリフェノールの一種,レスベラトロールがサー チュインを活性化することを示した.さらに,レスベラ トロールを培地に添加して,Sir2を活性化すると酵母の 寿命が延びることを示した(3)

.一方,分裂酵母も有限の

回数(10数回)分裂をすると死滅するという報告があ るが,均等分裂を行なうため,顕微鏡下で母細胞と新生 細胞を区別するのが難しく,分裂寿命の研究はあまり進 展していない(4, 5)

他方,経時寿命は,分裂酵母,出芽酵母の双方におい て解析が行なわれている.経時寿命とは,分裂を停止し た細胞(非分裂状態の細胞)が生存する期間を言う.具 体的には,図2に模式的に示したように,液体培養をし て増殖曲線を描きながら,生存曲線を同時に作成する.

酵母は,対数増殖期を経て定常期に入り増殖を停止する ので,この間,経時的にサンプリングし,コロニー形成 率を求めることで定常期に進入後の生存率を解析する.

縦軸に生存率の対数,横軸に定常期進入後の経過時間

(培養時間)をとると,野生株はある傾きで生存率が低 下する.これより負の傾きが大きい場合は,経時寿命が 短い(早死に)

,負の傾きが小さい場合には,経時寿命

が長い(長生き)と解釈する.経時寿命は,培地の組成 や菌株ごとに変化が大きいので,培養条件や,菌株の遺 伝的バックグラウンドを揃えて測定することが重要であ る.

経時寿命を議論する場合,最長寿命 (maximum life 

図2酵母における2つの寿命

(左)分裂寿命は主に出芽酵母を用い て解析される.母細胞が娘細胞を出 芽 す る 回 数 を 測 定 し て 評 価 す る.

(右)経時寿命は,出芽酵母,分裂酵 母ともに解析される.定常期に進入 後,増殖を停止した細胞がどれだけ の期間,生存率を維持するかを測定 して評価する.筆者らの研究では,

便宜上,経時寿命が短いものを「早 死に」,長いものを「長生き」と呼 ぶ.

(4)

span) と平均寿命 (mean life span) に注目することが 必要である.最長寿命とは,酵母が液体培地で生育でき る最大期間であるが,これは,培地の組成にも大きく影 響される.経験的に,出芽酵母ではSD培地 (Yeast Ni- trogen Base w/o Amino acid+Glucose)

Supplement が用いられる.分裂酵母の最少培地としては歴史的に EMM培地が用いられることが多い.EMM培地のほう が分裂酵母を長期間生存させるが,筆者らは実験のしや すさなどを考慮してSD培地を用いている.ただし,分 裂酵母はSD培地で早く死滅するので,寿命の延長(あ るいは短縮)傾向が,EMM培地,あるいは水の中で菌 を培養した場合においても認められることを確認した上 で,長生き(あるいは早死に)の判断を下すようにして いる.

他方,平均寿命は生存率が当初の50%にまで低下す る時間,すなわち半分の細胞が死滅するのにかかる時間 で表わす.長期間にわたる培養では,適応再成長(変異 などが生じて,まわりの死細胞の栄養を摂取して一部の 菌が再増殖できるようになること.Gaspingともいう)

が起こり,経時寿命を正確に判断できないことがある.

この場合,定常期へ進入した初期に生存率が低下する様 子を測定し,平均寿命を求めることで,経時寿命を評価 する.これは,適応再成長などにより,生存率が一定の 傾きをもって低下しないような場合には,注意を要する 点である.

高発現した際に寿命を延ばす長生き因子

経時寿命に関わる因子を検索するに当たり,高発現す ることにより経時寿命を延ばす遺伝子を探索した.これ は,遺伝学でgene dosage effect(遺伝子量を増加させ ることで表現型が現われること)により効果を示す因子 のスクリーニングとしてよく用いられる手法である.そ こで,まず分裂酵母で安定に維持されるプラスミドpD- bletを用いて分裂酵母の染色体ライブラリーを作製し

た.pDbletでは第3染色体由来の に由来する DNAがタンデムに2つ挿入されており (  doublet),  形質転換効率が高く,安定して子孫に受け継がれ(細胞 分裂に伴う安定性:mitotic stabilityは73%)

,平均コ

ピー数は6と計算されている(6)

.pDbletをもとに,筆者

らは,栄養要求性マーカーを に,かつマルチク ローニングサイトに II部位を作製したプラスミド pLB-Dbletをライブラリー作製ベクターとして用いてい る.

ライブラリーを用いて分裂酵母を形質転換し,経時寿 命が延びるクローンを選択した.具体的な取得の経緯は 原著(7)に譲るが,筆者らはある短いDNA断片 (1.3 kb) 

を含むクローンが分裂酵母の経時寿命を延長させること を見いだした.この断片中には,80アミノ酸をコード しうる短いORFが存在したが,当初はこの領域に遺伝 子の存在は想定されていなかった.筆者らは以下の結果 を得て,本ORFがタンパク質をコードすると結論した.

①当該ORF部分がRNAに転写される.②ORFに相当 するタンパク質を分裂酵母に発現させると経時寿命延長 効果がある.③ORF部分にナンセンスコドンを導入す ると経時寿命延長効果が認められなくなる.④ORFの C末端にGFPを融合させると,ORF-GFP融合タンパク 質の発現が確認される.以上の結果から,本ORFは80 アミノ酸からなるタンパク質をコードすると結論した

(図

3

さて,本ORFを高発現すると分裂酵母の経時寿命が 延びるので,筆者らはこの遺伝子を (extender of  chronological lifespan : 経時寿命延長因子)と命名した.

Ecl1タンパク質がどのように機能し,寿命を延ばすの かが最も興味ある点である.したがって,種々の観点か らEcl1の機能を解析した.まず,先のEcl1-GFPの融合 タンパク質を用いて,Ecl1の細胞内局在を調べたとこ ろ,主に核に局在することがわかった.また, ‒ mRNAならびにEcl1タンパク質の発現を調べてみると,

液体培養において分裂酵母が対数増殖期から定常期へ進

図3分裂酵母Ecl1ファミリーの構 造

Ecl1, Ecl2, Ecl3  に保存されたアミノ 酸を色字で示した.機能発現に必要 な保存された4つのシステイン残基 には*を付した.

(5)

入する時期に,一過的にその発現が上昇することがわ かった.すなわち,Ecl1は対数増殖が終わり,定常期 へと移行する際に何らかのシグナルに応答して,主とし て転写のレベルで発現が制御されていることが明らかに なった(7)

.さらに,この一過的な発現誘導に関与するシ

グナルを解析したところ,窒素源が欠乏することが主要 な誘導シグナルとなっていることがわかった(8)

遺伝学的に機能を解析するため, の欠失変異株 を作製し,その経時寿命を測定した.しかし, 欠 失株の経時寿命は野生株と変化がなかった.このこと は, 以外にも機能が重複する因子が分裂酵母に存 在することを示唆したので,相同因子の検索を行なった ところ,あと2つ,類似したタンパク質をコードしうる 遺伝子領域を見いだした.Ecl1と同様,この領域にも 遺伝子を同定し,これらを と命名した.そ れぞれ84アミノ酸,89アミノ酸からなる小さなタンパ ク質をコードする(図3)

.Ecl1同様に,Ecl2, Ecl3タン

パク質も高発現すると分裂酵母の経時寿命が延長したの で,これらEcl1, Ecl2, Ecl3からなる経時寿命延長因子 をEcl1ファミリーと名付けた(9)

を 同時に欠損させた変異株は経時寿命が短くなる傾向が見 られた(11)

.さらに,Ecl1ファミリーを高発現して経時

寿 命 が 延 び て い る 細 胞 で は,細 胞 内 の 活 性 酸 素 種 

(ROS) の量が低下することや,酸化ストレス(過酸化 水素)への耐性能が上昇することもわかった.図3に Ecl1ファミリータンパク質の構造を並べて示したが,

特徴的な構造として4つの保存されたシステイン残基が 保存されている.このどれに変異を導入しても,Ecl1 の活性が損なわれるので,Ecl1ファミリーの機能発現 に重要な役割を果たしていると予想している(未発表)

配列の類似性から,この配列には金属が結合すると予想 しているが,詳細は今後の研究を待つことにしたい.

Ecl1, 2, 3の役割分担

Ec11, 2, 3はその相同性の高さから,明らかに重複し て増えた遺伝子であることが伺い知れる.出芽酵母には Ecl1と相同性をもつ遺伝子は1つのみである(出芽酵母 の も同様に,高発現すると経時寿命を延長する.

また の欠失株は経時寿命が短縮する(10)

.さら

に,ごく近縁の にも当

該遺伝子は1つである.なお,Ecl1と類似のタンパク質 は,酵母やカビの一部には見つかるが,より高等な生物 には見つからない.おそらく,真菌類に広まったもので あろうと考えられる.

では,分裂酵母のこれら三つ子のタンパク質はどのよ うな役割分担をしているのであろうか? それを知るた めに,各遺伝子の発現パターンを調べた.先に述べたよ うに,Ecl1は窒素源欠乏を一つのシグナルとして,細 胞が対数増殖期から定常期へ移行する際に一過的に発現 上昇する.Ecl3はこれまで調べた限りでは,培養条件 の変化にかかわらずほぼ一定の発現を示した.Ecl2に ついては,興味深いことに熱ショックに応答して転写が 誘導されることが明らかとなった.さらに,この誘導に は熱ショック転写因子Hsf1が関与し,Hsf1は 遺伝 子上流に結合して, の熱ショックによる転写誘導 に関与することがわかった.加えて,Hsf1を高発現す ると分裂酵母の経時寿命が延長することも見いだした が,Hsf1による経時寿命延長は, 遺伝子を中心と したEcl1ファミリーに依存していることが明らかと なった(11)

ここから浮かび上がってきたのは,Ecl1ファミリー 遺伝子は,それぞれが異なるシグナルに応答するように 分化してきた可能性である.窒素源欠乏情報はEcl1を 介して,熱ショック情報はEcl2を介して,細胞の経時 寿命延長プログラムを作動させていると考えることがで きる.Ecl1ファミリーが高発現すると,カタラーゼを コードする 遺伝子が誘導され酸化ストレス耐性が 向上する.同時に,有性生殖のマスター転写因子Ste11 も誘導されるので,その支配下にある減数分裂・胞子形 成の進行に関わる遺伝子群の発現も併せて亢進する.恐 らくEcl1ファミリーは,各種ストレスシグナルに応答 して,分裂酵母が過酷な環境下で生命を維持するための 仕組みとして進化してきたのだろうと予想している.熱 ストレスも,窒素源飢餓ストレスも,その後の分裂酵母 の経時寿命を延ばす顕著なストレスシグナルであること は,興味深い.

最近,2成分制御系のレスポンスレギュレーター Prr1 が,Ecl1ファミリーによる寿命延長に必須なことが明 らかとなった(12)

.これまでの知見を総合して,現状に

おけるEcl1ファミリーの寿命延長機構のモデル(作業 仮説)を図

4

に示す.

長生き変異株の取得と解析

高発現により寿命を延ばす遺伝子の解析からEcl1 ファミリーが見いだされた.しかし,これらの解析には 絶えず,gene dosage effectによる間接的な効果を見て いる可能性がつきまとう.このような観点から筆者ら は,変異によって経時寿命が延びる「長生き変異株」の

(6)

図4Ecl1ファミリーによる経時寿 命延長機構のモデル

Ecl1ファミリーはそれぞれ異なるシ グナルに応答する.Ecl1は窒素源枯 渇に,Ecl2は熱ストレスにそれぞれ 応答する.Ecl1ファミリーはどれも 高発現すると経時寿命を延長させる プログラムを起動するとともに,酸 化ストレス耐性能ならびに接合・減 数分裂・胞子形成を介した有性生殖 の亢進が起こる.劣悪な環境に適応 し,生き延びるための機構かも知れ ない.図中Hsf1, Prr1, Hsr1, Ste11は 転写因子,Ctt1はカタラーゼを示す.

スクリーニングも進めてきた.分裂酵母はSD液体培地 で培養すると3日後にはその生存率がほぼ1000分の1に 低下する.したがって,1週間程度培養した後(ほとん どの分裂酵母が死んだ後)にその培養液の一部を新たな 培養液に植え継ぐ経代培養を5回繰り返した.こうした 長期間の培養液には,長生き変異株が濃縮されているこ とが期待されるので,ここから経時寿命が延長した変異 株を複数分離した.このような「長生き変異株」の一つ が,P型H-ATPaseをコードする 遺伝子に生じ たミスセンス変異であった(13) (図

5

-A)

.Pma1は細胞

質膜に存在するATPaseであり,細胞外にHを汲み出 して,膜を介したHの濃度勾配を形成するのに必要な 生育に必須の遺伝子である(図5-C)

筆者らは,取得したミスセンス変異によってPma1活 性がどのように変化するのかを解析した.Pma1が触媒 する反応は,以下の通りである.

ATP

+H

2O

+細胞内H

 →ADP

+phosphate +細胞外H

そこで,野生株ならびに長生き変異株から細胞破砕液を 調製し,ATPを基質として,上記反応により生じる無 機リン酸を定量した.その際,細胞質膜に存在するH-  ATPaseはバナジン酸に感受性があることが知られてい るので,バナジン酸感受性のATPase活性をPma1活性 として解析した.その結果,長生き変異株ではPma1活

性が野生株の約半分程度に減少していることがわかった

(図5-B)

.Pma1のタンパク質量やmRNA量は野生株と

長生き変異株との間で差が認められなかったので,上記 Pma1活性の差は比活性が低下したことによるものであ る.

なぜ,Pma1活性が低下すると経時寿命が延びるので あろうか? 出芽酵母における解析から,グルコースを はじめとする栄養物質は,細胞膜に形成されたHの濃 度勾配を利用してHとの共輸送(シンポート)によっ て細胞内に取り込まれることが示唆されている.Pma1 は細胞膜にHの濃度勾配を形成するまさにその酵素で あるため,長生き変異株ではHの濃度勾配形成が低下 し,その結果グルコースの取り込みが低下しているので はないかと予想した.実際に,細胞へのグルコースの取 り込み活性が低下していることは,間接的ながら以下の 実験結果から推定できた.すなわち,酵母を液体培地で 増殖させて,培地のグルコース消費量を解析してみる と,野生株に比べて長生き変異株の消費量は明らかに少 なかった.興味深いのは,長生き変異株の対数増殖期に おける倍加時間は野生株とほぼ同等であったことであ る.すなわち,長生き変異株は増殖速度が遅い(ゆっく り増殖する)のではなく,定常期に入ってからの生存率 が高く維持されることで長生きなのであった.なお,培 養に伴う培地のpH変化は野生株と長生き変異株との間

(7)

に差はなかった(13)

寿命制御の試み

前述のように,寿命延長に関わる因子の一つとして Pma1を同定し,Pma1活性が低下することで分裂酵母 が長生きすることを見いだした.では,Pma1活性を人 為的に操作すれば,分裂酵母の経時寿命を制御できるで あろうか? この挑戦的な試みは,案外うまくいきそう である.

前述のように,バナジン酸は細胞質膜に存在するH-  ATPaseの活性を阻害する.そこで,バナジン酸を培地 に添加して分裂酵母を長生きさせることができるか否か を確認したところ,濃度依存的に分裂酵母の経時寿命が 延びた(図5-D)(13)

.バナジン酸はPma1活性のみを阻

害するわけではないが,酵素活性の解析からPma1がそ の活性の大半を占めていることが予想されるので,バナ

ジン酸添加による寿命延長効果はPma1活性が阻害され た結果によるものと予想している.このことは,Pma1 を標的とした阻害剤が,少なくとも酵母においては寿命 制御に利用できる可能性を示唆している.また,グル コースを細胞内に取り込むトランスポーターも,その活 性を阻害する薬剤が寿命を制御するツールとなる可能性 がある.Pma1は広く高等生物にも保存されているの で,いつの日にかPma1をターゲットとした長寿薬が開 発される夢を見ている.

おわりに

寿命研究は,その性質から多くの研究者の興味を引 き,その研究の歴史も古い.しかし,寿命は生物種によ りまちまちであり,かつ多様な要因により影響されると 考えられるため,科学の対象とするには難しい側面が あった.しかし,モデル生物を対象に寿命研究が進んだ 図5長生き変異株として同定されたPH-ATPase, Pma1

(A) Pma1タンパク質の細胞質膜における配向性と長生き変異が生じた位置(☆印)を模式的に示した.(B) 野生株と長生き変異株の Pma1活性を測定した.長生き変異株は野生株の約半分の活性を示した.(C) Pma1の働きの模式図.Pma1は,細胞質膜外にHを汲み出 し,Hの濃度勾配を形成する.グルコースはHとの共輸送によって細胞内に取り込まれる.バナジン酸は,細胞質膜に存在するPma1活 性を阻害する.(D) バナジン酸によるPma1活性の阻害が経時寿命延長に及ぼす効果.バナジン酸を野生株の培地に添加し,経時寿命を測 定すると,濃度依存的に寿命が延長した.

(8)

結果,細胞レベルで共通の機構が存在することが明らか になってきた.酵母を用いた寿命研究は,これまでの科 学の発展の歴史にあるように,細胞レベルでの寿命制御 研究には有効かつ重要な知見を与えてくれるものと期待 している.今後,若い研究者の参入により,この分野が 大いに進展することを期待する.

謝辞:本解説で紹介した内容のうち,筆者らの研究は,科学研究費補助 金に加え,旭硝子財団,長瀬科学技術振興財団,ならびに科学技術振興 機構の支援によって行なわれたものであり,ここに感謝いたします.

文献

文献14,  15  に,寿命・老化研究に興味をもたれた方向けに,参 考となる成書を2冊あげた.また,分裂酵母を中心とした寿命・

老化研究の総説を文献16にあげた.

  1)  L. Fontana, L. Partridge & V. D. Longo : , 328, 321 

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  16)  A. Roux, P. Chartrand, G. Ferbeyre & L. A, Rokeach : , 65, 1 (2010).

小 川  毅 彦(Takehiko Ogawa) <略 歴>1985年横浜市立大学医学部卒業/

1989年同大学大学院医学研究科修了(病 理学専攻),同大学医学部泌尿器科入局/

2005年同大学大学院医学研究科泌尿器病 態学准教授,現在にいたる.この間,1995

〜 1998年米国ペンシルベニア大学獣医学 部生殖生理学教室(Brinster博士)に留学

<研究テーマと抱負>精子幹細胞,精子形 成<趣味>写真

越智ありさ(Arisa Ochi) <略歴>2010 年徳島大学医学部栄養学科卒業後,同大学 大学院栄養生命科学教育部修士課程を経 て,現在同博士課程<研究テーマと抱負>

筋萎縮を防ぐ薬剤・機能性食品の開発<趣 味>料理,ピアノ

河村 正二(Shoji Kawamura) <略歴>

1986年東京大学理学部生物学科人類学課 程卒業/ 1988年同大学大学院理学系研究 科人類学専攻修士課程修了/ 1991年同博 士課程修了,日本学術振興会特別研究員 

(PD)/ 1992年 米 国 Syracuse University  Postdoctoral Research Associate / 1996 年東京大学大学院理学系研究科助手(生物 科学専攻人類学大講座)/1999年同大学大 学院新領域創成科学研究科助教授(2007 年4月より准教授に改称)(先端生命科学 専攻人類進化システム分野)/2010年同教

授,現在にいたる<研究テーマと抱負>野 生霊長類(ヒトを含む)と魚類を中心に感 覚系遺伝子の種内および種間多様性の実態 を明らかにし,変異間の機能的相違および 適応的相違を検証する.研究室での実験か ら野外のフィールドワークまで枠に捉われ ない研究を展開したい<趣味>ビートルズ を聴くこと

金城 雄樹(Yuki Kinjo) <略歴>琉球 大学大学院医学系研究科卒業後,米国ラホ ヤアレルギー免疫研究所ポスドク,リサー チサイエンティストを経て,2009年より 国立感染症研究所生物活性物質部第三室

(免疫制御研究室)室長,現在にいたる

<研究テーマと抱負>NKT細胞による感 染防御<趣味>スポーツ(観戦)

河 野  尚 平(Shohei Kohno) <略 歴> 2007年徳島大学医学部栄養学科卒業/

2009年同大学大学院栄養生命科学教育部 博士前期課程修了/ 2012年同博士後期課 程修了(栄博),同大学大学院ヘルスバイ オサイエンス研究部研究補助員,現在にい たる<研究テーマと抱負>廃用性筋萎縮の 発生メカニズムの解明<趣味>阿波踊り

(男踊り)

蔡   晃  植(Fang-Sik Che) <略 歴> 1983年朝鮮大学理学部化学科卒業/ 1991

年理化学研究所奨励研究員.農博(東京大 学)/ 1993年同研究所基礎化学特別研究 員/ 1994年奈良先端科学技術大学院大学 助手/ 2005年長浜バイオ大学バイオサイ エンス学部教授/ 2007年同バイオサイエ ンス研究科教授(兼任),現在に至る<研 究テーマと抱負>植物による病原菌認識と 免疫誘導機構を分子レベルで明らかにした い<趣味>自転車,ジョギング

佐 藤  英 世(Hideyo Sato) <略 歴> 1985年筑波大学第二学群生物学類卒業/

1991年同大学大学院医学研究科修了/

1994年ロンドン大学キングスカレッジ博 士研究員/ 1996年筑波大学基礎医学系講 師/ 2003年山形大学農学部助教授/ 2010 年同教授,現在にいたる<研究テーマと抱 負>xCTの 生 理 機 能 の 解 明,マ ク ロ ファージの細胞生物学的研究<趣味>読書 鈴木茉里奈(Marina Suzuki) <略歴>

2010年京都府立大学農学部生物資源化学 科卒業/ 2012年奈良先端科学技術大学院 大学バイオサイエンス研究科バイオサイエ ンス専攻修了見込み<研究テーマと抱負>

大腸菌のシステイン/シスチンシャトルシ ステムにおけるシスチン取り込み機構の解 析<趣味>海外旅行

プロフィル

Referensi

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受験環境 • 安定したインターネット環境があること • 個室での受験が可能なこと • 事前に解答用紙を印刷できること • 解答用紙をスキャンまたは写真撮影し、E メールで送信が可能なこと • Zoom が利用可能であること • 試験中の様子がわかるようカメラ、マイクがパソコンに内蔵されている、あるいは外付けで利用 可能な環境にあること 受験料