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岡
岡山 山理 理科 科大 大学 学初 初年 年次 次教 教育 育に にお おけ ける る ア
アカ カデ デミ ミッ ック ク・ ・ラ ライ イテ ティ ィン ング グの の教 教育 育改 改革 革
-読解力・思考力・表現力を育てる実践研究-
荻原桂子
岡山理科大学教育学部中等教育学科
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1.. ははじじめめにに
岡山理科大学1年生を対象とした全学部にかかわる初年次教育としてのアカデミック・
ライティングの教育改革案について考察する。
大学での初年次教育として、論理的な文章作成の指導は重要である。本研究は、アカデミ ックスキルとして、学生の日本語表現力を高めるとともに論理的な文章作成の能力を開発 する方法を提案することを目的とする。活字離れが進む現代社会において、大学生の読解 力・思考力・表現力が低下していると言われている。大学生としての論理的な文章作成能力 を養成し、認識の深化と視野の拡大に努めるアカデミック・ライティングの指導方法を考案 する。
大学生として学術的な文章を書くことは、論理的な日本語表現を身につけることである。
日本語表現に必要な運用能力として、読解力・思考力・表現力がある。読解力とは、文献や 資料を読んで、内容を理解する力で日本語表現の土台となる。思考力とは、論理的な思考の 骨格であり読解で得た知識・情報を論理的に整理・分析・類推し、自分の考えを組み立て、
仮説からさまざまな結論を導く能力である。表現力とは、読解力・思考力によって得られた 考えを豊かな語彙によって客観化する能力である。大学生として、さらには社会人として、
複雑な現代社会をより良く生き抜く重要な能力が、総合的な日本語表現力なのである。
本稿は、岡山理科大学初年次教育におけるアカデミック・ライティングの教育改革として、
読解力・思考力・表現力を育てる教育改革案について考察するものである。
22.. アアカカデデミミッッククススキキルルととししててののラライイテティィンンググ
資料を活用して論理的な文章を書くことは、大学生だけではなく、社会人にも求められる ジェネリックスキルである。論理的な文章を書くためには、書き手の問題提起と問題の分析 が必要であり、資料が重要な役割を果たす。「問い」を立て、書き手の「主張」を読み手に 的確に伝える論理的な文章を書くためのアカデミック・ライティングの技法を習得するこ とは大学および社会人としての基礎学力となる。
大学生のアカデミックスキルをなるべく早い時期に徹底的に指導しておくことは、その 後の学生の大学での学びをスムーズに進める重要な教育であることは確かである。暗記重 視であった中等教育とは違って、高等教育では自ら課題をみいだし「問い」をたて、情報を 収集整理し、思考し、まとめ表現するというプロセスを繰り返すことによって、学生は知的 技法であるアカデミックスキルを身につけることができる。
大学における初年次教育の重要性についての認識は、全国大学で年々高まってきている。
岡山理科大学教育実践研究 第5号 pp.195-198(2021)
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文部科学省の山下直氏は国語教育のなかでも表現指導の問題について「大学における表現 指導の重要性を認識せざるを得ない現状において、高大接続、高大連携の視点はこれからの 表現指導を論じる上で不可欠なものとなっていくであろう」1としたうえで、表現指導と文 法や語彙の学習の関わりを述べ、書ける大学生に育てるには中等教育と高等教育との連携 が必要であると指摘する。初等・中等教育の作文指導は時間的制約が多いという限界があり、
大学での初年次教育で効率よく、論理的な文章作成の指導を充実させる必要がある。そのた めには、文法と語彙といった単元でできる指導を初等・中等教育で重点化し、高等教育では アカデミック・ライティングとして日本語表現指導につなげていくというのが理想である。
大学での初年次教育における情報処理もアカデミックスキルのひとつである。レポート・
論文はほぼすべてパソコンで作成された文章であり、情報収集にもパソコンは欠かせない。
情報(information)を活用して整理・分析して新しい認識を生みだす知的能力である知性
(intelligence)にまで高めることが重要である。最終的には一人一人が自分の研究成果を
プレゼンテーションできるように指導することが初年次教育に求められる優先課題となる。
まず、基礎知識を補強するためには辞典や事典、ウェブ版百科事典、インターネットなど 事柄を調べるツールはたくさんあるので、ぞれぞれの特徴を理解し、適切に使い分ける必要 がある。基本的な情報・大まかな情報として概要、解説や一般論、用語の定義や意味を検索 し、専門的な情報・細やかな情報として最新の研究動向や統計データを検索していくと良い。
事前調査では、まず、基礎知識を辞典や事典を使い補強していく。辞典や事典は、専門家が 包括的かつ簡潔に解説し、信頼性が高く、関連情報も多く、体系的にまとめられており、情 報が固定され、蓄積されている。インターネット上で利用できる百科事典は、冊子体の百科 事典とは異なり、複数の辞典や事典を一括して検索することができ、全文検索機能やリンク 機能、最新情報が掲載されやすいなどの特徴をもつ。インターネットでの調査には、流動性、
不確実性、可能性の排除に注意が必要である。流動性とは、多種多様な情報が次々と更新さ れるため、過去の参照が困難となる。不確実性とは、不安定な情報で不正な情報発信や改変 が考えられる。可能性の排除とは、インターネットでは検索機能が使われることが多く、検 索上位の情報以外を入手することが困難となる。
33.. パパララググララフフラライイテティィンンググににつついいてて
アカデミック・ライティングは、アクティブラーニングの実践においても重要な文章作成 の技法である。パラグラフライティングの修得には、課題に対して学生が、グループワーク を通して5つの学習に取り組むことが有効である。
1. 課題を分析して「問い」と仮の「答え」(仮説)を立てる。
2. 「答え」(仮説)の根拠情報を探す。
3. 情報を整理して、アウトラインを練る。
4. パラグラフライティングで、アウトラインを文章にしていく。
5. 全体の文章を整える。
自分が書いた文章を読み合わせ、グループで話し合い、代表者がプレゼンテーションで発 表する。「書く・話し合う・発表する」というアクティブラーニングの実践は、文章作成を
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通して実施されるのがもっとも効果的であると考える。アカデミック・ライティングで必要 とされる論理的な文章は、パラグラフを基本単位とし、パラグラフは特定の役割を担ったセ ンテンスで構成される。木下是雄は「パラグラフとは文章の一区切りで、内容的に連結され たいくつかの文から成り、全体として、ある一つの話題についてある一つのこと(考え)を 言う(記述する、主張する)ものである」2と定義している。パラグラフとは論文を作り上 げるための最小構成単位であり、論理的な文章を作成するにはパラグラフライティングの 技法を習得することが肝要である。日本人は、結論を先に述べることに文化的に抵抗がある が、欧米では学生時代にパラグラフライティングを徹底的に訓練されることから論理的な 文章に置いては演繹型が一般的である。パラグラフライティングで注意しなければならな いのは次の5点である。
1. 一つのトピックは一つのパラグラフのみで構成する。
2. パラグラフの第一文はトピックセンテンスとし、付加的情報は第2文以降で補う。
3. 展開、並列などのパラグラフ間の関係をサポーティングセンテンスで明確化する。
4. パラグラフの最後にコンクルーディングセンテンスとして、トピックセンテンスの 内容を再度書く。
5. トピックセンテンスと無関係な文はそのパラグラフには含めてはいけない。
戸田山和久は論文には構造を与えるアウトラインがあり、論文はその「アウトライン」が
「きっちり透けて見えるようなものじゃないといけない」と指摘している3。
初年次教育の根幹は、論理的思考力の養成を目指したレポート・論文を執筆する日本語の 表現と技法の修得にあるといっても過言でなはない。そのためには、学部を越えた初年次教 育にふさわしいカリキュラムデザイン、コースデザインの企画開発が必要である。初年次導 入科目から専門科目・卒業論文指導にいたるまで理系・文系にも応用可能なジェネリックス キルであるアカデミック・ライティング指導は、汎用性の高い教育課題であるといえる。
アカデミック・ライティング指導においては、パイオニア的指導を実施している「早稲田 大学アカデミック・ライティング・プログラム」は本学にとって参考になると考える。主な 内容としては、「思考と言語の関係を重視」し、「機能的な文章に発展する技能」を目指し、
形態として「オンデマンド授業」を展開している4。
この授業は、オンデマンド方式です。早稲田大学遠隔教育システム「Course N@vi」を 使って配信されます。履修者は、家庭やキャンパスのパソコンから授業を視聴します。
「Course N@vi」での視聴は24時間可能です。本授業は、全8回8週間で、1 週ごとに 新しい回が視聴できます。1回分の授業は約60分間です。いったん配信された授業は、
繰り返し視聴することができます。
「オンデマンド授業」に加えて、「個別指導」として指導員による添削指導が実施されて いる。「授業の進め方」として、全 8 回学んだ技能を使った「400 字から 600 字の文章」を 書くことが課題として出され、提出された文章に指導員から個別にフィードバックがされ るという仕組みである。インターネット上で提出された課題文には、コメントと評価が送信
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され、質問に関しては質問用掲示板「ディスカッションボード」で回答される。課題を受信 した指導員は模範文章例を匿名で公開することになっている。
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4.. おおわわりりにに
大学での初年次教育は、中等教育における作文や感想文とは異なるレポートや論文とい った論理的文章を作成する指導が必要である。具体的には、次のような方法が実施されるこ とが望ましい。
① 春学期シラバスで論理的な文章作成の目的、方法、到達目標をあげ学生のアカデミック・
ライティングへの意欲を高める。
② 授業は出席を取り、授業への積極的な参加を促し、個々の文章作成能力を把握する。
③ 授業で取り上げる単元の内容を説明し、スライドの資料を配布して書く技法について講 義する。
④ ブレインストーミング、マインドマップ、ピアワークを通して各自「問題提起」を行う。
⑤ 問題提起に対する答えとしての「主張」を揚げ、その正しさを示す「根拠」を調べる。
⑥ 論理的な文章作成の方法として「パラグラフライティング」の書き方をスライドの資料 を配布して講義する。
⑦ 「問題提起」「主張」「論証」を備えた学生の文章を添削しフィードバックする。
⑧ 優秀な文章は、本人の許可を取ったうえ匿名で発表し、学生全体の参考資料にする。
アカデミック・ライティングの修得には、理論としての講義だけではなく、添削という フィードバックが必要で、返却された添削原稿を見て自分の文章を直すことが重要である。
また、模範文章例を匿名で公開することで、文章作成に苦手意識のある学生の啓蒙になる。
さらに、グループワークやプレゼンテーションといったアクティブラーニングを併用する ことで、アカデミック・ライティングの教育に相乗効果を発揮することが可能になる。
*本論は、2021年度岡山理科大学教育改革推進事業の助成を受けた研究のノートである。
注注
1 山下直「国語教育(表現指導)」『表現研究』第97号、表現学会(2013)p20
2 木下是雄『レポートの組み立て方』ちくま学芸文庫(1994)p.185
3 戸田山和久「論文の種としてのアウトライン」前掲書p.105
4 https://www.waseda.jp/inst/aw/(2021年10月18日)
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