新型 コ ロ ナ特集 3 COVID - 1 9 診 療
新型 コ ロ ナ ウ イ ル ス 感染症 に 対す る 薬剤 師 の 役割
三木 芳晃
感染管理室/薬剤部
AST専従薬剤師
2019年末頃か ら 中国武漢市 を 中心 に世界で感染が拡 大 し た , 「新型コ ロ ナ ウ ィ ル ス 感染症 (COVID-19) 」。
瞬く 間 に全世界へ拡大 し , 現在 も な お 日 本を含め て世 界的 な 終息 の 気配 は ま だ見え て い な い 。 2022年 3 月 末 ま で 当 院 の COVID-19入院患者数 は693名 で あ り , そ の う ち 659名 に 薬剤投与が行わ れ た 。 "withコロ ナ 時代" と 呼ばれ る 今 日 に 至 る ま で様々 な 問題点 に 直面 し て き た の だ が, 今回 は そ の 課題 を い く つ か示 し , 課題解決 に 向 け た 取組み と 薬剤師 と し て の役割 を 考え た 。 治療薬の確保
COVID-19治療薬や ワ ク チ ン の ほ と ん ど が特例承認 さ れ た 薬剤で あ る 。 医薬品 の特例承認 と は, 国内未承 認薬を , 緊急時 に 健康被害の拡大 を 防止す る た め , 海 外 で の 使用実績 な ど を も と に手続 き や承認 に要す る 期 閻 を短縮 し て使用 を 開始で き る 制度で あ る 。 国が流通 を管理 し て お り , 当該薬剤 の必要性 を把握 し た上で,
医療機関へ分配 さ れ る 。 レ ム デヽンビ ル (ベ ク ル リ ー吟 は新型コロ ナ ウ イ ル ス 感染症医療機関等情報支援 シ ス テ ム (Gathering Medical InformationSystem on COVID-19 : G-MIS) を, 中和抗体薬や経 口 の 抗 ウ イ ル ス 薬 は薬剤毎専用 のサイ ト を用 い て投与予定患者 を 登録す る こ と で納品依頼を か け る 。 こ こ で 間題 と な る の が, 一般 の 医薬品 と は異な り納品 ま で の 時差が あ る と い う こ と で あ る 。 流行時 は 2 ~ 5 日 の 時差が生 じ, 患者登録が所定の 時間 を過ぎて行 う と さ ら に 時間 を要
し て し ま う 。 当 院 は夕方人院のCOVID-19患者が多 < ' 需要 と供給 を勘案 し た在庫管理 に苦慮 し た。 在庫管理 をWeb上で閲覧で き る シ ス テ ム の構築や納品スケ ジ ュー ル を リ ス ト 管理 し 呼吸器内科医師 と 日 々 情報共有す る な ど, 患者の 治療 に遅れが生 じな いよう努め た 。
現在, レ ム デ シ ビ ル は薬価基準収載医薬品 と なって お り一般 の 医薬品 と 同じ 流通体制が と ら れて お り , 時 差は解決 さ れ て い る 。 中和抗体薬 や 経 口 抗 ウ イ ル ス 薬 は , COVID-19外来診療の 開始 に 伴 い , 一定数量 の 在 庫配置が可能 と なった。 そ の 結果, 以前に比べて柔軟 な対応が可能 と なって い る 。
適応外医薬品使用への対応
COVID-19陽性患者 の 入院受け入れ体制が開始 し た 時点で は, 適応を有す る 治療薬 は存在せ ず, 国内外の 論文や 症例報告, 1COVID-19 に対す る 抗 ウ ィ ル ス 薬 による 治療 の 考え方」 を参考 に 治療薬 を選定し た。 こ れ ら は す べ て 未承認薬 で あ り適応外使用 (Compas
sionate Use) に 相 当 す る こ と か ら , 医療倫理委員会 の 承認が必要で あ る 。 臨時の委員会開催依頼, 委員会 へ提出す る申請書類や患者同意書の作成な ど に 関与 し , 短期間 で処方可能 な 手続 き を行っ た 。 COVID-19 の病 態の 変化 により 治療薬 も 変更さ れ て い く た め , そ の 都 度, 診療体制 に滞り が生じな いよ う迅速 な対応を心掛 け た。 既存薬剤 に は, 適応症で用 い ら れ る 用法用量 と , COVID-19治療 に用 い る用法用量が異な る 薬剤 も あ る 。
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第1渡 ~2020/6/13
第2波 2020/6/14~10/9 第3波 2020/10/10~
21/2/28 第4波 2021 /3/20~6/20 第5波 2021/6/21-12/16 第6波 2021/12/1 7~
表 1 受付 け : 令和 4年 6月24日
フ ァ ピピラ ピル 0 ビナピル ・ リ トナビJI, ジクレソニ ド ナフ ァモスタ ッ ト カモスタ ッ ト t: ド0 キ シ ク D Dキン レムデシピル イベルメ クチン
モルヌピラ ピル
=ルマ ト レルビル・') トナピル
ト シ リ ズマブ
テキサメタゾン バリ シチニブ サリルマブ
カシリ ピマプ ・ イ ムデピマプ ソ ト ロピマプ
当 院で投与可能と な った
COVID-1 9
治療薬一覧― 278-
3 COVID-19
診療安全性情報の 収集を継続的 に 実施 し , 現場へ の フ ィ 一 ド バ ッ ク や必要 に 応 じ て 医療倫理委員会で承認 を得た 薬剤の 再評価 を行った。
COVI D- 1 9
薬物治療 に お け る診療支援と 使用 経験の少 ない医薬品 に関す る 情報提供特例承認さ れた治療薬 は投与の条件と し て重症化 リ スク因子を有する 場合 に 限ら れている。 しか も薬剤毎 に 重症化 リ スク因子が若干では あ る が異な っている。 治療開始の タ イ ミ ン グで適応基準や投与日 数の 確認,
配合変化や相互作用, 腎機能 ・ 肝機能な ら びに凝固能 の モニタ リ ン グ を実施 し , 必要 に応 じ て投与の適否や 投与量の調節 に ついて主治医へ提案し て き た。 安全 に 薬剤が投与さ れる た め の取組みも病棟看護師と 行って いる。 レ ム デ シ ビ ルが適応承認さ れるま で経 口薬や吸
人薬での加療が余儀 な く さ れるな か, 経 □ 困難症例に 対し て フ ァ ビ ピ ラ ビ ル ( アビ ガン®) は粉砕可能 では あ る が, 催奇形性が あ る こ とか ら, 職員 へ の曝露 を勘 案し簡易懸濁に よ る 投与を行った。 カシ リ ビマ ブ ・ イ
ム デ ビマ ブ ( ロ ナ プリ ー ブ®) は 2 種類の モノ ク ロ一 ナル抗体に よ る抗体カ ク テ ル療法であり, 2症例分が 個包装 と し て分配 さ れ,
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症例分抜 き 取った あ と の温度管理や保管期間 な ど管理が煩雑であ る。 病棟看護師 と 情報共有しながら調整手順や運用を作成 し , 現在 に 至るま で 問題は起き てい な い 。 ニルマ ト レ ル ビ ル ・ リ
トナ ビ ル (パキロ ビッ ド®) は併用禁忌, 併用注意が そ れ ぞれ30種以上あ る 薬剤であ る。 投与前の常用薬確 認がすべて行わ れてい な け れ ば, 投与出来 な い運用と
し ている。
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• 第1 波
第 第3波 第波•
第5波•
第兵波図 1 当 院 にお け る 主なCOVID-1 9治療薬の処方状況
入院患者への 安心な薬物治療を提供す る
COVI D- 1 9
病棟に お け る薬剤管理指導業務
先にも 述べた が,
COVID- 19
治療薬 の多 く は特例承認さ れた 薬剤であ る。 治療薬 に対し て不安 を抱え る 患 者 は少 な く な い。 その為, 早期か ら 服薬支援 を行って き た。 吸人薬が治療薬の主体であった第 1 波か ら 第 3 波 では , iPad を用 いたオ ンライ ン服薬支援 を 導入。 PPE を着用し た 状態では十分に説明 が伝 わ ら な い 可 能性も考慮し , 吸入手技 を解説し た動画 を作成 し 必要 に応 じ て患者が閲覧でき る よう に し た。 治療薬の多 く が注射薬 にな っている 現在では , RMP (Risk Man
agement Plan) 資材を用 いて有効性 や 安全性 を説明 し , 安心し た 治療が受 け れる よう患者 の不安軽減 に努 め ている。 その他, 持参薬鑑別体制や ア レ ル ギー, 副 作用歴 の 確認な どは基本的 に一般病棟で行う病棟業務
と 大 き < 変わる こ と はな い。
職員を対象と し た新型 コ ロ ナ ウ ィ ルスワクチン接種 と 副反応への対応, 新たな患者を増 や さな いための地域 での取り組み
新型 コ ロ ナ ウ イルス ワ ク チ ン ( コ ミ ナティ 筋注) は 従来の ワ ク チ ン と 管理や接種方法が異なる。 国や自治 体か らの供給であ る こ と , 有効期限が短い (現在 は延 長 さ れている が, 当 初 は冷蔵保存で
5
日 間) , 希釈後6
時間以内に使用, 接種後 は15
分以上待機な ど制約が 多 い。 その為, 戦員 の 集団接種実施す るま でに , プ ロジ ェ ク ト チームを立 ち上 げ準備を進め て き た。 接種場 所の 確保や接種後 の体調変化 に対応す る た め の人員配 置, 受付や待機プース が密 にな ら な いよう予約制に す るな ど綿密な管理を行った。 加え て, 供給量が限ら れ ている 中で発注 ・納品 ・保管 ・ 管理 ・ 調製が薬剤師 に
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済生会中津年報 32巻 2 号 2 0 2 1
求め られる 業務で ある。 誤っ た 方法 で の 保管 に よる ワ ク チ ンの廃棄や, 希釈時の調製 ミ ス が メ ディ アで多 く 取 り 沙汰 されていた時期 でもあり, 職員に安全にワク チン が接種される までは常 に 緊張感をも っ て携わ っ て き たこ と を覚え ている。
当 院では2021年 3 月 より職員を対象 と した集団接種 を 開始 し , 同年12月 には3 回 目接種 を実施 した。 2 回 目 終了後 に実施 した ワク チン 接種後の副反応に対す る ア ン ケー ト調査では, 発熱や頭痛, 倦怠感等副反応に よる 急な 休暇の取得 など, 業務 に支障をき た す事例見 られた。 そ こ で 3 回 目 では接種ス ケ ジ ュールを謁整 し ,
業務継続 に影響が 出 な い よう 配慮し な がら ワク チ ン 接 種 を行 っ た。 3 回 目も 2 回 目 同様副反応の発現率では
あっ たが, 業務への影響 は 軽減した。
同じく 新型 コロナ ウイルス ワク チン事業と して一般 市民や職員家族, か か りつけ患者や外部 の 医療従事者 に対す る集団接種も 実施 した。 既往歴等で ク リ ニ ッ ク で はワク チ ン 接種が困難な 患者 に 対 して も, 医療体制 の 整っ ている 当 院で受人れた。 医師 ・ 看護師や事務部 など多 く の部門 と 連携 し実施 した集団接種 は, 地域医 療への貢献 に繋がっ たと 考え る。
副反配出現砥
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回目
2目 ●3回目
血
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図2 職員を対象 と した新型 コ ロナ ウィ ル スワ ク チン接種後の副反応 2回目接種後の業粗への影 3回目接橿後の業務への影
図 3 職員を対象とした新型 コ ロナ ウィ ルスワ ク チン接種に よる業務への影響
最後 に
い く つ か の課題 に対 し て薬剤師職能 を活か し て如何 に対応し て きたか を示 した。 今回 は示 し て い な い が,
日 常で行 う標準予防策の重要性 を院内に伝える と と も に消 毒薬 に 対す る 啓 蒙や外来処 方箋 の F AX対応 (0410対応), 在宅COVID-19患者 に 対す る保険薬局 と の 連携 などの業務も 行 って きた。 今後もCOVID-19 の
み ならず, 新たな感染症の発生に お い ても, 薬物治療,
ワク チ ンと いっ た医薬品が用いられる場合は専門的な 知識と そ の 時代 に あっ た取組み が必要で ある。 最新情 報をもと に , 最適な 治療や対策を感染対策チーム の中 で提案, 実行, サ ポー ト で きる薬剤師 と し て の 対応力 が求め られる。 地域住民が安心 し て過ごせる医療を提 供で きるよ うチーム 医療の一員と し て尽力したい。