日本国際問題研究所設立趣意書
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日本国際問題研究所設立趣意書
いまや世界は原子力時代に入り、有史このかた最大の希望と繁栄の光りかがやく前途を迎えるようになったと同時に、
最も怖るべく最も驚くべき暗黒におののく時代となった。このときにあたり、世界各国において国際問題、とくに国際
政治学、国際経済学、国際法学の研究並びに調査がさかんに行なわれ、急速に発達するようになったことは、必然の勢
いといわねばならない。けだし、人類の運命も文化の盛衰も、かかってこの問題の解決いかんにあるからである。
わが国がひとりこの趨勢におくれることはできない。戦後わが国の大学で、国際政治、国際経済に関する講座や講義
が開かれることになったが、遺憾ながら未だ専門の研究者が少なく、適当な書籍や資料に乏しく、欧米諸国の驚くべき
発達に比して非常に遅れている有様である。また各大学その他に国際問題の研究機関がつくられたが、その施設が貧弱
で時代の要請に応ええない現状にある。
そこで十年来、わが国における国際問題の科学的調査研究の中央機関たるべき国際問題研究所の設立が広く要望され
ていたのであるが、容易に機運が熟するにいたらなかった。いまや戦後一五年を経て、わが国の内外情勢も一転機に直
面するとともに、各方面において、この種の研究所の開設を要求する声が並び起こり、ここに期せずして、設立の機運
に到達したのである。
わが研究所は、この種の研究所として世界的令名を博しているイギリスのRoyal Institute of International Affairsや アメリカのCouncil on Foreign Relationsに範をとり、わが学界、官界、政界、実業界、言論界等各界の協力の下に、一
大中央研究施設をつくり、新しいわが民主外交の進展に即応する実証的な研究体制を整備せんとするものである。その
ため(一)国際政治、国際経済、国際法の諸科学の発達を図り、(二)国際問題の調査研究のための諸手段を設け、(三)
国際問題の情報、知識、思想の交換を促進し、(四)全国の大学を通じて国際問題に関する講座・研究会を奨励・助長し、
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(五)海外の諸大学・研究所・研究団体との交流を図る計画である。とくに原子力時代におけるわが国のナショナル・イ
ンタレスト並びにナショナル・セキュリティというきわめて重大な問題の基礎的研究に、われわれの主力を注ぎたいと
思う。これらの目的を遂行することによって、わが国の国際問題研究の発達に寄与し、併せてわが対外政策の科学的分
析を行ない、政策決定に貢献し、進んで世界の平和と人類の厚生に奉仕しようと希望するものである。
上記の目的を実現するために、わが研究所は、国際問題に関する専門家を育成し、権威者・専門家の協力をえてグルー
プ研究を実施し、その他の特殊調査を行ない、それらの研究の成果を公刊し、国際問題に関する公文書、資料、書籍、新聞、
雑誌を整備して、広く利用される国際問題の研究センターとなり、併せて各種研究団体の連絡交流に当たろうとするも
のである。
いうまでもなく、わが研究所は、客観的にアカデミックな研究を行ない、全国民的な見地に立って、政党・政派を超
越するものであり、偏った宣伝や主張を目的とするものではない。上に掲げた国際問題の基本的研究を通じて、ひとえ
に学問的並びに文化的・人道的使命に奉仕せんと期するものである。願わくば、全国の大学、各界の同志諸賢の心から
の御賛同と御尽力とを賜らんことを切望する次第である。
(昭和三四年一二月)
創立委員
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自民党総務会長石 井 光次郎 経済団体連合会会長石 坂 泰 三 毎日新聞社会長本 田 親 男 日加協会会長徳 川 家 正 自民党幹事長川 島 正次郎 民社党顧問片 山 哲 日本学士院会員神 川 彦 松 参議院議員鹿 島 守之助 読売新聞社副社長高 橋 雄 豺 一橋大学名誉教授高 垣 寅次郎 民社党書記長曽 禰 益 朝日新聞社会長村 山 長 挙
NHK会長野 村 秀 雄 日本学士院会員大 内 兵 衛
日本学士院院長山 田 三 良 日本銀行総裁山 際 正 道 日本学士院会員小 泉 信 三 共同通信社理事松 方 三 郎 自民党政調会長船 田 中 元外務大臣有 田 八 郎 東京商工会議所会頭足 立 正 参議院議員佐 藤 尚 武 世界経済調査会会長沢 田 節 蔵 大阪商工会議所会頭杉 道 助
(昭和三四年一二月現在、イロハ順)