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発揮するジペプチドの探索とその効率的な合成法 - J-Stage

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(1)

ジペプチドには血圧降下作用や呈味作用などさまざまな機能 性を示すものがある.筆者らは長年にわたり,無保護のアミ ノ 酸 同 士 を 直 接 連 結 す る こ と が で き るL-ア ミ ノ 酸 リ ガ ー ゼ

Lal)の研究を続けており,Lalを利用した機能性ジペプチ ドの合成検討を進めている.近年,筆者らは新たな試みとし てジペプチドの呈味性,特に「塩味」に着目し,Lalを用い て合成したジペプチドのライブラリーから塩味増強効果を有 するジペプチドを新規に見いだした.さらにはLalの立体構 造情報を利用した改変を行い,副生物がなく目的の塩味増強 効果を有するジペプチドのみを選択的に合成する改変型Lal の取得に成功したので併せて紹介する.

はじめに

ジペプチドはアミノ酸2個からなる単純な化合物であ るが,それを構成するアミノ酸単体には認められない機 能性を示す場合がある.最も知られているのはアルギニ ル-フェニルアラニン(Arg-Phe)(1)やイソロイシル-トリ プトファン(Ile-Trp)(2)などの血圧降下作用であり,そ

のほかにも抗不安,ストレス緩和効果を有するチロシ ル-ロイシン(Tyr-Leu)(3)や鎮静作用を有するセリル-ヒ スチジン(Ser-His)

,イソロイシル-ヒスチジン(Ile-

His)(4)など機能性は多岐にわたる.さらに,ショ糖の 200倍の甘さを有するアスパルテーム(ジペプチドのメ チルエステル体)や苦味のマスキング作用を有するグル タミル-グルタミン酸(Glu-Glu)(5)などの呈味に影響を与 えるジペプチドや,それ自身に呈味はないがほかの素材 との併用で呈味改善作用を発揮するジペプチドについて の報告もある.また,これまで述べてきたのはL-アミノ 酸からなるジペプチドであるが,D-アミノ酸にはL体と は異なる機能が知られているため,キラリティーの異な るジペプチドの特性に興味がもたれる.たとえばL-グル タミン酸(Glu)は旨味を有するがD-グルタミン酸には ほとんど呈味がない.また,L-アミノ酸は苦味を呈する ものが多いのに対し,D-アラニン,D-フェニルアラニ ン,D-セリン,D-トリプトファンは強い甘味を有するな ど光学異性体の違いによる呈味性の違いが知られてい る.実際に,醸造食品や乳酸発酵食品の中にはD-アミノ 酸が存在することが報告されており,それらが食品の呈 味にかかわっている可能性が示されている(6)

.これら知

日本農芸化学会

● 化学 と 生物 

【解説】

Screening  of  the  Salt  Taste-Enhancing  Dipeptide  and  the  Effective Production of the Dipeptide by L-Amino Acid Ligase Kuniki KINO, Haruka KINO, *1 早稲田大学先進理工学部応用化学 科,*2 長谷川香料株式会社

L -アミノ酸リガーゼ(Lal)を利用した塩味増強効果を 発揮するジペプチドの探索とその効率的な合成法

ユニークな酵素で拡がる機能性ジペプチドの世界

木野邦器 * 1 ,木野はるか * 2

(2)

見はD-アミノ酸からなるジペプチドに新たな呈味や機能 が見いだされる可能性を強く示唆するものである.

筆者らは,このように多様な機能性を有するジペプチ ドの中から,減塩への意識が高まる社会的背景を踏まえ

て 塩味 の増強効果を有するジペプチドに焦点をあて て検討を行ってきた.塩化ナトリウム(食塩)は人間に とって必要不可欠な成分である一方で,過剰摂取により 高血圧症や心臓疾患などを引き起こすことが知られてい

日本農芸化学会

● 化学 と 生物 

ユニークな酵素で拡がる機能性ジペプチドの世界 私たちは,常温,常圧下でアミノ酸同士をそのま ま連結してペプチドを合成することのできる酵素L-ア ミノ酸リガーゼ(Lal)について研究を行っています.

これまでに微生物から発見したLalは約20種類あり,

それぞれ特有のアミノ酸を順に連結してジペプチド

(アミノ酸2個)やオリゴペプチド(アミノ酸3個以 上)を作ることができます.こうしたLalの特性は,

その立体構造を解析することによって解明すること ができます.また,ジペプチドの中には構成するアミ ノ酸には見られない特有の生理機能を示すものがあ り,血圧上昇を抑制する作用や甘味やコク味といっ た味に関する効果など多彩な機能が知られています.

本解説のテーマとなるジペプチドでは,「味」に関す る機能性,特に「塩味を増強させる効果」に着目しま した.近年,健康志向の高まりを背景に,しょう油や 漬物,ラーメンなど「減塩」をうたった食品を目にす る機会が多くなっています.ジペプチドの中には塩 味増強効果を有するものも報告されているので,もっ と強い効果を有するジペプチドがあるのではないかと

考えました.予想どおり,Lalを用いて構築したジペ プチドのライブラリーから,メチオニン(Met)とグ リシン(Gly)が連結したメチオニルグリシン(Met- Gly)を新規な塩味増強効果を有するジペプチドとし て見いだすことに成功しました.次に,工業化に向 けてMet-Glyだけを合成するLalを創出するために,

酵素タンパク質の改変を試みました.ある特定のLal はMetとGlyからMet-Glyを合成しますが,副生成物 としてメチオニンが2個連結したMet-Metも少量生成 します.酵素はアミノ酸が多数連結した高分子化合 物ですが,たった1個のアミノ酸を別のアミノ酸に置 換しただけでも,活性や特性が大きく変化すること が知られています.そこで,このLalの立体構造情報 から酵素活性にかかわる部分を推測し,それをほか のアミノ酸に置換すると,期待したとおりMet-Met の副生もなくMet-Glyのみを合成することができまし た.目的のジペプチドを選択的に合成する改変型Lal の創出に成功した初めての例となります.本解説で は,Lalの特徴や塩味増強ジペプチドの探索方法,Lal の改変戦略などを中心に述べていますので,ユニーク な酵素Lalと無限の可能性を秘める機能性ジペプチド の世界を知るきっかけとなれば幸いです.

コ ラ ム

(3)

る.厚生労働省の「日本人の食事摂取基準(2015年版)

の概要」(7)によると高血圧予防の観点から,塩分摂取の 目標値は18歳以上男性で8.0 g/day未満,女性で7.0 g/

day未満と設定されているが,実際の摂取量は厚生労働 省の「平成26年国民健康・栄養調査結果の概要」(8)にお いて男性で10.9 g/day未満,女性で9.2 g/dayと目標値 を大きく上回っている.こうした背景を踏まえて,塩味 代替物質の探索や塩味増強物質の開発が盛んに行われて いる.塩味増強効果を有するジペプチドとしては,すで にロイシル-セリン(Leu-Ser)(9)やアルギニン(Arg)を 含むジペプチド(10)などの報告がある.筆者らは,ジペ プチドの有する多様な機能性を考慮するとこれら以外に も塩味増強効果を示すジペプチドが存在すると考えた.

さらに,既知の機能性ジペプチドの多くは天然のタンパ ク質を微生物や酵素などを用いて加水分解した分解物か ら見いだされていることから,加水分解により遊離しや すいアミノ酸を含むジペプチドはジペプチドの形で存在 する確率が低く,従来法では評価対象にならなかったと 推測した.そこで筆者らは加水分解により遊離しやすい アミノ酸を含むジペプチドを直接合成し,反応液をその まま評価する新たなスクリーニング方法を構築した.そ の際,ジペプチドの合成には任意のジペプチドを合成で きるLalを使用した.

L-アミノ酸リガーゼ

Lal(EC 6.3.2.28)は無保護のアミノ酸をATPの加水 分解反応と共役して直接連結することを可能とする酵素 であり(図

1

,協和発酵工業(株)

(現・協和発酵バイオ

(株))の田畑らによって初めて見いだされた.田畑らは

L-アミノ酸のペプチド結合形成を触媒する酵素を探索す るにあたり,その酵素は,①ATP-graspドメインを有 する,②機能未知なタンパク質である,③D-アラニンD- アラニンリガーゼ(Ddl̲EC 6.3.2.4)とアミノ酸配列上 の相同性がある,と予測し,ゲノムデータベースを利用 したスクリーニングにより 属由来のYwfEを見 いだした(11)

.その後,筆者らのグループにおいても精

力的に検討が行われ,今では約20種類ほどの多様なLal が取得されている.アミノ酸のN末端の保護と脱保護 が必要な固相合成法と異なり,Lalは基質に保護基が不 要であることや,反応が水系でかつ温和な条件で進行す ることから環境負荷低減型の生産プロセスを組むことが できるため,モノ作りには最適な酵素であると言える.

さらに,Lalの特徴の一つに基質特異性が各Lalによっ て異なることが挙げられる.たとえば同じ 属由 来のLalであってもN末端側の基質として,YwfEはア ラニン(Ala)

,グリシン(Gly) ,セリン(Ser) ,スレ

オニン(Thr)

,メチオニン(Met)を許容するが

(11)

BL00235(12)はロイシン(Leu)とMetを,RizA(13)はArg のみを許容するなどその基質特異性は各酵素によって大 きく異なる.またLalはジペプチドのみを合成するばか りでなく 属由来のRizB(14)のようにオリゴペプ チド合成能力を有するものもある.したがってLalを用 いてジペプチドを合成する場合,各Lalの特徴を踏まえ て最適なLalを選択する必要がある.今回の機能性ジペ プチドの探索研究では,ジペプチドライブラリー構築の ために基質特異性が広く,数多くのジペプチド合成が可 能なTabS(15)を用いた.TabSは,タバコ野火病の原因 物質であるペプチド性植物病原物質Tabtoxinを生産す る 由 来 のLalで あ り,Tabtoxin のペプチド結合形成をLalが担っているものと筆者らが 推測し,見いだしたものである.TabSはタンパク質構 成アミノ酸20種類に

β

-Alaを加えた21種類のアミノ酸

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● 化学 と 生物 

図1L-アミノ酸リガーゼ(Lal)によるジペプチド合成

図2ペプチド性植物病原物質生産菌から見

いだしたTabSの基質親和性

(4)

の組み合わせのうち,その60%にあたる136もの組み合 わせでジペプチド合成反応を触媒する特徴を有してお り,ジペプチドライブラリーを構築するには最適なLal であると考えた(図

2

.またTabSは降圧作用を有する

ジペプチドであるアルギニル-フェニルアラニン(Arg- Phe)(収率62%)や,塩味増強効果を有するLeu-Ser

(収率83%)など有用ジペプチドを高収率で合成するこ とも可能である.

塩味増強作用を有するジペプチドの探索

塩味増強効果を発揮するジペプチドの探索を行うにあ たり,まずはTabSを用いてジペプチドライブラリーを 構築した.前述のように,今回のスクリーニングでは天 然のタンパク質を加水分解した分解物を評価する従来法 とは異なり,加水分解を受けやすいアミノ酸を含むジペ プチドをターゲットとした.そこで,各種タンパク質の プロテアーゼ分解物の遊離アミノ酸データから遊離しや すいアミノ酸としてLeu,フェニルアラニン(Phe)

Ser,バリン(Val)

,Arg, Metの6種類を選抜し,これ

らのアミノ酸を含むジペプチドを中心にTabSを用いて 97種類の反応液を調製した.反応液から生成したジペ プチドを精製して呈味を評価することも考えたが,水系 で行うLalの反応液の毒性は低く,そのまま試料として 利用できるのではないかと判断した.ただし実施に際し ては,摂取量や評価回数に制限を設けるなど安全性を十 分考慮した.反応液には生成したジペプチド以外に未反 応のアミノ酸やATPなど呈味に影響を与える物質が含 まれている.そこで,この影響を排除するために,① ATPの影響を排除した1次スクリーニング,②未反応

のアミノ酸の影響を排除した2次スクリーニング,の2 段階のスクリーニング方法を筆者らは構築した(図

3

なお,評価は熟練したパネリスト5名が行った.まず1 次スクリーニングではATPの影響を排除するとともに 既知の塩味増強効果を有するジペプチドであるLeu-Ser よりも強い塩味増強効果を有するジペプチドを選抜する ために,0.6%(w/v)の食塩水にATPとLeu-Serを添 加したものをコントロール,反応液を添加したものを試 料溶液として比較し,コントロールの塩味と同等または それよりも強いと3名以上が評価した反応液を選抜し た.その結果,反応液97種類から16種類の反応液が選 抜され,2次スクリーニングに供することとした.2次 スクリーニングでは未反応のアミノ酸の影響を排除する ために,まず16種類の反応液それぞれに含まれる未反 応のアミノ酸を液体クロマトグラフィー(HPLC)によ り定量した.そしてその濃度のアミノ酸を含む食塩水を 疑似試料溶液として調製し,反応液を含んだ食塩水との 塩味の強さを比較した.疑似試料溶液の塩味よりも強い とパネリスト5人中3人以上が評価した反応液を選抜し たところ,7種類の反応液(Leu+Ser, Met+Gly, Arg

+Gly, Arg+ヒスチジン(His) ,Arg+リジン(Lys) ,

Arg+ア ス パ ラ ギ ン 酸(Asp)

,Arg+ア ス パ ラ ギ ン

(Asn))が選抜された.この中にはArgを基質とした反 応液やLeuとSerを基質とした反応液など,既知の塩味 増強効果を有するジペプチドが生成していると考えられ る反応液も含まれており,この結果は本スクリーニング の妥当性を支持するものである.そして筆者らはこの7 種類の反応液の中から,これまでに塩味増強効果の報告 のないジペプチドが生成するMetとGlyを基質とした反 応液に着目し,さらに検討を続けることにした.Metと

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● 化学 と 生物 

図3塩味増強効果を示すジペプチドのスク リーニング方法

(5)

Glyを基質とした場合,理論的にはMet-Gly, Gly-Met, Met- Met, Gly-Glyの4種類のジペプチドが生成する可能性が あるが,TabSの基質特異性とHPLC分析により,反応 液にはMet-GlyとMet-Metの2種類のジペプチドのみ含 まれていることを確認した.さらにMet-MetはMetの みを基質とした反応液では唯一生成するジペプチドであ るが,スクリーニングではこの反応液は選抜されなかっ たことから,Met-Metには塩味増強効果はなくMet-Gly が塩味増強効果を有するジペプチドである可能性が高い と判断した.

Met-Glyの塩味増強効果を確認するために,標品を用 いて官能と客観的な評価として味覚センサー分析の2種 類の方法により評価した.官能評価では0.6%(w/v)

の食塩水にMet-Glyを0.05%(w/v)添加した試料溶液 と,0.5〜0.8%(w/v)の異なる濃度の食塩水7種類を用 意し,計8種類の溶液をすべて無作為で塩味の強い順に 順位付けしたところ,試料溶液は0.60〜0.65%(w/v)

の塩分濃度に相当する塩味を呈することを確認した(図

4

.一方,味覚センサーを用いた分析では試料間の識別

性を把握するために7種類の有機膜センサーを用いた主 成分分析と塩味に選択性を有するセンサーを用いた分析 を行った.主成分分析からはMet-Glyは食塩水と異なる 味質であるが塩味増強効果があること,塩味に選択性を 有するセンサーのみを用いた分析からは,測定値から算 出した食塩換算濃度が,ともに試験に供したLeu-Serよ りもMet-Glyは同じ添加率において高くなることが示唆 された.またいずれの分析でもMet-Gly自身には塩味は ないと評価されたことから,本ジペプチドは新規の塩味 増強効果を有するジペプチドであると判断した.既知の 塩味増強効果を示すジペプチドの中には単体では効果を 示さず,ほかの物質と併用することで効果を発揮するも のもあるが,今回見いだしたMet-Glyは単独で効果を示

すものであり,塩味増強効果を示す新規ジペプチドとし て有用であると考えている.なお,スクリーニングや評価 方法の詳細については文献(16)を参照していただきたい.

Lalの機能改変によるMet-Glyの選択的合成 Lalを用いた新たなスクリーニングにより塩味増強効 果を示す新規ジペプチドとしてMet-Glyを見いだしたこ とから,さらにLalによるMet-Glyの効率的合成法の開 発を検討した.MetとGlyを基質としたとき,スクリー ニングに利用したTabSを用いるとMet-GlyよりもMet- Metが多く生成するが,N末端基質としてMetとLeuの みを許容するBL00235を用いるとMet-GlyがMet-Met よりも著量生成する.そこでBL00235がMet-Glyの合成 に適したLalであると考えられたため,BL00235による Met-Glyのさらなる選択的合成を目的に酵素改変を行う こととした.Lalの機能改変は基質認識にかかわるアミ ノ酸残基の特定や触媒活性に必須のアミン酸残基の特定 などの目的で行われたものが多く,基質特異性が変化し た報告はあるものの,有用ジペプチドの選択的合成に成 功した例はない(17, 18)

.幸いなことにBL00235の結晶構

造解析はすでに完了していたことから,機能改変にはそ の情報を利用した(19)(Protein Data Bank ID: 3VOT,

5

.筆者らは,BL00235において,生成するジペプ

チドのC末端基質に構造上近接する85位のプロリン

(Pro)残基に着目し,このPro残基をかさ高い側鎖を有 するアミノ酸に置換することでC末端基質周辺のスペー スが野生型酵素よりも狭くなり,C末端基質としてはか さ高いMetは認識されなくなると作業仮説を立てた.

これが正しければMetが認識されなくてもかさの小さ いGlyは認識され,その結果Met-Metの副生は抑えられ Met-Glyの選択的合成が可能な変異酵素を創製できる.

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● 化学 と 生物 

図4Met-Glyの官能評価

候 補 ジ ペ プ チ ド で あ るMet-Glyを 食 塩 水

(0.6%(w/v))に0.05%(w/v)添加した試 料溶液と,濃度の異なる食塩水7種類の計8 種類をすべてブラインドで官能評価し,塩味 の強い順に並べ替えた.その結果,試料溶液 は塩濃度が0.6〜0.65%(w/v)の間に相当す る塩味を呈した.

(6)

そこで85位のPro残基をかさ高い側鎖を有するアミノ 酸 で あ るPheや チ ロ シ ン(Tyr)

ト リ プ ト フ ァ ン

(Trp)に置換した変異酵素P85F, P85Y, P85Wを部位特 異的変異導入により作製し,MetとGlyを基質とした場 合とMetのみを基質とした場合の精製酵素反応を実施 した(図

6

.また,かさの低いアミノ酸に置換した変

異酵素としてGlyに置換したP85Gも作製し,反応に用 いた.予測したとおり,P85F, P85Y, P85WではMetを 基質とするとMet-Metの合成が行われず,MetがC末端 基質として認識されていないことが示唆された.さらに P85FとP85YではMet-Glyの合成能力は維持しており,

Met-Metの副生を伴わないMet-Glyの選択的合成に成功 したことが確認された.Lalの結晶構造情報に基づいた 部位特異的変異導入により目的ジペプチドの選択的合成 に成功したのはこれが初の例となる.また,Met-Glyの 合成量は置換したアミノ酸の側鎖がかさ高くなるほど少 なくなり,P85F>P85Y>P85Wであった.これより,置

換したアミノ酸の側鎖が大きすぎるとかさの小さなGly でさえC末端基質として入るスペースがなくなり,Met- Glyの合成量が少なくなると考えられた.また,速度論 的解析からは変異酵素では基質に対する親和性が低く なっていることが示唆され,野生型BL00235よりも Met-Glyの合成量が少ないのはこの親和性が影響してい ると考えられた.なお,変異酵素の特徴などの詳細は報 文に記載している(20)

おわりに

本解説ではLalを利用した塩味増強効果を示すジペプ チドの探索とLalの機能改変によるジペプチドの選択的 合成を中心に,ジペプチドが有する多様な機能性にふれ ながら,Lalとして初めて報告されたYwfEからLal研究 の現状までの概略を紹介した.また新規な塩味増強効果 を有するジペプチドとしてMet-Glyを見いだし,新たな Lalの利用法を提唱することができた.しかし,本探索 スクリーニングはジペプチドの生成量を測定することな く評価するため,実際は効果があっても生成量が少な かったために見落とされたジペプチドが存在した可能性 は否定できない.今後は改良を加えながら,さらに精度 の高いスクリーニング系を構築し,塩味に限ることなく 呈味に関するジペプチドの探索を行っていきたい.ま た,Lalの部位特異的変異導入を用いた機能改変により,

副生を伴わないMet-Glyの選択的合成に成功したこと で,Lalがさらに使いやすいジペプチド合成ツールとな ることが示された.本解説では触れていないが,筆者ら は本スクリーニングの継続によりMet-Gly以外にも新規 な塩味増強効果を有するジペプチドとしてPro-Glyを見 いだし,Met-Glyの知見を基に野生型のLalよりもPro- Glyの合成量が増加した改変型Lalの取得にもすでに成 功している(21)

.今後,Lalの結晶構造情報を踏まえた酵

素改変を推進し,基質特異性のみならず鎖長制御を含め た目的のオリゴペプチドの任意合成が可能なLalの創製 と効率的合成法の開発を検討していく予定である.ま た,D-アミノ酸からなるジペプチドにも新たな呈味や機 能が見いだされることが予想されるが,それらのジペプ チドについても,筆者らがすでに開発しているD-アミノ 酸ジペプチド合成法を利用して機能解析の検討を進めて いきたい.

文献

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Arai,  K.  Kino  &  K.  Ohinata:  , 56

日本農芸化学会

● 化学 と 生物 

図6野生型BL00235WT)と各変異酵素によるMet-GlyMet-Metの合成

(A)20 mM Metと20 mM Glyを基質,(B)40 mM Metを基質.

反応液は50 mM炭酸ナトリウム緩衝液(pH 9.0)中に20 mM Met,  20 mM Gly, 20 mM ATP, 20 mM硫酸マグネシウム7水和物を含 む.反応条件は30 C,20 h.

図5BL00235の構造と変異導入部位Pro85の位置

生 成 す る ジ ペ プ チ ド のC末 端 と な る 基 質 の 位 置 と,BL00235

(PDB ID: 3VOT)の85番目のPro残基の位置を示している.この Pro残基を他のアミノ酸残基へ置換することで,基質の反応性を 改変できると考えた.なお,BL00235は基質を取り込んだ状態で 結晶構造が取得されていないことから,基質を取り込んだYwfE の結晶構造(PDB ID: 3VMM)と重ね合わせることで基質の位置 を示している.

(7)

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プロフィール

木野 邦器(Kuniki KINO)

<略歴>1979年早稲田大学理工学部応用 化学科卒業/1981年同大学大学院理工学 研究科博士前期課程修了/同年協和発酵工 業株式会社入社.東京研究所,技術研究所 などの研究開発部門と防府工場の製造部 門/1987年工学博士(早稲田大学)/1999 年早稲田大学理工学部応用化学科教授/

2005〜2007年(独)科学技術振興機構研究 開発戦略センターシニアフェロー/2006〜

2016年(財)かずさDNA研究所特別客員研 究員/2010年早稲田大学理工学研究所所 長/2010〜2014年同大学産学官研究推進 センターセンター長/2013年バイオイン ダストリー協会理事/2014年早稲田大学 理工学術院総合研究所所長/2015年日本 生物工学会副会長/2015年日本微生物学 連盟理事,現在に至る<研究テーマと抱 負>微生物機能を活用した有用物質生産プ ロセスの開発研究<趣味>旅行,食べ歩 き,スポーツ観戦

木野 はるか(Haruka KINO)

<略歴>2001年早稲田大学理工学部応用 化学科卒業/2003年同大学大学院理工学 研究科博士前期課程修了/同年長谷川香料 株式会社入社/2013年早稲田大学大学院 先進理工学研究科博士後期課程入学(社会 人ドクター)/2016年同大学大学院先進理 工学研究科博士後期課程修了/同年博士

(工学)(早稲田大学)/同年長谷川香料株 式会社,現在に至る<研究テーマと抱負>

微生物や酵素を利用した香料,エキス等の 開発<趣味>阿波踊り,ビール

Copyright © 2017 公益社団法人日本農芸化学会 DOI: 10.1271/kagakutoseibutsu.55.182

日本農芸化学会

● 化学 と 生物 

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のもやはり入ってから気づくのではなく、事 前に入社前からそういうふうに中の人をきち んと見て入っていくという子というのが大き いのかなと。ですから単純に人数を多くさせ るということだけが重要ではなくて、長期的 に見て CO-OP 教育で入った子の方が、会社 に入ってすごく活躍してくれるという声がゆ くゆく挙がってきてくれるとうれしいなとい うのがあります。