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研究レポート - 日本国際問題研究所

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Academic year: 2023

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研究レポートFY2020―2

2021/3/16 日本国際問題研究所

「日米同盟」研究会

ディスインフォメーションと民主主義:

中国の影響力工作が日本に与える影響

桒原響子(日本国際問題研究所研究員)

浸透する中国の影響力工作

新型コロナウイルスの世界的蔓延に伴い、中国の対外行動が一段と好戦化しているが、それと並行して注目を集めている行 動の一つが、中国のディスインフォメーション・キャンペーンである。

ディスインフォメーション・キャンペーンとは国内外の様々なアクターによって広く利用されるものであり、偽情報を拡散することで、

世論に不信感を植え付け、世論を歪め、政府の政策決定過程に影響を与える活動である。ディスインフォメーションは、いまや民 主主義の根幹を揺るがし、国家の安全保障に関わる脅威の一つとなっている。

なお、世論に影響を与えるという点で類似する言葉にインフルエンス・オペレーション(影響力工作)がある。その定義はさまざま で、確立されていないが、概ね次のように定義づけられる。影響力工作とは、平時、危機時、紛争時、紛争後において、ターゲッ トした国の態度や行動、決定を自らの国益と目的を促進する方向に醸成するため、自らの外交、軍事、経済、情報、その他の 能力を協調的、統合的、同期的に適用することである。ディスインフォメーションの拡散、情報戦、プロパガンダ等といったより網羅 的な政治戦において使用されるのと同様の戦略が用いられ、政治戦と一部重複した意味で使われることもある。

ディスインフォメーションに対する世界的な警戒感は、新型コロナウイルス感染拡大がきっかけで一段と強まった。ウイルスの発生 源をめぐり米中が対立し陰謀論が展開されるなど、さまざまなディスインフォメーションが政府や社会を混乱させたことがきっかけだ。

研究レポート

「日米同盟」研究会 FY2020-2 号 2021 3 16

「研究レポート」は、日本国際問題研究所に設置された研究会参加者により執筆され、研究会での発表内容や時事問題等について、

タイムリーに発信するものです。「研究レポート」は、執筆者の見解を表明したものです。なお、各研究会は、「研究レポート」とは別途、

研究テーマ全般についてとりまとめた「研究報告書」を公表する予定です。

公益財団法人日本国際問題研究所

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研究レポートFY2020―2

2021/3/16 日本国際問題研究所

「日米同盟」研究会

こうした状況を受け、欧州委員会は2020年6月、ウイルスに関するディスインフォメーションを拡散したとして中国やロシアを 名指しで非難する報告書を発表した。同報告書では、中露が影響力工作とディスインフォメーション・キャンペーンを展開したこと で、パンデミックの間に欧州の民主主義を弱体化させ、中国が自国の影響力を拡大しようとしていると強い警戒感を示している。

日本において想定される影響

中国が影響力工作を行う目的は、対象国において自国の政策等を進めるために必要な環境を構築することだ。日本との関 係では、日米同盟をめぐる日米切り離しも重要な目的の一つである。米軍基地が所在する沖縄において中国の影響力が深刻 になりつつあることについてはすでに指摘されてきているが、今後は、「沖縄独立論」を掲げる沖縄の勢力に対する支援のみなら ず、インターネット・メディアやSNS等を通じて「独立論」に関する世論工作を仕掛ける可能性も排除できない。自らの海洋進出 戦略において在沖縄米軍を排除することは中国にとって重要課題なのだ。

さらに尖閣諸島をめぐっては、中国で2021年2月1日に「海警法」が施行されたことに伴い、中国がこの国内法を根拠に 尖閣諸島の奪取を行うのではないかと懸念されているが、中国はこうした法律戦に加えて、日本社会に対して、奪取を含めた中 国の行動を容認せざるを得ないよう「米国が日本の安全保障に無関心である」ことや「中国に抵抗すると経済的損失を被る」こと を強調し、日本政府の中国に対する抵抗に反対させようと、世論工作やディスインフォメーション・キャンペーンを展開する可能性 も排除できない。

相手国の世論を意図的に誘導する手段は、武力行使に連続する重要な手段とも認識される。パンデミックの影響で日本を 含め各国がデジタル外交の強化を余儀なくされている状況は、他国による影響力工作が展開されやすい環境ともいえる。

オンラインでの情報の流通が主流になれば、当然、ディスインフォメーション対策は安全保障分野でも重要となる。例えば、日 本の政策や取り組みを対外的に広報しようと試みても、敵対勢力がより強力なディスインフォメーションを拡散すれば、ネットワーク 上では逆効果になってしまう可能性もあるのだ。さらに、こうした対象国の世論に影響を与える手段は、前述のとおり定義が曖昧 なものが多く、しかもその情報自体も受け手にとって悪意のある情報とそうでない情報との区別がつきにくい難しさがある。

世論工作の手段がデジタル化されたものへ大きくシフトする中、国際社会では、権威主義国家による世論操作やディスインフ ォメーション・キャンペーンへの対策の強化が叫ばれている。一方日本は、こうした国際的なトレンドに大きく遅れをとっている。パン デミックもまた、日本のデジタル化の遅れを浮き彫りにした。現在、デジタル化に向けたさまざまな取り組みが政府主導で行われて いるが、その防諜活動は十分とは言い難い。

確かに日本は、欧米等と比較し社会および言語体系が閉鎖的であるが故に、中国の世論工作等の影響が限定的だとの見 方もある。そのためもあってか、日本ではディスインフォメーション・キャンペーンや影響力工作に対する意識が高まっておらず、企業 や大学におけるスパイ活動や知的財産窃盗への対策が欧米と比較し厳しくない。ポンペオ元国務長官が指摘したように、中国 人留学生や学者による技術窃取を疑うような動きや、中国語や中国文化の教育を行う孔子学院が米国のように「スパイ活動」

を行なっているとして閉鎖されるといった動きは、現時点では見られない。しかも、日本が経済的に中国とのつながりが強いことは、

自らの対中政策に影響を与える要素でもある。

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研究レポートFY2020―2

2021/3/16 日本国際問題研究所

「日米同盟」研究会

いかにして民主主義を護るのか

影響力工作やディスインフォメーション・キャンペーンの影響を完全に排除することはできない。権威主義国家は、民主主義国 家の表現の自由等の価値観の脆弱性を突く。また、ソーシャルメディアが社会に浸透した時代の風潮は、世論形成過程に影響 を与える重大な要素となっている。政府や伝統的メディアによる情報を信用せず、自らの嗜好に沿った情報ばかり収集する社会 的特徴と、攻撃的な意見をも際限なく拡散できる技術的特徴が、ソーシャルメディアの社会的影響力を増強させているのだ。そう なると、危機発生時等、人々が不安を抱えた状態であれば陰謀論やディスインフォメーションを信じやすくなり、政情不安につなが る。

日本がいかにして新しい情報空間がもたらす脅威に対する強靭性を高め、外交・安全保障政策や社会に対する影響を最小 限に止められるかが、民主主義を堅持するための重要課題となろう。

それには、関係府省庁横断的な行動計画や取り組みに止まらず、国民一人一人が情報の真偽を見極める力を身につけるた めの教育が欠かせない。台湾は、2020年1月の台湾総統選に備え、24時間体制での迅速な広報対応や、国民への教育、

「反浸透法」の立法によって、中国からの情報戦を押さえ込むことに成功した。また欧州では、ディスインフォメーションへの強靭性 を高めるため、域内における協力やNATOをはじめとする国際機関等との協力や連携を強化している。日本が台湾やEUの取 り組みから学ぶことは多い。影響力工作やディスインフォメーションへの対策での国際協力の可能性は大きいのではないか。

(2021年2月24日記)

参考文献

Devin Stewart, "China's Influence in Japan: Everywhere Yet Nowhere in Particular." Center for Strategic & International Studies, July 23, 2020.

Eric V. Larson, Richard E. Darilek, Daniel Gibran, Brian Nichiporuk, Amy Richardson, Lowell H.

Schwartz and Cathryn Quantic Thurston. Foundations of Effective Influence Operations: A Framework for Enhancing Army Capabilities. Santa Monica: RAND, 2009.

European Commission. "Tackling online disinformation: a European Approach." April 26, 2018.

European Commission. "Tackling COVID-19 disinformation - Getting the facts right." June 10, 2020.

飯塚恵子『誘導工作:情報操作の巧妙な罠』中公新書ラクレ、2019年.

桒原響子「ディスインフォメーション・キャンペーンを仕掛ける中国――日本への影響をどう抑え込むか」『表現者クライテリオン』

2021年3月号.

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