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私 的 年 金 請 求 権 の 差 押 禁 止 債 権 性 ・ 再 考
~ 新 型 コ ロ ナ ウ ィ ル ス 感 染 症 と 2019 年 民 事 執 行 法 改 正 を 契 機 に ~
泉 裕 章
■ ア ブ ス ト ラ ク ト
新 型 コ ロ ナ ウ ィ ル ス 感 染 症 の 全 国 的 蔓 延 が 多 く の 国 民 か ら 継 続 的 な 労 務 収 入 を 奪 っ た と い う 現 実 は 、 継 続 的 な 不 労 収 入 で あ る 私 的 年 金 請 求 権 の 重 要 性 を 再 認 識 さ せ る 契 機 と な っ た 。 本 稿 は 、 私 的 年 金 請 求 権 の 差 押 禁 止 債 権 性 に 関 す る 従 来 の 議 論 が 、 必 ず し も こ う し た 現 実 を 想 定 し た も の で は な か っ た よ う に 思 わ れ る と い う 問 題 意 識 の 下 、2019 年 民 事 執 行 法 改 正 を も 踏 ま え つ つ 、 私 的 年 金 請 求 権 の 差 押 禁 止 債 権 性 を 巡 る 議 論 の 再 考 を 試 み る こ と を 目 的 と し て 考 察 を 進 め る 。
そ の 結 果 、 本 稿 は 、 差 押 禁 止 債 権 に 関 す る 民 事 執 行 法 の 立 法 経 緯 等 も 踏 ま え つ つ 、 次 の よ う な 私 見 を 導 い た 。 す な わ ち 、 民 事 執 行 法 15 2 条 1 項 1 号 に い う 「 生 計 を 維 持 す る た め に 支 給 を 受 け る 継 続 的 給 付 に 係 る 債 権 」 の 要 件 該 当 性 判 断 に あ た っ て は 、 原 則 と し て 、 そ の 時 点 に お け る 債 務 者 の 生 活 状 況 を 考 慮 要 素 と す べ き で あ り 、問 題 と な っ て い る 私 的 年 金 保 険 契 約 の 目 的・性 質・
経 緯 を 考 慮 要 素 と す べ き で は な い 。 ま た 、 こ う し た 私 見 を 前 提 と す る 場 合 、 私 的 年 金 請 求 権 の 差 押 禁 止 債 権 性 は 、 基 本 権(総 体 と し て の 年 金 受 給 権)で な く 、 支 分 権(個 々 の 年 金 請 求 権)の レ ベ ル で 検 討 さ れ る 必 要 が あ る 。 さ ら に 、 こ う し た 議 論 を 踏 ま え た 保 険 実 務 上 の 留 意 点(差 押 情 報 管 理 の 複 雑 化 ・ 長 期 化 、 債 務 者 へ の 情 報 提 供 、 差 押 命 令 の 取 消 し の 申 し 出)に つ い て も 指 摘 す る 。
■ キ ー ワ ー ド
年 金 保 険 、 生 計 、 支 分 権
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Ⅰ . は じ め に
1 . 本 稿 の 問 題 意 識 と 目 的
新 型 コ ロ ナ ウ ィ ル ス 感 染 症 の 全 国 的 蔓 延 は 、あ ら ゆ る 面 で 、そ れ ま で の 我 々 の 生 活 を 一 変 さ せ た が 、 そ の 対 策 の 一 環 と し て 、 国 民 全 員 に 対 し 、1 人 あ た り 10 万 円 を 給 付 す る と い う 政 策1が 実 行 さ れ た の は 、記 憶 に 新 し い 。つ ま り 、 そ れ ま で の 間 、 順 風 満 帆 に 、 あ る い は 、 少 な く と も 困 る こ と な く 平 凡 に 、 継 続 的 な 労 務 収 入. . . .
を 得 て い た 多 く の 国 民 が 、 突 如 と し て そ の 労 務 収 入 を 失 う と い う 驚 く べ き 事 態 に つ き 、 我 々 は 現 実 に 目 の 当 た り に す る こ と と な っ た の で あ る 。 反 面 、 こ う し た 経 験 は 、 継 続 的 な 不 労 収 入. . . .
の 重 要 性 を 再 認 識 さ せ る 契 機 に な っ た か も し れ な い 。こ の 点 、私 的 年 金 保 険 契 約 に 基 づ く 年 金 請 求 権(以 下 、単 に 私 的 年 金 請 求 権 と い う こ と が あ る)は 、継 続 的 な 不 労 収 入 の 典 型 例 の 1 つ で あ る と こ ろ 、 前 述 の 10 万 円 が 特 別 法2に よ っ て 差 押 禁 止 財 産 と さ れ て い る の と 同 様 、 民 事 執 行 法 152 条 1 項 1 号 に よ り 、 そ の 差 押 禁 止 債 権 性 が 一 般 に 承 認 さ れ て い る と 言 っ て よ い3。し か し な が ら 、筆 者 の 見 る と こ ろ 、私 的 年 金 請 求 権 の 差 押 禁 止 債 権 性 に 関 す る 従 来 の 議 論 は 、 必 ず し も 、 我 々 が 目 の 当 た り に し た 前 述 の よ う な 事 態 を 想 定 し た も の で は な か っ た よ う に 思 わ れ る 。 本 稿 は 、 こ う し た 問 題 意 識 の 下 、 私 的 年 金 請 求 権 の 差 押 禁 止 債 権 性 を 巡 る 議 論 に つ き 、新 型 コ ロ ナ ウ ィ ル ス 感 染 症 に よ っ て 顕 在 化 し た 現 実 を 踏 ま え つ つ 、 そ の 再 考 を 試 み る こ と を 目 的 と す る も の で あ る 。折 し も 、直 近 の 2019 年 民 事
* 令 和 2 年 1 1 月 1 4 日 の 日 本 保 険 学 会 関 西 部 会 報 告 に よ る 。
/ 令 和 2 年 1 1 月 9 日 原 稿 提 出 。
1 詳 細 に つ い て は 、 参 照 、 総 務 省 ホ ー ム ペ ー ジ(以 下 の U R L )。
h t t p s : / / w w w . s o u m u . g o . j p / m e n u _ s e i s a k u / g y o u m u k a n r i _ s o n o t a / c o v i d - 1 9 / k y u f u k i n . h t m l
2 令 和 二 年 度 特 別 定 額 給 付 金 等 に 係 る 差 押 禁 止 等 に 関 す る 法 律 。
3 鈴 木 忠 一=三 ヶ 月 章 編 『 注 解 民 事 執 行 法( 4 )』(第 一 法 規 出 版 ・1 9 8 5 年) 5 1 8 - 5 1 9 頁[五 十 部 豊 久 執 筆]、 中 野 貞 一 郎=下 村 正 明 『 民 事 執 行 法 』(青 林 書 院 ・2 0 1 6年) 6 7 7 頁 。 た だ し 、 香 川 保 一 監 修 『 注 釈 民 事 執 行 法(第 6 巻)』(金 融 財 政 事 情 研 究 会 ・1 9 9 5 年) 3 4 2
頁[宇 佐 美 隆 男 執 筆]は 、「 私 的 年 金 契 約[略]に つ い て は 、 受 給 者 の 老 後 の 生 活 を 維 持 す
る こ と に 契 約 締 結 の 動 機 が あ る こ と は 明 ら か で あ る が 、 そ れ が 直 ち に 「 本 号 の 生 計 を 維 持 す る た め に 支 給 を 受 け る 継 続 的 給 付 に 係 る 債 権 」 に あ た る と 解 す る こ と に は 疑 問 が あ る 」 と 述 べ る 。
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執 行 法 改 正 の 結 果 、 債 権 執 行 や 差 押 禁 止 債 権 に 関 係 す る 事 項 に も 変 化 が 見 ら れ た こ と か ら 、 再 考 の タ イ ミ ン グ と し て も 、 時 宜 に 適 っ て い る の で は な い か と 思 わ れ る 。
2 . 論 述 の 要 領
第 1 に 、 私 的 年 金 請 求 権 の 差 押 禁 止 債 権 性 を 巡 っ て 高 裁 レ ベ ル で 争 わ れ た 2 件 の 裁 判 例 に つ き 、 各 原 審 を 含 め て 振 り 返 っ た う え 、 さ し あ た っ て 小 評 を 行 う(Ⅱ)。 第 2 に 、 こ れ ら の 裁 判 例 を 巡 っ て 、 保 険 法 学 、 民 事 手 続 法 学 そ れ ぞ れ の 立 場 か ら 出 さ れ た 先 行 研 究 に つ き 、 Ⅱ の 小 評 と の 関 係 で ど の よ う な 見 解 が 示 さ れ て い る か を 確 認 す る(Ⅲ)。第 3に 、2019年 民 事 執 行 法 改 正 の う ち 、 債 権 執 行 や 差 押 禁 止 債 権 に 関 す る 改 正 事 項 を 確 認 す る(Ⅳ)。 第 4 に 、 こ れ ら の 事 柄 を 前 提 に 、 新 型 コ ロ ナ ウ ィ ル ス 感 染 症 に よ っ て 顕 在 化 し た 現 実 を 踏 ま え た 法 的 解 釈 論 お よ び 保 険 実 務 上 の 留 意 点 に つ き 、 考 察 を 加 え る(Ⅴ)。 最 後 に 、 ま と め と 今 後 の 課 題 を 述 べ る(Ⅵ)。
Ⅱ . 私 的 年 金 請 求 権 の 差 押 禁 止 債 権 性 を 巡 る 裁 判 例
私 的 年 金 請 求 権 の 差 押 禁 止 債 権 性 を 巡 る 裁 判 例 と し て は 、大 阪 高 決 平 成 13 年 6 月 22 日 判 時 176 3 号 203頁(以 下 、 原 審 を 含 め て 第 1 事 件 と い う)と 東 京 高 決 平 成 30 年 6 月 5 日 判 時 2413・2414 号 36 頁(以 下 、 原 審 を 含 め て 第 2 事 件 と い う)が よ く 知 ら れ て い る 。 以 下 で は 、 ま ず 、 各 事 件 を 振 り 返 っ た う え 、 ご く 簡 単 に 小 評 を 行 う こ と と す る 。
1 . 第 1 事 件 a . 事 実 の 概 要
当 時 35 歳 の Y(債 務 者=相 手 方)は 、平 成 2 年 9 月 25 日 、Z 生 命 保 険 会 社(第 三 債 務 者)と の 間 で 、 次 の よ う な 内 容 の 個 人 年 金 保 険 契 約(以 下 、 本 件 保 険 契 約 ま た は 本 件 年 金 保 険 契 約 と い う)を 締 結 し た 。
4 ・ 保 険 料 497 万 6211 円(一 括 前 払 い) ・ 年 金 支 払 開 始 日 平 成 26 年 9 月 2 5 日 ・10 年 保 証 期 間 付 終 身 保 険(定 額 型) ・ 年 金 額 100 万 円
・ 保 証 期 間 中 に 死 亡 し た 場 合 は 、 そ の 期 間 中 の 年 金 の う ち 、 未 払 年 金 の 現 価 が 一 時 に 支 払 わ れ る 。
・ 年 金 支 払 開 始 日 前 に 死 亡 し た 場 合 は 、 死 亡 給 付 金 が 支 払 わ れ る 。 ・ 保 険 契 約 者 た る Y は 、 年 金 支 払 開 始 日 前 に 限 り 、 い つ で も 将 来 に 向 か
っ て 契 約 を 解 約 し 、 解 約 返 戻 金 の 支 払 い を 請 求 す る こ と が で き る 。 し か る に 、X 信 用 組 合(債 権 者=抗 告 人)は 、奈 良 地 方 裁 判 所 に 対 し 、本 件 年 金 保 険 契 約 の 解 約 返 戻 金 請 求 権 の 差 押 え を 求 め た 。 こ れ に 先 立 ち 、Z は 、 仮 差 押 事 件 の 陳 述 書 に お い て 、 解 約 権 の 代 位 行 使 に よ る 解 約 が で き る こ と を 前 提 と し た 回 答 を な し て い た 。 ま た 、 平 成 12 年 10 月 26 日 現 在 の 解 約 返 戻 金 額(見 込 み)は 783 万 0 326 円 で あ っ た と こ ろ 、 こ の 時 点 で Y は 46 歳 で あ り 、 年 金 支 払 開 始 日 ま で に は 13 年 以 上 を 残 し て い た 。
b . 原 審 ・ 奈 良 地 決 平 成 1 3 年 5 月 3 0 日 金 判 1 12 5 号 23 頁(以 下 、 単 に 奈 良 地 決 と い う)[申 立 て 却 下]
「1 本 件 保 険 契 約 は 、個 人 年 金 保 険 で あ り 、年 金 保 険 契 約 は 、差 押 禁 止 財 産 と し て 法 定 さ れ て い な い 生 命 保 険 契 約 と 異 な り 、「 債 務 者 が 国 及 び 地 方 公 共 団 体 以 外 の 者 か ら 生 計 を 維 持 す る た め に 支 給 を 受 け る 継 続 的 給 付 に 係 る 債 権 」 で あ り 、 差 押 禁 止 債 権 で あ る(民 事 執 行 法 152 条 1 項 1 号)。
2 し か し 、解 約 返 戻 金 請 求 権 に つ い て は 、差 押 え を 禁 止 す る 明 文 が な い た め 、 差 押 え を す る こ と が で き る か が 問 題 と な る 。
解 約 返 戻 金 請 求 権 は 、 保 険 契 約 者 が 解 約 権 を 行 使 す る こ と を 条 件 と し て 効 力 を 生 ず る 権 利 で あ っ て 、 解 約 権 を 行 使 す る こ と は 差 し 押 さ え た 解 約 返 戻 金 請 求 権 を 現 実 化 さ せ る た め に 必 要 不 可 欠 な 行 為 で あ る 。 し た が っ て 、 差 押 命 令 を 得 た 債 権 者 が 解 約 権 を 行 使 す る こ と が で き な い と す れ ば 、 解 約 返 戻 金 請
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求 権 の 差 押 え を 認 め た 実 質 的 意 味 が 失 わ れ る 結 果 と な る(最 高 裁 平 成 11 年 9 月 9 日 判 決 参 照)。
そ こ で 、債 権 者 が 個 人 年 金 保 険 契 約 を 解 約 す る こ と が で き る か 、す な わ ち 、 個 人 年 金 保 険 契 約 の 解 約 権 が 一 身 専 属 的 権 利 か ど う か に つ い て 検 討 す る 。
思 う に 、 保 険 契 約 に お け る 解 約 権 が 一 身 専 属 的 権 利 で あ る か 否 か に つ い て は 、 一 律 に 論 ず る べ き で は な く 、 当 該 保 険 契 約 の 種 類 や 内 容 に よ っ て 個 別 的 に 検 討 す べ き で あ り 、 保 険 金 受 取 人 の 生 活 保 障 あ る い は 社 会 保 障 の 補 完 的 意 味 合 い が ほ と ん ど な い も の に つ い て の み 、 債 権 者 代 位 の 対 象 と な る と 解 さ れ る[以 下 、 略]。
こ の 点 、 個 人 年 金 保 険 契 約 は 、 社 会 保 障 の 補 完 的 意 味 合 い は 薄 く 、 む し ろ 貯 蓄 的 性 格 を 有 す る た め 、 そ の 解 約 権 も 一 身 専 属 的 権 利 で は な く 、 債 権 者 代 位 権 の 対 象 と な り う る と す る 考 え も あ る 。
し か し 、 本 件 個 人 年 金 保 険 は 、 個 人 年 金 保 険 普 通 保 険 約 款 に お い て 「 老 後 の 生 活 の 安 定 を 図 る こ と を 目 的 と し た 保 険 」 と 規 定 さ れ て い る こ と や 、 差 押 禁 止 財 産 と し て 法 定 さ れ て い な い 生 命 保 険 契 約 と 異 な り 、 個 人 年 金 保 険 は 差 押 禁 止 債 権 と さ れ て い る 趣 旨 か ら す れ ば 、 そ の 主 な 目 的 は 、 保 険 金 受 取 人 で あ る 老 齢 者 の 生 活 保 障 で あ る と 解 さ れ る 。
し た が っ て 、 こ の 個 人 年 金 保 険 の 性 質 か ら す れ ば 、 そ の 解 約 権 も 、 も っ ぱ ら 保 険 契 約 者 の 意 思 を 尊 重 す べ き 行 使 上 の 一 身 専 属 的 権 利 で あ る と 解 さ ざ る を え な い 。
3 し た が っ て 、債 務 者 自 身 が 解 約 し た 後 で あ る な ら ば 格 別 、債 権 者 が 年 金 契 約 の 解 約 権 を 代 位 行 使 す る こ と を 前 提 す る 返 戻 金 の 差 押 え は 、 許 さ れ な い 。」
c . 抗 告 審 ・ 大 阪 高 決 平 成 13 年 6 月 22 日 判 時 1 763 号 203 頁(以 下 、 単 に 大 阪 高 決 と い う) [原 決 定 取 消 し ・ 差 戻 し]
「(1) 本 件 年 金 保 険 契 約 の 性 質
ア [「a. 事 実 の 概 要 」 に 関 す る 記 述 で あ り 、 略]
イ 民 事 執 行 法 152 条 1 項 に 定 め る 継 続 的 給 付 に 係 る 債 権 に は 、 生 命 保 険 会
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社 等 と の 私 的 年 金 契 約 に よ る 継 続 的 収 入 も 含 ま れ る が 、 生 計 維 持 に 必 要 な 限 度 で 、 現 に 年 金 と し て 支 給 が 開 始 さ れ て い る も の に 限 ら れ る と 解 す る の が 相 当 で あ る 。 け だ し 、 差 押 禁 止 債 権 は 、 債 務 者 の 最 低 生 活 を 保 障 す る と い う 社 会 政 策 的 配 慮 に 基 づ い て 、 そ の 限 り に お い て 債 権 者 の 権 利 の 実 現 を 後 退 さ せ て 定 め ら れ て い る も の で あ る か ら 、 生 活 保 障 に 最 低 限 必 要 な も の 以 上 に 差 押 禁 止 の 範 囲 を 広 げ る こ と は 、 一 方 的 に 債 務 者 の 責 任 を 限 定 し 、 著 し く 債 権 者 の 権 利 を 害 す る こ と に な る か ら で あ る 。
そ こ で 、 本 件 年 金 保 険 契 約 の 性 質 に つ い て 検 討 す る に 、 上 記 認 定 の 事 実 に よ れ ば 、 本 件 年 金 保 険 契 約 は 、 い わ ゆ る バ ブ ル 経 済 の 最 盛 期 に 締 結 さ れ た も の で あ り 、 保 険 料 に 比 し て 高 額 の 年 金 保 険 が 給 付 さ れ る こ と 、 保 険 料 も 一 括 前 納 さ れ て お り 、 保 険 料 総 額 は 月 払 契 約 に 比 べ て 相 当 程 度 軽 減 さ れ て い る こ と が 認 め ら れ る の で あ っ て 、 本 件 年 金 保 険 契 約 の 普 通 保 険 約 款 に 「 老 後 の 生 活 の 安 定 を は か る こ と を 目 的 と し た 保 険 」と の 記 載 が あ る こ と を 考 慮 し て も 、 ま さ に 貯 蓄 目 的 の 保 険 契 約 で あ る と 認 め ら れ る 。
(2) 本 件 年 金 保 険 契 約 の 解 約 権 の 性 質
上 記 認 定 ・ 判 断 の と お り 、 本 件 年 金 保 険 契 約 は 、 貯 蓄 目 的 の 保 険 契 約 で あ り 、 本 来 の 年 金 保 険 の 給 付 に つ い て も 、 そ の す べ て が 差 押 禁 止 財 産 に 当 た る と は 考 え ら れ な い 上 、 本 件 申 立 て に お い て は 、 年 金 給 付 そ の も の で は な く 、 年 金 開 始 日 前 の 解 約 返 戻 金 請 求 権 を 差 押 え の 目 的 と す る も の で あ る 。そ し て 、 上 記 認 定 の と お り 、 本 件 年 金 保 険 契 約 上 、 解 約 権 は 年 金 開 始 日 前 で あ れ ば 、 い つ で も 行 使 す る こ と が で き る も の で あ り 、 し た が っ て 、 身 分 法 上 の 権 利 な ど と は 違 い 、解 約 権 行 使 を 保 険 契 約 者 の み の 意 思 に ゆ だ ね る べ き 事 情 は な く 、 行 使 上 の 一 身 専 属 的 権 利 と は 解 さ れ な い 。
そ う す る と 、X は 、 条 件 付 権 利 で は あ る が 、 権 利 と し て 特 定 が あ る 本 件 年 金 保 険 契 約 の 解 約 返 戻 金 請 求 権 を 差 し 押 さ え た 上 、 民 事 執 行 法 155条 の 取 立 権 に 基 づ き 解 約 権 を 行 使 す る こ と に よ っ て 、 自 己 の 債 権 の 満 足 を 得 る こ と が で き る と い う べ き で あ る 。」
7 2 . 第 2 事 件
a . 事 実 の 概 要
X(債 権 者=抗 告 人)は Y(債 務 者=相 手 方)の 母 で あ り 、 平 成 30 年 3 月 4 日 、 債 務 弁 済 契 約 公 正 証 書 の 執 行 力 の あ る 正 本 に 基 づ き 、X の Y に 対 す る 損 害 賠 償 請 求 権 等 を 請 求 債 権 と し 、Y が 保 険 契 約(以 下 、 本 件 保 険 契 約 と い う)に 基 づ き 、Z(第 三 債 務 者)に 対 し て 有 す る 年 金 保 険 金(年 金)支 払 請 求 権(以 下 、 本 件 債 権 と い う)あ る い は 同 保 険 契 約 が 解 約 さ れ た 場 合 に は 解 約 返 戻 金 請 求 権 を 差 押 債 権 と し て 、 水 戸 地 方 裁 判 所 土 浦 支 部 に 対 し 、 債 権 差 押 命 令 を 申 し 立 て た 。
本 件 保 険 契 約 は 、 平 成 22 年 3 月 30 日 、Y の 祖 母 が 、Y を 被 保 険 者 と し て 、 Z と の 間 で 締 結 し た 積 立 利 率 金 利 連 動 型 年 金(××型)保 険 契 約 で あ る 。
年 金 保 険 に お い て は 、 保 険 料 負 担 者 と 年 金 受 取 人 が 異 な る 場 合 、 年 金 の 支 払 い が 確 定 し た 時 点 で 、 年 金 受 取 人 は 年 金 受 給 権 を 保 険 料 負 担 者 か ら 贈 与 に よ っ て 取 得 し た も の と み な さ れ 、 年 金 受 給 権 評 価 額 と し て 贈 与 税 額 が 算 出 さ れ る こ と と な る た め 、 一 時 払 保 険 料 相 当 額 を 現 金 と し て 贈 与 し た 場 合 よ り も 贈 与 税 を 圧 縮 す る こ と が 可 能 と な る も の で あ り 、 本 件 保 険 契 約 も 、 前 記 内 容 を 活 用 し た 贈 与 対 策 プ ラ ン と し て 紹 介 さ れ て お り 、 祖 母 に 対 し て も 、 本 件 保 険 契 約 締 結 に 際 し て 前 記 内 容 が 説 明 さ れ 、 祖 母 は 、Y を 含 む 孫 ○ ○ 人 を 被 保 険 者 と し て 、 そ れ ぞ れ 前 記 内 容 の 各 保 険 契 約 を 締 結 し た 。
本 件 保 険 契 約 の 一 時 払 保 険 料 75 00 万 円 は 祖 母 に よ り 一 括 で 支 払 済 み で あ り 、 平 成 23 年 3 月 3 0 日 か ら 、 毎 年 3 月 3 0 日 に 、 年 額 2 57 万 2 735 円 が Y に 支 払 わ れ て い る 。
Yは 、本 件 保 険 契 約 に 係 る 保 険 金 支 払 開 始 時 に は 23 歳 で 、両 親 と 同 居 し て お り 、 特 に 生 計 の 維 持 の た め に 本 件 保 険 契 約 に 係 る 保 険 金 の 受 給 が 必 要 な 状 況 に は な か っ た 。
そ の 後 、Y は 、 家 族 に 反 発 し て 自 宅 を 出 て 、 ア ル バ イ ト を す る な ど し て い る が 、X が 、 本 件 債 権 の 平 成 29 年 3 月 30 日 支 払 分 に つ い て 、 そ の 4 分 の 1 を 差 し 押 さ え 、 残 り 4 分 の 3 に つ い て は 、Y の 口 座 に 振 り 込 ま れ た と こ ろ を
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差 し 押 さ え て 年 払 保 険 料 全 額 を 回 収 し 、 平 成 30 年 3 月 30 日 支 払 分 に つ い て も 、 同 様 に 年 払 保 険 料 全 額 を 回 収 し た が 、Y は 、 特 に 異 議 を 述 べ た り 、 振 込 口 座 を 変 更 す る な ど し て い な い 。
b . 原 審 ・ 水 戸 地 土 浦 支 決 平 成 30 年 3 月 16 日 判 時 24 13・2 414 号 41 頁(以 下 、 単 に 水 戸 地 土 浦 支 決 と い う)[本 件 債 権 の う ち 、4 分 の 3 に 相 当 す る 部 分 に つ き 、 申 立 て 却 下]
「 一 X は 、別 紙 差 押 債 権 目 録[略]記 載 の 年 払 保 険 金(年 金)[以 下 、本 件 年 金 と い う]支 払 請 求 権 に つ い て は 、4 分 の 1 の 金 員 の み な ら ず 、本 件 年 金 の 支 払 請 求 権 の 全 部 を 差 押 債 権 と し て 挙 げ 、 本 件 差 押 命 令 の 申 立 て を し て い る 。 二 し か し な が ら 、本 件 年 金 に 係 る 債 権 は 、「 債 務 者 が 国 及 び 地 方 公 共 団 体 以 外 の 者 か ら 生 計 を 維 持 す る た め に 支 給 を 受 け る 継 続 的 給 付 に 係 る 債 権 」(民 事 執 行 法 15 2 条 1 項 1 号)に 当 た る と 認 め ら れ 、 そ の 4 分 の 3 に 相 当 す る 部 分 は 差 押 禁 止 債 権 に 当 た る 。
こ れ に 対 し て 、X は 、本 件 年 金 に 係 る 保 険 契 約 は 、Y の 祖 母 が 、相 続 税 対 策 の 一 環 と し て 、Y に 生 前 贈 与 を 行 う 目 的 で 締 結 さ れ た も の で あ る こ と 、Y が ア ル バ イ ト に よ っ て 生 計 を 立 て て お り 、 本 件 年 金 が な け れ ば 生 活 を 維 持 で き な い 状 況 に は な い こ と 等 を 主 張 し て 、 本 件 年 金 は 「 生 計 を 維 持 す る た め に 」 支 給 を 受 け る も の で は な い 旨 主 張 す る 。 し か し な が ら 、 仮 に 上 記 契 約 が 上 記 の 目 的 で 締 結 さ れ た も の で あ る と し て も 、本 件 年 金 が「 生 計 を 維 持 す る た め に 」 支 給 を 受 け る も の で あ る こ と は 直 ち に 否 定 さ れ な い 。 ま た 、Y の 収 入 等 は 明 ら か で な い と こ ろ 、 単 に Y が ア ル バ イ ト を し て い る と い う だ け で は 、 本 件 年 金 が 「 生 計 を 維 持 す る た め に 」 支 給 を 受 け る も の で あ る こ と は 否 定 さ れ な い (な お 、X は 、Y の 資 力 等 に つ き 、 疎 明 資 料 の 追 加 を 行 わ な い 。)。
し た が っ て 、X の 主 張 に よ っ て も 上 記 の 結 論 は 左 右 さ れ な い 。」
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c . 抗 告 審 ・ 東 京 高 決 平 成 3 0 年 6 月 5 日 判 時 2 41 3・24 1 4 号 3 6 頁(以 下 、 単 に 東 京 高 決 と い う)[原 決 定 変 更 ・ 本 件 債 権 の 全 額 を 差 押 え]
「 民 事 執 行 法 152 条 1 項 1 号 は 、「 債 務 者 が 国 及 び 地 方 公 共 団 体 以 外 の 者 か ら 生 計 を 維 持 す る た め に 支 給 を 受 け る 継 続 的 給 付 に 係 る 債 権 」に つ い て 、4 分 の 3 に 相 当 す る 部 分(そ の 額 が 標 準 的 な 世 帯 の 必 要 生 計 費 を 勘 案 し て 政 令 で 定 め る 額 を 超 え る と き は 、 政 令 で 定 め る 額 に 相 当 す る 部 分)に つ い て 差 押 え を 禁 じ て い る が 、 そ れ は 債 務 者 及 び そ の 家 族 の 最 低 限 度 の 生 活 を 保 障 す る な ど の 社 会 政 策 的 配 慮 に 基 づ く も の で あ る 。
と こ ろ で 、 前 記 の と お り 、 本 件 保 険 契 約 は 、 そ の 継 続 的 給 付 の 形 式 が 、 年 に 一 度 、 一 定 額 が 支 払 わ れ る と い う 年 払 の も の で 、 そ の 実 質 と し て も 、 も と も と 祖 母 が 、 そ の 相 続 対 策 の た め に 、Y に 年 金 保 険 の 形 式 で 生 前 贈 与 し た も の で あ り 、 当 時 、Y は 、 両 親 の 扶 養 の 下 に あ り 、 特 に 生 活 に 困 窮 す る よ う な 状 況 に は な か っ た こ と 、 現 在 の Y の 生 活 状 況 は 明 確 で は な い が 、 本 件 保 険 契 約 に 係 る 保 険 金 を 受 給 し な く と も 、 生 活 に 困 窮 す る よ う な 状 況 に あ る と は 思 わ れ な い こ と に 照 ら せ ば 、 本 件 債 権 は 、 民 事 執 行 法 15 2 条 1 項 1 号 に 定 め る 債 権 に 該 当 す る と 認 め る こ と は で き ず 、 本 件 債 権 の 全 額 を 差 し 押 さ え る こ と が で き る と 解 す る の が 相 当 で あ る 。」
3 . 筆 者 小 評
各 事 件 の 位 置 付 け を 簡 単 な 整 理 表 で 示 す と 、 次 の と お り と な る 。
第 1 事 件 第 2 事 件
年 金 支 払 開 始 前 年 金 支 払 開 始 後 差 押 禁 止 債 権 性 を 肯 定 奈 良 地 決 水 戸 地 土 浦 支 決
差 押 禁 止 債 権 性 を 否 定 大 阪 高 決 東 京 高 決
こ の 整 理 表 か ら 、 次 の 2 点 が 明 ら か と な る 。 第 1 に 、 両 事 件 と も 、 執 行 裁 判 所 に お い て 、 私 的 年 金 保 険 契 約 に 基 づ く 債 権 の 差 押 禁 止 債 権 性 を 肯 定 し た 後 、 執 行 抗 告 裁 判 所 に お い て 、 よ り 詳 し い 審 理 を 経 て こ れ を 否 定 し た と い う
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点 で 共 通 し て い る 。 第 2 に 、 下 線 を 施 し た 奈 良 地 決 、 大 阪 高 決 お よ び 東 京 高 決 に お い て は 、 問 題 と な っ て い る 私 的 年 金 保 険 契 約 の 目 的 ・ 性 質 ・ 経 緯 を 考 慮 要 素 と し て い る 一 方(た だ し 、 こ う し た 事 柄 を 考 慮 要 素 と し て い る こ と の 意 義 が 第 1 事 件 と 第 2 事 件 と の 間 で 異 な る 点 に つ き 、 Ⅴ- 1 -a (脚 注 26))、 水 戸 地 土 浦 支 決 に お い て は 、「 仮 に 上 記 契 約 が 上 記 の 目 的 で 締 結 さ れ た も の で あ る と し て も 、 本 件 年 金 が 「 生 計 を 維 持 す る た め に 」 支 給 を 受 け る も の で あ る こ と は 直 ち に 否 定 さ れ な い 」 と 判 示 し て お り 、 少 な く と も 、 問 題 と な っ て い る 私 的 年 金 保 険 契 約 の 目 的 ・ 性 質 ・ 経 緯 を 重 視 し て い な い 。
Ⅲ . 先 行 研 究 の 確 認 - 筆 者 小 評 の 視 点 か ら -
次 に 、 第 1 事 件 お よ び 第 2 事 件 に つ き 、 保 険 法 学 、 民 事 手 続 法 学 そ れ ぞ れ の 立 場 か ら 出 さ れ た 先 行 研 究 が 、Ⅱ- 3 の 筆 者 小 評 と の 関 係 で ど の よ う な 見 解 を 示 し て い る か を 確 認 す る 。
1 . 保 険 法 学 の 立 場 か ら の 研 究
Ⅱ- 3 で 述 べ た 2 点 に 絞 っ て 注 目 し た 場 合 、保 険 法 学 は 、そ の 性 格 上 、 主 と し て 第 2 の 点 に そ の 議 論 を 集 中 さ せ る 。 以 下 、 敷 衍 す る 。
吉 川 栄 一 名 誉 教 授 は 、第 1 事 件 の 判 例 研 究4(以 下 、吉 川 研 究 と い う)を 公 表 し て い る 。 Ⅱ- 1、3 で 見 た と お り 、 第 1 事 件 は 、 年 金 支 払 開 始 前 に お け る 解 約 返 戻 金 請 求 権 が 差 押 債 権 と さ れ た と こ ろ に 、 そ の 特 徴 が あ る 。 一 方 、 そ の 2 年 ほ ど 前 に は 、 生 命 保 険 契 約 の 解 約 返 戻 金 請 求 権 に 係 る 差 押 債 権 者 が 、 そ の 取 立 権(民 事 執 行 法 155条 1 項)に 基 づ き 債 務 者 た る 保 険 契 約 者 の 有 す る 解 約 権 を 自 ら 行 使 で き る と し て 、 第 三 債 務 者 た る 保 険 者 を 相 手 取 っ て 取 立 訴 訟 を 提 起 し た 事 件 に つ き 、「 民 事 執 行 法 153 条 に よ り 差 押 命 令 が 取 り 消 さ れ 、あ る い は 解 約 権 の 行 使 が 権 利 の 濫 用 と な る 場 合 は 格 別 」と い う 留 保 付 き な が ら 、
4 吉 川 栄 一 「 個 人 年 金 保 険 契 約 に お け る 解 約 返 戻 金 の 差 押 と 解 約 権 の 行 使 」 損 害 保 険 研 究 6 4巻 2号 2 0 7 頁 以 下( 2 0 0 2 年)。
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こ の 主 張 を 認 め た 最 一 判 平 成 11 年 9 月 9 日 民 集 53 巻 7 号 117 3 頁(以 下 、 平 成 11 年 最 判 と い う)が 出 さ れ て い た 。 吉 川 研 究 は 、 こ う し た 状 況 を 踏 ま え 、 当 該 留 保 と の 関 係 で 、 第 1 事 件 、 特 に 大 阪 高 決 の 意 義 を 検 討 す る が 、 大 阪 高 決 そ の も の の 内 容 に つ い て は 、本 件 年 金 保 険 契 約 を し て 、「 社 会 保 障 の 補 完 的 意 味 合 い は 薄 く 、む し ろ 財 産 形 成 を 目 的 と し た 高 率 の 金 融 商 品 の 一 種 で あ る 」
5と 述 べ た う え で 、「 妥 当 な 決 定 で あ る 」6と 評 す る 。
栗 田 達 聡 弁 護 士 は 、 第 1 事 件 を 題 材 に し た 研 究 成 果7(以 下 、 栗 田 研 究 と い う)を 公 表 し て い る 。 栗 田 研 究 は 、 第 1 事 件 の 判 断 枠 組 み が 平 成 11 年 最 判 の そ れ に 完 全 に 同 調 し て い る わ け で は な い と い う 分 析 を 契 機 と し て 、 生 命 保 険 契 約 な い し そ の 契 約 関 係 者 の 保 護 を 念 頭 に 、 平 成 11 年 最 判 の 判 断 枠 組 み に 含 ま れ な い 生 命 保 険 契 約 と は い か な る も の か に つ き 、 そ の 試 論 を 提 示 す る 。 具 体 的 に は 、 問 題 と な っ て い る 生 命 保 険 契 約 に つ き 、 次 の よ う な 要 素 を 総 合 判 断 し て 、 生 活 保 障 型 か 貯 蓄 ・ 利 殖 型 か を 分 類 す る こ と と し 、 前 者 に 分 類 さ れ る 生 命 保 険 契 約 の 解 約 返 戻 金 請 求 権 に つ い て は 、 そ の 被 差 押 適 格 を 否 定 し よ う と す る 。① 保 険 料 払 込 方 式 が 分 割 払 込 か 一 括 前 納 か(後 者 の 場 合 、余 剰 資 金 の 貯 蓄 行 為 の 傾 向 が 強 い)、② 保 険 料 払 込 期 間 が 長 期 か 短 期 か(後 者 の 場 合 、 一 括 前 納 に 近 い)、 ③ 保 険 契 約 締 結 時 の 保 険 契 約 者 の 年 齢 が 若 年 か 高 齢 か(後 者 の 場 合 、 保 険 料 払 込 期 間 は 短 期 に な り や す く 、 余 剰 資 金 で も っ て 保 険 に 加 入 し て い る 可 能 性 が 高 い)、 ④ 保 険 契 約 者 と 保 険 金 受 取 人 と の 関 係 が 本 人 ま た は 親 族 か 、そ れ と も 債 権 者 や 法 人 等 の 第 三 者 か(後 者 の 場 合 、生 活 保 障 を 図 っ た と は 言 い 難 い)、⑤ 保 険 金 額 の 決 定 方 法(変 額 で あ れ ば 、投 機 目 的 で あ る)、
⑥ 保 険 金 支 払 方 法 が 分 割 か 一 括 か(前 者 の 場 合 、 年 金 の 意 味 合 い が 強 ま る)、
⑦ 保 険 契 約 の 名 称(保 険 契 約 締 結 時 の 保 険 契 約 者 の 意 図 を 探 る た め の 指 標 と な り 得 る)、 ⑧ 入 院 給 付 金 等 の オ プ シ ョ ン の 有 無 等8。
5 前 掲 注 4 ) 2 1 6 頁 。
6 前 掲 注 4 ) 2 1 6 頁 。
7 栗 田 達 聡 「 生 命 保 険 債 権 を め ぐ る 利 害 調 整 」 保 険 学 雑 誌 6 0 8 号 1 1 3 頁 以 下( 2 0 1 0 年)。
8 栗 田 ・ 前 掲 注 7 ) 1 2 3 頁 。
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こ の よ う に 、 第 1 事 件 と の 関 係 に お い て 、 保 険 法 学 は 、 私 的 年 金 保 険 契 約 の 目 的 ・ 性 質 ・ 経 緯 に つ き 、 そ の 位 置 付 け な い し 捉 え 方 に 差 異 が 見 ら れ る も の の 、 要 考 慮 要 素 と 見 る 点 で は 共 通 項 を 持 っ て い る よ う に 思 わ れ る9。
な お 、 第 2 事 件 に つ い て 、 現 在 の と こ ろ 、 保 険 法 学 の 立 場 か ら の 公 表 成 果 は 見 ら れ て い な い よ う で あ る 。
2 . 民 事 手 続 法 学 の 立 場 か ら の 研 究
民 事 手 続 法 学 は 、そ の 性 格 上 、 全 体 と し て 、Ⅱ- 3 で 述 べ た 2 点 の い ず れ に つ い て も 議 論 の 対 象 と し て い る 。 以 下 、 敷 衍 す る 。
第 1 事 件 に 関 す る 先 行 研 究 と し て は 、倉 部 真 由 美 教 授 に よ る 判 例 研 究1 0(以 下 、倉 部 研 究 と い う)が 見 ら れ る 。倉 部 研 究 は 、大 阪 高 決 の 結 論 に 賛 成 、理 由 の 一 部 に 疑 問 と し て 、 そ の 後 の 議 論 を 展 開 す る が 、 こ の う ち 、 奈 良 地 決 に つ い て 、 お よ そ 個 人 年 金 保 険 で あ れ ば 差 押 禁 止 債 権 に 該 当 す る 旨 を 判 示 し て い る と い う 理 解 を 前 提 に 、「 個 人 年 金 保 険 の 貯 蓄 性 を 否 定 で き な い こ と. . . . . . . . . . . . . . . . . . .
、民 事 執 行 法 152 条 1 項 1 号 の 典 型 例 と し て 、 教 会 や そ の 他 の 慈 善 団 体 か ら の 慈 恵 的 な 継 続 的 な 給 付 が 挙 げ ら れ て い る こ と を 考 慮 す る と 、1 52 条 1 項 1 号 は 将 来 の 老 後 の 生 活 保 障 ま で 含 む 趣 旨 で は な く 、 債 務 者 等 の 現 在 の 生 活 の 拠 り 所 と な っ て い る 場 合 に 限 ら れ る と 解 す る の が 妥 当 で あ ろ う 」1 1と 評 し て い る 。
第 2 事 件 に 関 す る 先 行 研 究 と し て は 、 次 の よ う な 業 績 が 見 ら れ る 。
内 田 義 厚 教 授 に よ る 判 例 研 究1 2(以 下 、内 田 研 究 と い う)は 、執 行 裁 判 所 が 、 債 権 者 の 申 立 て に 反 し て 差 押 禁 止 債 権 で あ る と 認 定 で き る か 、 そ の 根 拠 は 何 か と い う 点 を 中 心 に 議 論 を 展 開 す る 。 内 田 研 究 は 、 こ の 点 を 肯 定 的 に 解 し 、 さ ら に 、「 私 的 年 金 契 約 に 基 づ く 年 金 請 求 権 は 、従 来 か ら 継 続 的 給 付 債 権 と し て 差 押 禁 止 債 権 に 該 当 す る と の 解 釈 が 示 さ れ 、 こ れ に 対 し て は と く に 異 論 が
9 そ の 他 、 第 1 事 件 に 関 す る 裁 判 例 分 析 と し て 、 塩 崎 勤 「 判 批 」 民 事 法 情 報 1 8 4 号 7 4 頁 以 下( 2 0 0 2 年)が あ る 。
1 0 倉 部 真 由 美 「 判 批 」 ジ ュ リ 1 2 7 6号 1 5 9 頁 以 下( 2 0 0 4 年)。
1 1 倉 部 ・ 前 掲 注 1 0 ) 1 6 0 頁 。 な お 、 傍 点 は 筆 者 に よ る 。
1 2 内 田 義 厚 「 差 押 禁 止 債 権 の 認 定 と 差 押 禁 止 範 囲 変 更 -東 京 高 決 平 3 0 . 6 . 5 の 検 討-」
金 法 2 1 1 9号 5 8 頁 以 下( 2 0 1 9年)。
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な い と み ら れ る こ と か ら す れ ば 、 執 行 裁 判 所 に お い て 差 押 禁 止 債 権 で あ る と 認 定 し て よ 」 い1 3と 述 べ た う え 、 現 に こ う し た 認 定 を 行 っ た 水 戸 地 土 浦 支 決 (Ⅱ- 3 で 述 べ た と お り 、 少 な く と も 、 私 的 年 金 保 険 契 約 の 目 的 ・ 性 質 ・ 経 緯 を 重 視 し て い な い)に 対 し て 理 解 を 示 す1 4。
ま た 、 佐 藤 勤 教 授 に よ る 判 例 研 究1 5(以 下 、 佐 藤 研 究 と い う)は 、 主 と し て 差 押 債 権 者 の 立 場 か ら の 議 論 と 見 ら れ 、 民 事 執 行 法 15 3 条 1 項 に い う 債 務 者 の「 生 活 の 状 況 そ の 他 の 事 情 」に 関 す る「 有 力 説 」1 6を 梃 子 に し て 同 法 152条 1 項 1 号 に い う「 生 計 の 維 持 」の 意 義 を 理 解 し よ う と す る1 7。佐 藤 研 究 に お い て 、 私 的 年 金 保 険 契 約 の 目 的 ・ 性 質 ・ 経 緯 を 要 考 慮 要 素 と 捉 え る 考 え 方 は 、 総 じ て 希 薄 で あ る よ う に 見 受 け ら れ る 。
こ れ に 対 し 、渡 部 美 由 紀 教 授 に よ る 判 例 研 究1 8(以 下 、渡 部 研 究 と い う)は 、 第 1 事 件 、さ ら に は 、2019 年 民 事 執 行 法 改 正 に も 言 及 し た う え で 、第 2 事 件 に つ き 、 示 唆 に 富 む 議 論 を 展 開 す る 。 す な わ ち 、 渡 部 研 究 は 、 私 的 年 金 保 険 契 約 に 基 づ く 継 続 的 収 入 の 実 質 に 照 ら し て 、 民 事 執 行 法 152 条 1 項 1 号 に い う「 生 計 を 維 持 す る た め に 」の 要 件 を ど の 程 度 認 定 す る か と い う 問 題 に つ き 、 限 定 説(個 別 事 案 の 継 続 的 収 入 の 目 的 ・ 内 容 や 債 務 者 の 事 情 等 を 総 合 的 に 考 慮 し て 、 私 的 年 金 保 険 契 約 に 基 づ く 債 権 の う ち 生 計 維 持 に 必 要 な 場 合 に 限 っ て 要 件 該 当 性 を 認 め る 見 解)と 画 一 的 認 定 説(執 行 裁 判 所 お よ び 執 行 抗 告 裁 判 所 の 審 理 の あ り 方 に 着 目 し 、こ の よ う な 契 約 に 基 づ く 債 権 に つ い て 、類 型 的・
画 一 的 に 要 件 該 当 性 を 認 め た う え で 、 具 体 的 妥 当 性 の 調 整 を 差 押 禁 止 債 権 の 範 囲 の 変 更(民 事 執 行 法 153 条)に 委 ね る 見 解)が 存 す る こ と を 紹 介 す る1 9。そ
1 3 内 田 ・ 前 掲 注 1 2 ) 6 0 頁 。
1 4 内 田 ・ 前 掲 注 1 2 ) 6 0 - 6 1頁 。
1 5 佐 藤 勤 「 判 批 」 銀 行 法 務 2 1・8 5 1 号 3 2 頁 以 下( 2 0 2 0 年)。
1 6 こ の 説 に つ き 、 佐 藤 ・ 前 掲 注 1 5 ) 3 6頁 は 、「 債 務 者 の 生 活 状 況 は 当 然 考 慮 す べ き で
あ る が 、 生 活 上 の 回 復 不 可 能 な 窮 迫 の 状 態 に 陥 る お そ れ が あ る ま で の 必 要 は な く 、 差 押 禁 止 制 度 が 債 務 者 の 生 活 保 障 、 生 計 維 持 の た め の 保 護 制 度 で あ る こ と か ら 、 現 在 の 一 般 的 な 生 活 水 準 に 照 ら し て 著 し い 支 障 を 生 ず る よ う な 場 合 を 含 む と す る 」 と 解 説 す る 。 参 照 、 鈴 木=三 ヶ 月 編 ・ 前 掲 注 3 ) 5 3 9頁[五 十 部 執 筆]、 香 川 監 修 ・ 前 掲 注 3 ) 3 9 7 頁
[宇 佐 美 執 筆]。
1 7 佐 藤 ・ 前 掲 注 1 5 ) 3 6 頁 。
1 8 渡 部 美 由 紀 「 判 批 」 判 時 2 4 4 0号 1 2 2 頁 以 下( 2 0 2 0 年)。
1 9 渡 部 ・ 前 掲 注 1 8 ) 1 2 3 - 1 2 5 頁 。
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の う え で 、 自 ら は 、 基 本 的 に 前 者 を 支 持 し つ つ も 、 執 行 裁 判 所 に お け る 実 際 上 の 判 断 の 便 宜 に 配 慮 し 、「 生 活 保 障 と い う 私 的 年 金 の 本 来 的 目 的 に 鑑 み. . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
、私 的 年 金 契 約 に 基 づ く 年 金 請 求 権 が 形 式 的 に は 1 号 債 権 に 該 当 す る と し て も 、 債 権 者 が 当 該 保 険 契 約 の 目 的 等 を 含 め. . . . . . . . . . . . .
債 務 者 の 生 計 維 持 に 必 要 で な い こ と を 疎 明 し た 場 合 に は 、 執 行 裁 判 所 は 、 債 権 者 の 申 立 て に 従 っ て 差 押 命 令 を 発 し て も よ い の で は な い だ ろ う か 。 こ れ に 対 し て 、 債 務 者 に 不 服 が あ る 場 合 に は 執 行 抗 告 に よ り 対 応 す べ き で あ る 。 他 方 、 申 立 て に お い て 、 当 該 私 的 年 金 が 債 務 者 の 生 計 維 持 に 必 要 で あ る か ど う か 不 明 で あ る 場 合 に は 、原 則 に 従 っ て 、 差 押 禁 止 債 権 と し 、債 権 者 か ら の 執 行 抗 告 を 待 つ こ と に な ろ う 」2 0と 述 べ る 。 結 論 と し て 、 渡 部 研 究 は 、 東 京 高 決 の 判 断 を 支 持 す る2 1。
こ の よ う に 、 論 者 に よ っ て や や 温 度 差 が 見 ら れ る も の の 、 民 事 手 続 法 学 に お い て は 、Ⅱ- 3 の 第 1 の 点 に つ き 、渡 部 研 究 に い う 画 一 的 認 定 説 の 有 用 性 が 認 知 さ れ て い る こ と(実 際 、第 1 事 件 お よ び 第 2 事 件 と も 、こ う し た 考 え 方 に 符 合 す る 経 過 を 辿 っ て い る)、同 じ く 第 2 の 点 に つ き 、私 的 年 金 保 険 契 約 の 目 的・性 質・経 緯 の 要 考 慮 要 素 性 は 一 定 程 度 承 認 さ れ て い る こ と が 見 て 取 れ る 。
Ⅳ . 2019 年 民 事 執 行 法 改 正
2019年 民 事 執 行 法 改 正 で は 、債 権 執 行 や 差 押 禁 止 債 権 と の 関 係 で も 重 要 な 変 化 が 遂 げ ら れ た 。 以 下 、 本 稿 に 必 要 な 限 り で 概 観 す る 。
1 . 差 押 禁 止 債 権 の 範 囲 の 変 更 に 関 す る 手 続 き の 教 示
民 事 執 行 法 153 条 は 、 具 体 的 な 事 案 に お け る 不 都 合 を 避 け る べ く 、 債 務 者 が 、 差 押 禁 止 債 権 の 範 囲 の 変 更 を 申 し 立 て る こ と が で き る と い う 制 度 を 定 め て い る 。 し か し 、 債 務 者 の 中 に は 、 法 的 な 知 識 に 乏 し い 者 が 多 数 含 ま れ て お り 、 こ の 制 度 の 存 在 が 十 分 に 認 知 さ れ て い な い こ と を 原 因 の 1 つ と し て 、 こ
2 0 渡 部 ・ 前 掲 注 1 8 ) 1 2 5 頁 。 な お 、 傍 点 は 筆 者 に よ る 。
2 1 渡 部 ・ 前 掲 注 1 8 ) 1 2 5 頁 。
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の 制 度 は 、 十 分 に 活 用 さ れ て い な い と の 指 摘 が な さ れ て い た 。 実 際 、 東 京 地 方 裁 判 所 民 事 執 行 セ ン タ ー に お け る 平 成 29 年 の 同 申 立 て に 係 る 事 件 の 既 済 件 数 は 、 わ ず か 16 件 と の こ と で あ る2 2。
そ こ で 、 改 正 後 民 事 執 行 法 145 条 4 項 は 、 裁 判 所 書 記 官 が 、 差 押 命 令 を 債 務 者 に 送 達 す る に 際 し 、 差 押 禁 止 債 権 の 範 囲 の 変 更 を 申 し 立 て る こ と が で き る 旨 を 債 務 者 に 対 し て 教 示 し な け れ ば な ら な い 旨 を 新 た に 定 め た 。 こ の 教 示 は 、 差 押 債 権 の 種 類 や 債 務 者 の 属 性 に か か わ ら ず 、 一 律 に 要 求 さ れ る2 3。
2 . 金 銭 債 権 の 取 立 権 の 発 生 時 期
民 事 執 行 法 153 条 が 定 め る 差 押 禁 止 債 権 の 範 囲 変 更 申 立 て の 制 度 が 活 用 さ れ て い な い 原 因 の も う 1 つ と し て 、 金 銭 債 権 の 取 立 権 の 発 生 時 期 に 関 す る 問 題 が 指 摘 さ れ て い た 。す な わ ち 、金 銭 債 権 に 対 す る 債 権 執 行 事 件 に お い て は 、 債 権 差 押 命 令 が 債 務 者 に 送 達 さ れ た 日 か ら 1 週 間 が 経 過 す れ ば 、 債 権 者 に 当 該 金 銭 債 権 の 取 立 権 が 発 生 す る と さ れ て い る と こ ろ(改 正 前 民 事 執 行 法 155 条 1 項)、債 務 者 に お い て 、当 該 1 週 間 の う ち に 差 押 禁 止 債 権 の 範 囲 変 更 申 立 て を 行 う こ と は 事 実 上 困 難 で あ る と の 指 摘 で あ る 。
そ こ で 、 改 正 後 民 事 執 行 法 155 条 2 項 は 、 差 押 え の 対 象 が 同 法 152 条 1 項 各 号 に 掲 げ る 債 権 等 で あ る 場 合 に は 、 当 該 債 権 の 取 立 権 の 発 生 時 期 を 後 ろ 倒 し に し 、 債 務 者 に 対 し て 差 押 命 令 が 送 達 さ れ た 日 か ら 4 週 間 を 経 過 し た と き と 定 め た 。
3 . 債 権 執 行 事 件 の 終 了(差 押 債 権 者 に よ る 届 出 と 差 押 命 令 の 取 消 し)
債 権 執 行 事 件 が 終 了 す る た め に は 、 差 押 債 権 者 が 、 取 立 て 完 了 の 旨 を 執 行 裁 判 所 に 届 け 出 る か 、 申 立 て の 取 下 げ を 行 う 必 要 が あ る が 、 実 際 に は 、 こ れ ら の 対 応 が な さ れ ず に 漫 然 と 放 置 さ れ た ま ま の 事 件 が 多 数 発 生 し て い る 。 こ
2 2 今 井 和 男=太 田 秀 哉 編 著 ・ 有 賀 隆 之=池 田 綾 子=大 野 徹 也=成 田 晋 司 『 令 和 元 年 改 正 民
事 執 行 法 実 務 解 説 Q & A』(商 事 法 務 ・2 0 2 0年) 2 1 1頁(脚 注 1 ) [成 田 晋 司 執 筆]。
2 3 内 野 宗 揮 編 著 ・ 吉 賀 朝 哉=松 波 卓 也 『Q & A 令 和 元 年 改 正 民 事 執 行 法 制 』(金 融 財 政 事
情 研 究 会 ・2 0 2 0年) 3 3 4頁 。
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の 点 、 平 成 29 年 の 司 法 統 計 に よ れ ば 、 債 権 執 行 事 件 の 未 済 件 数 9 万 2764 件 の う ち 、 申 立 て か ら 2 年 以 上 経 過 し た も の は 、3 万 5118 件(約 3 8%)に 上 る と の こ と で あ る2 4。 こ う し た 状 況 は 、 第 三 債 務 者 に と っ て も 執 行 裁 判 所 に と っ て も 大 き な 負 担 と な っ て い る 。
そ こ で 、 改 正 後 民 事 執 行 法 155 条 は 、 差 押 債 権 者 が 第 三 債 務 者 か ら 支 払 い を 受 け た と き は 直 ち に そ の 旨 を 執 行 裁 判 所 に 届 け 出 な け れ ば な ら な い こ と に 加 え(同 条 4 項)、 金 銭 債 権 の 取 立 権 の 発 生 日 か ら 、 第 三 債 務 者 か ら の 支 払 い を 受 け る こ と な く 2 年 を 経 過 し た と き は 、 そ の 旨 を 執 行 裁 判 所 に 届 け 出 な け れ ば な ら ず 、 さ ら に 、 そ の 後 も 、 最 後 に 届 出 を し た 日 か ら 、 第 三 債 務 者 か ら の 支 払 い を 受 け る こ と な く 2 年 を 経 過 し た と き は 、 そ の 旨 を 執 行 裁 判 所 に 届 け 出 な け れ ば な ら な い こ と と し た(同 条 5 項)。 そ の う え で 、 同 条 は 、 こ れ ら の 届 出 義 務 が 生 じ た 後 4 週 間 以 内 に こ れ ら の 届 出 が さ れ な い と き は 、 執 行 裁 判 所 は 、 職 権 で 、 差 押 命 令 を 取 り 消 す こ と が で き る こ と と し た(同 条 6 項)。 こ の 点 、 第 三 債 務 者 が 執 行 裁 判 所 に 対 し て 差 押 命 令 の 取 消 し を 求 め る 旨 を 申 し 出 た 場 合 、 こ れ は 、 取 消 決 定 に つ い て の 職 権 発 動 の 促 し に 当 た る と 理 解 し 得 る2 5。
Ⅴ . 考 察
Ⅱ ~ Ⅳ を 前 提 に 、新 型 コ ロ ナ ウ ィ ル ス 感 染 症 に よ っ て 顕 在 化 し た 現 実 を 踏 ま え た 法 的 解 釈 論 お よ び 保 険 実 務 上 の 留 意 点 に つ き 、 以 下 、 考 察 を 加 え る 。
1 . 法 的 解 釈 論
a . 新 型 コ ロ ナ ウ ィ ル ス 感 染 症 の 全 国 的 蔓 延 か ら 得 ら れ る 仮 説
Ⅰ- 1 で 述 べ た よ う に 、新 型 コ ロ ナ ウ ィ ル ス 感 染 症 の 全 国 的 蔓 延 は 、多 く の 国 民 か ら 継 続 的 な 労 務 収 入 を 奪 い 去 っ た 。 し か も 、 そ れ ま で の 間 、 順 風 満 帆
2 4 内 野 編 著 ・ 吉 賀=松 波 ・ 前 掲 注 2 3 ) 3 5 3 頁 。
2 5 内 野 編 著 ・ 吉 賀=松 波 ・ 前 掲 注 2 3 ) 3 5 9 頁 。
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に 、 あ る い は 、 少 な く と も 困 る こ と な く 平 凡 に 、 継 続 的 な 労 務 収 入 を 得 て い た 国 民 も 含 め て 、 で あ る 。 逆 に 言 え ば 、 我 々 は 、 継 続 的 な 不 労 収 入 の 重 要 性 を 再 認 識 さ せ ら れ た と も 言 え よ う 。
理 解 の 便 宜 の た め 、 第 2 事 件 の Y を 例 に 取 っ て 考 え る 。 東 京 高 決 は 、 本 件 保 険 契 約 の 実 質 が 祖 母 の 相 続 対 策 で あ る こ と(以 下 、 判 示 事 項(ⅰ)と い う)、 係 争 時 点 に お け る Y(自 宅 を 出 て ア ル バ イ ト を し て い た 由)の 生 活 状 況 は 明 確 で は な い も の の 、 本 件 保 険 契 約 に 係 る 保 険 金 を 受 給 し な く と も 、 生 活 に 困 窮 す る よ う な 状 況 に あ る と は 思 わ れ な い こ と(以 下 、 判 示 事 項(ⅱ)と い う)等 に 鑑 み 、 本 件 債 権 の 差 押 禁 止 債 権 性 を 否 定 し た の で あ っ た 。 こ こ で 、Y が 今 回 の 新 型 コ ロ ナ ウ ィ ル ス 感 染 症 の 全 国 的 蔓 延 の 渦 中 に あ っ た と い う 事 情 を 仮 定 的 に 追 加 し て み よ う 。 想 起 さ れ る の は 、Y に お い て 、 そ れ ま で 従 事 し て い た ア ル バ イ ト に よ る 労 務 収 入 の 道 が 絶 た れ 、 そ の 後 の 生 計 維 持 を 本 件 債 権 に 頼 ら ざ る を 得 な い と い う 状 況 で あ る 。 こ の 場 合 、 本 件 債 権 の 差 押 禁 止 債 権 性 は 肯 定 さ れ る 方 向 に 傾 く と い う 考 え 方 が 生 じ て も 、 あ な が ち 不 思 議 で は な か ろ う 。こ の よ う に 想 起 し た 場 合 、判 示 事 項(ⅰ)は 何 の た め に 存 在 す る の か(必 要 不 可 欠 の 判 示 事 項 な の か)、 ま た 、 判 示 事 項(ⅱ)に つ き 、「Y の 生 活 状 況 は 明 確 で は な い 」 と い う 認 定 で は 不 十 分 な の で は な い か 、 と い う 疑 問 が 生 じ る こ と と な る 。
こ う し た 観 点 か ら 、 あ ら た め て 第 1 事 件 お よ び 第 2 事 件 の 各 決 定 を 振 り 返 る と 、 特 に 、 東 京 高 決 の 判 示 事 項(ⅰ)と の 関 連 で 、 差 押 禁 止 債 権 性 を 否 定 し た 両 高 決 だ け で な く 、 差 押 禁 止 債 権 性 を 肯 定 し た 奈 良 地 決 に つ い て も 、 問 題 と な っ て い る 私 的 年 金 保 険 契 約 の 目 的 ・ 性 質 ・ 経 緯 を 重 要 な 考 慮 要 素 と し て い る こ と が 見 て 取 れ る2 6。確 か に 、こ の う ち の 東 京 高 決 に お い て は 、債 務 者 た る Y の 生 活 状 況 を も 総 合 的 に 考 慮 し た う え で 、 結 論 を 導 い て い る(判 示 事 項
2 6 こ れ に 関 連 し て 、 第 1事 件 と 第 2 事 件 と で は 、 私 的 年 金 保 険 契 約 の 目 的 ・ 性 質 ・ 経
緯 を 考 慮 要 素 と し て い る こ と の 意 義 が 異 な る 点 、 留 意 を 要 す る 。 す な わ ち 、 年 金 支 払 開 始 前 の 債 権 が 問 題 と な っ た 第 1事 件 で は 、 主 と し て 、 当 該 債 権 を 具 体 化 さ せ る た め の 解 約 権 が 一 身 専 属 的 権 利 に 当 た る か ど う か と い う 観 点 か ら 考 慮 要 素 と さ れ た の に 対 し 、 年 金 支 払 開 始 後 の 債 権 が 問 題 と な っ た 第 2事 件 で は 、 専 ら 、 当 該 債 権 が 差 押 禁 止 債 権 に 当 た る か ど う か と い う 観 点 か ら 考 慮 要 素 と さ れ た 。 参 照 、 判 タ 1 1 0 3 号 7 2 頁 。
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(ⅱ))。し か し な が ら 、こ れ と て 不 十 分 で あ る こ と は 前 述 の と お り で あ り 、む し ろ 、 考 慮 の 比 重 は 、 判 示 事 項(ⅱ)よ り も 判 示 事 項(ⅰ)の ほ う に 重 き が 置 か れ て い る よ う に 見 て 取 れ る 。 さ ら に 、 先 行 研 究 に お い て も 、 問 題 と な っ て い る 保 険 契 約 の 目 的 ・ 性 質 ・ 経 緯 を 考 慮 要 素 と す べ き こ と を 肯 定 す る 見 解 は 少 な く な い(Ⅲ- 1 の 吉 川 研 究 お よ び 栗 田 研 究(た だ し 、後 者 は 本 稿 と 論 点 を 異 に す る)、 Ⅲ- 2 の 倉 部 研 究 お よ び 渡 部 研 究 を 参 照)。
両 事 件 の 各 決 定 お よ び 先 行 研 究 の 状 況 は 以 上 の と お り で あ る が 、 前 述 の 仮 定 的 検 討 に よ れ ば 、 民 事 執 行 法 15 2 条 1 項 1 号 に い う 「 生 計 を 維 持 す る た め に 支 給 を 受 け る 継 続 的 給 付 に 係 る 債 権 」 の 要 件 該 当 性 判 断 に あ た っ て は 、 原 則 と し て 、 そ の 時 点 に お け る 債 務 者 の 生 活 状 況 を 考 慮 要 素 と す べ き で あ り 、 問 題 と な っ て い る 私 的 年 金 保 険 契 約 の 目 的 ・ 性 質 ・ 経 緯 を 考 慮 要 素 と す べ き で は な い と い う 仮 説 が 導 か れ る 。 そ し て 、 こ う し た 仮 説 に よ る 限 り 、 水 戸 地 土 浦 支 決 が 、ご く 簡 単 な が ら 、「 仮 に 上 記 契 約 が 上 記 の 目 的 で 締 結 さ れ た も の で あ る と し て も 、 本 件 年 金 が 「 生 計 を 維 持 す る た め に 」 支 給 を 受 け る も の で あ る こ と は 直 ち に 否 定 さ れ な い 」 と 判 示 し て い る 点 、 ま こ と に 正 当 で あ る こ と と な る 。
以 下 、 こ う し た 仮 説 の 正 当 性 に つ き 、 さ ら に 考 察 を 進 め る 。
b . 「 生 計 を 維 持 す る た め に 支 給 を 受 け る 継 続 的 給 付 」 を ど う 読 む か
そ も そ も 、 民 事 執 行 法 152条 1 項 1 号 の 「 生 計 を 維 持 す る た め に 支 給 を 受 け る 継 続 的 給 付 」 と い う 文 言 は 、 ど の よ う に 読 ま れ る べ き な の で あ ろ う か 。 し ば し ば 指 摘 さ れ る よ う に 、「 差 押 禁 止 債 権 は 、法 適 用 の 明 確 性 、画 一 性 の 必 要 性 に 応 じ て 法 定 さ れ て 」 い る2 7。 と は 言 え 、 こ の 文 言 に 解 釈 の 余 地(あ る い は 、 法 適 用 の 柔 軟 性 と 言 い 換 え る こ と が で き る か も し れ な い)が 存 す る こ と は 否 定 で き な い 。 以 下 、 敷 衍 す る 。
2 7 渡 部 ・ 前 掲 注 1 8 ) 1 2 3 頁 。
19 ( 1) ア メ リ カ 内 国 歳 入 法 典
比 較 対 象 と し て 、ア メ リ カ 内 国 歳 入 法 典 に お け る 差 押 禁 止 債 権 を 取 り 上 げ て み よ う 。 同 法 典 6334 条 a 項 は 、 租 税 徴 収 の 場 面 に お け る 差 押 禁 止 財 産 を 定 め て い る と こ ろ2 8、 そ の 第 6 号 は 、 次 の と お り 、 あ る 種 の 年 金 を 指 定 し て い る2 9。
第 6号 次 に 掲 げ る 年 金
鉄 道 退 職 法 に 基 づ く 年 金 、 鉄 道 失 業 保 険 法 に 基 づ く 受 益 、 陸 海 空 軍 及 び 沿 岸 警 備 隊 の 栄 誉 名 簿 に そ の 氏 名 が 掲 載 さ れ た 者 の 受 け 取 る 特 別 年 金 、合 衆 国 法 第 1 0 編 第 7 3 章 に 基 づ く 退 職 者 又 は 従 業 員 拠 出 年 金
こ の よ う に 、 第 6 号 は 、 具 体 的 な 種 類 を 明 示 す る 形 で 差 押 禁 止 財 産 た る 年 金 を 指 定 し て い る 。 こ う し た 指 定 の 方 法 に よ る 場 合 、 原 則 と し て 、 あ る 年 金 が 同 号 に い う 年 金 に 含 ま れ る か 否 か に つ き 、複 雑 な 解 釈 問 題 は 生 じ な い 。 例 え ば 、20 07 年 の あ る 裁 判 例3 0は 、Si mplified Employ ee Pension Individual Ret ireme nt Account と 呼 ば れ る 従 業 員 年 金 資 産 が 同 号 に 含 ま れ な い 旨 に つ き 、 ご く 短 い 判 決 文 に よ っ て 結 論 付 け て い る 。
( 2) 民 事 執 行 法 1 52 条 1 項 1 号 の 解 釈 の 余 地 お よ び 選 択 肢
こ う し て 、ア メ リ カ 内 国 歳 入 法 典 と の 比 較 に よ れ ば 、日 本 の 民 事 執 行 法 152 条 1 項 1 号 が 相 対 的 に 柔 軟 な 性 質 を 備 え て い る と 考 え る こ と は 、 十 分
2 8 租 税 徴 収 の 場 面 に お け る 差 押 禁 止 財 産 の 問 題 を 包 括 的 に 検 討 し た 研 究 と し て 、 谷 川
秀 昭 「 差 押 禁 止 財 産 に 関 す る 考 察 」 税 大 論 叢 5 7 号 6 3 頁 以 下( 2 0 0 8 年)。
2 9 日 本 語 訳 は 筆 者 に よ る 。 な お 、 原 文 は 次 の と お り 。
( a ) E n u m e r a t i o n
T h e r e s h a l l b e e x e m p t f r o m l e v y—
( 6 ) C e r t a i n a n n u i t y a n d p e n s i o n p a y m e n t s
A n n u i t y o r p e n s i o n p a y m e n t s u n d e r t h e R ai l r oa d R e t i r e me n t A c t , b e ne f i t s u n d er t h e R a i l r oa d U n e m pl o y me n t I n s u r an c e A c t , s p ec i a l p e n s io n p a y m en t s r e c e i v e d by a p e r s o n wh o s e n a me h as b e e n e n te r e d o n t h e A r m y , N a v y, A i r F or c e , a n d C o a s t G u a r d M e d al o f H o no r ro l l ( 3 8 U .S . C . 1 5 62 ) , a n d a n n u i ti e s b a s ed o n r e t i r e d or r e t a i n e r p a y u n d e r c h ap t e r 7 3 o f t i t l e 10 o f t h e U n i t ed S t a t e s C o de .
3 0 U . S . v . Ci t i g r o u p G l ob a l M a r k e ts , I n c ., 5 6 9 F . S u p p . 2 d 7 0 8 ( 2 00 7 ) .
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に 可 能 で あ る よ う に 思 わ れ る 。そ う す る と 、次 に 問 題 と な る の は 、「 生 計 を 維 持 す る た め に. . .
支 給 を 受 け る 継 続 的 給 付 」 の 傍 点 部 分 を ど う 読 む か で あ ろ う 。 こ の 「 た め に 」 と い う 文 言 は 、 多 義 的 で あ り 得 る 。 す な わ ち 、1 つ に は 、「 生 計 を 維 持 す る 目 的. .
の 下 に. . .
支 給 を 受 け る(こ と と し た. . . . .
)継 続 的 給 付 」と 読 む 考 え 方(以 下 、 考 え 方(ⅰ)と い う)が あ る 。 こ の 場 合 、 問 題 と な っ て い る 私 的 年 金 保 険 契 約 の 目 的 ・ 性 質 ・ 経 緯 を 考 慮 す べ き こ と は 、 む し ろ 当 然 の 事 理 と 言 え よ う(「 こ と と し た 」ま で 付 加 し て 読 む と す る な ら ば 、こ の 事 理 は 一 層 当 然 と な る)。 も う 1 つ に は 、「(現 在 の. . .
)生 計 を 維 持 す る の に. . 必 要. . 不 可 欠. . .
3 1な も の と し て. . . . . .
支 給 を 受 け る 継 続 的 給 付 」と 読 む 考 え 方(以 下 、考 え 方(ⅱ)と い う)が あ る 。こ の 場 合 、考 慮 す べ き 要 素 は 、あ く ま で も そ の 時 点 に お け る 債 務 者 の 生 活 状 況 と い う こ と に な る(「 現 在 の 」ま で 付 加 し て 読 む と す る な ら ば 、 こ の 事 理 は 一 層 明 確 と な る)。
( 3) 立 法 経 緯
こ の 点 、 立 法 経 緯 に つ い て は 、 次 の と お り と さ れ る 。 す な わ ち 、 民 事 執 行 法 15 2 条 1 項 1 号 は 、 旧 民 事 訴 訟 法 61 8 条(明 治 23 年 法 律 第 29 号)1 項 1 号 「 法 律 上 ノ 養 料 」 お よ び 2 号 「 債 務 者 ガ 義 捐 建 設 所 ヨ リ 又 ハ 第 三 者 ノ 慈 恵 ニ 因 リ 受 ク ル 継 続 ノ 収 入 、但 債 務 者 及 ビ 其 家 族 ノ 生 活 ノ 為 メ 必 要 ナ ル モ ノ ニ 限 ル 」を 受 け 継 ぐ も の で あ る3 2。ま た 、こ の う ち の「 法 律 上 ノ 養 料 」 に つ い て は 、「 民 法 8 77 条 以 下 に 定 め る 扶 養 料 請 求 権 の み を 意 味 し 、 契 約 や 遺 言 に よ る 扶 養 料 請 求 権 に つ い て は 差 押 制 限 は 及 ば な い と 限 定 的 に 解 釈 さ れ て い た よ う で あ る 」3 3。 そ の う え で 、 こ う し た 立 法 経 緯 を 踏 ま え た 解 釈 論 と し て 、「 新 法[民 事 執 行 法 152 条 1 項 1 号]に お い て は そ れ が 扶 養. . 契 約 の 実 質. . . . .
を 有 す る 限 り 」3 4、 同 号 の 適 用 が あ る と い う 説 明 も な さ れ る 。
3 1 こ こ で は 、「[民 事 執 行]法 1 5 2 条 1 項 1 号 の 「 生 計 の 維 持 」 に つ い て 、 詳 細 に 論 じ
た 文 献 は な い 」(佐 藤 ・ 前 掲 注 1 5 ) 3 6 頁)こ と を 前 提 と し て 、 さ し あ た り 「 必 要 不 可 欠 」 と い う 文 言 を 用 い た 。 こ の 点 に 関 連 し 、 参 照 、 佐 藤 研 究 に 関 す る 前 掲 注 1 6 )。
3 2 鈴 木=三 ヶ 月 編 ・ 前 掲 注 3 ) 5 1 6 頁[五 十 部 執 筆]。
3 3 香 川 監 修 ・ 前 掲 注 3 ) 3 4 2 頁[宇 佐 美 執 筆]。
3 4 香 川 監 修 ・ 前 掲 注 3 ) 3 4 2 頁[宇 佐 美 執 筆]。 傍 点 は 筆 者 に よ る 。
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こ う し た 立 場 に 立 っ た 場 合 、私 的 年 金 保 険 契 約 に 基 づ く 年 金 請 求 権 の 差 押 禁 止 債 権 性 に つ い て も 、「 契 約 の 目 的 が 私 的 扶 養 な い し 債 務 者 及 び そ の(同 居)家 族 等 の 生 活 維 持 の 目 的 の た め に な さ れ る 」3 5こ と が 前 提 と な る 。
( 4) 仮 説 の 検 証
以 上 を 踏 ま え て 、 民 事 執 行 法 152条 1 項 1 号 に い う 「 生 計 を 維 持 す る た め に 支 給 を 受 け る 継 続 的 給 付 」 の 解 釈 論 の 仮 説(Ⅴ- 1 -a )を 検 証 す る 。
第 1 に 、 特 に 民 事 手 続 法 学 に お い て 、 私 的 年 金 保 険 契 約 の 目 的 ・ 性 質 ・ 経 緯 の 要 考 慮 要 素 性 が 一 定 程 度 承 認 さ れ て い る の は 、現 行 条 文 の 文 言 解 釈 か ら の 帰 結 と い う よ り も 、む し ろ 立 法 経 緯 か ら の 帰 結 で あ る よ う に 見 受 け ら れ る 。 し か し 、 反 面 と し て 、 旧 民 事 訴 訟 法 618 条 1 項 1 号 に い う 「 法 律 上 ノ 養 料 」 の 解 釈 が 限 定 的 に な さ れ て き た に も か か わ ら ず 、 新 法 た る 民 事 執 行 法 152 条 1 項 1 号 に 至 っ て 、そ の 解 釈 は 拡 大 的 に な さ れ る こ と と な っ た(Ⅴ- 1- b- (3 ) )。 そ う す る と 、 解 釈 論 を 展 開 す る に あ た っ て 、 立 法 経 緯 が 尊 重 さ れ る べ き こ と は 当 然 と し て も 、 そ の こ と ゆ え に 、 時 代 の 要 請 に 即 し た 合 理 的 解 釈 が 必 ず し も 全 否 定 さ れ る わ け で は な い と い う 事 理 は 、民 事 執 行 法 15 2 条 1 項 1 号 に も 妥 当 す る と 考 え て 差 し 支 え な い よ う に 思 わ れ る 。
そ こ で 、第 2 に 、差 押 禁 止 債 権 に つ い て 定 め た 民 事 執 行 法 15 2 条 の 趣 旨 か ら 検 証 を 加 え る 。同 条 は 、「 社 会 政 策 的 考 慮 や 公 益 上 の 見 地 に 基 づ き 、差 押 禁 止 債 権 の 種 類 を 定 め る と と も に 、 差 押 許 容 範 囲 を 限 定 し 、 債 務 者 の 最 低 限 度 の 生 活 を 保 障 す る 。 こ れ は 、 立 法 者 が 、 債 権 者 の 権 利 実 現 と い う 制 度 内 在 的 要 請 と 債 務 者 の 最 低 生 活 保 障 の 確 保 と い う 要 請 の 調 整 を 図 っ た 結 果 を 示 す も の で あ る 」3 6。 一 方 、 問 題 と な っ て い る 私 的 年 金 保 険 契 約 の 目 的 ・ 性 質 ・ 経 緯 と そ の 時 点 に お け る 債 務 者 の 生 活 状 況 と の 相 関 関 係 を 表 に ま と め る と 、 次 の よ う に 整 理 す る こ と が で き る 。
3 5 香 川 監 修 ・ 前 掲 注 3 ) 3 4 2 頁[宇 佐 美 執 筆]。
3 6 渡 部 ・ 前 掲 注 1 8 ) 1 2 3 頁 。