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「第三者のためにする生命保険契約」規律の多様性とその根源

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「第三者のためにする生命保険契約」規律の多様性とその根源 今 井 薫

Ⅰ. はじめに 各国の規定

(1)フランス保険法典 L.132-8条

① Le capital ou la rente garantis peuvent être payables lors du décès de l'assuré à un ou plusieurs bénéficiaires déterminés. (一時金または年金は、被保険者の死亡時に、

一人または複数の保険金受取人<受益者>に支払われることができる。)

② Est considérée comme faite au profit de bénéficiaires déterminés la stipulation par laquelle le bénéfice de l'assurance est attribué à une ou plusieurs personnes qui, sans être nommément désignées, sont suffisamment définies dans cette stipulation pour pouvoir être identifiées au moment de l'exigibilité du capital ou de la rente

garantis. (保険の利益が、名指しでは指定されないが、一時金または年金を支払うべ

きときに、特定され得るようにこの契約の中で十分に明確にされている一人または複数 の者に帰属する契約<la stipulation>は、特定の保険金受取人のためになされるものと 見做す。)

③ Est notamment considérée comme remplissant cette condition la désignation comme bénéficiaires des personnes suivantes : (以下の者を保険金受取人とする指定は、この条 件を満たすものと見做す;)

(1)-les enfants nés ou à naître du contractant, de l'assuré ou de toute autre personne

désignée ; (保険契約者、被保険者または指定されたその他の者の誕生している、または誕

生すべき子、)

(2)-les héritiers ou ayants droit de l'assuré ou d'un bénéficiaire prédécédé. (被保険者ま たは先死亡した保険金受取人の相続人または権利承継人。)

④L'assurance faite au profit du conjoint profite à la personne qui a cette qualité au

moment de l'exigibilité. (配偶者のためになされる保険は、その支払いをなすべき時にその

資格を有する者の利益となる<profiter à ~>。)

⑤ Les héritiers, ainsi désignés, ont droit au bénéfice de l'assurance en proportion de leurs parts héréditaires. Ils conservent ce droit en cas de renonciation à la

succession. (このように指定されている相続人は、その相続分の割合で、保険の利益

に権利を有する。当該相続人は、相続権を追う記した時もこの<保険の>権利を留保す る。)

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⑥ En l'absence de désignation d'un bénéficiaire dans la police ou à défaut d'acceptation par le bénéficiaire, le contractant a le droit de désigner un bénéficiaire ou de

substituer un bénéficiaire à un autre. Cette désignation ou cette substitution ne peut être opérée, à peine de nullité, qu'avec l'accord de l'assuré, lorsque celui-ci n'est pas le contractant. Cette désignation ou cette substitution peut être réalisée soit par voie d'avenant au contrat, soit en remplissant les formalités édictées par l'article 1690 du code civil, soit par voie testamentaire. (この保険契約<la police>において 保険金受取人の指定を欠くとき、または保険金受取人による承諾がない場合は、保険契 約者は保険金受取人を指定または保険金受取人を他の者に代える権利を有する。この指 定または交代は、被保険者が保険契約者でない場合は、被保険者の同意によってのみ、

無効となることなくなされ得る。この指定または交代は、契約変更証の手段、または民 法典1690条1に定める形式を満たすことで、または遺言の方式で、行うことができる。)

⑦ Lorsque l'assureur est informé du décès de l'assuré, l'assureur est tenu de

rechercher le bénéficiaire, et, si cette recherche aboutit, de l'aviser de la stipulation

effectuée à son profit.(保険者が被保険者の死亡を通知されたときは、保険金受取人を

探し、この調査が達成されたときは、そのためになされる当該契約をその者に通知しな ければならない。)

⇒フランス保険法典では、保険金受取人の指定がなされれば、この者が承諾すれば原則 的に、もはや保険契約者であっても、受取人変更はなしえない(民法の第三者のためにす る契約の規定に従う)。保険契約者が指定権を行使できるのは、L.132-8条6項に定める通 り、保険金受取人が承諾しなかった場合、まだ指定が行われていない場合に限られる。

保険金受取人の権利は、その承諾の意思表示により確定するので、その者が死亡した場 合は、その順次の相続人が保険金受取人となる(L.132-8条3項2号)。

(2)ドイツ保険契約法 第159条

① Der Versicherungsnehmer ist im Zweifel berechtigt, ohne Zustimmung des

Versicherers einen Dritten als Bezugsberechtigten zu bezeichnen sowie an die Stelle des so bezeichneten Dritten einen anderen zu setzen.(保険契約者は、疑いある場合

1 フランス民法典1690条

① Le cessionnaire n'est saisi à l'égard des tiers que par la signification du transport faite au débiteur.(債務者になされる譲渡の通知によってのみ、第三者も譲受人と解される。)

② Néanmoins, le cessionnaire peut être également saisi par l'acceptation du transport faite par le débiteur dans un acte authentique.(ただし、公文書において債務者がする譲渡の承 諾によっても同様に譲受人たり得る。)

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は、保険者の同意なく第三者を保険金受取人<Bezugsberechtigten>に指定し、またそ のように指定された第三者を別の者に変更することができる。)

② Ein widerruflich als bezugsberechtigt bezeichneter Dritter erwirbt das Recht auf die Leistung des Versicherers erst mit dem Eintritt des Versicherungsfalles.(撤回可能 的に保険金受取人として指定された第三者は、保険事故の発生により始めて保険者に対 する給付請求権を取得する。)

③ Ein unwiderruflich als bezugsberechtigt bezeichneter Dritter erwirbt das Recht auf die Leistung des Versicherers bereits mit der Bezeichnung als Bezugsberechtigter.

(撤回不能の保険金受取人として指定された第三者は、保険金受取人の指定によりすで に保険者に対する給付請求権を取得する。)

第160条

① Sind mehrere Personen ohne Bestimmung ihrer Anteile als Bezugsberechtigte bezeichnet, sind sie zu gleichen Teilen bezugsberechtigt. Der von einem

Bezugsberechtigten nicht erworbene Anteil wächst den übrigen Bezugsberechtigten zu.(複数人がその持分割合を定めることなく保険金受取人として指定されるときは、各 人は同じ割合で保険金を受給し得る。一人の保険金受取人が取得しなかった部分は、そ の他の受取人に加増される。)

② Soll die Leistung des Versicherers nach dem Tod des Versicherungsnehmers an dessen Erben erfolgen, sind im Zweifel diejenigen, welche zur Zeit des Todes als Erben berufen sind, nach dem Verhältnis ihrer Erbteile bezugsberechtigt. Eine Ausschlagung der Erbschaft hat auf die Berechtigung keinen Einfluss.(保険者の給付 が、保険契約者の死後にその相続人になされるべきときは、疑いある場合は、その死亡 時に相続人とされる者が、その相続割合に応じて保険金を受給する。相続権の放棄は、

受取人指定には影響を及ぼさない。)

③ Wird das Recht auf die Leistung des Versicherers von dem bezugsberechtigten Dritten nicht erworben, steht es dem Versicherungsnehmer zu.(保険者に対する給付 請求権が受取人として指定された第三者により取得されないときは、当該権利は保険契 約者に帰属する。)

④ Ist der Fiskus als Erbe berufen, steht ihm ein Bezugsrecht im Sinn des Absatzes 2

Satz 1 nicht zu.(国庫が相続人となるときは、保険金請求権は、第2項第1文の意味

で国庫に帰属しない。)

⇒ドイツVVGによれば、撤回不能の形式で保険金受取人を指定した場合(VVG159条3 項)を除き、保険金受取人が保険給付請求権を取得するのは保険事故の発生による(VVG159 条2項)。Manfred Wandt, Versicherungsrecht, 4. Aufl.によれば、それゆえフランスの場 合とは異なり、保険金受取人の地位は、保険事故発生前にはほとんど無意味で、保険契約

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者=被保険者の終意的処分(遺言など)によりつねに撤回されてしまう。したがって、保 険金受取人の先死亡の場合もその地位の相続は予定されないし、反面では複数の受取人が いても、そのうち一人に受取人資格の欠格を生じても、その者に支払われるべき保険金は そもそも存在しなかったから、残りの受取人に全額の保険金が支払われることになる。保 険事故発生前の保険金債権の処分権限はもっぱら保険契約者にあるので、その債権者は当 該権利を差押えて、契約を解約し保険契約者に帰属する解約返戻金から優先弁済を受け得 る。また、配偶者を受取人指定したのちに離婚し、その後再婚した場合、当初の配偶者を 保険金受取人指定したままである場合、対価関係(Valutaverhältnis)消滅の問題ととらえ るのではなく、あくまでも保険契約者の意思解釈の問題とする(BGH VerR 2007, 784.参 照)。

(3)イタリア民法典

1920条(第三者のためにする保険)

① È valida l'assicurazione sulla vita a favore di un terzo.(生命保険は、第三者のために も効力を有する。)

② La designazione del beneficiario può essere fatta nel contratto di assicurazione, o con successiva dichiarazione scritta comunicata all'assicuratore, o per testamento;

essa è efficace anche se il beneficiario è determinato solo genericamente. Equivale a designazione l'attribuzione della somma assicurata fatta nel testamento a favore di

una determinata persona.(保険金受取人の指定は、保険契約において、または保険者

に通知される爾後の書面による意思表示により、あるいは遺言によりなされることがで きる。当該指定は、保険金受取人が概括的にのみ特定されるときも有効である。特定さ れた者のために遺言によりなされる保険金の割当は指定と同一である。)

③ Per effetto della designazione il terzo acquista un diritto proprio ai vantaggi

dell'assicurazione.(指定の効果により、第三者は保険の利益に固有の権利を取得する。)

1921条(受益の撤回)

① La designazione del beneficiario è revocabile con le forme con le quali può essere fatta a norma dell'articolo precedente. La revoca non può tuttavia farsi dagli eredi dopo la morte del contraente, né dopo che, verificatosi l'evento, il beneficiario ha dichiarato di voler profittare del beneficio.(保険金受取人の指定は、前条の規定に定 める形式で撤回することができる。ただし、撤回は保険契約者の死後、および保険事故 の発生後に保険金受取人が受益の意思を表示した後は、その相続人によってなされるこ とはできない。)

② Se il contraente ha rinunziato per iscritto al potere di revoca, questa non ha effetto dopo che il beneficiario ha dichiarato al contraente di voler profittare del beneficio.

La rinuncia del contraente e la dichiarazione del beneficiario devono essere

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comunicate per iscritto all'assicuratore.(保険契約者が、書面により撤回権限を放棄し たときは、保険金受取人が受益の意思を表示したのちは、撤回は効力を有しない。保険 契約者の撤回および保険金受取人の意思表示は、保険者に書面により通知されなければ ならない。)

1922条(保険金受取人の失権)

① La designazione del beneficiario, anche se irrevocabile, non ha effetto qualora il beneficiario attenti alla vita dell'assicurato.(保険金受取人の指定は、保険金受取人が 被保険者を殺害しようとしたときは、撤回不能の場合でも効力を有しない。)

② Se la designazione è irrevocabile ed è stata fatta a titolo di liberalità, essa può essere revocata nei casi previsti dall'articolo 8002.(当該指定が撤回不能で、かつ贈与のため になされているときは、800条(忘恩行為)に定められる場合には、撤回することがで きる。)

1923条(債権者および相続人の権利)

① Le somme dovute dall'assicuratore al contraente o al beneficiario non possono essere sottoposte ad azione esecutiva o cautelare.(保険者が保険契約者または保険金受取人 に支払うべき金額は、執行法上の訴または暫定的権利保護の訴にゆだねられることはで きない。)

② Sono salve, rispetto ai premi pagati, le disposizioni relative alla revocazione degli atti compiuti in pregiudizio dei creditori e quelle relative alla collazione

all'imputazione e alla riduzione delle donazioni.(支払われた保険料に関して、債権者 の損失の下に履行された行為の撤回に関する規定、および贈与の持戻し、算入そして減 額に関する規定はこの限りでない。

⇒イタリアの場合、条文上明確に保険金受取人指定は、①保険契約締結時、②契約期間中に書 面による意思表示によって、③遺言により、それぞれ行い得る(イ民1920条2項)とされてい る。指定により保険金受取人は固有の権利を取得するとされる(イ民1920条3項)から相続は 発生すると思われるが、つねに指定は撤回可能(日本と同じ)で、これが確定するのは保険契約 者が死亡した時である(相続人による権利行使はできない。イ民1921条1項)。受取人の先死 亡(premorienza)については、その権利は相続されるが、保険契約者と受取人の同時死亡

(comorienza)については、その者の間では相続は起きないので、これらの者が夫婦である場 合、保険金請求権は姻族側に帰属することになる。

(4)民法の第三者のためにする契約の法原則(民537条、538条)と「第三者のためにする

2 伊民法典800条(撤回条項)La donazione può essere revocata per ingratitudine o per

sopravvenienza di figli.(贈与は、忘恩行為または子の予期せぬ出現により撤回されること

ができる。)

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6 生命保険契約」の法原則(保42条~44条)の乖離

・わが国の場合、民法原則では受益者が受益の意思を表示すれば、受益者の指定を撤回し、

あるいは契約そのものを解除できない(民538条)。

① 貨物引換証や船荷証券の発行されない運送契約(近時のB/Lが発行されても回収されて

しまうSURRENDERED  B/Lの場合-B/Lの元地回収という-も同じ)の場合(商法)

荷受人の積荷に対する権利は積荷が目的地に到達し、荷受人が引渡を請求することに より発生する(商583条 1 項)。⇒荷送人の積荷の処分権は、積荷の到達地での荷受人 の引渡請求(受益の意思表示)により消滅する(商582条 2 項)。

荷受人が見つからない、あるいは受取拒絶の場合、処分権は荷送人に戻ると解される

(商585条 2,3 項)。

この契約を第三者のためにする契約と解した場合(通説)、第三者の権利は将来(目 的地到達後)生じることになり、第三者が受益しない場合の処分権は要約者に帰属する。

② 改正前商法675条(旧生命保険の規定)

保険金受取人は、受益の意思を表示することなく当然に保険金に対する権利者である。

しかし、「保険契約者カ別段ノ意思ヲ表示シタルトキハ其意思ニ従フ」(改正前商675Ⅰ 後段)。

保険契約者が保険金受取人の変更権(つまり「処分権」)を留保している。いつまで 処分権が保険契約者(つまり「要約者」)に留保されているかといえば、保険契約者が 死亡するまで(改正前商675条 2 項)3

保険金受取人の先死亡は、保険契約者は「更ニ保険金額ヲ受取ルヘキ者ヲ指定スルコ トヲ得」(改正前商676条 1 項)⇒将来行使し得べき権利を行使しない場合は運送契約 同様処分権は保険契約者(わが国通説では変更権に一身専属性を認めないから契約者の 死後も権利承継人による受取人変更可能)。それでは、先死亡した受取人の権利はいつ 定まるか?⇒条文上は、「保険契約者カ前項ニ定メタル権利ヲ行ハスシテ死亡」したと き(改正前商676条 2 項)→「保険金ヲ受取ルヘキ者ノ相続人」を保険金受取人とする と規律。

この条文の趣旨は、やはり変更権の一身専属性を前提としていたのではないか。そう でなければ、これら一連の規定は無意味。ついでにいえば、条文上は、被保険者が死亡 しても(この時点で保険給付請求権は発生するが)保険契約者が生存していれば受取人 変更は可能(約款では、被保険者が死亡した場合は、その時点で「保険金受取人」であ ったものに保険金が支払われることになる)。

③ 民法の第三者のためにする契約では、受益者が受益の意思を表示するまでは、契約当事

3 条文上は一身専属権に思えるが、約款では権利承継人に指定・変更権は帰属するとされる。理 由としては、ァ)一身専属性を認める合理的根拠がない、ィ)契約者の死後保険料支払義務を負う 相続人は保険契約者の権利も承継するのが当然である、ゥ)被指定者の権利は無償取得されるの が通例である、ェ)相続人に変更権を認めなくても、解除権が相続されれば当該保険契約は容易 に解約されてしまう、などがある。西島梅治『保険法[第三版]』332頁。

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者は受益者を変更し、あるいは契約を消滅させることはできる(民537条の反対解釈)。

ただし、文言上、当該契約の権利は受益者が受益を拒絶したから要約者の権利となっ たことを意味しない。変更権・解除権が契約当事者たる要約者にあるというに過ぎない。

したがって、受益者を要約者自身に変更してはじめて要約者がその契約上諾約者に対す る権利者となる。

第三者が受領拒絶した場合、たとえばドイツでは、受領義務(BGB433条2項)4を 拒絶すると、「第三者の行為を考慮すべき」要約者に対して、諾約者は取得した権限を 行使することができるとしている(Brox/Walker, Allgemeines Schuldrecht, 31. AUfl.,

S. 382.)。要約者は、解釈上受益者に対して法律(BGB433条 2 項)が定める受領義務

を承継するようである。

イタリア法では、民法典1411条4項により、要約者との契約となる5

Ⅱ. 保険金受取人(受益者)の権利の固有権性-ローマ法 人は、第三者のために契約することができるか?

⇒できないはずだった。

(仏民法典旧1119条6)On ne peut, en général, s'engager, ni stipuler en son propre nom,

que pour soi-même.

人は一般に、自己のためにのみ、自己の名で義務を負い、約定するこ

とができる。)

(1865年伊旧民法1128条1項)Nessuno può stipulare in suo proprio nome, fuorché per

se medesimo.(何人も、自己のためである場合を除き、自己の名で約定することができな

い。)

⇒これらの規定はどこから来たのか?

ユスティニアヌス法典の「法学提要(institutiones)」の中に「 alteri stipulari nemo

potest 」(何人も他人のために約定できない)という法原則が存在した。

ここでの契約は、「stipulatio(問答契約= 両当事者が法式にのっとり口頭で約定するこ とを要する。ドイツ語ではVerbalvertragと呼んでいる)」と呼ばれる。

(設例)AB間の契約であるとして、AはBに、「汝は私に1万金を与えることを誓約する か?」と問い、Bはこれに「誓約する」と答えることで、AはBに、権利(訴権)を取得 し、BはAに義務を負う。

4 BGB433Ⅱ「買主は、売主に約束した売買代金を支払い、購入した物を引取る義務を負う(Der

Käufer ist verpflichtet, dem Verkäufer den vereinbarten Kaufpreis zu zahlen und die gekaufte Sache abzunehmen.)。」

5 In caso di revoca della stipulazione o di rifiuto del terzo di profittarne, la prestazione rimane a beneficio dello stipulante, salvo che diversamente risulti dalla volontà delle parti o dalla natura del contratto.(契約を撤回またはその受益を第三者が拒絶したときは、その給付 は要約者のために留保される。ただし、当事者の意思または契約の性質がこれと異なる場合はこ の限りでない。)

6 現在は普通取引約款に関する規定に内容変更されている。

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上の法原則から、AはBに、「汝はCに1万金を与えることを誓約するか?」と問えない し、Bも「誓約する」とは答えられない(当事者の問答契約の方式によらねば訴権actio = Klage-rechtは発生しないから)。

ところが、Jan Hallebeek(アムステルダム自由大学法学部ヨーロッパ法史学講座教授)

は、Corpus iuris civilisとは、「 alteri stipulari nemo potest 」の使い方が若干異なると いう。すなわち、「何人も他人のために給付を約することはできない」という意味になって きているという(ゲオルク・クリンゲンベルク『ローマ債権法講義(瀧澤栄治訳)』(大学

教育出版, 2001年)(387頁)でもこの訳語となっている。)7

Hallebeekによれば、紀元1世紀から3世紀にかけて各訴権(actio)に対応した法務官

告示で公表される「方式書(formula)訴訟手続」が行われていた時代を反映しているとい う。

(方式書の例)①確定金銭のコンディクティオ8(condictio certae pecuniae)

もし被告が原告に10,000セステルティウスを与えねばならぬことが明らかな ときは、汝審判人は、原告への10,000セステルティウスの支払いを被告に判示 しなければならぬ。しかしこの事実明らかならざるときは、汝は被告を免訴し なければならぬ。

コンディクティオには、確定金銭(certa pecunia)のみならず、確定物(certa res)の 場合もある(クリンゲンベルク314頁)。問答契約(stipulatio)の形式をとることで、訴 権(ここではcondictio = 今日の「不当利得返還請求」訴権というべきものとされる)を確 保する。

➡繰り返すと「他人への給付」を約定(stipulatio alteri)しても、問答契約の形式を踏 めない場合は訴権を生じえない。

Ⅲ. 承前-19世紀

ナポレオンは、いわゆるナポレオン戦争で、支配した地域に1804年に成立したばかりの フランス民法典を施行する。

アムステルダム自由大学のHarry Dondorpによれば、「ナポレオン軍の占領が終わりを 告げた時も、その地に民事法の法典が作られるまで、多くの地方ではフランスの立法が有 効なものとして維持された。これは、オランダ(ベルギーを含む)、ドイツの若干の領邦(と りわけラインラント)、ポーランドやイタリアの一部がこのケースである」という。また、

一方で、この代表であるフランス民法典は、イタリアでは、シチリア(1819年)、パルマ

(1820/1824年)、ピエモンテ(1837年)、そして、スイスではフランス語圏カントン、オ

7 Jan Hallenbeek and Harry Dondorp(ed.), Contracts for a Third-Party Beneficiary, Leiden 2008, p.10.

8 ここでは、「特定金銭の取戻訴権」とでも訳しておく。

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ランダ(1837年)、ザクセン(1865年)、イタリア王国(1865年)、そしてスペイン(1889 年)のような多くの地域で民法典やその草案の例として用いられた(Hallenbeek and Dondorp(2008) p.69.)という。

その結果、フランス法をモデルとしたすべての国々において、法実務家はフランスの注 釈書を参照したため、法律学はもはや中世以来の「Corpus iuris civilis」ではなく、フラン ス民法典に注目が集まり、その規定の法の歴史的、体系的な解釈に力点が置かれた。

その一方、ドイツ諸国では、プロイセンやバイエルンにおいても、「Corpus iuris civilis」 は、まだ学問的注目の中心にあった。歴史法学(Histrische Rechtsschule)の勃興で、ロ ーマ法-すなわちローマ法学者の作品-は、自然法が18世紀に果たしたような道標の役割 を果たしている(Hallenbeek and Dondorp(2008) pp.69, 70.)。

➡プロイセンでは「一般ラント法」(Allgemeines Landrecht für die Preußischen Staaten) が1794年に成立、バイエルン王国でも、1756年に、「マキシミリアン民法典(Codex Maximilianeus Bavaricus Civilis)(バイエルン・ラント法とも呼ばれ、ドイツ民法典成立 まで命脈を保つ)」が成立している。

「プロイセン一般ラント法」9では、第5部(契約)第2章(目的)の、「h)第三者の利益 に関する契約(Vertrag über Vortheil eines Dritten)」に、74条から77条までの条文を設 けている。

§. 74. Auch die Vortheile eines Dritten konnen der Gegenstand eines Vertrages seyn.(第 三者の利益も、契約の目的とすることができる。)

§. 75. Der Dritte selbst aber erlangt aus einem solchen Vertrage, an dessen Schliesung er weder mittelbar noch unmittelbar Theil genommen hat, erst alsdann ein Recht, wenn er demselben mit Bcwlligung der Hauptparteyen beygetreten ist.(第三者は、契約両当 事者の承認を得て契約に同意したときは、この者が間接ないし直接にその締結に関与した 当該契約から自ら権利を取得する。)

§. 76. Bis dieser Beytritt erfolgt, kann der zu seinem Vortheile geschlossene Vertrag nach dem Einverstandnis der Contrahenten geandert, oder gar aufgehoben werden.(こ の同意がなされるまでは、その利益のために締結された契約は、契約当事者の合意により 変更またはすべて失効させることができる。)

§. 77. Ist aber dem Dritten der Antrag zum Beytritt einmal geschehen, so mussen die Contrahenten seine Erklarung überdie Annahme abwarten.(ただし、第三者への参加申 込が一度なされたときは、契約両当事者は第三者の承諾の意思表示を待たなければならな い。)

※なんと、同意に契約両当事者の承認が必要である点を除けば、ドイツ保険契約法の考え 方とほぼ同じだと思いませんか!

9 原文はhttp://ra.smixx.de/Links-F-R/PrALR/pralr.htmlで参照できる。

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Ⅳ. 「他人のためにする問答契約」(alteri stipulatio)の行方 (1)ローマ法原則の変容

「何人も他人のために約定できない(alteri stipulari nemo potest.)」という原則(実際 にはローマ法でも「給付約束できない」という意味で、「なす債務」は後見との関係で可能 であったようだが)は、契約当事者間で、少なくとも第三者に権利が生じる限りにおいて 一方に対する義務が消滅するという意味で受け入れられなかった。

他方では、要約者は、債務の履行に金銭的利益を有するのであれば、権利の譲渡は認め られた。どうするのか?➡第三者が、要約者を「procurator in rem suam(自己の物に対 する事務管理人10)」として指名すれば、一種の債権譲渡の形で要約者に帰属すべき権利を 第三者に移転することはできた(債権譲渡と考えたが、譲渡できるのは譲渡人の利益とな る部分について訴権actioを維持できたとする(Christian Friedrich Mühlenbruch11, Die Lehre von der Cession der Forderungsrechte, Nach den Grundsätzen des römischen Rechts, 3. Aufl., 1836.)。これは、当初は譲受人(第三者)が譲渡人(要約者)の訴権(actio) を他人の名で(alieno nomine)訴訟代理していたのを、アントニヌス・ピウスが、自己の 名で(suo nomine)で訴え得る、準訴権(actio utilis)を認めたことによる。

カノン法は、これよりやや広い。たとえ要約者がそれに金銭的利益を持たなくとも教会 が、その権威により第三者への履行を維持させたので、その範囲で要約者の利益を要しな いとされた。

18世紀には、ヨーロッパ各地で、その必要から「第三者のためにする契約」を認める方 向で努力がなされたようであるが(この辺の調査がなお不十分。ゴメンナサイ)、「第三者 のためにする問答契約ルール」(原則として第三者の権利取得はありえない)はフランス民 法典において採用されたままになっている➡それがフランス民法典旧1119条だった(ナポ レオンが普及に一役買った)。

これに対してドイツ語圏の諸国は、ローマ法から逸脱した。すなわち、人は、第三者に 対する履行を請求することが一般に承認された。ドイツの法学者は、要約者は当事者間で 合意された第三者への履行には、要約者の金銭的利益がなければならないという構造は、

近代市民社会の「契約自由」と矛盾すると見なした。既述のプロイセン一般ラント法74条 はまさにそう言っている。

ところで、ローマ法では、「他人の名の下に、他人の計算で(im fremden Namen und für

10 クリンゲンベルクでは、「自己の利益のための委託事務管理人」と訳している。147頁。

11 Christian Friedrich Mühlenbruch(1785-1843)はロシュトック生まれ。ロシュトック、グ ライフスヴァルト、ゲッティンゲンおよびハイデルベルクで法律を学び、1805年に弁護士、1806 年ロシュトック市顧問、13年にロシュトック大学で教授資格取得して1815年グライフスヴァ ルト大学教授、1833年からはゲッティンゲン大学で教授。債権譲渡の研究者で、ローマ法では、

債権譲渡は可能だが、債務者の譲渡人への弁済権も生きているという。小野秀誠「19 世紀の大 学と法学者(2)」一橋法学 13 巻 2 号 29-31 頁。

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fremde Rechnung)」取引する「直接代理」は認められなかったので、「自己の名の下に、

他人の計算で(im eigenen Namen und für fremde Rechnung)」取引する「間接代理」の 方式がとられていた12。近代ドイツ法では、「第三者のためにする契約」法理は容認したが、

「直接代理」については、なお「何人も他人のために約定できない(alteri stipulari nemo

potest.)」の原則がなお維持されていたという13

(2)契約におけるカノン法の影響

キリスト教会は、人は自らの言葉を守らねばならず、神の前には誓いと約束との間に区 別はないと教えてきた。第三者のためにする契約については、サルディニア・カリアリ司 教に対して、法皇グレゴリウスⅠ世(在位590 - 604)が、在地の豪族に領民を圧迫するこ とをやめさせるために、彼らにその旨を約束させようと書簡を下した。

その際、その場にいない領民(第三者)に対して豪族による誓約の効力が及ぶかをめぐ って、カノン法学者は、この文脈から、ただちに片務的約束は拘束力を持つとはしなかっ たが、そこに所在しない者に対する約定が教会裁判所において執行力を持ち得たせ得るい くつかの方法のひとつとして、神への宣誓を示唆した(カノン法では、宣誓された約定を 有効ならしめるために受益者がその場にいることを要求していない)14

また、これとは別の方法として、その場に所在しない受益者の承諾による方法が提言さ れ、それによれば、その場に所在しない契約の他方当事者は、手紙や使者により、契約の 一方当事者による申込を通知される必要があった。この種の契約について、ローマ法では 売買、委任15などに制限されていたが、契約当事者の同意のみを要件とするカノン法ではそ のような制約はないとされた。

神への宣誓も教会法管轄権の下では法的拘束力を持つことから、俗人もこぞってカノン 法に基づく救済を求める。

この種の研究として英米法ではあるが高友希子(法政大学教授)「15世紀後半から16世 紀前半イングランドにおける大法官府裁判所の役割:エクイティによるコモン・ロー・シ ステム拡充プロセスに関する法制史的研究」(九大法学89巻)がある。

同論文によると、英国の一般慣習にもとづくコモンロー裁判所が、15世紀後半から16世 紀前半にかけて、既存の訴訟手続の形式面を重視したことで硬直化し、新しい社会的要求 に応えられなくなっていたため、平民もまたローマ法・カノン法の訴訟手続に通暁したエ

12 クリンゲンベルク260頁。

13 Hallenbeek and Dondorp(2008) pp.70, 71.

14 Paulus Parisiensis(1545年没)は、Consiliaの中で「Deus supplet presentiam partis」(=

神は当事者の存在を補う)と説明しているという(原典未見)。

15 Mandatumといわれる。ローマでは、もっぱら無償で人的信頼関係を基礎とするが、まった

くの内部関係で対外的効果を生じない。委任者は事務の処理や清算のため受任者に対し委任直接 訴権(actio mandati directa)を有し、受任者は逆に費用償還や損害賠償などの委任反対訴権

(actio mandate contraria)を有する。ところが、カノン法では、受任者を使者とすれば、直 接当事者間の契約となり得る。中世の為替手形の支払委託文書もこれか。

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クイティ裁判所たる大法官府裁判所(Chancery)を利用することに(本来大法官府裁判所 の利用は、救済を求める者が王への直訴としての国王評議会への請願としておこなわれる べきもの。P.12)。

重要なことは、そもそも大法官(Lord Chancellor)は高位聖職者であり、また大法官府 裁判所そのものがローマ法やカノン法で学位をえた聖職者による組織で、一般法曹のよう

にInns of court(法曹学院)でコモンロー教育を受けていないため、コモンローに対して全

く知識がない(p.12)。にもかかわらず、1460年代前半にはそれまでの2倍の年間243件、

さらに1475年から1485年には、さらに2倍の年間553件に増加し、それ以降も増加を続けて、

1515年からは年間770件を数えたという(p.9)。この増加は高教授によれば商業事件の増 加によるともされている(p.10)。

フランスでも、1536年に、パリ高等法院(Parlement de Paris)は手紙により締結され た契約の効力を認める(方式主義が排除される)。17世紀には、ネーデルラントやドイツ 語圏諸国においても、法実務で単なる合意に法的拘束力を承認したといわれる。

アルフォンソ11世のカスティリアでも、契約はその場に存在しない者との間で締結され てという理由で、契約を無効とする抗弁を提起できなくなった(1348年)。

ただし、いまだ第三者のためにする契約が認められたわけではないし、直接代理(他人 の名で他人の計算による)も容認されていないので、ただちに「alteri stipulari nemo potest」 の法理が意味を失ったわけではない。Dondorpによれば、その区別を行って、第三者の権利 を容認したのは、1348年の「Paresciendo法」16解釈に基づくアンントニオ・ゴメス(Antonio

Gómez 1501-1572)17の学説ということになる。ゴメスによれば、契約の一方当事者である

仲介者(代理人や無権限の事務管理人)に向けられた契約とその場に所在しない受益者に 向けられた契約を区別すべきで、これは直接代理が認められないので、前者はその場にい ない者のために承諾することができない。

しかし、前述のように「Paresciendo法」が第三受益者のためにする契約について、その 第三者がその場に所在しないので無効であるとする抗弁を遮断した。その理由についてゴ メス自身は説明していないようだが、「Paresciendo法」のいうところに従えば、そこに所 在しない者でも、のちに承諾すれば、当該契約は有効に締結されるので、契約締結のため 当事者はもはやそこに現存している必要はないとしたという(わたくしは、当時のスペイ ン語が読めないので、明確に断言できないのだが、第三受益者が「承諾」することで契約 当事者となるといっているようである)。

16 Ley ‘Paresciendo’という法律があることになっているが、これは、後述するゴメスのアンヴ

ェルス版におけるラテン語表記から、「variae resolutiones」(多様な解約権に関する)法という 意と推定される。

17 サラマンカ大学卒。サラマンカの首席司祭を務めながら、同地で法律を講じる。彼のスペイ ン民事法の注釈書(1889年のスペイン民法施行まで使用された)は、サラマンカで1554年か ら98年まで10版を数え、リヨンでも1584年から1674年までに5版、ヴェネツィアでも1535 年から1735年まで4版を数え、そのほか、ジュネーヴ、ナポリ、フランクフルトそしてアンヴ ェルスでも刊行されたほどの大法律家。

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(3)自然法

17世紀の法律家の常識は、やはり、人は無関係な他人を介して権利を取得することはで

きない(alteri stipulari nemo potest原則)というものだった。その結果、契約締結のため

に、当事者はその場に現存している必要があった。

しかし、ローマ法大全のこの原則にも若干の例外が認められていた。契約当事者の家族 の成員がその場に現存しており、売買や賃貸借のような諾成契約は、手紙や使者により締 結できた。カノン法の例では、在地の法ではあらゆる契約は手紙や使者により締結される ことが可能であるが、その場に所在しない者のために約定することのできる者を拡張され なかった。これを変えたのがグロティウスである。

彼は、その『戦争と平和の法(De iure belli ac pacis)』18の第二部第11章中で、その場 に現存しない受益第三者に向けた約束は、それを遵守する意図であれば、約束者自身を拘 束すると教えていた(要約者がその約束についてもはや撤回できないことを十分に知らし める徴憑(sign)を要求した。『戦争と平和の法』Ⅱ.11§3.)。ただし、当該他人は、契 約者の「片約」(policitatioの語を用いるが、英訳ないし仏訳では「inperfect prpmise」あ

るいは「promesse imparfaite」の語を用いている)のみで権利を取得しないという。

他人による承諾についても、グロティウスは、「他人のためになされた承諾について、

時により議論が生じる。ここでは、「人(A)が何かを他人(C)に与えることを誰か(B) に約束する場合と、その約定が、人(A)が与えたいとおもう者(C)に口頭で直接なされ た場合とを区別する必要がある。そして最初のケースでは、…これはローマ法が導入した 区別であるが、自然法によれば、人(A)は承諾する権利を取得し、それによってその約定 の履行を請求する権利は、当該他人(C)がそれを承諾すれば、その他人(C)に移転され 得る。したがって約束者(A)は、その間は、それを撤回する権利を持たない」と述べてい る(同Ⅱ. 11§18)。

さらに、グロティウスは、「約定が、その物が与えられるべき者に対して直接なされるの であれば、承諾すべき者が、その承諾について特別の授権を有していたのか、あるいはそ れを含むと十分に判断できる包括的な授権があるのか、あるいはまたそのような授権をな んら欠いているのかを区別する必要がある。かかる授権が先行して与えられているのであ れば、…その約定は完全であり、承諾により全く有効となる。けだし、同意が第三者(C) により伝達され、署名されれば、その意思は、(当該契約を意図した)人(A)のものとみ

18 グロティウスの原典は用いていない。邦訳は一又正雄(1907 - 1974)(訳)『グローチウス・戦 争と平和の法(第二巻)』(酒井書店, 1950年)を、仏訳は、自然法学者の翻訳家として著名な ジャン・バルベラック(Jean Barbeyrac1674 - 1744)のLe droit de la guerre, et de la paix.(par Hugues Grotius), Nouvelle traduction, tome Ⅰ, Amsterdam 1724.を、英訳はウェブ上に公開 されている、

http://oll.libertyfund.org/titles/grotius-the-rights-of-war-and-peace-2005-ed-vol-2-book-iiを 用いた。

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なされるからである。しかし、授権がないのであれば、約定がその者のためになされてい ない第三者が、約定をなした者の同意の下に、当該約定を承諾する。したがって、約定を する者(A)は、第三者が承諾または拒絶の意思を示すまでは、当該約定を撤回する権限を 有しない。約定をなした者(A)は、その間、免除もなしえない。けだし、この者は、自ら についてなんの権限も持たず、意図された利益の履行について、約定する者の名誉を行う に過ぎない。したがって、約定をなす者が、あえて撤回を試みるのであれば、自らの言を 破るものと言われはするが、債権を侵害するものではない(il ne-donne atteinte au droit de

personne)」19と述べている。この後段の表現は、すでに述べたように、プロイセン一般ラ

ント法75条の表現につながるものといえないであろうか。

(4)ナポレオン民法典成立後のフランス学説

直接代理を認めない(すなわち、外部関係と内部関係が峻別される「自己の名で他人の 計算による」間接代理のみ)ローマ法原則を、実務との兼ね合いで緩和したのは、著名な ロベール=ジョセフ・ポティエ(Robert-Joseph Pothier 1699 - 1772)といわれる。その結 果、ナポレオン民法典では、直接代理が容認されたのである。ところで、フランス民法典 1119条は、「人は、一般に、自己のためにのみ、自己の名によって契約することができる」

と定めるとともに、1121条は、「人は、それが自己のためになされる契約またはその者が他 人になす贈与の条件であるときは、同様に第三者のために契約することができる。この約 定をした者は、第三者が受益の意思を表示したときは、もはやその契約を撤回することが できない」と規律した。ところで、第三者のためにする契約を定めた1121条の「それが、

自己のためになされる契約…の条件であるとき(lorsque telle est la condition d'une stipulation que l'on fait pour soi-même)」とは何のことであろうか。

Dondorp教授は、これについて、ポティエの考え方が、そこに反映していると説明する。

すなわち、「うわべは第三者のためになされているが、実際にはこれらの契約は、自己のた めに締結されているものだ」というのである。これは、「たとえば、契約者が、家を修理す るというその本人に対する契約上の責任のゆえに、契約者自身の名で大工と新しい窓を設 置することを有効に契約する」場合がある。契約以外でも、他人の事務の管理者は、他人 の事務を適切に管理継続する義務を負うので、その時点から彼が第三者に対するその責任 のゆえに、その履行に金銭的利益を持ち得るという。したがって、この一連の考え方を敷 衍すれば、第三者に対する履行に要約者がなんの金銭的利益を有しない状況の中だけに、

この者が真に第三者のために契約したといえるが、そのような場合はほとんどないことを ポティエはつとに指摘していたという20。対価関係が求められる意味がここにある。

フランスの法学者たちは、「人は、合意された履行について、金銭的利益を持つことなく

19 Barbeyrac(1724), p.414.明確な自信はないが、一又博士の訳とも微妙に違うことを、一言し

ておく。

20 Hallenbeek and Dondorp(2008) pp.76,77.

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第三者のために約定することはできない」、というローマ法原則に固執していた。そこで、

第三者のための契約に金銭的利益を持たせるため、ひとつは、制裁条項を付加する方法と、

事務管理概念を拡張する方法とが模索された。前者についていえば、契約当事者は予め債 務の履行がなされない場合を想定して、違約金額を定める(制裁条項を置く)ことができ た。制裁条項を付加することにより、要約者は彼が金銭的利益を有する第三者のためにす る契約を約定したことになる。彼は自己のために約定したのであり、(第三者に対して)履 行する権利を取得したというのである。

後者について、ポティエが、本人のために約定することができるという事務管理に与え た例は、第三者のために約定した者はだれでも、他人の事務の(無権限の)管理者と見な され得るというものであった。しかし、アレクサンドル・デュラントン(Alexandre

Duranton 1785 - 1866)は、要約者の利益は、第三者のためにする約定を通じて、この要

約者が他人の事務を管理し始め、そして他人の事務の管理者としての責任を生み出すとき も、事務管理者としての責任に基づくことはできないと論じた。

(5)小括

フランス以外は、商人法として適宜機能的に「第三者のためにする保険契約」は変容し たと考えられるが、フランスでは民法原則すなわちローマ法原則がなお維持されたようで ある。「第三者のためにする保険契約」ではドイツVVGの説明の仕方が、もっとも理論的に 破たんが少なく、またその方式はわが国商法の運送の規定にも残っているとみることがで きたのでは。

Ⅴ. 残された、もうひとつの課題

フランスですら、生命保険が導入された当初から、それが「第三者のためにする契約」

であり、保険金受取人は固有権を有すると判断されたのではない。それは、1873年から1896 年までの間に破棄院の判例により確立されたものである(Maurice Picard et André Besson, Les asurances terrestres en droit français, tome 1, Paris 1970, p.749.)。

なぜ、それまでの判決ではこのような解釈がなされなかったのか?

Referensi

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もって契約者保護をはかるというものである。これに対して、新しい制度設計理念は、自由 化によって生じる効率性と利便性を保険契約者に還元するというものである。保険業法の改 正とその後の「自由化」は、もはや「水の流れの方向」が元に戻ることがないということを 決定的に示すものである。 しかしながら、「水の流れの方向」が定まっていても、谷川から支流となり大河となるま