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終章 提言 - 日本国際問題研究所

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Academic year: 2025

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終章 提言

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終章 提言

浦田秀次郎・柳田健介

本研究会の目的は、序論で述べたように、TPPの重要性に着目して、TPPが地域の経済 連携および通商体制づくりに如何なる影響を与えるのか、国際法、政治、経済の視点から 多角的な研究を行うとともに、ポストTPPの日本の通商戦略・経済外交のあり方を検討す ることにある。本研究会が当初想定していたのは中長期でのポストTPPの通商戦略を検討 することであったが、米国のTPP離脱および「自国第一」の通商政策への転換により状況 は大きく変化した。地域の通商秩序の行方は極めて不安定で流動的となり、このまま国際 的なリーダーシップの欠如が続けば将来的に混乱と空白の状態を生み出しかねない。それ は日本のみならず地域全体の繁栄と安定にとっても負の影響を及ぼすことは明らかである。

中長期のポストTPP戦略と言っても土台があってこその話であり、まず日本が主導的な役 割を果たして地域の通商秩序の礎を固めることが最重要の課題である。従って、現状を踏 まえると、むしろ短中期において日本が何をすべきか、どのように地域の経済連携を推進 すべきかを考え、着実に行動していくことが最も重要であると考える。但し、TPPの意義 が失われたのかというと、決してそうではない。TPPに込めた戦略的・経済的な意義とい う原点に立ち返って、日本の通商戦略の再構築をすべきである。本章では、本研究会の研 究成果をベースに、今後日本が取り組むべきポストTPPの通商秩序の課題と通商戦略・経 済外交のあり方を中心に提言を行うことにしたい。尚、ここで示す提言は要点をまとめた ものであり、詳細な提言に関する情報についてはぜひ各章をご覧頂きたい。

1.TPP 実現に向けた働きかけ

現行のTPPは、米国が批准をしないと発効の条件を満たせず、保留の状態が続くことに なる。米国が翻意するような説得の試みや受入れ可能なサイド・レターによる修正協議の 模索は重要ではあるが、TPP反対を選挙公約に掲げ、従来の通商政策から抜本的な転換を 図るとしているトランプ政権が TPP 復帰に応じる可能性は当面は極めて低いと思われる。

そうだとすれば、21世紀型の貿易協定のモデルであるTPPを、宙に浮いた状態にするので はなく、米国抜きであっても早期に発効すべきである。TPP11であっても、自由化、円滑 化、ルール面でのメリットは残る。また TPP のルールが他の交渉中の FTA に参照される 可能性もあるし、日本が交渉を有利に進めるためのベンチマークとして利用できることも 考えられる。戦略的には、将来米国が復帰する可能性も十分に考えられるため、TPPの前

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身の P4 協定が果たした役割のように、米国をはじめ関心のある関係諸国の受け皿とすべ きである。当然、FTAAP構築に向けての有力な道筋として残ることにもなる。日本は有志 国と連携・協力をして、TPP11の早期発効を目指すべきである。

2.米国復帰に向けた働きかけ

TPP11を実現させ、いずれかの時点で米国のTPPへの復帰を取り付けるのが最善策であ る。そのために、米国内の圧力を強める方策を実施すべきである。一つは、米国がTPPか ら離脱することの逸失利益や保護主義的政策に向かうことの損失を具体的に示すべきであ る。例えば、①米国を除外したアジアの地域統合が進む、②TPPによる経済効果やルール 面での利益を享受できなくなる、③安全保障・外交での米国の影響を低下させる、④米国 にとって望ましいルールメイキングが進まなくなり、逆に「中国がルールを書く」機会を みすみす与えてしまう、⑤米国のサプライチェーンの停滞や産業競争力の低下を招く、等 である。もう一つは、米国抜きのTPP、RCEP、日EU・FTA等を早期実現させることによ り、「貿易転換効果」による不利益や米国の事業者は競争上不利な立場に置かれることにな る。そうなれば、米国内の産業界や政界からTPPの批准を求める声が強まる可能性がある。

トランプ政権が主張する2国間交渉であるが、過去の例からも、米国が有利な立場にな ることが予想され、TPPで約束した自由化を上回る要求や貿易不均衡を是正する内容を求 めてくる可能性が高いと思われる。また、多国間交渉ではなく2国間交渉を軸として各国 との取決めを作るとするトランプ政権の通商政策の下では、仮に日米2国間協定ができた としても、それが地域の枠組みとして拡がるのかという点はかなり疑問である。労多くし て益少なしの2国間交渉であるため、日本が2国間交渉に応じるかは協議を重ねて慎重な 判断をすべきである。

3.交渉中のメガ FTA の早期妥結

2016年以降、先進国を中心に反グローバリズムの動きが顕在化するようになり、保護主 義が台頭するリスクが懸念されている。通商体制づくりの事実上の推進役であったメガ FTAは、米国が関わるTPPとTTIPが頓挫し、他のメガFTA交渉の停滞も招きかねない。

日本は、TPP、RCEP、日EU・FTA等の交渉中のメガFTAの早期妥結を目指すべきである。

国際社会に対して、保護主義への対抗を打ち出す強いメッセージとなることが期待される。

4.RCEP 交渉で目指すべきもの

日本の成長戦略において重要と位置付けられるのがRCEPである。製造業生産の5極(日

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中韓ASEANインド)を含んでおり、日本企業のサプライチェーンにとって極めて重要で

あり、その経済効果はTPPに劣らない。また、上述のように、TPPとの関係でRCEPの戦 略的な重要性(①米国への圧力、②保護主義への対抗)が高まった。合意に向けて交渉の 加速化が望まれるが、他方、中身に関して安易に妥協すべきではない。日本がRCEP交渉 で目指すべきことは、ASEAN+1FTAを上回る十分に高い自由化率、TPPの内容を踏まえた、

包括的なルールを盛り込むことである。石川論文(第13章)で詳しく論じているが、投資、

サービス貿易、貿易円滑化、原産地規則、企画・基準、知的財産、競争政策、FTA利用に 関する情報提供等でより高いレベルを目指すべきである。ASEAN はこれまで自由化を進 める際に段階的なアプローチを採用してきた。RCEP でも高いレベルを目標にしながら

「RCEP-X」等の柔軟かつ段階的な方式を採用することを検討すべきだ。

5.「深い統合」を目指した経済協力の推進

制度的枠組みの構築の他に、地域統合を下支えするのはインフラ整備や人材育成等の経 済協力の推進である。アジア太平洋諸国の経済格差は歴然であり、とりわけTPPのような 高いレベルに参加することが困難な開発途上国に対して貿易能力の開発支援は極めて重要 である。WTOにおいては「貿易のための援助(Aid for Trade)」があり、TPPにおいても第 21章に「協力及び能力開発」に関する章が設けられている。山田論文(第16章)では「ASEAN の連結性支援」に対する日本政府のインフラ整備、税関手続きの円滑化、人材育成等の支 援の事例を紹介している。開発援助を巡る近年の情勢は、中国が「一帯一路」を対外経済 政策の柱として推進しており、アジアインフラ投資銀行(AIIB)等の新規の国際金融機関 を設立している。こうした状況の中、日本にとっては中国の一帯一路(あるいは援助)と どう向き合うかが当面の課題である。一つは、従来のインフラ開発において、日本は「質 の高い」インフラ開発の支援で中国との差別化を図るべきである。さらに国際的な援助枠 組みにおいて、中国に国際的なルールを遵守させること、支援モダリティの調和、援助協 調を進める働きかけをすべきである。もう一つは、「深い統合」を目指した政策・制度支援 の強化である。日本はこれまでにもASEAN 諸国の制度改革を支援する協力を実施してお り、サプライチェーンの円滑化の支援、さらには知的財産権保護や環境等の法整備支援も 行っている。また国際機関と共同で、政策ローンを通じた、経済政策支援(自由化政策を 含む)の実績もある。そうした高いレベルの地域統合を下支えする経済協力の強化をすべ きである。

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6. WTO の支持と活用に向けて

WTOを中心とした自由化やルールづくりは長年停滞している状況である一方、WTOが これまで築いてきたマルチ貿易体制の重要性が損なわれるわけではない。特に WTO の監 視や紛争解決機能は、ルールに基づく通商秩序を担保するために引き続き加盟国にとって 不可欠なものである。他方、3月に公表されたトランプ米政権の「2017 年通商政策課題」

では、WTO紛争解決制度が米国の国家主権を侵害しているとの強い不満とWTOのルール 改正を働きかける姿勢を示している。WTO制度が軽視されないよう日本としても関与を強 くすべきである。また、2017年2月にはWTO貿易円滑化協定が発効し、WTO発足以降、

全加盟国・地域が参加する新しい協定が初めて完成した。特定分野を部分合意で進めるこ とにより、新しいルールづくりが極めて漸進的ではあるが可能であることを示したと言え る。さらに深川論文(第9章)で指摘されているように、WTOのプルリ協定は機能的な協 力だけを取り出して比較的政治化しにくい分野にあるため日中韓が共同参加している事例 も多く、プルリ協定を通じて日中韓あるいは他国との実質的な経済統合を促進するオプ ションとして活用すべきである。

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