講 義 オ ゾ ン 層 の 科 学
1. オ ゾ ン と 紫 外 線
オ ゾ ン (O3) は 酸 素 原 子 3個 か ら 構 成 さ れ , そ の 分 子 量 は 48 で あ る ( 図 1). 気 体 の オ ゾ ン は , 独 特 の 臭 気 が あ り , 微 青 色 を 示 し , 微 量 で も 長 時 間 吸 入 す る と 有 害 で あ る . オ ゾ ン は ,1840 年 ,シ ェ ー ン バ イ ン(C. F. Schönbein)に よ り 発 見 さ れ ,ギ リ シ ャ 語 の「ozein
( 臭 う )」 か ら 命 名 さ れ た .1881 年 , ハ ー ト レ ー (W. N. Hartley) は 太 陽 ス ペ ク ト ル の 200~320 nm に 観 測 さ れ る 吸 収 線 が オ ゾ ン に よ る も の と 判 断 し ,オ ゾ ン の 大 部 分 が 対 流 圏 で は な く ,成 層 圏 に 存 在 す る と 推 定 し た .そ し て ,1920 年 ,ド ブ ソ ン(G. M. B. Dobson) は オ ゾ ン 全 量 を 測 定 し , オ ゾ ン の 生 成 が 活 発 な 低 緯 度 よ り も 高 緯 度 で 最 大 値 を 示 す こ と か ら , オ ゾ ン 分 布 に は オ ゾ ン の 輸 送 が 関 係 し , 成 層 圏 の 風 の 役 割 が 重 要 で あ る こ と を 指 摘 し た .オ ゾ ン は 高 度 15~30 km に 多 く 存 在 し て オ ゾ ン 層 を 形 成 し ,太 陽 紫 外 線 を 吸 収 し て 高 度 50 km の 気 温 の 極 大 の 熱 源 と な っ て い る ( 図 2). オ ゾ ン の 量 は 緯 度 や 季 節 , 高 度 に よ り 変 化 す る .
図 1. オ ゾ ン の 分 子 構 造
太 陽 紫 外 線 は 波 長 帯 に よ り UV-A(320~400 nm),UV-B(280~320 nm),UV-C(280 nm 未 満 ) に 分 類 さ れ る ( た だ し ,1 nm = 10-9 m). UV-A は 可 視 光 線 に 近 く 大 気 中 で ほ と ん ど 吸 収 さ れ ず に 地 表 面 に 達 し , 日 焼 け を 引 き 起 こ す . ま た ,UV-C は 極 め て 有 害 で は あ る が , 酸 素 や オ ゾ ン な ど に 吸 収 さ れ て 地 上 に 到 達 し な い .UV-B は オ ゾ ン だ け に 吸 収 さ れ る の で , 地 表 に お け る UV-B 強 度 は オ ゾ ン の 存 在 量 に 依 存 す る .UV-B は , 生 物 の 遺 伝 子 (DNA) に 影 響 を 与 え , 皮 膚 癌 発 症 の 可 能 性 を 増 大 し た り , 動 植 物 の 生 態 系 に 影 響 を 及 ぼ す . つ ま り , オ ゾ ン 層 は UV-B か ら 私 達 を 守 っ て く れ て い る .
図 2. オ ゾ ン 層 と 紫 外 線 ( 気 象 庁 )
2. オ ゾ ン 生 成 理 論
1930 年 , チ ャ ッ プ マ ン (S. Chapman) が 発 表 し た オ ゾ ン 生 成 理 論 は , 酸 素 原 子 か ら な る 化 学 種 だ け の 反 応(1)~(4)で 構 成 さ れ ,純 酸 素 モ デ ル と 呼 ば れ る .大 気 中 の 酸 素 分 子(O2) が , 太 陽 紫 外 線 に よ っ て 光 分 解 さ れ , 二 つ の 酸 素 原 子 (O) に な る . こ の 酸 素 原 子 が 酸 素 分 子 と 結 合 し て オ ゾ ン (O3) が 形 成 さ れ る . こ れ ら の 反 応 は 成 層 圏 上 部 で 最 も 効 率 よ く 進 み , 酸 素 原 子 と の 再 結 合 に よ っ て 消 滅 す る ( 図 3 参 照 ).
紫 外 線(λ< 240 nm)
O2 + hν → 2O (1)
O + O2 + M → O3 + M; ΔH = -100 kJmol-1 (2) 紫 外 線(230 nm <λ< 340 nm, 中 心 波 長= 295 nm)
O3 + hν → O + O2 (3)
O + O3 → 2O2; ΔH = -390 kJmol-1 (4)
こ こ で ,λ は 光 の 波 長 ,ν は 光 の 振 動 数 ,h は プ ラ ン ク 定 数 を 表 し ,hν は 光 子 の エ ネ ル ギ ー で あ る1. ま た ,M は 過 剰 な エ ネ ル ギ ー を 取 り 去 る た め の 第 三 の 分 子 で あ り , 大 気 中 の N2や O2な ど で あ る .Mを 伴 わ な い O と O2だ け の 反 応 で は ,O3と し て 安 定 せ ず ,再 び O と O2 に も ど る . 反 応 (2) と(4)は 発 熱 反 応 で あ り , 成 層 圏 の 熱 源 と な る . ま た , 反 応(1) と(3)は ,340 nm よ り 短 い 波 長 の 放 射 線 が 地 表 に 届 く こ と を 防 ぎ , 植 物 や 動 物 を 有 害 紫 外 線 か ら 守 っ て い る .
図 3. オ ゾ ン の 生 成 メ カ ニ ズ ム ( 気 象 庁 )
チ ャ ッ プ マ ン の 純 酸 素 モ デ ル に よ る オ ゾ ン 密 度 の 高 度 分 布 を 観 測 結 果 と 共 に 図 4に 示 し た が , そ れ ら の 間 に は 次 の 相 違 点 が 指 摘 さ れ た .
① オ ゾ ン 量 の 極 大 を 示 す 高 度 に つ い て は , 計 算 値 の 方 が 高 い . ② 極 大 よ り も 上 層 で は , 計 算 値 が 観 測 値 の ほ ぼ 2 倍 の 濃 度 と な る . ③ 計 算 値 は 対 流 圏 で 急 激 に 小 さ く な る が , 観 測 で は ほ ぼ 同 じ 値 を 保 つ .
1 光 の 速 さ を c と す る と ν=c/λ .c = 3.0×108 ms-1,h = 6.626×10-34 Js.
図 4. チ ャ ッ プ マ ン モ デ ル に よ る 「 オ ゾ ン 数 密 度 の 高 度 分 布 」
1970 年 に ク ル ッ ツ ェ ン (P. J. Crutzen) は ,NOxを 触 媒 と す る オ ゾ ン 分 解 の メ カ ニ ズ ム を 発 表 し た .
NO + O3 → NO2 + O2; ΔH = -200 kJmol-1 (5) NO2 + O → NO + O2; ΔH = -1902 kJmol-1 (6)
反 応(5)と(6)が 繰 り 返 し 起 こ り ,NOxが 効 率 よ く O3を 分 解 し ,ま た オ ゾ ン の 材 料 と な る 酸 素 原 子 も 消 費 す る .NOxに よ る オ ゾ ン 分 解 の メ カ ニ ズ ム は , そ の 頃 開 発 が 進 ん で い た 成 層 圏 を 飛 行 す る 超 音 速 旅 客 機 (SST, Super Sonic Transport) 導 入 に 大 き な 影 響 を 与 え た . NOxと 同 様 に 水 素 酸 化 物 (HOx) も O3を 分 解 す る こ と が 示 さ れ た .
OH + O3 → HO2 + O2 (7)
HO2 +O → OH + O2 (8)
純 酸 素 モ デ ル と 観 測 値 の 相 違 点 の ② は , 窒 素 酸 化 物 (NOx) や 水 素 酸 化 物 (HOx) な ど の 不 純 物 と オ ゾ ン の 反 応 を 考 慮 す る こ と で よ い 一 致 を 示 し , ① と ③ に つ い て は 鉛 直 方 向 の 混 合 や 輸 送 の 効 果 を 考 慮 す る こ と で 改 善 さ れ た .
1974 年 , モ リ ナ (M. J. Molina) と ロ ー ラ ン ド (F. S. Rowland) は ク ロ ロ フ ル オ ロ カ ー ボ ン 類 (CFCs) に 含 ま れ る 塩 素 原 子 (Cl) が , 成 層 圏 上 部 で 太 陽 紫 外 線 に よ る 光 解 離 に よ っ て 大 気 中 に 放 出 さ れ ,NOxと 同 様 に O3の 分 解 反 応 を 促 進 し ,O3を 減 少 さ せ る こ と を 警 告 し た2(図 5参 照). 日 本 で は CFCsを CFC 類 ( フ ロ ン ) と 呼 ん で い る .
C F Cl3 + hν (λ< 240nm) → CCl2F + Cl (9) C F2Cl2 + hν (λ< 240nm) → CClF2 + Cl (10)
Cl + O3 → ClO + O2 (11)
ClO + O → Cl + O2 (12)
2 ク ル ッ ツ ェ ン と モ リ ナ , ロ ー ラ ン ド の 三 人 は 成 層 圏 オ ゾ ン に 関 す る 研 究 で 1995 年 , ノ ー ベ ル 化 学 賞 を 受 賞 し た .
図 5. フ ロ ン に よ る オ ゾ ン 破 壊 の メ カ ニ ズ ム ( 気 象 庁 )
こ の フ ロ ン に よ る オ ゾ ン の 分 解 は 成 層 圏 上 部 の 気 相 反 応 に よ っ て 効 率 的 に 進 行 す る と 予 想 さ れ た .し か し ,フ ロ ン か ら 分 離 し た 塩 素 や 一 酸 化 塩 素(ClO)は(13)~(16)の 反 応 で ,オ ゾ ン を 分 解 し な い 塩 化 水 素(HCl)や 硝 酸 塩 素(ClONO2)に 変 化 し , 大 気 中 に 保 持 さ れ る . そ の 結 果 , 塩 素 に よ る オ ゾ ン の 分 解 は 急 激 に は 進 ま な い と 判 断 さ れ , 人 間 に 無 害 で 用 途 が 広 く 便 利 な フ ロ ン の 使 用 は 増 え つ づ け た . こ の 上 部 成 層 圏 の オ ゾ ン 破 壊 の メ カ ニ ズ ム と 下 部 成 層 圏 の 反 応 を 図 6 に 示 し た .
Cl + CH4 → HCl + CH3 (13)
Cl + HO2 → HCl + O2 (14)
Cl + H2 → HCl + H (15)
ClO + NO2 + M → ClONO2 + M (16)
図 6. 上 部 成 層 圏 と 下 部 成 層 圏 の 塩 素 の 反 応 ( 気 象 庁 )
3. オ ゾ ン の 観 測
オ ゾ ン 観 測 に は オ ゾ ン 分 光 計( オ ゾ ン 全 量 )や オ ゾ ン ゾ ン デ( 鉛 直 分 布 ),レ ー ザ ー 光 線 を 利 用 し た オ ゾ ン ラ イ ダ ー な ど が 用 い ら れ る . ま た , 人 工 衛 星 に 搭 載 さ れ た オ ゾ ン 全 量 分 光 計(TOMS, Total Ozone Mapping Spectrometer) な ど に よ っ て も 観 測 さ れ て い る . オ ゾ ン 全 量 は ,図 7 に 示 し た よ う な 大 気 柱 を 考 え ,そ こ に 含 ま れ る 全 て の オ ゾ ン を 0℃ ・ 1 気 圧 の 標 準 状 態(STP)に し た 時 の 厚 さ で 示 さ れ ,通 常 cm の 1000 分 の 1 の 単 位 で 表 す . こ の 単 位 を ド ブ ソ ン (DU, Dobson Unit) ま た は m atm-cm( ミ リ ・ ア ト ム ・ セ ン チ メ ー ト ル ) と 言 う . 日 本 付 近 の オ ゾ ン 全 量 は , 普 通 250~450 DU で あ る . オ ゾ ン の 鉛 直 分 布 を 示 す 時 に は , あ る 高 度 に お け る オ ゾ ン 分 圧 (mPa, ミ リ パ ス カ ル ) で 表 す .
図 7. ド ブ ソ ン 単 位
気 象 庁 で は 札 幌 , つ く ば , 鹿 児 島 , 那 覇 , 南 鳥 島 の 国 内 5ヶ 所 と 南 極 昭 和 基 地 で , オ ゾ ン の 鉛 直 分 布 や オ ゾ ン 全 量 を 観 測 し て い る( 図 8参 照 ).観 測 結 果 は 気 象 庁 の HP に オ ゾ ン 層 観 測 速 報 と し て 公 開 さ れ て い る3.
図 8. ド ブ ソ ン 分 光 計 に よ る 観 測 ( 気 象 庁 )
昭 和 基 地 に お け る オ ゾ ン ホ ー ル 発 生 以 前 の 10 月 の 平 均 値 と オ ゾ ン ホ ー ル が 観 測 さ れ た 2008 年 10 月 5 日 の オ ゾ ン 濃 度 の 鉛 直 分 布 を 図 9 に 示 し た . 高 度 12km~20km 付 近 で オ ゾ ン が ほ ぼ 100% 破 壊 さ れ て い る こ と が 確 認 で き る .
3 http://www.data.kishou.go.jp/obs-env/ozonehp/info_ozone.html
図 9. オ ゾ ン の 鉛 直 分 布 ( 気 象 庁 )
最 近 の 研 究 で は , 南 極 の オ ゾ ン ホ ー ル だ け で な く , 全 球 的 に オ ゾ ン が 減 少 し て き て い る こ と が 確 認 さ れ て い る .例 え ば ,オ ゾ ン 全 量 の 地 上 観 測 が 一 番 長 く 継 続 さ れ て い る ス イ ス , ア ロ ー サ の デ ー タ で は ,1970 年 代 か ら オ ゾ ン 全 量 が 減 少 し て い る こ と が 確 認 で き る ( 図 10). ま た , 札 幌 も 同 様 の 傾 向 を 示 し て い る .
図 10. ス イ ス , ア ロ ー サ と 札 幌 に お け る オ ゾ ン 全 量 の 変 動
4. オ ゾ ン ホ ー ル 発 生 の メ カ ニ ズ ム
1982 年 , 南 極 越 冬 隊 に 参 加 し て い た 中 鉢 ら は 1982 年 9 月 ~10 月 に か け て オ ゾ ン 全 量 が 極 端 に 少 な く な っ て い る こ と を 発 見 し た .ま た ,英 国 の フ ァ ー マ ン(J. C. Farman)は , 南 極 の ハ レ ー ・ ベ イ 基 地 の デ ー タ (1957~84 年 ) か ら ,1970 年 代 末 か ら オ ゾ ン 全 量 が 激 減 し て い る こ と を 成 層 圏 に お け る 塩 素 種 の 増 加 と 関 連 付 け て 報 告 し た(1985 年 ).そ し て , 1986 年 ,米 国 の ス ト ラ ス キ ー(R. S. Stolarski)は ,極 軌 道 衛 星 ニ ン バ ス 7 号(Nimbus 7) の TOMS を 用 い た 南 半 球 全 体 の 分 布 図 を 示 し た .そ の 図 は ほ ぼ 南 極 大 陸 一 帯 に 穴 が 開 い た よ う に オ ゾ ン が 少 な い 領 域 が 広 が っ て い る こ と を 示 し た . こ れ が オ ゾ ン ホ ー ル で あ り , オ ゾ ン ホ ー ル が 年 々 広 が っ て い る こ と が 確 認 さ れ た .
冬 の 南 極 上 空 成 層 圏 で は , 極 を 中 心 と し た 大 気 の 流 れ ( 極 渦 ) が 発 達 し , そ の 中 で 気 温 が 急 激 に 低 下 し ,-90℃ に も な る ( 北 半 球 で は-80℃ 程 度 ). 気 温 が-78℃ 以 下 に な る と 硝 酸 三 水 和 物 や 極 め て わ ず か な 水 蒸 気 を 原 料 と す る 極 域 成 層 圏 雲(Polar Stratospheric Cloud, PSC)が 形 成 さ れ る .
図 11. 極 域 成 層 圏 雲 ( NASA)
成 層 圏 下 部 に は フ ロ ン か ら 解 離 し た 塩 素 が , 塩 化 水 素 や 硝 酸 塩 素 な ど の オ ゾ ン な ど を 壊 す こ と は な い 形 で 存 在 し て い る が ,PSC の 表 面 で は(17)~(21)で 示 し た 不 均 一 反 応4が 起 こ り , 大 量 の 塩 素 ガ ス (Cl2) が 生 成 さ れ る ( 図 12参 照 ).
ClONO2 + HCl → Cl2 +HNO3 (17)
ClONO2 + H2O →HOCl + HNO3 (18)
HCl + HOCl →Cl2 + H2O (19)
こ こ で 生 じ る 塩 素 ガ ス も オ ゾ ン を 分 解 す る こ と は な い が , 南 極 が 春 に な っ て 太 陽 光 線 が 届 く よ う に な る と 塩 素 原 子 (Cl) が つ く ら れ , こ の 塩 素 原 子 が オ ゾ ン を 急 激 に 分 解 す る .
一 方 ,(17)~(19)の 反 応 で 生 じ る 硝 酸 (HNO3)は PSC に 取 り 込 ま れ る . そ し て ,PSC の 表 面 で は , 次 に 示 し た 五 酸 化 二 窒 素 (N2O5) に 関 す る 反 応 も 促 進 さ れ る .
4 不 均 一 反 応 と は 気 相 反 応 で は 起 き に く い 反 応 が , 固 体 や 液 体 の 表 面 で 反 応 す る こ と .
N2O5 + H2O → 2 HNO3 (20)
N2O5 + HCl → ClNO2 + HNO3 (21)
(20)と(21)の 反 応 で は 大 気 中 か ら N2O5が 取 り 除 か れ ,硝 酸 と し て PSCに 取 り 込 ま れ る . 気 体 の NO2は N2O5と 次 の よ う な 気 相 平 衡 に あ り ,N2O5が 減 少 す る と(22)の 反 応 が 右 か ら 左 に 生 じ , 大 気 中 の NO2も 減 少 す る .
2 N2O5 ⇔ 4 NO2 + O2 (22)
十 分 に 成 長 し た PSC は , 硝 酸 を 取 り 込 ん だ ま ま 降 下 す る . つ ま り ,PSC の 表 面 で 起 こ る 一 連 の 反 応 な ど で ,気 相 の 窒 素 酸 化 物(NOx)が 成 層 圏 か ら 取 り 除 か れ る こ と に な る( 脱 窒 ). 大 気 中 か ら NO2が 減 少 す る と ,(16)の 反 応 が 起 こ り に く く な り , ClO の 濃 度 が 高 く 保 た れ る . こ の た め , ClO の 触 媒 反 応 が 維 持 さ れ , オ ゾ ン の 加 速 度 的 な 分 解 に 寄 与 す る
( 図 12).
図 12. オ ゾ ン 破 壊 に お け る 極 成 層 圏 雲 の 役 割 ( 気 象 庁 )
オ ゾ ン ホ ー ル が 形 成 さ れ る た め に は , オ ゾ ン の 分 解 が 加 速 的 に 進 行 し な け れ ば な ら ず ,
(12)の 反 応 が 機 能 す る こ と が 必 要 と な る .し か し ,オ ゾ ン ホ ー ル が 生 じ て い る 高 度 20km 付 近 で は , 酸 素 原 子 (O) の 存 在 量 は 少 な く ,(12) の 反 応 に 代 わ っ て ,ClO か ら Cl を 生 成 す る メ カ ニ ズ ム が 必 要 と な る .(12)に 代 わ る 反 応 に は ClO や Br( 臭 素 )に 関 す る(23)
~ (27) に 示 し た 反 応 が 考 え ら れ て い る .
(I): ClO + ClO + M → Cl2O2 + M (23)
Cl2O2 + hν(λ< 300 nm) → Cl + ClO2 (24)
ClO2 + M → Cl + O2 + M (25)
(II): ClO + BrO → Br + Cl + O2 (26)
Br + O3 → BrO + O2 (27)
オ ゾ ン ホ ー ル 発 生 の メ カ ニ ズ ム が 図 13に ま と め ら れ て い る .
図 13. オ ゾ ン ホ ー ル 発 生 の メ カ ニ ズ ム ( 環 境 省 )
南 半 球 の オ ゾ ン 分 布 の 経 年 変 化 を 図 14に 示 し た . オ ゾ ン ホ ー ル の 発 達 は ,1980 年 代 か ら 急 速 に 進 行 し て い る こ と が 認 め ら れ る . ま た , 気 象 庁 が 作 成 し た 近 年 の オ ゾ ン ホ ー ル の 状 況 を 図 15に 示 し た .
図 14. オ ゾ ン 分 布 の 経 年 変 化 ( 1979-1997 年 の 10 月 , 1995 年 は 欠 測 )
( http://toms.gsfc.nasa.gov/multi/monoct.gif)
図 15. 近 年 の オ ゾ ン ホ ー ル の 状 況 ( 1999~ 2008 年 )( 気 象 庁 )
北 半 球 で は 南 半 球 に 比 べ て 極 渦 が 弱 く ,PSC の 形 成 が 抑 え ら れ て い た .し か し ,成 層 圏 の 寒 冷 化 に 伴 い PSC の 観 測 例 が 報 告 さ れ て い る .ま た ,極 以 外 の オ ゾ ン の 減 少 に 関 し て は , 成 層 圏 に 存 在 す る 硫 酸 エ ア ロ ゾ ル の 表 面 で 不 均 一 反 応 (17) ~(21)が 生 じ , オ ゾ ン の 分 解 が 進 む と 考 え ら れ て い る . 北 半 球 の オ ゾ ン の 状 況 を 図 16に 示 し た .
図 16. 北 半 球 の オ ゾ ン の 状 況 ( 1979-1998 年 の 三 月 , た だ し 1995,1996 年 は 欠 測 )
( http://toms.gsfc.nasa.gov/multi/TOMSmarch79_98.gif)
5. オ ゾ ン 層 の 保 護 と 将 来
1985 年 3 月「 オ ゾ ン 層 保 護 の た め の ウ ィ ー ン 条 約 」,1987 年 9月「 オ ゾ ン 層 を 分 解 す る 物 質 に 関 す る モ ン ト リ オ ー ル 議 定 書 」 が そ れ ぞ れ 採 択 さ れ , こ れ を 受 け て 図 17 に 示 し た よ う に 各 国 が フ ロ ン の 規 制 に 取 り 組 ん で い る .
こ れ ら の 条 約 は ,1988 年 日 本 の 国 会 で 批 准 さ れ ,「 特 定 物 質 の 規 制 等 に よ る オ ゾ ン 層 の 保 護 に 関 す る 法 律 」が 制 定 さ れ た .1995 年 に は 特 定 フ ロ ン の 使 用 が 廃 止 さ れ た が ,安 定 物 質 で あ る た め に 現 在 も 成 層 圏 で は 増 加 し て い る .
図 17. モ ン ト リ オ ー ル 議 定 書 に 基 づ く オ ゾ ン 層 破 壊 物 質 削 減 ス ケ ジ ュ ー ル ( 環 境 省 )
モ ン ト リ オ ー ル 議 定 書 に は ,1990 年 の ロ ン ド ン 改 正 ,1992 年 の コ ペ ン ハ ー ゲ ン 改 正 ,1999 年 の 北 京 改 正 が 実 施 さ れ た . モ ン ト リ オ ー ル 議 定 書 の そ れ ぞ れ の 改 正 で は , 科 学 研 究 の 最 新 成 果 に よ る 将 来 予 測 が 参 考 に さ れ た .成 層 圏 の 塩 素・臭 素 濃 度 の 将 来 予 測 を 図 18 に 示 し た . ま た , 成 層 圏 の 塩 素 ・ 臭 素 濃 度 の 将 来 予 測 に 基 づ い て , 北 緯 60 度 か ら 南 緯 60 度 の オ ゾ ン 全 量 と 南 極 オ ゾ ン 全 量 の 予 測 を 図 19 に 示 し た . こ れ ら の 予 測 か ら 2050 年 頃 に は , 成 層 圏 オ ゾ ン が 回 復 す る こ と が わ か る .
図 18. 成 層 圏 の 塩 素 ・ 臭 素 濃 度 の 予 測 ( WMO, 2003)
図 19. オ ゾ ン 全 量 の 将 来 予 測 ( 気 象 庁 )
6. 参 考 文 献
島 崎 達 夫 , 成 層 圏 オ ゾ ン [第 2 版 ], 東 京 大 学 出 版 会 , 1989 年 .
北 海 道 大 学 大 学 院 環 境 学 院 , オ ゾ ン 層 破 壊 の 科 学 , 北 海 道 大 学 , 2007 年 . 坪 田 幸 政 , 地 球 シ ス テ ム の 基 礎 , 成 山 堂 書 店 , 2008 年 .
坪 田 幸 政 ・ 吉 田 優 , イ ン タ ー ネ ッ ト 気 象 学 , ク ラ イ ム , 2002 年 .