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金属材料が患う微生物感染症 - J-Stage

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微生物が金属材料を腐食する現象は,古くから微生物腐食と して知られている.微生物腐食は,正に金属が患う微生物感 染 症 と 言 え る.1934年 に 微 生 物 腐 食 に 関 す る 仮 説 が 提 唱 さ れて以来,多くの研究者がこの問題に取り組んできた.しか し理論だけが先行し,疾患の原因とも言える腐食原因菌はな か な か 同 定 さ れ ず,そ の メ カ ニ ズ ム も 解 明 さ れ て い な か っ た.そ の よ う な な か,2004 誌 に 新 規 腐 食 原 因 菌 が 報 告 さ れ た こ と を 端 緒 に,こ の10年 間 で 次 々 と 新 規 腐 食 原 因菌が見つかり,研究が飛躍的に進んでいる.本稿では,微 生物による金属腐食現象を微生物が引き起こす金属の感染症 として捉え直し,今何が不足し,今後何を明らかにしていか なければならないのか解説する.

はじめに

微生物が引き起こす金属腐食現象は,微生物腐食(MIC: 

Microbiologically influenced corrosion, Microbialy influ- enced corrosion, biocorrosionなど複数の英語表記が存 在)として古くから知られている.今さらなぜ微生物腐 食を採り上げるのか? 微生物腐食研究の歴史を紐解き

ながら,筆者の独自の観点である微生物感染症とのアナ ロジーから,最新の知見を踏まえて解説する.

微生物腐食の歴史

微生物腐食という現象は古くから知られていたもの の,その原因菌や腐食メカニズムはいまだ不明な点が多 い.1931年に水素資化性の硫酸塩還元細菌(SRB)が 報告(1)されたことを受けて,1934年に水素資化性SRB による金属腐食メカニズムの仮説としてカソード復極説 が提唱されている(2)

.嫌気的な環境では,金属鉄の腐食

反応は遅く,その原因はカソード場での電子流失の律速

(ちなみにアノードは金属イオンの溶解)により脱分極

(アノードとカソードが電位的に釣り合い,それぞれの 場が消失すること,図

1

Aから図1Bへのシフト)を起こ すためである.このように,嫌気的な環境での金属鉄の 腐食は遅いはずであるが,カソード復極説によると脱分 極状態にならず,腐食が進むとされている.カソード復 極説は,水素資化性菌の存在によりカソードの電子流失 が誘導されて分極状態に戻り,腐食が促進されるという 理論である(図1C)

【解説】

Metal Materials Suffer from Infectious Disease: Microbiologically  Influenced Corrosion

Satoshi WAKAI, 神戸大学自然科学系先端融合研究環

金属材料が患う微生物感染症

微生物腐食

若井 暁

(2)

この仮説が提唱されて以来,多くの研究者・技術者が SRBを腐食原因菌として認識してきた.そして,一般 的な化学腐食では説明できない加速的に進む腐食反応に ついて,SRBによる微生物腐食の疑いを向けてきた.

しかしながら,腐食環境から分離したSRBを用いて腐 食再現試験を試みても,ラボスケールで腐食の再現が確 認できないという事案が多い.この仮説と現場の事例の ズレから,Moriらは水素資化性と腐食能の相関につい て調べ,水素資化性がカソード復極を引き起こす要因で はないことを実験的に示している(3)

それでは,なぜカソード復極説が長い間受け入れられ てきたのか,もう一つのポイントはSRBという点にあ る.SRBはその代謝様式から水素資化性と従属栄養性 に分けることが可能であるが,いずれも硫酸還元反応に より硫化水素を生産する.高濃度の硫化水素が蓄積する と,それは化学的に腐食を誘導してしまうし,何より微 量の鉄と硫化水素があるだけで黒色の硫化鉄を容易に形 成してしまうために目立つのである.たとえば,筆者が 行ったラボスケールでの腐食能試験の写真(図

2

A)は,

SRBが腐食菌だと言いたくなる気持ちが少しわかると 思う.左の3本は培養液が透明であるが,右の3本は 真っ黒に変色している.この右の3本では,SRBが存在 し,黒色の硫化鉄ができていることが容易に推測でき る.しかし,実際には,この腐食能試験で腐食を起こし ている微生物は,SRBではなく別の微生物(後述の鉄 腐食性メタン生成菌)である.図2Bは,図2Aのボトル と対応した位置関係にあり,培養液中に溶出した鉄イオ ンおよび不溶性の腐食生成物の鉄を溶解して定量的に示 したものである.SRBを植菌したボトルは外観が真っ 黒になっているが腐食鉄量は無菌区と変わらず,左から 二番目のKA1株という微生物存在下でのみ強い腐食誘

導が起こっている.このように,真に腐食を起こしてい る微生物を特定しなければ,その環境中で起こる微生物 腐食を理解することは難しいだろう.現在,最大の課題 は網羅的に腐食菌を明らかにし,その検出方法を構築す ることである.

微生物腐食と感染症の類似点

筆者は,微生物が引き起こす金属腐食現象を,金属材 料が患う微生物感染症と位置づけている.これは,図

3

に示すような,ヒトが患う微生物感染症とのアナロジー からきている.ヒトの微生物感染症では,原因となる微 図1嫌気的な環境での電気化学的な腐食 挙動モデル

(A)無生物的な化学腐食(分極状態),(B)

腐食停滞状態(脱分極状態),(C)水素資化 性SRBによるカソード復極説,(D)カソー ドから直接電子を引き抜くSRBによる腐食.

図2腐食試験後の培養瓶の外観(A)と溶出した腐食鉄量

B

KA1: 鉄腐食性メタン生成菌KA1株,JJ: 非腐食性メタン生成菌JJ 株,Dv:  (水素資化性SRB),

(水素資化性SRB), (従

属栄養性SRB).

(3)

生物が特定されており,感染を防ぐための予防,感染後 に病原菌を特定する診断,発症前後の増殖抑制や殺菌が 治療として確立されている.いずれかが欠けるものは,

適切な処置が行えないため重篤な症状を示す.残念なが ら,微生物腐食ではそのすべてが不十分と言わざるをえ ない.すなわち,腐食原因菌に関する知見が不足してい るため診断できず,適切な予防(防食)や処理を行うた めに必要な情報が得られていない.

もちろん,現在までにさまざまな対応がされており,

防食に関してはとりわけさまざまな対策方法がとられて いる.たとえば,金属表面のコーティング,高耐食性の 高品位材料の採用,強力な殺生能をもったバイオサイド の使用である.一方で,これらは莫大なコストを要す る.このコストも実は金属腐食の問題の一つであり,腐 食に関する全コストは米国で年間2,760億ドル(4)

,日本

でも年間3.9兆円(5)という試算がある.このようなコス トに加えて,環境への問題もある.たとえば,石油のパ イプラインで腐食が発生すると穴が開き,漏洩事故と環 境汚染を引き起こす.さらに,近年,シェールガス・

シェールオイルの開発に注目が集まっているが,この分 野でも微生物腐食への対策が環境汚染への観点から問題 視されている.たとえば,バイオサイドとしてグルタル アルデヒドが使用されるが,生物毒性の問題からその使 用に対して多くの反発を生んでいる.ビールの本場ドイ ツでは,ビール業界が,地下水源汚染の懸念を理由に シェールガス開発におけるフラッキングの中止を政府に 要請し,地下3,000 m未満でのフラッキングを禁止する 法案の策定が進んでいる.

微生物腐食という現象は,感染症とよく似た対策など を施すことで有効な処置が行えそうであるが,対策が進 んでいる防食技術においても問題が山積みである.一つ ずつ解決していくためには,どのような微生物が腐食を 引き起こし,それがどのようなメカニズムで進行するか を理解したうえで,有効な診断技術とそれを防ぐための 効率的な手段を確立していかなければならない.

多様な腐食原因菌

ここまで微生物腐食の歴史から問題点まで取り上げて きたが,よくわからないことが多く研究対象として難し いテーマとの印象があるだろう.しかし,近年,微生物 腐食の研究は大きな進展を見せている.最大のトピック スは,真に腐食を誘導する微生物たちが見つかってきて いるということである.2004年, 誌に嫌気性の 腐食原因菌(新規鉄腐食性SRBと新規鉄腐食性メタン 生成菌)が見つかったという論文が出た(6)

.本論文を皮

切りに,鉄腐食性メタン生成菌(3, 7)

,鉄腐食性鉄酸化細菌

(8)

,ヨウ素酸化細菌

(9)

,鉄腐食性酢酸菌

(10)

,および鉄腐

食性硝酸塩還元細菌(11)による腐食が報告されている.

実験室レベルで腐食が再現できる微生物たちの発見は,

今後の研究展開を間違いなく進展させるだろう.

1. 新規鉄腐食性 SRBによる腐食

上述したように,SRBはその硫化水素生産能から腐 食への関与があるが,Dinhらが発見したSRBはアノー ド場での鉄イオンの溶解よりもカソード場での電子流失 が腐食能として寄与すると考えられている(6)(図1D)

1934年のカソード復極説の提唱から70年経過して,カ ソード場に影響する微生物が見つかったということにな る.彼女らは,金属鉄を唯一の電子供与体として使用す ることで,鉄腐食性のSRBとメタン生成菌の分離に成 功した.それまで,多くの研究者は既知の培地を用いて 微生物を分離し,腐食能を調べていたため真の腐食菌に たどり着けていなかった.彼女らは,この金属鉄を使っ た集積・分離法によって新規の腐食菌を分離することに 成功したが,その報告の中で有効な腐食メカニズムの証 明まではたどり着けていない.彼女らが提唱している菌 体接触による金属からの直接的な電子流失仮説の証明に は,腐食原因因子となる生体成分の同定が今後必要であ る.

Dinhらの新規鉄腐食性SRBによるこのような電子の引 き抜きに依存した腐食のメカニズムをEMIC (Electrical- ly MIC)と呼び,生産した硫化水素による腐食のよう な間接的なメカニズムをCMIC (Chemical MIC)と呼ぶ ことが提唱されている(12)

.これまでEMICの例は少な

かったが,近年,EMICに関与する可能性が高い微生物 たちが見つかってきている.

2. 鉄腐食性メタン生成菌

Dinhらの既報の中にも鉄腐食性メタン生成菌が登場 するが,鉄腐食性メタン生成菌の研究は日本でかなり進 図3微生物腐食と微生物感染症のアナロジー

(4)

んでいる.Uchiyamaらは,金属鉄を唯一の電子供与体 として環境サンプルからDinhらの分離株とは異なる腐 食原因菌の分離に成功している(7)

.Uchiyamaらが標的

とした環境は,石油タンクの底にたまっている水であっ た.日本は石油資源に乏しいため輸入に頼っており,海 外からの供給が止まるとオイルショックのときのように 経済活動が大きなダメージを受ける.そのため,海外か らの供給が止まっても経済活動が停滞しないように,国 内に約190日分の石油(2014年3月末,8,406万kL)が 備蓄されている.石油関連施設では微生物による金属腐 食がたびたび問題となっており,日本国内での安全な資 源管理を目的に本研究は進められていた.そして,これ までに国内の石油タンクから3株の鉄腐食性メタン生成 菌が見つかっている(3, 7)

これらの鉄腐食性メタン生成菌は,いずれも

と16S rRNA遺伝子(16S rDNA)

の配列が100%一致する.しかしながら,

の基準株JJT株は腐食能をもたない.同様に,ゲノ ム解析がされているS2株でも腐食能は存在しなかった.

このことから,鉄腐食性メタン生成菌   KA1株のゲノム解析を行い,非腐食性メタン生成菌

 S2株との比較解析により,鉄腐食性メタン 生成菌のみが特異的に有する約8 kbに及ぶ遺伝子領域 が見つかっている(未発表)

.この遺伝子領域はほかの

鉄腐食性メタン生成菌2株にも保存されており,基準株 を含む非腐食性菌には存在しないことが確認されてい る.これらの遺伝子群のどの遺伝子が腐食能の発現に必 須なのか特定できれば,本菌の腐食メカニズムを明らか にできるだろう.さらに,メタン生成菌はSRBのよう にCMICの原因となる硫化水素を生産しないため,カ ソードへの影響を評価しやすいといこともあり,EMIC のメカニズムの解明に最も近い腐食原因菌であるかもし れない.

3. 鉄腐食性鉄酸化細菌による腐食

近年,特殊な培養法を用いる必要がある新規鉄腐食性 の鉄酸化細菌が報告されている(8)

.本菌は,好気性で好

中性である.酸素は容易に金属鉄や二価鉄イオンを酸化 するため,本菌のような好気性で好中性の微生物の腐食 能について酸素の影響を切り離して解析することは難し い.しかし,縦長の容器の底に金属鉄を置き,上部気相 からの酸素の拡散によって,二価鉄イオンと酸素濃度の 絶妙な勾配を形成することが可能である.この培養体系 の確立が本菌の分離培養の成功をもたらし,新規腐食菌 の発見へとつながった.このように,微生物腐食研究の

難しさの一つは,真の腐食菌に対する培養条件が見つけ られていないという点にあるだろう.したがって,従来 からの培養法に捉われない新しい手法での分離培養の開 発が,未発見の腐食菌の同定につながると期待される.

4. 鉄腐食性硝酸塩還元細菌および酢酸生成菌による腐食

2015年に入って,新たに鉄腐食性の硝酸塩還元細菌(11) および酢酸生成菌(10)が報告されている.鉄腐食性硝酸 塩還元細菌は,前述の腐食原因菌と異なり水素資化性を もたず,生育に使える電子供与体と受容体,炭素源の組 み合わせが複雑である.このような特徴は本菌を分離す る機会を遠ざけてきたと考えられ, 門では 初めての腐食菌の報告となった.また,硝酸塩還元細菌 による腐食は,石油生産における微生物腐食対策に一石 を投じ得る報告である.というのも,石油生産では自然 湧出には限界があり,水攻法(さまざまな薬剤を含んだ 水を地中に送り込んで圧力を上げる方法)により回収し ている.この水攻法においては,地中配管内外での SRBの繁殖を防ぐために環境負荷の高いバイオサイド ではなく硝酸塩が有効との報告がある(13)

.硝酸塩の添

加は,SRBの繁殖を防ぐかもしれないが,このような 鉄腐食性硝酸塩還元細菌による腐食を助長しかねないと いう危険も含んでいる.

鉄腐食性酢酸生成菌は,これまで紹介した腐食原因菌 と異なり淡水系である.淡水系での腐食は,ダム湖水を 用いた水力発電施設,工場などの熱交換冷却水,スプリ ンクラーなどで問題となる.電解質濃度の低い淡水系で の微生物腐食は,海水環境に比べて見落とされがちであ るが深刻な問題である.鉄腐食性酢酸菌  sp. 

GTは, 門に属する初めての腐食菌である(10)

門や 門でのこれらの腐食能が類 似の腐食能に関する遺伝子の水平伝播によるもので,系 統学的な分類群を大きく超えて起こっているとしたら,

新規腐食原因菌の発見事例は今後も増え続ける可能性が 高い.

5. ヨウ素酸化細菌による腐食

間接的な要因で引き起こされる場合,その腐食は CMICと称されるが,ヨウ素酸化細菌による腐食はその 典型である.日本は地下資源に乏しい国とされている が,地下のかん水(太古の海水)から回収できるヨウ素 の生産量は世界第2位である.この地下水からヨウ素を 回収する施設の配管において腐食が問題となってい

(14, 15)

.筆者は,腐食再現試験と微生物群集構造解析

を組み合わせることで,ヨウ素酸化細菌というマイナー

(5)

な微生物が腐食後に集積していることを見いだし,実際 に環境から分離した微生物を用いてその腐食能を明らか にした(9)

.ヨウ素酸化細菌による腐食メカニズムは,前

述のEMICを引き起こす微生物より単純で,ヨウ化物イ オンを強い酸化剤である分子状ヨウ素に酸化し,これが 腐食を加速している.その酸化力は非常に強く,高濃度 に存在するとステンレス鋼さえも腐食することがわかっ ている(16)

.筆者は,ヨウ素酸化細菌とステンレス鋼電

極を用いた電気化学試験を用いて,本菌がステンレス鋼 にさえも腐食を誘導することを確認している(未発表)

6. 硫黄酸化細菌による腐食

CMICを引き起こす微生物としては,ほかに硫黄酸化 細菌が挙げられる.硫黄酸化細菌は,硫黄化合物を酸 化することで硫酸を作り出し,この硫酸酸性により金 属の溶解を引き起こす.このような腐食は,金属ではな いがコンクリート製の下水管の腐食でも見られる現象で

ある(17, 18)

.本来アルカリ性であるコンクリートが,硫

黄酸化細菌による硫酸生産によって腐食してしまうもの である.CMICによる腐食は,腐食に特化した能力に よって誘導されるというよりも,微生物の活動そのもの が関係する.そのため,腐食抑制には対象菌の生育を抑 えることが近道であるが,下流に活性汚泥のような生物 処理が待っている下水や排水処理では,バイオサイドが 使用できない.そういった対策の難しさという観点で は,非常に厄介な腐食でもある.

7. 微生物腐食における日和見感染菌(バイオフィルム

による腐食)

ところで,微生物感染症には,健康な肉体には病気を 引き起こさないが,抵抗力の落ちた肉体には病気を引き 起こす日和見感染菌というものがいる.同様に,微生物 腐食にも日和見感染菌が存在する.たとえば,ヒトへの

日和見感染菌である緑膿菌 は,

微生物腐食においても日和見感染菌である.緑膿菌に EMICでの腐食や酸生成によるCMICを引き起こす能力 はないが,バイオフィルム(生物被膜)を形成すること で,腐食を誘導することが知られている(19)

金属表面に不均一なバイオフィルムが形成されると,

金属表面に到達する酸素濃度にムラが生じ,この酸素濃 度の勾配が原因で腐食が進行する.この反応は酸素濃淡 電池(20)と呼ばれ,酸素濃度が高い場所がカソード場と なり酸素の還元反応が起こり,そのカップリングするア ノード場として発達したバイオフィルム直下の低酸素環 境で鉄イオンの溶出が生じる.この酸素濃淡電池以外に

も,複数の微生物が共存するようなバイオフィルムの中 では,イオンの濃度勾配によって形成される電池やバイ オフィルム内で形成蓄積された有機酸による酸腐食など も起こりうる(21)

.このような日和見感染菌のバイオ

フィルム形成は,カテーテルやインプラントと言った医 療現場の金属資材でも問題となっており(22)

,産業でも

医療でも共通の問題である.

腐食診断技術と防食技術

ここまで,微生物腐食を引き起こす微生物について紹 介してきた.これらの知見は,ただ集めて終わりではい けない.実社会に問題を起こしている現象であるため,

これを実学に掘り起こすことが大事である.図3に当て はめて考えると,感染に関与する微生物がわかってきた ので,それらを特異的に検出する技術と,それらの活動 を如何にして抑制するかという防食技術の開発が必要と なってくる.

日本で見つかった鉄腐食性メタン生成菌については,

特異的な検出技術が確立できている.これは,前述の腐 食菌のみがもっている遺伝子配列をターゲットとした PCRによる遺伝子増幅技術を用いたものである.この 方法を使って,国内の石油備蓄基地のタンク底水(石油 タンクの底にたまっている水)中の腐食菌の分布を調 べ,約50基ある中から抜き出し検査を行った結果,鉄 腐食性メタン生成菌が検出された(23)

.備蓄基地のよう

な大型の石油タンク(屋外に設置された1万kL以上の もの)では,タンクの健全性を検査するために数年に一 度中身を空にして点検する開放点検が法令(消防法)上 義務づけられている.実は,この開放点検が,基地内で の感染拡大に影響している.中身を空にするためには,

約11万kLも入っている石油をどこかに移動させなけれ ばならない.したがって,基地の中で順次移し替えてい る.こうして石油を移していく間に,腐食菌が基地内で 感染拡大していくのである.幸い,国家備蓄基地のタン クは高度にメンテナンスされており,コーティングの健 全性が保たれているため現在までに腐食事故は発生して いない.

鉄腐食性メタン生成菌については,有効な診断技術が 確立できたが,まだ有効な防食方法が確立できていな い.筆者はこれまでに,金属表面に急速に吸着する金属 付着性菌(24)をバイオシールとして用いる防食方法の開 発や,微生物の二次代謝産物を用いた腐食阻害に成功し ている.また,現在使用されている環境負荷の高いグル タルアルデヒドに替わる生物毒性の低い防食剤の開発に

(6)

も企業と連携して取り組んでいる.ほかにも,腐食は電 気化学的に進行する反応であるため,母材である金属鉄 に替わって容易に溶解する犠牲陽極の使用(25)や外部か ら印加電圧を掛ける電気防食(26)という手法も検討され てきている.これらは,いずれも,ラボスケールでの効 果しか確認できていないので,腐食現場での有効性を今 後検証していかなければならない.

おわりに

本稿では,微生物による金属腐食現象を微生物が引き 起こす金属の感染症として捉え直し,新規腐食菌やその 腐食反応,および,腐食診断技術について最新の知見を 解説した.一方で,これら腐食原因菌による腐食メカニ ズムの解明はできておらず,特にEMICのメカニズムの 解明には,その電位や電流を測定して解釈する素養が必 要であるだろう.微生物腐食の研究は,微生物,金属,

電子が複雑に絡んだ現象であり,それに対応した微生物 学,金属学,電気化学,およびその境界領域の研究者が 協調して取り組んでいく必要のある学際領域研究であ る.本稿を読んで興味をもった研究者がこの領域に入っ てきていただけることを強く願っている.

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プロフィル

若 井  暁(Satoshi WAKAI)

<略歴>2000年岡山大学農学部総合農業 科学科卒業/2005年同大学大学院自然科 学研究科博士後期課程修了/同年製品評価 技術基盤機構研究職員/2009年広島大学 大学院生物圏科学研究科研究員/2013年 神戸大学自然科学研究環特命助教,現在に 至る<研究テーマと抱負>微生物による金 属腐食,麹菌を用いたバイオプロダクショ ン,極限環境微生物のエネルギー変換<趣 味>地ビールと地酒探訪,フットサル<所 属 研 究 室 ホ ー ム ペ ー ジ>http://www2.

kobe-u.ac.jp/~akondo/

Copyright © 2015 公益社団法人日本農芸化学会 DOI: 10.1271/kagakutoseibutsu.53.515

Referensi

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